孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルゼンチン  「物価1年で2倍」 市内では略奪増加 大統領選挙予備選で過激主張候補トップへ

2023-08-25 23:00:51 | ラテンアメリカ

(略奪される衣料品店 レジカウンターに身を隠す店員【8月25日 ロイター】)

(略奪暴徒にショットガンを放つ店員【8月25日 FNNプライムオンライン】

【6カ月連続インフレ100%超】
かつては豊かさを誇っていたのに、今では見る影もなく・・・という国が南米アルゼンチン。
その轍を踏むのではとも言われているのが日本。

****日本が「先進国脱落」の危機にある理由、衰退国家アルゼンチンの二の舞いに?****
19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落したアルゼンチン。日本も同じ道を辿るのか

アルゼンチンは19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落した国家として知られる。農産物の輸出で成長したが、工業化の波に乗り遅れ、急速に輸出競争力を失ったことがその要因だ。国民生活が豊かになったことで、高額年金を求める声が大きくなり、社会保障費が増大したことも衰退につながった。

時代背景は違うが、似た現象が起きているのが現代の日本である。IT化の波に乗り遅れ、工業製品の輸出力が衰退しているにもかかわらず、社会は現状維持を強く望んでいる。この状況が続けば、アルゼンチンの二の舞いになっても不思議ではない。(後略)【2022年2月7日 加谷珪一氏 ダイアモンド・オンライン】
*******************

そんなアルゼンチンですから債務不履行(デフォルト)の危機を繰り返すなど、経済状態に関するネガティブな記事は毎度のことですが、昨年からインフレ・通貨下落が止まらない状況が続いています。

****デフォルト再来に警戒 物価1年で2倍、通貨急落―アルゼンチン****
南米アルゼンチンの経済が危機的状況に陥っている。物価が1年で2倍に高騰し、自国通貨ペソの急落と合わせ庶民の生活を直撃。国民の4割が貧困にあえぐ中、政府のデフォルト(債務不履行)という悪夢が再び迫りつつある。

最高額紙幣、価値は「560円」 アルゼンチンで流通開始
首都ブエノスアイレス郊外に住むマリア・コンティさん(56)は「稼ぐよりも出費が多い」と嘆く。コンティさんの子供2人のうち1人は独立したが、もう1人は学生。乗馬を教える本業だけでは足りず、ウーバーの運転手も務め家計を支える。好きな本業より稼げるのはウーバーで「ウーバーの時間を増やすかどうか」と頭を抱える。

新型コロナウイルス禍の影響が尾を引く中、干ばつが経済に追い打ちをかけた。小麦や大豆など国の経済を支える穀物の輸出は、1~3月期に約24億ドル(約3340億円)と前年同期からほぼ半減。供給不足でインフレにも拍車が掛かり、消費者物価の上昇率は4月まで3カ月連続で前年同月比100%を超えた。

輸出低迷により外貨不足の懸念に火が付き、通貨安を誘発。ペソの対ドル相場は年初から約35%下落し、ペソ安がさらなるインフレ高進をもたらす悪循環に陥っている。

状況の悪化を受けてS&Pグローバル・レーティングは3月、既に投機的水準としていたアルゼンチンの格付けを「CCCマイナス」と2段階引き下げた。「外貨建て債務の返済を巡るリスクが高まっている」と警告し、追加格下げも示唆した。

政府が2001年、1300億ドルを超える公的債務の返済を停止してデフォルト状態に陥った記憶がよみがえる。

中銀は今年5月、ペソ防衛などのため政策金利を97%に引き上げた。政府はドル需要を抑えようと、中国からの輸入品に対して人民元で支払う措置なども導入した。10月の大統領選を控えて混乱の回避に躍起となっている。【6月2日 時事】
********************

デフォルトを回避すべく国際通貨基金(IMF)は7月28日、アルゼンチンに約75億ドルの金融支援を実行することで事務レベルの合意に達したと発表しています。

しかし、「物価1年で2倍」「通貨下落」という状況は今も続いています。しかも、今後更に加速するとの見方が一般的です。

****アルゼンチン、6カ月連続インフレ100%超 通貨安続く****
アルゼンチンの経済苦境が深まっている。国家統計局(INDEC)が15日発表した2023年7月の消費者物価指数は、前年同月比113.4%上昇した。6カ月連続で100%を上回った。

13日の大統領選予備選挙で過激な主張の右派候補が首位となったことを受けて中央銀行は14日に通貨切り下げを実施しており、今後はさらにインフレが加速するとの見方が大半だ。(後略)【8月16日 日経】
****************

****7月の物価上昇率は前月比6.3%、8月以降は大幅な加速を懸念****
アルゼンチン国家統計センサス局(INDEC)は8月15日、7月の消費者物価指数(CPI)上昇率は全国平均値で前月比6.3%だったと発表した。6月のCPI上昇率6.0%からわずかに加速しており、8月14日に自国通貨ペソが約2割切り下げられたため、8月と9月にはさらに大幅な加速が見込まれる。

前年同月比(年率)では113.4%と6カ月連続で100%を超えた。1~7月累計の物価上昇率は60.2%に達した。(中略)

8月以降のCPI上昇率の見通しは、7月下旬から続いているペソの下落によって大きく加速する、と多くの民間エコノミストらが予測している。

7月27日には非公式為替レートが1ドル=550ペソまで下落し、8月に入ってもペソの下落は続いた。大統領予備選挙(2023年8月15日記事参照)が実施された13日の2日前は1ドル=605ペソだったが、予備選挙翌日の14日には一時690ペソまで急落した。

また同日、中央銀行は政策金利を21ポイント引き上げて118%にするとともに、公定為替レートを約22%切り下げた。8月17日現在、並行為替レートも755ペソと大幅に下落している。

8月15日付現地紙「ラ・ナシオン」(電子版)によると、民間エコノミストらの見通しでは、8月の物価上昇率は10~12%、9月は9~10%で、2カ月間で最低でも22%上昇するという。(後略)【8月18日 JETRO】
*******************

【カフェでおしゃべりに興じる市民・・・といった意外に平穏な一面も】
日本でも物価上昇が問題になっていますが、それでも3%前後。円安も続いていますがこれも数%~1割程度。
物価が昨年の2倍になる・・・通貨価値が2,3年で数分の一に下落するといった状況で、経済・市民生活がどうなるのか想像もできません。

ただ、楽天的なラテン気質もあってか、社会は案外落ち着いている・・・という報告“も”あります。

****超インフレ下の街並が平穏な理由 ブエノスアイレスで見つけた日本人が忘れかけているもの**** 
発行されたばかりの最高額紙幣の価値は560円―。日用品の購入にすら札束が飛び交い、銀行には現金がなく、現地通貨よりも米ドルが求められる。そんなハイパーインフレ下にあるアルゼンチンだが、デフォルト(債務不履行)を何度も経験して慣れっこになっているためか、首都ブエノスアイレスは意外にも比較的平穏だという。

その本当の理由は何なのか、値上げが続く日本の明日の姿かもしれない街の様子を現地在住のジャーナリスト・佐々木はる菜さんにリポートしてもらった。
◇  ◇  ◇
スーパーでも札束、日用品は1カ月単位で値上がり
インフレ年率100%越えというハイパーインフレのアルゼンチンに住み始めてはや4カ月。今ではスーパーマーケットでのちょっとした買い物で札束を出し、1カ月単位で身の回りのモノやサービスの値段が目に見えて上がっていくことにも驚かなくなりました。

銀行には現金がなく何軒回っても引き出せないなんて日常茶飯事でATMはガラガラ。価値が下がり続ける現地通貨のペソよりもドルを持つことが良しとされ、両替所でドルを換金しながら生活している人も多くいます。

先日、2000ペソ札が発行されたと世界的ニュースになっていましたが、その価値は500~600円しかないと言われており、流通していないのか私はまだ実物を見たことすらありません。

優雅な街並みと格差、大統領選への盛り上がり
ただ、「南米のパリ」「芸術の街」として名高いブエノスアイレス市内の雰囲気は驚くほど優雅。緑豊かで、歴史的な建築、劇場や美術館なども多く、街中にはさまざまなお店が軒を並べ、夜遅くまでにぎわっています。

しかし、現地の方に話を伺うと、実際は物価の高騰で食べていけないことも珍しくないといいます。貧富の格差は拡大する一方で身近にも汚職の話がはびこり、さらに治安の悪化が深刻で「経済以上に、早急に具体的な対策をしてほしいと望む人が多い」とため息をつきます。

だからこそ盛り上がっているのが、8月の予備選挙から始まる大統領選。
「これまで何十年も二つの政党が拮抗(きっこう)して、現政権の支持と不支持は常に五分五分。長らく政治も経済も混乱しているため、どちらの政権になってもどうせ好転しないという徒労感を持っている国民も多い。そんな中で昨年ごろから台頭してきたのが、若手の第三勢力です。これまでの二大政党に追い付く勢いで支持を集め、それが歴史的な奇跡として報道されました」(50代女性)(中略)

地球の反対側で見た、日本の懐かしき光景と「井戸端会議」
そんな中でも、街は不思議と平穏で活気も感じられます。

「ワンブロックに一つ以上カフェがある」と言われ、どのお店も1日を通してにぎわっているブエノスアイレス。さらに八百屋さん、肉屋さん、魚屋さんなど小さな商店が多く、街並みは全く違うのですが、なんだか昔の日本みたいで懐かしさを感じます。

それらの店先、公園、道端など至る所で、老若男女問わずおしゃべりで盛り上がっている様子も、私が子どもの頃に見ていたにぎやかな商店街のようで、久々に「井戸端会議」という言葉を思い出しました。

「アルゼンチン人の良い点は、誰かの力になってあげたいという思いが強いところで、その時に一番すぐできるのが“相手の話を聞いてあげること“。だから、家族や友達と集う時間が欠かせません。そもそもおしゃべり好きなので、暇ができると連絡を取り合い、もし困っている人がいたら無理やりにでも予定を空けて話を聞こうとします」(30代女性)

現地の方によるとアルゼンチン人にはそんな良き「おせっかい」さがあり、急きょ自分の家に寄ってもらい何時間も話し込むようなことも珍しくないそう。他にも、例えば誕生日パーティーなどは、当人同士だけでなく友人の家族まで招待し何十人単位で開催することも普通で、初めて会った相手ともすぐに打ち解け合うといいます。

さらに、最近は物価の高騰で気軽に外食できないという人も増えているため、日本の町内会のような団体が、比較的リーズナブルな食事会やイベントを開催し、地域の人で定期的に集まり会話や交流を楽しめるような場を作っていたり、就業後に同僚と集まりさまざまな話をする「アフターオフィス」という言葉が注目を集めたりしていることからも、「おしゃべり」が不可欠な習慣だということが伝わってきます。

「毎日暮らすだけで精いっぱいという人の方が多く、現実は厳しい。でもどんなに辛く苦しくても、誰かと話す時間を作ることは大切な習慣です。そうやって何気ないおしゃべりをすることに救われている人がたくさんいると感じています」(40代男性)(後略)【8月10日 佐々木はる菜氏 時事ドットコム】
***********************

【増加する略奪・・・という現実も】
上記のような落ち着きも事実の一面ですが、別の面では、“略奪”に走るような、生きていくのに精一杯の人々の姿があるのも現実です。

****“略奪行為”したのは一般市民 スーパー店員は街中でショットガン発砲…原因は急激な物価高 アルゼンチン***
南米アルゼンチン・ブエノスアイレス州で、市民たちによる略奪行為が起こった。スーパーの店員たちが、市民に向けてショットガンを発砲する場面も見られた。

原因は急激なインフレ。物の値段が倍以上になり、各地で100人以上の市民が拘束されている。

市民たちによる略奪行為が発生
23日、南米アルゼンチンのブエノスアイレス州。大勢の警察官たちが立ち、厳重な警戒体制が敷かれている。何があったのだろうか。

街中でショットガンを連発するのは、スーパーマーケットの店員たち。銃口が向けられた先にいたのは、市民だ。

交差点を映す監視カメラには、ショッピングカートを押している人が強引に渡る姿が映されていた。出てきた建物は、スーパー。すると、次々とスーパーから人が出てきて、クモの子を散らすように走り去った。市民による略奪行為だ。その後も続々と商品を奪って逃走した。

原因は急激な物価高
多くの店をターゲットに、略奪行為をはたらく市民。そこには、やむにやまれぬ理由があった。それは、急激な物価高。年間100%以上のインフレ。つまり、物の値段が倍以上になっているのだ。生きるには略奪をするしかないと、市民が略奪行為をしていた。(後略)(「イット!」 8月24日放送より)【8月25日 FNNプライムオンライン】
********************

「略奪」行為の発生よりも、暴徒に対し店員がショットガンを発砲するという事の方が衝撃的です。「カフェでおしゃべりを楽しむ・・・」という状況とは別世界です。

****略奪が横行するアルゼンチン、背景に政治の緊迫化や高インフレ 年末までに190%との予想も****
南米アルゼンチンでは、このところ店舗の略奪が横行し、事業主の間には店の開店をためらう動きも出ている。

略奪増加の直接の原因は不明だが、10月の総選挙に向け国内情勢が緊迫していることに加え、インフレ率が113%に達し、生活に困窮する市民が増えていることなどが背景にあるとみられる。 

(中略)多数の逮捕者が出ているものの、店を開くことをためらう事業者も増えている。(後略)【8月25日 ロイター】
*****************

【過激な主張の極右候補が大統領予備選挙で一躍トップに】
こうした経済状況、更には大統領を凌ぐ実力者でもあるクリスティナ・フェルナンデス副大統領(元大統領で、現大統領は彼女の傀儡とも)が汚職で有罪となる(不逮捕特権で職務は継続)ような政治腐敗・・・・13日に行われた大統領選挙の予備選挙はダークホースが二大政党候補者を凌ぐ、大荒れの展開でした。

****アルゼンチン大統領選、予備選で極右候補が予想外のトップ****
アルゼンチンで13日、大統領選挙の予備選が実施され、独立系で極右のリバタリアン(自由至上主義)経済学者であるハビエル・ミレイ氏が予想外にトップに躍り出た。

有権者が与党連合と主要野党連合にお灸を据えた形となった。

開票率約90%時点でミレイ氏の得票率は予想を大幅に上回る30.5%。保守系の主要野党連合は28%で2位、中道左派の与党連合は27%で3位。

同国ではインフレ率が116%に達し、生活費の高騰で国民の4割が貧困状態にある。既存政党に対する幻滅感が広がっており、ミレイ氏は支持者の集会でロックを歌うなど、特に若者の間で支持が高い。

同氏は中央銀行の廃止と経済のドル化を公約に掲げ、型破りなスタイルはトランプ米前大統領を彷彿とさせる。

ミレイ氏は予備選後、「われわれは真の野党だ。失敗を繰り返す古い勢力ではアルゼンチンを変えることはできない」と訴えた。

予備選はほとんどの成人に投票義務があり、事実上、10月22日の本選を控えた最終リハーサルと言える。大統領選で支持率の高い候補が浮き彫りになった形だ。

主要野党連合では、保守強硬派のパトリシア・ブルリッチ元治安相が穏健派のオラシオ・ラレタ・ブエノスアイレス市長を破った。

与党連合では、予想通りセルヒオ・マサ経済相が指名を獲得。今後、穏健派の支持をさらに集めれば、10月の本選で得票が増える可能性もある。

投票率は70%未満で、約10年前の予備選導入以降で最低だった。【8月14日 ロイター】
*******************

同一政党から複数候補が立候補している場合、この予備選挙でトップの者に絞り込まれます。
10月の本選で当選するには45%以上の得票か、2位候補に少なくとも10ポイント差をつけて40%以上の票を得ることが条件。いずれの候補も満たさなければ、11月19日の決選投票に進みます。

一躍レーストップに躍り出たミレイ氏の主張は過激です。
中央銀行の廃止して通貨のドル化、気候変動は「フェイクだ」、臓器売買や銃所持の合法化、人工妊娠中絶の反対なども唱えているとか。

アメリカのトランプ前大統領、ブラジルのボルソナロ前大統領と同一系譜の人物のようです。

国会議員選挙の候補者を立てていなかった州があったこと、地方州においてミレイ氏政党の投票用紙が不足していたこと・・・などがあってのこの数字、もしそうした問題がなければもっと高い数字になったであろうとの指摘も。

しかし、仮に大統領になってもおそらく議会では少数与党になるので、公約実現は困難ですし、無理に大統領権限で強行しようとすれば議会による弾劾なども起こるかも。

国民、特に若年層の現状への不満がミレイ氏支持に流れた恰好ですが、いずれにしても予備選挙は前哨戦。これから本格化します。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする