孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウガンダ  大統領選挙に挑む人気ミュージシャン出身の「ボビ・ワイン」 繰り返される当局の妨害

2021-01-01 22:09:22 | アフリカ

(「ピープル・パワー」をスローガンに掲げて活動するボビ・ワイン【2020年5月6日 Rolling Stone】)

 

【30年超の長期政権 権力乱用・腐敗も横行】

今年最初のブログ記事は、日本では関心を持つ人も少ない東アフリカ・ウガンダの話。

ウガンダの場所も、私を含めて多くの人には定かでないですが、スーダンの南、ケニアの西、コンゴの東に位置している内陸国です。

 

そのウガンダでは30年を超えるムセベニ大統領の長期政権が続いています。

 

こうした長期政権(誕生時には、それなりの「改革」「革命」の意思があったのでしょうが)は、権力と結びついた勢力がわが物顔にふるまい、腐敗が蔓延するというのが通り相場ですが、ウガンダも例外ではないようです。ウガンダ社会の雰囲気の一端を伝える記事が下。

 

****外出禁止令違反の女性に「悪質拷問」、警官らに拘留命令 ウガンダ****

ウガンダの裁判所は7日、新型コロナウイルス対策の夜間外出禁止令を破った罰として局部に泥をこすり付けるよう女性数十人に強要した警官10人に対し、「悪質な拷問」を行ったとして来月7日までの拘留を命じた。

 

事件は外出禁止令が発効した日の翌日の2日、対南スーダン国境沿いの北部の町で起きた。

 

警察は6日、「夜間外出禁止令と公共の場への立ち入りの禁止に従わなかったとされる複数の女性と男性に対し、悪質な拷問があったとの疑惑」について、軍と共同捜査を開始したと発表。

 

警察によると、女性31人と男性7人を追い散らすため、治安部隊は「強引な手段」を用いたという。ウガンダ・ラジオ・ネットワークは女性らについて、性労働者だと伝えている。

 

また、警察は「巡回部隊はドアを蹴り開け、建物内にいた人たちを外に引きずり出した。中には泥だらけの地面に転倒した人もおり、その際に複数の女性と男性が負傷した」と説明している。

 

建物の女主人が地元記者に語ったところによると、警官たちは女性らに泥の中で転がるように強要し、無理やり局部に泥をこすり付けさせたという。警察によると男性7人も治安部隊から暴行を受け、うち1人は「深刻なけが」で軍病院に入院しているという。 【4月8日 AFP】
*******************

 

こうした「事件」が表面化するのは、たまたま何らかの事情があったからで、普通は日常的出来事として全く気にもされないのでしょう。

 

【1月14日に大統領・国会議員選挙 繰り返される対立野党候補の逮捕 多数の死者を出す騒乱も】

そのウガンダで、1月14日に大統領・国会議員選挙が行われます。

 

****大統領選、5期目を目指す現職が優勢、抗議デモでは死傷者も****

ウガンダでは2021年1月14日に、5年ぶりとなる大統領・国会議員選挙が行われる。

 

大統領選では、1986年から政権を担う現職のウェリ・カグタ・ムセベニ氏が優勢と現地ではみられているが、野党候補者が選挙活動中に身柄を拘束されたことで抗議デモが起こり、死傷者が出る事態となっている。

 

大統領選には、与党の国民抵抗運動(NRM)を率いるムセベニ氏を含む11人が立候補している。

 

現地メディアは11月18日、野党の最大勢力である国家統一プラットフォーム(NUP)のボビ・ワインことロバート・キャグラニ氏の身柄が拘束されたと報じた。2日後には釈放されたものの、抗議した若者と警察官が衝突し、少なくとも37人が死亡したと報じられた(11月20日AFP通信)。EUは、ウガンダ政府が度重なる勧告に対応しないことを理由に、選挙監視団を派遣しないと述べている(11月16日ロイター)。

 

ウガンダでは2005年、大統領の3選禁止規定が廃止され、ムセベニ氏は30年を超える長期政権となっている。1月の選挙で再選を果たせば、5期目となる。

 

ウガンダ統計局によると、全国の失業率は9.2%、特に18~30歳の失業率は13.3%と高い。また、ウガンダの新型コロナウイルス感染者数は3万1,384人で、東アフリカではケニアに次ぐ規模で拡大している(12月22日保健省)。

 

過去には中東・北アフリカで、不満を募らせた若者が実施したデモを契機に長期政権が倒れたケースもあり、ウガンダ国民が現職大統領をどう評価するか、注目が集まる。【12月25日 JETRO】

*********************

 

“EUは、ウガンダ政府が度重なる勧告に対応しないことを理由に、選挙監視団を派遣しないと述べている”・・・それでは、政権側の“やりたい放題”“何でもあり”になってしまいそうですが・・・

 

前回2016年選挙では、対立候補は選挙当日に拘束されてしまいました。

 

****ウガンダ大統領選 就任30年の現職が再選、野党から批判も****

東アフリカ・ウガンダの選挙管理委員会は22日までに、大統領選の投票結果を発表し、現職のヨウェリ・カグタ・ムセベニ氏(71)が得票率62%で当選したと発表した。野党候補のキザ・ベシジェ氏(59)の得票率は34%だった。

 

一方、ベシジェ氏が所属する民主変革フォーラムは選挙結果を受け入れておらず、独立機関による選挙戦の監査を求めている。

 

選管によれば、投票率は63%だった。

 

ベシジェ氏は自宅軟禁下にあり、誰も面会を許されていないという。

警察によれば、ベシジェ氏の党の関係者6人も「予防検束」された。警察の広報によれば、野党によって集計された正式でない開票結果を発表しようとしたためだという。

 

ムセベニ氏は1986年から大統領の職にある。2005年には憲法が改正され、任期の延長が認められた。【2016年2月22日 CNN】

**********************

 

昨年11月におきた野党候補支持者と警官の衝突を伝える記事が下。

 

****ウガンダで警察とデモ隊衝突、28人死亡 野党党首逮捕に抗議****

東アフリカのウガンダで、野党党首ボビ・ワイン氏の逮捕をきっかけに発生した抗議活動で、治安部隊と支持者らの激しい衝突が続いている。警察は20日、衝突による死者が28人に達したと発表した。逮捕者は375人。

 

ワイン氏の本名はロバート・キャグラニーで、人気ミュージシャンから政治家に転身した。同氏は来年1月14日の大統領選に立候補を表明している。

 

ワイン氏は18日、選挙集会の前に逮捕された。 【2020年11月20日 AFP】

***********************

 

その後の続報では、死者は45人とも。

今回選挙では、上記ミュージシャン出身のボビ・ワイン氏の戦いぶりが注目されていますが、年末、再び逮捕されたようです。

 

****ウガンダ大統領選直前に野党候補再び逮捕、陣営メンバーも 関係者****

ウガンダ大統領選の野党候補ロバート・キャグラニ氏が12月30日、同国中部で選挙陣営のメンバーとともに逮捕された。公式ツイッター上で関係者が明らかにした。同氏は10月にも新型コロナウイルス対策の規則違反を理由に逮捕されていた。

 

同氏はウガンダの有名ポップ歌手で「ボビ・ワイン」の名で知られる。2017年に政界入りし、19年に今回の大統領選への立候補を正式に表明した。

 

関係者はツイートで「ボビ・ワインと選挙陣営の全メンバーがカランガラで逮捕された。メディアは遮断された」と述べた。

 

今回の逮捕に関してこれ以上の詳細は明らかになっていない。

 

ワイン氏は今月14日に行われる大統領選で、30年以上にわたり政権の座にある現職のムセベニ大統領に挑む。

 

ウガンダでは昨年11月、選挙集会で新型コロナウイルス対策の規則に違反したとしてワイン氏が前月に逮捕されたことをきっかけに抗議デモが発生し、少なくとも45人が死亡。これ以降、ワイン氏はムセベニ氏を人権侵害に関与した独裁者と批判してきた。

 

ワイン氏によると、12月27日には軍警察のトラックが故意に同氏のボディーガードをひいて死亡させた。このボディーガードはジャーナリストを病院に連れて行くところだった。ウガンダ軍報道官は、ボディーガードを狙ったわけではないとしている。

 

ワイン氏はCNNとの先月のインタビューで、ここ数週間で2回殺されかけたと説明。選挙実施を前にウガンダ政府の責任を問うよう国際社会に促した。

 

当局は新型コロナウイルス拡散の抑制には行動制限が必要だとしているものの、これについて野党関係者やその支持者からは、選挙活動を制限するための口実との指摘が出ている。

 

国連の人権専門家は12月29日、大統領選を前にした暴力の発生に深刻な懸念を表明。当局に対して「野党勢力や市民社会のリーダー、人権派の逮捕、拘束、司法上の嫌がらせをやめる」よう求めた。【1月1日 CNN】

********************

 

これまでも逮捕され暴力を受けることがあったとボビ・ワインは主張しています。

 

****<ウガンダ>大統領批判の議員を拷問か 反逆罪で訴追****

東アフリカのウガンダで32年間権力の座にある大統領を批判していた人気ミュージシャンの議員が反逆罪で訴追され、支持する若者らの間で反発が強まっている。議員は3日、「兵士から激しい暴行、拷問を受けた」と明らかにした。

 

レゲエ歌手のボビ・ワインことチャグラニ・センタム議員(36)は8月13日、ムセベニ大統領(74)の車列が投石された事件に関与したとして逮捕された。

 

弁護士によると、拘留中に拷問を受けたとされ、支持者らの抗議行動に発展。海外の有名ミュージシャンらの間にも釈放を求める運動が広がった。

 

センタム氏は先月27日に保釈された後、治療のため米国へ出国。3日にフェイスブックへの投稿で「兵士は私の全身を殴打し、ブーツで蹴った。耳や口、鼻を殴り、肘も膝もやられた」と暴行の状況を詳細に記した。出国の際に撮影された写真でセンタム氏は、車いすや松葉づえを使っていた。

 

ゲリラ闘争を率いたムセベニ氏は1986年に当時の政権を打破して以来、実権を握り続ける。昨年議員に初当選したセンタム氏はムセベニ氏の長期政権を厳しく批判して若者らの間に急速に支持を広げ、2021年に予定される大統領選挙で6選を狙う同氏を脅かす存在となっていた。【2019年9月4日 毎日】

*********************

 

【人気ミュージシャンが政治に志した12年前の殴打事件】

ボビ・ワインこと野党候補ロバート・キャグラニ氏(本名 ロバート・チャグラニ・センタム)については、人気ミュージシャン出身ということで、ときどき見られるように、そういう方面で集めた国民的人気を背景に一気に国政に・・・というタイプかと思っていましたが、一味違うようです。

 

****ウガンダ発、独裁政権と対峙する音楽コミュニティの力****

東アフリカのウガンダで、人気ミュージシャンから国会議員に転身したボビ・ワイン。アフリカで最も注目される政治家の一人に迫った。

ボビ・ワインが26歳の時、24インチのホイールリムのタイヤを履いたキャデラック・エスカレードを新車で購入した。当時の彼は既にウガンダのスーパースターで、彼曰く、購入したエスパーダは東アフリカ全体で初めて販売されたものだという。

 

ワインの音楽は、「キダンダリ」と呼ばれる地元独自のアフロビートとジャマイカン・ダンスホールとを組み合わせた明るいスタイルだが、当初は純粋なヒップホップのミュージシャンだった。地元メディアは、複数の女性と浮き名を流し他のスターと揉める彼を取り上げて騒ぎ立てた。

ワインは、ある晩ウガンダの首都カンパラにあるクラブへエスカレードで乗りつけた時のことを語った。クラブに着くとひとりの男がワインに絡み出した。男は、常に世界で最も貧困な国々のひとつにランクされているウガンダで自分の富を誇示しているワインが気に入らなかったのだ。

 

車に近寄った男がワインの顔を平手打ちしたため、才能あるボクサーでもあったワインはとっさにSUVから飛び出した。すると男は銃を取り出してワインの頭に突きつけ、彼を繰り返し激しく殴り付けたという。

男は、ウガンダの軍諜報部のトップとも一緒に働いた経験を持つ兵士だったという。言い換えれば男のコネは強力で、誰に何をしても責任を問われないということだ。

 

当時のワインの音楽は、パーティーソング、ラブバラード、ブラガドシオが中心だった。時折、貧困や公衆衛生、エイズ流行などウガンダに蔓延る問題についての曲を作ることもあったが、問題の元凶である体制に対してはほとんど無関心を装っていた。結局のところ、彼はそうやってうまく生きてきたのだ。

 

殴られたワインも初めは怒りを露わにした。しかし知り合いの軍幹部やビジネスマンや政治家らが同じように誰かを殴りつけていた時に、彼は傍で黙って見ていたことを思い出した。そんな自分の態度を振り返ってみると、彼は殴られても当然だったのかもしれない。

殴打事件をきっかけにワイン(現在38歳)は政治への道を目指し、12年前に自分を平手打ちさせることに繋がった社会の不条理や不公正に取り組むこととなった。

 

本名をロバート・キャグラニ・センタムというワインは、2017年にウガンダの国会議員になった。ウガンダでは、75歳になるヨウェリ・ムセベニ大統領の独裁状態が続いている。2019年にワインは、2021年初頭に行われる大統領選への立候補を表明した。

1986年から続くムセベニ政権下では汚職が蔓延し、政敵を容赦なく押さえつけてきた。最後の大統領選は2016年に行われたが、ムセベニの最大のライバルだった候補者は選挙当日に逮捕された。

 

大統領選への出馬表明後、何者かによって運転手が殺害
10年以上前から「ゲットーの大統領」として知られるワインは、大統領選への出馬を表明して以降、公の場でのパフォーマンスを禁じられている。また政府は、ワインによる「ピープル・パワー」運動のトレードマークとして支援者がかぶっていた赤いベレー帽も禁止した。

 

何度も逮捕されているワインは政府による監視下に置かれ、酷い仕打ちにも耐えてきた。2018年にワインの運転手が殺害されたが、実はワイン本人を狙ったという説もあり、少なくとも彼に対する強烈な脅しにはなった(ウガンダ政府に本事件に関するコメントを求めたが、回答がなかった)。

ワインを巡るこれら一連の出来事は、国内のみならずアフリカ全土における彼の評価を高めた。南アフリカを代表するポップスターのイボンヌ・チャカ・チャカはワインを「尊敬するウガンダのネルソン・マンデラ」と呼んだ。

 

少々大げさな比喩のように聞こえるが、全くの的外れという訳でもない。ワインの主導するピープル・パワー運動はこれまでのところ特定の政党と協力関係にはないが、若者や貧困層を政治の世界に引き込んだ。

 

人口の7割近くが25歳未満で、かつ貧困が当たり前の国では、ムセベニのような大統領に対する不満が生まれるのは自然の流れだ。

「ムセベニは、現政権が腐敗し能力の無いことを認識している。国民は変化を熱望している」と、ナショナル・メディア・グループの編集担当ジェネラル・マネジャーを務めるダニエル・カリナキは言う。

 

彼はウガンダ最大の独立系新聞社デイリー・モニターの政治コラムも担当している。「これまでムセベニには、ボビのような自分にとって脅威となる人間が存在しなかった。今の時代を象徴する脅威だ」(後略)【2020年5月6日 Rolling Stone】

********************

 

「ゲットーの大統領」ボビ・ワインが変革を起こせるか注目したいところですが、選挙監視団もないなか、「まともな選挙」が行われるのか・・・非情に心もとない感じも。

 

現職ムセベニ氏圧勝の結果が公表されたとき、ひと騒動起こるかも。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする