孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィンランド  NATOへの正式加盟 総選挙では与党敗北 問題とされた社会福祉支出

2023-04-05 22:43:26 | 欧州情勢

(北欧フィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟は、集団的自衛権を有するNATOの拡大を阻みたいロシアのプーチン大統領にとって大きな打撃となる。NATO加盟国とロシアの国境は計約2600キロ・メートルに倍増し、双方は安全保障上の戦略再構築を本格化させる構えだ。【4月5日 読売】

プーチン大統領のウクライナ侵攻は拡大するNATOに対する怒り・焦りなどが根底にあったと推測されますが、結果は全く裏目に出ています)

【NATOは対ロシアで大きな得点 ロシアの失点は深刻】
ロシア軍のウクライナ侵攻を受けて、スウェーデンともにNATO加盟を申請していた北欧フィンランドの加盟が、スウェーデンに先んじて単独で正式に認められました。

****フィンランドがNATOに正式加盟 ロシア反発「事態の悪化」*****
北欧のフィンランドが、NATO(北大西洋条約機構)に正式に加盟し、先ほど式典が行われた。
NATOの加盟国は、これで31カ国になった。

フィンランド・ニーニスト大統領「フィンランドはきょう、NATOの31番目のメンバーになった。新たな時代の始まりだ」

ベルギーのブリュッセルにあるNATO本部で4日、フィンランドの加盟に向けた最終手続きが行われた。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けてNATOに加盟したフィンランドは、ロシアとおよそ1,300kmにわたり国境を接している。

ロシアのペスコフ大統領報道官は、「事態の悪化だ。ロシアの安全確保のため、対抗策を取らざるを得ない」と反発している。

一方、フィンランドと同時にNATO加盟を目指していたスウェーデンについては、加盟の見通しは立っていない。【4月4日 FNNプライムオンライン】
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31番目のメンバーということですが、軍事的に見てもフィンランドは相当の戦力を有しており、そのNATO加盟は単に“頭数”の問題ではなく、NATOの対ロシア戦力の増強に役立つようです。

****NATOに加盟したフィンランドの軍は対ロシアで頼りになる*****
<ロシアのウクライナ侵攻で中立の立場を捨てたフィンランド。その近代的装備とよく訓練された兵士は対ロシア防衛に大きく貢献するはずだ>

フィンランドは3月4日、正式にNATOの31番目の加盟国となった。2020年に加盟した北マケドニア以来、3年ぶりの新加盟国ということになる。フィンランドの加盟により、1344キロの国境を接する隣国ロシアの侵略を防ぐことを主たる使命と自認する近代的な軍隊がNATOに加わることになった。

フィンランドの加盟申請と手続き完了には一年ほどしかかからなかった。これまでで最速の加盟が実現したのは、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、有権者や政治家が、長い間守ってきた中立性を放棄したからだ。(中略)

フィンランドの年間軍事予算は約60億ドルで、約2万3000人の常備軍を抱える。国民皆兵制を採用しているため、戦時にはそれを約28万人にまで拡大することができ、定期的に訓練を行う90万人の予備役もいる。一部の部隊は最近の戦闘経験があり、少数の兵士がアフガニスタンでの西側連合軍の一員として従軍した。

ロシアとの戦いに備えて
フィンランドはすでにGDPの2%強を国防費に充てており、NATOが加盟国に設定したGDP 比2%の目標は2014年に達成している。もっとも、ロシアとの緊張が高まる中、この目標はまもなく上方修正される可能性もあるが。

ロシアの存在は、フィンランドの軍事イデオロギーとシステムの要といっていい。フィンランドにとっては、森と湿地に囲まれた約1300キロの国境をロシアから守ることが最優先事項だ。20世紀に帝政ロシアやソ連に侵略された経験があることから、フィンランド国民560万人はその危険を十分に認識している。

グローバル・ファイアパワーによる世界軍事力ランキングで、フィンランド軍は世界で51番目に強力な軍隊とされている。

しかし、フィンランドのユニークな方針と立ち位置から、実戦での戦闘力は軍の規模をはるかに上回る。破壊力のある移動砲(ドイツとフランスを合わせたよりも多くの大砲を保有)するほか、兵力で上回る侵略軍に大混乱をもたらすために、高度に熟練した小隊の育成に焦点を当てているのだ。

「フィンランドの総合的な軍事能力はかなり高い。さらにNATO加盟によって同盟軍の駐留も受け入れるようになれば、NATO全体の防衛力が向上する」と、フィンランド国際問題研究所の上級研究員マッティ・ペスは本誌に語った。「またフィンランド陸軍は、北欧の同盟国の陸上部隊を支える背骨になる」と彼は付け加えた。(後略)【4月5日 Newsweek】
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フィンランド軍の戦力の大きさもさることながら、ロシアとおよそ1,300kmにわたり国境を接しているフィンランドのNATO加盟によって、ロシアとNATOが接する国境が倍増することの意味はロシアにとって重大です。

【総選挙ではNATO加盟は争点とならず マリン首相与党は敗北】
フィンランドでは、NATO加盟正式承認と並行する形で、4月2日に総選挙も行われました。

NATO加盟は国民の多くが支持しており、その加盟がこれまでで最速で実現したということで、マリン首相率いる政権与党に追い風になるのでは・・・と思いがちですが、野党も支持するNATO加盟は争点とはならず、インフレへの対応や経済政策が争点で、結果、与党敗北で政権交代ということに。

****フィンランド総選挙 マリン首相の与党敗北 野党は連立交渉へ****
北欧のフィンランドで2日、総選挙が行われ、マリン首相率いる「社会民主党」が敗れて野党の「国民連合」が第1党になりました。

ただ「国民連合」は過半数の議席を獲得できなかったため、連立交渉が行われる見通しで、どのような政権が誕生するのか注目されています。

フィンランドの総選挙は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などの影響で深刻化したインフレへの対応や経済政策などを争点に2日、投票が行われました。

フィンランドの司法省によりますと、議会の200議席のうち、
▽緊縮財政を訴えた野党「国民連合」が48議席を獲得して第1党となったほか、
▽野党「フィン人党」が46議席、
▽マリン首相率いる与党「社会民主党」が43議席となりました。

第1党になった「国民連合」のオルポ党首は、「すばらしい勝利だ。財政を再建し、経済成長を促すための改革を行わなければならない」と述べました。

一方、第3党になった「社会民主党」のマリン首相は、「『国民連合』におめでとうと言いたい」と述べて敗北を認めました。

ただ「国民連合」は過半数の議席を獲得できなかったため、今後、ほかの政党と連立交渉を行う見通しです。

ロシアと国境を接するフィンランドはこれまで軍事的中立を保ってきましたが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて申請したNATO=北大西洋条約機構への加盟が近く実現する予定になっています。

「国民連合」は長年、加盟を訴えてきたため大きな方針転換はないとみられていますが、連立交渉でどのような政権が誕生するのか注目されています。【4月3日 NHK】
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2019年12月に当時34歳で首相就任以降、新型コロナ禍やウクライナ侵攻など危機に対処してきたマリン氏は他党の党首に比べて高い人気を維持していましたが、首相の個人的な人気は与党への支持には直結しませんでした。

【「世界で一番幸せな国」でも問題となる社会福祉支出の負担】
高齢化が進む中で、選挙戦では経済・財政政策や公共サービスのあり方など、内政が争点となりました。勝利した「国民連合」は支出を削減し、公的債務の増加に歯止めを掛けることを訴えていました。

高負担高福祉で有名な北欧フィンランドは、3月20日発表された世界各国を「幸福度」で順位付けした国連の「世界幸福度報告書」の最新版において6年連続で世界1位となっています。

****フィンランド、「幸福度番付」6年連続トップ****
世界各国を「幸福度」で順位付けした国連の「世界幸福度報告書」の最新版が20日公表され、フィンランドが6年連続で1位となった。一方、ウクライナでは「博愛行為」が広がっていることが示された。

2位デンマーク、3位アイスランドなど、北欧諸国が上位を占めた。(中略)

報告書は2012年から公表されている。1人当たり国内総生産や健康寿命、社会的支援、選択の自由度など6項目について、自身の幸福度を0から10までの段階で国民に評価してもらい、過去3年間の平均値を基に算定している。 【3月21日 AFP】
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ちなみに日本は47位で、前回から7位順位を上げ、韓国や中国を上回ったとのこと。

そうした「世界一幸せな国」フィンランドにあっても、やはり個人・国家の大きな負担は問題とされているようです。

****フィンランド、社会福祉支出抑制が必要 選挙控え野党党首が訴え****
フィンランド野党国民連合のペテリ・オルポ党首(53)は、ロイターに、同国は公的債務増加を回避するため失業手当などの福祉プログラムへの支出を削減すべきとの見解を述べた。

また、急速な高齢化社会で実効性のあるサービスを実現するためには、住宅手当や企業補助金の支給削減も必要と指摘した。

オルポ氏は、社会民主党のマリン首相(37)率いる現政権は年金や教育などに過度な支出をしていると批判しており、4月2日の総選挙では経済運営を主要な争点に据えている。

同氏は14日に行ったインタビューで、「マリン氏の政権と、私が率いる可能性のある政権との最大の違いは、経済政策だ。マリン氏の政策は全ての問題を債務(拡大)で解決して増税するというものだ」と述べた。

マリン氏は均衡の取れた経済実現を公約しているが、減税よりも税収増を模索している。一方オルポ氏が提唱するより緊縮的な政策は、一部有権者の共感を呼んでいる。

最新の世論調査では、国民連合の支持率が19.8%、社会民主党は19.2%と野党が僅差でリードしている。【3月29日 ロイター】
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なお、勝利した中道右派「国民連合」は、NATOとの関係については、国内へのNATO基地の「恒久的な受け入れ」にも前向きとされ、前政権より更に関係強化を目指しています。

****フィンランド総選挙で勝利の右派 NATO基地受け入れに前向き****
2日投開票のフィンランド議会(1院制、定数200)選挙で第1党となった中道右派・国民連合のペッテリ・オルポ党首(53)は4日、「すべての党と誠実に話し合う」と述べ、各党との連立交渉に入る考えを示した。フィンランド公共放送YLEなどが伝えた。

フィンランドは4日に北大西洋条約機構(NATO)に正式に加盟したが、国民連合は国内へのNATO基地の「恒久的な受け入れ」にも前向きとされ、NATOへの積極関与をさらに進めるとみられる。

獲得議席は国民連合が48議席でトップ。第2党は移民制限を掲げるポピュリスト政党のフィン人党(46議席)、第3党はマリン首相率いる中道左派の社会民主党(43議席)と続いた。

NATO加盟については既に昨年から与野党間の合意ができており、今回の選挙戦では争点にならなかった。各党は国防問題ではなく、増大する債務への対応などを議論し、財政再建を強く主張する国民連合が支持を広げた。

ただ、加盟後のNATOで担う役割の「程度」については今後、議論が分かれる可能性がある。YLEなどによると、国民連合は恒久的なNATO基地・部隊の受け入れに前向きとされる。社民党も「可能性は排除しない」(マリン氏)との立場だが、左翼同盟、緑の党など一部の左派系政党には反対意見も根強い。

国内世論も「受け入れ反対」が優勢だ。1月の民放の世論調査では、48%がNATO基地の恒久的な設置に反対と答え、賛成の39%を上回った。【4月5日 毎日】
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【反移民極右「フィン人党」との連立も視野に】
社会民主党を抑えて第2党となり、「国民連合」との連立政権も視野に入る「フィン人党」は反移民的な右派あるいは「極右」とされています。ただ、最近はややマイルドな路線をとってはいるようです。

****保守勝利、右派が第2党に 福祉重視路線を修正へ マリン首相与党敗北・フィンランド総選挙****
2日投開票が行われたフィンランド議会(一院制、定数200)選挙は、保守の野党・国民連合が第1党、ポピュリスト政党とされる野党フィン人党が第2党となり、マリン首相率いる中道左派の与党・社会民主党(SDP)は敗北を喫した。(中略)

選挙は経済・財政政策が最大争点で、フィン人党も国民連合と同様に緊縮策を提唱。マリン氏は「公共サービス(への投資)を減らし、最も貧しい人たちの生活の糧を奪う右派の政策は、私たち全員の生活を惨めにする」と「右傾化」への危機感を訴えたが、SDPは第3党に甘んじた。  

今後は国民連合が軸となり、政権樹立に向けて連立協議を進める見通し。オルポ氏は「全ての党に対してオープンだ。フィン人党とも協議の用意がある」と述べており、国民連合とフィン人党の「保守・右派政権」が発足する可能性もある。一方でオルポ氏はSDPとの協力も否定していない。  

欧州連合(EU)懐疑派で、「極右」とも言われるフィン人党は、移民受け入れに反対。欧州各地で広がる移民流入への懸念を背景に、近年急速に支持を伸ばしてきた。

ただ21年から党を率いる女性党首プーラ氏の下、「極右」イメージの払拭(ふっしょく)に努め、今回の選挙ではより広範な支持を集めたもよう。ロシアのウクライナ侵攻などに伴う物価高への不満も吸収したとされる。  

ヘルシンキ大学で政治史を研究するイェンニ・カリマキ氏は国民連合とフィン人党の連立について、EU政策や気候変動問題などを巡り立場の違いは大きく「(双方が)どれだけ諸政策で妥協できるか」が鍵になると分析した。【4月4日 時事】 
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【置き去りにされたスウェーデン 7月のNATO首脳会議が節目とも】
話をNATO加盟に戻すと、フィンランドとの同時加盟を目指していたものの、トルコとハンガリーの承認が得られず置き去りにされたスウェーデンは複雑な心境でしょう。

****近隣国NATO加盟に祝意と焦り 同時申請のスウェーデン首相****
スウェーデンのクリステション首相は3月31日、フィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟決定に祝意を示し「NATOとわれわれの近隣国はより強くなっている」とツイッターで表明した。

一方、スウェーデン放送は、同時に加盟申請したフィンランドに先行され、自国がNATOの「蚊帳の外」に置かれたとして焦燥感を伝えた。

スウェーデンとフィンランドはロシアによるウクライナ侵攻後の昨年5月に加盟申請した。しかしトルコとハンガリーがフィンランドを先行承認。スウェーデン放送は「ロシアによる挑発と影響にさらされる危険性が高まった」と指摘した。【4月1日 共同】
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今後は不透明ですが、7月のNATO首脳会議が節目になるとも。

****スウェーデン加盟、なお難航 NATO、7月会議が節目****
ロシアのウクライナ侵攻を受けて北大西洋条約機構(NATO)加盟を申請した北欧2国のうち、フィンランドの加盟が先に決まる見通しとなった。承認を留保していたトルコが17日、容認する意向を示した。

一方、残るスウェーデンの加盟協議はなおも難航。政治的節目となる7月のNATO首脳会議までに加盟が決まるかどうかが焦点となる。

加盟には全加盟国の承認が必要。
トルコのエルドアン大統領はスウェーデンに対し、加盟承認の条件とするテロ対策が不十分だと主張する。スウェーデンのクリステション首相は15日、トルコには、大統領選後の「迅速な批准を望む」と訴えかけていた。【3月18日 共同】
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もっとも、トルコでは5月14日に大統領選挙が行われますので、スウェーデンに対し強硬姿勢を貫くエルドアン大統領が敗北するようなことになれば、状況は大きく変わります。現在はエルドアン大統領が野党統一候補に対し劣勢にあると報じられています。

ロシアはウクライナ侵攻で、ロシア軍の弱体ぶりを世界に曝し、長期的には世界経済から締め出されたロシア経済低迷は避けられず、これまで中立を維持してきたフィンランド・スウェーデンをNATOに差し出す形にもなるなど、プーチン大統領の失策は明らかです。そのあたりは、また別機会に。

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