(【1月20日 共同】解党処分になった野党「新未来党」のタナトーン元党首(42) 新型コロナウイルスワクチンに関する発言で王室の名誉を傷つけたとして、不敬罪などの疑いで告発されました)
【「王室改革」要求の衝撃】
これまでも取り上げてきたように、タイではタブー視されていた「王室改革」を求める声が若者らを中心に一気に高まり、タイ社会に大きな衝撃を与えています。
****前例なき王室批判タイ社会に与えた衝撃とは****
タイ国民にとって、2020年は、政治をめぐり関心高く見守る動きがあった。何万人もの人々が街頭に出てきて王室に抗議するというのは、歴史上初めてのことだったからだ。
タイで王室は宗教に例えられる。国王は歴代、人々の崇拝を集める神格化された存在だ。人々は国王を「父」と呼び、信者が神を敬うのと同じように、国王を深く尊敬している。
王室はタイを外部の脅威から守り、植民地化から救ってきたと広く信じられてきている。多くの人はタイが独立を維持できたのは王室のお陰だと考えている。
そして、そのような脅威がなくなった後も、国王は国民の生活の質を高めるために努力していると信じる人が大半を占めている。それゆえ、タイで王室は非常に尊敬されなければならず、国王を悪く考えることは恩知らずと受け止められるのだ。
王室が敬われるのには、年功序列を重んじるタイの文化とも大きく関係している。王室は序列の最高位にある。このような背景もあり、王室支持者は「善良な人」であり、王室を疑う人は「悪い人」と考える人が多い。
そのため、学生らが街頭に出てきて、国王を名指しし、直接かつ公然と批判したことに、タイ社会は衝撃を受けた。仮に陰で国王を批判することがあろうとも、匿名で行うのが普通だ。
学生らが国王に対してあのように大胆に意見をぶつけた時、タイメディアは報道することをためらっていた。国王の名誉を傷つける報道を繰り返すと、記者も罪に問われることがあるからだ。
一般の人にとっては、2つの意味で衝撃だった。タイでは王室を侮辱すれば不敬罪で罰せられ、最長で15年の禁錮刑が科される。それにもかかわらず、学生らが罪に問われることを恐れていないこと。
また、王室改革を求める声明を出したリーダー格のメンバーが学生らに称賛され、王室を明確に批判する、さらに大きな抗議活動につながったからだ。
君主制を支持する王党派にとっても、学生らがタブーをおかしたことは、さらに大きな衝撃をもって受け止められた。王党派の視点では、王室は常に崇拝されなければならない。王室に対する感謝の気持ちは計り知れず、王室を軽視することは罪であり、不幸をもたらすと信じている。
仮に人々が王室に不満を持ったとしても、個人的に、あるいは密かに文句を言えば良いという考えを持っている。このため、学生らが王室を表だって批判していることにショックを受けている。また、学生らの行動は国王から王位を剥奪しタイから追い出す「革命」と見なし、深く動揺している人たちもいる。
一方、王室の問題がようやく公の場で取り上げられたと喜び、デモについて好意的に受け取る人たちも少なからずいる。それは、王室改革が民主化など、タイが抱える多くの政治的問題の解決に役立つ、本質的なステップと考えているからだ。
このように「王室改革」を求める動きは批判的、好意的と視点は違えど、タイの国民の間では大きな衝撃をもって受け止められた。
ただ、国民の間で「王室への思い」が様々あるだけに、合致点を見いだす道のりは決して平たんではない。国民を巻き込み、大きく動き出した流れがどのくらい続くのか、そしてどのように終わるのか。現時点でその道筋は見通せない。【1月2日 日テレNEWS24】
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【要求背後に「タイ式民主主義」への批判】
若者らが「王室改革」を正面きってとりあげるようになったのは、王室の権威で軍部クーデターを正当化してきた「タイ式民主主義」への問題提起であり、また、ワチラロンコン国王の“国父とは言い難い”ような行動がこうした動きに拍車をかけています。
****異例の王室批判 タイ反政府デモの行方****
「一線を越えた」。タイで続く反政府デモを取材中に感じたことだ。デモを主導する学生らが踏み込んだのは、これまでタブーとされてきた「タイの王室」。この王室の改革を求めたのだ。
タイで国王は「神聖不可侵」と憲法に明記されている。刑法に「不敬罪」があり、王室を侮辱すれば最長で15年の禁錮刑が科される。その絶対的な権威に対して批判の声を上げる学生らの姿は、タイ社会に大きな波紋を広げている。
■タブーの王室改革に踏み込んだ背景
当初、学生らが求めていたのは、軍政の流れをくむプラユット政権の退陣と非民主的な憲法の改正、民主活動家への抑圧をやめることだった。
いずれの要求も根底にあるのは、軍をバックに強権的な統治を続ける政府への反発だ。デモのシンボルとなった3本指を掲げるジェスチャーは、“独裁への抵抗”を示すサインだ。「タイはまだ、真の民主主義を実現できていない」。デモの参加者が口々にした言葉だ。
「全員がリーダー」を合言葉に、複数の学生グループが緩やかに連携しながら行われているデモ。SNSを駆使して警察の取り締まりをかいくぐる手法はイマドキだ。
若者の発想に驚いたことがある。デモが予定されていたある日、主催グループがSNSに「ビッグサプライズを用意しているから駅に集合」と投稿した。現場に着くとスマートフォンの画面を見つめる学生らの姿が。いったい何が起きるのか―。
予定時間になったとき、SNSに投稿されたのは「デモは行わない」。「何もしないことがビッグサプライズ」というのだ。厳戒態勢をとった警察を手玉にとるようなやり方は若者ならではだ。
大規模なデモが始まって1か月ほどがたった2020年8月。タイ社会に衝撃が走った。デモ隊のリーダー格で人権派弁護士のアノン氏が、批判の矛先を王室に向け、公然と改革を訴えたからだ。一線を越えた瞬間だった。
その後のデモでは、王室に対して改革を求める「10項目の要求」が明らかにされた。そこには不敬罪の廃止や王室関連予算の削減、国王によるクーデターの承認の禁止などが含まれている。先鋭化する学生らのデモに、警察が放水車や催涙ガスを使うなど、緊張の度合いは増している。
ただ、王室改革を求める声は突然上がったのではない。これまでの要求の中に、それは暗に含まれていた。学生らは当初から、王室を改革しなければ「真の民主主義」は実現できないと感じていた。その理由は、「タイ式民主主義」と呼ばれる歴史と、現在のワチラロンコン国王の行動に深く関わっている。
タイではこれまで、政治が混乱するたびに軍がクーデターを起こし、新たな政権を時の国王が承認してきた。これまでに起きたクーデターは約20回。武力で権力を奪う非民主的な手段だが、タイでは国王の権威のもと「タイ式民主主義」として容認されてきた。学生らは国王によるクーデターの承認が、真の民主化を妨げる根本にあると考えている。
現在のワチラロンコン国王は2016年の即位後、巨額の王室資産を個人の名義に移したり、軍の精鋭部隊を直轄化したり、権限を強化してきた。またドイツに長期間滞在を続け、タイに戻ることはごくまれだった。
王室改革を初めて訴えた弁護士のアノン氏は、「権力の拡大は民主主義の許す範囲を超えている」と批判する。去年、新型コロナウイルスの感染が拡大する中も、ワチラロンコン国王がドイツに滞在を続け、奔放な生活を送っていると報じられたことで、批判の声が高まることになった。
しかしながら、タイには高齢者を中心に王室を慕う人たちが大勢いることも事実だ。君主制を支持する王党派のグループも各地で集会を開き、「王室を守らなければいけない」と訴えている。
世代間の分断をも生んでいる王室をめぐる議論。賛否を明らかにしていない中間層も大勢いるとみられ、学生らの訴えは広がりに欠ける。このデモは今後、どうなるのか。
■タブーに踏み込んだ反政府デモの行方
これまでのところ、デモを主導する学生らの要求はいずれも実現していない。振り上げた拳を下ろせない状況に、学生らは「2021年はさらに激しさを増して戻ってくる」と予告している。軍にクーデターの口実を与えないよう非暴力的なデモを意識している学生らだが、警察や王党派と不測の事態へ発展する懸念も残る。
今後につながる動きとして注目したいのが、国会が模索している「和解委員会」の設置だ。与野党の議員のほか、学生ら反体制派や王党派、有識者が参加して、問題解決に向け協議する場だ。デモの沈静化を図りたいプラユット首相も設置に同意していて、協議結果には応じるものとみられる。
いまのところ、学生らは問題の先送りだとして、代表を送らない姿勢を崩していない。国のあり方の根本をめぐり対立する者同士が、意見を一致させるのは容易ではないだろう。しかし、民主主義を追求するのであれば、話し合いの場にこそ、その答えがあるのではないだろうか。
“真の民主化を”という思いで始まった反政府デモ。今後、軟着陸するかたちで決着をみるのか、あるいはさらに激化していくのか。その行方が注目される。【1月2日 日テレNEWS24】
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【不敬罪適用の強硬策に転じた政権側】
“世代間の分断をも生んでいる王室をめぐる議論。賛否を明らかにしていない中間層も大勢いるとみられ、学生らの訴えは広がりに欠ける。このデモは今後、どうなるのか。”・・・・出口を模索する状況で、政権・当局側が先に「不敬罪適用復活」という形で急な動きをみせています。
****王室への不敬容疑でデモ参加の大学生を逮捕 タイ当局、方針を転換****
若者らによる反体制活動が続くタイで、警察は13日、王室を中傷した疑いで男子大学生1人を不敬容疑で逮捕した。地元メディアによると、大学生はデモにも複数回参加していたという。
タイ当局は、ワチラロンコン国王の意向で2年以上不敬罪の適用を停止していたが、反体制活動を抑え込むため、方針を転換した。
逮捕されたのは21歳の男子大学生で、バンコク近郊のパトゥムタニ県で10日、道路脇に掲げられていた王族の肖像画にスプレーで抗議の言葉を書き込んだとされる。男子大学生は14日に一時保釈され、報道陣に「どんな脅しがあっても、政府と闘い続ける」と話した。
不敬罪は有罪になれば、最長15年の禁錮刑が科される。当局は2020年7月からの反体制デモ激化を受けて不敬罪の適用再開を示唆。11月下旬からデモ隊40人以上に出頭を命じるなど、捜査を本格化させていた。
政府は、新型コロナウイルスの再拡大を受けて12月下旬に集会の開催を禁止。デモ隊は最近、歩道橋や商業施設に「不敬罪の廃止を」などと記した垂れ幕を設置するなどの活動を続けている。【1月15日 毎日】
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****王室批判をネット投稿し不敬罪 タイの女性、禁錮43年****
タイの首都バンコクの刑事裁判所は19日、王室を批判する内容をユーチューブなどに繰り返し投稿したとして、元公務員の60代の女性に対し、不敬罪で禁錮43年6カ月を言い渡した。弁護士団体によると、不敬罪の量刑としてこれまでで最も重いという。
タイでは昨年来、不敬罪の廃止など王室改革を求めるデモが続いており、反発がさらに強まりそうだ。
弁護士団体や地元メディアによると、女性は別の人がつくった王室に批判的な内容の音声などをユーチューブやフェイスブックに投稿し、軍事政権下の2015年に逮捕された。
裁判所は29件を有罪と認定し、1件につき3年、計87年の禁錮刑を宣告した後、女性が罪を認めたことを理由に量刑を半分に減らした。【1月19日 朝日】
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政権側は、「学生らの訴えは広がりに欠ける」状況で、力での封じ込めを選択したようです。
学生らの訴えがどこまで国民に広がっているかを検証するものとして注目された昨年12月20日に投開票された地方選で、反体制デモに参加する若者から人気が高い民主派野党系団体が支持した42県の首長候補は全敗。52県に擁立した1000人超の議員候補も、当選は18県の55人にとどまりました。
運動の中核を担った解党された野党・新未来党のタナトーン元党首は選挙後の会見で「支援者におわびする。王室改革を掲げていることを不快に思う人がいるのは否定できない」と謝罪することにも。
【矛先はタナトーン氏にも】
こうした状況を受けて、政権側の矛先は一気に野党勢力の「中核」であるタナトーン氏に及んでいます。
****不敬罪で元野党党首告発=ワクチン政策に疑問呈す―タイ****
タイ政府は20日、解党された野党・新未来党のタナトーン元党首が新型コロナウイルスワクチンに関する発言で王室の名誉を傷つけたとして、不敬罪などの疑いで告発した。不敬罪で有罪の場合、最高で禁錮15年が科される。
タイ政府は英製薬大手アストラゼネカとの間で、ワチラロンコン国王が株主の医薬品製造大手サイアム・バイオサイエンスが技術供与を受け、ワクチンを生産することで合意。タナトーン氏はサイアム社の選定に疑問を呈した。
政府高官は「タナトーン氏は事実をねじ曲げている」と告発の理由を説明。
東南アジア諸国連合(ASEAN)人権議員連盟は「あらゆる批判を抑え込むため、不敬罪を武器として利用した新たな実例だ」と告発を非難する声明を出した。【1月20日 時事】
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政権側の「不敬罪を使った力による封じ込め」が奏功するのか、あるいは、そうした強硬策が不満爆発を招くのか・・・現段階では政権側ペースで推移しているようにも見えます。