
(米ニューヨークのトランプタワーに到着し、支持者に手を振るトランプ前大統領=2023年4月3日、AP【4月4日 毎日】)
【“魔女狩り”の被害者 起訴を機に発信力を強め、大統領選を優位に進めたいトランプ氏】
トランプ前大統領の起訴・罪状認否で、アメリカはトランプ氏が得意とする“トランプショー”開幕の状況を呈しています。出廷は日本時間5日未明とされています。
今回起訴は、いわゆる元ポルノ女優への口止め料支払いをめぐる不正会計疑惑が中心になるとされていますが、起訴内容は出廷後に明らかになります。
トランプ氏としては、民主党により政治的“魔女狩り”の被害者にされていることを有権者にアピールしたいということで、今のところはその効果が一定にあらわれています。
****トランプ前大統領が出廷へ 起訴内容明らかに NY市警が厳戒****
米東部ニューヨーク(NY)州の大陪審に起訴されたトランプ前大統領(76)は4日、ニューヨーク市内の裁判所に出廷する。
起訴内容は出廷後に明らかになる見通しだが、2016年の大統領選直前に元ポルノ女優に支払った不倫の口止め料を巡る不正会計疑惑が関連しているとみられている。トランプ氏側は起訴の不当性を訴え、全面的に争う姿勢を示している。
大統領経験者が起訴されたのは米国史上初めて。米メディアは「歴史的な瞬間」と報じている。トランプ氏は4日の出廷前にNY州のマンハッタン地区の検察当局に出頭。指紋を採取され、顔写真も撮影されるとみられる。
出廷後に起訴内容が告げられ、有罪か無罪かなどの答弁に臨む。4日中に保釈される可能性が高く、トランプ氏は夜に南部フロリダ州の邸宅で演説すると発表している。
不正会計疑惑を巡っては、トランプ氏の顧問弁護士だったマイケル・コーエン氏が16年の大統領選直前、トランプ氏と過去に不倫関係があったと主張する元ポルノ女優のストーミー・ダニエルさんに13万ドル(現在のレートで約1700万円)の口止め料を支払った。トランプ氏はコーエン氏に親族企業を通じて弁済する際に「弁護士費用」と虚偽の会計処理をした州法違反の疑いが持たれている。
この支払いが選挙資金に関する州法に抵触するとの指摘もある。米メディアは30以上の訴因があり、重罪が含まれているとの見方も報じている。
トランプ氏の弁護人のジョー・タコピナ氏は2日のCNNテレビで「弁護団で起訴内容を詳細に分析し、挑戦可能なあらゆる論点を検討する」と強調していた。
ニューヨーク市警はトランプ氏の支持者らによる抗議デモの拡大や暴徒化など最悪の事態に備え、厳戒態勢を敷いている。トランプ氏の宿泊先であるマンハッタン地区の「トランプタワー」前には、鉄柵のバリケードが何重にも設置された。
トランプ氏は3日にフロリダ州から専用機でNY入り。紺色のスーツに赤色のネクタイ姿で、トランプタワーに入る直前、数十メートル離れた報道陣の方に向かって左手を上げ、手を振った。
タワーのそばでは約30人がトランプ氏を支持する横断幕などを掲げた。NY在住のディオン・チニーズさん(54)は「魔女狩りだ。(トランプ氏と敵対する)民主党はトランプ氏が捕らわれる写真が見たいだけなのだ。そしてトランプ氏の口を封じたいのだろう」と述べ、起訴は政治的だと主張した。【4月4日 毎日】
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****あす初出廷へ“トランプショー”の行方は 前代未聞の起訴で「支持固め」と「資金集め」狙うトランプ陣営****
(中略)
“マグショット”を応援グッズに活用?
(中略)また起訴に伴い、特にトランプ氏がこだわっているのは、マグショット=出頭後に撮影される被告人の顔写真の撮影だと指摘している。トランプ氏は、撮影された写真を支持者の集会で活用できるようなTシャツに出来ないか検討を進めているという。
次期大統領選に向けた資金集めも加速している。起訴の報道がされた30日から48時間の間にトランプ氏は、500万ドルの資金を調達し、起訴後初の世論調査(Yahoo News/You Gov)では、共和党内の支持率は、トランプ氏が57%、フロリダ州知事のデサンティス氏が31%と前回(47%―39%)の調査よりもリードを拡大し、起訴が大統領選を後押しする結果となっている。
起訴を機に発信力を強め、大統領選を優位に進めたいトランプ氏だが、裁判を担当する判事は罪状認否の後、日本時間5日午前9時過ぎから予定されている私邸での演説を中止するようかん口令を敷く可能性があるという。陪審員に影響を与えるためだという。しかし、トランプ氏側は、合衆国憲法修正第一条の言論の自由を制限するとして反発する意向を示しているという。
トランプ氏を巡る4大事件
一方、トランプ氏はポルノ女優への口止め料を巡る疑惑のほかにも、ホワイトハウスからの機密文書の持ち出しで特別検察官の捜査が進んでいる。南部・ジョージア州では落選を覆すために州の担当者に電話で「票を探し出す必要がある」などと圧力をかけ、検察当局が捜査を進めている。
2021年の連邦議会襲撃事件では下院の特別委員会は司法省に対し、「起訴すべき」と勧告した。いずれの事件でもさらなる刑事訴追可能性があり、今後、「口止め料」疑惑と共にさらなる裁判を抱えながら大統領選を迎える事態に突入することも想定される。
NYは厳戒態勢…暴動の懸念も
トランプ氏の起訴の動きについて、共和党は「政治的迫害」「権力の乱用」などとして反発を強め、NY市警察や政府も支持者らによる抗議が暴動に発展しないか、警戒感を強めている。トランプ氏に近いテイラー・グリーン下院議員もトランプ氏の出頭直前に裁判所前で抗議集会を開く予定で、現場ではさらなる混乱が予想される。
2021年の連邦議会襲撃事件の記憶が新しい中、不測の事態が不測の事態を呼ぶ懸念が米政治の歴史にどう刻まれるのだろうか。3日、NYのトランプタワー前に集まった人からは「起訴はむしろ選挙戦で有利になる」「検察はヒーローだ、これからたくさんの疑惑が晴らされると良い」などの声があがった。
NYの街は厳重警戒の中、抗議や歓迎、大統領経験者が初めて罪に問われる瞬間を迎えることになる。【4月4日 FNNプライムオンライン】
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【共和党支持者では有利でも、本選では?】
上記記事にもあるように、共和党大統領予備選挙に投票を予定している有権者の間ではトランプ氏の支持率が上昇しています。不当な“魔女狩り”の犠牲者というアピールは共和党予備選挙を勝ち抜くには有利かも。
ただし、問題は岩盤状態の民主党・共和党支持者の間に位置する中間層への影響でしょう。本選という全有権者を対象にした場合、起訴という事実が“足かせ”になるかも。
****トランプ前大統領起訴、6割賛成 米世論調査、政治の影響指摘も****
米CNNテレビは3日、トランプ前大統領の起訴について、国民の60%が賛成しているとの世論調査結果を発表した。「政治の影響が働いた」と指摘する声は76%に及んだ。
世論調査は、起訴内容の詳細が明らかになっていない3月31日〜4月1日に約千人に実施した。
大統領経験者の起訴が与える影響については、米国の民主主義を「強める」「弱める」がともに31%で意見が割れた。
前大統領側が不倫相手に口止め料を払った疑惑への意見は「違法だ」が37%、「非倫理的だが違法ではない」が33%、「全く悪くない」が10%だった。【4月4日 共同】
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“政治的”であるにしても、疑惑は質されるべきということでしょう。そして“口止め料”に関して「違法」もしくは「非倫理的」と、好ましくみていない者が約7割ということで、これはトランプ氏にとって良いことではないでしょう。
今後の公判日程は不透明です。
“起訴しても公判前手続きに時間がかかり、公判の日程は見通せない。米メディアでは、初公判は来年で、有罪かどうかを決める陪審の評決も来年11月の大統領選後になるとの観測も出ている。トランプ氏は、裁判と選挙活動の両にらみを強いられそうだ。”【3月31日 読売】
【後に控えるより重要な案件 機密文書隠匿、議会襲撃の扇動、ジョージア州での票の介入疑惑】
更に大きな問題は、トランプ氏が抱える問題の中では今回の“口止め料問題”は比較的軽微なもので、今後、機密文書隠匿、議会襲撃の扇動、2020年の大統領選におけるジョージア州での票の介入疑惑については捜査が続いており、これらが起訴されると、より重罪ともなります。
****トランプ、口止め料より重い機密文書隠匿容疑の捜査も大詰め?シークレットサービス職員数人が近く証言か****
<元ポルノ女優への口止め料問題で米大統領経験者として初めて刑事訴追され、4日に裁判所に出頭し、演説するトランプ。支持者の反乱に全米が身構えるなか、はるかに重罪での訴追も視野に入ってきた>
(中略)しかしその一方で、元ポルノ女優に口止め料を支払ったというニューヨーク州の今回の疑惑とは別に、はるかに深刻な疑惑、いわばトランプ犯罪の「本丸」とも言える捜査も大きな進展を見せている。
機密文書を不正に扱った疑惑をめぐり連邦特別検察官が捜査を進めている件で、複数のシークレットサービス職員が証言を行う予定だと報じられたのだ。
FOXニュースのブレット・ベアー記者は4月3日にツイッターに、前大統領とつながりのある「複数の」シークレットサービス職員が召喚されており、「7日に連邦大陪審の前で証言を行う見通し」だと投稿。これは「マールアラーゴでの機密文書の扱いに関する、ジャック・スミス特別検察官の捜査に関連するもの」だと説明した。(中略)
2022年8月、FBIはフロリダ州にあるトランプの別荘「マールアラーゴ」の家宅捜索を行い、複数の機密文書を押収。トランプがこれらの文書を不適切に扱った疑いと、捜査を妨害しようとした疑いについて調べている。
トランプ本人は、最高機密が含まれる文書が自宅で見つかったことについて、違法行為は一切なかったと主張している。
当局者をミスリードするよう指示?
シークレットサービスが召喚されたという報道に先立ち、ほかにもスミス特別検察官による捜査の進展を示唆する情報が報道されていた。
ワシントン・ポスト紙は2日、米司法省とFBIが、トランプが2021年1月の大統領退任後に機密文書を持ち出して手元にとどめておこうとした際に、捜査を妨害しようとしたこと示すさらなる証拠を得たと報じた。(中略)
ワシントン・ポストは匿名の情報源の言葉を引用し、2022年5月に連邦大陪審が召喚状で全ての機密文書の返還を命じた後、トランプが特定の文書を手元にとどめておくために、機密文書が入った箱の幾つかを自ら調べた形跡があったと報じた。
トランプは周囲の人間に対して、機密文書を回収しようとしていた政府当局者らをミスリードするよう命じ、また自身の弁護団に対して、文書は全て国立公文書館記録管理局に返却済みだという声明を出すよう指示したとされている。
過去の報道によれば、トランプは機密文書の返還を命じられた後、マールアラーゴの駐車係を務めていたウォルト・ナウタに、文書が入った箱を保管庫に移すよう指示していた疑いが持たれている。
また2022年6月に連邦捜査官が最初に文書の回収を試みた際、トランプの弁護団は彼らがマールアラーゴの保管庫の中を見るのを「明らかに妨害した」とされている。
FBIはその2カ月後にマールアラーゴの家宅捜索を行い、最高機密を含む100を超える機密文書を押収。一部の文書は、問題の保管庫から見つかった。
3月下旬には、トランプの顧問弁護士の一人であるエバン・コーコランが、機密文書の扱いをめぐる捜査に関連して、証言と(トランプとのやり取りの記録などの)資料の提出を求められた。(中略)
コーコランは以前、機密文書に関して大陪審の前で証言を行ったものの、弁護士と依頼主の秘匿特権を理由に一部の質問に答えることを拒否していた。
しかしある犯罪行為において、弁護士と依頼主がそれに関与したかそれを隠蔽しようとした疑いがある場合には、犯罪不正に関する例外としてこの秘匿特権を無効とし、記録の公開を命じることが可能になる。
コーコランは3月24日に連邦大陪審の前で証言を行ったとみられている。
弁護士のアンドリュー・リーブは本誌に対して、「被告の弁護士の資料以上に確かな証拠はない。被告は弁護士が職務を遂行できるように、弁護士には何でも正直に話さなければならないからだ」と述べ、さらにこう続けた。
「トランプを有罪にする決定的な証拠があるとすれば、コーコランがそれを持っている。控訴裁判所がその決定的な証拠を検証して数時間後に、犯罪不正に関する例外を適用した事実を考えると、私たちは今後、きわめて異例の事態を目の当たりにすることになるだろう」【4月4日 Newsweek】
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今回訴追は、幕開けに過ぎないようです。
【高齢バイデン大統領しか“弾”がない民主党 勝機は「バイデンvs.トランプ」の再現 トランプ氏予備選勝利は好都合か】
一方、民主党側も、結局高齢で認知症の可能性が囁かれることもあるバイデン大統領しか“弾”がないのが実情。
ご本人は“ヤル気”のようですが。
****バイデン氏、再選出馬に意欲 「出馬するために生まれた」****
「出馬するために生まれた」―。バイデン米大統領が21日、ホワイトハウスに招いた著名ロック歌手ブルース・スプリングスティーンさんの代表曲「ボーン・トゥ・ラン」(邦題・明日なき暴走)のタイトルをもじって2024年大統領選の再選出馬に意欲をにじませた。「ラン」には「走る」の他に「立候補する」という意味もある。
民主党のバイデン氏は出馬の意思を重ねて示し、近く正式表明するとの見方も出ている。共和党候補指名争いに名乗りを上げたトランプ前大統領の疑惑捜査が進む中、自信を深めているようだ。
バイデン氏はスプリングスティーンさんら著名人を招待し、勲章を授与した。【3月22日 共同】
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バイデン大統領は昨年11月で80歳。
これまでの最高齢の大統領、ロナルド・レーガン氏は77歳で退任しましたが、当時は最高責任者としての年齢の限界に挑戦していると広く考えられていました。
バイデン大統領が2期目に出馬して当選した場合、2025年の就任時には82歳、2期目終了時には86歳となります。
(もっとも、トランプ氏も、2024年に当選した場合、2025年の就任時には78歳、2期目を終えたときには82歳になり、こちらも“高齢者”であることに変わりありません)
バイデン大統領は、中間選挙で民主党が予想をはるかに上回る成果を手にしたことで自信を深めています。
また、トランプ氏が起訴で「弱体化」すると見ており、優位に再戦を進められると考えているようです。
もっと若い人材がいれば・・・、しかし、代わりがいないのが実情。
“次期”を期待されていたカマラ・ハリス副大統領は、バイデン氏以上に不人気。
その他の有力候補も2024年には出馬しないことを表明しています。
これは個人的な印象ですが、バイデン大統領に勝機があるとすれば、共和党候補者に“起訴で傷ついた”トランプ氏がなってくれて、再び「バイデンvs.トランプ」の構図に持ち込むことでしょう。そのうえで非トランプ層を取り込めば勝てる・・・・。
若く、アレルギーがトランプ氏より少ないフロリダ州のデサンティス知事相手では、もっと苦戦するでしょう。(世論調査でも、そういう傾向が出ています。)
バイデン氏の高齢に不安を感じる有権者も、「ではトランプ氏に投票するか?」となると・・・生理的に受け付けない者が多いでしょう。
党内左派などバイデン再選に異論が多い民主党関係者もトランプ氏が相手となれば、打倒トランプで結束できる(あるいは、結束するしかない)。
バイデン陣営としては、今回起訴でトランプ氏が共和党予備選挙を有利に進めることになるのは、むしろ好都合なのかも。