孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  高揚感なきルラ新政権 訪中で経済テコ入れ 国内に分断が残る中で前大統領帰国

2023-04-15 23:08:59 | ラテンアメリカ

(中国・北京の人民大会堂で、歓迎式典に出席する習近平国家主席(中央左)とブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領(2023年4月14日撮影)【4月15日 時事】)

【ルラ新政権への高揚感なし 背景に伸び悩む経済 前政権支持者との「分断」も】
今年1月1日に大統領に復帰したブラジルの左派ルラ大統領は、「ブラジルのトランプ」と称された右派ボルソナロ前政権との違いアピールしています。

****ボルソナロ政権時代に緩和された銃規制 再び厳格化 ブラジル・ルラ新政権 前政権からの転換鮮明に***
ブラジル政府は、ボルソナロ前政権が緩和した銃規制を再び厳格化しました。

ブラジル政府は1日、全ての銃器を警察に登録することを義務付けると発表しました。登録を無視すると犯罪へのほう助として、処罰の対象にもなり得るということです。

銃器をめぐっては、自衛目的の銃規制緩和を容認していたボルソナロ前大統領が2019年に一部の銃器に対する登録制度を撤廃。

大統領時代の4年間で銃器の数は5倍近く増加していて、去年の大統領選でボルソナロ氏を破ったルラ大統領は犯罪の増加につながっていると懸念を示していました。

今回の発表では、銃の購入制限なども明らかになっていて、司法省は「今後も銃規制は必須となる」と強調しています。【2月4日 TBS NEWS DIG】
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****アマゾン森林破壊が6割減=ルラ政権、侵入者排除に力―ブラジル****
ブラジル国立宇宙研究所(INPE)は10日、北部のアマゾン盆地に位置する9州で1月に消失した熱帯雨林が、暫定推計で166.58平方キロだったと発表した。香川県の小豆島より一回り広い自然が失われた計算だが、経済開発を重視したボルソナロ政権時代の昨年同月比で61.3%減となった。

1月1日に就任したルラ大統領は環境保護を政権の最優先課題の一つに挙げ、「アマゾン伐採ゼロ」を提唱。北部ロライマ州で先住民ヤノマミの保護区に侵入し、ヤノマミの生命と森林を脅かしている違法金採掘業者の取り締まりに力を入れている。【2月11日 時事】 
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しかし、以前の政権時(2003年~2010年)には高い人気を誇ったルラ大統領にしては、国民の評価は今のところあまりパッとしないようです。

****ブラジル大統領、就任3カ月で不支持率29% 前任同様の不人気ぶり****
1日付のブラジル紙フォルハ・デ・サンパウロに掲載されたダッタフォリャの世論調査で、今年1月に就任したルラ大統領の不支持率が29%となり、ボルソナロ前大統領の就任後3カ月と同水準の不人気ぶりとなったことが分かった。支持率は38%だった。

ルラ氏は昨年10月に僅差で大統領に当選した。

調査は3月29─30日、2028人に対面で実施。誤差はプラスマイナス2%ポイント。【4月1日 ロイター】
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“人気がパッとしない”背景には、“ブラジル経済がパッとしない”ことがあります。
また、1月に首都ブラジリアで起きた大統領府や議会など政府中枢施設の襲撃事件に象徴されるように、前政権支持者との間の「分断」が改善していないこともあります。

****政権交代の成果に腐心=ルラ氏、高揚感なし―大統領就任100日・ブラジル****
ブラジルのルラ大統領が1月に就任してから10日で100日目を迎えた。

昨年10月の大統領選の熱気もすっかり冷め、発足直後には議会など国の中枢機関がボルソナロ前大統領の支持者らに襲撃される事件も起きて水を差された。

新政権への高揚感はもうない。政敵ボルソナロ氏の揺さぶりも予想される中、ルラ氏は政権交代の成果を打ち出すのに腐心している。

「今、気がかりなのはこの国の成長と雇用創出だが、きっと成功する」。ルラ氏は6日、記者らを前に、物価高で打撃を受けた経済の再生を目指す姿勢を強調した。就任当初は、前政権が軽視した社会福祉政策の立て直しに力を入れていたはずだが、微妙に力点を変えている。

調査会社ダタフォリャの世論調査によると、通算3期目となったルラ政権の発足から3カ月の支持率は38%だった。過去2期に比べ期待感に乏しい。政権発足から同じ時期の支持率を比べてみると、1期目(2003年)が43%、2期目(07年)が48%だった。

襲撃事件で浮き彫りになった政治の分断も深刻だ。ルラ氏への不支持は現在、29%に上る。

経済の再生に向けて頼みとなるのが、最大の貿易相手国である中国との関係改善だ。前政権下で関係が冷却化したが、今週訪中して合意文書に調印し、習近平国家主席との会談にも臨む。

得意の外交で、国際的に孤立した前政権との違いを見せたいところだ。6日(日本時間7日)には岸田文雄首相と電話で会談した。地元紙によると、就任後に会談した外国首脳は岸田氏も含め30人近い。

ただ、ルラ氏の大統領就任式直前に渡米したボルソナロ氏が3月30日に帰国した。「国の未来について好きなようにはさせない」とルラ政権との対決姿勢を示している。

ルラ氏の労働者党は議会で少数派。政策実現には他党との協力が欠かせない。敵対勢力の旗頭が登場して大同団結が図られれば、政権運営は一気に苦しくなりそうだ。【4月10日 時事】 
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“パッとしない”経済状況については、以下のようにも。

****ルラ政権は出鼻から景気減速に直面、ブラジルの先行きはどうなる?****
~中国のゼロコロナ終了は追い風となり得るが、中銀の独立性など政策運営には懸念要因が山積~

【要旨】
ブラジルでは今年1月にルラ政権が誕生した。ここ数年の同国経済はコロナ禍による苦境に直面するも、ワクチン接種や感染収束を追い風に経済活動の正常化が進み、世界経済の回復も景気を押し上げた。

他方、インフレやレアル安を受けて中銀は断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされ、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念がある。

ルラ大統領は中銀に利下げを要求するなど独立性を脅かす動きをみせており、足下のレアル相場は上値の重い展開が続くなど金融市場からの信認低下に繋がる動きもみられる。

昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.88%と6四半期ぶりのマイナス成長に転じている。世界経済の減速懸念にも拘らず輸出は堅調な推移をみせる一方、ペントアップ・ディマンドの一巡や物価高と金利高の共存により家計消費など内需は弱含んでいる。

昨年通年の経済成長率は+2.9%とコロナ禍の反動で上振れした前年から鈍化したほか、足下の景気は見た目以上に実態は悪いことが示唆されるなど、急速に頭打ちの動きを強めている。新政権は船出からから景気減速が鮮明な状況に直面していると言える。

中国のゼロコロナ終了は商品市況や中国向け輸出を通じて外需の追い風になることが期待される。

他方、中銀と政権の対立が鮮明化しているほか、ルラ大統領は国営石油公社の運営にも介入するなど金融市場の信認低下を招くリスクもくすぶる。

同国経済は制度的な問題による潜在成長率の低下が懸念されるが、ルラ政権がかつてと同様の舵取りを進めれば同国経済を取り巻く状況は急速に厳しさを増す可能性もあろう。(後略)【3月3日 西濵 徹氏 第一生命経済研究所】
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【中国との関係強化で経済テコ入れ 併せて、グローバルサウスのリーダーをアピール 中国の思惑とも合致】
“経済の再生に向けて頼みとなるのが、最大の貿易相手国である中国との関係改善だ”【前出 時事】ということで、ルラ大統領は前ボルソナロ政権で冷え込んだ中国との関係の修復を図るべく訪中、14日に習近平国家主席との会談に臨みました。

ブラジルにとって中国は最大の貿易相手国であり、対中輸出額は対米の約3倍に達します。その貿易は人民元による決済も始まっています。
今回の訪中には国会議員や知事、企業関係者など200人超が同行しています。

また、中国との関係強化は、懸案の経済へのテコ入れになるだけでなく、中国とともにグローバルサウスのリーダーとしてのブラジルをアピールすることにもなり、アメリカに対抗して国際的地位を高めたい中国の思惑とも一致したようです。

****中国・ブラジル首脳会談、協力深化で一致 ウクライナ巡り対話呼びかけ****
中国の習近平国家主席は14日、同国を公式訪問中のブラジルのルラ大統領と北京で会談し、両国の実用的な提携を深化させ、農業、エネルギー、インフラ建設などの分野での協力の可能性を探るべきという認識を示した。中国国営中央テレビ(CCTV)が報じた。

習氏はルラ大統領に対し、中国がブラジルとの関係を外交上の優先事項としていると伝えたほか、ウクライナ危機についても協議し、対話と交渉が危機を脱する唯一の実行可能な方法という見解で一致したという。

新華社が報じた共同声明によると、両首脳は新興5カ国で構成する「BRICS」の枠組みの下、多岐にわたる分野での協力を深めることで合意。BRICS加盟国による同グループ拡大に関する積極的な議論に支持を表明した。

気候変動に関する意見交換も行われた。声明で、先進国は気候変動対策としてこれまでに合意している投資や技術開発を加速させるべきという認識を示した。

さらに、両国のハイレベル協力委員会(COSBAN)内に気候変動に関する特別小委員会を設置し、政策や技術的な問題を巡り協力する計画を発表した。【4月15日 ロイター】
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中国外務省によると、習氏は会談で「中国とブラジルは最大の発展途上国であり、重要な新興市場国だ。中国の質の高い発展やハイレベルの開放は、ブラジルを含む世界にチャンスとなるはずだ」と強調しました。

ルラ大統領は、アメリカから制裁を受ける中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の研究開発施設を訪れ、中国重視の姿勢を鮮明にしています。

****ブラジル大統領訪中、ファーウェイ施設訪問へ 米の反発招く可能性****
(中略)ブラジル政府によると、13日には中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の研究開発施設を訪れる。

同社を巡っては、米国が安全保障上の理由から半導体の禁輸などの制裁を科しており、ルラ氏の訪問が米国の反発を招く可能性がある。(中略)

ルラ氏は、中国やロシアなどの新興5カ国(BRICS)が設立した国際金融機関「新開発銀行」の新総裁に就任したルセフ・ブラジル元大統領との会談などの後、ファーウェイの施設を訪れる。ブラジルメディアによると、第5世代通信規格「5G」や次世代規格「6G」について、同社と話し合うとみられる。

欧米諸国は5Gの通信網整備からファーウェイ製品を排除している。一方、ブラジルでは、ボルソナロ前大統領時代の2021年11月に実施した同規格の周波数帯の入札で、ファーウェイを明確に除外しなかった。

22年5月には落札企業の一社だった地場の「ブリサネット」が決算発表の資料で、22年3月に基地局関連の製品供給でファーウェイと契約したと公表。契約額は約2億3000万レアル(約62億円)だった。(後略)【4月13日 毎日】
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ルラ大統領は上海で「なぜ世界が必ず米ドルで取引しなければならないのか」と語り、中国側を喜ばせたとか。ウクライナ問題についても、アメリカはウクライナで「戦争を扇動する」のをやめ、平和について話し始めるべきだと訴えました。
こうしたルラ大統領のアメリカに追随しない姿勢は、中国も大歓迎でしょう。

もちろん、ルラ大統領もアメリカを敵に回すつもりはありません。2月には訪米してバイデン大統領と会談
ボルソナロ前大統領はアメリカとも関係が悪化していましたが、その関係を修復しています。

****米ブラジル首脳会談、民主主義維持や気候変動対策などで協力合意****
バイデン米大統領は10日、ホワイトハウスでブラジルのルラ大統領と会談した。ブラジルのボルソナロ前大統領はトランプ前米大統領の支持者で、バイデン政権との間がぎくしゃくしていたが、ルラ氏の下で両国関係の再構築を図る狙いがあったとみられる。

ブラジル側が公表した共同声明によると、米政府はアマゾン熱帯雨林地帯の保護に協力すると申し出た。またバイデン氏とルラ氏は、気候変動対策や強権主義の台頭から民主主義を守るという価値観を共有することも確認した。

バイデン氏は会談に先立ち、ルラ氏に「われわれは自分たちの強さの根幹を成す民主主義と民主主義的価値を維持していく必要がある」と語りかけ、気候危機においても同じ立場にあると付け加えた。

ルラ氏は、2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件や、今年ボルソナロ氏の支持者らが起こしたブラジルの三権の中枢を襲った事件などを念頭に、両国はこのような事態を二度と許してはならないと強調。両国は格差や気候変動の問題でも共闘できると述べた。(後略)【2月13日 ロイター】
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【前政権の影響が残る軍に対し「アメとムチ」 緊張関係が残る中での前大統領帰国】
外交は得意のルラ大統領ですが、内政の「分断」解消は難しい・・・。
先ずは前政権の影響力が残る軍を把握する必要があります。

****ブラジル・ルラ大統領、軍幹部ら100人以上を解任 議会襲撃巡り****
南米ブラジルの首都ブラジリアで右派のボルソナロ前大統領の支持者らが連邦議会などを襲撃した事件を受けて、左派のルラ大統領は1月末までに軍幹部や兵士ら100人以上を解任した。

ボルソナロ氏を支持する軍人の一部が襲撃を共謀したと疑っているため。ルラ氏は軍の「脱ボルソナロ化」と「非政治化」を目指すが、実現は容易ではないとの見方もある。

「(軍の一部への)信頼を失った」。ルラ氏は襲撃事件から4日後の1月12日、地元紙の取材にそう語り、17日付の官報で情報機関「大統領府・安全保障室」(GSI)などに所属する軍幹部や兵士ら44人の解任を発表した。

GSIが事前に襲撃の危険性を察知していながら、大統領府の警備体制を強化しなかったといった疑惑が出ているためだ。その後も陸軍司令官らが解任された。

軍を巡っては、ボルソナロ氏の支持者らが2022年11月以降、ルラ氏が勝利した同年10月の大統領選の結果を覆すため軍施設前に居座り、軍事介入を求めるデモをしたことを黙認した可能性がある。またボルソナロ政権下で大統領府に勤務していた少なくとも8人の軍人がデモに参加したことも判明している。

元陸軍大尉のボルソナロ氏が閣僚や政府機関に登用した軍人は多い。地元紙によると、ボルソナロ政権が登用した現役軍人は22年11月時点で2187人。ルラ氏が所属する労働者党の前回の政権時代(03〜16年)と比べると2倍以上だ。

ルラ氏が軍幹部らを相次いで解任する背景には、軍からボルソナロ派を排除するとともに、軍の政治への影響力を抑える狙いがあるとみられる。

ルラ氏は1月18日の地元テレビのインタビューで、襲撃事件について「クーデターの始まりのような印象を受けた」とした上で、「重要なのは軍の『非政治化』だ。陸軍はルラやボルソナロのものではない。国家を守ることが憲法で定められた役目だ」と強調した。

ただ、ブラジルでは軍事独裁政権が1964年から85年まで権力を掌握した歴史もあり、軍の「非政治化」などをどこまで進められるかは見通せない。

軍の動向を30年以上研究するサンパウロ州のサンカルロス連邦大のジョアオ・マルティンス教授(政治学)は「ボルソナロ氏は退陣したが、軍には依然としてボルソナロ派が多い。軍政を経験したことから、今も自分たちが政治的影響力を持つという思いも残っている」と指摘する。

加えて、軍には労働者党と因縁がある。きっかけは、自身も軍政下で拷問を受けた同党のルセフ大統領(当時)が11年に軍政の人道犯罪を調べる「真実委員会」設立を認めたことだった。真実委は14年12月の最終報告書で、死者・行方不明者は少なくとも434人と公表。これを機に、軍に反労働者党感情が高まったといわれる。

こうした状況から、ルラ氏は軍の離反を避けるための動きも見せる。国防省によると、1月20日には軍幹部らと会合を持ち、兵器増強を含めた軍の近代化などを議論した。ルラ氏は前回の大統領時代、国防予算増額などを通じて軍との関係構築を図った経緯があり、今回も似た手法を取る可能性がある。

マルティンス氏は、ルラ氏と軍の間で「チェスのような駆け引きが続く」と予想する。ただ、汚職で収監された過去を持つルラ氏を「軍は快く思っていない」と指摘。

「ルラ氏は軍の強化に前向きな姿勢を見せながら、軍人の解任も進める『アメとムチ』で軍をコントロールしようとしているが、判断を誤ると、すぐ反発を受けるだろう」として、しばらくは緊張関係が続くとの見方を示した。【2月3日 毎日】
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そうした緊張が残る状況でのボルソナロ前大統領の帰国がどのように影響するのか。

****ボルソナロ前大統領がブラジルへ帰国****
アメリカに滞在していたブラジルのボルソナロ前大統領が先ほど、帰国しました。(中略)

ボルソナロ氏は、再選をかけた大統領選挙に敗れたのち、大統領在任期間中だった去年12月30日にアメリカ、フロリダ州へ向けて出国。年が明け、1月1日にルラ大統領が就任した後も観光ビザに切り替え、そのままフロリダ州に滞在していました。

滞在中の1月8日には、支持者およそ3000人が議会や最高裁を襲撃する事件が起き、ボルソナロ氏は事件を扇動した疑いがあるとして、捜査対象となっています。

ボルソナロ氏は帰国前、ブラジルメディアの取材に対し、「野党を率いることはない」と強調しました。【3月30日 TBS NEWS DIG】
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