孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ 長期化する若者らの抗議行動 王室改革をも求める声に「愛」を語るワチュラロンコン国王

2020-11-15 22:49:57 | 東南アジア

(地下鉄の開通式に出席後、集まった支持者に手を振るワチラロンコン国王(左)とスティダー王妃=タイの首都バンコクで2020年11月14日 【11月15日 毎日】)

 

【長期化する抗議行動 若者らの3つの要求】

これまでも何回か取り上げてきたタイにおける若者らの政府への抗議行動は、思いのほか長期化し、いまも継続中です。

 

その要求は、「プラユット首相の退陣」「非民主的な憲法の改正」、そして従来はタブーだった「王室制度の改革」ですが、どれもおいそれとは実現しそうにはない難しいもの。

 

****タイ反政府デモ 3つの要求に異例の事態****

タイで2020年7月から続く、学生らによる大規模な反政府デモ。交差点や道路を占拠する光景も、すでに特別なものではなくなってきました。

 

抗議活動が長期化する中で、学生らはこれまで公で語られることのなかった、ある改革についても声を上げはじめています。彼らは何を求め、なぜ大規模なデモを続けるのか、その背景を探ります。

■タイの若者をデモに駆りたてたもの
10月のデモでは、警察車両がデモ会場に向け、放水しながら進入してきました。警察との衝突も起きていて、デモの参加者は「国家が武器を持たない国民にこんなことをした」「政府は我々と話すべきで、もっと良い解決策があったはずだ」と訴えます。この衝突は、商業施設も建ち並ぶバンコクの中心部で起きました。

こうしたデモが広がるきっかけは、2月に憲法裁判所がある政党に解党命令を出したことでした。

解党されたのは政権批判の急先鋒で、若者から絶大な支持を集めていた野党「新未来党」。党首は最後の会見で「政府は私たちを潰そうとしているが、潰せないと証明するときだ。今より強くならなければいけない」と支持者らに呼びかけました。

こうした裁判所の判断には政権の意向が働いたとされ、バンコクで抗議集会が始まりました。

そこを襲った新型コロナウイルスの感染拡大。非常事態が宣言され、集会は禁止されました。ただ政府は、感染拡大が収まったあとも「第2波に備える」として、非常事態宣言を何度も延長。学生らは集会禁止が目的だと反発し、デモの拡大につながりました。

■学生らの求める「3つの改革」
民主化を求める学生らの要求は、大きく3つあります。1つめは、「プラユット首相の退陣」です。プラユット首相は陸軍出身で、2014年のクーデターを主導。軍政から民政への移管を目指した2019年の総選挙のあとも首相を続けています。学生らは軍主導の強権政治だと批判しています。

2つめが、「非民主的な憲法の改正」です。現在の憲法は軍事政権下で定められていて、事実上、軍が上院議員を任命できる内容となっています。これでは民意が反映されないと反発を強めているのです。

そして3つめの要求は、タイ社会に衝撃を与えました。「国王を君主とする今の王室制度の改革」です。タイで王室は神聖で不可侵な存在とされています。王室を批判すれば罪に問われますが、そのタイで公然と改革が叫ばれるのは、異例の事態です。


■なぜ今、王室の改革が求められるのか
批判の矛先は、ワチラロンコン国王に向いています。新型コロナウイルスの影響で国民が苦しい生活にあえぐ中、ドイツで生活していることなどが「国民に寄り添っていない」と反発を呼んでいるのです。

デモの中で初めて王室改革の声をあげた人権派の弁護士が、NNNの単独インタビューに応じました。弁護士のアノン氏は「多くの参加者がタブー視されてきた君主制(王室制度)に疑問を持ち始めた。誰もが今、タイで何が起きているか気づいている。だから私たちはそれについて堂々と話すことにした」と力を込めて話します。

さらに学生らは、国王が即位後、王室財産を自ら運用できるようにしたり、軍の精鋭部隊を直轄にしたり、権限を強化していることにも反発しています。アノン氏は「君主制が権力を拡大していることがはっきりしている。それは民主主義が許す範囲を超えている」と指摘しました。

ただ、アノン氏は君主制の廃止は求めていないと強調します。「王室を改革して民衆とともに歩むことは、まだ可能だと思う。(王室制度には)やはりタイらしさが残っている。しかし、もし改革が拒否されたら、間違いなく暴動につながる」とも強調しました。

権力や王室という特権階級に対して高まる学生らの不満。民主化を求めるデモは、収束の見通しが立っていません。【11月10日 日テレNEWS24】

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【国王を頂点とする既成秩序への挑戦】

若者らの抗議行動は、王室を頂点とした軍部・有産階級らからなる既成秩序への挑戦になります。

似たような動きはタクシン元首相がバラマキ・金権なども駆使して展開しましたが、タクシン元首相は既成秩序の反撃で国外逃亡生活を余儀なくされています。

 

****タイ抗議運動は「王室・軍・有産階級」に勝てるのか****

(中略)今回大っぴらに王室改革が求められた背景には国王の交代がある。前のプーミポン国王が国民からの敬愛を一心に集めていたのに対し、今のワチュラロンコン国王は、その言動に批判が多い。

 

前国王に比べ人格者でない、1年の大半を国を空けドイツで過ごす、王室の財産を王室財産局の管理から国王自身の財産にした、国王の権力を憲法に期待された立憲君主としての地位を超えて拡大しようとしている、などである。

 

10月20日付けのワシントン・ポスト社説‘A student movement offers a ray of hope for democracy in Thailand’は今回の動きについて、「タイにおける民主主義が何年もの抑圧を経て復活しうる希望の光である」と言っているが、あながち誇張とは言えない。

 

かつてタクシンが首相となった時、バンコクを中心とするエリート層は反発した。タクシンはタイ東北部を中心とする数で勝る農村部で圧倒的な支持を集め、選挙をやればタクシンが勝つこととなる。

 

これに対し、タクシンが首相になるのを妨害するため、新しい憲法では上院議員も首相の任命に参加するが、その上院議員はすべて任命とし、当時のプラユット元陸軍司令官の政権の意向が反映されるように図った。これは民主主義の原則を曲げた典型的な例である。

 

その背景には王室、軍、有産階級の結びつきがタイの政治を支配してきたという事情がある。人口から言えば農村地帯の方が多いのであるが、王室と軍に近いバンコクを中心とする有産階級の政治的発言力の方が強かったというのが実態であった。

 

また、タイは依然として階級社会の様相を帯びているように思われる。これが微妙な形で政治にも反映されていると言えるのかもしれない。

 

学生を中心とする抗議運動は、このような社会的慣性を打つ破る力を持っている可能性がある。ただ、抗議運動が掲げているプラユット政権の退陣、憲法の改革、王政の改革は容易に実現しそうにない。当分の間、タイは抗議運動で揺さぶられ続けるのではないかと思われる。【11月13日 WEDGE】

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【国王の最近の一連の発言 真意は?】

焦点となっているのがワチュラロンコン国王

 

国王は多くの時間をドイツで過ごしていますが、父のプミポン前国王の命日と仏教の祝日に合わせ、10月頃からはタイに滞在しているようです。(国王が普段、外国で贅沢な暮らしをしているというのも奇妙な話ですが・・・)

 

そのワチュラロンコン国王、さすがに危機感を持ったのか、最近国民向けのメッセージを連発しています。

 

****タイ国王、国民への「愛」示す デモ数か月続く中****

タイのマハ・ワチラロンコン国王は1日、同国で政権の退陣や王室改革を求めるデモが数か月にわたり続く中、英チャンネル4の取材ですべての国民に対する「愛」を示した。国王が取材に応じるのは異例。

 

ワチラロンコン国王はタイ権力の頂点に立ち、その影響は同国社会のあらゆる側面に及ぶ。しかし、かつては安泰とされた王室も、民主派デモの高まりにより前例のない困難に直面している。デモ指導者の中には、王室批判を厳格に禁じる不敬罪の廃止などの改革を訴える人もいる。

 

1日、国王を一目見ようと集まった数千人が首都バンコクの王宮(グランドパレス)前にあふれ、国王のシンボルカラーである黄色の服を着て王室への支持を表明。

 

ワチラロンコン国王とスティダー王妃の写真を撮ろうと王宮近くに押し寄せ国王夫妻を待ち構えた。国王が王宮から出てくると、群衆は「私たちは忠実に生き、忠実に死にます」「国王万歳!」と声をそろえた。

 

国王は群衆の間を縫って歩き、支持者から花を受け取った。地元メディアの映像によると、国王が「ありがとう」と述べ、自身の写真にサインする場面もあった。

 

群衆にいた英チャンネル4の記者から改革を求める抗議デモ参加者について問われると国王は「私たちは同じように彼らを愛している」と述べた。譲歩の余地があるかとの問いに国王は「タイは譲歩の国だ」と答えた。チャンネル4の公式ツイッターに投稿された映像で明らかになった。(後略)【11月2日 AFP】

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その後、11月8日、王宮に向けて行進していたデモ隊に警察が放水し、地元メディアによると5人が軽傷を負いました。主催団体はデモ参加者に、ワチラロンコン国王に改革を訴える手紙を書いて持参するよう呼びかけていました。

 

****タイ国王「この国を愛そう」、デモ巡りメッセージ***

タイのワチラロンコン国王は10日、東北部ウドンタニ県を訪問中、王室改革などを求める抗議活動を巡り、国民の結束と愛を呼び掛けるメッセージを披露した。デモ参加者は2日前に国王の権限縮小を求める書簡を国王に送っていた。

王室は何カ月も続くデモについてコメントを出しておらず、国王の発するメッセージに注目が集まっている。

国王はウドンタニ県知事へのメッセージとして「私たちはみな、互いを愛し、大事に思っている。この国を大事にし、繁栄を求めてこの国やタイらしさを守るために互いを助けよう」と記した。

王室支持者から渡された自身と王女の写真に「国を愛し、国民を愛し、タイらしさや真の幸福を大事にしよう」と書いた。

首都バンコクでは8日、王室改革やプラユット政権の退陣などを求める多数の市民が王宮までデモ行進した。

デモ参加者は「国王が真に民主主義を大切にすれば、全ての人々が幸せを見いだせる」と訴えた。

国王は先週、反体制デモについて初めて公に発言し、デモの参加者も「全員同様に愛している」などと述べた。

プラユット首相は権力を維持するために昨年の選挙を操作したとのデモ参加者の主張を否定し、辞任しないと言明している。【11月11日 ロイター】

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そして、今度は「よく考え、善を行い、希望を持ち、耐えなさい。タイ人として団結しなさい」とのこと。

 

****タイ国王、国内の団結求めるメッセージ 「妥協の国」強調****

タイのワチラロンコン国王は14日、バンコク市内のイベントに出席し、国内の団結を求めるメッセージを発した。ロイター通信によると、国王は支持者から差し出された写真の裏に「よく考え、善を行い、希望を持ち、耐えなさい。タイ人として団結しなさい」と書き記したという。王室支持者と反体制デモ隊の対立の解消を呼びかけたとみられる。

 

バンコクでは不敬罪の廃止や王室財産の透明化といった王室改革とともに、プラユット首相の退陣を求める反体制デモが継続中。国王夫妻は14日、バンコク市内で開かれた地下鉄開通式に出席したが、デモ隊は移動中の夫妻の車列に向かい、独裁への抵抗を意味する3本指を掲げるなど、抵抗姿勢を取り続けている。

 

反体制デモについて王室は公式コメントを出していない。だがデモ隊が王室批判を強めるのに従い、国王の言動が報じられることが増え、その真意を含め、さまざまな臆測を呼んでいる。(後略)

 

1日には、欧米の記者に反体制デモの参加者にかける言葉を問われると、国王は「ノーコメント」としたうえで「全ての人を同じように愛している」と返答。王室改革で歩み寄りの余地があるのかを聞かれると「タイは妥協の国だ」と答えた。

10日には東北部ウドンタニ県を訪問し、県知事へのメッセージとして「私たちはみな、互いを愛し、大事に思っている。国を大事にし、国の繁栄やタイらしさを守るために助け合おう」と記した。今回のメッセージもその流れとみられる。【11月15日 毎日】

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「私たちは同じように彼らを愛している」

「タイは譲歩の国だ」

「私たちはみな、互いを愛し、大事に思っている。この国を大事にし、繁栄を求めてこの国やタイらしさを守るために互いを助けよう」

「よく考え、善を行い、希望を持ち、耐えなさい。タイ人として団結しなさい」

 

世界でも最も資産が多いとされ、これまで奇行で知られ、贅沢な暮らし、多彩な女性関係も話題になる方に言われる筋合いはない・・・・と言いたくもなりますが、それはともかく、一連の発言の意図は・・・?

 

国王がこのように「愛」を語っている状況では、プラユット首相としてもあまり暴力的な対応もしづらいのでは・・・とも思いますが、甘いかな?

 

1928年、関東軍によって奉天軍閥の指導者張作霖が暗殺された満州某重大事件では、陸軍の関与・責任を明らかにするように迫る昭和天皇に対し、田中義一首相は諸般の事情から軍の関与を明らかにできませんでした。

 

これに対し、「お前の最初にいったこととは違うじゃないか。田中総理のいうことはちっともわからぬ。再び聞くことは自分はいやだ」といった趣旨の叱責が天皇からあったとか。

 

このお言葉を聞いた田中首相は立つ瀬がなくなり、即座に辞職。

 

昭和天皇も、自分の発言の重みを改めて感じたのか、以後、政治に影響するような発言には慎重になったとか。

もっとも、そのことが軍部の専横を容認する結果ともなりましたが・・・。

 

ワチラロンコン国王とプラユット首相の間で、抗議行動に関し、どのような言葉が交わされているのか。

「穏便におさめろ」と言っているのか、「不埒な奴らを早く抑え込め」と言っているのか・・・。

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