孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン  長期化する武力衝突 これまでの民主化への流れが無に帰する懸念

2023-08-09 23:26:55 | アフリカ

(紛争から逃れてスーダンとチャドの国境を超えたスーダン人家族【7月29日 ARAB NEWS】)

【長期化するスーダンの武力衝突】
正規軍と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)との武力衝突が続くスーダン内戦については7月14日ブログ“スーダン内戦 エジプトが和平仲介に 蘇るダルフールの悪夢”でも取り上げたように、「本格的な内戦」突入の恐れ懸念され(グテレス国連事務総長)、長期化の様相を呈しています。

戦闘範囲も首都ハルツーム周辺だけでなく、かつて史上最悪の人道危機と呼ばれたダルフール地方に拡大し、民族浄化の悪夢の再現も危惧されています。(準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の前身は、当時“民族浄化”の殺戮を行ったアラブ系民兵組織ジャンジャウィードだということもあって)

前回ブログではエジプトの和平仲介も取り上げましたが、目だった変化は見えていません。

****スーダン 長期化する戦闘****
Q1:スーダンの軍事衝突、もう3か月も続いているのですね。
A1:はい。この戦闘は、クーデターでスーダンの実権を握った軍とその傘下にあるRSF=即応支援部隊の権力闘争によるもので、4月15日に始まりました。(中略)

戦闘は、首都ハルツームや西部のダルフール地方などで激しく続いており、国連によりますと、これまでに少なくとも1100人以上が犠牲になりました。

およそ300万人が住む家を追われ、うち70万人が近隣諸国に避難しました。医療施設も攻撃の対象となり、食料や医薬品が不足し、深刻な人道危機が起きています。

Q2:停戦を模索する動きもありましたね。
A2:はい。軍とRSFは、アメリカとサウジアラビアの仲介で交渉を行い、何度か停戦で合意したものの、その都度、停戦違反が起きて、先月、交渉は決裂してしまいました。

国連のグテーレス事務総長は、「このままでは、周辺国を含む地域全体を不安定化させる、本格的な内戦に発展するおそれがある」と強く警告しています。

Q3:事態を鎮静化させるためには、どうすれば良いでしょうか。
A3:国連や双方に影響力のある国の仲介が不可欠です。

先週末、スーダンの隣国で、緊密な関係にあるエジプトのシシ大統領が、スーダンと国境を接する7か国による首脳会議を開きました。双方に即時停戦を呼びかけるとともに、人道支援のルートを確保すること、難民や避難民を保護することなどを申し合わせました。

これまで停戦が何度も破られてきたことを考えれば、停戦を監視し守らせるしくみを、どうつくるかがポイントとなります。

そのうえで、4年前、バシール元大統領の長期独裁政権が、民主化を求める市民のデモで倒された当初の目標に立ち返ること。すなわち、軍人らによる強権的な支配を排し、民主的な国づくりに向けた政治プロセスを立て直すことが重要な課題となります。【7月18日 出川解説委員 NHK】
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長期化の背景には、他の内戦同様に、周辺国・関係国の支援がありますので、停戦のためには、そうした国々の内戦停止に向けた意向も必要になります。

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当初、この戦闘は数日で収束すると思われた。空軍機や戦車等の装備を持つ国軍と、ピックアップトラックに銃器を搭載した車両を基本ユニットとするRSFでは、軍事力に圧倒的な差異があるためである。

しかしながら、両者の戦闘は3ヶ月を経た今でも収束する兆しが見えない。むしろRSFは、ハルツームの主要拠点や一般家屋をゲリラ的に襲撃し、拠点化するだけでなく、避難のため住民不在となった家屋にRSF兵士を住まわせ始めている。

ロシアの他にも中東諸国が、背後でRSFを軍事支援していることがRSFが戦闘を継続できる要因と考えられている。【8月8日 国際協力機構(JICA) 前スーダン事務所長 坂根 宏治氏 国際情報ネットワーク分析 IINA】
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しかし、現実問題としては欧米と激しく対立するロシア(民間軍事会社ワグネル)が絡んでくると、統一的な意思形成はなかなか困難でしょう。

【市民への攻撃、性的暴力、食料不足、感染症拡大・・・】
現地からは市民を標的とする攻撃や性的暴行、深刻な食料不足、放置された遺体などによる感染症拡大・・・等々の悲惨な状況が伝えられています。

****スーダンで複数の戦争犯罪確認 市民を標的とする攻撃や性的暴行など****
軍と準軍事組織=RSFの間で戦闘が続いているスーダン情勢をめぐり、国際人権団体は、3日、市民を標的とする攻撃など、複数の戦争犯罪が確認されたと明らかにしました。

スーダンでは、国軍と準軍事組織RSFの戦闘が3か月以上続きおよそ300万人が避難生活を余儀なくされています。
国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、3日、スーダンで行った調査で市民を標的とする攻撃や、12歳の少女が性的暴行を受けたとする証言など複数の戦争犯罪が確認されたと明らかにしました。

性的暴行などの加害者の大半はRSF側だったとしています。

一方、FAO=国連食糧農業機関は3日、スーダンの人口のおよそ42%にあたる2030万人以上が、深刻な食料不足に陥っているとしていて支援の強化を訴えています。【8月4日 日テレNEWS】
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****路上に多数の遺体放置、感染症流行の危険も スーダン****
正規軍と準軍事組織の武力衝突が続くスーダンで、野外に何千もの遺体が埋葬されずに放置され、インフラも破壊されたことから、深刻な感染症の流行が懸念されている。英NGOセーブ・ザ・チルドレンが8日、警鐘を鳴らした。

スーダンでは4月15日、軍が主導する統治評議会議長のトップ、アブドルファタハ・ブルハン国軍最高司令官と、同副議長で準軍事組織「即応支援部隊」司令官のムハンマド・ハムダン・ダガロ氏が衝突。
紛争関連のデータ収集を専門とするACLEDによると、これまでに全国で少なくとも3900人が死亡した。

首都ハルツームの住民は、今回の戦闘で殺害された人の遺体が路上のあちこちに放置されていると話している。
セーブ・ザ・チルドレンも、内戦開始から4か月がたち、路上に放置された数千の遺体が腐敗していると指摘。安置所も遺体であふれているという。

同国では近年、コレラが繰り返し流行していたことから、医師らは内戦で新たにコレラが流行すると懸念している。
「増え続ける遺体と深刻な水不足、機能不全に陥った公衆衛生、下水道の未整備という恐ろしい組み合わせにより、市内でコレラが発生する恐れもある」とセーブ・ザ・チルドレンは述べている。

また、公衆衛生当局の検査体制が機能しておらず、コレラの流行が起きているかどうかを確認することも難しいという。

国連によると、400万人以上が自宅を追われ、600万人以上が飢餓の「一歩手前」にある。 【8月9日 AFP】
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“コレラの流行が起きているかどうかを確認することも難しい”というのが現在のスーダンです。

【これまでの民政復帰へ流れが無に帰する民主化後退の懸念 アフリカ・中東地域へ影響拡散も】
スーダンではバシール政権が崩壊後、軍部と民主派グループの間で対立・紆余曲折はあったものの、民政復帰に向けて少しずつ前進もしていました。それは、ダルフール紛争などのそれまでのスーダンのイメージからすれば意外なほどでした。

今回の武力衝突によって、たとえどっちが勝利しても、これまでの民政に向けた流れが無に帰してしまうことが懸念されます。

更にそうしたスーダンにおける民主化の後退と暴力による支配は、アフリカ・中東地域へその影響が拡散することも考えられます。

****スーダンの武力衝突は何をもたらすか――求められる国際社会の介入****
(中略)
なぜ武力衝突は起こったのか?
今回の武力衝突は、4月15日の朝、突如始まった。しかし、スーダン国内の政治文脈で見れば、起こるべくして起こった衝突であった。

スーダンでは2019年4月、民主革命により30年間続いたバシール政権が崩壊し、暫定民主政権が形成された。この暫定民主政権下で最高の意思決定機関であった主権評議会の議長ポストが、軍部から民主派グループに交代時期が迫った2021年10月、軍部によるクーデターが発生し、以降、軍部による実効支配が続いた。これに伴い、西側諸国の新たな支援が止まり、経済は混乱し、人々の生活は疲弊した。

その後、1年を経過した2022年12月、軍部と民主派間で改めて暫定民主政権を作る機運が生まれ、暫定民主政権再樹立のための「枠組合意」が形成された。

その後、「最終合意」実現に向け、「権力解体委員会の復活」、「ジュバ和平合意の履行」、「スーダン東部問題の解決」、「移行期正義」の諸課題が順次解消され、最後に「治安部門改革」を残すのみとなった。

具体的には国軍とRSFの統合、特にその時期をめぐっての合意である。国軍は両者の統合を「2年以内に行う」と発表したが、RSFは「10年は必要」とし、両者間の緊張が高まった。(中略)

現在、スーダンでは何が起こっているのか?
(中略)このような中、国連やNGOは人道支援を行っているが、スーダン政府は6月に、停戦に向けて仲介していた国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)のペルセス国連事務総長特別代表を、「スーダンの武力衝突を悪化させている」として「ペルソナ・ノン・グラータ(persona non grata)」に指定し、ペルセス氏はスーダンに入国できない状態となった。

これにより国連のスーダンの停戦に向けた影響力は低下せざるを得ない状況に追い込まれている。

また、人道援助物資は、国連機等により、港湾都市ポート・スーダンに空輸され、その後、陸路で輸送されたり、またチャド等からの陸路輸送が検討されているが、人道援助関係者が襲撃、略奪の被害に遭い、十分な支援ができていない。ハルツームのスーダン政府関係者も多くがハルツームから避難しており、公共サービスの実施体制が機能しない状態となっている。

国際社会の対応は?
この状況を打開するため、5月半ば以降、米国はサウジアラビアとともに停戦交渉を試み、何度か国軍とRSF間の停戦合意を取り付けたが、停戦合意期間中も完全停戦は履行されず、実効力のないものとなった。

アフリカ連合や東部アフリカの準地域機構である政府間開発機構(IGAD)も停戦交渉を行っているが、スーダン国軍がこれらの介入を拒み、具体的な進展は見られていない。

このような折、エジプトが積極外交に舵を切った。7月4日に、長く緊張関係にあったトルコとの関係を改善し、13日には、スーダン周辺国を集めたスーダンの停戦にかかる会議を招集した。

一方、サウジアラビアとアラブ首長国連合(UAE)は、スーダンの政治情勢に深く関わっているが、相互にアフリカにおける勢力拡大を狙って競合しており、これら中東諸国の影響力が、スーダンの政治情勢を複雑にしている。

なぜ、この武力衝突が危険なのか?
スーダンではこれまで何度も武力衝突が行われてきたが、今回の衝突は、従来とは比較にならない影響が発生すると予想される。

一点目は、首都機能に与えるダメージである。首都の主要施設、インフラが銃撃戦や空爆により損壊したことに加え、ハルツーム州だけで約200万人が避難している。これはハルツーム州の人口約500万人の4割に相当する。

空き家になった家屋で住み始めたRSF兵士は、仮に武力衝突が終わっても、排除することは容易ではない。

ハルツームには、スーダンの富裕層や知識人が集まっていたが、国外に逃れたこれらのグループは停戦後、スーダンに戻ってこないかもしれない。空き家になった家に住み始めたRSF兵士は、多くがダルフールや周辺諸国から集められた者であるが、彼らの滞在が長引けば、将来、彼らはハルツーム住民の主要構成員になる可能性がある。

これは、選挙が行われた場合、一定数の票田を構成することを意味する。RSFの前身は、ダルフールで住民虐殺を行ったジャンジャウィードという武装グループであるが、ジャンジャウィードが、ダルフールで村を焼き、住民を追い払い、自らの構成員を住まわせてきた手法と同様の手法が首都で始められている。

二点目として、今回の武力衝突が周辺地域に及ぼす影響があげられる。既に70万人が周辺諸国に避難しているが、エジプトに25万人、チャドに24万人、南スーダンに17万人が流出している。

エジプトは、かつて植民地支配をしていたスーダンに対し、寛容な政策を取ってきたが、国内の経済が悪化する中、スーダン人の入国規制を厳格化している。

チャドは、大規模なスーダン人の流入が民族構成に変化を起こし、不安定化するリスクに晒されている。

さらに、これまでもスーダンの他、中央アフリカ共和国などに進出してきたワグネルが、スーダン情勢の流動化を契機として、これらの地域への影響力を強める可能性がある。エリトリアは、ロシアとの関係強化を進めており、「アフリカの角」地域全体の情勢が流動化する懸念材料となっている。

三点目として、民主化の後退と暴力による支配の域内での拡散があげられる。

スーダンの民主化運動は、これまで様々な弾圧下にあっても続いてきた。しかし、4月15日の武力衝突以降、民主派グループの存在感がなくなり、世界の関心は、国軍とRSFの停戦にフォーカスされてきた。

4月の軍事衝突前まで、大方の一般国民の意見はSNS等で流れる情報を見る限り、「民主派支持、軍部不支持」であったが、4月以降、世論は「RSF不支持、国軍支持」と変わってきたように思われる。

現在の武力衝突がRSF優位で終結した場合、果たして国際社会が支援できる国が誕生するのか予断を許さないが、国軍優位で終結した場合であっても、これまで行われてきた民主化プロセスが継続できるのか不明である。

また現在の武力衝突の過程で存在感を高めているのが、イスラミストと言われる旧バシール政権時代の主要グループである。

イスラミストは、2019年の民主革命以降、解党させられ政治の舞台に出ることが禁じられてきたが、国軍とRSFの戦闘が長期化するに伴い、このイスラミストが武力衝突の今後に影響力を及ぼす存在となってきた。イスラミストの台頭は、民主化プロセス推進の大きな障害となることが予想される。

この民主化の後退と武力支配は、スーダンに留まらず、周辺諸国や、広くアフリカ大陸で、民主主義の伸張に影響を及ぼすことが予想される。(中略)

今、我々は何をすべきか?
軍事衝突から3ヶ月が経過し、国際社会のスーダン情勢に関する関心は、低下してきたように感じられる。

しかし、これまで見てきたように、スーダンにおける今回の軍事衝突は、スーダンが正統性を有する国として国際社会の認証を得ることができるどうか、また一つの国としての一体性を維持することができるかの岐路に立つ事象であり、スーダンの歴史を塗り替える転換点といえる出来事である。

またスーダン一国に限らず、「アフリカの角」地域や、アフリカ、中東諸国の政治体制に大きな影響を及ぼすものと考えるべきである。そしてそれは、必然的に日本を含めた各国の安全保障や外交にも作用することになる。

この影響を最小限に抑えるためには、まず、私たちはスーダン情勢に対する国際社会の関心を高め、この問題の平和的解決に向けた行動を、諸外国が一体となって実施する環境を作る必要がある。

さらに、武力衝突を終結した上で、軍部による支配から脱却し、民主化に向けたプロセスを再開するようモメンタムを作ることが必要である。

4月の軍事衝突以前と比べると、民主化プロセスは大きく後退した状態にある。しかし、スーダンの軍事衝突を止め、民主化プロセスを促進することは、スーダン、そしてアフリカ諸国の人々と、民主主義の価値を信じ、その推進を目指す我々が信頼関係を維持していくために不可欠である。【8月8日 国際協力機構(JICA) 前スーダン事務所長 坂根 宏治氏 国際情報ネットワーク分析 IINA】
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残念ながら、停戦すら見通せない現状では、更にその後の“民主化に向けたプロセスを再開するようモメンタムを作ること”となると、もはや手が届かないところに行ってしまった感もあります。
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