孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ニジェール  これまでの欧米の拠点からロシア傾斜へ ウラン供給元で仏・EUのエネルギー政策に影響

2023-08-01 23:05:47 | アフリカ

(【7月31日 産経】)

【チアニ将軍が国内掌握 旧宗主国フランスをはじめ、EUや米国、国連、アフリカ連合(AU)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)はいずれもクーデターを非難】
西アフリカのニジェールで26日、大統領警備隊によるクーデターがあり、親米欧派のバズム大統領は拘束されました。

****軍事訓練でアメリカが協力のニジェール、武装勢力が親米欧の大統領を監禁しクーデター宣言****
AFP通信は26日、西アフリカのニジェールで、親米欧派のモハメド・バズム大統領が監禁されたと報じた。同国軍の兵士ら武装勢力がクーデターを宣言した。

大統領警備隊が26日午前、首都ニアメーの大統領府を取り囲み、その後、バズム氏を監禁したとみられる。武装勢力は26日深夜、テレビ放送で「国内全ての機関を停止し、国境を閉鎖した」との声明を読み上げ、夜間外出禁止令を宣言した。

大統領府はツイッターで、バズム氏と家族は無事だと投稿。バズム氏はSNSなどで外部と連絡を取っている模様だ。

バズム氏は2021年、大統領に就任。米欧諸国と良好な関係を維持してきた。隣国マリ、ブルキナファソはイスラム過激派の動きが活発で、米国がニジェールに軍事訓練で協力するなど、ニジェールは米欧諸国による対過激派作戦の拠点になってきた。【7月27日 読売】
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クーデターの指導者が大統領警護隊トップのチアニ将軍とされています。
チアニ将軍は、バズム政権のイスラム過激派への対応を批判しています。

****大統領警護隊長が新指導者 ニジェール、国営テレビが紹介****
ロイター通信によると、西アフリカ・ニジェールの国営テレビは28日、バズム大統領の追放を発表したクーデターの指導者が大統領警護隊トップのチアニ将軍だと紹介した。肩書は政権移行を目指す暫定評議会の「議長」とされ、クーデターが成立して新政権が発足した際には暫定大統領に就任するとみられる。

チアニ氏は国営テレビで演説し、バズム政権がイスラム過激派への対テロ作戦で隣国マリやブルキナファソと協力的でなかったと批判した。マリとブルキナファソでは近年クーデターが起き、発足した軍事政権が対テロ作戦でロシアに近づいた。【7月28日 共同】
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ロシア、具体的には民間軍事会社ワグネルと協力してイスラム過激派対する強硬な掃討作戦を行うマリやブルキナファソと同じように、ニジェールもロシアと協力して・・・ということのようです。

軍はクーデター実行者に忠誠を誓ったとのことですから、一応国内はチアニ将軍が掌握した形となっています。
国内での大規模な戦闘も起きていないようです。

****クーデター側に忠誠宣言 ニジェール陸軍声明****
西アフリカ・ニジェールの陸軍は27日に声明を発表し、クーデターを実行した軍将校らに忠誠を誓うと宣言した。「軍内部での戦闘回避のため」と説明した。ロイター通信が伝えた。治安維持の鍵となる陸軍の支持で、バズム大統領を追放したとするクーデター成立の可能性が高まったとみられる。
 
ただAP通信は、バズム氏は大統領職を辞任していないとする同氏に近い消息筋の話を報道。マスドゥ外相もツイッターで、クーデターへの抵抗を市民に呼びかけており、情勢はなお混迷している。

ロイターによると、蜂起した軍将校らは26日、国営テレビで、バズム氏の安全に「配慮する」と述べ、危害を加える意思がないことを示唆した。クーデター発生時、バズム氏は大統領警護隊によって大統領公邸に留め置かれた。その後も公邸に滞在しているとの情報がある。

アフリカ連合(AU)議長国コモロのアザリ大統領は27日、ロシア北西部サンクトペテルブルクで開幕した「ロシア・アフリカ首脳会議」で演説し、ニジェールのクーデターを「断固として非難する」と述べ、バズム氏の即時解放を求めた。【7月27日 共同】
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上記記事にあるように、アフリカ連合(AU)議長国コモロのアザリ大統領はニジェールのクーデターを「断固として非難する」と述べているほか、グテレス国連事務総長も27日、「民主的に選ばれた政府に対する攻撃を強く非難する」と強調し、拘束されたバズム大統領を無条件で即時解放するよう訴えています。

西アフリカ諸国で構成する西アフリカ諸国経済共同体はクーデター政権に経済制裁を発動し、軍事介入にも言及しています。

****西アフリカ諸国がニジェールに経済制裁、大統領復権なければ軍事介入も****
西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は30日、クーデターでバズム大統領を追放したニジェールの軍事政権に対して経済制裁を発動した。また1週間以内にバズム氏を復権させない場合、軍事介入する可能性もあると示唆した。

隣国ナイジェリアでニジェール情勢を協議する緊急首脳会議を開いたECOWASは、西アフリカ経済通貨同盟とともに全ての加盟国がニジェールとの国境を即時封鎖した。さらにニジェールへの民間航空機乗り入れや金融取引の停止、同国の資産凍結、援助打ち切りなどの措置も実施した。

ECOWASはニジェールに、憲法に基づいた秩序の回復を促した上で、それがかなわないならば軍事力行使を含めた対抗策を講じると警告した。

過去3年間でECOWASは、クーデターが起きたマリやブルキナファソ、ギニアに対しても同様の制裁を行っている。(中略)

旧宗主国フランスをはじめ、欧州連合(EU)や米国、国連、アフリカ連合(AU)はいずれもクーデターを非難し、チアニ将軍を新指導者とする軍事政権の承認を拒否している。【7月31日 ロイター】
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【マリとブルキナファソの軍事政権はクーデター支持】
一方、ニジェール同様のクーデターが起き、ロシアの影響力が強いマリやブルキナファソは、今回クーデターを支持し、ニジェールに対する軍事介入は「ブルキナファソとマリへの宣戦布告とみなす」と警告しています。

****ニジェールクーデター隣国は支持 マリとブルキナファソの軍事政権****
ロイター通信によると、西アフリカのマリとブルキナファソの軍事政権は1日までに共同声明を発表し、隣国ニジェールでクーデターを起こした軍の一部勢力への支持を表明した。ニジェールに対する軍事介入は「ブルキナファソとマリへの宣戦布告とみなす」と警告。他の周辺国や米仏はクーデターの動きに反発しており、緊張が高まっている。

クーデターに参加した軍将校らは、政変を率いた大統領警護隊トップ、チアニ将軍の国家元首就任を発表するなど、軍事政権樹立を既成事実化。チアニ氏は、イスラム過激派への対テロ作戦で、ブルキナファソやマリとの協力を深める考えを示唆している。【8月1日 共同】
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【これまでの米仏の「拠点」的な立場から、今後はロシア傾斜を強めることが予想】

(ロシアの旗とプラカードを持ったデモ隊。看板には、「フランスはニジェールを殺す」と書かれている=ニジェールの首都ニアメーで2023年7月30日、AP【8月1日 毎日】)

クーデター政権はブルキナファソやマリと同様に今後ロシアと接近すると予想され、アメリカ・フランスは対イスラム過激派の活動拠点を失うことにもなります。

****ワグネルが介入示唆、ニジェールに軍事政権成立の可能性…ロシア傾斜の懸念****
西アフリカ・ニジェールのクーデターで親米欧派のモハメド・バズム大統領が失脚し、軍事政権が成立する可能性が高まっている。周辺国でロシアの民間軍事会社「ワグネル」の影響力が強まっており、米欧がアフリカ関与の拠点としてきたニジェールがロシアに傾斜する懸念がある。(中略)

中国やロシアとの友好関係を維持する国が多いアフリカで、ニジェールは2021年にバズム氏が大統領に就任後、米軍の訓練受け入れなどで協力した。旧宗主国フランスは、対イスラム過激派作戦のために10年間派遣した部隊を昨年8月に隣国マリから撤退させ、ニジェールに拠点を移した。

マリやブルキナファソでは最近、ワグネルが関与を強めている。クーデター発生後の今月27日には、ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏とみられる人物がニジェール情勢に触れ、「ワグネルは秩序を再構築し、市民を守ることができる」と介入を示唆した音声がSNSに投稿された。

AP通信によると、ニアメーでは30日、フランス大使館前で数千人がデモを行い、ドアが放火された。ロシア国旗を手にして、プーチン露大統領を支持すると訴える人の姿もあった。

欧州連合(EU)とフランスは29日、ニジェールへの援助停止を発表し、クーデターを起こした勢力への圧力を強めた。【7月30日 読売】
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【クーデター支持勢力に強い反仏感情 仏は強硬姿勢 追放政権が仏に大統領救出作戦許可とも】
上記記事にあるように、特に旧宗主国で、ニジェールに部隊を置いているフランスがクーデターを支持する国民の標的にもなっています。

****ニジェール軍政支持で数千人デモ 仏大使館攻撃、ロシア接近も****
西アフリカ・ニジェールの首都ニアメーで30日、クーデターを起こしてバズム大統領の追放を宣言した軍事政権への支持を訴え、数千人がデモ行進した。一部が過激化し旧宗主国フランスの大使館を攻撃、ドアに放火した。

ニジェール情勢を協議する西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の同日の緊急首脳会合を前に、軍事政権がデモを呼びかけていた。AP通信などが伝えた。

ECOWASのトゥーレ委員長は30日、軍事政権が1週間以内にバズム氏に権力を返還しなかった場合、軍事介入も選択肢になり得るとの認識を示した。首脳会合の結果、加盟国が同意したとみられる。【7月30日 共同】
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“デモでは「フランスやその同盟国と決別せよ」とするメッセージのほか、ロシア国旗も掲げられた。”【8月1日 毎日】

こうしたフランスへの攻撃に対し、マクロン仏大統領は「あらゆる攻撃を容認しない」と、報復にも言及しています。

*****仏大統領、在ニジェール大使館攻撃を非難 強い対応表明****
フランスは、ニジェールで先週発生したクーデター後に現地の仏大使館が攻撃を受けていることを非難するとともに、フランス人と国益に対するあらゆる攻撃に強い対応を取ると表明した。

フランスはニジェールの旧宗主国。26日にバズム大統領追放が発表されたのを受け、29日に全ての開発援助停止を宣言し、バズム氏の復帰を要求した。これに反発した抗議者らが30日、大使館に放火するなどした。

仏大統領府は声明を発表し、「(マクロン)大統領はフランス人と国益に対するあらゆる攻撃を容認しない」と表明。具体的に仏大使館、軍、企業への攻撃に報復するとした。

外務省も別の声明で大使館に対するあらゆる暴力を非難し、国際法を順守して仏外交官らを守るようニジェール当局に求めた。マクロン氏がバズム氏とイスフ前大統領と話し、両者ともクーデターを非難したという。【7月31日 ロイター】
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クーデター政権側発表によれば、追放されたバズム政権側が、フランスにバズム大統領救出作戦を許可したとも。

****フランスがニジェール大統領救出作戦か、追放政権が「攻撃許可」****
先週のクーデターで実権を握ったニジェール軍事政権は31日、追放政権がバズム大統領を解放するため、フランスによる大統領公邸攻撃をすることを許可したと明らかにした。

バズム氏は26日から大統領公邸に留め置かれている。軍事政権はこれまで、外国がバズム氏を救出しようとすれば流血と混乱を招くと警告していた。(後略)【7月31日 ロイター】
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【EU最大の原発ウラン供給元 仏・EUのエネルギー計画を大きく揺さぶる】
今回のクーデターで初めて知りましたが、ニジェールは原発大国フランス、そしてEUにとってウラン供給元という重要な地域になっています。フランスとしてはおいそれと失う訳にいかない利権が絡んできます。

****ニジェール EU最大の原発ウラン供給元 フランス採掘にクーデターが暗雲****
西アフリカ・ニジェールの軍事クーデターで反仏感情が広がったのは、旧宗主国フランスが原発燃料ウランの鉱山開発を通じ、ニジェール経済に権益を維持してきたためだ。

欧州連合(EU)にとってニジェールは最大のウラン供給元で、クーデターはエネルギー計画を大きく揺さぶった。

フランスの原子力企業「オラノ」(旧アレバ)は7月28日、ニジェール情勢を受け、「首都ニアメーにある本部、アーリット鉱山での事業は続いている」とする声明を発表した。ニジェールには600人近いフランス人が在住するが、コロナ仏外相は30日、仏ラジオで「現時点で、退去の決定はない」と述べた。

フランスは電力供給の70%を原子力に依存。それを支えたのが旧植民地ニジェールのウランだった。仏紙ルモンドによると、2005〜20年、フランスのウラン輸入量の18%をニジェールが占めた。オラノは今年5月、40年までの採掘権延長をめぐって、ニジェール側と合意したばかりだ。

フランスにとって、ニジェールは、西アフリカにおける駐留仏軍の重要拠点でもある。マリやブルキナファソでの軍事クーデター発生により、相次いで駐留部隊の撤収を迫られたためだ。仏国営放送によると、ニジェールには現在、仏軍1500〜2000人が駐留する。

西アフリカではロシアの民間軍事会社「ワグネル」が影響力を広げ、反仏感情を煽(あお)ってきた。昨年、ブルキナファソで軍事クーデターが起きた際にも、ロシアの旗を振るデモ隊がフランス大使館を包囲、襲撃する騒ぎが起きた。ニジェールでの事件と重なる。

経済開発協力機構(OECD)原子力機関によると、ニジェールはウラン産出で世界5位。EUでは21年、ウラン供給の24%をニジェールが占めた。2位はカザフスタン(23%)で、3位はロシア(20%)だった。EUはロシアのウクライナ侵略を受け、露産エネルギー依存からの脱却を進めているさなか。ニジェールの軍事クーデターは、新たな打撃となった。【7月31日 産経】
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逆に言えば、そうした権益の存在が、ニジェール国内の反仏感情を高めていることも想像できます。

“クーデターの背景はいまだ不明な点が多い。ただ、国民の間では治安悪化への不満が強まっており、それが過激派掃討の支援に取り組む米仏に向かった可能性がある。また、国内では原発燃料ウランの鉱山開発でニジェールに権益を維持するフランスに対する反発も根強い。”【8月1日 毎日】

【フランス人、退避開始】
上記記事では「現時点で、退去の決定はない」(コロナ仏外相)とのことでしたが、フランス国民の退避が始まっていると報じられています。

****フランス人、ニジェールから退避=クーデター受け****
フランス外務省は1日、軍事クーデターが起きた西アフリカ・ニジェールからの仏国民の退避を同日開始すると発表した。出国を希望する欧州市民らも退避活動の対象に含める。

ニジェールの首都ニアメーの状況や、フランス大使館に対する暴力行為などを踏まえた措置。現地では航空機の飛行が禁止され、仏国民らは自力での出国が困難という。

仏メディアによると、ニジェールには仏国民約600人が在留している。【8月1日 時事】
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今後については「情勢は安定しているものの3日の独立記念日以降は不透明だ」(ニジェールに拠点を置く京都大学の大山修一教授)といった指摘も。【8月1日 テレ朝news】

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