孤帆の遠影碧空に尽き

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台湾  抑制的だった頼清徳副総統訪米 穏当発言で米の信頼獲得狙う 麻生氏、「戦う覚悟」強調

2023-08-17 23:42:48 | 東アジア

(撮影に応じる自民党の麻生太郎副総裁(中央右)と台湾の頼清徳副総統(同左)=8日午後、台北【8月8日 時事】)

【抑制的に行われた次期総統候補の頼清徳副総統訪米 穏当な対中姿勢のアピールでアメリカ側の信頼を得たい狙い】
次期総統選挙に蔡英文総統の後任として与党民進党から立候補している頼清徳副総統は、台湾が南米で唯一外交関係を維持するパラグアイの大統領就任式への出席を目的とし、往路・復路それぞれアメリカに立ち寄る訪米を行いました。

訪米を“立ち寄り”の形で行うのは、台湾とアメリカの間に国交がなく、中国を過度に刺激しないためでもあります。

従来から台湾総統選では主要政党の候補者が選挙前に台湾の安全保障に深く関わるアメリカを訪れて、自らの姿勢に理解を求めることが多く、意地悪く言えば、“候補者がアメリカの面接を受ける”といった感も。

今回の頼清徳副総統訪米もそうしたものではありますが、中国との関係を重視する野党・国民党など台湾内部での反応、過去には「台湾独立派」とみられる発言もある頼清徳氏自身の言動、中国の反発・・・総体的に見ると概ね抑制的に行われたように見えます。

****中国演習1年、台湾に変化 副総統の訪米批判もなく 経済は「脱中」****
昨年8月のペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に反発した中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を開始して4日で1年。演習は中国に対する台湾の警戒を一気に高め、外交や防衛、経済などさまざまな分野で変化をもたらした。

台湾の総統府は2日、外交関係を持つ南米パラグアイの大統領就任式への出席を目的とした頼清徳副総統の外遊を発表。12〜18日の日程で、往路で米ニューヨーク、復路で米サンフランシスコを経由。米側要人と会談する可能性がある。

頼氏は来年1月に行われる総統選の与党、民主進歩党の候補であり、投票約5カ月前の訪米に中国外務省は「断固として反対」と反発した。

以前であれば台湾でも最大野党、中国国民党の関係者や親中派メディアが「中国を刺激すべきではない」と批判するところだが、今回はそうした声はほとんど聞かれない。

昨年夏のペロシ氏訪台以降、米台間の要人の往来は従来以上に活発になった。2020年1月の前回総統選で国民党の韓国瑜(かん・こくゆ)候補は「経済は中国、安全保障は米国に頼る」と、米中間での「等距離外交」を主張した。だが、次回総統選の主要3候補はいずれも「米国との関係を最も重視している」と強調している。

経済の「脱中国」も顕在化しつつある。台湾のシンクタンク、中華徴信所によれば、今年1〜4月の台湾の対中投資は約9億ドル(約1280億円)で、このペースでは通年で40億ドルを下回り、03年以降最低となる可能性がある。中華経済研究院の研究者、王国臣氏は「中国の景気低迷などの理由もあるが、台湾社会の対中不信が強まったことも関係している」と指摘した。

台湾人の防衛意識にも変化が出てきた。ロシアによるウクライナ侵略の影響もあり、「戦争はいつでも起きる」と認識が広がったようで、市民に軍事的な専門知識や技術を教える民間団体が増加した。

その中で注目されるのが「黒熊学院」。大手企業、聯華電子(UMC)の創立者、曹興誠氏が巨額の寄付を行い、3年間で300万人の「黒熊勇士」と称される民兵の育成プロジェクトを発表した。学院関係者によれば、各地で週末に開催する授業には申し込みが殺到し、講師が足りない状態が続いている。

蔡英文政権が昨年末、18歳以上の男子に義務付ける兵役期間を4カ月から1年に延長することを決めた際も、大手シンクタンク、台湾民意基金会の世論調査で73%が賛成した。台湾大学名誉教授の明居正氏(政治学)は「ペロシ氏訪台(と中国の軍事演習)は台湾の人々にとって国際社会や中国との関係を再考する契機となった。米国と連携して中国の脅威に対抗する気持ちは一層強くなった」と話している。【8月4日 産経】
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頼清徳副総統は、“2015年9月30日に台南市議会で中国国民党議員から質疑を受けた際は「私は台湾独立を主張する」、「台湾が独立主権国家であるという台湾の人々の主張を中国は尊重すべき」と述べている。2017年の行政院長就任後も度々台湾の独立について言及し、「台湾は中華民国という名の独立した主権国家である」とした上で、「いかなる国も中華民国が存在する事実を直視すべきだ」と主張している。”【ウィキペディア】というように、「独立派」の色合いが濃いと見なされています。

「独立」云々は中国との決定的対立・軍事衝突を招きますので、中国との武力衝突は回避したいアメリカとしてもそうした言動は望んでいません。

従って、頼氏に関しては、何かを強くアピールすることではなく、問題になりそうな発言をせず慎重に行動することがアメリカの信頼を得ることにもつながります。

****台湾総統選候補の頼副総統、「中華民国の名称変更の計画なし」****
来年1月の台湾総統選の有力候補である頼清徳副総統は、台湾の正式名称を変更する計画はないと述べる一方、台湾は中国に「従属」していないとの見解を改めて示した。メディアとのインタビューで述べた。

頼氏はかつて自身を「台湾独立のための現実的な活動家」と称し、中国の反発を買った。
同氏は繰り返し現状変更は目指していないとし、台湾がすでに中華民国という独立した国で、その将来を決めることができるのは台湾の人々だけだという事実を述べている、と説明している。

ブルームバーグとのインタビューで頼氏は「われわれは真実に従わなければならない。それは台湾がすでに中華民国という主権を持つ独立した国ということだ。台湾は中華人民共和国の一部ではない」とし「中華民国と中華人民共和国は従属関係にない。独立を宣言する必要はない。中華民国(台湾)は中国に従属していない」と述べた。

選挙対策チームが公表したインタビュー記事によると、頼氏は「(台湾の)憲法によれば、現在の名称は中華民国である」とした上で、「蔡英文総統は台湾社会の統一という観点から中華民国という名称を使ってきた。今後もそうするつもりだ。名称を変更する計画はない」と述べた。

蔡総統は中国に何度も協議を呼びかけているが、中国は拒否している。頼氏は「平等と尊厳」がある限り、対話のドアは常に開かれているとし、「われわれは敵になりたいわけでない。そして中国がわれわれと同じように民主主義と自由を享受することを望む」と述べた。その一方で、中国が台湾に対する武力行使を放棄するまで軍事力を強化しなければならないとした。【8月15日 Newsweek】
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****台湾の頼氏、中国対抗措置けん制 「軍事威嚇なら選挙介入」****
来年1月の台湾総統選の与党、民主進歩党(民進党)候補、頼清徳副総統は訪問先の南米パラグアイの首都アスンシオンで15日、記者会見した。自身の米国経由での訪問を口実に中国が対抗措置として軍事的威嚇を強めれば総統選への介入になると主張し、けん制した。

頼氏は、中国が大規模軍事演習などを実施する可能性を念頭に「武力による威嚇を展開すれば、中国が軍事力を用いた総統選への介入を図っているとの国際メディアの報道を裏付けることになる」と述べた。

今回の外遊はパラグアイのペニャ大統領の就任式に、蔡英文総統の特使として参加するのが目的で、総統選候補としてではないと説明した。【8月16日 共同】
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“中国が対抗措置として軍事的威嚇を強めれば総統選への介入になる”云々は、実際には逆でしょう。中国が威嚇すればするほど台湾世論は反発し、中国への警戒感を強め、結果的に与党・民進党に有利になる・・・。

それはさておき、上記のような発言であれば、従来からの台湾の主張に沿ったもので、新たな中国の反発を招くような内容でもなさそうです。

ニューヨークでの在米台湾人との昼食会でも来賓に連邦議会議員の姿はなく、頼氏の訪米に反発する中国を刺激しないよう、台湾側が配慮したためとみられています。
訪米中にアメリカ要人との面会も敢えて行わず、アメリカの信頼を得るための“安全運転”に心がけたようです。

穏当な対中姿勢のアピールには、過去の「台湾独立の仕事人」といった発言が招いたアメリカ側の不信を払拭し、蔡英文総統の後継としてアメリカ政府の支持を得たい思惑があるとも見られています。

****台湾副総統、米国から帰途に 中国刺激避け 抑制的な外遊に****
南米訪問を終えた台湾の頼清徳副総統は17日未明、経由地の米西部サンフランシスコから台湾への帰路に就いた。頼氏は往路で立ち寄った東部ニューヨークを含めて米国で要人らと面会した形跡はなく、全体を通じて抑制的な訪問内容となった。米台要人の交流に神経をとがらせる中国側を刺激することを避けたとみられる。

(中略)台湾メディアによると、(パラグアイ大統領)就任式会場で同席した米国のハーランド内務長官と短時間言葉を交わしたが、米国内では在米台湾人の会合に出席するなどしただけで政府や議会の要人との接触は確認されていない。

台湾海峡の現状維持を掲げる頼氏としては、外遊中の演説やメディアによるインタビューを通じて自らの対中姿勢を示す一方、中国との緊張を高めかねない米要人との交流を控えることで「信頼に足りる指導者」としての資格があると米側にアピールした格好だ。

頼氏はパラグアイの首都アスンシオンでの記者会見で「台湾海峡の安定は中国と台湾、国際社会全てにとって利益がある」として、圧力を強める中国が姿勢を変えることに期待を示した。

中国は米国に立ち寄った頼氏を「トラブルメーカー」(中国外務省)と批判する一方、17日夕の時点で台湾付近での演習など目立った軍事的行動は見せていない。【8月17日 毎日】
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中国は「『台湾独立』の立場を堅持する『トラブルメーカー』」と批判はしていますが、上記記事にもあるように、それ以上の目だった動きはないようです。

****中国側、「トラブルメーカー」と反発 台湾副総統の米国立ち寄り****
(中略)中国外務省は13日、頼氏が米国入りしたことに「強い非難」を表明する報道官の談話を発表した。「強力な措置を講じて国家の主権と領土の一体性を守る」として報復措置を示唆した。
 
談話では、頼氏について「『台湾独立』の立場を堅持する『トラブルメーカー』」だと主張。「いかなる形の米台の公的往来にも断固として反対する」と表明した。

米国に対しても、台湾問題が「越えてはならないレッドラインだ」として「『一つの中国』原則を曖昧にしたり骨抜きにしたりするのをやめるよう促す」と述べた。【8月14日 毎日】
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ただ中国も前述のように、下手に騒ぐと民進党を有利にするような逆効果になりかねないところがありますので、今は慎重姿勢のようです。

【麻生副総裁 訪台で「戦う覚悟」強調 その狙いは抑止力強化とのこと】
台湾・中国双方が抑制的に動いているなかで目だったのが麻生副総裁の「戦う覚悟」発言。
麻生副総裁は8日、台湾での講演で台湾海峡での戦争を回避するため「戦う覚悟」を示すことが抑止力の強化になると訴えました。

「今ほど、日本・台湾・アメリカをはじめとした有志の国に、強い抑止力を機能させる覚悟が求められている。こんな時代は無いのではないか。『戦う覚悟』です」(麻生副総裁)

アメリカも(真意不明なバイデン発言は別にして)公式には台湾有事の際の対応を「曖昧」にしているなかでは目立つ発言です。

****麻生氏「戦う覚悟」発言、台湾で波紋 与党系と親中派で賛否両論****
9日付の台湾各紙は、訪台した自民党の麻生太郎副総裁が8日の講演で、日本や台湾、米国などが中国の軍事的圧力に対抗するために「戦う覚悟」を持つことが地域の抑止力になると強調したことを大きく取り上げた。

与党、民主進歩党に近い大手紙、自由時報は「台湾海峡の安全を守る決意を示す」との見出しを掲げ、1面トップで麻生氏の発言を紹介、2面と3面にも関連記事を掲載した。「麻生氏の今回の台湾訪問で、インド太平洋地域におけるわれわれの協力の方向性が示された」との頼清徳副総統の言葉を紹介した。

同紙はまた、麻生氏が講演の中で、台湾でも人気の漫画「ワンピース」を取り上げ、「主人公のルフィは友達を裏切らない」などと言及したことについても、「日本は台湾を裏切らない意味だ」と解釈している。

大手紙、聯合報は麻生氏の発言について「現在の日本政府の中国に対する強硬姿勢を反映したものだ」と分析した。

一方で、中国寄りとされる台湾紙、中国時報は「戦争をあおっている」「台湾への善意が感じられない」と麻生氏を批判した。

政治評論家、黄澎孝氏は「麻生氏の発言は、台湾社会に対し、安全保障問題や、対日関係などについて改めて考えるきっかけを与えてくれた。非常に意義があったと思う」と話している。【8月9日 産経】
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****中国大使館、台湾訪問した麻生氏の「戦う覚悟」発言に「身の程知らず」批判****
台湾を訪れた自民党の麻生副総裁が台湾海峡での戦争回避のため「戦う覚悟」が求められていると発言したことに対し、日本にある中国大使館は「身の程知らずだ」と反発しました。

麻生副総裁は8日、台湾での講演で台湾海峡での戦争を回避するため「戦う覚悟」を示すことが抑止力の強化になると訴えましたが、日本にある中国大使館の報道官は9日、「身の程知らずででたらめを言っている」と反発。内政干渉だとして、日本側に抗議したことを明らかにしました。

そして、「日本の一部の人間が執拗に中国の内政と日本の安全保障を結びつけることは、日本を誤った道に連れ込むことになる」とけん制しています。

中国外務省も「台湾海峡の緊迫した状況を誇張し、対立をあおり、中国の内政に乱暴に干渉した。日本の個別の政治家が台湾問題でとやかく言う資格はどこにあるのか」と批判を強めています。【8月9日 TBS NEWS DIG】
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麻生氏としては中国の反応は想定内で、そうした反応を惹起するような強い姿勢を示すことが現実的な抑止力につながるという考えのようです。

****異例の台湾訪問 麻生副総裁「戦う覚悟」発言の真意 中国の反発も“狙い通り”****
3日間にわたり台湾を訪問した自民党の麻生太郎副総裁。各国の政治家や有識者を相手にした講演にのぞむと、中国を念頭に「戦う覚悟を持つことが抑止力になる」と訴えた。この発言が中国の激しい反発を招くなど波紋を呼んでいる。しかし、こうした反応も“狙い通りだ”と、麻生氏周辺は強調する。麻生氏はなぜ、このような発言をしたのか。同行した記者が、その真意に迫った。

異例の訪台の背景 麻生氏のこだわり
(中略)断交後では、党の最高位となる麻生副総裁の異例の訪台。その背景について、自民党関係者は次のように明かしている。 「麻生氏は、台湾へのこだわりが昔から強い。本当は、もっと早い段階に行きたかったくらいだ」(中略)

もう一つ背景にあるのが、緊迫する東アジアの安全保障環境だ。以前から麻生氏は、軍事的圧力を強める中国を念頭に、台湾海峡での戦争、いわゆる「台湾有事」が始まった場合「日本でも戦争が起きる可能性は十分に考えられる」と公言してきた。台湾海峡の安全保障環境について憂慮しているのだ。

そして、麻生氏に近い別の関係者は、訪台を前に、こう強調した。「麻生氏が台湾に行くこと自体が、『抑止力』として中国に対するメッセージとなる」

抑止力の強化「戦う覚悟」発言の経緯
(中略)麻生氏は「戦う覚悟」という言葉を使うことを、事前に周辺には伝えていた。「岸田総理の口から言えないからこそ、麻生氏自身の思い入れが強い言葉だった」と、周辺は語っている。

台湾の次の総統が重要 与党候補に注文も
「戦う覚悟」発言の同日、蔡英文総統と会談した麻生氏は、記者団に次のように話した。
「来年の1月に行われる(台湾総統選の)選挙の結果は、日本にとっても極めて大きな影響が出ますから、そういった意味で『次の人を育ててもらいたい』と蔡英文総統に申し上げました」(麻生副総裁)

会談の出席者によると、麻生氏は「来年5月に迫る蔡英文総統の任期中は、台湾有事が起こる可能性が低い」と見ていて、次の総統が台湾有事を起こさせないためには重要であると訴えたというのだ。

また、来年の総統選に立候補する与党民進党の頼清徳副総統との昼食会の冒頭、麻生氏はこう注文をつけた。
「選挙で選ばれて台湾の総統となる方の、この種(台湾有事)の問題に対する見識、いざとなった時に“台湾政府が持っている力”を台湾の自主防衛のために、きっちり使うという決意・覚悟というものが、我々の最大の関心です。」(麻生副総裁)

その後の昼食会の中で、麻生氏と頼氏は、台湾有事が起きた際の対応について認識をすり合わせた。初対面だった2人は「抑止力」を機能させるための議論を深めた。

中国「内政干渉」と反発も 麻生氏周辺“中国の反応は狙い通り”
(中略)一方で、“狙い通りの効果が出ている”と麻生氏周辺は強調する。

「中国が反応しているということは『抑止力』になっているということだ。今回の麻生氏の『戦う覚悟』発言で台湾での戦争リスクは下がる」

また、麻生氏自身も講演でこう主張している。
「台湾海峡の安定のために、それ(防衛力)を使うという明確な意思を相手に伝える。それが『抑止力』になる」(麻生副総裁)

「伝える」という意味では、麻生氏の発言は成功したのかもしれない。しかし、中国に一定の刺激を与えたことで「抑止力」に繋がるのかは、いまだ不透明だ。

麻生氏周辺も「2027年の夏までに、台湾有事が起こる可能性がある」と警戒する。
他方、日中両国は、9月上旬のASEAN関連首脳会議に合わせ、岸田総理と中国の李強首相との首脳会談の調整に入った。対話再開に向けた中国側の“シグナル”とも受け取れる。習近平国家主席との会談は予定されていないが、双方の外交当局が模索を続けている最中だ。

「戦う覚悟」発言が、日本・中国・台湾、この3者の関係にどう変化をもたらすのか。揺れ動く台湾をめぐる情勢は、今後も目が離せない。【8月13日 TBS NEWS DIG】
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台湾次期総統への注文はともかく、麻生氏の「戦う覚悟」は日本にも求められていますが、そのあたりの日本国内での議論は?
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