孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  中国も揶揄する「トランプの乱」の混迷 即時罷免要求 共和党内からの批判・離反の動き

2021-01-07 23:04:10 | アメリカ

(議事堂の西側には、アメリカで黒人差別の象徴となっている首つり縄がくくられた絞首台が設置された。【1月7日 HUFFPOST】)

 

【民主党、かろうじ上院主導権を握るものの、今後の議会運営には困難も】

アメリカの「長い1日」「激動の1日」を、淡々と数行でまとめれば以下のとおり。

 

****バイデン氏の当選を正式認定 トランプ支持者ら4人死亡****

米連邦議会は7日、民主党のバイデン次期大統領の大統領選当選を正式認定した。与野党議員は共和党のトランプ大統領の支持者による議事堂占拠を非難した。占拠に伴い、トランプ氏支持者の女性1人を含む計4人が死亡。

 

バイデン氏は国民の癒やしと結束を掲げるが、社会の分断は深刻で、20日の政権発足は前途多難の船出となる。南部ジョージア州の上院決選は民主党が2議席を全勝し、上下両院で主導権を握った。

 

上院議長を兼務するペンス副大統領は上下両院合同会議で「暴力に勝利はない」と述べ、占拠を厳しく批判した。【1月7日 共同】

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上記に関して山ほどの報道がなされているところですが、1月4日ブログ“アメリカ  共和党にとって悩ましいトランプ大統領との距離感の取り方”でも取り上げた、ジョージア州の上院決選について。

 

結果的には、民主党が2議席を制して、「ねじれ」を回避して大統領と上下両院の三つを押さえる形を“かろうじて”実現しました。

 

トランプ大統領の積極関与が共和党候補には裏目に出たようにも思えます。

もっとも、上院で“同数”という状況は、バイデン新大統領にとっても容易な状況ではありません。

 

****バイデン氏、「ねじれ議会」回避でも重要法案実現には壁****

(中略)採決で同数となった場合は議長を兼務するハリス次期副大統領が決裁票を投じるため、事実上は民主党が多数派になる。

とはいえこれだけ勢力がまさに伯仲する以上、バイデン氏が重要法案を通すためには共和党との妥協は不可欠だ。また最も野心的な内容の法案は、民主党内の左派からプレッシャーをかけられたとしても、しばらくは審議を見合わせなければならなくなるかもしれない。(中略)

上下両院の多数派とはいえ、シューマー氏とペロシ氏に票固めでの取りこぼしが許されるほど余裕があるわけではなく、共和党が勢い付いて、民主党が推進する法案を可能な限り阻止しようとしてもおかしくない。(中略)


<鍵は穏健派取り込み>
バイデン氏のアドバイザーは、政権移行チームが与野党双方の穏健派を味方に付けられる政策案を取りまとめることに注力していると明かした。特に念頭に置いているのが、ジョー・マンチン議員のような民主党内の保守派を押さえることや、スーザン・コリンズ議員、ミット・ロムニー議員のような共和党穏健派を取り込むことだ。

 

ほとんどの法案は上院で60票の賛成が必要だからだ。バイデン氏の盟友の民主党クリス・クーンズ上院議員などが共和党との折衝窓口役だ。

上下両院を制する形になっても、バイデン氏は慎重な態度で政権運営を始めるだろう。まず目指すのは、景気刺激策や州政府や自治体政府支援、学校再開や新型コロナウイルスワクチン配布にかかる資金拠出などを盛り込んだ総額1兆ドル弱の追加経済対策の実現になる見通し。(中略)


<オバマ政権の教訓>
昨年の大統領選でバイデン氏は、世界大恐慌を克服するためにニューディール政策を進めたフランクリン・ルーズベルト大統領をほうふつさせるかのように、移民から気候変動、医療、経済格差まで実に幅広い問題を解決するために動くと表明した。

こうしたせっかくの野心的な政策は、いくら議会勢力上、実現が難しそうでも、不可能でないならば後退・撤回すべきでないとの声も民主党内から聞こえてくる。(中略)

バイデン氏は、移民問題などでは大統領令を多く活用し、幼少期に親に連れられて米国に不法な形で入国した若者(ドリーマー)の米国在留を認める措置(DACA)を復活させるとともに、強制送還に歯止めをかける考えだ。気候変動については、パリ協定に復帰するほか、トランプ政権が導入した環境政策の多くを撤回するつもりだ。

それでもバイデン氏には、長期的な視点も必要になる。オバマ前政権の副大統領として同氏が目にしたのは、オバマ氏が医療や環境で政権発足早々に踏み込んだ政策を実行した結果、2010年の中間選挙で共和党に下院の奪還を許したという光景だった。共和党は、賛否が分かれたオバマ氏の政策を批判して勢力を盛り返した。

民主党上院院内総務時代のハリー・リード氏の側近筆頭だったジム・マンリー氏によれば、今回も、共和党はバイデン氏との協調に関心を示さず、22年の中間選挙まで辛抱強くバ待った上で上下両院の多数派の地位を取り戻そうとするかもしれない。マンリー氏は「これから厳しい2年間になると思う」と警戒を示した。【1月7日 ロイター】

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バイデン新政権・民主党にとっての最大の問題は、上記記事では直接的には触れていませんが、民主党内の穏健派と急進派の対立でしょう。

 

上記のような共和党への配慮を重視した政権・議会運営を行えば、サンダース議員に代表されるような急進的な勢力の不満が大きくなり、党内の分断・対立を招きます。

 

一方で、そうした急進派の不満に応えようとすれば、共和党から「社会主義」といった類の批判を浴びることにも。

 

【「トランプの乱」を中国が揶揄 香港立法会議事堂占拠とどこが違うのか? 香港では死者は出ていない】

次に、「トランプの乱」とも言うべき議事堂占拠の混乱の件。

 

****米議会乱入騒ぎ、トランプ氏自ら「激しい」抗議と「戦い」あおる****

(中略)昨年11月の大統領選の不正を主張し、敗北をまだ認めていないトランプ氏は何週間も前から抗議集会を呼び掛け、この日の演説でも支持者に「戦い」を訴えていた。

トランプ氏は12月20日のツイートで「2020年の選挙で負けたというのは統計上不可能だ」とし、「1月6日にワシントンで大規模集会を開こう。ぜひ来てほしい。激しいものになるだろう」としていた。

6日は米大統領選の選挙人投票を正式に集計し、結果を認定する上下両院合同本会議が開かれる日だった。

集会には多数のトランプ支持者が集結。トランプ氏は演説し、議会議事堂に行進して選挙手続きに抗議の意を表明し、議員らに選挙結果を拒否するよう圧力をかけるべきだと強調。

「議会に行進し、勇敢な上院議員と下院議員を激励する」と呼び掛け、支持者らに「戦う」よう訴えた。

「われわれは決してあきらめしない。決して敗北は認めない」と述べ、民主党の勝利は「でたらめだらけだ」と語気を強めた。

これに支持者らは「でたらめだ」と何度も叫んで応じた。

演説開始から約50分後、まだ話が続く中で一部の支持者はトランプ氏の旗を振りながら議事堂に向かって動き始めた。(後略)【1月7日 ロイター】

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こうした事態に、“ジョー・バイデン次期大統領は6日、「反乱」と呼び、議員らは「クーデター未遂」と呼んだ”【1月7日 AFP】などの民主党サイドだけでなく、「米国大統領があおった反乱だ」(ミット・ロムニー上院議)といった共和党内からも大統領への強い批判が出ています。(ロムニー議員のトランプ批判自体は以前からですが)

 

国際的にも、「恥ずかしい光景だ」(イギリス・ジョンソン首相)、「とても悲惨な光景だ」(オーストラリア・モリソン首相)、「これはアメリカではない」(EUの外相にあたるボレル外交安全保障上級代表)、「怒りと悲しみを覚えた」(ドイツ・メルケル首相)などの批判が。

 

ただ、形の上だけで言うなら、ベラルーシでの選挙結果を認めない抗議行動は欧米から評価されており、香港で起きた若者らの議会乱入に対して同情的な見方が多々あります。

 

香港が許されて、アメリカでは「暴力」だというのはダブルスタンダードではないか・・・中国がさっそく揶揄しています。

 

****中国SNS、米議会突入を「美しい光景」とやゆ 香港デモと比較****

(中略)7日朝、共産党機関紙・人民日報系の環球時報はツイッターに、2019年の香港デモ隊による立法会(議会)議事堂占拠の画像と、トランプ氏支持者が議事堂内に侵入し、自撮りをしたり、警備員ともみ合ったり、建物内を荒らしたりする様子を捉えた画像を並べて投稿した。

 

ナンシー・ペロシ米下院議長がかつて香港の抗議活動を「目を見張る美しい光景」と呼んだことを引き合いに、「米議事堂での最近の出来事についても彼女が同じことを言うかはまだ分からない」とのコメントを画像に添えた。(中略)

 

ウェイボーでは7日、「トランプ支持者が米議事堂に突入」というハッシュタグが拡散され、2億3000万回閲覧された。ユーザーらは、香港の抗議デモ参加者に国際的な支持が集まったのに対し、トランプ氏の支持者には批判が殺到していることに言及した。

 

欧州諸国の首脳が香港デモを支持した一方で米議事堂での騒動は非難していることを「ダブルスタンダード」だと指摘する投稿には、5000件超の「いいね」が寄せられた。 【1月7日 AFP】

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****中国、米議事堂占拠を香港議会乱入と比較*****

(中略)中国外務省の華春瑩報道官は7日の会見で、「2019年の(香港)立法会へのデモ隊乱入は、ワシントンでの出来事よりも深刻だったが、デモ隊は1人も亡くなっていない」と述べた。【1月7日 ロイター】

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香港で冷酷な中国支配が進むなかで、「民主主義」という中国との違いを鮮明に打ち出すべきこのとき、トランプ大統領とその支持者の愚行は中国に嗤われるような事態ともなっています。

 

ベラルーシ・香港はよくて、今回のアメリカでの出来事がなぜダメなのか・・・選挙結果否定・議事堂乱入という形式的な問題ではなく、どうしてそのような行為に及んでいるのかというところで論じる必要があります。

 

ただ、そこにおいては「陰謀論などを信じる愚か者」という主張と、「マスメディア・エスタブリッシュメントの言い分に騙されている愚か者」という主張の事実認識が異なる水掛け論にもなり、「私の思うところでは・・・」という話になります。

 

ついでに言えば、私個人は「私の思うところでは、陰謀論などを信じる愚か者は・・・」という立場です。

 

【憲法修正25条に基づいた大統領の即時罷免要求】

トランプ大統領批判のなかで最も厳しいものは、大統領が死亡や罷免や辞任などで責務を全うできなくなった時に、副大統領が代わって大統領になることを規定する憲法修正25条に基づいた大統領の即時罷免要求です。

 

****トランプ政権閣僚ら、大統領の即時罷免を協議 米報道****

米主要メディアは、ドナルド・トランプ米大統領の支持者らが連邦議会議事堂内に突入した問題を受け、トランプ政権の閣僚らが6日、合衆国憲法修正25条に基づいたトランプ氏の大統領の即時罷免について協議したと報じた。

 

修正25条は、米大統領が「職務上の権限と義務の遂行が不可能」だと判断された場合に、副大統領と閣僚らで構成される大統領顧問団(内閣)に大統領を罷免する権限を認めている。修正25条の発動には、マイク・ペンス副大統領が大統領顧問団を率いて罷免の可否を問う投票を行う必要がある。

 

米CNNは、匿名の複数の共和党幹部の話として、修正25条の発動が協議されたと報じた。この共和党幹部らは、トランプ氏について「制御不能」だと述べたという。(中略)

 

トランプ氏をめぐっては、デモ隊の議事堂突入に先立って支持者らをあおったことや、大統領選での敗北は大規模な不正によるものだとの根拠のない主張など、数々の不可解な言動を受けて、大統領としての職務遂行能力を疑問視する声が上がっている。 【1月7日 AFP】

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民主党議員はこの種の主張を声高にしていますが、上記記事では「政権の閣僚らが協議した」ということで、興味深いところです。

 

アメリカで最も影響力を持つとされるビジネス団体、全米製造業者協会(NAM)も、ペンス副大統領にトランプ大統領の罷免(ひめん)を検討するよう求めています。【1月7日 CNNより】

 

ただ、任期も余すところ2週間となったこの時点で「ペンス副大統領が大統領顧問団を率いて罷免の可否を問う」というのは、現実的ではないかも。(個人的には、残り日数にかかわらず、行うべきとは思いますが)

 

【共和党・政権幹部にトランプ氏からの離反の動き】

もっとも、さすがにペンス副大統領はじめ、共和党内にもトランプ離れが加速しています。

 

****トランプ氏支持者扇動 共和党に離反の動き****

米民主党のバイデン次期大統領の就任を正式確定させた6日の上下両院合同会議は、本来は単なる形式的手続きであるにもかかわらず、暴徒の乱入で一時中断されるという未曽有の騒動に発展した。

 

共和党のトランプ大統領が敗北を頑として認めず、「不正選挙があった」とする客観的根拠のない主張を展開して選挙への信任を傷つけ、支持者を扇動してきたためだ。

 

連邦議会議事堂が襲撃されるのは、米英戦争終盤の1814年、議事堂が英軍に焼き打ちされて以来207年ぶりとなる。

 

上下両院合同会議で進行役を務めたペンス副大統領は、合同会議の再開に際し「私たちはきょう議会を守った」と述べ、「暴力は決して勝利しない。自由が勝利する」と強調した。

 

FOXニュースなど複数の米メディアによると、トランプ氏が議事堂への乱入に対応しようとしなかったことから、ペンス氏が独断でミラー国防長官代行らに電話をかけ、州兵部隊の緊急出動を要請した。

 

トランプ氏による「不正選挙」の主張に同調し、合同会議で選挙結果に異議を申し立てると表明した共和党の上院議員13人と下院議員百数十人も、この日の事態を受けて異議を取り下げる議員が相次いだ。

 

これらの議員は元来、トランプ氏の退任後の影響力や支持基盤の票にあやかることを見越して同氏を支えてきたが、政治専門家の間では、急進的な同氏の支持勢力によるこの日の行動を機に、一般の共和党支持者の間で潮目が「トランプ離れ」に変わる可能性があるとの指摘が出ている。

 

共和党のキンジンガー下院議員は声明で「トランプ氏はもはやわが党の指導者ではない。同氏による(議事堂襲撃の扇動という)反逆罪に相当する行動を拒否すべきだ」と訴えた。

 

米紙ワシントン・ポスト(電子版)社説は「トランプ氏は残り2週間の任期を全うするには不適格だ」とし、米憲法修正25条に基づく同氏の解任を主張した。

 

バイデン次期政権は、6日のジョージア州の上院決選投票の結果を受け、民主党が上下両院を支配する比較的有利な状況で政権を運営することが確定した。

 

ただ、トランプ氏および支持勢力は、今後もあらゆる形でバイデン氏に対して政策遂行の妨害や醜聞の追及を通じて攻撃を仕掛けていくとみられ、対立が尾を引くのは必至だ。【1月7日 産経】

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トランプ大統領はかねてより、ペンス副大統領が取り仕切る米大統領選の公式集計において、選挙結果を覆すようペンス氏に圧力をかけていましたが、ペンス氏は5日、ホワイトハウスでトランプ氏に対し、バイデン次期大統領が勝利したとの承認を阻止する権限は自分にはないと告げ、トランプ氏に同調しない姿勢を明確にしています。

 

政権高官のなかにも、トランプ大統領を見限って辞任の動きが広がっています。

 

****米安保補佐官ら辞任検討=トランプ氏支持者議会突入で****

米CNNテレビなどは6日、トランプ大統領の支持者が連邦議会議事堂に突入したことを受け、オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)が辞任を検討していると報じた。トランプ氏がこの日の演説で、集まった支持者に議会へ行くよう促したことへの反発が政権内に広がっている。

 

オブライエン氏はツイッターで、過去に上院議員の下でインターンをした経験を挙げた上で、議会への侵入は「完全な面汚しだ」と批判した。また、トランプ氏の意向に反し、大統領選の公式集計を拒否する権限はないと主張したペンス副大統領を「勇気を示した」と称賛した。

 

他に対中政策を主導するポッティンジャー副補佐官(国家安保担当)やリデル次席補佐官も辞任を検討しているという。また、マシューズ大統領副報道官とメラニア・トランプ大統領夫人のグリシャム首席補佐官が6日、辞任を表明した。【1月7日 時事】

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「これ以上は付き合いきれない」という思いと同時に、「トランプの乱」批判を明確にした方が、今後の自身にとって得策との判断でしょう。

 

共和党は「トランプ党」とも言われる状況から抜け出すのか、中間選挙、4年後の選挙で再びトランプ氏に頼るのか・・・・。

 

「アメリカを再び偉大にする戦いの始まりにすぎない」と演説したトランプ大統領は4年後の出馬も念頭に置いているとも言われますし、トランプ氏が7000万票を超える支持を集めたのも事実ですから、これから2週間、更にバイデン政権となった4年間にも、いろんな動きが起きるのでしょう。

 

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