
(ハイチの首都ポルトープランスでギャングによる襲撃発生後、路上で燃やされる遺体の山を見る人々(2023年4月24日撮影)【4月25日 AFP】)
【南米エクアドル 麻薬組織進出で急速に治安悪化】
南米エクアドルでは8月9日、20日に行われる大統領選挙の候補者が選挙活動中に銃撃され死亡する事件がありました。
****エクアドル大統領候補が射殺される、選挙活動中に****
エクアドルのラソ大統領は、大統領選の候補で元議員のフェルナンド・ビジャビセンシオ氏が9日に銃で撃たれて死亡したと発表した。(中略)
大統領は短文投稿サイトのX(旧ツイッター)に「このような犯罪は必ず罰せられる」と投稿し、治安当局トップと緊急会合を開くことを明らかにした。
世論調査によると、ビジャビセンシオ氏の支持率は7.5%で、20日に投票が行われる大統領選の候補者の中で5位だった。【8月10日 ロイター】
大統領は短文投稿サイトのX(旧ツイッター)に「このような犯罪は必ず罰せられる」と投稿し、治安当局トップと緊急会合を開くことを明らかにした。
世論調査によると、ビジャビセンシオ氏の支持率は7.5%で、20日に投票が行われる大統領選の候補者の中で5位だった。【8月10日 ロイター】
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ジャーナリストだったビジャビセンシオ氏は麻薬組織の撲滅を訴えていて、犯罪グループから逆恨みで暗殺された可能性があると地元メディアが報じています。
麻薬組織に関する犯罪やギャングの横行等のニュースはメキシコ・コロンビア、中米諸国ではよく目にします。
そうした中南米にあってエクアドルは従来は比較的麻薬組織犯罪が少ない国でしたが、近年が急速に状況が悪化しているようです。
****狙われた港湾都市 コカイン密輸の拠点に****
これまでエクアドルは南米の中では安全な国とされてきたが、ここ数年、治安が急速に悪化している。殺人の発生率は2016年に比べて6倍になった。特に危険な都市とされるのは同国最大の港湾都市グアヤキルで、今年上半期の暴力事件による死亡者数は1390人となり、すでに昨年1年間の数字とほぼ同じ水準になった。
新型コロナの感染拡大以降、刑務所内を犯罪組織のメンバーが支配するようになり、刑務所で暴動事件が頻発し、数百人単位で受刑者が死亡している。
治安悪化の背景には麻薬密売組織のエクアドルへの進出がある。コカインなどの密輸のためにメキシコやコロンビアの密売組織が、エクアドルの港を利用し始めた。これまで平穏だったため取り締まりが甘かったという盲点をつかれた。
地元の専門家はグアヤキルなどエクアドルの太平洋側の都市は、需要が増え続ける欧州やアジア向けのコカインを送り出す重要拠点になっていると話している。グアヤキルなどでは大量のバナナが世界に向けて船積みされるが、積み荷のバナナがコカインなど麻薬の隠れ蓑になるケースも多い。(後略)【8月23日 テレ朝news】
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20日に行われた大統領選挙の方は、本命と予想されていた反米左派の候補が1位(得票率33%)になったものの、これまでほとんど注目されていなかった中道右派のビジネスマンが想定外の得票(得票率24%)を得て2位につけ、両者は10月15日の決選投票に臨むことになりました。
****「バナナ王」長男が勝ち残り 麻薬組織に蝕まれるエクアドル 大統領選は決戦投票に****
スーパーに行くとエクアドル産のバナナを手にする機会が多い。日本は消費するバナナのほぼすべてを輸入に頼っているが、エクアドルはフィリピンに次いで2番目の輸入先だ。
エクアドル産のバナナは日本人に馴染み深い味だが、そのエクアドルの「バナナ王」の長男が、20日に行われたエクアドル大統領選で予想外の票を獲得し10月の決選投票に駒を進めた。
候補の1人が選挙運動中に射殺されるなど荒れる大統領選となっているが、泡沫とも言われた候補の大躍進に驚きの声があがっている。
■弾劾回避で前倒し 候補者は防弾チョッキで街頭に
そもそも今回の大統領選自体が異例だった。国会から汚職疑惑を突き付けられた現職のラソ大統領が弾劾を避けるために5月に国会の解散を決めた。このため総選挙と同時に、大統領選が大幅な前倒しで実施された。
大統領選には8人(ラソ大統領は不出馬)が立候補したが、選挙期間中の今月9日には、政治腐敗の一掃を訴えていた男性候補が首都キトでの集会後に武装グループに射殺された。
メキシコの犯罪グループの関与が取りざたされているが、逮捕された6人はいずれもコロンビア人で、動機などは解明されていない。他にも銃撃や脅迫が相次ぎ、各候補は防弾チョッキを着用して街頭に立ち、投票日には10万人の警察官や兵士が投票所などに動員された。
エクアドルの選挙管理委員会によると20日の投票でトップに立ったのは反米左派のコレア元大統領が支持するルイサ・ゴンサレス氏(45)で約33%の票を獲得した。国会議員などを務めた女性政治家で、低所得層向けの政策を掲げて安定した戦いを見せた。
それでもコレア元大統領が汚職の罪で懲役8年の判決を受けながら、受刑を回避するためベルギーに亡命していることへの国民の批判は強く、思った以上に支持は広がらなかった。
■無名の政治家は米国で学ぶ 世論調査では支持率1桁
2位に入ったのは中道右派のビジネスマン、ダニエル・ノボア氏(35)だ。得票率は約24%だった。エクアドル大統領選は得票率が50%を上回るか、40%以上でもライバル候補を10ポイント以上引き離した場合は1回目の投票で大統領が決まるが、そうでない場合は決選投票が行われる。ゴンサレス氏とノボア氏はこのルールに基づき10月15日の決選投票に臨む。
ノボア氏はエクアドルの「バナナ王」として有名なアルバロ・ノボア氏の長男だ。事前の世論調査では支持率1桁台が続き、当選ラインにはほど遠い存在だった。このため、あまりニュースにも取り上げられなかったが、本番で驚きの数字を叩き出した。地元メディアは、若さに加えて、討論会などでの主張の明確さが有権者の心をつかんだと分析している。
2021年以降、国会議員を務めていたが、政治経験は浅い。父親のアルバロ・ノボア氏はバナナ産業に君臨する一方で、大統領選に5回立候補し、あと一歩のところで当選を逃し、政治的にも有名人ではあるが、エクアドルの有権者にとって長男のダニエル・ノボア氏は「無名」の政治家である。ニューヨーク大学など米国の大学で学び、18歳の時には会社を立ち上げていたという。(中略)
(麻薬組織絡みの犯罪が急激に増加している港湾都市)グアヤキルはノボア氏の故郷でもある。大統領選での最大の焦点は治安問題で、有権者はエクアドルの経済を支えるバナナを「食い物」にする麻薬組織に、2人の候補がどう向き合うのかを注視している。【同上】
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【犯罪組織と政治の癒着で進む腐敗】
麻薬組織・ギャングが横行する中南米にあっては、信じがたいほどの殺人事件件数が示すような治安の問題に加え、犯罪組織と政治が癒着する政治腐敗も大きな問題となっています。
****世界腐敗度ランキング、中南米諸国が軒並み過去最低に転落****
ベルリンに拠点を置く反汚職団体「トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)」が31日発表した2022年の「腐敗認識指数」ランキングで、グアテマラ、ニカラグア、キューバがそれぞれ過去最低の順位に転落した。公共機関による組織犯罪、政治・経済エリートによる人選、人権侵害の増加が背景という。
TIのデリラ・フェレイラ・ルビオ会長は「弱い政府は犯罪網や社会的葛藤、暴力を食い止めることができず、一部では治安対策に名を借りた権力集中により脅威が増大する事態が見られる」と述べた。
TIは同指数を毎年発表。世界の国・地域を対象に、財界幹部らによる腐敗レベルの認識度を0(「極めて腐敗している」)から100(「極めて清潔」)で数値化し、ランキングしている。
米州の平均は43。中南米では犯罪組織が公共機関に食い込んでいるベネズエラとニカラグアの清潔度が最も低かった。【2月1日 ロイター】
TIのデリラ・フェレイラ・ルビオ会長は「弱い政府は犯罪網や社会的葛藤、暴力を食い止めることができず、一部では治安対策に名を借りた権力集中により脅威が増大する事態が見られる」と述べた。
TIは同指数を毎年発表。世界の国・地域を対象に、財界幹部らによる腐敗レベルの認識度を0(「極めて腐敗している」)から100(「極めて清潔」)で数値化し、ランキングしている。
米州の平均は43。中南米では犯罪組織が公共機関に食い込んでいるベネズエラとニカラグアの清潔度が最も低かった。【2月1日 ロイター】
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ベネズエラの反米左派マドゥロ政権の失政・強権支配についてはこれまでも度々取り上げてきました。
中米ニカラグアでも反米左派のオルテガ政権が政権に批判的なメディアを停止し、カトリック司祭を起訴し、EU大使を追放するなど強権支配を続けています。アメリカは経済制裁で圧力をかけていますが、ベネズエラ同様に状況を変えるまでには至っていません。
【中米エルサルバドル 軍投入のギャング摘発で人口の1%を検挙 巨大刑務所オープン】
世界で最も治安が劣悪な国の一つとされる中米エルサルバドルでは、やはり強権支配のブケレ大統領がギャング摘発に軍を投入し、殺人件数は半減したとか。
****昨年の殺人が半減=「強権」大統領の強硬策奏功―エルサルバドル****
世界で最も治安が劣悪な国の一つとされる中米エルサルバドルで、2022年の殺人件数が前年の半分以下に減少したことが分かった。政府が6日までに発表した。
強権体質を指摘されるブケレ大統領は、昨年3月27日に非常事態宣言を発令。市民権を一部制限し、軍を投入して「マラス」と総称されるギャング組織の摘発に取り組み、6万1300人以上を検挙したという。【1月7日 時事】
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6万1300人以上を検挙・・・人口の1%にあたります。日本なら120万人!!
大量摘発すれば、刑務所も必要になります。刑務所の過密状態は映画などでもお馴染みの光景。
そこで、4万人収容可能な「米州最大」(当局者)、東京ドーム35個分の巨大刑務所をオープンしました。
****地上の地獄──血まみれの土地に巨大刑務所開設、エルサルバドル****
中央アメリカ中部に位置するエルサルバドル。この国に、地上の地獄と言えそうな新しい刑務所ができた。
首都サンサルバドルの南にあるテコルカ市の農村地域に開設された「テロリスト監禁センター(CECOT)」は、アメリカ大陸において最大規模で、施設は8つの鉄筋コンクリートの建物から成る、最大で4万人を収容できる巨大刑務所だ。2月24日、最初の収容者2000人が移送された。
収容者は逮捕されたギャング達。丸刈りにされ、上半身裸の2000人もの男性が後ろ手に手錠をかけられ、足は鎖でつながれている。収容者のアイデンティティは剥奪される。収容者100 人に対して80のベッドしかないと、英デイリーメールは報じている。
「支配」を究極のレベルに
刑務所は受刑者の生活を支配し、自由を奪うように設計されるが、CECOTはそれを究極のレベルまで引き上げている。
エルサルバドルのナイブ・ブケレ大統領は、同国の他の刑務所では受刑者が、売春婦を呼んだり、テレビ視聴、さらにプレイステーションを楽しみ、電話の使用ができてしまう環境だと主張している。こういった行為はCECOTでは、一切許されない。
外界との接触を不可能にするため、携帯電話の信号を遮断する電子スクランブラーを導入。脱走防止策として、頑丈な鋼鉄の独房、周囲を囲う壁、19の監視塔、 電気柵、パトロールエリアといった、7つの「壁」を作った。
ギャングへの強いメッセージ
エルサルバドル政府がここまで強烈な刑務所を作ったのは、国を悩ませてきた暴力的なギャング達の、暴力の応酬に終止符を打ちたいからだ。
約12年間続いた内戦は終わったものの、戦中に流出した武器が国内に大量に残されており、ギャングによる犯罪が横行している。経済状況は停滞し、貧困率も高く、治安は悪化の一途。米『グローバル・ファイナンス』が発表した「世界で最も治安の良い国ランキング」によると、エルサルバドルは105位だ。
ギャングの麻薬密売と恐喝は、エルサルバドルの日常の一部と化し、毎日10〜20人が殺されていたという。
2020年に政府は「領土管理計画」として知られる治安政策を打ちだし、独房への自然光をすべて遮断すること、家族の訪問を禁止すること、囚人を鎖でつなぐことを含む強硬策に出た。それでもギャングの勢いは止まらなかった。新型コロナウイルスによるパンデミックの間、犯罪はさらに増えた。
2022年3月に、わずか1日のうちにギャングによる殺人事件が62件発生した後、国会は非常事態を宣言。そして 12 月には、1万人の政府軍が首都のソヤパンゴ地区を包囲。すべての道路が封鎖され、特殊部隊が家々を回りギャングのメンバーを探した。
この「ギャングとの戦い」の最初の1ヶ月で、少なくとも1万7,000人が逮捕され、投獄された。最終的に逮捕者は 6万4,000人になった。エルサルバドルの人口 630 万人のほぼ1%に相当する数だ。
人権団体からの非難も出たが、ブケレ大統領のギャングに対する強硬姿勢は国民からの支持を集め、ある世論調査では90%の支持率が示された。そして、大統領の命令で、CECOTの建設が始まった。「目的は、ギャングを完全に消滅させることだ」と、ルネ・メリノ国防大臣は言った。
とはいえ忘れてはならないのは、残忍な扱いは残忍な人々を生み出す温床になるということ。最終的に、刑期を終えた罪人は解放される。家畜のような扱いを何年も受けた彼らは怒りに燃える可能性がある。エルサルバドルの冷酷な努力は、この血まみれの土地をより危険なものにするだけかもしれない。【3月2日 佐藤太郎氏 Newsweek】
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【中米ハイチ ギャング横行で国家機能破綻 自警団の暴力も問題化】
「麻薬戦争」ということで何度も取り上げたメキシコは相変わらずのようです。
“谷底から遺体入り袋45個発見 メキシコ”【6月2日 AFP】
“冷蔵庫から13人の遺体発見 メキシコ”【8月15日 AFP】
ギャングの横行で国家機能が破綻しているのが、地震(2010年)・ハリケーン(2016年)被害から復興できないハイチ。
****ハイチで殺人・レイプ・誘拐が横行 国連、「衝撃的」と警鐘****
国連は(4月)26日、中米ハイチでギャングによる暴力が急増しているとして、秩序回復に向け国際部隊の派遣を改めて呼び掛けた。
ハイチ問題に関する国連特使のマリア・イサベル・サルバドル氏は安全保障理事会で、首都ポルトープランスや周辺地域のかつて比較的安全とされていた地区で、過去3か月間に暴力犯罪が「衝撃的な」ペースで増加していると指摘した。
ハイチ警察と国連の統計によると、殺人、レイプ、誘拐、リンチなど暴力犯罪の件数は今年1〜3月は1647件と、前年同期(692件)の2倍以上になった。
同氏は、国連が行った聞き取り調査の結果、「ギャングが集団レイプを含む性的暴力を通じ、対抗勢力の支配地域の住民に恐怖と苦痛を与えている実態」も明らかになったと述べた。
凶悪犯罪の犠牲者には子どもも含まれ、教室で撃たれたり、学校への送迎の車から降りたところで誘拐されたりする事件も起きているという。(中略)
ハイチでは2021年7月、コロンビア人傭兵を中心とする武装集団によってジョブネル・モイーズ大統領が暗殺されたのをきっかけに、治安が悪化の一途をたどっている。
国連のアントニオ・グテレス事務総長は数か月前から安保理に対し、秩序回復を支援する国際部隊の派遣を求めているが、主導しようとする国が見当たらない状況だ。
安保理に出席したハイチのジャン・ビクトル・ジェネウス外相は、過去48時間にも治安は一段と悪化しているとし、「手遅れになる前に迅速な行動を」と訴えた。 【4月27日 AFP】AFPBB News
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こうしたギャングの暴力に対し、住民は自警団を組織して対抗。その自警団の暴力も問題になっています。
“住民がギャングをリンチか、投石し生きたまま焼く ハイチ”【4月25日 AFP】
(ハイチ問題に関する国連特使)サルバドル氏は、警察がほとんど機能しない中、「自分たちの手で問題解決を図ろうとする」住民が現れ始めていると指摘。こうした動きは「地域全体に予測不能な結果をもたらし、社会基盤の崩壊につながる」恐れがあると警鐘を鳴らしています。
****ハイチ、ギャング絡みで今年すでに2400人超死亡 国連****
国連人権高等弁務官事務所は18日、ギャング絡みの暴力事件がまん延するハイチで、今年に入ってからの死者がすでに2400人以上に上ったと報告した。うち350人超が、地元住民や自警団のリンチ(私刑)による死者だという。
首都ポルトープランスでは、今週だけで住民30人が死亡、10人超が負傷した。
OHCHRのラビナ・シャムダサニ報道官はスイス・ジュネーブで行った記者会見で、「今年1月1日〜8月15日に、少なくとも2439人が殺害され、902人が負傷した。また、951人が拉致された」と明らかにした。
その上でシャムダサニ氏は、ギャングの暴力に対する怒りが膨れ上がり、私刑団や自警団が増え、さらなる暴力を生んでいると警告した。
同氏によると、「4月24日〜8月中旬に、地元住民や自警団のリンチを受けた人は350人超」で、うち310人がギャング構成員、1人は警察官で、それ以外は一般市民だった。
ポルトープランスでは、約80%がギャングの支配下に置かれている。拠点の一つとなっているカルフールフォイユ地区では、身代金目的の誘拐やカージャック、レイプ、武装強盗などが頻発しており、当局の話では、暴力から逃れるためここ数日で約5000人が避難したという。 【8月18日 AFP】
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まさに弱肉強食の暴力支配の社会です。
“国連のアントニオ・グテレス事務総長は(7月)1日、ポルトープランスを視察。「残忍なギャングがハイチの人々を完全に支配している」と述べた。警察を支援し、ギャング組織を「解体」するための部隊派遣を再度求めた。
部隊の派遣については、参加する意思を示した国もいくつかあるが、音頭を取る国はいない。ハイチではこれまで、何度も国際的介入が行われたが、すべて失敗に終わっている。”【7月7日 AFP】
大地震後に投入された国連平和維持(PKO)部隊によってコレラが持ち込まれ、1万人近くが死亡するという悲劇もあり、国連活動への住民感情も良くないと思われます。