孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  選挙を控えて国内価格安定重視からコメ禁輸 砂糖も? 混乱する国際市場

2023-08-26 23:08:44 | 食糧・飢餓

(【8月4日 日経】)

【ロシアの黒海穀物輸出合意離脱を受けて、ウクライナは新たな「穀物回廊」確保を模索】
国連とトルコが仲介した穀物輸出合意はロシアが更新に反対したことで7月17日に期限を迎え、黒海に面するウクライナの港はロシアによる封鎖状態が続いていました。

それから約1か月後の8月16日、ウクライナは黒海沿岸のオデーサ港を出航し、ルーマニア領海内を南進してトルコのイスタンブールに向かう暫定的に設定した航路「人道回廊」の運用を開始しています。

****「人道回廊」の運用開始、ウクライナ産穀物積んだ貨物船が出港…露の合意離脱後で初めて****
ウクライナ産の食料など3万トンを積んだ香港籍の貨物船が(8月)16日、南部オデーサ港からトルコのボスポラス海峡に向けて出港した。

ウクライナ政府は16日、黒海経由でのウクライナ産穀物の輸出再開に向け、民間船舶が安全に航行できるよう暫定的に設定した航路「人道回廊」の運用が始まったと発表した。

オデーサ港からの貨物船出港は、ロシアが7月に黒海を経由したウクライナ産穀物の輸出合意を離脱して以降初めて。貨物船はロシアがウクライナ侵略を始める前日の昨年2月23日からオデーサ港に停泊していた。ロイター通信によると貨物船は17日中にもイスタンブールに到着する予定という。

ロシアはウクライナに向かう貨物船への臨検を実施してけん制している。穀物輸出拠点のあるオデーサ州の港への攻撃も繰り返している。人道回廊が安定的に機能するかどうか不透明だ。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は16日夜のビデオ演説で港への攻撃が1か月に7回あったとし、「世界の食料価格やアフリカとアジアの安定への打撃だ。共同して対抗する必要がある」と訴えた。

ロシアの合意復帰の見通しがないなか、ウクライナは新たなルートの確立を急いでいる。米欧も代替ルートの確保に取り組んでおり、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは15日、米国が、ウクライナやルーマニア、トルコなどと、ドナウ川を経由してルーマニアの港からウクライナ産穀物を輸出するルートについて協議していると報じた。

10月までにドナウ川経由で月400万トンの輸出を可能にすることを目指す計画で、米政府高官は「船舶保護のために軍事を含むあらゆる選択肢を検討している」と同紙に述べた。【8月18日 読売】
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上記の香港籍の貨物船は無事イスタンブールに到着しましたが、今後も運行を容認するのかロシアの対応は不透明です。
新航路に関するその後の情報は目にしていませんが、量的にも従来の航路に比べると限定されたものになることが予想されます。

黒海沿岸に関しては、ウクライナの南がルーマニア、その南がブルガリア、そしてトルコ・イスタンブールになりますが、ウクライナ政府はブルガリアとの協議も初めています。

****ウクライナとブルガリア、黒海の「穀物回廊」確保に向け協議****
ウクライナとブルガリアの首脳が黒海での「穀物回廊」の確保に向けた両国の協力について話し合いを行っていることがわかった。黒海での穀物輸出に関する協定からロシアが離脱したことで、世界の食糧安全保障に対する懸念が拡大している。

トルコと国連が仲介した協定からロシアが離脱したことで、ウクライナの黒海に面した3カ所の港を利用する商船に委縮効果が表れている。これらの港から大部分の穀物が輸出されている。ロシアは、こうした港から出た船舶は攻撃の対象となる可能性があると警告している。

ウクライナは独自の回廊を設けているものの、黒海ではロシア海軍が優勢なため、こうした回廊の安全を確保できていない。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、ギリシャ首都アテネで開催されたバルカン諸国首脳らとの会議の機会を利用し、ブルガリアのデンコフ首相と回廊について協議した。

ウクライナ大統領府によれば、両首脳は、黒海における持続可能な安全保障を確保するための黒海諸国間の協力と、代替的な方法による「穀物回廊」の機能について協議した。(中略)

ウクライナ政府は、黒海の港を発着する船舶を対象とするため、保険会社の世界大手各社と協議を行っている。これは、世界中で不可欠な穀物輸出の完全な再開にとって重要な一歩となる。【8月23日 CNN】
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【コメ 最大輸出国インドの禁輸措置で価格急騰】
小麦の価格は22年2月のロシア軍ウクライナ侵攻で一気に高騰しましたが、その後は傾向としては下落しています。
7月のロシアの穀物合意離脱で上昇した価格も、その後は戻しています。
ただ、ロシア軍侵攻以前の2021年から上昇傾向にあって、それ以前の価格に比べると高値水準が続いているとも言えます。

一方、足元で急激な価格上昇が見られるのがコメ。

****世界のコメ価格が12年ぶりの高値に、「インドの輸出規制措置が原因」と中国メディア****
世界のコメ価格が12年ぶりの高値になっている。国際的なコメ価格はロシアによるウクライナ侵攻で昨年、小麦などの穀物価格が急騰したのに対し、比較的安定していた。中国メディアはロイター通信の報道を引用。「世界最大のコメ輸出国であるインドの輸出規制措置が原因」と伝えた。(中略)

中国網はロイター通信が「コメ価格急騰のきっかけは、世界最大のコメ輸出国であるインドの意思決定だと報じた」紹介。インド消費者行政・食品・公共分配部は7月20日、輸出増が国内のコメ高騰を招いたことを理由とし、「価格を抑え自国の消費を保証」するため、バスマティなどの高級品種以外の米の輸出を禁止すると発表した。

インド、タイ、ベトナム、カンボジア、パキスタンなどはコメの主要輸出国。中国、フィリピン、ベナン、セネガル、ナイジェリア、マレーシアなどはこの主要食糧品種の重要な輸入国だ。

タイの破砕率5%の白米のオフショア価格は7月27日までに、1トン当たり607.5ドル(約8万7000円)に高騰した。7月20日にインドがコメ禁輸を発表してから62.5ドル高騰(11.5%上昇)し、12年5月以来の高値を付けた。

インドの輸出規制措置はコメの需給に重大な影響を生んだ。米国農務省の統計によると、インドのコメ輸出量は22〜23年度に2250万トンに上り、世界市場の40%を占めた。インドに次ぐタイの同期の輸出量は850万トンのみだった。

さらに7年ぶりのエルニーニョ現象がコメ不作のリスクを拡大している。エルニーニョ現象が発生すると太平洋赤道海域の海面温度が異常に高くなり、主要生産地の東南アジアで雨不足による干ばつが発生する恐れがあるからだ。

コメと並ぶ主要食糧である小麦の供給にも変動が生じつつある。7月下旬、国際指標の米シカゴ商品取引所小麦先物の9月相場が1ブッシェル7.7ドルを付け、2月下旬以来の最高値となった。

現在は小麦とコメの供給逼迫(ひっぱく)が同時に発生している。この二つが不足すれば、安価な代替案を見つけることが困難になりそうだ。

中国網は「最も深刻な影響を受けるのは経済が低迷し食糧輸入への依存が強いアフリカなどの新興国だ」と指摘。「国際食糧価格が暴騰すれば、これらの国は外貨準備の不足により十分な食糧を調達できず、それにより国内の物価高が深刻化し、大規模な飢餓が生じる恐れもある」と警鐘を鳴らした。【8月12日 レコードチャイナ】
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インドに次ぐコメの輸出国タイは輸出停止はせず、高値になった状況を利用する方針と報じられています。

****タイ、コメの輸出停止せず インドの禁輸は追い風=商務相****
タイのジュリン商務相は7日、同国は輸出と国内消費用に十分な生産量を確保しているとして、コメの輸出を停止する理由はないと言明した。インドのコメ輸出停止によりタイは恩恵を受けているとも述べた。

インドは7月下旬、一部の種類を除いてコメの輸出を停止した。同国のコメ輸出はほぼ半減することになり、世界的な食料価格の上昇が懸念されている。

ジュリン氏は記者会見で、インドの禁輸はタイのコメ生産者に好機であり、特にアフリカはインド産のコメの消費量が多いと指摘した。

インド禁輸により市場に供給されるコメの量が減少し、国際価格が上昇するため、農家はより高い価格で売ることができると述べた。ただ、国際価格は不安定であり、政府は状況を注意深く監視していくと語った。【8月7日 ロイター】
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しかし、タイ当局も降雨量不足に伴う節水のために農家に対してコメの作付けを減らすよう提案しており、今後の生産量・輸出減少が予測されています。

****世界最大の米輸出国、インド・タイの「米の出荷が激減」…世界的脅威になる可能性****
世界的な米供給に対する新たな脅威
インドが国内における一部の米の出荷を禁止したことと、タイ当局が降雨量不足に伴う節水のために農家に対して米の作付けを減らすよう提案したことが、世界的な米供給に対する新たな脅威となっている。

タイ国家水資源局(ONWR)のスラスリ・キッティモントン事務局長は、「主要な中央平原地域の農家はすでに米のほとんどを作付けしたが、政府は水をあまり必要としない他の作物への転換を奨励している」と述べた。

世界第2位の米輸出国であるタイは、現在、エルニーニョ現象の影響で乾燥が進み、来年は干ばつに見舞われる可能性がある。

スラスリ氏によれば、中部地方におけるこれまでの累積降雨量は平年を約40%下回っており、米の作付けを抑制するのは、家庭で消費する水の供給を確保するためだという。「心配なのは、エルニーニョ現象が2025年まで続くかもしれないということです。私たちは全国的な水管理を慎重に計画しなければなりません」と彼は2日火曜日に語った。

これまでに、約1万7,600平方メートル以上で稲作が行われており、まだ作付けを開始していない農家には、計画を遅らせるか、より干ばつに強い植物に切り替えるよう促しているという。

過去3年以上の最高値を記録、止まらぬ価格高騰
インドは世界最大の米輸出国であるが、国内供給を確保し国内価格を抑制するために、非バスマティ米の輸出を禁止した。これにより、アジアの米価は先月、過去3年以上の最高値を記録している。世界市場でのさらなる価格上昇は、消費者に対してさらなるインフレ圧力をもたらす恐れがある。(中略)

政府は以前、エルニーニョ現象が異常な少雨をもたらす可能性があると警告し、農家に対して今年は通常の2作物ではなく1作物を栽培するよう勧告した。そして、タイからの不足分の一部は、ベトナムからの出荷量の増加によって相殺される可能性があり、ベトナムは今年の目標を大きく上回る可能性が高い。(中略)

米国農務省によれば、インドは世界最大の米輸出国で、世界貿易の40%を占め、タイは15%、ベトナムは14%である。(後略)【8月4日 THE GOLD ONLINE】
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また、インド禁輸を受けてタイのコメ市場が混乱しているとの情報もあります。

****タイ、コメ市場が混乱 インド禁輸受け供給逼迫、買い占めも発生****
世界最大のコメ輸出国であるインドが大幅な輸出制限を打ち出し、同2位のタイのコメ市場に混乱をもたらしている。流通量が逼迫して価格は高騰。一部業者が買いだめに走っていることで、輸出向けの価格が付けられない異常事態も起こっている。(後略)【8月25日 日経】
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【インドはコメに続いて砂糖も禁輸? 選挙前の国内価格安定を重視】
インドはコメに続いて砂糖の禁輸も行う可能性がある・・・とも報じられています。原因はやはり降水量不足。

****インドが10月から砂糖の輸出を禁止?世界が供給不足を懸念―中国メディア****
2023年8月25日、環球網は、インドが10月から砂糖の輸出を禁止する可能性があり、世界的な砂糖の供給不足が懸念されていると報じた。

記事はインドが10月から7年ぶりに砂糖の輸出を禁止する見通しだと英ロイターが報じたことを紹介。インド政府筋によると、現在の優先事項は国内の砂糖需要を満たし、残りのサトウキビでエタノールを生産することで、砂糖を輸出するために十分なサトウキビの生産量が見込めないと伝えた。

そして、気候変動による原料生産の減少が砂糖供給が逼迫している主な理由だとし、今年はインド有数のサトウキビ生産地であるマハラシュトラ州とカルナータカ州の雨季の降雨量が平年を50%下回っており、その影響は23〜24年のサトウキビ栽培シーズンだけでなく、24〜25年シーズンにも及ぶ可能性があると指摘した。

また、インドの国内砂糖価格が今週約2年ぶりの高水準に跳ね上がるなど食品インフレが懸念されており、砂糖価格の上昇が続けば砂糖輸出の可能性はますます低くなると伝えた。

記事によると、インドはブラジルに次いで世界2位の砂糖輸出国であり、砂糖輸出を巡っては16年にも海外販売抑制を目的として20%の関税を課したことがあったという。

記事は、インド政府が7月20日にパーボイルド米と香り米を除くコメの輸出禁止を発表し、今月19日にもタマネギの輸出に40%の関税を課すと発表したことを紹介。海外メディアの分析として、インド政府は24年の選挙前に食料価格を安定させ、食料インフレを抑制するため、さまざまな製品に輸出制限をかける動きを見せているとした。

その上で、インドが砂糖輸出を禁止する可能性がある中で、市場はブラジルに注目することになると伝えるとともに、「ブラジルのサトウキビの約半分は砂糖に、残りの半分は無水エタノールにしてガソリンに混ぜられるが、これは国際原油価格の動向次第だ。国際原油価格が高ければ、ブラジルは燃料用エタノールの生産を増やすことを選択し、原油価格が安ければ、ブラジルは砂糖の輸出を増やすだろう」とし、国際原油価格が高騰すれば砂糖の供給不足が深刻化する可能性を指摘した。【8月26日 レコードチャイナ】
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砂糖の価格は、国際原油価格の動向に影響されるというのは「なるほどね・・・」といったところ。

【露骨な「自国第一」では、拡大するBRICSにも限界】
“インド政府は24年の選挙前に食料価格を安定させ、食料インフレを抑制するため、さまざまな製品に輸出制限をかける動きを見せている”というのは、“「自国第一」なんだろうけど、自由貿易の原則とか国際的影響への配慮は?”といった感も。

インドもメンバー国であるBRICSの拡大が連日報じられています。
米欧と距離を置く国々が集まって対抗軸を形成するという点では国際政治への影響が大きいと言えますが、上記インドのように「自国第一」に終始する国、ロシア・中国のように他国侵略を厭わない国が集まっても、米欧への抵抗勢力とはなりえても、それ以上の戦略的共同歩調をとって国際社会をリードするというのは難しいようにも思えます。
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