【中国政府に配慮した自主規制に終止符 バイデン次期政権に中国への強硬路線を維持させたいねらい】
アメリカ・トランプ政権は、大統領選挙で敗北した後の「政権末期」になっても、新政権への「置き土産」のように、過去のアメリカ外交とは方針が異なる独自の外交施策を展開していますが、そのひとつが台湾への対応。
アメリカにしても、日本にしても、これまでは中国への配慮から、台湾との関係は表立ってはあまり目立つことをしないという方針でしたが、トランプ政権で米中対立が激しくなると、対中国外交のカードの1枚としても、台湾との関係を明示的に強化しています。
昨年8月には、断交以来最高位のアザー厚生長官が訪台し、中国が反対する台湾のWHO参加を支持。
****米厚生長官 台湾のWHO参加をめぐり 中国らの対応を批判****
台湾を訪問しているアメリカのアザー厚生長官は、台湾がWHO=世界保健機関への参加を求めていることについて「オブザーバーとしての参加資格を復活させようと働きかけたが、中国共産党とWHOが阻止した」と述べ、中国とWHOの対応を批判しました。
アザー長官は、アメリカが41年前に台湾と断交して以来、台湾を訪問する最高位の高官で、(8月)10日は蔡英文総統に続き、新型コロナウイルス対策の陣頭指揮をとる陳時中衛生福利部長と会談しました。
一連の会談を終えて記者会見したアザー長官は、台湾がWHOへの参加を求めていることについて「トランプ大統領の指示のもと、私とポンペイオ国務長官は台湾のオブザーバーとしての参加資格を復活させようと働きかけたが、中国共産党とWHOが阻止した」と述べ、中国、WHO双方の対応を批判しました。(後略)【2020年8月11日 NHK】
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アメリカからの台湾への武器提供も“続々と”といった具合。
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国防総省のヘルビー次官補代行(東アジア担当)は(2020年)10月の講演で、米国が台湾に対し、できるだけ多くの沿岸防衛の巡航ミサイルのほか、地雷、移動砲、最先端の監視装置も購入するよう促していると明かした。
その取り組みこそが、「絶対に敗北が許されないたった1回の戦闘」に勝利する可能性を最大化してくれると力説した。
武器の提供はこれだけで終わらない。トランプ政権は10月、台湾が要望していた対艦ミサイル「ハープーン」400基と発射・運搬装置、レーダーシステムの売却を承認。これにより軍艦や海陸両用部隊からの攻撃に対する対処能力が向上する。台湾空軍向けに空中発射式の新型巡航ミサイル135基を売却することも同月承認した。
こうしたミサイルは、中国との軍事衝突が起きた場合には、台湾による中国艦艇、あるいは中国本土沿岸の重要拠点を攻撃する力を増強する。台湾は自前で製造する高性能の対艦、防空、対地攻撃の各種ミサイル開発も加速している。【12月12日 ロイター】
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武器の供与だけでなく、米海軍艦船が台湾海峡に出向く形で、中国をけん制する姿勢を強めています。
****米ミサイル駆逐艦が台湾海峡航行 中国反発****
アメリカ軍のミサイル駆逐艦2隻が台湾海峡を航行したことに、中国外務省は「断固反対する」と強く反発しました。
アメリカ海軍第7艦隊は(12月)31日、ミサイル駆逐艦2隻が台湾海峡を航行したと発表し、声明では「自由で開かれたインド太平洋への取り組みを示すものだ」としています。
中国側を牽制する一方で、中国外務省は31日の会見で、「断固反対する」と反発し、「あらゆる脅威と挑発に対応し国家の主権と領土を断固守る」と示しました。
相次ぐ武器売却などアメリカと台湾が関係強化を進める中、中国は反発を強めていて、12月20日には中国初の国産空母「山東」が台湾海峡を通過しました。
圧力を強める中国に対し、アメリカ側は一歩も引かない姿勢を示していて、台湾をめぐる双方のせめぎ合いが続いています。【12月31日 日テレNEWS24】
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高官訪台としては前出のアザー厚生長官に続き、今度は国連大使が訪台の予定です。“台湾は、中国の国連加盟を受け1971年に国連を脱退しており、国連大使の訪問は極めて異例”とも。
****米国連大使が近く訪台へ****
ポンペオ米国務長官は7日、クラフト国連大使が近く台湾を訪問すると声明で明らかにした。具体的な日程には言及しなかった。
ポンペオ氏は「台湾は信頼できるパートナーであり、中国がその偉大なる成功に水を差そうと画策しているにもかかわらず、活気に満ちた民主体制が花開いている」と称賛した。
台湾は、中国の国連加盟を受け1971年に国連を脱退しており、国連大使の訪問は極めて異例。
クラフト氏は昨年9月に開かれた会合で「世界は台湾が国連に完全加盟することを必要としている」と述べ、台湾の国連復帰を支持する考えを示していた。
国務省はまた、米国と台湾による毎年恒例の政治・軍事対話を6日にオンライン形式で実施したと発表した。国務省からはクーパー次官補が出席した。対話の内容については明らかにしていない。米国から台湾への武器売却など、中国の脅威などをにらんだ台湾支援策について話し合われたとみられる。【1月7日 産経】
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訪台の日程は、今月13─15日と報じられています。
当然ながら、中国は反発しています。
****米国連大使、台湾訪問すれば「重い代償」 中国が警告****
中国政府は7日、米国務省の発表通りにケリー・クラフト国連大使の台湾訪問が実現すれば、米国は「重い代償」 を払うことになるだろうと強く警告した。
中国の国連代表部は、「米国は、誤った行動の重い代償を払うことになるだろう」と警告。「中国は米国に対し、その狂った挑発行為をやめ、中米関係および国連における両国の協力関係にとっての新たな問題を生み出すことをやめ、誤った道を突き進むことをやめるよう強く求める」と述べた。【1月8日 AFP】
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別に中国の主張を擁護するつもりも何もありませんし、台湾の地位は改善させるべきだと思いますが、外交に関して言うなら、米中が国交を回復した当時、お互いが都合よく解釈できるような玉虫色ながら、台湾に関しては表立って支援・交流しないという「合意」が前提となっていたはずで、「心変わりした」「約束を破った」のは客観的に見てアメリカの方です。中国が怒るのも道理です。
もちろんアメリカの対応は、中国が重大な脅威として台頭するという環境の変化を受けてのことですが。
一方のアメリカの方はポンペオ国務長官が、台湾との交流に関して中国政府に配慮した自主規制を「もういい。全て解除する」と開き直っています。
****米、台湾との公的接触規制に終止符 ポンペオ国務長官*****
マイク・ポンペオ国務長官は9日、数十年にわたって台湾との公的な接触を抑制してきた規制に終止符を打つ方針を表明した。
ポンペオ氏は声明で、「中国共産党政権との融和策として」外交官や軍人などによる台湾側との接触に「複雑な内部規制」が課されていたと述べ、「今後はなくなる」と付け加えた。
この方針転換が具体的に何を意味するかは明らかではない。今回の表明は象徴的な動きである可能性はあるものの、台湾を自国の領土とみなしている中国の反発を招くのは必至とみられる。
ドナルド・トランプ米大統領の任期切れが迫っているなか、中国と米国および台湾の間の緊張は高まっていた。 【1月10日 AFP】
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この「政権末期」の態度表明は立場を明確にしたと言えばそうですが、ゴタゴタの後始末は自分でする気はないという意味では「無責任」とも言えます。
“トランプ政権は政権交代前に対中国の新たな措置を相次いで発表していて、バイデン次期政権に中国への強硬路線を維持させたいねらいがあるとみられます。”【1月10日 NHK】
まさに、新政権への「置き土産」です。
【台湾 バイデン新政権が強硬路線を引き継ぐのか、不安な気持ちで注視】
台湾としては、トランプ政権のもとでアメリカとの関係が強化され、その分、中国との関係で矢面に立つようにもなっただけに、今後のバイデン新政権の台湾対応が気になるところです。
ここで「はしごを外されたら」困ります。
“米国の大統領選で民主党のバイデン氏の当選が確実になり、台湾に少なからず動揺が走っている。トランプ政権下で米国との関係が強化されたためで、蔡英文総統は「米台関係は揺るがない」と強調。官製メディアは「米民主党は伝統的には(台湾の政権与党の)民進党を支持してきた」などと報じ、鎮静化を図った。”【11月13日 レコードチャイナ】とも。
****防衛支援は継続か、バイデン氏の出方に気をもむ台湾****
米国はトランプ大統領の下で台湾への軍事支援を大幅に拡大し、関係強化にいそしんできた。そのトランプ氏に選挙で勝利したバイデン氏の次期政権が、こうした外交方針を受け継ぐかどうか、台湾側は不安な気持ちで見守っているところだ。(中略)
中国政府はトランプ政権が推進した「親台湾」政策に相当な不快感を抱く。米国には直ちに台湾への武器売却と軍事的交流をやめもらいたいというのが、中国側の主張だ。
国務院台湾事務弁公室は声明で、台湾は中国の内政問題であると強調し、台湾への武器売却は中国に対する政治的挑発であり、「台湾分離独立」勢力を増長させるだけでなく台湾海峡の平和と安全を損なうと訴えた。
一方台湾国防部はロイターに、台湾の防衛力強化は米国内で長年、超党派から支持されていると説明した上で、米国が最近承認した武器売却に触れて、「次期米政権はこれに関する約束を履行し続けるだろう」と期待を示した。
バイデン氏の政権移行チームはこの記事内容についてコメントを拒否した。
<過去の発言が不安要素>
台湾を不安にさせているのは、バイデン氏の過去の発言だ。
例えば2001年、当時上院議員だったバイデン氏は、ジョージ・W・ブッシュ大統領(子)が台湾防衛を米国の「責務」だと表明したことを批判し、米国が中国と国交正常化した後に米台関係を規定した「台湾関係法」に基づけば、そうした義務はないと論じた。
もっともこの発言は、中国がアジア太平洋地域の米国の覇権にとって、重大な脅威として台頭するずっと前の話だ。今年の大統領選中には、バイデン氏は台湾や「志を同じくする民主主義国家」とのきずなを深めるべきだと訴えていた。
バイデン氏の側近で外交に携わる人々の多くも、中国が強権的な姿勢を先鋭化し、さまざまな国際機関を都合の良いように変革させようとするようになったことで、米国が果たすべき責務は変わったと認める。
バイデン氏が国家安全保障担当の大統領補佐官に指名したジェイク・サリバン氏はコメント要請に応じなかったものの、5月の外交専門誌フォーリン・ポリシーに共同執筆した記事で、台湾問題の核心に鋭く切り込んでいる。
「中国人民解放軍は、台湾を支配下に置くために必要な兵力投射能力を築きつつある事実を隠そうとしていない。(中国の台湾制圧は)一夜にして地域の勢力バランスを覆し、西太平洋における米国の残りのコミットメントに疑念を生じさせてしまう」と論評した。【12月12日 ロイター】
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