孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ニジェール  クーデターから1か月 長期化の様相 フランスに代わって影響力を増すロシア

2023-08-29 22:47:37 | アフリカ

(ECOWASが検討している軍事介入に抗議する人々(20日、ニジェール首都ニアメー)【8月23日 日経】 ロシア国旗が目立ちます)

【クーデターからひと月 「バズム大統領解放」も「軍事介入」もなく長期化の様相】
西アフリカ・ニジェールで7月26日に軍事クーデターが起きてから、ひと月余りが経過しましたが、事態に大きな変化は見られません。

軍事政権トップのチアニ将軍は「3年をかけず」民政移管を実施すると述べ、逆に言えば、当分の間は現状で居座る姿勢を見せています。

19日には、チアニ将軍と西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の代表団が首都ニアメーで会談、クーデターを既成事実化するチアニ将軍・軍事政権側のペースで進んでいるようにも見えます。

****「3年かけず民政移管」を表明 ニジェール軍政トップ****
クーデターを起こしたニジェール軍事政権トップのチアニ将軍は19日のテレビ演説で、「3年をかけず」民政移管を実施すると述べた。ロイター通信が伝えた。軍政を維持する意向を示したともいえ、バズム大統領への速やかな権力返還を求めている周辺国の反発は必至だ。

19日には西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の代表団が首都ニアメーを訪問し、チアニ氏らと会談した。ただ、演説により、政変前への状況回復を要求するECOWAS側と権力維持を図る軍政側の立場の隔たりが改めて露呈した形で、今後の交渉は難航が予想される。

代表団は、軍政が追放を宣言し監視下に置いているバズム氏とも面会した。代表団は今月上旬にもニアメーに入ったが、この際はチアニ、バズム両氏と会えなかった。

ECOWASはこれまで、軍事介入も辞さない構えで軍政に圧力をかけてきた。18日には安全保障を担当する委員会のムサ委員長が、軍事介入の「開始日を決めた」と発言。同時に交渉を優先する意向も強調し、軍政に態度軟化を促していた。【8月20日 共同】
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ナイジェリアなど周辺国でつくる西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は当初からクーデターを認めず、拘束されたバズム大統領を解放しなければ軍事介入する・・・と迫っていましたが、今のところ「解放」も「軍事介入」もありません。

素人目には、ECOWASは「軍事介入」とは言っているものの、実際に軍事行動を行うのは難しいのでは・・・とも思えます。そのあたりを軍事政権側も見透かしているような・・・。

****「軍事介入」カード利かず ニジェール政変1カ月****
西アフリカ・ニジェールで軍部の一部がバズム大統領の追放を宣言したクーデターから26日で1カ月。西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は軍事介入のカードをちらつかせて軍事政権トップのチアニ将軍に権力放棄を求めるが、奏功しない。軍政の監視下にあるバズム氏解放のめどは立たず、手詰まり感も漂う。

「じらし作戦を仕掛けてきている」。ECOWASで軍事介入の検討を担う委員会のムサ委員長は17日、加盟国の軍首脳を前に、軍政に翻弄されている現状への怒りをぶちまけた。

軍政は交渉での解決に前向きな姿勢を表明した直後に、バズム氏を反逆罪で訴追する方針を表明。ECOWAS内の動揺を誘い、有利な条件で交渉に臨める機会を見極めたいとの思いが透ける。

軍政が強気なのは軍事介入のハードルが高いためだ。ロシアと親密なマリなどが、有事にはニジェール側で参戦すると宣言。

泥沼化を恐れるアフリカ連合(AU)の平和安全保障理事会は、軍事介入計画に「留意する」とのみ意思表示し、消極姿勢をにじませる。【8月25日 共同】
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今回ニジェールのクーデター同様に、イスラム過激派の対応への不満から軍がクーデターを起こし、それまで協力関係にあったフランスを追い出し、ロシア、より具体的には民間軍事会社ワグネルとの関係を強化したのが隣国のマリとブルキナファソ。

その両国は「ニジェール対する武力介入があれば、自国への宣戦布告と見なされる」という強い姿勢でニジェール軍事政権を支援しています。ニジェール軍事政権も両国支援を受入れ、軍事介入をちらつかせる西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)を牽制しています。

****ニジェール、マリ・ブルキナファソ軍に領内介入を許可 攻撃に備え****
西アフリカのニジェールは、自国が攻撃された場合に隣国のマリとブルキナファソの軍が領内に介入することを認めた。3カ国が24日に共同声明を発表した。

西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)はクーデターを起こしたニジェール軍事政権との交渉を試みているが、外交努力が失敗した場合は部隊を派遣する用意があるとしている。

ニジェール、マリ、ブルキナファソの3カ国外相は24日、ニジェールの首都ニアメーで会談し、安全保障など共通課題での協力強化を話し合ったと明らかにした。

外相らは共同声明で、ニジェール軍事政権トップのチアニ将軍が「攻撃された場合にブルキナファソとマリの国防・治安部隊にニジェール領への介入を許可」する命令に署名したことを歓迎すると表明。

ブルキナファソとマリの外相はニジェール国民に対する武力介入があれば宣戦布告と見なされるとし、そうした介入を拒否する立場を改めて示したという。【8月25日 ロイター】
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なお、アフリカ連合(AU)はニジェールを「全面活動停止」としてはいますが、具体的行動としては軍事行動ではなく「的を絞った制裁」にとどまるようです。

****アフリカ連合、ニジェールを全面活動停止に 制裁準備も****
アフリカ連合(AU)は22日、ニジェールで発生した軍事クーデターを受け、同国を全面活動停止としたほか、加盟国に対し同国軍事政権を正当化するような行動を避けるよう指示した。

またAU委員会に対し、軍事政権のメンバーとその支持者のリストを作成し、的を絞った制裁と「個別の懲罰的措置」を課すよう要請した。また、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が課している広範な制裁に対する支持を表明した。

これらの決議は、14日に開催された評議会で採択された。【8月22日 ロイター】
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“何としてもクーデターを阻止”・・・といったものでもないようです。アフリカ連合は脛に傷を持つ国が多いですから。

【元植民地の西アフリカで影響力を失うフランス】
ニジェール軍事政権はフランスとの対決姿勢を強めています。

****ニジェール、フランス大使を追放 「国益に反する行為」****
西アフリカのニジェールで、7月にクーデターを起こした軍部隊は25日、声明を発表し、旧宗主国フランスの大使に48時間以内の国外退去を命じたと明らかにした。仏外務省はコメントしていない。

追放理由について、仏政府による「ニジェールの国益に反する」行為に対する措置だと説明。軍部隊が新たに任命した外相との面会を大使が拒んだことも挙げた。

軍部隊が米国とドイツの大使にも退去を求めたとする声明がインターネット上に出回ったが、米国務省はニジェール側から公式の文書ではないと連絡があったとして、これを否定した。ニジェールの軍部隊筋も、追放対象は仏大使だけだと話している。【8月28日 ロイター】
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フランスがニジェールに大きな権益を有していることは、8月1日ブログ“ニジェール  これまでの欧米の拠点からロシア傾斜へ ウラン供給元で仏・EUのエネルギー政策に影響”でも取り上げました。

****ニジェール EU最大の原発ウラン供給元 フランス採掘にクーデターが暗雲****
西アフリカ・ニジェールの軍事クーデターで反仏感情が広がったのは、旧宗主国フランスが原発燃料ウランの鉱山開発を通じ、ニジェール経済に権益を維持してきたためだ。

欧州連合(EU)にとってニジェールは最大のウラン供給元で、クーデターはエネルギー計画を大きく揺さぶった。

フランスの原子力企業「オラノ」(旧アレバ)は7月28日、ニジェール情勢を受け、「首都ニアメーにある本部、アーリット鉱山での事業は続いている」とする声明を発表した。ニジェールには600人近いフランス人が在住するが、コロナ仏外相は30日、仏ラジオで「現時点で、退去の決定はない」と述べた。

フランスは電力供給の70%を原子力に依存。それを支えたのが旧植民地ニジェールのウランだった。仏紙ルモンドによると、2005〜20年、フランスのウラン輸入量の18%をニジェールが占めた。オラノは今年5月、40年までの採掘権延長をめぐって、ニジェール側と合意したばかりだ。

フランスにとって、ニジェールは、西アフリカにおける駐留仏軍の重要拠点でもある。マリやブルキナファソでの軍事クーデター発生により、相次いで駐留部隊の撤収を迫られたためだ。仏国営放送によると、ニジェールには現在、仏軍1500〜2000人が駐留する。

西アフリカではロシアの民間軍事会社「ワグネル」が影響力を広げ、反仏感情を煽(あお)ってきた。昨年、ブルキナファソで軍事クーデターが起きた際にも、ロシアの旗を振るデモ隊がフランス大使館を包囲、襲撃する騒ぎが起きた。ニジェールでの事件と重なる。

経済開発協力機構(OECD)原子力機関によると、ニジェールはウラン産出で世界5位。EUでは21年、ウラン供給の24%をニジェールが占めた。2位はカザフスタン(23%)で、3位はロシア(20%)だった。EUはロシアのウクライナ侵略を受け、露産エネルギー依存からの脱却を進めているさなか。ニジェールの軍事クーデターは、新たな打撃となった。【7月31日 産経】
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上記のような事情もあって、フランスとしてはおいそれとニジェールから撤退する訳にもいかない・・・ということで、マクロン大統領は仏大使追放命令に従わない意向です。

****仏大使はニジェール退去せず、マクロン氏表明 軍部隊が追放命令****
マクロン仏大統領は28日、 西アフリカのニジェールで7月にクーデターを起こした軍部隊が仏大使に国外退去を命じたことについて、大使はニジェールにとどまると表明した。外交官向けのスピーチで述べた。

軍部隊は25日、駐ニジェール仏大使に48時間以内の国外退去を命じたと明らかにした。追放理由について、フランス政府による「ニジェールの国益に反する」行為に対する措置と説明した。

マクロン氏は、追放されたニジェールのバズム大統領に対する支持を改めて強調。辞任を拒否しているバズム大統領の勇気や、非合法な当局による圧力にもかかわらず現地にとどまっている仏大使を称賛した。

また、欧米の一部からバズム大統領を見限るべきだとの声が上がっていることについて「われわれは暴動を実行した者たちを認めない。辞任を拒否している大統領を支持し、関与し続ける」との姿勢を示した。(後略)【8月29日 ロイター】
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フランスとニジェールの関りについては以下のようにも

****ニジェールのクーデターが欧州にとって大問題である理由****
実権を握った「祖国救済国家評議会」がすぐに行ったことは、現行憲法の停止と、旧宗主国であるフランスへの金とウランの輸出停止です。

ニジェールは世界第7位のウラン産出国で、日本も福島第一原子力発電所の事故が起こるまでは輸入していました。産出量の4分の1は欧州、中でもフランスへ多く輸出されています。フランスでは電力の75%が原子力発電で賄われているため、今後エネルギー価格の高騰が予想されます。

サヘル地域ではイスラム過激派が勢力を拡大し、治安の悪化が深刻化しています。2020年にニジェールが西側の国境を接するマリ、22年には南西のブルキナファソで、クーデターが起こりました。今回のニジェールのクーデターも、バズム大統領の治安維持対策に対する不満が理由に挙げられています。今後、アルカイダやボコハラムなどのイスラム過激派がウラン鉱山を手中に収めれば、核流出の危険が生じかねません。

イスラム過激派が勢力を伸ばしているのは、フランスの影響力が弱まり、権力の空白が生じているためです。フランスは「バルハン」と名付けた対テロ作戦に失敗し、昨年末に作戦終了を発表して5000人の隊員が退却しました。

サヘル地域はフランスにとって聖域であり、米国を含む他国を立ち入らせませんでした。金銭的な援助を続け、軍隊も派遣してきましたが、数は少なく治安を維持できなくなってしまったのです。

フランスがニジェールで影響力を失った2つの理由
フランスが影響力を失った理由の第一は、内政で手いっぱいだからです。今年1月、マクロン政権が年金の支給開始年齢を引き上げる改革案を発表すると、大規模な反対デモやストライキが発生。6月には、アルジェリア系の少年が警官に射殺された事件をきっかけに暴動が全土に広がり、3000人を超える逮捕者が出ました。

暴動の中心となったのは、旧植民地のアフリカ大陸からやって来た移民2世や3世の若者たちです。現在アフリカに住む人たちがこうしたニュースに接して、反仏感情を募らせただろうことは想像に難くありません。

もう一つの理由は、ウクライナ問題に手を出したことです。マクロン大統領はウクライナと距離を置きたい意向を持っていますが、結局は米国の国益に付き合わされている。それで、重要な“裏庭”であるニジェールを含むフランスの元植民地だった諸国への影響力を失いつつあるのです。【8月29日 佐藤優氏 “「プリゴジンの死」でワグネルに起きること…佐藤優も驚いた“深い関係”とは?”DIAMOND online】
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アメリカはソマリア内戦での失敗(1993年のモガディシュの戦闘)のトラウマもあってアフリカにはあまり関与したがらないので、今回も現地政権と事を起こしてまで何かするということはないのでは。仏軍に協力することはあっても。

【懸念されるイスラム過激派の勢力拡大】
上記のように、軍事政権側の強気姿勢は変わらず、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)も軍事介入にはハードルが高いという状況で、事態は長期化の様相を呈していますが、フランスやアメリカのイスラム過激派掃討作戦が困難になれば、イスラム過激派がこの地で勢力を拡大することも予想されます。

****ニジェール、イスラム過激派の勢力拡大に懸念 クーデターから1カ月****
西アフリカ・ニジェールでクーデターにより軍部が実権を掌握して1カ月が過ぎた。軍事政権は3年以内に民政移管する方針を示すなど事態は長期化の様相を呈している。

ニジェールは米国とフランスがイスラム過激派を監視する要衝で、ロシアの浸透や過激派の勢力伸長を警戒する見方も出ている。(中略)

仏紙ルモンドや米CNNテレビ(いずれも電子版)によると、ニジェール周辺では国際テロ組織アルカーイダやスンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の傘下組織が活動し、旧宗主国フランスは過激派対策のため1500人前後の軍人を駐留させている。米軍も約1100人が駐留し、ドローン(無人機)などによる過激派の情報収集の拠点としてきた。

サハラ砂漠南縁部のサヘル地域では昨年、過激派関連の事件で推定8千人が死亡したとされるが、クーデターで米仏の活動継続が危ぶまれている。特に旧宗主国フランスへの反発が強く、仏軍の駐留拠点や仏大使館前では反仏デモが起きている。軍事政権は25日、フランスの駐ニジェール大使に国外退去を命じた。

米軍はコートジボワールなどに拠点を移すことも検討している。ただ、2年前に撤収したアフガニスタン同様、監視目標から遠ざかれば無人機での情報収集が困難になり、過激派が勢いづく恐れも指摘される。(後略)【8月28日 産経】
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【フランスの空白を埋めて拡大するロシアの影響力】
フランスの影響力が後退するなかで、その空白を積極的に埋めようとしているのがロシア、その先兵たるワグネルです。

軍事政権が期待しているワグネルも“プリゴジン氏の死”というイレギュラーな事態になって不透明化していますが、おそらくロシアが前面に出るかたちで西アフリカでの活動を継続するのでしょう。

****プリゴジン死亡で変わることは****
米AP通信は8月6日、ニジェールのクーデター部隊がワグネルに協力を要請したと報じました。ワグネルのアフリカでの活動拠点であるマリを訪れ、連絡を取ったといいます。クーデターで誕生したマリの軍事政権は、フランス軍と国連の平和維持部隊を追い出した後、ワグネルを迎え入れたのです。

8月21日には、メッセージアプリ「テレグラム」に反乱後初となるプリゴジン氏の動画が投稿され、「アフリカのある国から」とし、「ワグネルは偵察と捜索活動を行っている。ロシアをすべての大陸でより偉大にし、アフリカをさらに自由にする」と語っていました。

23日に、プリゴジン氏が搭乗していた自家用ジェット機が墜落し、乗客・乗員全員が死亡。機内で爆弾が爆発したのではないかなど、事故の原因を巡って臆測が飛び交っています。活動資金の供給源であったプリゴジン氏の死亡でワグネルが解散する可能性もあります。

しかし、プリゴジン氏亡き後も、アフリカとロシアの結びつきが弱まることはないでしょう。ワグネルの構成員は、GRU(ロシア軍参謀本部情報総局)の傘下に組み入れられ、アフリカでの活動を続けるからです。

西側世界がウクライナに目を奪われている間に、ロシアは着々とアフリカで地歩を占めています。【8月29日 佐藤優氏 DIAMOND online】
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アフリカでロシアの影響力が強まっている背景には“アフリカの指導者たちにとっては、米国やフランス流の民主主義よりロシアの強権的な体制の方が親和性が高いのが実情です”【同上】ということも。


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