孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  「分断」最前線の中絶問題 経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」をめぐる争い

2023-04-14 23:27:21 | アメリカ

(人工妊娠中絶で中絶薬を使う割合 【4月11日 NHK】)

【「銃社会アメリカ」 事件多発でバイデン大統領は規制を訴えるも、変わらない現実】
アメリカ社会の「分断」の最前線となっているのが銃規制と人工中絶の問題。

銃乱射事件が相次いでいるのは周知のとおり。
バイデン大統領の事件のたびに銃規制の必要性を訴えてはいますが、目立った進展がないのも周知のところ。

****“子どもの死因1位は銃”バイデン大統領規制訴え 米南部の学校で9歳児童3人含む6人死亡****
アメリカ南部テネシー州の学校で、児童3人を含む6人が死亡した銃乱射事件。警察のボディカメラの映像が公開され、当時の緊迫した状況が明らかになりました。(中略)

アメリカ バイデン大統領
「アメリカでは、銃が子どもたちの死亡原因の1位です。銃が1位ですよ、おぞましい話だ」

射殺された容疑者は犯行当時、殺傷力の高いライフルなど銃3丁を所持していたことが新たにわかり、バイデン大統領は殺傷力の高い銃の所持を禁止する法律の必要性を改めて強く訴えました。【3月29日 TBS NEWS DIG】
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****米大統領「あと何人死ななければ…」 銀行乱射受け 銃規制呼びかけ****
アメリカ・ケンタッキー州の銀行で少なくとも4人が死亡した銃乱射事件を受け、バイデン大統領は銃規制に反対する野党・共和党に対して行動するよう求めました。

バイデン大統領は10日に発表した声明で、ケンタッキー州ルイビルで起きた銃乱射事件の犠牲者に哀悼の意を示しました。

そのうえで、「議会共和党が地域社会を守るために行動を起こすまで、あと何人のアメリカ国民が死ななければならないのか」と問い掛け、「国民の大多数は銃の安全性に対する常識的な改革に取り組むよう望んでいる」と強調しました。

相次ぐ銃乱射事件を背景に、バイデン大統領は銃を販売する際の身元調査の厳格化など、銃規制の強化を強く求めています。

ただ、銃愛好家らの団体「全米ライフル協会」とつながりが深い共和党側は反対していて、実現の目途は立っていません。【4月11日 テレ朝NEWS】
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銃乱射事件以上に痛ましいのは子供による誤射。こちらも頻発しています。

****4歳幼児、3歳の妹に撃たれて死亡。親の銃を発見し誤発砲…米テキサス****
(中略)アメリカ・テキサス州で、4歳の女の子が3歳の妹に撃たれ、死亡した。妹は親の拳銃を持ち出し、間違って発砲してしまったとみられている。3月12日、地元当局が発表した。(後略)【3月16日 Buzz Feed】
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3月28日、インディアナ州では5歳の兄が1歳の弟を射殺する事件も。

【経口妊娠中絶薬使用停止の訴え テキサス州連邦地裁はFDAの使用承認を一時差し止める判決】
「銃社会アメリカ」についてはこれまでも何回も取り上げてきましたが、進展しない銃規制について新たに語ることもあまりありませんので、今日のメインは人工中絶の問題。

経口妊娠中絶薬「ミフェプレックス」(一般名:ミフェプリストン)をめぐって、司法の場で争いがヒートアップしています。

アメリカでは昨年6月、女性が人工中絶手術を受ける権利を認める長年の最高裁判例が覆され、中絶が合法な州と違法な州で地域差が出ています。

テキサス州では人工中絶に反対する市民団体が、アメリカなどで20年以上普及し妊娠初期の中絶に使われているミフェプリストンの安全性確認が不十分だと主張して使用停止を連邦地裁に訴えていました。

ミフェプリストンは、「ミソプロストール」という別の経口妊娠中絶薬と組み合わせて使用されます。

米食品医薬品局(FDA)や米産婦人科学会(ACOG)のほか主な医学団体は、妊娠状態を保つために必要なホルモンの働きを抑える作用があるミフェプリストン及び子宮の入り口を開き、陣痛を起こさせるミソプロストールの使用は安全だと認めています。

****日本でも注目される「経口中絶薬」海外でどう使用? 注意点は?****
(中略)
海外での使用状況は?
日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)によりますと、中絶薬の「ミフェプリストン」は、1988年にフランスで承認されて以来、今では65以上の国と地域で承認されています。G7=先進7か国でみると、承認されていないのは日本だけとなっています。

人工妊娠中絶で中絶薬を使う割合は、先進国を中心に増えています。特に北欧のフィンランドやスウェーデンでは非常に高い割合となっています。主な国々の薬での中絶の割合は以下です(冒頭のグラフ)。

患者の費用面での負担は?
専門家によりますと、イギリスやフランスでは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、オンライン診療で中絶薬を処方できるようになっていて、最寄りの薬局で受け取ったり、自宅に送られたりしています。また、他の中絶方法と同様、国民健康保険などでカバーされるため、患者の自己負担はありません。

このほか、カナダやオーストラリアでは日本円で4万円程度で、一部または全額が健康保険でカバーされるということです。

WHO=世界保健機関は中絶薬について、「安全な方法」としていて、2005年には、妥当な価格で広く使用されるべき薬として「必須医薬品」に指定しています。ちなみに「必須医薬品」には、風疹やインフルエンザの予防接種に使われるワクチンなど540あまりの品目が指定されています。(後略)【4月11日  NHK】
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“日本での使用は未承認だが、厚生労働省は薬事分科会での審議を予定している。(中略)3月中にも審議予定だったが、募集したパブリック・コメントが多数寄せられたため、審議予定をいったん見送った。”【4月8日 BBC】

使用停止の訴えを受けたテキサス州の連邦地裁判事は7日、認可を一時停止。しかしそれから間もなく、ワシントン州の連邦地裁判事が、この薬の使用は引き続き認められると、真っ向から対立する判断を示しています。

****米、妊娠中絶薬の承認差し止め 連邦地裁、安全性巡る懸念対応で****
米南部テキサス州の連邦地裁は7日、米食品医薬品局(FDA)による経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の承認の一時差し止めを命じた。

裁判官はFDAが法令上の義務に反し、安全性を巡る市民らの懸念に必要な対応を取らなかったと指摘した。

司法省などは地裁の判断を不服として連邦高裁に控訴した。

一方、西部ワシントン州の連邦地裁は7日、ミフェプリストンの入手を制限する措置を取らないようFDAに命じた。一連の判断は最高裁まで争われる可能性がある。

バイデン大統領は声明で、テキサス州の地裁判断を「女性の基本的自由を奪い、健康を危険にさらす前例のない措置だ」と厳しく非難した。【4月8日 共同】
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****米テキサス州とワシントン州、経口中絶薬の使用めぐり正反対の判断 20年以上普及****
(中略)
これについて、ドナルド・トランプ前大統領が在任中に指名したマシュー・カズマリク判事は訴えを認め、米食品医薬品局(FDA)によるミフェプリストンの認可は、特定の医薬品に関する迅速認可のルールに違反したとの判断を示した。

さらに、ミフェプリストンの「心理的影響」をFDAが「十分に考慮しなかった」ことの「重大性は看過できない」と指摘し、「生殖機能が発達中の18歳未満の少女への影響」が確認されていなかったと述べた。

その上でカズマリク判事は、連邦政府に上訴の機会を与えるため、自分の判断の適用を7日間猶予すると決定した。

米司法省は、テキサス州地裁の判断を上訴する方針を明らかにした。
FDAは2000年にミフェプリストンを初認可するまで、審査に4年かけている。

テキサス連邦地裁の判断から約1時間後、ワシントン州の連邦地裁は別の訴訟において、バラク・オバマ元大統領の在任中に指名された判事が、ミフェプリストンの使用を認めた。

ワシントン州のトマス・O・ライス連邦地裁判事は、人工中絶を州法などで認める民主党知事の17州と首都ワシントンにおいて、テキサス連邦地裁の判断の適用を差し止め、ミフェプリストンの使用を引き続き認めると判断を示した。

ワシントン州のジェイ・インスリー知事(民主党)は4日、ミフェプリストンが全国的に入手できなくなった場合に備えて、3年分を州内で備蓄したと発表していた。

双方が「勝利」と
テキサス州のカズマリク判事の判断によって、数百万人の女性が中絶薬を使えなくなる可能性がある。さらに法曹関係者からは、アメリカの医薬品認可システムの基礎そのものが揺らぐ恐れがあるという指摘もある。

そのためワシントン州のボブ・ファーガソン州司法長官は、ワシントン連邦地裁の判断を「巨大な勝利」と歓迎した。

それに対して、テキサス州でミフェプレックスの使用停止を求めた市民団体「自由防衛同盟」は、テキサスでの連邦地裁判断を女性や医師にとって「大きい勝利」と歓迎。別の中絶反対団体「命のための行進」も、「女性や少女のため大きな前進」とたたえた。

民主党のエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州)はテキサスの連邦地裁判断を非難し、「トランプに指名されたたった1人のテキサスの裁判官が、何十年も積み上げられた科学的知見より自分の方が詳しいと思って」いるとツイート。「1人の過激な右派に、女性や、医師や、科学者を否定させるわけにはいかない」と批判した。(後略)【4月8日 BBC】
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バイデン米政権は経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の販売の是非を巡る問題で、薬品メーカーや薬局チェーンと改めて協議し、販売阻止の動きに対抗する計画です。

****バイデン米政権、中絶薬販売阻止に対抗しメーカー支援=消息筋****
バイデン米政権は経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の販売の是非を巡る問題で、薬品メーカーや薬局チェーンと改めて協議し、販売阻止の動きに対抗する計画だ。事情に詳しい消息筋2人が明らかにした。

協議はバイデン政権と薬品メーカー、薬局チェーンの間で数カ月前から続けられていたが、米南部テキサス州の連邦地裁が7日、ミフェプリストンの承認の一時差し止めを命じたことで焦眉の課題に浮上した。

消息筋の1人はメーカーや薬局チェーンについて、「われわれは彼らに法的な支援を提供する手段について話し合っている」と明かした。

複数の消息筋によると、司法省がメーカーや薬局チェーンを相手取って起こされる訴訟を後退させることや、調剤を続けるための法的アドバイスを提供することなどが検討されているという。司法省は別途、テキサス州地裁の命令の差し止めを求める。(後略)【4月10日 ロイター】
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【連邦高裁 FDAによる承認は覆さないが、その後の規制をゆるめた変更は認められないと判断 バイデン政権は最高裁へ上告】
バイデン政権は連邦高等裁判所に判断を差し止めるよう上訴。

****米「妊娠中絶薬の承認停止」判断に政府が上訴 製薬会社も抗議の声明****
アメリカ政府は10日、連邦地方裁判所の判事が人工妊娠中絶のための飲み薬の承認を中止したことを不服とし、連邦高等裁判所に判断を差し止めるよう上訴しました。(中略)

テキサス州の連邦地方裁判所の判事は先週末、「FDAは政治的な圧力により安全対策を十分に取らずに薬を承認した」として薬の販売停止を命じましたが、アメリカ政府は「専門家の判断を裁判所が覆すのは危険な前例となる」と指摘。連邦高等裁判所に上訴し、判断を差し止める緊急命令を出すよう申し立てています。 

また、400社以上の製薬会社などの幹部は判事に対し、判断を撤回するよう求める公開書簡に署名しました。 製薬会社の幹部らはこの中で、「数十年にわたり築かれた科学的な証拠や事例を無視する判断が下され、政府機関の権威を傷つけた」としたうえで、FDAによる薬の承認の継続を支持しています。【4月11日 TBS NEWS DIG】
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注目された米連邦高裁の判断は、対面診療を受けるなどの条件付きで同薬を当面は入手可能にするものの、郵送での薬の受け取りなどを制限するものでした。

つまり、FDAによる2000年の承認は覆さないが、その後に薬を使用できる期間や受け取り方法などの規制をゆるめた変更は認められないと判断しています。

****米高裁、中絶薬入手に条件 バイデン政権は最高裁に上訴も****
米連邦高裁は12日、経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の承認を巡る控訴審で、対面診療を受けるなどの条件付きで同薬を当面は入手可能にする判断を示した。(中略)

高裁は地裁判決の一部を保留にする一方、2016年に解除されていた同薬の流通制限を事実上復活させる部分は是認。3回の対面診療に加え、中絶薬の使用を妊娠10週以内から7週以内に限定することが含まれている。(後略)【4月13日 ロイター】
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バイデン政権はこの連邦高裁判断を不服として最高裁で争う方針です。

****米司法省、経口妊娠中絶薬の制限停止を最高裁に要求へ****
米司法省のガーランド長官は13日、経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の入手に一定の制限を設けたルイジアナ州ニューオーリンズの連邦高裁の判断を不服として、連邦最高裁に制限を停止するよう求める声明を発表した。バイデン政権は同薬の使用権擁護を掲げている。

ガーランド氏は声明で、米食品医薬品局(FDA)の科学的判断を擁護するとともに、米国民が安全かつ効果的な生殖関連の治療を受けられるようにするため、最高裁に緊急措置を求めると表明した。(後略)【4月14日 ロイター】
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常に問題となるように、最高裁は現在、保守派が多数を占めています。
その最高裁で、連邦高裁判断を更に緩めて、これまでどおりの使用を認める判断がだされるのは難しいようにも思えますが・・・。

政権として、これまでからの「後退」を認める訳にはいかない・・・というところでしょうか。

【保守派主張に沿った使用制限は政治的には保守派の「勝利」にはならないかも】
このミフェプリストンをめぐる争いについての個人的印象をふたつ。

ひとつは使用禁止を求める側やテキサス州地裁はFDA・医学会が認め、20年以上使用してきた薬の「安全性」を云々していますが、「それほど安全性と言うのであれば、銃を野放ししている現状はどうよ?」という印象。

これは「日本の常識」ではありますが、銃社会アメリカではまた違うのでしょう。
銃も中絶も、安全性ではなく価値観の対立でしょう。 

もうひとつは、政治的影響に関するもの。
いわゆるリベラルな立場からすると、保守派の主張によってこれまでの権利が「後退」したという形ではありますが、それは保守派の「勝利」とはならないかも。

先の中間選挙で予想に反して民主党が善戦し、共和党が事実上敗北したのは、有権者の間でのトランプ政治復活に対する危機感と、直前に問題となった最高裁による中絶に関する「後退」判断があってのことでした。

中絶に関する保守的判断は共和党岩盤支持層には歓迎されても、中間層・無党派層の警戒感を強めることになります。

今回のミフェプリストンについても、最高裁で保守的判断が下されれば、同様の流れが起きることも考えられます。

中間層・無党派層の賛同を比較的得やすい「中絶」を争点とするのは、民主党サイドとしては戦いやすい戦略でしょう。

【バイデン政権 中絶違法州から合法州へ移動しての中絶を保護する対応検討】
中絶が合法な州と違法な州の地域差が顕著になっており、州をまたいだ中絶が違法な州で「犯罪」として逮捕されることもある現状に関して、合法の立場のバイデン政権は歯止めをかけるための健康情報の提供制限を提案しています。

****バイデン米政権、中絶女性保護で新たな法案 健康情報の提供制限***
バイデン米政権は12日、女性の健康情報の保護を強化する新たな個人情報保護法を提案した。人工妊娠中絶を受ける女性に対する起訴や捜査に健康情報が利用されるのを防ぐのが狙い。60日間の意見公募を行った後に最終案をまとめる。

全ての州に適用される、医療データ規格の「医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPAA)」を見直す。医療機関や保険会社などによる個人の健康情報の入手を認めている例外規定を改め、妊娠中絶など生殖医療に関する情報については医療目的以外の利用や開示を禁止する。捜査や訴訟手続きに入るために個人を特定することも禁じる。

ただ、医療法ではなく刑法である州の中絶禁止法に対して新たな法律がどの程度効果を持つか不透明だ。

米国では既に数千人の女性が、中絶が合法化されている州に移動して中絶措置を受けている。しかし今月にアイダホ州で中絶のため州外に出ることを明確に制限する法律が可決され、他の州に移動して中絶措置を受けると犯罪捜査の対象になるとの懸念が高まっている。【4月13日 ロイター】
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