孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新型コロナ感染拡大がもたらす変化  国際政治の強権化 在宅勤務拡大による格差助長

2020-08-21 22:23:39 | 民主主義・社会問題

(【8月21日 FNNプライムオンライン】 タイ 全校朝礼において国歌斉唱中に政府への抗議の意志を示す3本指を掲げる高校生 映画館で国王賛歌が流れた際に起立せず不敬罪で逮捕された・・・といったこともあるタイでの信じがたい光景です。それだけ危機感が強いということでもあるのでしょう。)

 

【政治 強権化の進行】

新型コロナの感染拡大は政治・経済・社会の様々な面で「変容」をもたらしていますが、政治面でしばしば取り上げられるのが「政治が強権化する危険がある」ということです。

 

このブログでも、タイなど、コロナ危機で「非常時権限」を手にした政権が、その権限を政治的弾圧などに恣意的に使う傾向がみられることはしばしば取り上げてきました。

 

そのほか、感染拡大という事実を隠蔽するための強権行使、外出規制などを徹底させるための暴力的手段などに関する報道をしばしば目にします。

 

****コロナ惨禍の背後で密かに進む国際政治の強権化****

人前で「コロナ」と言っただけで逮捕される! 落語の落ちではない。現実の国際社会での実際に起きている事実である。

 

そのようなことが起きている場所は、イランの東北部に位置する旧ソ連の国、トルクメニスタンである。人口は500万人あまり。ベルディムハメドフ大統領による独裁が続いている。

 

コロナと発言しただけで逮捕されるので、誰も「自分がコロナに感染しているかもしれない」と病院で言うことができないからだろう。米ジョンズ・ホプキンス大学の調査によると、現時点(8月17日)時点で、トルクメニスタンにおける新型コロナウイルスの感染者の数は確認されていない。

 

新型コロナ感染者については感染者が多い国にばかり注目があたる。しかし、感染者数が少ない国にこそ、実は問題が潜んでいると言える。

 

コロナ禍は、世界各国の政治を大きく変えている。論点を大きくまとめると、以下の2つになると考える。

 

一つ目は、巨額の財政支出による経済財政の不安定化だ。多くの国が感染症防止と経済維持のために、巨大な財政支出を行っている。1929年の世界恐慌時の財政支出と正確に比較することは難しいが、今後の展開によっては、世界恐慌時を超える財政支出がなされることになるだろう。

 

この状況が続けば、世界の大半の国のGDPが大きく減少することになることは間違いない。

 

国際通貨基金(IMF)は6月の段階で、2020年の世界経済がマイナス4.9%の減少になるとの予測を示しているが、その後の各国統計などを見ると、とてもその程度の減少にとどまるとは思われない。感染症防止と経済維持のため、世界史上各国の政府の財政支出が未曽有のレベルに達している。

 

現在の財政支出は緊急事態としてやむを得ない面がある。しかし、歴史上経験したことがない財政支出が経済財政を不安定化させることを考えれば、国民や議会としては一定の財政規律を求めていくことも同時に重要である。

 

二つ目は、新興国を中心に進む政治の強権化によって民主主義の基盤が揺らぎ、人権が蹂躙されていることだ。この点は今後の国際政治を見ていく上で大変に重要な事実を含んでいるが、コロナ禍の方に焦点があたるため、報道の扱いが相対的に小さいと思われる。

 

世界で相次ぐ選挙や裁判の延期

この強権化の実態は、筆者の分析では3つに分類できる。

 

第一に、民主主義の根幹である選挙や裁判が延期になっていることだ。

 

米国において、トランプ大統領が2020年11月に行われる予定の大統領選挙の延期について言及したことは記憶に新しい(もっとも、下院で多数派を占める民主党の反対はもとより、足元の共和党内からも反対意見が続出しており、延期の可能性はほぼないだろう)。

 

世界全体を見ると、選挙の延期が相次いでいる。

エチオピアは、8月に実施予定であった総選挙の延期を決定した。民族融和を打ち出して2019年にノーベル平和賞を受賞したアビー首相が、政治経済改革を推進していた矢先の延期決定である。アビー首相は、総選挙を自らの民族融和に向けた政治基盤強化のために活用しようと考えていた。これにより、同国の政治的経済的安定が遠のいてしまった。

 

国家安全維持法が施行されて民主化運動に制約が強まっている香港では、9月に予定されていた立法会の選挙が1年延期されることになった。表の理由はコロナ感染防止であるが、裏の理由は民主派への牽制であろう。

 

その他、スリランカの総選挙、英仏の地方選挙など多くの選挙が延期になっている。民主主義・選挙支援国際研究所(International IDEA)の調査では、2月21日から4月30日までの間に、少なくとも52の国と地域で選挙が延期された。

 

また、世界では裁判の延期も起きている。

 

コロナを奇貨に権限強化に乗り出す指導者

そもそも刑事事件でも民事事件でも、迅速な裁判は民主主義における重要な権利であり制度である。裁判が長引くこと自体が民主主義の基盤を脅かすのだ。立法権に関る選挙と司法権に関る裁判が延期されていることは、民主主義の根幹が揺らいでいるといってよい。

 

第二に、コロナに関連する表現の自由や報道の自由、反体制派に対する制約、弾圧である。先にお話ししたトルクメニスタンの事例がこれにあたる。

 

コロナの感染者が広がっているという事実を認めること自体を政権の弱体化と考える政治指導者が、自らの政治的権力を維持強化するために制約を課し、弾圧を加えている。

 

コロナ禍に乗じた反体制派の弾圧や自分の政治権力強化も枚挙にいとまがない。

タイやカンボジアでは、野党指導者や反体制ジャーナリストの逮捕が続いている。EU加盟国であるハンガリーでは、2020年3月にコロナ対策のためオルバン首相の権限を無制限に拡大させた(6月に解除)。これについて、野党は野党の弾圧に使われると反発していた。

 

ジンバブエでは、都市封鎖が行われる中、待遇改善を求めた看護師が逮捕、起訴された。

 

コロナ禍が契機であるとは言えないが、コロナ禍の時期に、憲法を改正して、自らの大統領任期を拡張したプーチン大統領のロシアの事例も、広くこの系統に属するといえる。権力者は緊急事態を奇貨として、自らの権力基盤を強化するのだ。

 

第三に、警察による一般住民への暴力などの人権蹂躙である。

アフリカの一部の国では、外出制限が続く期間に警察による住民に対する発砲事件が発生している。例えば、ケニアでは外出禁止時に外出していた青年を発見した警察が無差別に発砲し、流れ弾にあたって近くの自宅ベランダにいた少年が死亡している。

 

このような警察の対応を見ていると、中世にペストが流行した際の、集団ヒステリーによる魔女狩りを思い起こすのは私だけであろうか。明らかに過剰なヒステリックな対応で住民の人権が著しく蹂躙されている。

 

このように多くの新興国においては、民主主義と人権が危機に瀕しているといっても過言ではない。

 

歴史を紐解けば、さらに悪い展開が想定される。政府のパンデミック対策を批判することによる大衆迎合主義の台頭である。

 

大きな惨禍は社会をアップグレードする好機

8月17日現在、世界において政権のコロナ対策を批判することで政権を奪取した大衆迎合的な政権はないと思われる。新興国の各国政府は、このような事態を恐れ、反体制派の弾圧に動いているからだ。

 

しかし、今後経済的な苦境が長期化する中で、選挙やクーデターによる政権交代が起きてもおかしくないだろう。

 

経済的苦境が邪悪な政治を生み出した歴史として忘れてはならないのは、極端な事例であるがドイツのナチスであろう。第一次大戦の敗北による賠償金支払いや世界恐慌による経済的苦境をテコに、大衆の人気を得たヒトラーは欧州、さらには世界を蹂躙した。

 

時代的背景が異なるため、ナチスが敢行したユダヤ人虐殺や対外的な侵略が現時点の国際政治で起きるとは想定しにくい。

 

しかし、極端に強権化した政権やコロナ対策を否定するような政権が台頭して、国際政治に混乱をもたらせる可能性は大いにあり得る。コロナ禍は世界全体の問題である。一国でも対策を否定することになれば、世界的な収束は遅れるのだ。

 

さて、このような状態にいかに対応すべきであろうか。

第一に、国連や民主主義国の政府がさらに提言を出すことだ。

 

言うまでもなく、国連はコロナ禍による人権蹂躙に対して多数の提言を出している(国連の提言はこちら)。しかし、コロナ禍に乗じた表現の自由や政治活動の自由に対する制限や弾圧については、国際社会に影響力を持つ形では提言ができていないのではないか。

 

筆者の見る限り、少なくともCNNやBBC、New York Times で国連の提言は大きくは取り上げられていないようだ。また、G7サミットなどの場で、世界の首脳が民主主義や人権の危機について共同声明を出すようなことも検討されてよい。

 

第二に、新興国の政治経済についての報道量を増やすことだ。日本のメディアに特にいえることだが、コロナ報道が、日本国内と欧米主要国の感染状況に集中しており、中東やアフリカ、(中国を除く)アジア、中南米など新興国の感染状況の報道がそもそも少ない。同様に、コロナによる新興国の政治状況や経済影響についての報道も少ない。

 

第三に、援助・投資を通じて圧力をかけることだ。国際機関や先進国が援助・投資を行う際に、条件として強権化に対する是正を求めることが重要になる。一方で、経済制裁を強めれば、相手国の一般国民の経済生活を直撃することになりかねない。コロナで疲弊した一般国民をさらに追い込むような対応は避けるべきだ。

 

以上、ネガティブな内容が続いたが、ペスト禍収束後に人口が減少した労働者や農民の賃金が上がり近代への道が開かれたり、ナチスの惨禍を経て国際的に平和や人権問題の重要性が認識され、国際機関の活動が活発したり、歴史を振り返れば、大きな惨禍は人類社会を前に進めてもいる。

 

今こそ一人ひとりがこのような歴史に学び、次のステップに行くための判断を間違えないようにしたい。

【8月21日 山中 俊之氏 JBpress】

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****コロナへの恐怖、強権国家の呼び水に 試される民主主義****

 経済成長を続ける東南アジアは、一方で「未成熟な民主主義」と指摘される国も少なくない。野党が解党に追い込まれたり、政権を批判するジャーナリストが有罪判決を受けたりし、新型コロナウイルスの感染拡大も政治の強権化に拍車をかけている。

 

米政府の代表などとして長年、アジアの民主化に携わってきた、全米民主研究所(NDI)のデレク・ミッチェル所長に現状を読み解いてもらった。(中略)

 

 ――東南アジアで民主主義が後退しているという指摘があります。

 「民主的な権利や自由を一部の権力者が消し去ろうとしている。タイの(軍事政権下でつくられた)現行憲法ができた過程は不透明で、人々の意思を反映していない。

 

カンボジアでは実質的な一党支配のもと、野党党首が裁判にかけられるなど強権的な政治が続き、人々の政治への参加の道が狭められている。フィリピンでは『薬物対策』の名目で(政府に批判的な)メディアへの弾圧が横行している」

 

 ――一方、「混乱につながる民主主義より安定した政治の方がプラスだ」という主張を受け入れる人々もいます。

 「銃を持った権力者に『安定と発展を与える』と言われれば、『まあ、いいか』と思う人もいるかもしれない。ただその『安定』はどのくらい続くのか。数十年前に東南アジアの中心だったミャンマーは軍政を経て他の国に大きく遅れた。タイでは2014年のクーデター後、経済成長が鈍化している」

 

 「透明性と人々の参加が必要な民主主義は、人々の声を反映し、常によりよい方向に修正しながら進む仕組みだ。独裁的な政治では、踏み外した道から戻れなくなる」

 

 ――新型コロナウイルスの感染拡大を「口実」に政治がさらに強権化し、国民への干渉を強める例も目立ちます。

 「タイではコロナ対策として何度も『非常事態宣言』が延長されている。『安全のため』を理由に集会の規制を可能にし、政府に反対する個人や野党が批判の標的にされた。問題は、それが感染防止に本当に必要なのかが十分検証されていないことだ」

 

 「社会が危機に陥ると民主主義が機能しなくなることは多い。人々は恐怖のあまり、『強い権力』を求めがちになるからだ。かなりの強制力をもった規制をした国で感染拡大が抑えられているのは事実だが、必要性の検討なしに、多くの人々の自由を制限し続けるのは正しくない」(後略)【8月9日 朝日】

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【国際政治安定化のために必要なワクチン供給における途上国への配慮】

政治・経済的な基盤の弱い途上国が強権支配やポピュリズムに落ちていかないために重要な現実的課題がワクチンの安定供給でしょう。

 

すでに先進国などにより囲い込み合戦・争奪戦が展開され、資金力のない途上国がはじき出されていることは、これまでも取り上げてきました。

 

排除された国々において、どのような不満・批判が噴き出すかは想像するだけで恐ろしいものがあります。

 

このワクチン供給において、国際協力で途上国が排除されないような仕組みを作っていくことが、世界のあちこちに感染源を残さないコロナ対策としても、また、世界の政治的安定のためにも不可欠でしょう。

 

****ワクチン共同出資枠組みに関心 Gavi、米中除く173カ国*****

途上国へのワクチン普及を進める国際組織「Gaviワクチンアライアンス」のセス・バークレー事務局長(63)は20日、新型コロナ感染症のワクチン開発に各国が共同出資する枠組みに、これまでに日本を含む173カ国が関心を示したと明らかにした。

 

感染防止の「穴」が生じないためにも「全ての国に参加を促したい」として、まだ意向を示していない米国や中国にも参加を呼び掛けた。

 

枠組みは「COVAX」と呼ばれ、WHOやGaviが主導。出資金は複数の製薬企業のワクチン開発に利用され、開発が実現した際に、参加国が人口の少なくとも20%分のワクチンを確保できる。【8月21日 共同】

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世界をリードする立場にあるアメリカ・中国がまだ意向を示していないというところが重要なところです。

 

アメリカ・トランプ政権は「アメリカ第一」で、他国のことなど眼中にないのでしょう。

中国は、「マスク外交」のような「ワクチン外交」を独自に展開することで、自国の存在感を強めることを狙っているのでしょう。

 

【社会 在宅勤務対応の可否が深める格差】

コロナ感染が社会生活に与える影響のひとつがテレワークなどの在宅勤務の拡大です。

 

先日のTV放送によれば、日本でも都心をはなれて郊外や、場合によっては別荘地などに生活の拠点を移す動きがみられるとか。

 

そのことはそうした対応ができない人々との間の格差、安全で高報酬の仕事と危険で低賃金の仕事の格差を深刻化させることも考えられます。

 

****在宅勤務普及が米国の格差助長する恐れも、専門家が警告****

サンフランシスコ地区連銀が20日に開催した将来の働き方についてのパネル討論会で、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う在宅勤務の広がりによって、米国社会の格差が一段と拡大しかねないとの意見が専門家から出た。

新型コロナの感染がなお拡大している中で、現在米国の労働人口のおよそ4割が在宅で勤務している。各種調査ではパンデミック収束後も少なくとも部分的に在宅勤務の継続を望む声が大半で、アトランタ地区連銀の最近の調査では企業側もそれを想定している。

ただスタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授は、在宅勤務従事者はそうでない働き手に比べて大卒者の割合が5倍に上ると指摘した。

一方でブルーム氏は、別のおよそ3割は対面で仕事を続けており、彼らの職種は比較的低賃金で、勤務中ないし通勤中に新型コロナウイルスに接触してしまう危険があり、残りの3割は失業もしくは休職状態で、せっかくの技能や仕事上のつながりが失われて将来低い賃金しか得られなくなりかねないと説明。「在宅勤務化は格差を大幅に増大させるリスクがある」と警告した。

これに対してソフトウエア開発プラットフォーム運営会社Github(ギットハブ)のエリカ・ブレシア最高執行責任者は、在宅勤務ができるようになったことでビジネスは「これまでよりずっとinclusive(さまざまな人の技術や経験を活用できる状態)」になったとの見方を強調した。

ブレシア氏によると、家事などの合間に柔軟に働ける環境により、それまで仕事に就けなかった人を雇えるようになっている。ギットハブはパンデミック以前から、在宅勤務制度を導入済みという。【8月21日 ロイター】

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ギットハブの話は、ソフトウエア開発という特殊な技能を持つ人々に関しての話でしょう。

問題は、そういう人々の需要に応じて食事などを自宅に配送するサービスに従事する人々など、対面で低賃金労働を余儀なくされる人々の存在でしょう。

 

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