孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルメニア  ロシア「同盟国」ながら、アゼルバイジャンとの紛争に手をうたないロシアから離反進む

2023-04-17 23:36:45 | ロシア

(色が着いたエリアをアルメニアが実効支配していましたが、2020年の紛争で色の薄い部分をアゼルバイジャンが奪還し、アルメニア支配は色の濃い部分だけになっています。そのアルメニア支配の濃い部分がアルメニアと繋がっているのが「ラチン回廊」)

【アルメニア 機能しないロシア平和維持部隊に強い不満】
ともに旧ソ連のアルメニアとアゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフをめぐって争いを続けているのは周知のところです。

ナゴルノ・カラバフは住民の大半がアルメニア人という地域で、ソ連時代にはアゼルバイジャン共和国の自治州でしたが、1990年代の「第1次紛争」でアルメニアの実効支配下に入りました。

しかし、2020年、トルコの支援を受けたアゼルバイジャンは「第2次紛争」でその相当部分を奪還しています。

その後も両国の衝突は絶えず、昨年9月には双方の兵士合わせて200人以上が死亡する大規模な衝突が再発、12月にはアルメニア領内からナゴルノ・カラバフに向かう唯一の道路をアゼルバイジャンの自称市民団体が封鎖し、ナゴルノ・カラバフでは食料や医薬品が入らなくなるという事態にもなりました。

ロシアの同盟国アルメニアは、ロシアがこの紛争・衝突に対し実力行使しないこと不満を強めています。
昨年11月にアルメニアの首都エレバンで開催されたロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議では、アルメニアは共同宣言への署名を拒否、首相の言動にもロシアへの不満が強くあらわれていました。

****プーチンが近づくのを露骨に嫌がる...ロシア「同盟国」アルメニア首相の行動が話題****
<プーチンの貴重な「味方」であるはずのアルメニアだが、アゼルバイジャンとの紛争でロシアの支援がなかったことに不満を募らせている>

ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議で、アルメニアのニコル・パシニャン首相が写真撮影の際、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領からあからさまに距離を置こうとしている様子が収められた動画が公開された。パシニャンは、同会議で共同宣言への署名を拒否するなど、ロシアへの不満をあらわにしている。(中略)

(動画を投稿した米議会の欧州安全保障協力委員会(CSCE)の)ニシャノフは「アルメニアのパシニャン首相は、プーチンからできるだけ離れたところに立とうとしている。そしてプーチンもそれに気づいている。ロシアが主導しているはずの安全保障圏の会合で侮辱されるとは」と述べた。

パシニャンは首脳会議の共同宣言について、自国の領土保全に対する「侵略」を行った隣国アゼルバイジャンについての記述がないことを非難し、署名を拒否していた。

東欧メディアのNEXTAが公開した首脳会議の別の映像では、パシニャンが共同宣言に署名をせずに、会議の閉会を宣言する様子が捉えられている。各国首脳と共に会議のテーブルを囲んだパシニャンは、「閉会します。ありがとうございました」と言い、同席していたプーチンやベラルーシのアレクサドル・ルカシェンコ大統領は、狼狽するような素振りを見せた。

CSTOは、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ロシアの6カ国で構成されている。

9月に起きた紛争へのロシアの対応に不満
パシニャンは(2022年11月)23日、「アルメニアがCSTOに加盟していながら、アゼルバイジャンの侵略行為を防げなかったことは憂慮すべきことだ」と発言。

「今日までに、アゼルバイジャンのアルメニア侵略に対するCSTOの対応について決定に至っていない。これらの事実は、我が国内外のCSTOのイメージを大きく損ねている。これはCSTO議長国としてのアルメニアの重大な失敗と考えている」と述べた。

アルメニアとアゼルバイジャンの間では、9月に紛争が発生し、双方の兵士合わせて200人以上が死亡。2020年に6000人以上が死亡して以来、最悪の衝突となった。

44日間にわたった2020年の紛争では、アゼルバイジャンが領土を奪還した。アルメニア政府は当時、CSTOに支援を要請したが、CSTOはオブザーバーの派遣を約束するにとどまった。

パシニャンとプーチンは23日に会談も行っている。パニシャンは、アルメニアとアゼルバイジャンが署名し、ロシアが支援する3国間協定についても協議したと明らかにした。「これらは非常に重要な問題だ。この地域の長期的な平和を確保するための問題について協議するべきだ」とパシニャンは述べた。

なおプーチンは、CSTO首脳会議について「すべての問題で合意に達することは稀だが、全体として非常に集中的で有益だった」と述べた。【2022年11月26日 Newsweek】
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アルメニアは、ロシア・プーチン大統領に事態の収拾(有体に言えば、アゼルバイジャンを力で抑え込む対応)を強く求めています。

昨年12月に開催されたロシア主導の独立国家共同体(CIS)非公式首脳会でも、アルメニアのパシニャン首相は、係争地ナゴルノ・カラバフ周辺に展開したロシアの平和維持部隊が「機能していない」として、プーチン大統領に苦言を呈しています。

****アルメニア首相、ロシア平和維持部隊の役割に疑問符****
アルメニアのニコル・パシニャン首相は(2022年12月)27日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談で、自国とアゼルバイジャンの係争地ナゴルノカラバフに展開したロシア平和維持部隊の役割に疑問を呈した。

人口約12万人のナゴルノカラバフでは今月中旬から、アゼルバイジャンの活動家らが違法採掘に抗議するとしてナゴルノカラバフとアルメニアを結ぶ唯一の陸路、ラチン回廊を封鎖。その結果、ナゴルノカラバフでは食料、医薬品、燃料などの搬入が止まっている。

この抗議行動について、アゼルバイジャン側は自然発生的なものだと主張しているが、アルメニア側は同国にナゴルノカラバフを放棄させるためにアゼルバイジャンが仕組んだものだと非難している。

パシニャン氏は独立国家共同体非公式首脳会議が開かれたロシア・サンクトペテルブルクでプーチン氏と会談。ラチン回廊は「ナゴルノカラバフに駐留するロシア平和維持部隊が責任を負うべき地域である」にもかかわらず、「管理されていない」と指摘した。 【2022年12月28日 AFP】
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アルメニアはロシアとの軍事演習も拒否。

****アルメニア、ロシア主導の軍事演習拒否=係争地巡る不満で****
アルメニアのパシニャン首相は10日、同国で今年予定されているロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)の軍事演習を拒否する考えを示した。タス通信によると、記者会見で「現状で演習を行うことは不適切だとアルメニア国防省がCSTOに書面で通知した」と述べた。(後略)【1月10日 時事】
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【米仲介の首脳会談も】
2月にはアルメニア・アゼルバイジャン両国首脳の会談が行われましたが、「口論」に終わっています。

****ナゴルノ問題協議も対立、アルメニアとアゼル首脳会談****
アルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領は18日、ドイツで開かれた国際会議「ミュンヘン安全保障会議」に出席した際、係争地ナゴルノカラバフ地域について会談したが口論を繰り広げ、溝が鮮明になった。

両氏が直接顔を合わせるのは昨年10月以来。会談はブリンケン米国務長官の仲介で行われ、和平に向けた進展があったと双方が発表した。

しかしその後開かれたパネルディスカッションでアリエフ氏が、アルメニアは30年近くアゼルバイジャンの領土を占拠していると非難し、ナゴルノカラバフ分離派の高官を批判。

一方のパシニャン氏は「アゼルバイジャンは報復政策をとっている」と主張。この会議を使って「不寛容、憎悪、攻撃的な言い回しをあおり立てる」のか、事態の改善を図るつもりなのかと詰め寄り、対立が露わになった。

ナゴルノカラバフは国際的にアゼルバイジャンの領土と認められているが、住民はアルメニア人が大半を占めている。【2月20日 ロイター】
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「口論」は予想される展開ですが、ブリンケン米国務長官の仲介というのが興味深いところ。
ロシアが手をこまねいている状況で、アメリカの影響力を強めようという意図でしょうか。

【「手が回らない」ロシア アゼルバイジャン・トルコを刺激したくない思惑も】
現地では3月にも銃撃戦があったようです。
ロシアは自制を呼び掛けており、衝突の鎮静化に平和維持軍が介入したとも。

****ロシア、ナゴルノカラバフ銃撃戦「深刻に懸念」 自制呼びかけ****
ロシア外務省のザハロワ報道官は6日、係争地ナゴルノカラバフ地域の緊張の高まりに「深刻な懸念」を表明し、自制を呼びかけた。

旧ソ連アルメニアとアゼルバイジャンの間の係争地ナゴルノカラバフで5日、銃撃戦が発生し5人が死亡。ロシア国防省によると、アゼルバイジャン軍が地元の法執行官が乗った車両に向けて発砲し、3人が死亡、1人が負傷した。これを受け、親アルメニア派がアゼルバイジャン兵士2人を殺害したという。

ザハロワ報道官は声明で「今回の事件でアゼルバイジャンとアルメニアができるだけ早期に協議を再開する必要性が改めて確認された」とし、「双方が自制し、緊張緩和のための措置を講じるよう呼びかける」とした。

ロシア国防省は、5日の衝突の鎮静化に平和維持軍が介入したと明らかにし、衝突の実態を解明するためにアゼルバイジャンとアルメニア両国の当局者と協力していると明らかにした。

アルメニアとアゼルバイジャンのナゴルノカラバフ支配権を巡る紛争は約35年間続いており、ロシアは2020年に数千人規模の平和維持軍をこの地域に派遣。

ロシアがウクライナへの侵攻を続ける中、ナゴルノカラバフで新たな衝突が発生したことは、ロシアの南コーカサス地域での影響力への重要な試練とみられている。【3月7日 ロイター】
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ただ、素人でも容易に想像できるように、ウクライナで手一杯のロシアはとてもナゴルノ・カラバフどころではないでしょう。ナゴルノ・カラバフの平和維持軍もウクライナに投入したいところでしょう。

4月に入ってからも衝突は発生しています。

****「そこまでは手が回らない」──旧ソ連の国々の紛争にはプーチンもお手上げ****
<ナゴルノカラバフ地方のラチン回廊で両国軍の兵士が発砲し、死者が出る事態に。ウクライナ戦争に総力を注ぎ込んでいる今、そこまで対応できないという見方が>

旧ソ連のアルメニアと隣国アゼルバイジャン間の係争地ナゴルノカラバフ地方のラチン回廊で4月11日、両国軍の兵士が発砲し、双方に7人の死者が出る事態となった。

今回の衝突は、2020年に起きた6週間のナゴルノカラバフ紛争の延長線上にある。この紛争はロシアの仲介で停戦に至ったが、火種が全て取り除かれたわけではない。

衝突に先立つ7日にはアルメニアのパシニャン首相がロシアのプーチン大統領と電話会談し、ナゴルノカラバフの状況について協議。

双方で停戦合意を履行することの重要性を確認し合ったとされるが、その直後にアルメニア側に通じる唯一の補給路であるラチン回廊で両軍が衝突した。

ロシアはこれまで、旧ソ連構成国であるアルメニアとアゼルバイジャンに影響力を及ぼそうとしてきたが、ウクライナ戦争に総力を注ぎ込んでいる今、この2カ国の紛争にまで手が回らないとの見方もある。
プーチンにとっては新たな頭痛の種かもしれない。【4月17日 Newsweek】
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「手が回らない」だけでなく、ロシアには友好関係にあるアゼルバイジャンや同国の後ろ盾であるトルコと敵対する事態を避けたいという事情もあります。

【米との軍事演習、プーチン逮捕の可能性もあるICC加盟も視野に・・・進むアルメニアのロシア離れ】
有効な手が打てないロシアに対し、アルメニアのロシア離れが進んでいます。

アルメニアの憲法裁判所が最近、国際刑事裁判所(ICC)の管轄権を定めた「ICCローマ規定」に同国が加盟することは合憲だと判断。もし加盟ということになると、ICCはプーチン大統領に逮捕状を出していますので、アルメニアを訪問したプーチン大統領をアルメニアが逮捕・・・ということも「理屈の上では」成立します。

アルメニア側の判断は、そうしたこを念頭に置いた、ロシアへの抗議でしょう。
ロシアはアルメニアに「警告」しています。

****露、アルメニアに警告 ICC加盟でプーチン氏拘束を危惧****
ロシアと軍事同盟を結ぶ南カフカス地方の旧ソ連構成国、アルメニアの憲法裁判所が最近、国際刑事裁判所(ICC、本部=オランダ・ハーグ)の管轄権を定めた「ICCローマ規定」に同国が加盟することは合憲だと判断した。

今後、アルメニア議会がICC加盟の是非を検討する。これに対し、露外務省は27日までに「プーチン大統領に逮捕状を出したICCの管轄権をアルメニアが認めることは容認できず、両国関係に重大な結果をもたらす」とアルメニアに警告した。露外務省筋の話としてタス通信や国営ロシア通信が伝えた。

ロシアはアルメニアがICCに加盟した場合、同国訪問時などにプーチン氏が拘束される可能性があるとみて、同国のICC加盟を阻止する思惑だとみられる。ICCは17日、ウクライナの子供の連れ去りに関与した疑いでプーチン氏に逮捕状を出した。

タス通信によると、アルメニア政府は、係争地「ナゴルノカラバフ自治州」を巡って2020年に大規模紛争が起きた隣国アゼルバイジャンの戦争犯罪を追及する目的で、ICCへの加盟を検討。

昨年末、アルメニア政府はICC加盟の合憲性に関する審査を同国憲法裁に求めた。憲法裁は今月24日、ICC加盟は合憲だと判断。憲法裁の判断は取り消し不可能だという。

今回の憲法裁の判断には、ロシアに対するアルメニアの不満が反映された可能性がある。

20年の紛争で、アルメニアとアゼルバイジャンはロシアの仲介で停戦に合意。ただ、アルメニアは同自治州の実効支配地域の多くを失う形となり、以降、ロシアへの不満をたびたび表明してきた。アゼルバイジャンとの間で昨年9月に再び衝突が発生した際も、アルメニアは自身が加盟する露主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」に介入を求めたが、CSTOは事実上拒否した。

ロシアはウクライナ侵略で余力がないことに加え、友好関係にあるアゼルバイジャンや同国の後ろ盾であるトルコと敵対する事態を避けたとの見方が強い。(後略)【3月29日 産経】
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更にアルメニアは米軍主導の軍事演習にも参加するとのこと。

****アルメニア、米軍と演習へ ロシア反発も****
アルメニア国防省は7日、欧州地域で今年実施される米国主導の軍事演習に参加すると明らかにした。タス通信が報じた。

アルメニアは旧ソ連6カ国でつくるロシア主導の「集団安全保障条約機構(CSTO)」に加盟しているが、係争地ナゴルノカラバフを巡る隣国アゼルバイジャンとの紛争に関する対応を不満として、今年は自国領内でのCSTO合同演習を受け入れない方針。米軍との演習への参加はロシアの反発を招くとみられる。

ロシア大統領府によると、プーチン大統領は同日にパシニャン・アルメニア首相と電話会談し、ナゴルノカラバフ問題を協議した。発表は軍事演習参加問題には触れていない。【4月7日 共同】
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ここまでくると、アルメニアとロシアの「同盟関係」が大きく揺らぎます。

****旧ソ連・アルメニアがロシア離れ? ナゴルノカラバフ巡り不満か****
親露国家とみられてきた旧ソ連のアルメニアが、米軍主導の演習に参加を発表するなど対露姿勢に変化が生じている。ウクライナ情勢を巡ってプーチン露大統領に逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)への加盟検討も進めており、ロシアは反発を強めている。

◇米主導演習参加、ICC加盟の動き
(中略)アルメニアはロシアが主導する軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)に加盟するが、ナゴルノカラバフ情勢への対応の不満から、今年は自国領内での演習を受け入れない方針を表明した。米軍主導の演習に参加すれば、ロシアとの関係が悪化する可能性もある。(中略)

ICC加盟に向けた動きも、背景にあるのはナゴルノカラバフ情勢だ。(中略)

両国の関係がもつれる中、ロシアは3月末、アルメニアからの乳製品の輸入を禁じると発表した。衛生上の理由だとしているが、ICCへの加盟を巡り、アルメニアに圧力をかける意図もあるとみられる。【4月9日 毎日】
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ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアは自国軍事力の実態を世界に曝し、経済の長期的悪化を余儀なくされ、中立だったフィンランド・スウェーデンをNATO加盟に向かわせ、その混乱の余波でアルメニアにも十分な対応ができずに離反を招く・・・中央アジアの旧ソ連構成国でもロシア離れが進んでいます。

プーチン大統領の「失敗」のつけはロシアにとって極めて大きなものになりそうです。
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