孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  アサド政権の支配が確実になったものの、未だ戦火はおさまらず 依然として続く各国の関与

2023-08-13 23:21:06 | 中東情勢

(アラブ連盟の首脳会議に出席するためサウジアラビアの空港に到着したシリアのアサド大統領(中央)=サウジアラビア西部ジッダで2023年5月18日 【5月19日 毎日】)

【軍事的優位を確実にしたアサド政権 アラブ連盟復帰でアラブ世界が認知】
シリアでは、アサド政権が反体制派を武力で厳しく弾圧した2011年以降、内戦が続いており、反体制派NGO「シリア人権監視団」によると、内戦での死者は今年3月現在で60万人を超えたとされています。
また、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、国の内外に家を追われた人たちは1300万人以上に上っているとのことです。

政府軍と反体制派の争いに加え、2015年から2017年にかけてはイスラム国(IS)が勢力を拡大し、シリア領内のラッカを首都としていました。

そのISは主に米軍および協力するクルド人勢力の攻勢によって支配地域を失い、内戦の方は、イランそしてロシアの支援を受けるアサド政権が反体制派をイドリブ周辺に追い詰め、軍事的優位を確実にしています。

アサド政権は5月のアラブ連盟復帰によって、(以前はアサド政権と敵対していた)サウジアラビアが主導するアラブ世界においてもその支配を認知された形になっています。

****シリア アラブ連盟復帰の背景****
Q1: アラブ連盟がシリアの復帰を認めた背景は何でしょうか。

A1: アラブの21か国とパレスチナ解放機構でつくるアラブ連盟は、シリアの内戦が始まった2011年、その参加資格を停止しました。アサド政権の弾圧で、大勢の市民が犠牲になったという理由です。

今なお、反政府勢力への攻撃が続く中、復帰が認められた背景には、アサド政権の軍事的優位がもはや動かなくなったこと。および、アラブの大国であるサウジアラビアなどの意向が働いています。(中略)

サウジアラビアは、脱石油の経済改革を進めていますが、外国からの投資や技術を呼び込むためには、この地域を安定させることが不可欠です。そこで、国交を断絶してきたイランとの関係正常化に踏み切り、続いて、イランやロシアの支援を受けるアサド政権との関係も正常化したのです。

同盟国のアメリカが中東への関与を減らす中、近隣の国と敵対するのは得策ではないとの判断でしょう。ただし、アラブ連盟は、決して一枚岩ではありません。(中略)

正面からの反対ではありませんが、カタールは、シリアの復帰を決めた外相会議を欠席し、アサド政権との二国間関係の正常化には否定的です。さらに、欧米各国は、いぜんとして、アサド政権の正当性を認めず、退陣を求めて、制裁を続けています。

Q4: シリア情勢、今後、どこに注目しますか。

A4: (中略)シリアと国境を接し、反政府勢力側を支援してきたトルコも、関係改善に向けて動き始めています。しかしながら、内戦は終結する見通しが立たないうえ、アラブ諸国やトルコに逃れた700万人近くのシリア難民が祖国に戻れる日は、むしろ遠のくのではないかという指摘も出ています。人道危機の解決が何よりも優先されるべきだと思います。【5月17日 出川解説委員 NHK】
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【国際支援に頼る反体制派支配地域住民】
アサド政権の軍事的優位がほぼ確定しているものの、戦火が収まった訳でもありません。
政府軍が包囲するイドリブ周辺北西部の反体制派支配地域には数百万人の人々が国際支援を支えとして暮らしています。

7月には、その「生命線」とも言うべきトルコからのバブアルハワ検問所を通過する越境支援が安保理におけるロシアの反対で一時中断しました。

****シリアへの人道支援活動中断…数百万人の生活に影響のおそれ 国連事務総長「失望している」****
内戦が続く中東・シリアの反体制派地域に物資を届ける国連の人道支援活動が中断に追い込まれました。数百万人の生活に影響が出るおそれがあります。

シリアへの越境支援は、食料や医薬品などをシリア政府の許可なしに隣国・トルコから反体制派地域に届けるもので、国連の安全保障理事会の決議に基づいて行われてきました。国連はこの支援活動が400万人以上の避難民の生活を支えているとしています。

(7月)10日にこの決議が期限切れを迎え、安保理は11日、支援を9か月間延長する決議案の採決を行いましたが、ロシアが拒否権を行使し、否決されました。

シリア・アサド政権の後ろ盾となっているロシアは、国連による反体制派地域への支援に後ろ向きで、より短い期間での延長を求めていました。

国連のグテーレス事務総長は、決議が否決されたことについて、「失望している」と述べた上で、シリアへの越境支援は避難民の「生命線」だとして継続するよう呼びかけ、各国で調整が進められています。【7月12日 日テレNEWS】
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ロシアはシリアへの人道支援は「アサド政権を通じて行うべき」と主張していますが、アメリカなど欧米は「アサド政権を通すと、反体制派に物資が届かなくなる」との懸念から、トルコからの直接輸送を重視しています。

2月のトルコ・シリア大地震後にアサド政権が一時的に認めた2ルートはあるものの、国連の支援物資の85%は延長が否決されたバブアルハワ検問所ルートを通じて輸送されています。

この問題は、その後“一応”合意がなされ、バブアルハワ検問所ルートが再開していますが、状況次第ではいつでも数百万人の生活を支える「生命線」が閉鎖される不安定さが改めて示されました。

****シリア越境支援、再開で合意=安保理決裂で一時閉鎖―国連****
国連は(8月)8日、内戦が続くシリア北西部の反体制派支配地域に隣国トルコから物資を届ける国際人道支援に関し、閉鎖されていた越境地点、バブアルハワ検問所の運営を再開することでシリア政府と合意したと発表した。同検問所を巡っては、開設の根拠となる安保理決議が先月失効していた。

発表によると、今後半年にわたりバブアルハワ検問所を利用可能とすることで一致した。同検問所は2014年の安保理決議に基づいて設置され、失効直前には越境支援物資の8割以上が通過する重要施設だった。

安保理では先月、米欧が14年決議の効力の9カ月延長を目指したのに対し、シリア政府の後ろ盾であるロシアが半年のみの延長を主張。協議決裂を受けて決議案採択に失敗し、国連とシリア政府の間で利用継続に向けた交渉が続いていた。

シリア政府は再開の条件として、「シリア政府との完全な協調」や、シリア側が「テロリスト」と呼ぶ反体制派と連絡を取らないことを要求。

国連側は、活動の独立性を保つことが重要で、シリア政府の条件は「受け入れられない」と反発していた。詳しい合意内容は明らかになっていないが、グテレス事務総長は声明で「合意を歓迎する」と表明した。【8月9日 時事】 
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【活動が続くIS アメリカ・トルコ・イラン・イスラエル・ワグネルもそれぞれの思惑でシリアに関与】
支配地域は失ったISの活動も依然続いています。(下記記事の“ダーイシュ”という表現は、ISのことです)

****ダーイシュによるシリア軍バスへの攻撃、死者数は33人に増加:監視団****
内戦によって荒廃したシリア東部で、ダーイシュの戦闘員がシリア政府軍を攻撃し、33人の兵士が死亡したと、監視団が12日に発表した。当初発表していた死者数26人から修正した。

10日夜に起きた政府軍バスへの銃撃事件は、過激派グループによる政府軍への攻撃で今年最大の死者数を記録したと、シリア人権監視団は話している。

ダーイシュは2019年にシリアで最後の支配地域を失ったものの、シリアの広大な砂漠に今も隠れ家を残しており、その場所を起点に待ち伏せ攻撃やひき逃げ攻撃を実行してきた。(中略)

(英国に拠点を置き、シリア国内の幅広いネットワークを情報源とする監視団の代表を務めている)アブデル・ラーマン氏によれば、ダーイシュは「最近、兵士の殺害をエスカレートさせており…できるだけ多くの死者を出そうとしている」という。

それにより、ダーイシュは「指導者を標的にされても、依然として活発で力強い」ことを示そうとしているのだという。

ダーイシュは先週、シリア北西部での衝突で指導者アブ・アル・フセイン・アル・フセイニ・アル・クラシが死亡したと発表し、後継者を指名していた。

ダーイシュのメンバーはこの数週間、シリア北部と北東部で攻撃を強めている。
今週初めには、ダーイシュがかつて自らの拠点としていたラッカ県を襲撃し、シリア軍の兵士と親政府派の戦闘員が10人殺害された。(後略)。【8月12日 ARAB NEWS】
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なお、IS掃討作戦のためシリアには900名ほどの米軍が(大部分は東部に)駐留しており、クルド人主導の組織「シリア民主軍」と協力して活動しています。

そのクルド人勢力を敵視するのがトルコ。3回にわたりシリア北部に軍事進攻し、クルド人勢力を退け、勢力圏を築いています。

2022年11月現在で約363万人のシリア難民がトルコに滞在しているとされており、社会的に大きな負担となっています。トルコとしてはシリア北部地域にシリア難民を帰還(強制移送?)させたい狙いとも言われています。

一方、シリアで活動するイランを敵視するのがイスラエル。シリア領内のイラン関連施設への攻撃を続けています。

****シリアにイスラエルのミサイル攻撃=国営メディア****
シリアの首都ダマスカス近郊を狙ったイスラエル軍のミサイル攻撃により兵士4人が死亡し、さらに4人が負傷した。物質的な被害も出ているという。シリアの国営メディアが7日未明、軍関係者の話として報じた。

防空システムがミサイルを迎撃し、一部を撃墜したという。

シリアでは2011年に始まった内戦でイランがアサド大統領を支援し始めてから同国の影響力が増しており、イスラエルはシリア国内のイラン関連の標的に対し攻撃を続けている。【8月7日 ロイター】
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ロシアに関しては、正規軍だけでなく民間軍事会社ワグネルもシリアで活動しています。
反乱後については、ロシア政府が認める新たな組織に取って代わられるのか、ロシア軍に吸収されるのか・・・不透明です。

上記のように、シリアでは、政府軍と反体制派の争いだけでなく、ワグネルを含むロシア、イラン、イスラム国IS、アメリカ、クルド人勢力、トルコ、イスラエルなどの様々な勢力が未だうごめいています。
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