(17日、グアテマラ東部バド・オンドで、治安部隊と衝突するホンジュラスの移民集団【1月18日 読売】)
【グアテマラ当局は力で阻止する姿勢】
過激なトランプ支持者による妨害の懸念など、いろいろゴタゴタしているアメリカの政権交代ですが、気になる動きは国外からも。
これまでもたびたび中南米からの移民キャラバンがアメリカを目指して話題にもなりましたが、トランプ大統領と比べると移民に寛容とされるバイデン新大統領、その政権交代に合わせて再び大規模なキャラバンがホンジュラスからアメリカを目指していると報じられいます。
いくら寛容とは言え、このコロナ禍の時期に大量の移民を受け入れることはバイデン大統領としてもできないでしょうから、キャラバンが実際に国境に到達すれば就任早々に国境で混乱が生じ、厳しい対応を求める共和党との間で、また、対応に温度差がある民主党内部でも、移民問題が大きな争点となることが予想されます。
最近では、大統領選挙前の昨年10月にもホンジュラスからキャラバンが組織され、投票まで1カ月となったこの時期に不法移民問題に注目が集まれば、移民制限を唱えるトランプ大統領に有利に働く可能性があるということで、「米大統領選と関係していると信じる」(メキシコのロペスオブラドール大統領)とも言われました。
このときは、グアテマラのジャマテイ大統領が「公衆衛生の緊急事態のさなか、彼ら(キャラバン)は入国手続きだけでなく、わが国民を守るための衛生措置にも違反した」として、キャラバン(3000人規模)の多くを強制送還する形で阻止しました。
今回も、「政治的なもの」が関与しているのか・・・そこらの背景はわかりません。
****グアテマラ入りのホンジュラス移民、9000人に メキシコ経由で米目指す****
ホンジュラスから米国を目指す移民集団(キャラバン)の少なくとも9000人が、グアテマラ入りを果たしたことが分かった。15日夜に第一陣が国境警察を押しのけて入国した後、他の移民らもすぐにそれに続いたという。当局が16日、明らかにした。
貧困や失業、ギャングや麻薬組織による暴力の他、昨年11月に上陸したハリケーンなどの被害から逃れるようと、多くの移民らは数千キロもの距離を歩いてメキシコ経由で米国を目指そうとしている。
現地のAFP特派員によると、男性、女性、子どもたちを含む第一陣は15日、グアテマラ国境沿いの町エルフロリドで警察を押しのけて進んだ。
グアテマラ当局によると、第一陣はおおよそ6000人だった。16日には新たに3000人がグアテマラ入りしたという。
グアテマラ政府はこれについて、国家主権の侵害だと非難。ホンジュラスに対し「国民の大規模な出国を抑える」よう求めた。
国境警備隊は移民らに対し、身分証明書の他、新型コロナウイルス検査の陰性証明書の提示を要求しているが、それらの要求に応じていない多くの人を通過させたとみられる。 【1月17日 AFP】
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グアテマラ治安当局は15日以降、国境でメンバー約1000人を拘束し、ホンジュラスへ送還しましたが、当局側の制止を振り切って入国した7000〜8000人が移動を続けているとみられます。
感染拡大を懸念して解散させたいグアテマラ現地当局と強行突破を図るキャラバンとの衝突が起き、混乱が広がっているようです。
****グアテマラ、移民集団に催涙ガス コロナ理由に取り締まり****
グアテマラでは17日、徒歩で米国を目指すホンジュラスの移民集団(キャラバン)数千人に対して警察が催涙ガスを使用し、バリケードを突破しようとする移民らを兵士らが押し返した。現場のAFP記者が目撃した。
ホンジュラス国境に近いグアテマラ南東部の町バドオンドでは、治安部隊が路上でキャラバンを包囲。
催涙ガスや発煙筒の爆発音が耳をつんざくように響き渡る中、多くの移民たちは後退。次の機会をうかがって付近で待機する人や、近くの山に逃げた人もいた。
匿名で取材に応じた地元の保健当局によると、複数の移民が負傷したという。
新型コロナウイルスの感染拡大を防止するという名目で、治安部隊は誰も通過させるなと厳しく命令されている。(後略)【1月18日 AFP】
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“移民集団の一部が取り締まりの突破をはかったため、治安部隊が棒でたたくなどして押し戻した”【1月18日 読売】など、阻止しようとするグアテマラ治安当局の対応も強硬なようです。
“グアテマラ政府は、バイデン次期政権からの経済援助を期待して、関係を損ないたくないと考えている”【12月14日 WSJ】とも。
アメリカ現政権がどういう対応をしているのかは知りませんが、“メキシコ当局は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からもキャラバンを北進させないよう中米諸国に要請している。”【1月18日 共同】ということもありますので、このままメキシコを北上して・・・というのは難しいでしょう。
【ギャングや麻薬組織による暴力 貧困・失業とも連動】
“子供と共に集団に参加した男性は地元メディアの取材に「仕事もなく、治安も悪い。ホンジュラスで生活を続けるのは難しい」とこぼした。”【1月15日 日経】
TVニュースでも「ホンジュラスに残っても死ぬだけだ」と語るキャラバン参加者も。
ホンジュラスの人々が命がけでアメリカを目指す大きな理由は、マラスと呼ばれるギャングや麻薬組織による暴力の横行です。
マラスの二大組織のひとつ「マラ・サルバトルチャ」(通称MS-13)については、下記のようにも。
もともとはエルサルバドル系でしたが、状況はエルサルバドルもホンジュラスも同じようなもので、現在はMS-13のメンバーはホンジュラスの方が多いようです。
****なぜエルサルバドルの人々は米国への逃亡を選ぶのか****
北へ向かう人の波は今なお止まず
中米のエルサルバドルで、暴力が日常化している。長く続いた内戦で噴出した社会の対立が、いまだに尾を引いているのだ。
1980年、貧困層から土地を奪ってきたエリート層と軍事政権に対し、極左ゲリラが蜂起した。泥沼化した内戦が1992年に終結するまでに、死者は7万5000人、家を失った人は100万人を超え、数十万人が米国へ逃げた。彼らは全米各地で職を見つけ、横のつながりをつくり、本国に送金した。
そんな移民の子どもたちが、ロサンゼルスで犯罪組織マラ・サルバトルチャ、通称MS-13を結成した。すでにあったライバルのバリオ18に入る者も多かった。
組織間の抗争はしだいに激化。警察の取り締まりも厳しくなった。ついには法律が改正され、犯罪歴をもつ移民の国外退去処分が容易になると、1990年代後半には、中米に送り返される犯罪者は年間数千人にのぼった。
すると彼らは、政府の力が弱く、貧困も深刻な本国の状況につけ込み、独自の社会と規則をつくって、組織を急速に広げていった。
殺人発生率は人口10万人当たり61人
エルサルバドル政府によると、こうした犯罪組織に関わる人間は推定で6万人。組織間の覇権争いは、人口640万人の小さな国に深い亀裂を生み、分断は広がるばかりだ。2017年の殺人発生率は、人口10万人当たり61人にのぼっている。
過激な暴力と貧困に絶望し、エルサルバドルをはじめ中米諸国から米国へ逃げ出す者が続出した。そこでは何世代も前から中米の人々が移住し、犯罪に関わることなく、尊厳をもって暮らせる安全な社会を築いていたからだ。しかし、あまりに移民の流入が続くことから、米国政府は今、エルサルバドル人の大量送還をちらつかせている。
現在、米国内では約20万人のエルサルバドル人に一時保護資格(TPS)が与えられている。武力衝突や大規模な自然災害で、本国に戻ると危険がある場合、ビザがなくても滞在が許されるというものだ。
2018年1月、米国政府は19年9月をもってエルサルバドル人のTPSを打ち切ると発表したが、これに米連邦地方裁判所が待ったをかけた。最終決定までは米国で生活し、仕事ができるという仮処分命令が下ると、メキシコとの国境付近には大量の移民が押し寄せた。
ドナルド・トランプ大統領の「不寛容」移民政策により、南西部の国境で移民の家族がばらばらになって拘留されるケースも増えた。
だが、犯罪組織による敵対組織や当局との終わりのない報復合戦のあおりを受け、北へ向かう人の波は止まらない。
エルサルバドルだけでなく、グアテマラやホンジュラスも同様だ。2018年秋には、中米諸国から5000人を超すキャラバンが米国に向けて移動を始め、この問題は再び世界の注目を集めた。【2019年3月2日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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「ギャングや麻薬組織による暴力」と「貧困・失業」は連動しています。
****世界屈指の犯罪都市~ホンジュラスの首都テグシガルパ****
世界の治安が悪い国ランキングなどを見ると、毎年必ず上位になってしまうホンジュラス。(中略)
中米のホンジュラス
ホンジュラスは、中米の中央に位置し、東はカリブ海、南は太平洋に面する山の多い国です。ニカラグアに次いで中米諸国2番目に広い国土を有しています。
熱帯気候に属していますが、ホンジュラスの国土80%は山岳地帯のため、低地沿岸部以外は一年を通じて過ごしやすい気候です。
ホンジュラスと言えば、世界遺産に登録されているマヤ文明、コパン遺跡が有名です。グアテマラのティカル、ベリーズのカラコル、メキシコのパレンケ、カラクムルなどと同様にマヤ時代に大きく繁栄した王家を有す大都市でした。特にコパンは屈強なマヤ戦士が多く、文明末期は都市間との諍いが絶えなかったとか。
世界の危険な国ランキングで常に上位
殺人発生率の高さで、毎年世界のトップ争いに名を連ねるホンジュラスは、年間、日本の200倍の殺人が起きる治安の悪い国です。
中米で有名なマラ・サルバトゥチャ13(以降、マラス)という若者を中心としたギャングは、ここホンジュラスでも幅を利かせており、政府も警察も手を焼いている状況です。
この組織は、メキシコ系ギャングに対抗するため、エルサルバドル内戦から逃れた元警察官や兵士らが集まり構成されました。その後、米国の移民排除の法律が成立し、強制送還されたホンジュラス帰国民が加わり、犯罪組織として成長してしまいました。
ホンジュラスは、目立った産業もなく社会的基盤が脆弱です。中米で最も貧しい国といわれており、失業者も多く、国民の半数以上が極貧生活を強いられています。
貧困家庭は崩壊を招きやすく、子供たちは離婚した両親のどちらにも着けない状況となったり、両親や片親が殺害されたりなどで住む家を失い、路上生活を強いられます。
マラスは、これらの子供たちをギャングの構成員として雇い入れ、犯罪者として育て上げていくのです。親を失い、帰る家のなくなった子供たちにとっては、マラスこそが家族なのでしょう。
このように、国政の不安定さがギャングを増やし治安を悪化させ、さらなる貧困を招くという悪循環で、ホンジュラスにいるマラスの構成員は現在3万人以上まで膨れ上がっています。
彼らは、麻薬売買、誘拐、強盗、窃盗、恐喝、殺人、バスジャック、みかじめ料のゆすりなど、ありとあらゆる犯罪を行います。歯向かえばその場で殺され、警察に通報すれば家族ごと報復に遭うため、被害者は泣き寝入りするしかありません。
殺人事件で逮捕されるマラスは後を絶たず、ホンジュラス国内の刑務所はどこもパンク状態なのだとか。
そんなパンパンな刑務所内でもマラスは活発で、度々殺人や不審火による火災が起きます。2019年の暮れにも36人が殺害される事件が起きたばかり。2012年に起きた火災では、357人の受刑者が亡くなっています。(後略)【2020年4月24日 toshel氏 trip note】
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なお、コロナ禍と合わせて、ハリケーンによる生活苦も大きく影響しているようです。
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国連によると、巨大ハリケーン「イータ」と「イオタ」により、ホンジュラスでは推定300万人、グアテマラでは100万人近くが被災した。
豪雨や洪水、地滑りで家屋は倒壊し、道路は寸断されるなど、コロナ禍ですでに大きく落ち込んでいた経済に壊滅的な打撃をもたらした。
国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会によると、ホンジュラスは今年、8%のマイナス成長になると予想されている。【12月14日 WSJ】
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【今後も続く移民圧力】
今回のキャラバンはともかく、こうした状況は今後も大きく変わることもありませんので、バイデン新政権は今後も中南米からの移民圧力に苦慮しそうです。
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移民集団だけでなく、米国境での不法移民の拘束も増えている。
米国土安全保障省によると、メキシコ国境に近い米南西部での20年12月の不法移民の取り締まり数は7万3513人となった。20年で最も多く、最小だった4月の4.3倍に相当する。
新型コロナの感染は引き続き深刻だが、バイデン政権の発足後をにらみながら、米国を目指す移民の動きは一段と活発となる可能性がある。【1月15日 日経】
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