孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州  首脳の「北京詣で」 中国との経済切り離しできず エンジン車・原子力で内部対立あるも・・・

2023-04-03 23:33:22 | 欧州情勢

(EUのフォンデアライエン欧州委員長(右)とフランスのマクロン大統領(左) 2月撮影 【4月3日 ロイター】)

【相次ぐ欧州首脳の北京詣で 「経済切り離しできず」との認識 中国はアメリカと欧州の間にくさびを打ちたい思惑】
以前から時折触れているように、EUのフォンデアライエン欧州委員長及びフランス・マクロン大統領が5日から7日まで中国を訪問します。

3月31日にはスペイン・サンチェス首相が訪中し、習近平国家主席と会談したばかりです。

この会談では、サンチェス首相が、ウクライナのゼレンスキー大統領が11月に提案した、2014年のロシアによるクリミア併合前の状態に戻すことを含む和平案をスペインが支持していると習氏に伝え、ゼレンスキー大統領と話し合うことを習近平氏に勧めたのに対し、習主席は「ヨーロッパは戦略的自立性を堅持することが必要だ」と述べ、対中圧力を強めるアメリカと一線を画すよう求めました。

激しさを増す米中対立のなかにあって、欧州は人権問題などでは中国を批判しつつも、アメリカの対応とは一線を画し、中国との経済的な関係を重視しています。

****EU首脳、続々訪中 米国とは一線「経済切り離しできず」****
フランスのマクロン大統領とフォンデアライエン欧州委員長が5日、中国を訪問する。習近平指導部が昨年秋の共産党大会で3期目続投を決めた後、欧州連合(EU)から首脳の「北京詣で」が相次ぐ。

米国がロシアと中国の同時封じ込めを狙うのに対し、EUは対中関係を重視し、独自外交を探る。中国は米欧分断の好機と位置付け、経済協力を持ちかけてくさびを打ち込む構えだ。

マクロン、フォンデアライエン両首脳は5日に北京入り。6日に習国家主席、李強首相と会談する。共に訪中することで、EU外交の結束を示す狙いがある。

仏大統領府筋は、課題の筆頭にウクライナ侵攻への対応をあげた。「中国はロシアと関係が深く、特異な立場を持つ。ウクライナ国民を助け、紛争解決につながるような方策を探る」と強調した。習氏が停戦を目指し、「仲介外交」に動き出したことへの期待感をのぞかせた。

EUからは昨年秋以降、ショルツ独首相、ミシェルEU大統領が北京入り。先月末、スペインのサンチェス首相が続いた。いずれも「中国は和平実現に向け、ロシアに圧力をかけてほしい」と促し、米国の対中強硬策とは距離を置く。

相次ぐ訪中の背景には、「中国との経済関係は不可欠」という認識がある。

フォンデアライエン氏は先週の演説で「対中デカップリング(経済切り離し)は実行不可能で、欧州の利益にならない」と述べ、米国との違いを強調した。

中国はロシアを支え、アジアで軍事威嚇を強めていると警戒感を示しながら、EUはレアアースの98%、リチウムの97%を中国の供給に依存していると訴えた。いずれも電気自動車(EV)産業に不可欠で、需要急増が予想される。

ドイツの自動車産業にとって、中国市場は欠かせない。スペインは、新型コロナウイルス禍後の中国人観光客の復活を期待する。マクロン氏の訪中には、航空大手エアバス、フランス電力など仏企業トップら約60人が同行する。

EUは近年、中国企業の投資攻勢に対する規制を強めている。通信事業でも、安全保障上のリスクから参入に歯止めをかける動きが広がる。

安価なロシア産ガスに頼ってきた反省を踏まえ、戦略的物資では「中国頼み」からの脱却を目標に掲げる。供給網の多極化を目指すが、現状は追いついていない。

フランス戦略研究財団のアントワーヌ・ボンダズ研究員は、「EUの結束は大事だが、米中対立の中で『第3の道』をとると強調しても、実力が伴わない。米欧を分裂させようとする中国の思惑にはまりかねない」と警告する。【4月3日 産経】
*******************

もちろん欧州側にも、安全保障面での中国への警戒感はあります。
気球問題に続いて、アメリカがやり玉に挙げている「TikTok」の問題では、フランスやEU委員会も利用を制限する動きを見せています。

****フランスも 公務員業務用端末での「TikTok」禁止****
フランス政府は、公務員が業務用の端末で、中国発の動画投稿アプリ「TikTok」を利用することを禁止しました。

フランス政府は24日、国家公務員に対し「TikTok」を含む娯楽用アプリについて、業務用の端末での利用を禁止すると発表しました。アプリを分析した結果、「サイバーセキュリティとデータ保護のレベルが十分ではない」と判断したということです。

「TikTok」をめぐっては、アプリを通じて利用者のデータが中国政府に流出するという懸念から、アメリカのほか、ヨーロッパではイギリス、EU委員会などでも同様の措置が先行して講じられています。【3月25日 TBS NEWS DIG】
**********************

しかし、地理的にも中国から遠く、中国の軍事力を直接的脅威として感じる機会が少ない欧州は、台湾や南シナ海で中国と対峙するアメリカとは、中国の脅威に関しての認識はやや違いはあるでしょう。

“中国は米欧分断の好機と位置付け、経済協力を持ちかけてくさびを打ち込む構え”ということで、欧州首脳の“北京詣で”の流れを歓迎しています。

****欧州委員長、5─7日に訪中 EUとの協力に焦点=中国外務省****
(中略)
中国外務相の毛寧報道官は「中国とEUが相互尊重とウィンウィンのための協力の精神を堅持し、混乱と困難を乗り越え、合意と協力に焦点を当てることが重要だ」と述べた。

「中国はEUと協力する用意がある」とし、今回の訪問について、国際的な課題に対処し、不確実性の高い世界に一段の安定と前向きなエネルギーをもたらす機会ととらえていると語った。【4月3日 ロイター】
********************

【完全に「デカップリング」できないのはアメリカも同じ 「何をどこまで」を慎重に探る】
先端半導体製造装置の輸出管理厳格化などで中国と厳しく争うアメリカにしても中国と深く広範な経済関係があり、中国と完全に「デカップリング」できないことは承知でしょう。そのあたりが冷戦時の東西対立とは異なります。
アメリカも(そして追随する日本も)「何をどこまでやれるか」慎重に見極めながらの対応です。

****先端半導体製造装置の輸出管理厳格化も 中国と完全に「デカップリング」できない日米の経済事情****
日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が4月3日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。経済産業省が発表した先端半導体製造装置の輸出管理厳格化について解説した。

先端半導体製造装置の輸出管理を厳格化へ
経済産業省は3月31日、先端半導体の製造装置23品目について輸出管理を厳格化すると発表した。輸出管理の仕組みが整っていると認めたアメリカや韓国など42の国や地域への輸出以外は毎回、経済産業大臣の許可が必要となり、中国などへの輸出は事実上難しくなる。

秋田)(中略)アメリカは既に先端半導体について、事実上の輸出禁止に近いような措置をとっています。ここで「だだ漏れになっては困る」ということで、まずは日本・オランダの2ヵ国と話したのでしょう。

「切磋琢磨する」のではなく、中国が強くなるのを阻止していくというフェーズに入ったアメリカ
飯田)毎回、経済産業大臣の許可が必要になる。報道によっては「厳しくなる」というところと、「実は条件さえ満たせば輸出できるので、あまり影響はない」とするところ、2つに分かれているように見えたのですが。

秋田)いずれにせよ、いままでなかった枠組みができたのですから、やはり厳しくなるのだと思います。これまでなかった規制ができるわけですからね。(中略)

これまでアメリカが同盟国に協調を求めていた対中政策は、「中国と競争していく」ということでした。中国も強くなるけれど、自分たちも強くなってハイテクなどで「競争していこう」というレベルだったのです。(中略)

しかし、今回は自分たちが強くなるだけではなく、相手が強くなるのを阻止する。もはやお互いに強くなって「切磋琢磨する」のではありません。中国が強くなるのを阻止するフェーズに入ったのだと思います。(中略)

半導体はその第一歩です。アメリカの専門家によると、今後はAIやバイオなど、その他の重要な分野でも同じような措置を検討するだろうと言われています。

「何をどこまで切り離すか」を試行錯誤しながら行う日米政府 〜完全にデカップリングすることはできない
飯田)日本の経済界も、現地に生産を移すなど、中国との付き合い方を考えなければならない。大手自動車メーカーが自動運転を中国で研究するなどというニュースもありましたけれど、それも難しくなっていきますか?

秋田)アメリカ政府も日本政府も、「何をどこまで切り離すか」というところは試行錯誤していると思います。米ソ冷戦のときとは違い、完全にデカップリングするわけではなく、プチデカップリングだと思います。(中略)

「ここは切り離せるけれど、ここを切り離したら大変なことになってしまう」というように、メスで微細にデカップリングしようとしているのです。(中略)

中国との結びつきがあまりにも深いので、全部を切り離すことはできない。「ここはメスで切れるところなのか、切れないところなのか」を日々チェックしながら進める必要があります。(中略)

来年(2024年)にはデカップリングされてしまう可能性があるとすれば、先回りして、別の市場や生産拠点に移す。あるいは中国に関してだけ別の会社にするなど、いろいろなことを考える時期かも知れません。【4月3日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
******************

【EU内部の意見対立 合成燃料利用のエンジン車 原子力の位置づけ】
EUに関して最近話題になっているのが、内燃機関(エンジン)車の新車販売に関する方針変更の件。

****EU、エンジン車容認へ=合成燃料に限定、独と合意****
欧州連合(EU)欧州委員会とドイツ政府は25日、2035年以降も条件付きで内燃機関(エンジン)車の新車販売を認めることで合意したと発表した。

EUでは当初、温室効果ガス削減策の一環として、全てのエンジン車を禁止する方針だったが、自動車大国ドイツが反対していた。二酸化炭素(CO2)と水素で製造する合成燃料を使用する場合に限って容認することで折り合った。

EUのティメルマンス欧州上級副委員長はツイッターで「将来の合成燃料使用でドイツと合意に達した」と表明。ウィッシング独交通相も「CO2の排出量が実質ゼロになる燃料だけを使う場合、35年からもエンジン車が許可される」と説明した。

合意の具体的な内容は明らかになっておらず、今後、他の加盟国も交えた正式な手続きの中で示される見通し。独メディアによると、ウィッシング氏は24年秋までに手続きを完了したい考えという。

合成燃料は工場の排出ガスや大気中から回収したCO2を利用する開発中の新技術。ガソリンの代わりに使うことができ、CO2を排出するが、再利用もすることから排出は「実質ゼロ」とされる。【3月25日 時事】
*******************

ドイツがエンジン車禁止に反対するのは、雇用への影響。EVに比べて関連部品が多く、産業の裾野が広いエンジン車を禁止すると、深刻な雇用問題を惹起する危険があるため。

従来から日本のトヨタなどが主張しているところでもあり、電気自動車(EV)の普及に懐疑的な見方をする人からは「それみたことか!」という声が上がっていますが、二酸化炭素(CO2)と水素で製造する合成燃料が現実的に利用されるかどうかはコストが問題になります。

現在は通常のガソリンの2~5倍とかなり高価ですが、今後大量生産が進めば安くなるという見方と、電気を使えず合成燃料に頼らざるを得ない飛行機や船舶などと競合する形になるので、自動車向けの合成燃料はそんなに安くはならないという見方があるようです。

****EUがエンジン車容認 高価格の合成燃料、利用は限定的か****
欧州連合(EU)が2035年にガソリン車など内燃機関車の新車販売を禁止する方針を事実上撤回した。温暖化ガス排出をゼロとみなす合成燃料の利用に限り販売を認める。ドイツの反発を受け入れた格好だが、合成燃料はガソリンの2〜5倍と高額で、船舶・航空など限定的な利用にとどまる公算が大きい。(後略)【3月26日 日経】
****************

EU内部には、環境への影響をめぐって、原子力の位置づけでも深刻な対立があります。

****EU、再生可能エネルギー規則で原子力の扱い巡り対立****
欧州連合(EU)の再生可能エネルギー規則の目標を巡り、原子力を認めるかどうかで対立する加盟国が28日、最終的な協議を行った。

加盟国と議会は29日に2030年までに再生可能エネルギーを拡大するためのより厳格な目標で合意を目指していた。これは二酸化炭素(CO2)の排出を削減するとともに、ロシア産のガスへの依存を減らす計画のカギになる。

しかし、原子力の位置付けに関する協議は難航。EUの温暖化対策に関する合意を脅かしている。

オーストリアを中心としたドイツ、スペインなど11カ国は28日の会合で、再生エネルギー規則では原子力を除外することを推奨した。原子力を盛り込むことで、風力および太陽光発電を大幅に拡大する取り組みが阻害されると主張した。

一方、フランスのアニエス・パニエリュナシェ・エネルギー移行相はこの日、チェコ、フィンランド、イタリア、ポーランドなど13カ国による原発推進国の会議を開催。共同声明で各国は「原発プロジェクトには望ましい産業、金融の枠組みが必要との認識で一致した」と表明した。

このうち9カ国程度は、原子力発電で生成された「低炭素水素」を再生可能エネルギーとして扱うことも求めた。【3月29日 ロイター】
**********************

EU内部に対立・意見の相違があるのは“当たり前”の話で、今も昔も対立続きです。
そうした対立を抱えながらも、国家主権を大きく制約しながらも、それでも(イギリスの離脱意外は)EUが割れない、むしろ拡張している事の方が重要でしょう。

ナポレオンの時代から大陸とは距離を置いてきた、また、アメリカとの「特別な関係」にも期待するイギリスは別にして(離脱への後悔が広がっているようですが)、大陸の国々には、自分たちの経済的・政治的利益を守るためにはまとまるしかないという思い、更には、ロシアの脅威に備える安全保障面、そして何より再び欧州を戦場にしないためにはまとまる必要があるとの思いが根底に強くあるためでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする