孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南アフリカ  効果がなかった厳しいロックダウン 犠牲は貧困黒人層に コロナで拡大する社会の歪

2020-11-03 23:09:14 | アフリカ

(【11月1日 GIGAZINE】 棒グラフは新規感染者数 矢印はロックダウンレベル)

 

【厳しい都市封鎖では新型コロナ拡大を防げなかった 一方で貧困層に多大な犠牲を】

欧州では再び新型コロナ感染が急増し、都市封鎖(ロックダウン)・外出制限もとられるようになっていますが、こうした厳しい措置の有効性や社会的コストについてはいろいろ議論もあります。

 

欧州はともかく、南アフリカのような、多くの低所得層が「密」な居住環境にあり、ロックダウン下では多くの者が食料品配給などに集中するような国では、ロックダウン導入はコロナ感染拡大を有効に阻止することはできず、むしろ低所得層への犠牲が耐えがたいレベルに増大する結果につながった・・・という実証もあります。

 

****厳しい都市封鎖では新型コロナウイルス感染症の拡大を防げなかったという南アフリカのデータ****

南アフリカ共和国では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を受けて2020年3月27日に都市封鎖(ロックダウン)が始まりましたが、生活必需品の購入や医療を受けること以外の外出が禁止された厳しいロックダウンでは、感染拡大を防げなかったというデータが示されました。

 

一方で、ロックダウンを実施することで逆に感染が広がり、意図せず「集団免疫を獲得したのでは」ともいわれています。

南アフリカで実施された「レベル5」のロックダウンは世界で最も厳しい封鎖の1つとされ、食料品の買い物や医療などの重要な目的以外のために外出することが禁じられました。日常に必須ではないお店は全て閉店となり、タバコとお酒の販売も禁止されたとのこと。

研究者によると、レベル5のロックダウンが効果を発揮したとすれば、ロックダウンが開始されてから7~14日後に感染率が大幅に減少したはずとのことですが、実際にはこのような減少は起こりませんでした。

加えて、レベル5のロックダウンがレベル4・レベル3となって移動制限が緩和されて経済活動が再開した時に、感染率の増加はみられていません。

以下が時間の経過ととともに、南アフリカでCOVID-19がどのように広がっていったのかを示すグラフ。縦軸は新規感染数、横軸が時間の経過を示し、矢印の数字はロックダウンのレベルを意味します。

 

レベル5、レベル4のロックダウンを実施している最中もじわじわと感染数は増加し、レベル3のロックダウン実施中にピークを迎え、レベル2に入る時にはグラフが減少傾向に転じています。レベルの高いロックダウンが効果を発揮している場合、レベルを下げることで感染率が上昇するはずですが、そのような変化は見られていません。

このような分析から、南アフリカにおいてロックダウンは感染拡大の防止に効果を発揮しなかったと、研究者は結論づけています。

研究者は、南アフリカにおいてロックダウンが効果的ではないことは最初からわかっていたことだったと指摘。

南アフリカは人口過密であり、入浴場を共有しており、困窮した人々が社会的保障金や食料の配給のため列を作らなければならないためです。

 

また、南アフリカはヨーロッパやアメリカに比べて高齢者が少なく、COVID-19の影響を受ける人がそもそも少ないという違いがあったことについても言及しています。


ロックダウンが開始される前、研究者はこれらの点について政府に警告したとのことでしたが、ヨーロッパ側の圧力に屈したのだと述べられています。

厳しいロックダウンにより、南アフリカでは2020年の第2四半期における労働人口が520万人も減少。最も貧しい労働者の50%は富裕層よりも10倍もロックダウンの影響を受けることになりました。加えて、4月の国勢調査では月末までに食べ物を買うお金がなくなると答えた人は全体の47%だったと示されています。

またロックダウンによりお店が営業を続けられなくなったところも多く、第1四半期と第2四半期でGDPは16.4%減少し、年単位のGDP成長率は-51%になるものとみられています。

そして、南アフリカではHIVを含む感染症の検査拡大を推進していますが、移動制限が課されることにより、3月時点では160万人だった検査人数が4月には59万人と大幅に減少。検査の中断や薬が入手しづらくなったことにより、今後5年間でHIVや結核による死亡数は10~20%増加するものと予測されています。(中略)

一方で、南アフリカのいくつかの州で実施された研究では、多くの人がCOVID-19の抗体を保有していることが示されており、「南アフリカは集団免疫を獲得した可能性がある」とも報じられています。

 

ウイルス学者のMarvin Hsiao氏は、ロックダウンによって人々が多くの人が食料品や社会保障を受け取りに行かざるをえないようになり、人口過密の南アフリカにおいて行列を作る上で社会的距離を取ることが不可能だったことから、逆に新たな「新型コロナウイルスの感染ネットワーク」が作り出され、そこで集団免疫が獲得されたのではないかとみています。

免疫がいつまで持続するのかという疑問は残るものの、他のコロナウイルスの傾向から、2~3年は続くのではないかとみられています。【11月1日 GIGAZINE

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【パンデミックが拡大する社会のひずみ】

ここからは先は、南アフリカ固有の問題。アパルトヘイトの残滓が色濃く存在する南アフリカにあっては、新型コロナ対策で多大の犠牲を担うことになった低所得層は圧倒的に黒人層です。

 

下記は、感染が拡大しつつあった5月末の記事。(南アの感染は7月あたりをピークに減少に転じています。)

 

****南ア、黒人貧困層にコロナ直撃懸念 アパルトヘイト後も続く格差****

(中略)こうしたなか、南アのラマポーザ大統領は(5月)24日、2カ月以上続いた感染防止対策を6月から緩和し、食堂や理髪店などを除く商店を再開させるなどと述べた。政府はソーシャルディスタンス(社会的距離)を保ちながら経済活動を回復させる新たなアプローチだとしている。

 

ただ、今月下旬には1日当たりの新感染者数が1200人以上になるなど、むしろピークはこれからという感が否めない。政府の判断には「自粛疲れ」や経済低迷に対処せざるを得ない苦肉の策という面もにじんでいる。

 

南アは黒人と白人の格差が今も解消できず、「世界で最も不平等な国」とも呼ばれる。英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は1年前、黒人の失業率約25%に対して白人は8%前後で、白人の平均収入は黒人の5倍に達し、医療を受けられる黒人は10人のうち1人にとどまると伝えた。

 

スラム街に住む黒人の貧困層で感染が広がるとの見方は絶えない。南アの非営利組織(NPO)の公式サイトによると、貧困層の居室は家族らが眠るスペースしかなく、水が流れないトイレを他の家族と共同使用するケースもある。

 

人との接近を避け、感染を防ぐために外出しようとしても、外出制限の厳格な運用を目指す軍や警察に「非道な扱い」を受けることもあるという。(後略)【5月26日 SankeiBiz】

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新型コロナのパンデミックは、その社会に存在する歪をより拡大する形で顕在化させることになります。

 

ロックダウンで痛みが増した黒人層のなかには、「ヴィラ占拠」という実力行使で、格差是正を訴える者もいるようです。

 

下記記事表題の「クイア(Queer)」とは、“元々は「不思議な」「風変わりな」「奇妙な」などを表す言葉であり、同性愛者への侮蔑語であったが、1990年代以降は性的少数者全体を包括する用語として肯定的な意味で使われている。”【ウィキペディア】とのこと。

 

****南アフリカのクィア集団がヴィラ占拠で訴えた「安心して住む権利」とは****

◆格差問題と賛否両論の「ヴィラ占拠」
南アフリカの土地所有権の格差問題は、アパルトヘイト終焉から25年以上経過した現在も根強く存在している。

 

今年7月の政府の統計データによると、南アフリカの人口構成のうち80.8%が黒人、8.8%がカラード、7.8%が白人、2.6%がインド・アジア系となっているが、たとえば農地の所有率(2017年公表データ)でいうと、72%が白人所有、15%がカラード、5%がアジア系、4%がアフリカ人(黒人)で、その人口比率に対する白人の土地所有率の高さが伺える。

 

土地の再分配は、政府の主要課題の一つであり現在公約として掲げられている2030年に向けたビジョンと計画にも盛り込まれているが、是正すべき幅が大きく解決には時間を要しそうだ。

 

一方、住居についても、中低所得者層に対する住宅が不足しているだけでなく、空間と人種が密接に結びつき、いまだ「隔離」されているという、まさにアパルトヘイト(アフリカーンス語で「隔離」を意味する)の負の遺産もある。

 

多くの黒人貧困層が住むタウンシップと、富裕層が居住する地域は物理的に道路や線路といったインフラや緑地で区切られており、別世界のように隔離されている。

 

また、ホームレス、女性や子供に対する暴力、LGBTQ+の人々に対する差別といったWe See Youが掲げる課題も、南アフリカ政府と社会が引き続き向き合わなければならない課題だ。

 

南アフリカは、憲法上はLGBTQ+の権利が保障されており、他国に先駆けて同性婚も認められた国でもあるが、実際は、まだ差別や偏見などの課題が残る。

 

We See Youのメンバーの一人でトランスジェンダーのハノンは、南アフリカの非営利社会派メディアNew Frameの取材に対して、占拠したヴィラに入居し、「ここに来てからは、自分が人間として存在できる。安心できる」と語っている

 

さらに、COVID-19対策からのロックダウンやステイホームで、経済活動や人々の行動が制限されたことで、これらの課題が深刻化している。We See Youのプロテストは、こうした状況に対して、「安全な居場所」に対する権利を訴えたものだ。

 

こうした南アフリカの恒常的な課題意識を共有する人々は、We See Youのプロテストに対して賛同を示した。

一方で、Airbnbを通じて個人所有のヴィラを占有するというやり方については、批判の声もあがった。

 

地元メディアDaily Maverickの記者は、自らもミドルクラスの労働者、かつクィアの黒人女性だとした上で、Airbnbや観光業界が生み出す雇用や経済効果の重要性を指摘し、こうした(不法な)プロテストによる風評被害が観光業界や経済に打撃をあたえるリスクについての懸念を示した

 

プロテストという名のもと、ジャグジーつきの高級アパートに不正に滞在するというやり方に対しての、違和感や不信感という反応もあったようだ。

 

◆アートかアクティビズムか? プロテストの形とは
場所を占拠するという形のプロテストは、他国でも事例がある。不法占拠というやり方が、合法的な形での成功に結びついた例の一つが、カリフォルニア州オークランドにおける事例だ。(中略)

 

Black Lives Matterのプロテストなど、米国や世界各国でさまざまな形のプロテストが巻き起こるなか、「正しいプロテストのやり方」というものは存在していない。

 

プロテストの存在意義そのものが、既得権益や権力、社会システムに存在する不当な状況に対しての反対であるがゆえ、今回の占拠活動のように、プロテストには違法行為が絡むことも珍しくない。

 

また、アクティビスト、アーティストや起業家らが、法律や規範を破ってこそ、社会変革が起こるというケースも少なくない。(後略)【10月21日 NewSphere】

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上記のヴィラ不法占拠は、違法行為ではありますが、一面では社会的プロテストの側面もあり、その賛否がわかれる行動ですが、下記の事例は社会的に有害な「違法な犯罪行為」そのもの。

 

ただ、そこにも人種間の格差の問題が影を落としています。

 

****電線など根こそぎ消えた 南ア、コロナで停止の鉄道が略奪天国に****

新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)で3〜6月に営業を見合わせた南アフリカの都市近郊電車路線で、電線やケーブルなど設備の略奪・破壊が相次いでいる。

 

電車が走らなくなり、警備が手薄になったところを狙われた。約2200キロある路線の大半で運転が再開できていない深刻な状態が続いている。

 

(中略)南アの最大都市・ヨハネスブルク南西部にあるソウェト地区。

半年以上電車が通っていないという線路の上を歩くと、略奪の痕跡が至るところで目についた。頭上にあったはずの架線はほとんどなく、絶縁器具だけがゆらゆらとぶら下がる。線路脇には長い溝が掘られて、地中の通信ケーブルが根こそぎ取られていた。信号機も根元から倒され、中の電子機器がない。

 

同地区内にあるクリップタウン駅。無人のホームの上を歩いていると、線路脇で5人ほどの若い男らがスコップで地面を掘っているのが見えた。カメラを向けると「写真を撮るな!」と鋭い声が返ってきた。白昼堂々、地中のケーブルを盗んでいるようだ。

 

駅舎は廃虚同然になっていた。プラスチック製の待合用の椅子は粉々に砕かれ、金属製の階段の手すりは切り取られてなくなっている。事務室、トイレ、切符売り場……。いずれも略奪や放火の被害に遭い、屋根は抜け落ちて内部はがれきの山だった。

 

「カネがぶら下がっているようなものだ」。ヨハネスブルク周辺で鉄道設備の略奪を続けているという50代後半の男が、自宅で取材に応じた。

 

毎晩、午前1〜4時ごろに3、4人の仲間と共に「現場」に向かう。線路の電柱によじのぼり、のこぎりなどで電線を切り落としていく。地上で運びやすいサイズに切り分け、車に乗せてスクラップ屋に持ち込んで現金化する。

 

狙うのは高値で売れる銅製などのケーブルだ。レールは鋼鉄製で単価が安い上、持ち運びが難しいため取らない。

 

男は鉄道のケーブル盗をコロナ禍以前から行っていたが、高圧電流が流れる線を奪うのは命の危険を伴う行為だった。それがロックダウンによる全面運休以降は「格段にやりやすくなった」という。

 

うまくいけば一晩で、グループで3万ランド(約20万円)を稼げる。「政治家は汚職でもうけている。俺たちも生活のためにケーブルを盗んで何が悪いんだ」。男はこう強弁した。

 

だが、マイカーが持てない庶民にとって、定期割引もある電車は最も安価で重要な交通手段であり、影響は甚大だ。

 

ヨハネスブルク近郊のレンズ駅前の家具店に勤めるファニさん(34)は約15キロ離れた自宅から毎日通勤している。(中略)給与の3割ほどが通勤費に消えるという。「電車がなくなって生活が厳しくなった。早く復旧させてほしい」と嘆く。

 

南アの鉄道工学の専門家、ウィレム・スプロン氏は「運営する旅客鉄道公社の警備態勢が不十分で被害を食い止められなかった」と指摘する。電線の復旧だけで路線1キロ当たり400万ランド(約2600万円)という巨額の費用が予想されるといい、「これ以上の被害が出なかったとしても、復旧までに3年はかかるだろう」と推測する。(中略)

 

南ア政府が急ぐのは、鉄道の警備態勢の再構築だ。警備が不十分なまま復旧工事を始めれば、再び同じような被害に遭うのは目に見えているためだ。

 

旅客鉄道公社は2019年後半、「規則から外れ違法な点がある」として民間警備会社との契約解除を決めた。その後、代わりの警備会社が決まらないままロックダウンに突入し、深刻な被害につながった経緯がある。

 

(中略)ラマポーザ大統領は警察による捜査や取り締まりも強化する方針を示している。ただ公社によると、警備員は目標の半分も確保できておらず課題となっている。

 

一方、ヨハネスブルク周辺には10年のサッカー・ワールドカップ開催に合わせて開通した「ハウトレイン」(全長80キロ)とよばれる新路線が通っているが、こちらは略奪被害をほぼ免れ、通常運行に戻っている。

 

ハウトレインはロックダウンの運休中も駅舎や線路の警備を継続。線路は地下や高架上にあるか、地上部でもフェンスがあり、略奪犯が侵入するのが難しい構造になっている。

 

ハウトレインは最高時速160キロで、富裕層が住む地区や国際空港、首都プレトリアを結ぶ。白人を中心とする富裕層や中間層以上の利用が多く、駅前には駐車場が整備され、パーク・アンド・ライドで通勤に使う人も多い。料金も公社路線より割高だ。

 

コロナ禍で貧しい庶民の足となってきた公社線が壊滅的被害を受ける一方、「金持ちの乗り物」(地元住民)は無傷で残った格好で、アパルトヘイト時代から続く貧富の格差をさらに助長しかねない事態にもなっている。【11月3日 毎日】

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格差・差別は目に見える所得・資産だけでなく、意識の問題も。

 

****白人賛美の「人種差別」広告で炎上、ドラッグストア400店舗営業できず 南ア****

南アフリカ最大のドラッグストアチェーンが白人の髪を賛美する「人種差別」広告をウェブサイトに掲載したとして抗議が巻き起こり、系列400店舗超が7日現在、閉鎖に追い込まれている。

 

ドラッグストアチェーン「クリックス・ファーマシー」は自社ウェブサイトに掲載した広告で、白人の髪は「普通」で、黒人の髪は「さえない」と表現。だが、これに対する抗議を受けて謝罪し、広告を取り下げた。

 

南ア全土の系列店の前では、左翼政党「経済的解放の闘士」の支持者らが数十人単位でピケを張り、営業を阻止している。

 

インターネット上の世論も騒然としており、ツイッターでは黒人女性らが自分たちのアフロヘアの写真に「#RacismMustFall(消えろ、人種差別)」「#BlackHairIsNormal(黒人の髪は普通)」といったハッシュタグを付けて非難の声を上げている。

 

同社によると、南ア全土に展開する500店舗超のうち、これまでに425店舗が破壊されるなど何らかの被害を受けた。「抗議活動は現在も続いているため、被害総額を推定するのは難しい」という。

 

南ア政府は声明を発表し、「下品な人種差別的広告」は憂慮すべきだが、「法をわがものとする誘惑に抵抗」するよう国民に呼び掛けた。 【9月8日 AFP】

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「美白」が問題となるのは、以前取り上げたこともあります。

 

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