孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  武漢でのコロナ対応の誤りを認めないことにも示される国家主義への傾斜

2020-11-18 23:22:27 | 中国

(江漢路を行き交う人々=8月12日、湖北省武漢市【11月5日 NNA ASIA】)

 

【武漢での原因不明の肺炎の発生を公表して処分された医師 死後に名誉回復はなされたものの、当局の隠蔽による被害に関しては言及なし】

中国・武漢で猛威を振るう新型コロナの存在を中国政府がまだ認めていないときに、原因不明の肺炎の発生をSNSに公表したことで「訓戒処分」を受けた眼科医だった李文亮氏が、その後新型コロナに感染して死亡。

 

国際的な批判があるなかで、中国政府は死後になってようやく処分が不当だったことを認め、李文亮氏の名誉回復をしたことは、中国政府の初動態勢のまずさを端的に示すエピソードになっています。

 

トランプ大統領がコロナについて(自分への責任追求をそらすために)執拗に中国の責任を言いたてるのも、このあたりの中国政府の隠蔽体質があっての話です。

 

****新型コロナを告発し罰せられた医師。死後に「処分は不当でした」と発表、その本当のワケは?****

原因不明の肺炎の発生に警鐘を鳴らしたつもりが、逆に処分の対象になり、訓戒を受けた医師。後に自ら新型コロナウイルスに感染し死亡したこの医師に対し、中国政府の調査チームが「処分は不当だった」と結論を出した。だが本当の狙いは、単に医師の名誉回復だけではなさそうだ。(中略)

 

「処分は不当」と調査結果

李医師は、不正などの内部告発者を意味する英語のホイッスルブロワーを中国語に訳した呼称で国内でも讃えられ、勇気ある行動ゆえに同医師が受けた処分に対しては、怒りの声が上がっていた。

 

そうした中で、中国政府の最高の監察機関である国家監察委員会の調査チームが、李医師の死から1か月以上経った、昨日3月19日、調査結果を発表した。調査は、実際に12月中に武漢市内の複数の病院で原因不明の肺炎患者が確認されていた事実などに触れた。

 

その上で、李医師の処遇について「警察が訓戒書を作ったことは不当であり、法執行の手順も規範に合っていなかった」と結論づけた。警察に対し訓戒書の取り消しと関係者の責任追及などを求めた。

 

この調査結果に対し、ネット上では「真相が明らかになった」「国家を信じ、調査結果を支持する。李先生安らかに」などと賛辞が寄せられている。もっとも中国では政府の判断に反対する意見がネット上に残るはずはないが、人々の批判の矛先を逸らすには、まずまずの効果があったようだ。

 

しかし、この調査結果は、重要な点に触れていない。李医師の発信が「社会の関心を集めた」などとしているが、訓戒によって李医師が口をつぐんでしまった事態が招いた結果についての検証がされていない。

 

その結果とは「情報隠し」が引き起こした感染拡大だ。特に、医療関係者の防疫が後手に回ったために、武漢では医療崩壊が起きた。(中略)

 

敵対勢力が李医師を利用?

国営新華社通信が、李文亮医師の調査チームとの質疑を報じている。その中で、李医師の情報発信が、社会にどのような作用を与えたかとの質問に対して、調査チームは次のようにこう答えている。

 

「一部の敵対勢力は中国共産党と中国政府を攻撃するために、李文亮医師に体制に対抗する“英雄”“覚醒者”のラベルを貼っている。しかし、それは事実に全く合わない。李文亮医師は共産党員であり、いわゆる“反体制人物”ではない。そのような下心を持つ勢力が、扇動したり、人心を惑わせたり、社会の不満を挑発しようとしているが、目的を達せられないことは決まっている」

 

中国の体制にとって感染症そのものよりも、対策で下手を打ったとして民心が離れる事態の方が脅威だ。今回の調査結果の一番の狙いは、おそらくこれだ。【3月20日 宮崎紀秀氏 YAHOO!ニュース】

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武漢の感染拡大を「鎮圧」したことは、政府・党の「勝利」であり、政府・党の対応には誤りはなかった・・・という「無謬性」「硬直性」が、はからずも外部の人間にとっては中国共産主義の「限界」を示すものに思われます。

 

【武漢の状況を報じた市民 拘束・禁固刑も】

この旧聞ともいえる李文亮氏の件を改めて取り上げたのは、今日、下記記事を目にして驚いたせいです。

武漢の惨状を伝えた結果、当局によって拘束されていると思われる市民が今も複数名存在し、そのうちの1名は禁固刑の恐れがあるとか。

 

****中国・武漢の市民記者、禁錮刑の恐れ 感染流行報じて起訴****

中国・武漢市で発生した新型コロナウイルスの大流行について伝えた市民ジャーナリストが、最長5年の禁錮刑に処される可能性に直面している。彼女の起訴状が16日、表面化した。

 

元弁護士の張展さん(37)は、5月に逮捕されて以来、拘束が続いている。

容疑は「口論をけしかけトラブルを誘発した」というもの。中国でよく活動家に適用される内容だ。

 

新型ウイルスの感染が広がった当時の武漢市の状況を報じ、トラブルに直面した市民ジャーナリストは、張さんだけではない。

 

2月以降、少なくとも3人の行方がわからなくなった。そのうち、李沢華さんは4月に姿を現し、「隔離」されていたと述べた

 

陳秋実さんはその後、政府の監視下に置かれていることが判明。方斌さんは今も行方不明のままだ。

中国当局は、声を上げる活動家を弾圧することで知られている。

 

ハンスト

今回明らかになった起訴状によると、張さんは2月に武漢市に入り、多くの記事を出した。NGO中国人権擁護者(CHRD)ネットワークによると、張さんは他の独立系ジャーナリストらの拘束や、当局の責任を追及した新型ウイルス犠牲者の家族に対する嫌がらせなどを報じていた。

 

CHRDによると、張さんは5月14日に武漢市で行方不明になった。翌日になって、640キロメートル以上離れた上海で警察に拘束されていたと明らかにされた。

 

6月19日になって、上海で正式に逮捕された。ほぼ3カ月後の9月9日、弁護士が面会を許可された。

CHRDは、張さんが逮捕に抗議してハンガーストライキに入っていたとしている。9月18日には張さんの弁護士に電話があり、彼女が起訴されたと伝えられたという。正式には今月13日に起訴された。

 

「悪意をもって広めた」

16日に表面化した起訴状は、張さんについて、「微信(ウィーチャット)、ツイッター、ユーチューブを通して、偽の情報をメールやビデオ、他のメディアで」送ったとしている。また、外国メディアのインタビューを受け、武漢市の新型ウイルスに関する情報を「悪意をもって広めた」と非難している。

当局は禁錮4〜5年の刑を求めている。

 

張さんはこれ以前にも、当局とトラブルになったことがあった。CHRDによると、2019年9月に上海で警察に呼び出され、香港の活動家らへの支援を表明したとして拘束された。

拘束中、精神鑑定を受けさせられたと報じられた。【11月18日 BBC】

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「目をつけられる」ような存在だったようですが、“外国メディアのインタビューを受け、武漢市の新型ウイルスに関する情報を「悪意をもって広めた」”というあたり、特に、外国メディアに中国の実情が流れることに中国当局は異様に神経質になります。

 

彼らの尊大なブライドを傷つけるせいでしょうか?

 

【厳しいバッシングを受ける「武漢日記」の方方さん 文革を想起させるような国家主義に走る習近平政権】

パンデミック当時の武漢の市民生活を赤裸々に描いて有名になった中国作家・方方さんも、海外での英語翻訳版が出版されると、「裏切者」と厳しいバッシングを受けるようになり、当局対応もそうしたバッシングを容認するものに急変しています。

 

****中国、「武漢日記」発禁に 作者を攻撃、当局黙認****

新型コロナウイルス対応で封鎖された中国湖北省武漢市の生活を記録して国際的反響を呼んだ地元作家、方方さん(65)の「武漢日記」が中国で事実上の発禁扱いとなり、出版できない状況であることが分かった。

 

方方さんが21日までに共同通信の書面取材に応じ、明らかにした。武漢市が封鎖されてから今月23日で半年。中国の暗部を描いた日記の出版を阻もうとするメディアなどが攻撃し、当局も黙認しているためだという。

 

海外では既に英語の翻訳版が出版された。しかし中国では国内出版に向けて準備が進んでいたものの、出版社が圧力を恐れて本を出せない状況だ。【7月21日 共同】

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「国家のやることに間違いはない」「共産党のやることに間違いはない」、そしてそのことは最終的には「習近平主席のやることに間違いはない」へ・・・こうした「無謬性」、さらに外国からの批判を受け付けない肥大した国家プライド・・・武漢における新型コロナ対応に限らず、中国政治全般に見られることであり、かつ、近年その傾向が強まるように見えるところです。毛沢東時代の文革を想起させるぐらいに。

 

****習主席支配の中国、過激な国家主義への暗転****

「国家への忠誠欠如」で過激なバッシング横行

 

中国に吹き荒れる国家主義の風がここにきて、過激な様相を帯びてきた。毛沢東主義の暗い過去を想起させる足元の潮流を後押ししているのが、共産党のプロパガンダや習近平国家主席の政治的野望、そして新型コロナウイルスの封じ込めに成功した国家のプライドだ。

 

ネット上で、中国指導部を批判する、または国家への忠誠が欠如していると見なされた人物は、執拗(しつよう)な集団攻撃の標的になる。嫌がらせは標的が沈黙するまで続く。中には職を失った人もいる。

 

今年目立った標的となったのが、コロナ対応を巡り、当局者の初動に疑問を投げかけた人々だ。湖北省武漢市の文筆家である方方氏もターゲットになった1人だ。

 

方方氏がネット上で住民の苦境に言及し、地元政府の対応の遅れを批判すると、多くの国内ネットユーザーは同氏を「裏切り者」と切り捨てた。

 

武漢市内のバス停には、同氏に対して「人々に犯した罪を償うため、頭をそるか死ね」と書かれた匿名のポスターが貼られ、その画像はネット上に拡散した。太極拳の有名な武術家は「正義の握り拳」で同氏を攻撃するよう唱えた。

 

方方氏はその後、中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」で、市民にこう呼びかけた。「中国は文化大革命の時代に後戻りすることはできない」

 

中国政治の専門家は、国家主義の高まりについて、世界における中国の地位が向上する中で自然な成り行きだと指摘する。中国人からは、国家に対する心からの誇りが根底にあるとの声も聞かれる。

 

中国政府も国家主義の増進に余念がない。当局者はネット規制や大量のソーシャルメディア(SNS)アカウントを通じて、当局に対する批判を検閲により徹底的に封じ込めているほか、政府や共産党を促進するコンテンツを大量拡散するエコシステムを構築している。

 

長期独裁体制を視野に入れる習氏も、国家主義者の急先鋒に立つ。国家復興という「中国の夢」の実現を誓う同氏は、経済成長が鈍り、米国との対立が先鋭化する中で、共産党への支持を固めようと、生活のあらゆる面で国民の愛国心に訴える。

 

習氏が目指す中国の国家像はこうだ。独裁政権およびハイテク技術による社会統制を超国家主義の浸透と組み合わせることで、反対派を封じ込める新たなタイプの強国――。

 

中国のネット検閲では、社会問題に関する限定的な議論を容認していた時代もあった。だが、習氏が実権を握って以降の8年間、国内リベラル派の間では、文化大革命の熱狂的な政治に後戻りするのではとの懸念が強まっている。

 

毛沢東が仕掛けた「反革命的な要素」に対する戦争により、中国社会と経済は1960年代~70年代に崩壊の瀬戸際に追い込まれた。

 

文化大革命の時代には、100万人以上が死亡した。近代中国の文化・思想史を研究する歴史家ジェレミー・R・バーメ氏は、当時ほどの過激さはないものの、当局は「痛烈な批判、ヒステリー(興奮状態)、毛沢東時代の祖先の暴力的な意図と、デジタル監視で入手可能になった科学捜査的な詳細情報を組み合わせている」と指摘する。

 

また、反対意見に対する中国の不寛容さは、往々にして欧米諸国を上回るとして、「欧米人が自分たちには『キャンセルカルチャー(言動を問題視する相手への集中的なバッシング)』があると思うなら、欧米人は(中国のことを)全く分かっていない」と述べる。

 

<バッシングを呼んだ日記>

方方氏が「武漢日記」を記録し始めたのは、コロナ封じ込めに向けて武漢市当局がロックダウン(都市封鎖)を敷いた直後の1月だ。同氏は、政府も資金援助する湖北省の作家協会のトップを務めていた経歴を持つ。

 

中国メディアの報道が厳しく制限される中、同氏の日記は深刻化していたコロナ感染拡大の実態を知る上で、貴重な機会を提供していた。大半はロックダウン下の日常に関する記述だが、時には真実を隠ぺいしているとして、当局者を批判することもあった。同氏の日記の視聴回数は数百万回に上った。

 

同氏への攻撃が加速したのは、日記の英語の翻訳版が米国で出版されるとのニュースが4月に伝わってからだ。ネット上では方方氏の動機に対して疑問を呈し、外国人に中国を攻撃するための「短刀を提供している」として糾弾する声が上がった。

 

方方氏の自宅には石が投げられた。あまりの嫌がらせに耐えられず、同氏は自身のウェイボー投稿に対するコメントが目に入らないよう遮断した。中国語版の日記を含め、本土や香港の出版社は、同氏の作品を出版することを拒否しているという。

 

ネット上のバッシングには、中国共産党系の新聞「環球時報」の胡錫進編集長など、政府とつながりのある人物も加わった。胡編集長は、方方氏が欧米で注目を浴びることで、中国人はその影響に苦しむだろうと投稿した。

 

方方氏はメールで、胡編集長らは、政府の意見を代表しているとみられているため、世論に影響を与えることができると話す。「とりわけ政府の支援を受けているこうしたやくざと1人で戦うのは無駄だ」

 

胡編集長は方方氏への攻撃をあおったとする見方を否定。批判を受け入れようとしない同氏の姿勢が、世論の反発を呼んだとコメントした。

 

<プロパガンダの威力>

中国のサイバー空間に詳しい専門家らは、ネット上には政府寄りのコンテンツを投稿する数百万人のユーザーが存在すると推定している。こうしたユーザーは、政府からの雇われか、政府当局者だ。(後略)【10月26日 WSJ】

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武漢での当局のコロナ対応に関しては、犠牲者の遺族に不満も残っているようですが・・・・

 

****武漢の遺族ら 習主席宛てに請願書****

世界で最初に新型コロナウイルスの感染が拡大した、中国・武漢市の患者の遺族たちが、習近平国家主席に宛て請願書を送った。

 

遺族の男性「隠ぺいでこんなに多くの人が死んだ。なぜ逃れようとするのか」

遺族たちは、感染拡大は武漢市当局の情報隠ぺいによって起きたとして、関係者の法的責任を追及するよう求めている。

 

FNNの取材に応じた男性は、2020年2月に父親を亡くし、これまでに武漢市などに謝罪や情報公開を求めてきたが受理されず、習主席宛ての書簡のほかに、16日、最高人民法院に訴状を送ったという。【11月16日 FNNプライムオンライン】

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こうした訴えがまともに取り扱われることはないでしょう。

無視されるだけならまだいいですが・・・。

 

中国政治の流れは、過激な国家主義への流れであると同時に、国家・党=習近平体制であり、習近平指導部礼賛の流れでもあります。

 

中国共産党は2022年の次期党大会で「党主席制」を復活させ、習近平国家主席が就任する見通しとも報じられています。

 

方方さんは、こうした現況について、「(過酷な経験をした)多くの人は本当の思いを表現したくてもできず、心の中に押しとどめたままだ。ウイルス発生の反省も責任追及もされていない」「形式主義や政治最優先、表面的な繁栄を追求する体質を改めなければ前には進めない。放置すれば全土の人が再度重い対価を支払うことになる」「政治的に正しくないと処分、文革と同じ」と語っています。【11月17日 毎日より】

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