孤帆の遠影碧空に尽き

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中国  巨大ネット企業への管理を強化する習近平指導部 「消息不明」?アリババ創業者の馬雲氏

2021-01-17 23:25:03 | 中国

(【1月14日 東洋経済online】 「消息不明」とも言われているアリババ創業者の馬雲(ジャックーマー)氏)

 

【中国依存を強める世界経済】

中国の政治体制への評価は別として、中国経済が新型コロナ禍に苦しむ世界経済を尻目にいち早く回復し、将来に向けて一段とその存在感を大きくしていることは、1月13日ブログ“中国  コロナパンデミックで「GDP世界最大」への道を加速 ワクチン外交で信頼獲得も目指す”でも取り上げたばかりです。

 

新型コロナを一定に制御した感のある中国は、これまでの予想より5年早く、2028年にはGDPでアメリカを追い抜く・・・・との調査結果がイギリスの民間調査機関から発表されたことも、そのなかで紹介しました。

 

****中国経済の復活鮮明、欧米の足踏み尻目に快走****

中国は昨年、世界の主要国で唯一プラス成長を確保したと見られている

 

新型コロナウイルス禍に揺れた2020年、中国経済は多くの面で年初頭よりも力強さを増して終えた。米国が長らく君臨してきた世界経済の頂点に向け、中国はその歩みを加速させている。

 

中国は昨年、世界の主要国で唯一プラス成長を確保したと見られている。欧米諸国の経済がコロナから完全復活するのはワクチン普及後になる公算が大きい中、中国は確実に米国との差を縮めた。

 

中国は国際貿易での役割を拡大し、世界の工場としての地位も強化した。米国が数年にわたり、中国以外に資金を投じるよう企業に働きかけているにもかかわらずだ。

 

中国の個人消費も、コロナ禍からの早期回復を追い風に復調が続いており、世界的に企業利益のけん引役となっている。

 

中国はまた、国際金融拠点としての地位も固めた。20年には新規株式公開(IPO)や重複上場が記録的な活況を呈し、巨額の資金が流入した。

 

世界経済は成長エンジンとして、中国への依存をかつてないほど強めている。ムーディーズ・アナリティックスによると、20年の世界GDPに中国が占める比率(インフレ調整後)は推定16.8%。米中が貿易戦争に突入する前だった16年の14.2%から大きく上昇している。米国の比率は22.2%と、16年の22.3%からほぼ変わらずだ。

 

世界GDPに占める中国の比率は前年比では1.1ポイントの上昇で、年間の伸びとしては少なくとも1970年代以来の大きさだ。

 

中国は18日に10-12月期(第4四半期)のGDP統計を公表する予定で、中国経済の台頭を裏付けそうだ。

 

こうした実績は、中国がコロナ封じ込めと企業の稼働再開を成功させたことの証しでもある。中国が実施した景気刺激策は、工場の稼働再開と小規模事業の破綻回避に特化し、消費者へ直接的な支援はほとんど行わなかった。また、対GDP比でみた規模は米国を下回る。

 

だが、中国のこうした戦略は奏功した。景気が低迷する中でも、米国の個人消費が非常に活発だったためだ。これが昨年を通じて、中国の雇用と個人消費を支えた。

 

コロナ禍による混乱で、サプライチェーン(供給網)の多角化が求められる中でも、外資系企業が中国から生産拠点をなかなか移転できないことも、中国には恩恵となった。

 

企業にとっては、他のサプライヤーの多くが近隣に位置しているため、供給網全体を失うことによる影響を考慮する必要がある。また、いかに中国が頼りになる存在だったかを、生産拠点の移転で認識するような事態も避けたいところだ。

 

HSBCホールディングスが世界の企業1100社余りを対象に行った11月の調査によると、75%の企業(米企業の70%を含む)が向こう2年に中国で供給網を拡大するとの見方を示した。

 

中国以外の国・地域にとっては、中国の成功はもろ刃の剣だろう。資源や自動車、高級品などを中国向けに販売する企業にとっては、他の国や地域での売上高が落ち込む中で、中国の需要は天の恵みのような存在だ。

 

中国経済が再び勢いを盛り返していることで、企業は結果的に中国傾斜を強めているが、中国指導部は国内企業の育成を優先し、外資依存を低減させる方針を明言している。

 

トランプ政権が対中関税を発動したのは、世界経済の不均衡是正と米中間の公正な競争環境を確保することが狙いだった。

 

しかし、調査会社キャピタル・エコノミクスによると、中国は20年、世界のどの国でも前例のない、史上最大の経常黒字を計上する見通しだ。

 

ただ中国も、高齢化や人件費高騰など、引き続き大きな課題に直面する。足元で国有企業のデフォルト(債務不履行)が相次いでいることで、長年くすぶっている過剰債務の懸念も再び高まっている。また今年、世界全体で景気が回復に向かえば、中国製造業の勢いは後退するかもしれない。

 

国家主導の経済モデルは、中国の将来に極めて重要だとされる民間部門の技術革新を抑制するとの指摘も聞かれる。

 

だが、コロナ流行以降も、中国経済は底堅さを維持しており、中国指導部は、とりわけ危機時においては、西側の民主主義的な資本主義よりも自国モデルの方が信頼できるとの確信を強めている。

 

それでも、米国は経済規模で依然世界トップだ。世界最大の消費者市場を抱え、生活の質もはるかに高い。重要度で人民元をはるかにしのぐドルという基軸通貨も有する。米国のGDPは中国を50%上回る。

 

一方で、米国は極度の政治的な緊張に見舞われている。一部の予想によると、今年の米成長率は3~4%程度で、下期まで19年の水準には戻らない見通しだ。

 

これに対し、モルガン・スタンレーの推計では、中国の今年の成長率は最大9%と見込まれている。

 

エコノミストはこれまで、人件費の高騰や債務の積み上がり、生産性の低下が世界の工場としての地位を脅かすと警告してきた。貿易戦争や関税引き上げも、中国の優位性を弱めた。

 

しかし、世界の財輸出に占める中国の割合はなお伸びている。入手可能な直近データである11月は15.4%で、コロナの影響が表面化する前である2019年終盤の13.7%から上昇している(オックスフォード・エコノミクス調べ)。

 

背景には、中国がパンデミック(世界的大流行)で需要が急増したマスクなど個人用防護具(PPE)や人工呼吸器の輸出へと素早くかじを切ったことがある。

 

中国は強力に介入してコロナを封じ込め、事業の稼働継続を後押しした。国の大部分を閉鎖し、長期にわたり外出を禁じるなど、自由な民主国家では実施が難しい措置を強行した。

 

また、国有銀行に対して、打撃を受けた企業や家計の債務返済を猶予するとともに、小規模事業に通常よりも低利で融資するよう指示。地方当局は工場主に対して、安全対策で厳格な基準を満たすよう義務づけた。

 

広東省・仏山など地方政府の多くは、コロナ感染が落ち着くと、シャトルバスを派遣して、足止めに遭っていた出稼ぎ労働者を工場に復帰させた。

 

また昨年には、中国に多額の資金が流入。国内金融拠点の構築という重要な長期目標に向かって弾みをつけた。リフィニティブによると、香港を含む中国市場は、世界の新規株式公開(IPO)の43%を占めた。(後略)【1月14日 WSJ】

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これまで、日本国内では「中国経済崩壊」が繰り返し主張され、その成長の限界も指摘されて、アメリカ・トランプ政権が「貿易戦争」を仕掛けたにもかかわらず、すくなくとも現時点では、世界経済はこれまで以上に中国経済依存を強めており、「中国指導部は、とりわけ危機時においては、西側の民主主義的な資本主義よりも自国モデルの方が信頼できるとの確信を強めている」という状況です。

 

【アリババなど巨大ネット企業への管理を強化する習近平指導部】

そうしたなかで、上記記事でも将来的懸念事項としてあげられている「国家主導の経済モデルは、中国の将来に極めて重要だとされる民間部門の技術革新を抑制するとの指摘も聞かれる。」ということにも関係することですが、習近平指導部は経済や社会で存在感を増す民間巨大ネット企業への管理を強化していると指摘されています。

 

****中国当局、独占行為の疑いでアリババ立件へ調査 習指導部が巨大ネット企業の管理強化****

中国当局は24日、中国インターネット通販最大手のアリババ集団について、立件に向けて調査を始めたと発表した。ネット通販市場で独占行為があった疑い。同社の傘下企業に指導を行うことも同日表明しており、習近平指導部はアリババなど巨大ネット企業への統制を一気に強めている。

 

国家市場監督管理総局の発表によると、アリババは自社の通販サイトで商品を販売する業者に対し、競合他社のサイトに出店しないよう迫る「二者択一」などを行った疑いがある。アリババは同日、「積極的に調査に協力する。現時点で業務はすべて正常に行われている」との声明を出した。

 

中国人民銀行(中央銀行)なども同日、アリババ傘下で電子決済サービス「支付宝(アリペイ)」を運営する「アント・グループ」に対し、「公平な競争や消費者の合法的な権益の保護」などの観点から近く指導を行うと発表。中国当局によるアリババへの圧力が一気に高まっている。

 

中国共産党と政府が今月中旬に開いた来年の経済政策の基本方針を策定する重要会議では、国内ネット企業に対する規制強化を進める方針を表明している。

 

習指導部は、中国の経済や社会で存在感を増す国内の巨大ネット企業への警戒を強めている。11月には、ネット企業の独占的な行為を規制する新たな指針の草案を発表したほか、アント・グループの幹部らが当局の指導を受けたことをきっかけに株式上場の延期に追い込まれた。

 

中国政府は今月14日には、アリババと騰訊控股(テンセント)のそれぞれの傘下企業などに対し、独占禁止法違反で罰金を科すことを決めている。今後も、巨大ネット企業に対する圧力は、さまざまな形で強まっていくとみられる。【12月24日 産経】

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しかし、習近平指導部が巨大国有企業を強化してきていることを考えれば、「公平な競争や消費者の合法的な権益の保護」云々が「口実」であることは明らかで、共産党のコントロールが及ぼない存在が生まれつつあることへの警戒感からの規制強化と推測されます。

 

****アリババ攻撃は習政権の危険な賭け****

おそらくは正当な動きだった。中国政府が昨年12月、独占禁止法違反の疑いでeコマース(電子商取引)大手アリババの調査に着手した。アリババの市場シェアは明らかに支配的で、独占的慣行が存在する。

 

だがもっと独占的な企業もあるのに、なぜアリババが標的にされているのか。

 

同社の違反行為の1つとされるのが、傘下のフィンテック大手アント・グループの金融サービスの拡大だ。アントが運営する支付宝(アリペイ)は、世界最大の月間アクティブユーザー数約7億3000万人を擁する電子決済アプリのほか、投資や融資サービスも提供する。

 

アントは昨年11月初旬、史上最大となる約350億ドル規模のIPO(新規株式公開)を予定していた。だが直前になって、中国当局はIPOを延期。習近平国家主席直々の指示だったという。

 

習政権は、アントが電子決済分野に専念することを望んでいるようだ。規制当局は今回の決定を正当化する理由を列挙しているが、真の理由はそこにない。

 

電子決済サービスは利益率が低く、国有金融機関はどこも関心を持たない。対照的に、金融サービスは非常に儲けが大きく、既存の国有企業(SOE)の縄張りなのだ。

 

中国共産党が独占や寡占の解消に真剣に取り組むつもりなら、国有企業も標的にするはずだ。ところが、独禁法違反の疑いで調査を始めるどころか、中国政府は最近になって国有企業の「大型合併」を推進し、その市場支配力を増強している。

 

理由は単純だ。国有企業の成功は、共産党にとって経済・政治両面で利益になる。

いわゆる中国的社会主義の「重要材料で政治的基盤」である国有企業を「強く、よりよく、より大いさく」すると、習は昨年4月に明言した。

 

民間企業による国有企業のシェア切り崩しを許せば、主要経済部門の国家による管理体制が必然的に弱体化するだけでなく、民間企業が共産党に挑戦する道を開くことにもなる。アリババは最も成功した(最も革新的な)企業の1つ。習の目には、共産党の政治支配に対する脅威の象徴と映る。

 

政権に取り入り、忠誠を示すべく、中国実業界の大物たちが骨を折ってきたのは確かだ。アリババ創業者の馬雲(ジャックーマー)は共産党に入党し、2013年には1989年の天安門事件について当時の政府は「正しい決断」をしたと発言した。

 

だが、中国の民間部門トップが体制の真のインサイダーになることはない。共産党にとって彼らは単に、党の正当な所有物である富の一時的な管理者だ。

 

馬は昨年10月末以降、公の場から姿を消している。批判派に言わせれば、今回の一件は過去の発言や事業慣行が招いた当然の報いかもしれない。

 

とはいえ、規制当局の追及がアリババで終わる可能性は低い。標的にされているのは民間部門そのものだ。これは中国の経済的繁栄の行方、そして共産党自体にとって重大な意味を持つ。

 

数々の問題はあっても、民間企業は中国経済の最も活力あるプレーヤーだ。民間企業だけを取り締まれば、民間部門の信頼は低下し、中国経済は生産性も革新性も効率性も下がるだろう。GDP成長率が低迷し、繁栄を約束することで成り立ってきた一党支配体制の正統性はむしばまれるはずだ。

 

経済への統制を強化して民間部門を支配すれば、短期的に共産党の政治的安定を強化できるという習政権の判断はたぶん正しい。

 

だが長期的に見れば、「独占禁止」の最大の犠牲者は、規制によって守ろうとしている独占状態、すなわち共産党が握る政治権力そのものかもしれない。【1月19日号 Newsweek日本語版】

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【消息不明とも言われるアリババ創業者の馬雲氏】

消息不明になっているアリババ創業者の馬雲(ジャックーマー)の発言で、特に問題視されているのが昨年10月の発言。

 

*****ジャック・マーは中国当局に「消された」のか? 中国を逃れた不動産王の予言が話題に*****

(中略)マーが「行方不明」になっていることには、彼が2020年10月に上海での演説で、中国の金融規制当局を「老人クラブ」と批判したことが関係しているのではないかと言われている。

 

彼は上海の会合で、「現在の金融システムは産業化時代の遺物だ」と批判。「私たちは次の世代と若い人々のために、新しいシステムをつくらなければならない。現在のシステムの改革をすべきだ」と主張した。(後略)【1月17日 PRESIDENT Online

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“民間企業による国有企業のシェア切り崩しを許せば、主要経済部門の国家による管理体制が必然的に弱体化するだけでなく、民間企業が共産党に挑戦する道を開くことにもなる。アリババは最も成功した(最も革新的な)企業の1つ。習の目には、共産党の政治支配に対する脅威の象徴と映る。”という認識のもとで、上記のような神経を逆なでする発言がきっかけとなり、「消息不明」状態に・・・・ということで注目されています。

 

ただ、馬氏は2019年9月にアリババ会長を退いて以降、同年11月のアリババ香港上場セレモニーも欠席するなど、公的活動は減っており、SNSの投稿も、もともと少なかったことや、政策批判的な発言は以前からもあったことで今回が初めてではないことなどから、最近の「沈黙」はさほど不自然ではない・・・国際的な「騒動」が起きるまでは、中国国内的にはそのように見られて問題視されていなかったとも。【1月14日 東洋経済onlineより】

 

もっとも、これだけ騒ぎになった現時点で何も発言等がないのは不自然にも思われますが・・・。

 

よくわからない馬氏のことはともかく、習近平指導部の最近の巨大ネット企業への管理強化は、短期的に共産党の政治的安定を強化できても、長期的には金の卵を産むガチョウを殺すことにもなりかねません。

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