孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スウェーデンの新型コロナ対策評価 「失敗」から「成功」、そして再び「失敗」

2021-01-03 22:55:20 | 疾病・保健衛生

(スウェーデンの感染対策を率いていた疫学者のアンデシュ・テグネル氏(11月)【12月8日 WSJ】)

 

【事態の変化とともに変わる評価】

物事の評価というのは、最後になってみないとなかなかわからないもの。各国の手探りの新型コロナ対策もそのひとつにすぎません。

 

一時は他国に誇っていた韓国の「K防疫」も第3波の前では怪しくなっていますし、日本の「高い民度による対応」といったものも同様。

 

ロックダウンなどの厳しい制限措置をとらずに、集団免疫獲得を目指しているようにも見えたという点で(政策当局は集団免疫を目指しているとは言っていませんが)、各国の中でも最もユニークな対応をとっていた北欧・スウェーデンの評価は、事態の変化に伴って二転・三転しています。

 

近隣国に比べて多い死者数、高まらない抗体保有率、ロックダウンなしでも落ち込む経済・・・などで、6月頃の評価は「失敗」という散々なものでした。

 

風向きが変わったのが8月・9月。

 

“フランス、オランダ、ドイツ、ベルギー、スペイン、イタリアなど欧州の多数の国で感染の再増加しているのと対照的に、スウェーデンの感染者数は望ましい減少方向に向かっているように見える。

 

1日当たりの死者数は4月にピークとなった後、現在は2、3人となり、新規感染者数は6月初めから着実に減少している。患者1人から感染が広がる人数を示す実効再生産数は、7月初めから1未満に抑えられている。”【9月9日 AFP】

 

10月18日ブログ“スウェーデンの緩い新型コロナ対策 「失敗」評価から、現時点では「成功」評価に変わる”でも、そうした評価の変化を取り上げました。

 

【放任主義的な緩やかな対応を断念、規制強化へ】

しかし、これで終わらず、事態は更に変化。

 

****フィンランドとノルウェーの死者数は約10分の1****

・・・一方で対策を再評価されているのが同じ北欧のフィンランドとノルウェーだ。両国はスウェーデンと地理的・社会的特徴が似ているが、100万人あたりの死者数は約10分の1に留まる。

 

「両国の共通点は、初動が早かったこと。3月にロックダウンや国境管理を厳格化し、移動する人々にPCR検査や自主隔離を強制した」(国際部デスク)【12月2日 文春オンライン】

*******************

 

こうした「現実」に直面し、11月に規制強化への方針転換がとられました。

 

****スウェーデンでも規制強化 「厳しすぎない」路線揺らぐ****

新型コロナウイルスの感染拡大の第2波が欧州で広がるなか、商店の閉鎖や外出制限を伴う「ロックダウン(都市封鎖)」をしない北欧スウェーデンの独自路線が揺らいでいる。ロベーン首相は16日、人の集まりは8人までとする新たな規制を発表、感染抑止策の強化に乗り出した。(中略)

 

スウェーデンでは、社会的距離の確保などを国民が自発的に実行することに期待する、比較的緩い対応をとってきた。春の第1波の際も50人までの集会は認めていた。しかし、9月上旬には100人台だった1日の新規感染者は加速度的に増え、直近の1週間平均は4千人を超えている。

 

医療機関の負担も増しており、ロベーン氏は先週、感染抑止策として、今月20日から飲食店でのアルコール飲料の提供を午後10時以降は禁止する方針を打ち出していた。

 

スウェーデンでは累積の死者が6千人を超える。人口100万人あたりで比べると、英仏などよりは少ないが、近隣の北欧諸国よりはるかに多い。春のピークで亡くなった、介護施設の高齢者がその大半を占めている。【11月17日 朝日】

********************

 

ここにきて、カール16世グスタフ国王が、新型コロナウイルスの対応について「私たちは失敗したと思う」と述べる事態ともなって、政府も一層の規制強化を余儀なくされています。

 

****コロナ対応「失敗」 スウェーデン国王、異例の政策批判****

スウェーデンのカール16世グスタフ国王(74)が、新型コロナウイルスの対応について「私たちは失敗したと思う」と述べた。同国の公共放送SVTが17日、伝えた。多くの死者が出ていることを受けたもので、政治とは距離を置く国王が政策の批判に踏み切るのは異例だ。(中略)

 

欧州各国が外出制限や店舗閉鎖を伴うロックダウン(都市封鎖)に踏み切る中、スウェーデンは強制的な措置を極力避ける「緩め」の戦略をとってきた。マスクの着用は求めておらず、飲食店も社会的距離を取るなど一定の制限はありつつも営業を続けている。

 

こうした戦略は、国民から一定の支持を得る一方で、死者は北欧では突出して多い約7900人にのぼる。人口100万人あたりの死者は772人(16日時点、英オックスフォード大調べ)で、1千人を超えるイタリアやスペインなどよりは少ないが、74人のノルウェー、168人のデンマークなど近隣諸国よりはるかに多い。

 

科学者らからは、より厳しい対応を求める声が強まっている。

 

スウェーデン王室は先月末、国王の長男カール・フィリップ王子(41)とソフィア妃(36)が新型コロナウイルスに感染したと発表していた。症状は軽いという。【12月18日 朝日】

*******************

 

*****スウェーデン、規制再強化 感染拡大、方針転換鮮明に****

新型コロナウイルスの感染拡大が深刻なスウェーデンの公衆衛生庁は18日、公共施設の閉鎖や、飲食店での人数制限など新たな規制強化策を発表した。

 

公共交通機関でのマスク着用も推奨。春以降、厳しい規制を避ける独自対策を取っていたが、11月に転換した規制強化の方針が鮮明となった。

 

ロイター通信によると、ロベーン首相は記者会見で「適切な時に適切な方策を取っている」と強調。だが、カール16世グスタフ国王がこれまでの政策を「失敗」と批判しており、政府への風当たりがさらに強まる可能性もある。【12月19日 共同】

**********************

 

更に流れは加速。

 

****スウェーデン、店舗の強制閉鎖も 法案を提案、1月にも施行****

スウェーデン政府は28日、新型コロナウイルス対策として、店舗閉鎖などの強制措置をとる権限を政府に与える法案を提案した。地元メディアなどが伝えた。

 

事実上のロックダウン(都市封鎖)措置を進める多くの欧州諸国とは一線を画し、強制的な規制の回避を基本政策としてきたが、最近の感染再拡大を受けて規制の強化を迫られた形だ。

 

来年9月までの時限立法で、3月に予定された当初の提案時期を前倒しした。議会が可決すれば1月10日に施行される見通し。政府は感染拡大リスクの高い大型商業施設の閉鎖や公共交通機関の運行制限など、拘束力のある措置をとる権限を持つ。【12月29日 共同】

*********************

 

新型コロナ対策を主導してきた疫学者アンデシュ・テグネル氏は降格し、政府が今後の対策を主導するようです。

 

****スウェーデン「コロナ集団免疫」作戦、失敗の深層****

方針一転、制限強化もマスク推奨せず

 

晩秋の新規感染者の急増で入院者や死者が増加し、国民の自主的な措置でコロナ流行に対抗するという、欧米では特異な取り組みをスウェーデン政府は断念した。

 

他の欧州諸国同様、スウェーデンは今、冬本番を向かえるにあたり大規模集会の禁止からアルコール販売の制限、学校閉鎖に至るまで幅広い制限措置に直面している。いずれも同国の医療システムの崩壊を防ぎ、既に世界最高水準にある人口当たり死者数を抑制することが狙いだ。

 

スウェーデン国民は先月まで大勢が集まるスポーツや文化イベントを楽しみ、医療当局者は欧州を席巻していた感染第2波について、スウェーデンでは自主的な措置で十分避けられると主張していた。

 

数週間後、コロナによる累計死者数は人口100万人当たり約700人に到達。感染者が指数関数的に増加し、病床が満杯になる中、政府は方針転換を決定した。

 

ステファン・ロベーン首相は11月22日、テレビで国民に対して全ての不要不急の集まりを取りやめるよう熱心に訴え、9人以上の集会の禁止を発表した。その結果、映画館などの娯楽施設が閉鎖されたほか、12月7日から高校も閉鎖される。

 

「当局は他の欧州諸国と完全に異なる戦略を選択した。そのせいで国は(感染)第1波で大いに苦しんだ」。首都ストックホルムにあるカロリンスカ大学病院でコロナ感染患者を担当するピオトル・ノバク医師はこう話す。「彼らがなぜ第2波を予測できなかったのか全く理解できない」

 

スウェーデンのコロナによる累計死者数は先週、7000人を突破した。同規模の隣国であるデンマーク、フィンランド、ノルウェーの累計死者数はそれぞれ878人、415人、354人だ。隣国は第2次世界大戦以来で初めてスウェーデンとの国境閉鎖に踏み切った。

 

スウェーデンの公衆衛生当局は、国民を徐々にウイルスにさらすことで人口全体が病原体への抵抗力を獲得できるようにする「集団免疫」作戦に楽観的だったが、医療従事者の見解は決して同じではなく、自主的な措置だけではコロナウイルスは制御できないと繰り返し警告していたとノバク氏は述べた。

 

スウェーデンがそうした警告にもかかわらず長い間やり方を変えなかった理由の1つは、公衆衛生局やその他同様の国家機関がスウェーデンの法律下で高い独立性と権限を享受しているためだ。

 

スウェーデンの感染対策の対外的な顔となっていたのは、公衆衛生局のコロナ対策責任者を務めていた疫学者のアンデシュ・テグネル氏だ。

 

先週テグネル氏に取材を申し入れたが断られた。しかし同氏は以前、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)をはじめとするメディアに対し、ロックダウン(都市封鎖)は持続不可能であり、不要だと語っていた。

 

また、欧州疾病予防管理センター(ECDC)がマスクの着用を推奨する中、公衆衛生局は引き続きマスクの着用は勧めないとしている。

 

テグネル氏はここ数カ月、国民は制御した環境でウイルスにさらされることで免疫を徐々に獲得する、ワクチンは予想よりも開発に時間がかかる、欧米諸国の死亡率はいずれ収束するとの予想を示してきた。

 

しかし、欧米で最初のコロナワクチンの使用が先週、英国で許可され、スウェーデンの死亡率は隣国よりも依然として高いままであり、テグネル氏は11月下旬に感染の再拡大は同国で集団免疫獲得の「兆しが見えない」ことを示していると認めた。

 

一方、スウェーデンの放任主義的なコロナ戦略は、提唱者が予測したほどの経済的メリットをもたらさなかった。中央銀行と複数の経済機関によると、スウェーデンの上半期の国内総生産(GDP)は8.5%減少しており、失業率は2021年初めに10%近くに上昇する見通しだ。

 

レストランやホテル、小売店などのビジネスは閉鎖の波に直面している。政府が制限措置と寛大な刺激策を併用した他の欧州諸国と異なり、スウェーデン当局はそうしたビジネスに閉鎖措置を課さなかったため、比較的限られた支援しか提供していない。

 

沿岸の都市スンツバルでレストランを経営するヨナス・ハムルンドさんは「ロックダウンよりも悪い。このビジネスに従事する全ての人にとって悲惨な年だった。彼ら(政府)はわれわれを閉鎖しなかったため、大した支援は提供していない。それでも人々に『レストランには行くな』と言っている」と話す。ハムルンドさんは運営するレストラン2軒のうち1軒の閉鎖とスタッフ30人のレイオフを余儀なくされた。

 

経済学者でスウェーデン王立科学アカデミー会員のラース・カルムフォルス氏は、コロナへの警戒感と社会的な交流を避けるようにとの政府の助言が国内需要を下押しし、企業や投資家の信頼感を損なっていると指摘。「強制的な制限措置を導入した国はわれわれよりも首尾良くやっている」と述べた。(中略)

 

ロベーン首相の介入でテグネル氏は降格し、事実上、政府のコロナ対策に関する主導権を譲り渡すことになった。しかし、一部科学者は実験の失敗によって、伝統的に尊敬されてきた国内の当局者や専門家への信認が揺らいでいると話す。

 

調査会社イプソスの11月の調査によると、82%の人が感染流行が病院に与える負担を懸念していると答えた。また、当局が十分な措置を取っていないと回答した人の割合は44%と10月の31%から上昇した。しかし、過半数の人が依然、テグネル氏を支持している。

 

国内で最も人口の多いストックホルム地域の医療・病院担当責任者を務めるビョルン・エリクソン氏は「ストックホルムでは感染が拡大しており、われわれは現在、非常に深刻な状態にある」と述べた。

 

エリクソン氏は、首都の医療従事者は患者に対応しきれておらず、感染流行によるシステムの圧迫は一段と厳しい措置でしか緩和できない可能性があると述べた。

 

経済学者のカルムフォルス氏は「われわれは自分たちを非常に合理的で実際的だと考えたがっている」と指摘。しかし、当局は自らのアプローチが失敗している証拠が山積みになっているにもかかわらず変えようとしなかったとし、「私は自分の国がもう分からない」と述べた。【12月8日 WSJ】

************************

 

【「成果」を謳歌する中国・武漢】

一方、昨年春の悪夢と対照的な現在を謳歌しているのが中国・武漢。

 

****コロナ初確認の武漢の年越し、大群衆が歓声 中国***

2019年12月に新型コロナウイルスが世界で初めて検出された中国・湖北省武漢で12月31日夜、大勢が中心部に集まり、光のショーが繰り広げられるなか歓声を上げたり、空に風船を放ったりして年を越した。

 

時計塔のあるかつて税関だった建物の周辺には、密集を防ぐために警察がフェンスを設置していたが、若者を中心とする群衆が大挙して押し寄せたため、あまり効果を発揮できなかった。群衆の大半はマスクを着用していた。

 

武漢では昨年1月末から2か月以上にわたって厳しいロックダウン(都市封鎖)が実施されたが、夏以降はほぼ通常の生活に戻った。9月には学校も完全に再開した。

 

群衆の一人は、「中国は今やこの流行病をとてもよく抑え込んでいる」と語った。「しかし、まだこのウイルスに苦しんでいる国もある。他の国もなるべく早くこの困難を乗り越えてほしい」

 

中国は当初、武漢での新型ウイルス流行を隠蔽(いんぺい)し、世界的な感染拡大を引き起こしたとして各所から批判されている。中国政府は最近、新型コロナウイルス感染症の武漢起源説に疑問を呈する動きを見せている。 【1月1日 AFP】

********************

 

果敢な施策による「成果」を誇る中国ですが、あの悪夢の実態・責任について封殺し、「失敗」を認めない姿勢であることは、これまた周知のところです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする