孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  米政権交代を控えての動き 韓国籍タンカー拿捕 ウラン20%濃縮再開

2021-01-05 22:02:28 | イラン

(イラン革命防衛隊(IRGC)が拿捕した韓国船籍のタンカー。タスニム通信提供【1月5日 AFP】)

 

【イラン革命防衛隊による韓国籍タンカー拿捕 背景に凍結資産問題】

4日、中東・ホルムズ海峡近くのペルシャ湾で、イラン革命防衛隊によって韓国船籍の石油タンカー1隻が拿捕されました。

 

表向きの拿捕理由とは別に、韓国銀行にあるイラン産原油の代金がアメリカによるイラン制裁のため凍結されていることへの“揺さぶり”が背景にあると指摘されています。

 

****韓国タンカー拿捕で米制裁による資産凍結に圧力か イラン****

イラン革命防衛隊は4日、原油輸送の大動脈である中東・ホルムズ海峡近くのペルシャ湾で同日朝、韓国船籍の石油タンカー1隻を拿捕(だほ)したと発表した。タンカーをイラン南部の港に移送し、船員を拘束した。

 

タンカーは石油化学製品を積載しており、イラン側は「海洋環境に関する法律に違反した」と主張している。

 

韓国政府は付近海域にいた海軍部隊の駆逐艦をホルムズ海峡近海に急派した。韓国外務省は5日、駐韓イラン大使を呼んで抗議。船員らを速やかに解放するよう求めている。

 

近く外務省幹部らをイランに派遣するほか、崔鍾建(チェ・ジョンゴン)第1外務次官が10日にもイランを訪れ、イラン政府と協議する。

 

韓国外務省や韓米メディアによると、タンカーは韓国籍の5人を含め、ミャンマーやインドネシア、ベトナム国籍の計20人が乗船し、サウジアラビアからアラブ首長国連邦(UAE)の港に向かっていた。

 

イラン外務省は、韓国政府に「船員は安全だ」と説明。拿捕について「海洋汚染を調査せよとの(イランの)裁判所の命令に従った措置だ」と主張している。韓国にあるタンカー所属会社は「海洋汚染の可能性はない」と反論している。

 

イランと韓国をめぐっては、米国による2018年の対イラン制裁の強化に伴い、韓国の銀行にある原油の代金70億ドル(約7200億円)以上が凍結された。イラン側は5日、資産の凍結には「根拠がない」と強く反発。拿捕によって米制裁を揺さぶる狙いとの見方が浮上している。

 

イランと韓国は、凍結資産を新型コロナウイルスのワクチン代など人道目的に充て制裁を回避する案を検討していたとされ、協議を詰める方針だったという。【1月5日 産経】

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韓国のウリィ銀行とIBK企業銀行にはイランの原油輸出代金約70億ドル(約7200億円)が凍結されています。

 

この資金を、制裁対象外の人道物資である新型コロナワクチンの購入にイランが充てる形で、事実上の資産凍結を解除する方向で話が進められており、それについてアメリカも承認したとのことでが・・・。

 

****イラン 韓国内の凍結資産でコロナワクチン購入要請=米国も承認****

イランが韓国内の銀行にある凍結資産について、新型コロナウイルスのワクチン購入のために使う案を韓国政府と協議していることが5日、分かった。

韓国政府内では医薬品など人道物資を取引する場合は制裁の例外となるため、このような資金活用について米国政府の承認を受けたが、イランはまだ結論を出せずにいるという。

外交部の当局者によると、イランはワクチンを共同購入する国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」に加わるため、韓国政府に対し凍結資産をワクチン代金として入金するよう要請し、韓国政府は米財務省と協議した結果、ワクチン代金について制裁の例外とする承認を受けた。

韓国の銀行は米国の対イラン制裁に反しない範囲内で資産を移す案をイランに示したが、まだイラン側から回答を受け取っていないという。

ウォン建ての資産をCOVAXに送金するには、まず米国の銀行でドルに両替しなければならないが、イラン側は資産が再び凍結される可能性を懸念しているようだ。(後略)【1月5日 聯合ニュース】

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アメリカも承認する形で話が進んでいたなら、敢えてタンカーを拿捕するような手荒いことをする必要もないようにも思えますが、ドル両替時の資産再凍結など、話が難航している部分があったのでしょうか。

 

韓国政府は、拿捕船解放の交渉のための実務代表団をイラン現地へ派遣することを発表しています。

 

****拿捕船の解放交渉へイランに代表団派遣 外務次官も10日出発=韓国****

韓国船籍のタンカーがホルムズ海峡近くのペルシャ湾でイラン革命防衛隊に拿捕(だほ)された問題で、韓国政府が船舶と船員の早期解放に向け、交渉のための実務代表団をイラン現地へ派遣する。外交部の崔泳杉(チェ・ヨンサム)報道官が5日の定例会見で発表した。(中略)

同部は拿捕事件が起きる前から、韓国内の銀行にあるイラン中央銀行の凍結資産の問題などを協議するため崔次官のイラン訪問を推進していた。この資産問題に対するイラン政府の不満が拿捕事件の原因になった可能性も指摘されており、崔次官がイラン側と解決策を見いだせるかどうかが注目される。

一方、外交部はこの日、シャベスタリ駐韓イラン大使を呼び出して拿捕事件に対する遺憾の意を表明し、速やかな解放を改めて要請した。

崔報道官によると、シャベスタリ大使は今回の事件が単なる「技術的」な事案だとするイラン政府の立場を重ねて伝え、イランの外交当局もできる限り早期の解決に努めるとの姿勢を明確にしたという。

タンカーには船長を含む韓国人5人やミャンマー人11人、インドネシア人2人、ベトナム人2人の計20人が乗船していた。シャベスタリ氏はこの日、外交部庁舎に入る際「船員は安全か」との報道陣の質問に対し「全員安全だ」と答えた。【1月5日 聯合ニュース】

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【米政権交代が迫るなかでの、拿捕事件、更にはウラン濃縮再開問題】

拿捕事件の背景として凍結資産問題などのイラン絡みの話が浮上しているのは、更にその背景に、イラン敵視政策のトランプ政権から、話し合いの余地もあるとされるバイデン政権への、アメリカの政権交代が間近に迫っていることで、イラン側が揺さぶりをかけている・・・とも指摘されています。

 

そういう観点からの“揺さぶり”としては、ウラン20%濃縮活動再開も報じられています。

 

****イラン、ウラン濃縮度20%の作業開始 さらに核合意逸脱****

イラン政府報道官は4日、中部フォルドゥの地下施設でのウラン濃縮活動について、濃縮度を20%にする作業を再開したと述べた。同国のメヘル通信が伝えた。

報道官は「フォルドゥの濃縮施設で、数分前に濃縮度20%のウランを生産する作業を開始した」と述べた。

イランは、米国が核合意から離脱し、対イラン制裁を再開したことに対抗し、2019年からウラン濃縮などで核合意を逸脱する行動に出ている。

イランは1日に国際原子力機関(IAEA)に、フォルドゥの地下施設で最大20%にウランを濃縮する活動を再開する計画と通達していた。

核合意では、ウラン濃縮度は3.67%までとされていた。【1月4日 ロイター】

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20%まで濃縮すれば、核兵器に必要な90%濃縮は比較的容易に進むとも言われています。

 

****イランがウラン濃縮20%意向 IAEAに通知 中東の緊張激化必至****
国際原子力機関(IAEA)は1日、イランが中部フォルドゥの施設でウラン濃縮度を20%まで高める意向を伝えてきたと明らかにした。ロイター通信などが報じた。

 

20%程度まで高めれば、核兵器に使う90%以上の高濃縮ウラン製造も容易となり、中東地域の緊張激化は必至だ。

 

イラン側は時期は明言しなかったが、実際に高めた場合、2015年にイランが主要6カ国(米英仏独露中)と結んだ核合意前の水準に戻る。イランは既に合意で定められた3・67%を超えているが、これまでは4・5%程度にとどめてきた。

 

米国は18年にトランプ政権が合意から離脱したが、バイデン次期政権はイランの合意順守を条件に米国の合意復帰を検討している。

 

20%の濃縮は、イランの核科学者暗殺を受けて昨年12月にイラン国会が成立させた法律に基づく措置の一環とされる。【1月2日 毎日】

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【敵の敵は味方 利害が一致する対立国強硬派】

イラン国内的には、イランの核科学者暗殺を受けて昨年12月に反米保守強硬派主導で、核開発の拡大を義務付ける法律が成立しています。

 

****イラン国会、核開発拡大を法制化 反米保守強硬派が影響力****

イランで(12月)2日、政府に核開発の拡大を義務付ける法律が成立した。来年1月に米次期大統領に就任する見通しのバイデン前副大統領は、イランの合意順守を条件にトランプ政権が離脱した合意に復帰する意向で、イランが合意違反を加速すれば復帰が困難になる。

 

イランの核科学者ファクリザデ氏が11月下旬に暗殺され、同国指導部はイスラエルが関与したとして報復を明言。反米保守派の発言力が強まっている。

 

英BBC放送(電子版)によると、法律は核合意当事国の英仏独が合意に定められたイランとの原油や金融の取引を2カ月以内に履行しなければ、国際原子力機関(IAEA)の査察を停止するよう政府に求めた。履行しない場合、ウランの濃縮度を現状の約4・5%から20%に上げる作業も始めるよう要求した。

 

合意の規定上限は3・67%で、ウランは濃縮度90%になれば核兵器転用が可能。欧州の企業はトランプ政権が科した制裁に抵触するとしてイランとの取引を手控えてきた。

 

反米の保守強硬派が多数派のイラン国会が1日に法案を可決し、憲法違反の有無を審査する護憲評議会が2日に承認し、法律として成立した。保守穏健派のロウハニ大統領は制定に反対していた。

 

イランでは来年6月実施の大統領選で反米の保守強硬派が勝利するとの観測があり、そうなれば米・イランの関係改善は遠のく公算が大きい。【12月3日 産経】

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基本的にイランの“権利”を制約する核合意に反対する保守強硬派、アメリカとの関係改善で経済制裁緩和を目指すロウハニ大統領などの穏健派、アメリカのイラン敵視政策のトランプ政権、オバマ前政権の遺産である核合意復帰も視野に入れるバイデン新政権・・・政権交代が“あと2週間あまり”に迫ったこの時期、それぞれの立場・思惑が交錯しています。

****イランの20%濃縮を欧米批判 核合意の行方、不透明に****

イランが中部フォルドゥの地下核施設で核兵器級に近づく濃縮度20%のウラン製造に着手し、欧米などから2015年の核合意の重大な違反に当たるとして批判が相次いでいる。米次期大統領就任を確実にしたバイデン前副大統領はイランとの対話再開を模索する意向を示してきたが、先行きは不透明になってきた。

 

ロイター通信によると、米国務省の報道担当者は4日、「核による恐喝だ」とイランを非難。イスラエルのネタニヤフ首相も「イランの核兵器製造は許さない」と警告した。一方、欧州連合(EU)の欧州委員会は5日、「強い懸念」を表明しながらも合意維持の重要性を強調した。(中略)

 

濃縮度20%のウラン製造開始は4日、イラン政府報道官が明らかにした。同国原子力庁報道官は同日深夜に濃縮度が20%に達するとの見通しを示していた

 

イランは核合意の締結前、がん治療を目的に濃縮度20%のウラン製造に成功したと表明したことがある。同国のザリフ外相は4日、合意の全当事国が規定を順守すれば、イランも合意に立ち戻る意思があるとツイッターに投稿した。

 

トランプ米政権が再開した制裁でイラン経済は悪化の一途をたどっている。イランには、米政権交代をにらんで強硬姿勢を誇示し、米国に合意復帰や制裁解除を促す意図がありそうだ。欧州の当事国である英仏独に対し、合意に盛り込まれた金融・原油取引の履行を迫る狙いもうかがえる。

 

バイデン氏はイラン側の規定順守を条件に合意に復帰する意向を示してきたが、イランの弾道ミサイル開発や周辺国への影響力行使に懸念を示すなど、現行の合意内容は不十分との見方も示している。イランと米側の隔たりが広がる中、早期の関係改善は困難との見方が強まっている。【1月5日 産経】

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イラン国内の話で言えば、タンカー拿捕もウラン濃縮再開も、反米保守強硬派主導の動きのようにも思えます。

保守強硬派の立場からすれば、アメリカとの対立が先鋭化して核合意復帰が吹き飛んでしまう事態が望ましいのでしょう。

 

それではイラン国民の生活は苦しくなるばかりですが、イラン経済は革命防衛隊などの既得権益層が制裁下で利権を独占するシステムにもなっており、そういう保守・既得権益層はむしろ制裁が続く方が望ましいのでしょう。

 

そうしたイラン国内の保守強硬派の立場を強め、結果的に彼らを支援しているのが、トランプ政権・イスラエルなどの“対イラン強硬策”というようにも俯瞰できます。

 

敵の敵は味方だ・・・ということで、イラン保守強硬派とトラン政権の利害は一致します。

 

アメリカの政権交代が“あと2週間あまり”に迫ったこの時期、イランに敵対するサウジアラビア側でも動きがみられますが、そのあたりは話が長くなるので、また別機会に。

“カタール断交、解消へ サウジなどが合意 トランプ米政権の意向が背景”【1月5日 産経】

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