(イエメン側のサウジアラビアとの国境地帯で墓を掘る移民ら=2023年4月24日公開の動画から、ヒューマン・ライツ・ウォッチ提供・ロイター【8月23日 毎日】)
【再燃するエチオピアの内戦 今度はアムハラ州】
アフリカ東部エチオピアでは、ノーベル平和賞受賞者でもあるアビー首相率いる政府軍と以前国の実権を握っていた少数民族ティグレ人勢力が激しい戦闘を繰り広げ、更にオロモ人主体の反政府武装勢力なども加わって混乱を極めていましたが、昨年11月にはエチオピア政府とティグレ人勢力の間で政府側に有利な内容で和平合意が締結されました。
****一筋縄ではないエチオピア和平交渉の勝者と敗者****
11月2日、2年間に渡り数十万人の死者、数百万人の避難民と人道危機をもたらしたエチオピア内戦を終わらせる合意が、南アフリカのプレトリアにおいて、アフリカ連合の仲介の下、エチオピア政府とティグライ族代表の下で署名された。和平交渉の成り行きには悲観的な見方もあったため、この合意は驚きももって受け取られた。
合意は欧米を始めとする各国政府及び海外メデイアからは概ね歓迎されているが、ニューヨーク・タイムズ紙のナイロビ特派員のラティフは、11月3日付の解説記事‘Details in Ethiopia’s Peace Deal Reveal Clear Winners and Losers’で、合意内容がティグライ族に一方的な降伏を求めるようなものであるとして、現実に平和が回復されるのかを危ぶむ見方があることを紹介している。主要点は次の通り。
・専門家によれば、この合意は、戦争を始めたアビー首相にとっての決定的な勝利のように見え、ティグライ勢力指導者にとっては、配下のティグライ族の納得を得るのが難しいかもしれない。
・合意自体は、未だ公表されていないが、ティグライの部隊を30日以内に完全に武装解除することを求めており、両軍の司令官は5日以内に会合を開き、武装解除の方法を検討することになっている。
・この協定は、連邦政府軍が「迅速、円滑、平和的、かつ協調的」にティグライ州の州都メケルに進駐し、連邦治安部隊による州内のすべての空港、高速道路等を掌握することとされている。これらの部隊は過去2年間ティグライ人と戦ってきた兵士であり、一部は戦争犯罪に相当する残虐行為を行ったとして人権団体や国連から非難されている者もいる。
・アビー首相は3日、この合意を歓迎し、連邦軍の戦場での「歴史的勝利」が和平合意に道を開くことになったと称賛した。彼はティグライ人に流血を終わらせるよう呼びかけ、策略、悪事、妨害行為はこのあたりで止めるべきだと述べた。
・ティグライの指導者たちはコメントの求めに応じなかったが、専門家は、ティグライ軍に「2年間戦ってきた敵の前で自発的に武装解除する」よう説得することは、降伏と見なされ、「極めて議論を呼ぶ問題」となろうと述べた。
・アビーはティグライ勢力を打ち負かしたかもしれないが、国内の他の地域ではまだ不安を抱えている。ここ数カ月、オロミア地方とソマリア地方で民族間の攻撃が相次ぎ、すでに壊滅的な干ばつと感染症の発生に直面しているこの国は、さらに不安定化している。多くのエチオピア人は、この和平合意が切望されていた休息をもたらすことを期待している。
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2020年11月3日に勃発したエチオピア内戦は、アビーが、その権威に逆らった抵抗勢力であるティグライの指導者に対して支配力を行使しようとしたものである。
ティグライ民族の指導者たちは、エチオピアでは少数民族でありながら、30年近く政府の主要な権力を握っていたが、アビーは、18年に政権を獲得してすぐに彼らを追い出していた。(中略)
それでも懸念事項は山積
これらのことがその通り実施されれば大変結構なことであるが、ついこの間まで激烈な戦闘を繰り返していた、勇猛果敢で知られるティグライ人戦闘員らが、何らの保証もなしに素直に武装解除に応ずるのかは疑問であり、身柄の拘束や報復行為が行われないかといった不安もあるであろう。
平和維持や文民保護のために国連やアフリカ連合の国連平和維持活動(PKO)が介入する訳でもなく、合意事項の実現を監視し担保する仕組みが特にある訳でもなさそうである。
また、内戦中に行われた数々の非人道的な戦争犯罪がどう処理されるのかも不明である。特に、エチオピア政府を支援して軍事介入を行い、その部隊が戦争犯罪を行ったと非難されているエリトリア政府やティグライ州と領有権を巡る紛争地を持つアムハラ州や同州の武装グループがこの和平プロセスに参加していないことも、気掛かりである。
しかし、これまで和平交渉を拒否して来たティグライ側が、交渉に応じ、戦闘員の身の安全を連邦政府軍の善意に委ねることに合意した事実は重く、その背景には、軍事的にこれ以上の意味ある抵抗ができないくらいに追い詰められている状況があるものとみられる。
昨年、一時は、反乱軍側がアディスアベバに迫ろうという時期もあったが、戦況が逆転したのは、政府側がアラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、イランから攻撃用ドローンを大量に入手し活用したことによる。その後も、ドローンは有力な兵器としてティグライ側を追い詰めることに有効であったようである。
いずれにせよ、オバサンジョ元ナイジェリア大統領がアフリカ連合を代表して「この合意で和平プロセスが完了したのではなく始まったばかりなのだ」と述べたのは正しい指摘である。
国連、アフリカ連合、及び米国を始めとする主要7カ国(G7)や欧州連合(EU)等、国際社会は一致して今般の和平合意プロセスが確立し履行されエチオピアに平和と安定が戻る様、常に関与し圧力を継続する必要があろう。日本も和平プロセスに積極的に関与することが求められる。【2022年11月25日 WEDGE】
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上記記事でも“ティグライ州と領有権を巡る紛争地を持つアムハラ州や同州の武装グループがこの和平プロセスに参加していないこと”への懸念が指摘されていましたが、実際、今月に入りアムハラ州での武力衝突激化が報じられています。
アムハラ州の民兵組織は北部ティグレ州での紛争時、独自のティグレ州との確執を背景に、政府に協力して反政府勢力ティグレ人民解放戦線(TPLF)と戦いましたが、停戦後に政府が正規軍以外の武装解除に乗り出したことに反発し、政府軍と敵対するようになっていました。
****エチオピア北部、6カ月の非常事態宣言 武力衝突が激化****
エチオピア政府は(8月)4日、北部アムハラ州で政府側と民兵組織との武力衝突が激化しているとして、同州を対象に非常事態宣言を発令した。
今週初めに起きた衝突は、アムハラ州に隣接するティグレ州で2020年11月に発生した紛争が昨年11月に停戦となって以降で最も深刻な治安危機をもたらしている。
非常事態宣言により政府は外出や集会禁止などを命じられるようになるほか、令状なしの身柄拘束や捜査を行う権限なども与えられる。【8月7日 ロイター】
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****空爆か、26人死亡 エチオピア北部****
エチオピア北部アムハラ州の町フィノテセラム中心部に13日、空爆とみられる攻撃があり、少なくとも26人が死亡した。ロイター通信が14日報じた。同州では政府軍と民兵組織との武力衝突が激化している。
攻撃実行者は明らかになっていないが、昨年11月に停戦した北部ティグレ州を中心とした紛争では、政府側によるとみられる空爆が頻発し、多くの住民が犠牲になった。【8月15日 共同】
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【干ばつによる飢餓も】
上記のような内戦に加え、エチオピアでは深刻な干ばつによる飢餓が広がっています。
****子ども500万人食料難に エチオピア、干ばつ被害****
アフリカ東部が過去数十年で最悪の干ばつ被害に見舞われている。国連児童基金(ユニセフ)エチオピア事務所の篭嶋真理子副代表が4日までに東京都内で共同通信のインタビューに応じ、エチオピアだけで500万人以上の子どもが食料難に直面していると明らかにした。
温室効果ガスをほとんど排出しない地域で今、気候変動により子どもが亡くなりかけている」と述べ、国際社会に早急な対応を訴えた。
干ばつは気候変動が一因とみられ、3年ほど前、隣国ソマリアとケニアを合わせた3カ国で始まった。農地が枯れ、住民の貴重な財産である多数の家畜も死んだ。今年に入り降雨が確認されたものの、十分なかんがい施設はなく一部地域で洪水が発生。コレラなどの感染症も流行している。
篭嶋さんによると、人口約1億2千万人のエチオピアでは、70万人ほどの乳幼児が重度の急性栄養失調の危機にさらされている。「家族が生き延びるため、幼い娘を結婚させるケースが増えている」と指摘。10歳ぐらいで児童婚を強いられる少女もいるという。【7月4日 共同】
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【サウジアラビア国境警備隊 エチオピアからの難民を銃撃 数百人殺害と人権団体が報告 サウジは否定】
こうした内戦の混乱、干ばつによる飢餓によって生活に困窮した者は難民となって国外に出る動きがあります。
難民に利用されているのが、アデン湾を渡り、イエメンを経由してサウジアラビアに至るルートです。
そのエチオピアからの不法移民(難民)にサウジアラビの国境警備隊が銃弾を浴びせるなどして、2022年3月~23年6月に「少なくとも数百人を殺害した」と国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」が発表しています。砲撃もあったとも。サウジ側は事実無根と否定しています。
****サウジ国境警備隊、エチオピア不法移民数百人を殺害 HRW報告****
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」は21日、サウジアラビアの国境警備隊が昨年以降、イエメンから越境を試みたエチオピアの不法移民に「雨のように」銃弾を浴びせ、数百人を殺害したとの報告書を公開した。
サウジ政府筋はこれについて、「事実無根」だと否定している。
HRWがインタビューしたエチオピア・オロミア州出身の女性は、サウジの国境警備隊が当局に解放されたばかりの移民集団に向かって発砲したと証言した。
「(銃弾が)雨のように降ってきた。思い出すと涙が出る」「ある男性が、両足を撃たれ動けなくなり、助けを求め叫んでいたけれど、みんな自分の命を守るのに必死で助けられなかった」
HRWの調査員ナディア・ハードマン氏は声明で「サウジ当局は人里離れた国境地帯で、数百人もの移民・亡命希望者を殺害している」とし、「サウジはイメージ向上のためにゴルフの大会やサッカークラブ、エンターテインメントのイベント誘致に巨額の金を費やしているが、これらの恐ろしい犯罪から注意をそらすべきではない」と強調した。
サウジの長年の同盟国である米国も「徹底的かつ透明性のある調査」を行うよう求めた。
米国務省の報道官は、これらの疑惑についてサウジ政府に懸念を表明したとした上で、「サウジ当局には国際法に定められた義務を果たすよう強く求める」と述べた。
サウジ政府筋はAFPに対し、HRWの主張は「事実無根で、信頼に足る情報源に基づいていない」と述べた。
国連のステファン・ドゥジャリク事務総長報道官は、HRWの報告書は「非常に憂慮すべきもの」だが、疑惑の真偽を確かめるのは難しいと述べた。
HRWは、移民の殺害は「幅広く、組織的に」行われていると見られ、人道に対する罪に当たる恐れがあるとしている。
国連は昨年、サウジ南部とイエメン北部で2022年1〜4月に「移民約430人が、サウジの治安部隊による国境を越えた側への砲撃と発砲で殺害された」恐れがあると報告していた。
HRWによると、サウジ当局に書簡を送付したが、反応はなかった。
報告書は、イエメンからサウジに入国しようとしたエチオピア人移民38人へのインタビューをはじめ、衛星画像やソーシャルメディア、「他のソースから集めた」動画や画像を基にまとめられた。
それによると、調査対象者の証言から、砲撃を含む28件の「爆発する武器の使用」があったことが分かった。
近距離から攻撃されたとする証言もあった。エチオピア人移民に「手足のどこを撃たれたいか」と尋ねた国境警備隊もいたという。
さらに、レイプの強要や石や鉄棒での殴打があったと証言する人もいた。
HRWはサウジ政府に対し、移民や亡命希望者に向けて殺傷能力のある武器の使用する政策を撤廃するよう訴えた。また、国連に対しては、今回の件について調査を要請した。 【8月22日 AFP】
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****サウジ国境警備隊、エチオピア人移民を数百人殺害か 国際人権団体報告****
(中略)東アフリカのエチオピアでは20〜22年、北部ティグレ州を拠点とするティグレ人民解放戦線と政府軍の内戦があり、食料不足などの人道危機が深刻化。和平合意が結ばれたものの経済状況は厳しく、国外脱出を目指す人も少なくない。HRWの報告書によると、サウジでは約75万人のエチオピア人が働いているという。
サウジを目指すエチオピア人の多くは密航業者を通じ、隣国ジブチからボートでアデン湾を渡り、イエメンに入国。その後、北上してサウジへの越境を目指す。
イエメンでは15年から内戦が続いているうえ、サウジとの国境地帯には地雷が埋められている可能性もあり、極めて危険なルートとされる。移民には女性や子供も多く含まれているという。【8月23日 毎日】
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経由地イエメンの内戦、サウジ国境の地雷に加え、ボートでアデン湾を渡る際の“業者”に関して、利用者が追加料金を払わないと殴って海に捨てるなどの悪辣な行為が昔から絶えません。
そうした危険に加えて、サウジアラビア国境警備隊の銃弾・暴力・レイプ・・・
真相は未だ不明ですが、カショギ氏の暗殺事件や、東南アジア諸国からの出稼ぎメイドへの虐待など、サウジアラビアの人権意識には大きな疑問もありますので、「サウジアラビアならやりかねない・・・」という“憶測”も。
アメリカ・バイデン政権は、9.11へのサウジの関与やカショギ氏暗殺事件などへのアメリカ国内のサウジ批判を抑えて、国際政治上の利害から中東の地域大国サウジアラビア、その実力者ムハンマド皇太子との関係を改善しようとしてきましたが、こうした事件が表面化するとおいそれとサウジとの関係を強める訳にもいかなくなります。
エチオピアはサウジアラビアとの共同調査を開始すると発表しています。
****エチオピアとサウジアラビア、国境での銃撃事件を調査****
エチオピアはサウジアラビア当局と協力し、数百人のエチオピア人移民がサウジアラビアの国境警備隊に殺害されたとの人権団体の申し立てを調査すると、アディスアベバの外務省が火曜日発表した。(中略)
エチオピア外務省は次のように述べた: 「エチオピア政府は、サウジアラビア当局と連携し、速やかに事件を調査する。調査が完了するまでは、不必要な憶測をしないよう、最大限の自制をするよう強く勧告する」と述べた。
人権団体は、イエメン国境沿いに配置されたサウジアラビアの警備隊が、人里離れた山道を歩いて国境を越える移民を「広範かつ組織的に」攻撃していると非難した。
アフリカの角からアデン湾を渡り、イエメンを経由してサウジアラビアに至る移民ルートは、エチオピア移民にとってよく確立された通路である。2022年、サウジ当局は、サウジの国境警備隊が組織的に移民を殺害しているという国連の申し立てを強く否定した。
国際移住機関によると、サウジアラビアには約75万人のエチオピア人が住んでおり、そのうち少なくとも45万人は不法入国者であろう。エチオピア北部のティグライ地方では、2年にわたる内戦で数万人が避難した。【8月22日 ARAB NEWS】
エチオピア外務省は次のように述べた: 「エチオピア政府は、サウジアラビア当局と連携し、速やかに事件を調査する。調査が完了するまでは、不必要な憶測をしないよう、最大限の自制をするよう強く勧告する」と述べた。
人権団体は、イエメン国境沿いに配置されたサウジアラビアの警備隊が、人里離れた山道を歩いて国境を越える移民を「広範かつ組織的に」攻撃していると非難した。
アフリカの角からアデン湾を渡り、イエメンを経由してサウジアラビアに至る移民ルートは、エチオピア移民にとってよく確立された通路である。2022年、サウジ当局は、サウジの国境警備隊が組織的に移民を殺害しているという国連の申し立てを強く否定した。
国際移住機関によると、サウジアラビアには約75万人のエチオピア人が住んでおり、そのうち少なくとも45万人は不法入国者であろう。エチオピア北部のティグライ地方では、2年にわたる内戦で数万人が避難した。【8月22日 ARAB NEWS】
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難民・移民の悲劇については、ボートの海難事故も頻繁に報じられていますが、地中海沿岸を襲っている熱波による山火事も・・・
****山火事が続くギリシャ北東部で18人の焼死体 トルコからの不法移民か****
乾燥した空気や強風などによってヨーロッパ各地で山火事が相次いでいます。ギリシャ北東部では、移民とみられる18人の焼死体が発見されました。
山火事が続くギリシャ北東部アレクサンドルポリスの近くで22日、18人の遺体が見つかったと消防当局が発表しました。隣のトルコからの不法移民の可能性があるとみて調べています。(後略)【8月23日 ABEMA TIMES】
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