孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

米大統領選挙 バイデン氏当確への祝意 急ぐ国、遅れた国、保留する国 それぞれの事情

2020-11-10 23:18:22 | 国際情勢

(ネタニヤフ首相のツイッターアカウント。背景画像には、トランプ氏と向き合った写真が使われている【11月8日 朝日】)

 

【バイデン氏の国際協調重視への復帰を期待するG7各国 速やかな祝意表明】

バイデン氏のアメリカ大統領当選確実の報道を受けて、各国は国際慣例に従って祝意を表明していますが、敗北を認めず法廷闘争を進める覚悟のトランプ陣営からすれば、既成事実を作ろうとする悪意ある行為ともなるのでしょう。

 

ただ、祝意を伝えているのはバイデン氏側ではなく、各国政府ですから・・・。

 

各国の対応も、当選をめぐって混乱が続いているなか、祝意を表明するのはトランプ政権の距離感など微妙な政治的判断を伴います。

日本も菅首相が祝意をツイートしていますが、G7では最も遅かったとか。

 

****菅首相祝意、G7で最後=バイデン氏勝利受け―米大統領選****

米大統領選で民主党のバイデン前副大統領が勝利を確実にした7日、各国首脳はツイッターで相次いで祝意を表明した。

 

現職の共和党トランプ大統領が負けを認めない中で、各国ともぎりぎりの判断を迫られたが、菅義偉首相がツイートしたのは先進7カ国(G7)で最後だった。

 

CNNテレビが米メディアで最初に当選確実を報じたのは米東部時間7日午前11時24分(日本時間8日午前1時24分)。最も早かったのはカナダのトルドー首相で38分後に「われわれ2国は緊密な友人だ。共に働けるのを楽しみにしている」と書き込んだ。

 

トランプ氏と緊密な関係を築いたジョンソン英首相もG7で2番目の1時間25分後にバイデン氏への祝意を伝達。仏伊独3国も当確報道から2時間余りで続き、菅首相が「心よりお祝い申し上げます」と投稿したのは、当確から5時間を過ぎていた。【11月10日 時事】 

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もちろん早ければいいという話でもありませんし、菅首相も報道から5時間後ということで、特に遅い反応でもないとも思われますが、それでもG7で最後というのは、他の各国の対応が非常に速かったということでしょう。

 

その早さに、国際協調を軽視してアメリカ第一を振りかざすトランプ大統領の退陣を各国が待ち望んでいた・・・その思いの強さを感じてしまうのは思い過ごしでしょうか。

 

【祝意表明が遅れたトランプ大統領と緊密な関係にあるイスラエル・サウジアラビア】

一方で、トランプ大統領と密接な関係を築き、その関係を政権の基盤ともしてきた国は、当然ながら「迷い」が出ます。

 

迷いながらも、今後のアメリカとの関係を考えると、バイデン氏とも一定の関係を維持していくことも必要になりますので、祝意を示さないというのも、これまた重大な判断となります。

 

そうした国で思い浮かぶのはイスラエルとサウジアラビア。

 

トランプ大統領の盟友でもあるイスラエルのネタニヤフ首相がバイデン氏への祝意をツイートしたのは報道から12時間後。

国内的には、野党からの突き上げもあったようです。

 

****ネタニヤフ首相がバイデン氏に祝辞「イスラエルの素晴らしい友人」****

ドナルド・トランプ米大統領の盟友、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が8日朝、米大統領選で当選確実が伝えられた民主党のジョー・バイデン前副大統領への祝辞を公開し、バイデン氏を「イスラエルの素晴らしい友人」と呼んだ。

 

ネタニヤフ氏は、バイデン氏と米副大統領となるカマラ・ハリス氏と共に働き、「米国とイスラエルの特別な同盟関係をさらに強化していくことを楽しみにしている」と述べた。

 

ネタニヤフ氏は、トランプ氏と並んで座る写真を載せているツイッターで、「(自身とバイデン氏は)40年近くの長きにわたって個人的な友人関係にあり、バイデン氏がイスラエルの素晴らしい友人だと知っている」と述べた。

 

続けて、トランプ氏がエルサレムをイスラエルの首都と承認したり、ゴラン高原のイスラエル主権を認めたり、共にイランに対抗したり、イスラエルとアラブ国家との国交正常化に尽力したり、米イスラエルの同盟をかつてなく強固にしたりしたことに言及し、「あなたがイスラエル国と私個人に示してきた友情に感謝する」とツイートした。

 

ネタニヤフ氏とベニー・ガンツ国防相、ガビ・アシュケナジ外相は7日夜、バイデン氏に速やかに祝辞を送っていないとして、イスラエル最大野党党首のヤイル・ラピド氏に非難されていた。

 

ラピド氏は、「ネタニヤフ氏とガンツ氏、アシュケナジ氏がまだバイデン氏に祝辞を送っていないという事実は、恥ずべき臆病さであり、イスラエルの国益を損なう」「フランスの大統領やドイツや英国の首相ができるなら、あなた方だってできるはずだ」と述べた。

 

シンクタンク「イスラエル民主主義研究所」が事前に行った世論調査によると、イスラエル人の63%はトランプ氏の再選を望んでいた。 【11月8日 AFP】

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ネタニヤフ首相は、トランプ大統領とは相思相愛の関係で、上記記事にもあるようにトランプ大統領の支援を受けてイスラエルを取り巻く情勢は大きく変わりました。(イスラエル側からすれば「好転」)

 

一方、前任者のオバマ大統領とは険悪な関係で、アメリカ・イスラエル関係は「最悪」ともいわれていました。

ネタニヤフ首相としても、トランプ退陣は大きな痛手になりますが、バイデン氏との関係をオバマ政権当時のような「最悪」状態にはしたくないという思いもあっての「12時間後」でしょう。

 

ネタニヤフ首相のツイッターアカウントの背景画像には、トランプ大統領と向き合う写真が8日朝の時点も使われているそうです。

 

イスラエルは、UAEやバーレーンとの国交正常化という大きな転換点を迎えています。

アメリカ大統領の交代で、この流れが続くのか、休止するのか・・・ネタニヤフ首相ならずとも気になるところです。

 

また、よき理解者・トランプ大統領が在任のうちに駆け込み的に入植活動なども加速させるのかも。

 

****イスラエル、過去最多の入植住宅 軍が承認、拡大継続****

イスラエル軍当局が今年、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で、ユダヤ人入植者用の住宅計1万2159戸の建設計画を承認し、2012年以降最多となったことが分かった。入植活動を監視するイスラエルの平和団体ピースナウが28日までに発表した。

 

トランプ米政権の仲介で、イスラエル政府はアラブ諸国と関係改善を進める一方、占領地での入植拡大を続けている。アラブ諸国はイスラエルとの和平の条件としてパレスチナ問題の解決を掲げてきたが、それが置き去りにされている実態が浮き彫りになった。【10月28日 共同】

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トランプ大統領がイスラエルと並んで中東で重視している国がサウジアラビア。

イラン包囲網の要となる国ですが、実力者ムハンマド皇太子のカショギ氏殺害事件の関与について、トランプ大統領は結局皇太子をかばい通した形にもなっています。

 

そのムハンマド皇太子も「1日遅れ」で祝意を表明しています。

 

****サウジ国王と皇太子、バイデン氏に祝意 勝利確定から1日遅れ****

サウジアラビアのサルマン国王とムハンマド皇太子は8日、米大統領選でバイデン前副大統領が勝利を確実にしてから24時間余り経ち、ようやく祝意を表明した。実権を握る皇太子は、まだ敗北を認めていないトランプ大統領と親密な関係を築いていた。

バイデン氏は選挙戦でサウジとの関係を見直し、在トルコ・サウジ総領事館でのサウジ人記者ジャマル・カショギ氏の殺害事件の説明責任の追及やサウジが介入するイエメン内戦への支援停止を公約している。

他のアラブ諸国がバイデン氏への祝意表明を急ぐ中、ムハンマド皇太子はタンザニア大統領選での現職再選を祝う言葉を送ったものの、米大統領選には1日余り沈黙した。

国営サウジ通信によると、ようやく祝意を表明したのは8日1932GMT(日本時間9日午前4時32分)だった。

「サルマン国王は友好国である2国と両国民の顕著で歴史的かつ親密な関係を称賛した。誰もがあらゆるレベルでの関係の強化・発展に期待している」と報じている。

ムハンマド皇太子はトランプ氏と親密な関係を築くことで、カショギ氏の殺害事件など人権問題やイエメン内戦への介入、女性活動家らの拘束を巡り外国から批判が高まっても国際的な場でやり玉に挙がる状況を回避してきた。

サウジは、トランプ政権によるイランへの厳格な制裁を意味する「最大限の圧力」政策を強く支持してきた。ただ、バイデン氏は2015年のイラン核合意への復帰を公約している。【11月9日 ロイター】

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イラン包囲網の渦中にあるイランは、当然ながらトランプ退陣を歓迎しており、“イランのジャハンギリ第1副大統領は8日、「ついにトランプ氏と冒険主義的で好戦的なチームの時代は終わった」とし、「米国の破壊的な政策に変化が起きるよう望んでいる」とツイッターに投稿した。”【11月8日 産経】とのこと。

 

前述イスラエル・パレスチナ問題の今後の方向と並んで、トランプ政権が進めたサウジなどを基軸にした対イラン敵視政策がどのように変わるのかも、今後の焦点です。

 

【ブラジル・メキシコは法的決着待つ姿勢 メキシコはトランプ政権との軋轢回避か】

一方、祝意表明を未だ保留しているのがブラジルとメキシコ

 

****ブラジルとメキシコ首脳、バイデン氏祝福控える 法的決着待つ姿勢****

ブラジルのボルソナロ大統領とメキシコのロペスオブラドール大統領は共に、米大統領選で当選が確実になったバイデン氏への祝福を控えている。(中略)

ブラジルのボルソナロ大統領はこれまでトランプ氏への敬意をたびたび示し、米大統領選でトランプ氏が再選されればいち早く祝福すると表明していたが、ここ数日、大統領選について一切コメントしていない。

バイデン氏はブラジルのアマゾン森林破壊や人権問題などを問題視するとみられ、ブラジルは今後対米関係で前途多難が予想される。

モウラン副大統領は9日、記者団に「大統領は不正投票を巡る混迷が解決するのを待っているのだと思う。何もなければ大統領は考えを示す」と述べ、「適切な時期に」バイデン氏を祝福する考えで、トランプ氏の訴訟がどうなるかを見守っていると説明した。

メキシコのロペスオブラドール大統領は、大統領選が法的に決着するまでコメントできないとしている。

「メキシコの大統領が裁判官になり、この候補者が勝利したなどと言うことはできない」と説明。バイデン氏に関して何も問題はないとコメントした。【11月10日 ロイター】

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極右・ブラジルのトランプとも称され、アマゾン森林破壊を黙認しているとされるブラジル・ボルソナロ大統領がリベラルで人権重視の民主党・バイデン氏の当選を快く思っていないのは明らかで、そのボルソナロ大統領が祝意を表明しないのもうなづけるところです。(逆に、祝意を表明したらニュースでしょう)

 

メキシコ・ロペスオブラドール大統領については、慎重さの背景はよくわかりません。

ロペスオブラドール大統領自身は左派系で、トランプ大統領とも肌合いは異なりますし、国境の「壁」建設ではトランプ大統領とも揉めた経緯もありますが・・・・。

 

国境を接しているだけに、アメリカとの関係は移民問題や経済関係などで他国にもまして重要であり、あと2か月とは言え、トランプ政権との軋轢は極力回避したいという思いでしょうか。

 

アメリカ・民主党側からは失望の声もあがっているとか。

 

****メキシコ大統領、バイデン氏祝福控える 米民主議員から失望の声****

メキシコのロペスオブラドール大統領は7日、米大統領選について、法的に決着するまで待つとし、バイデン前米副大統領への祝福を控えた。これを受けて、米民主党のヒスパニック系議員らから失望の声が出ている。

ロペスオブラドール氏は7日の会見で、全ての法的懸案事項が解決するまで米大統領選の結果についてコメントを控えると述べた。トランプ米大統領との摩擦を避けるためとみられる。

ロペスオブラドール氏は「どちらか一方の候補者を祝福することはできない。選挙のプロセスが終わるまで待ちたい」と説明した。

これを受けて、米下院外交委員会小委員会のトップで民主党のワキーン・カストロ議員はツイッターに「驚くほどの外交的失敗だ」と投稿。アリゾナ州上院のマルティン・ケサダ議員も「失望の域を超えている」と批判した。【11月9日 ロイター】

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【バイデン新大統領の姿勢を見極めようと慎重姿勢のロシア・中国】

アメリカと対立関係にある大国ロシア・中国も当然ながら、慎重に選挙結果の確定およびバイデン氏の今後を見極めようといったところです。

 

****プーチン氏、米大統領選勝者への祝辞は「正式結果確定後」と大統領府****

ロシア大統領府は9日、米大統領選の勝者への祝辞について、ウラジーミル・プーチン大統領は正式結果が発表されるのを待っていると明かした。

 

ドミトリー・ぺスコフ大統領報道官は記者らに対し「正式結果が確定するまで待つのが妥当だとわれわれは考えている。再度強調しておきたいのは、プーチン大統領は米国民の選択を尊重すると繰り返し述べているということだ」と話した。

 

各国首脳の多くは、ドナルド・トランプ大統領がジョー・バイデン氏に挽回不可能な票差をつけられたことが判明した後、バイデン氏に祝意を示している。

 

2016年の米大統領選で、トランプ氏が対立候補のヒラリー・クリントン氏を抑え勝利した際には、プーチン氏は約1時間後には祝辞を伝達していた。

 

この違いについてペスコフ報道官は、今回はトランプ氏が敗北を認めることを拒否し、不正投票があったと訴えて法的措置を講じる構えを示しているためだと説明した。 【11月9日 AFP】AFPBB News

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慎重姿勢は「正論」ではありますが、“4年前の米大統領選で、トランプ大統領の当選確実が報じられた直後にプーチン大統領が世界に先駆けて祝電を送った時とは対照的な対応で、バイデン氏の出方を見極めているようだ。”【11月8日 朝日】とも。

 

背景にはバイデン氏・民主党のロシアへの厳しい姿勢もありそうです。

 

****プーチン政権、「反ロシア的」と警戒=オバマ時代、関係悪化の一途―米大統領選****

ロシアは米大統領選でのバイデン氏勝利を受け警戒感を強めている。ロシアに融和的な言動が目立ったトランプ氏と比べ、バイデン氏は「反ロシア的」(プーチン大統領)で、ロシアに対し厳しい立場で臨むと予想している。

 

バイデン氏は選挙戦中、ロシアは米国や同盟国の安全保障上「最大の脅威」と発言。ロシアのペスコフ大統領報道官は「全く同意できない。ロシアに対する憎悪が広められ、敵として位置付けられているのは遺憾だ」と反発した。

 

プーチン政権は、バイデン氏が副大統領を務めたオバマ前政権とシリア内戦やウクライナ危機などをめぐって対立し、米ロ関係は悪化の一途をたどった。こうした経緯もあり、バイデン氏が対ロ強硬外交を進め、欧州の同盟国と連携してロシアを封じ込める事態を恐れている。

 

一方、バイデン氏は米ロの新戦略兵器削減条約(新START)の延長を明言しており、プーチン氏も評価。ロシアとしては核軍縮分野の協調で対話の糸口を探りたい考えだ。【11月8日 時事】 

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一方の中国は激しくトランプ政権と対立していますが、アメリカの厳しい対中姿勢はバイデン氏に代わっても続くとも見られています。それなら「急ぐ必要もない」あるいは「急ぐことで、物欲しげに思われたくない」といったところでしょうか。

 

****米大統領選に関するコメント、国際慣習に従う=中国外務省****

中国外務省は9日、ジョー・バイデン氏に祝意を表明していない理由についての質問に、米国の選挙に関するコメントは国際的な慣習に従うとの考えを示した。

バイデン氏は米大統領選での勝利が確実になったが、現職のトランプ大統領は敗北を認めず法廷闘争に乗り出している。

汪文斌報道官は記者会見で、「バイデン氏の勝利宣言は承知している。米国の大統領選挙の結果は、米国の法律と手続きを経て決まると理解している」と述べた。

米中はさまざまな問題で対立し、両国関係は過去数十年で最悪の状態にある。トランプ政権は中国に対して制裁措置も発動した。

汪報道官は、「われわれは常に、両国は対話の促進、相互尊重をベースとした相違への対応、互いの利益のための協力拡大、健全で安定した2国間関係の発展に取り組むべきだと考えている」と述べた。【11月9日 ロイター】

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バイデン氏は就任早々に温暖化対策のパリ条約に復帰するとしていますので、このあたりが中国にとってはアメリカとの協調を探る糸口になりそうです。

 

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