(西太平洋で行われた中国人民解放軍海軍の軍事演習に参加した空母遼寧(2018年4月)【1月20日 Newsweek】)
【バイデン新政権 台湾重視の対中国強硬路線継続を打ち出す】
米中対立のなかで、アメリカが台湾重視の姿勢を見せているのは周知のところ。
トランプ前政権のもとでの台湾への武器供与のほか、以下のような動きも。
****米国連大使、台湾の国連加盟を支持****
クラフト米国連大使は29日、台湾政府などが主催したオンライン会合に出席し、「世界は台湾が国連に完全加盟することを必要としている」と述べ、台湾の国連復帰を支持する考えを示した。台湾は中国の国連加盟を受け、1971年に国連を脱退している。
これを受け、中国の国連代表部は「中国の主権と領土保全を損なう発言で、強い憤りと反対を表明する」と声明を発表。台湾との接触をやめるよう米国に要求した。トランプ米政権は中国に対抗し、台湾を支援する姿勢を強めている。
クラフト氏は、台湾の民主主義を称賛し、「世界のための良い力だ」と指摘。その上で「特に公衆衛生と経済発展に影響を与える問題に関して、世界は、国連システムへの台湾の完全な参加を必要としている」と述べ、台湾が参加しない国連は「世界を欺いている」とも訴えた。(後略)【2020年9月30日 産経】
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****台湾代表、米大統領就任式に出席 正式招待は79年断交後初****
20日に行われたジョー・バイデン米新大統領の就任式に、台湾の駐米大使に相当する駐米台北経済文化代表処の蕭美琴代表が正式に招待され、出席した。
台湾政府は21日、米中国交正常化により1979年に米台が断交して以来初の正式招待で、今後の先例になるとの見方を示した。
蕭代表は、就任式会場で撮影した自身の動画をインターネットに投稿。「台湾の人々と政府を代表して、バイデン大統領と(カマラ)ハリス副大統領の就任式に出席することを光栄に思う」と語り、「民主主義はわれわれの共通言語であり、自由はわれわれの共通目標だ」と続けた。
台湾外交部は、台湾の駐米代表が米大統領就任式の実行委員会から「正式な招待を受けた」のは数十年ぶりだと発表。与党・民主進歩党は「42年ぶりの新たな進展」だと評価した。
蔡英文総統は、バイデン大統領の就任宣誓後にツイッターを更新し、「より良い方向を目指すための国際的な力として、共に取り組んでいく準備はできている」とバイデン氏に呼び掛けた。 【1月21日 AFP】
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これに対し、中国はけん制圧力を強めています。
バイデン新政権の出方を確かめる意味合いもあるのでしょう。
****中国戦闘機など、2日連続10機以上で台湾の防空識別圏に進入****
台湾国防部(国防省)によると、中国軍の戦闘機、対潜哨戒機など計15機が24日、台湾南西部の防空識別圏に入った。10機以上の進入は2日連続だ。
爆撃機が主体となった前日と違い、この日は15機のうち、「殲(J)10」「殲16」など戦闘機が12機を占めた。
中国は、軍事的威嚇を強めることで、バイデン米政権と台湾に、米台接近は許さないとのメッセージを送っているとみられる。【1月24日 読売】
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アメリカ・バイデン新政権は、こうした中国の軍事的圧力を批判、これまでのトランプ前政権からの台湾支援を継続する姿勢を明らかにしています。
****米、中国に台湾への圧力停止要求 バイデン政権、強硬路線を維持****
米国務省のプライス報道官は23日、台湾に対する中国の軍事的圧力が地域の安定を脅かしているとして、軍事、外交、経済的な圧力を停止するよう中国に求める声明を発表した。台湾との関係強化も表明した。20日に発足したバイデン政権が台湾支持の継続を打ち出した形で、中国の反発は必至だ。
対中強硬路線を取ったトランプ前政権は台湾との関係を強化。バイデン政権の国務長官候補ブリンケン元国務副長官は19日、人事承認に向けた上院公聴会で強硬路線を維持する考えを示し、台湾について「より世界に関与することを望む」と述べていた。【1月24日 共同】
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アメリカの台湾重視、対中国強硬路線の背景には“「オバマ政権の後半から始まった中国の南シナ海への拡張政策、そして最近の香港問題と新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)、すべてが中国政権に対する不信感を生み出している」「20年前の中国の脅威理論が今や現実となった」(台北の国防安全研究院(INDSR)の蘇紫雲氏)”【1月20日 Newsweek】という、“アメリカの政策決定と学界における「目覚め」”【同上】があるとも。
当然ながら、中国の立場からすれば台湾問題は「内政問題」であり、アメリカから「圧力」だ、なんだと言われる筋合いはない・・・ということにもなります。
【台湾・蔡英文政権 バイデン新政権の「本音」に気を揉む】
台湾・蔡英文政権は、アメリカの台湾重視の姿勢を歓迎し、バイデン新政権がこの流れを引き継ぐことを期待はしていますが、「いざというとき、本当にアメリカは台湾を最後まで守ってくれるのか?」という疑念もつきまといます。
対中交渉のカードとして使われ、中国を刺激したあげく、最後は見捨てられるということになれば、台湾としても泣くに泣けません。
過度のアメリカ依存は危うい・・・・別に台湾ならずとも考えることでしょう。
****【再起動 バイデンと世界】台湾、見えぬ米政権の本音 自力外交も欠かず****
台湾をめぐる米中の攻防がバイデン米政権の発足直後から激しさを増した。中国軍機は23、24日、台湾の防空識別圏に進入。米政府は中国側を批判し、台湾支援の継続を表明した。
だが、バイデン政権は実際に毅然とした行動をとるのだろうか−。台湾側はまだ確信を得られていない。
爆撃機8機、戦闘機4機、哨戒機1機。計13機の中国軍機が台湾の南西部の防空識別圏に入ったのは23日。3日前に発足したばかりのバイデン政権の出方を試そうとの狙いがうかがえる。
「米国の台湾への関与は盤石だ」。米国務省が中国の動きへの「懸念」と台湾支援を表明すると、台湾の外交部(外務省に相当)は24日、迅速に応じた。「米国の姿勢を歓迎し感謝する。バイデン政権と密接に協力し、台米の友好関係をさらに強化したい」(中略)
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トランプ米前政権は軍事面で台湾支持を鮮明にしていた。台湾への武器売却決定は4年間で11回に上り、米台合同軍事訓練を実施。米インド太平洋軍の情報担当トップを訪台させるなど台湾との軍事交流を通じて中国を牽制した。中国の脅威にさらされる台湾には大きな安心材料となった。
だが、バイデン氏は大統領就任演説でもほとんどを内政問題に割き、外交や安全保障への言及は少なかった。バイデン陣営の幹部らはこれまでに「台湾支持」を表明しているが、「政権の本音なのか」を見極めるのは難しく、台湾の外交関係者らは気を揉んでいる。
与党、民進党の関係者は「歴代米政権はみな台湾重視の姿勢を口では強調するが、具体的な行動が伴う政権と伴わない政権がある。言葉に一喜一憂せず、バイデン政権のこれからの動きを見極めたい」と語る。
大統領就任式には駐米台北経済文化代表処代表(駐米大使)の蕭(しょう)美琴(びきん)氏が1979年の米台断交以来、初めて正式招待され、台湾メディアは「歴史的な快挙」「外交上の大勝利」と大きく報じた。
しかし、米国政治に詳しい外交評論家の宋承恩氏は「招待したのは超党派で構成する大統領就任式実行委員会だ。バイデン政権の意向を反映していると限らない」と過剰な反応をいさめた。蔡英文総統は4年前、トランプ氏と大統領就任前に電話会談した。だが、バイデン氏との電話会談はまだ実現していない。
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台湾側が最も強く米国に求めるのは自由貿易協定(FTA)の早期締結だ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や地域的な包括的経済連携(RCEP)など多国間のFTAから排除されている台湾は、対米FTAで孤立回避を目指す。
昨年夏、蔡政権が野党の猛反対を押し切って成長促進剤「ラクトパミン」を使用した米国産豚肉の輸入解禁を決断したのは、米国とのFTAを前進させるためだった。だが、米国の政権交代でFTAは宙に浮いた形となっている。
民進党に近いシンクタンク「台湾智庫」の諮問委員、張国城氏は「バイデン氏は当面、内政に専念するとみられ、台湾問題で積極的な行動を取らない可能性が大きい」とし、「台湾は自分の力で外交を切り開かなければならない」と強調した。
台湾も米国の動きを待つのでなく、国際組織への加盟問題などで日本や欧州への働きかけを独自に強めることが必要となる。【1月25日 産経】
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【台湾、最新兵器を並べるだけでは・・・ 有事の際の米軍行動を制約する中国の「空母キラー」】
軍事的な面で言えば、台湾が建造を開始した潜水艦は、中国に対する大きな力を発揮する可能性があるとも言われています。
****台湾が建造開始した潜水艦隊、「中国の侵攻阻止できる可能性も」と米メディア****
台湾が防衛力の強化を目指し、最新鋭の潜水艦隊の建造に着手した。台湾への軍事的圧力を強める中国が本土と隔てる台湾海峡を越えて侵攻してくる事態に備えるためだ。米CNNは「潜水艦は隠密性を誇る兵器プラットフォーム。中国の侵攻を阻止できる可能性もある」と伝えた。
台湾が計画している新造潜水艦8隻は現有4隻の後継。最初の艦の建造は昨年11月、南部の港湾都市・高雄の施設で開始された。同艦の試験航行は2025年に始まるとみられている。台湾の蔡英文総統は着工式で、建造計画を「台湾の強い意思を世界に示す歴史的な節目」と呼んだ。
潜水艦について、CNNは「今なお世界屈指の隠密性を誇る兵器プラットフォームで、相手がどのような艦隊であっても大打撃を与えることができる」と言及。「台湾の潜水艦にはディーゼル・エレクトリック方式が採用される見通し。水上ではディーゼルエンジンを動力源とする一方、潜航中は寿命の長いリチウムイオン電池で駆動する超静粛な電気モーターを使用するという」と報じた。
米海軍や中国が配備を進める原子力潜水艦ではなく、ディーゼル・エレクトリック艦を選んだのは、台湾政府にとって簡単な選択だった。ディーゼル・エレクトリック艦は建造がより容易で、コストも低い。潜航時の騒音も電気モーターのほうが原子炉より少ない。
専門家はこうした静かな潜水艦なら中国軍の対潜戦(ASW)部隊による探知が難しいとの見方を示す。台湾海峡の海底付近にひそみ、台湾に向かう中国の兵員輸送艦を狙い撃ちにできる可能性もある。新造艦にどんな技術が搭載されるのか正確なところはまだ不明だが、米国政府は昨年、台湾にMk48魚雷の取得を許可した。
元米海軍大佐で、現在はハワイ太平洋大学のアナリストを務めるカール・シュスター氏は「大型の兵員輸送艦に魚雷が命中した場合、特にそれが米国のMk48のような現代型の魚雷であれば、侵攻する軍は1個大隊を失うことになる。従って潜水艦がいないことを確信できるまでは、いかなる国も台湾海峡に強襲揚陸艦を派遣しないだろう」と指摘した。
一方でCNNによると、中台間のパワーバランスでは中国が依然有利。紛争になった場合、中国は潜水艦や水上艦、地上発射型ミサイル、空軍の爆撃機および攻撃機を大量投入できる。台湾の潜水艦計画が高雄で始動したわずか1週間後、中国は対抗手段を誇示した。
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は「人民解放軍の対潜戦用航空機が爆雷攻撃演習を実施、台湾分離主義者への抑止力になるとの見方」と報道。Y8対潜哨戒機が演習中に爆雷を投下する写真も掲載した。中国の対潜戦能力について報道が出るのは「異例」という。【1月24日 レコードチャイナ】
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ただ、台湾がいくら「新兵器」「最新兵器」を並べても(その多くはアメリカから供与されたもの)、実際にそれらを運用する態勢があるのか・・・と言えば、厳しいものがあるということは、昨年2020年9月30日ブログ“台湾 米中対立激化で強まる中国の軍事的脅威 一方、戦える状況にないとの指摘もある台湾軍”でも取り上げました。
一方、アメリカの台湾支援の軍事的側面・・・・有事の場合の台湾海峡絵の米軍展開にとって大きな脅威となるのが中国の「空母キラー」
****中国の「空母キラー」ミサイル、航行中の船へ発射実験…2発が命中か****
中国軍が南シナ海で2020年8月に行った対艦弾道ミサイルの発射実験の際、航行中の船を標的にしていたことを、中国軍の内情を知りうる関係筋が明らかにした。米軍高官もこの事実を認めている。「
空母キラー」とも呼ばれるミサイル2発が船に命中したとの複数の証言もあり、事実とすれば、中国周辺に空母を展開する米軍の脅威となる。(中略)
中国軍が南シナ海で動く標的に発射実験を行ったのは初めてとみられる。船の位置を捕捉する偵察衛星などの監視体制、ミサイルの精密度が着実に向上していることを示す。
米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官は11月下旬、オンライン形式で開かれた安全保障関連の公開フォーラムで「中国軍は動く標的に向けて対艦弾道ミサイルをテストした」と認めた。実際に船に命中させたかどうかについては明言しなかった。【1月13日 読売】
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かつては、圧倒的に米軍の軍事力が上回っていましたので、中国としても引き下がるしかなかったという「屈辱」がありましたが、おそらく現在、そして将来は全く異なる展開となるでしょう。
****台湾海峡ミサイル危機****
1996年に行われた台湾総統選挙で李登輝優勢の観測が流れると、中国軍は選挙への恫喝として軍事演習を強行した。基隆沖海域にミサイルを撃ち込むなどの威嚇行為を行ない、台湾周辺では、一気に緊張が高まった。
人民解放軍副総参謀長の熊光楷中将は、アメリカ国防総省チャールズ・フリーマン国防次官補に「台湾問題にアメリカ軍が介入した場合には、中国はアメリカ西海岸に核兵器を撃ち込む。アメリカは台北よりもロサンゼルスの方を心配するはずだ。」と述べ、アメリカ軍の介入を強く牽制した。
アメリカ海軍は、これに対して、台湾海峡に太平洋艦隊の通常動力空母「インデペンデンス」とイージス巡洋艦「バンカー・ヒル」等からなる空母戦闘群(現:空母打撃群)、さらにペルシャ湾に展開していた原子力空母「ニミッツ」とその護衛艦隊を派遣した。
その後米中の水面下の協議により、軍事演習の延長を中国は見送り、米国は部隊を海峡から撤退させた。その後中国軍(1996年当時、主力戦闘機はSu-27やJ-8やJ-8II)は軍の近代化を加速させている。
この時の総統選挙は結果、台湾独立志向の李登輝が台湾人特に本省人の大陸への反感に後押しされ地滑り的な当選を果たした。【ウィキペディア】
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もっとも、台湾の最新鋭潜水艦隊や中国の空母キラーがその実力を発揮するような事態は、台湾にとっては最悪で、そうならための外交努力なり対応が必要とされています。
国内政治にあっては、“台湾は中国とは正反対の、西側と共通の価値観を抱く存在であるがゆえに「尊敬と支援」に値する国として浮上している”【1月20日 Newsweek】という側面を重視・アピールする必要があります。