(警察学校の卒業式で演説するアフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権のシラジュディン・ハッカーニ内相=首都カブールで2022年3月5日 【3月4日 毎日】)
【更に女性就労に制約 国連女性職員も勤務禁止に 懸念される人道支援活動の停滞】
アフガニスタン・タリバン政権が女性の教育・就労を厳しく制限していることは再三取り上げているところですが、これまでは例外的に認められていた国連女性職員にも出勤停止が及んでいるようです。
****タリバン、国連女性職員も勤務禁止に アフガン****
国連は4日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン政権が女性のNGO勤務を禁止する措置を国連ミッションにも拡大したとして、「容認できない」と非難した。
国連アフガニスタン支援団は同日、東部ナンガルハル州で国連の女性職員の活動が禁じられたと報告した。
アントニオ・グテレス国連事務総長のステファン・ドゥジャリク報道官は記者会見で「UNAMAが、女性職員の活動を禁じる通達をタリバン暫定政権から受けた」とし、各方面から「対象は国内全土」との情報を得ていると述べた。
タリバンは昨年12月、女性が国内外のNGOで働くことを禁じたが、国連関連は対象外としていた。
ドゥジャリク氏は、書面による禁止命令は届いておらず、5日に首都カブールでタリバン側と協議して確認するとした。
グテレス氏はタリバン側の出方について「受け入れられない。率直に言ってあり得ない」と非難。国連がアフガンで2300万人を対象に行っている人道支援に女性職員は不可欠だと訴えた。 【4月5日 AFP】
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アフガニスタンのように男女の区分が厳しい社会にあっては、一般女性を対象にした業務を行うためには女性スタッフが必要になります。従って、女性職員の出勤停止は単に当事者だけの問題ではなく、女性向けの対象業務がストップすることを意味します。
国連によると現在アフガニスタンでは2830万人ほどが救命のための支援を必要としており、うち2千万人が食糧難に直面し、600万人ほどが飢え死にする危険性を抱えていると言われています。
国連は、今回の女性職員就労禁止は、そのような危機的状況にある人たちに悪影響を及ぼすと警告しています。
【タリバン政権内部に女子教育をめぐる意見対立も “あの”武闘派ハッカニ内相が女子教育再開を求める】
ここまでの話であれば、「やれやれ、タリバンの女性に対する施策は相変わらず・・・」ということになりますが、興味深いのは女性の教育をめぐってタリバン政権内で意見対立があると報じられていることです。
****アフガニスタン女子教育再開撤回 タリバン強硬派が反対****
アフガニスタンで停止が続く女子中等教育について、イスラム主義組織タリバンの最高指導者アクンザダ師が、学校で新年度が始まる3月21日からの再開方針を一部閣僚にいったん伝えたが、強硬派の反対を受け撤回したことが2日、複数のタリバン暫定政権関係者への取材で分かった。
国際社会は女子教育の制限を問題視し政権を承認していない。タリバン内部でも反発が強まっており、アクンザダ師は再開を迫る有力閣僚の反目を恐れて再開方針を伝えたとみられる。
アクンザダ師は独自のイスラム法解釈による統治徹底を図る強硬派の中心人物で、教育政策を巡りタリバン内の溝が深まっている。
複数の暫定政権関係者によると、有力派閥「ハッカニ・ネットワーク」を率いるハッカニ内相と、タリバンの初代最高指導者オマル師の息子ヤクーブ国防相、ムッタキ外相らが2月と3月中旬、アクンザダ師と計4日間にわたり協議。国際社会から孤立している現状を懸念し、日本の中学・高校に当たる女子の中等教育を再開するよう求めた。【4月2日 共同】
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もちろん、どんな政権や政治グループでもそうでしょうが、タリバンも一枚岩などでは決してなく、政権奪取以前の昔から穏健派と武闘派の対立などがありましたので、女子教育をめぐる意見対立があること自体は当然と言うべきことでしょう。
ただ、興味深いのは女子教育再開を求めたのがハッカニ内相らという点です。
ハッカニ内相はバリバリの武闘派・強硬派で、彼が率いるハッカーニ・ネットワークは、これまでアフガニスタン軍や欧米の連合軍に対する最も暴力的な攻撃に関与しており、アメリカはハッカーニ・ネットワークをテロリスト組織に指定しています。
そうしたハッカニ内相が「アメリカや国連の言うことなど無視すればよい」と言ったのであれば“さもありなん”といったところですが、逆に女子教育再開を求めたというところが“驚き”でした。
****タリバンで深まる内部対立 強硬派が異例の苦言、不安定化の懸念****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の強硬派、シラジュディン・ハッカーニ内相が最高指導者アクンザダ師を暗に批判した演説が波紋を呼んでいる。
タリバンの閣僚が公の場で身内に苦言を呈するのは異例で、アクンザダ師の独断的な姿勢に不満を抱いているとみられている。タリバン内で同調する声もあり、政治情勢の不安定化が懸念されている。
「権力を独占し、体制の評判を傷つけることが常態化している」。支持者がツイッターに投稿した動画によると、ハッカーニ氏は2月中旬に南東部ホースト州のイスラム教宗教学校の卒業式に登壇してそう訴えた。
アクンザダ師を名指しすることはなかったが、「こうした状況は容認できない」と続けた。さらに「人々の権利が奪われてはならない」と述べ、タリバン側が市民に歩み寄る必要性を訴えた。
ハッカーニ氏の発言は支持者の間では女子教育に関する政策を想定したと受け止められている。2021年8月に首都カブールを制圧して以降、タリバンは女子の中等学校の再開を延期している。容認してきた女性の大学教育も、22年12月にヘジャブが適切に着用されていないことなどを理由に停止した。
あるタリバン幹部によると、タリバン内部で女性の教育を肯定する人は少なくなく、強硬派の中でも女性の大学教育の停止には疑問を呈する声があるという。
タリバン内部では、国際社会との協調を重視する穏健派と、イスラム法の厳格な解釈に基づく統治を目指す強硬派の対立があると指摘されてきた。
ハッカーニ氏はアクンザダ師と並ぶ強硬派の一角で、米国人らが死亡したテロ事件などに関与した疑いで米連邦捜査局(FBI)から指名手配されている。米国がテロ組織に指定する「ハッカーニ・ネットワーク」を率いるハッカーニ氏はタリバンがカブールを陥落させた際にも主導的な役割を果たしたとされるだけに、今回の発言が注目を集めている。
また、アフガンメディアは2月下旬、タリバンの初代最高指導者オマル師の息子のムハンマド・ヤクーブ国防相が警察官らを前に「全能のアラーは私たちに知性を与えた。私たちは無分別に誰かに従ってはいけない」と語ったと報じた。同じく名指しは避けたものの、現体制に対する批判と捉えられている。
ハッカーニ氏らが苦言を呈する背景には、アクンザダ師とごく限られた側近の間で政策が決定されていることへの不満があると指摘されている。
22年12月に女性の大学教育が停止された後、アフガンメディア「トロニュース」は内務省関係者の話として、ハッカーニ氏とヤクーブ氏が女性教育の再開に向けて協議し、2人が南部カンダハルを訪ねてアクンザダ師とも問題を協議すると報じた。しかし、あるタリバン幹部によると「(アクンザダ師は)彼らと会おうとしなかった」という。
タリバン内には、閣僚らが参加する意思決定機関「指導者評議会」があるが、このタリバン幹部は「(アクンザダ師は)評議会のメンバーを3~5人ずつ個別に呼び寄せて意見を聞いているが、大半のメンバーの助言を聞き入れていない」と語った。
「タリバン内部でも過半数がハッカーニ氏らの意見を支持している」と語り、現在の政策決定方法に不満を抱くタリバン関係者の間で影響力を強めているとみられる。
女性の教育機会の制限を巡っては、国際社会から大きな批判を浴びただけでなく、一般のアフガン市民の間でも反感が広がった。
女性の大学教育が停止されたことを受け、抗議のためにカブール大学を辞任したバハドゥール・シャー助教は取材に対し、「私はこの国の明るい未来に貢献したいと思って教師になった。女性たちの教育が奪われてしまった今、明るい未来を思い描くことすらできない」と訴えた。
小学5年生と今年大学生になる2人の娘の父でもあり、「娘たちには勉強して自分の未来を切り開いてほしい。このまま教育を受けることも就労することもかなわなければ、彼女たちはどうなってしまうのか」と嘆く。
これまでアクンザダ師が表に出て発言したことはほとんどなく、22年7月に宗教学者らが集まった大規模な集会で演説した際も、音声のみが報じられた。
その一方で、ハッカーニ氏とヤクーブ氏が演説する様子は写真や映像とともに報じられ、ネット交流サービス(SNS)でも拡散している。
地元記者は「ハッカーニ氏とヤクーブ氏は一般のアフガン市民の共感を得ることに成功している。アクンザダ師が2人に対して何らかの措置を講じれば、自らの身を滅ぼすことになりかねない」と指摘する。
タリバンが反政府勢力だった旧民主政権時代には、内部対立によって離脱して新たな勢力を結成する幹部もいた。また、離脱した戦闘員が過激派組織「イスラム国」(IS)に合流する可能性も指摘されている。
地元記者は「現在のタリバンが直ちに内部分裂することはないとみられるが、中枢メンバーによる批判的な発言が続けば、暫定政権にとって最大の脅威になるだろう」と話した。【3月4日 毎日】
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ハッカーニ内相の言動は、最高指導者アクンザダ師とその側近に対する権力闘争的な側面もあるようですが、それだけでなく、長く民衆の中で闘ってきた経緯から、一定に民衆の望むところや現実の問題に配慮する現実主義的な面もあるのでしょう。
アフガニスタンの現状は惨憺たるもので、国際社会の支援を緊急に必要としています。
****アフガン、国民の85%が貧困層=タリバン政権奪取後1.8倍に****
アフガニスタンで昨年、生活に必要最低限の収入を下回る水準で暮らす貧困層が約3400万人に上ったことが、18日に公表された国連開発計画(UNDP)の報告書で分かった。国民のおよそ85%に当たるという。
2020年のデータでは、貧困層は約1900万人。21年8月にイスラム主義組織タリバンが政権を奪取して以降、約1.8倍に増えた。【4月19日 時事】
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こうした現状にハッカーニ内相らが危機感を感じたとしても、あるいは「何のために闘ってきたのか」という思いを抱いたとしても不思議ではないです。もちろん、彼の心中は全くわかりませんが。
いずれにしても、上記【毎日】にあるように、タリバン政権内部に対立の火種が存在するようです。
国際社会の批判に耳をかそうとしない、また民意が反映されるような政治ステムでもないアフガニスタンにあって、女性の人権や貧困に対する対応が変わる唯一の現実可能性は、そうした内部対立からの路線変更だけのように思われますので、注目されるところです。
【タリバン政権支援を改めて示す中国 関心は自国影響力拡大だけか】
タリバン政権へ圧力をかける欧米・国連などの一方で、中国は公式にはタリバン政権を認めていないものの、改めて政権支援の考えを明らかにしています。
****中国、タリバン政権を後押し アフガン問題で立場表明****
中国外務省は12日、アフガニスタン問題に関する立場を表明する文書を発表した。イスラム主義組織タリバン暫定政権が「前向きな努力を続けることを望む」と強調。中国政府は公式には暫定政権を認めていないが、後押しする姿勢を改めて打ち出した。2021年の駐留米軍撤退を受け、地域での影響力拡大を狙っている。
中国外務省によると、秦剛国務委員兼外相は12〜13日、アフガン情勢を巡る近隣国の外相会合に出席するためウズベキスタンを訪問。会合に合わせ、従来の主張を文書で11項目にまとめた。
文書は、米国がアフガン問題の「元凶」だと指摘。対アフガン制裁の即時解除を求めた。【4月12日 共同】
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多くの女性の人権が制約されていることをどのように考えているのか問いたいところですが、ウイグル・チベットで人権を無視している中国にとっては「内政には干渉しない」ということなのでしょう。国際政治は、中国の影響力を高めるためのパワーゲームに過ぎないということか。