孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州(オランダ・イギリス)  苦慮する難民移民対策 

2023-08-19 22:22:14 | 難民・移民

(英ドーバーで、英仏海峡に沈没したボートに乗っていた仏からの移民を引き上げる救助隊員(12日)=Stuart Brock提供、ロイター【8月17日 読売】)

【オランダ 難民流入制限巡る対立で連立政権崩壊 ルッテ首相、総選挙後の極右と連立排除せず】
欧州各国にとって流入する難民・移民への対応が大きな問題となっており、難民・移民に反発する声を背景に政治の右傾化・極右勢力の台頭も起きています。

オランダもその一つ。7月には難民流入制限を巡る与党内の意見対立から連立政権が崩壊しました。

****オランダ連立政権が難民流入制限巡る対立で崩壊、秋にも総選挙****
オランダのルッテ首相が率いる連立政権は7日、難民流入制限を巡る与党内の意見対立が修復不可能となったために崩壊した。秋にも総選挙が実施されるとみられる。

ルッテ氏が属する自由民主国民党(VVD)が、戦争を逃れて既にオランダに滞在している難民の子どもたちの入国を抑制する措置を新たに提案したが、キリスト教民主同盟と民主D66の2党が支持を拒否したことがきっかけだ。

ルッテ氏は「難民政策で連立与党間の見解がそろわなくなったのは明らかだ。残念ながらわれわれは本日、この違いが克服できない事態になったと結論付けざるを得ない。このため私は国王に内閣総辞職を伝える」と述べた。

地元メディアがオランダの選挙委員会の話として伝えたところでは、11月半ばまでには総選挙が行われる見通し。それまでルッテ氏が暫定政権を運営していく。

暫定政権になれば新しい政策を打ち出すことはできない。ただルッテ氏はオランダのウクライナ支援に影響はないと説明した。

オランダは既に欧州で最も難民受け入れ基準が厳しい国の1つだが、連立政権内の右派勢力からの突き上げを受けたルッテ氏は、さらに難民希望者の流入を絞り込む手段を模索していた。【7月10日 ロイター】
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ルッテ首相は、“一時的亡命と恒久的亡命という2つのクラスの創設と、渡来できる家族の数を制限するために、2年間家族を呼び寄せられない期間を設けることを打ち出した。”【7月10日 COURRiER Japon】とのことですが、一部の連立与党の賛同を得られなかったとのこと。

オランダの政治は単に難民対策だけでなく、近年政治全般について大きく変化してきているようです。

****オランダ連立政権崩壊、移民政策の相違が引き金に****
オランダ連立政権は移民政策をめぐる連立4党の意見の相違から金曜日崩壊した。ルッテ首相の率いる連立政権は、自由民主党(VVD)、キリスト教民主党(CDA)、民主66党(D66)そしてキリスト教連盟(CU)の4党からなっていた。難民施設がパンク状態にあることで、VVD党はオランダへの流入難民申請者数を減らそうとしていたが、連立内のCU党とD66党の2党がこれに反対していた。

オランダは過去には難民を積極的に受け入れる国だったが、現在ではEU内でも最も厳しい難民政策をとる国のひとつとなっている。

昨年には申請待ちの難民多数が水やトイレや薬も提供されずに野外で寝るという事態が発生し、大きな問題となっていた。

これに対応するため、ルッテ首相は流入難民数を制限するという政策を発表。難民としてオランダに居住する人の子供がオランダに来ることを禁止する政策を出していた。連立する政党2党はこれに反対し、今回の政府崩壊の引き金となった。

ルッテ内閣は2010年から4期目という長期政権を保持してきた。しかしその期間にオランダの政策はそれまでの社会民主主義から経済成長に力を入れ弱者を顧みない政策へと変わってきた。

オランダは極端な住宅不足や窒素排出問題による農地の接収や新規の建設工事中止など、多くの解決されていない問題をかかえている。総選挙は11月に行われる予定。【7月8日 Portfolio】
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ルッテ首相は11月予定の総選挙後について、極右政党との連立も排除しない考えを表明しています。
実現すれば、難民・移民政策は更に厳格化することが予想されます。

****オランダ、移民厳格化も 与党、極右と連立排除せず****
オランダのルッテ首相は18日、11月22日に予定される下院選後の政権枠組みについて、自身の中道右派の与党、自由民主党(VVD)と、ポピュリスト政治家ウィルダース氏率いる極右野党の自由党(PVV)との連立を排除しないと明らかにした。同国メディアが報じた。

反移民の立場を取ってきたPVVが政権入りすれば、オランダの移民政策が厳格化する可能性がある。

オランダでは7月、ルッテ氏率いる4党連立政権が難民流入抑制策を巡り崩壊した。ルッテ氏は下院選を実施し、政界を引退する考えを表明。新内閣が発足するまで暫定政権を率いている。

VVDは14日、女性のイェジルゲス司法・安全相を首相候補として選挙戦に挑むと発表。VVDが勝利し政権樹立に成功すれば、イェジルゲス氏は同国初の女性首相となる。クルド系で、子どもの時に難民としてトルコからオランダに渡った経験があるが、ルッテ氏が提案した難民流入抑制策を支持していた。【8月19日 共同】
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極右政治家ウィルダース氏・・・・ひと頃、フランスのルペン氏と並んで台頭する欧州極右を代表する存在として注目を集めていましたが、最近はあまりその名前を聞くことはありませんでした。まだ健在だったようです。

“難民としてトルコからオランダに渡った経験がある”イェジルゲス氏が厳しい難民対策で初の女性首相を目指す・・・その考えを聞きたいところですが、あまり情報がないので・・・

このところスウェーデン・デンマークでコーランを焼却したり踏みつけたりする反イスラム行動が目だっていますが、オランダでも。 反イスラムは反難民移民とも大きく重なる考えでしょう。

****コーラン踏みつけ破る オランダ、反イスラム団体****
オランダ・ハーグのトルコ大使館前で18日、反イスラム団体の男性活動家がデモを行い、イスラム教の聖典コーランを踏みつけたり破ったりした。現場周辺にはデモに抗議するため数十人が集まり、一部が石を投げるなどしたため警察が介入する騒ぎとなった。オランダメディアが報じた。
デモを行ったのは反イスラム団体「西洋のイスラム化に反対する愛国的な欧州人(PEGIDA)」の活動家。トルコ大使館に向かって「おまえたちはここの者ではない」「エルドアン(トルコ大統領)は売春婦の息子だ」などと叫んだ。
イェジルゲス司法・安全相は、オランダではデモの権利が認められていると強調した上で「本の破壊は幼稚で哀れな行動だ」と非難した。【8月19日 共同】
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【イギリス 不法移民ルワンダ移送計画も進まず対応に苦慮 フランスと協力合意とのことだが・・・】
一方、イギリス・スナク政権はドーバー海峡を渡って密入国する者が増加、海難事故も起きており、その対応に苦慮しています。

****小型ボートで密入国、英政府が対応に苦慮…2018年以降10万人超****
フランスから英国を目指して小型ボートで英仏海峡を渡る不法移民が後を絶たず、英政府が対応に苦慮している。

13日までの1週間に英政府が確認した不法移民は1600人を超え、12日にはボートが沈没して6人が死亡する事故が起きた。スナク政権は対策の強化を図ってきたが、目立った効果は上がっていない。

英BBCなどによると、沈没したボートには定員を超す65人ほどが乗っていた。大半がアフガニスタン人で、スーダン人もいたという。

英政府の統計によると、10日に小型ボートで英仏海峡を渡って密入国した移民は756人に上り、1日当たりの人数では今年最多を記録した。12日にも509人が確認された。天候が比較的穏やかで、「海岸警備に当たる仏当局者の人数が休暇のため大幅に減っていた」(英紙タイムズ)との指摘もある。

小型ボートで英国に密入国した移民は2018年の約300人から年々増え続け、22年は約4万6000人と150倍以上になった。今年もこれまでに約1万7000人が確認され、今月には18年以降の累計が10万人に達した。

中東やアフリカの英植民地だった地域から欧州に渡った移民の中には英語が通じ、移民に寛容な政策を取ってきた英国行きを望む人が多い。このため近年、密入国をあっせんする犯罪組織の活動が活発化している。

スナク首相は今年1月、政権の最重要課題の一つに不法移民対策を挙げ、3月のマクロン仏大統領との首脳会談では取り締まりの強化で合意した。スナク氏には、来年にも行われる総選挙に向けたアピール材料にしたい思惑がある。

しかし、今回の沈没事故で不法移民問題に改めて注目が集まる中、与党・保守党内からも政府の対応が不十分だとの声が上がっている。14日付のタイムズ紙は「スナク氏にとって公約を巡るさらなるプレッシャーになるだろう」との見方を示した。【8月17日 読売】
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イギリスでは、ジョンソン前政権からアフリカ中部ルワンダに不法移民らを移送する計画を進めようとしていますが、ルワンダでの安全が保証されていないことへの批判や難民条約上の責任を他国に押しつける行為(グランディ国連難民高等弁務官)といった批判から計画は難航しています。

****英政府、不法移民の対策に苦慮 ルワンダ移送計画は難航*****
英政府が増加する不法移民・難民への対応に苦慮している。小型ボートで英国に入る密入国者は2018年から150倍以上に増え、受け入れ施設の費用などで財政を圧迫。

スナク政権はアフリカ中部ルワンダに不法移民らを移送する計画を推し進めたい考えだが、英控訴院は移送は違法との判決を下した。国連や人権団体、司法が計画に待ったをかけており、円滑な実現は困難とみられている。

(中略)政情が不安定なイラクやシリアなどからの不法移民が増えたほか、バルカン半島のアルバニアからも仕事を求めて若者が殺到。犯罪組織が金銭を受け取り小型ボートを手配しているとの情報もある。

英国は受け入れ施設の費用などで年間約30億ポンド(約5440億円)を負担しているとされ、財政を圧迫。スナク首相は「不法移民の流入を阻止することは優先事項だ」と断言する。

スナク政権はルワンダに1億2千万ポンド(約218億円)を投資する代わりに、英国に密入国した亡命希望者を受け入れてもらう計画の実現を目指す。英国での居住を容認しない方針を明示することで密航を抑止する狙いがある。政権は今月、不法移民らの英国への難民申請を認めないとする法を成立させた。

ルワンダへの移送計画をめぐっては、ジョンソン政権が不法移民の増加は「医療や福祉の負担となる」とし昨年4月に掲げた。

ジョンソン元首相は当時、1990年代の大虐殺を乗り越えて高度成長を遂げ、リビアなどから難民を受け入れたルワンダを「世界で最も安全な国の一つ」と強調した。英政府は難民の生命や自由が脅かされない国を「安全な第三国」と定義している。移送された移民らはルワンダで亡命申請手続きを行い、申請が受理されれば、最長で5年間の教育や支援が受けられる。

しかし、国連や人権団体は計画を受け継いだスナク政権に厳しい目を向ける。グランディ国連難民高等弁務官は難民条約上の責任を他国に押しつけることは「国際的な責任分担に反する」と批判した。

強権的とされるカガメ大統領の下、ルワンダで難民が虐待されたとの報告もあり、メイ元英首相が移送による不法移民の人権状況の悪化を懸念するなど与党・保守党内でも計画に否定的な発言が目立つ。

英控訴院は6月29日、ルワンダを「安全な第三国」とみなせないとし、移送は違法との判決を下した。スナク政権は上訴の意向を表明したが、司法での争いは数年間続く可能性がある。

一方、スナク政権は非正規なルートで渡航した亡命希望者ら約500人を英南西部の港に係留させたバージ船に入居させる計画も準備。1日600万ポンド(約11億円)の宿泊費を削減できるが、この計画に対しても人権団体が亡命希望者らを船に閉じ込めるのは「残酷だ」と非難しており、「円滑に入居が進むかは不透明」(元議員)という。【7月30日 産経】
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バージ船とはいわゆる“はしけ”のことで、停泊中の船と陸地との間や、離れた2地点間を往復して人や荷物を運ぶためなどに使われる荷船のこと。 自分で航行する能力はなく、押し船や曳き船とともに航行します。

居住環境も問題ですが、火災でも起きたら多くの犠牲者を出して大問題にもなりそう。

ドーバー海峡をわたる難民移民を取り締まるためにはフランス側の協力が不可欠です。3月にはイギリスが資金提供しフランスが不法移民収容所の新設などに充てるといった内容の合意が成立したことが報じられていました。

****英仏首脳、英から仏へ対策費用提供で合意 小型ボート使う不法入国めぐり****
小型ボートを使って英仏海峡を渡りイギリスに不法入国する移民の問題をめぐり、英仏首脳は10日、イギリスの資金提供による対策強化で合意した。

イギリスが3年間で約5億ポンド(約810億円)を提供し、フランスはそれを不法移民収容所の新設などに充てる。イギリスでは、政府が提示した移民取締法案への批判が高まっている。

パリで行われた英仏首脳会談で、リシ・スーナク英首相とエマニュエル・マクロン仏大統領は、不法移民対策の強化を宣言。イギリスがフランスに対策資金を提供するほか、フランスも予算措置を講じる方針という。

イギリス側が提供する約5億ポンドは、取締官500人の増員とフランス国内での新しい不法移民収容所の設置に充てられる。ただし、新しい収容所が全面稼働するのは早くても2026年末になるという。

イギリス政府はすでに今年、約6300万ポンドを移民対策費としてフランスに提供する予定だった。今回合意された金額はその倍以上で、イギリス政府は今年から来年にかけてフランスに1億2000万ポンドを提供すると約束した。

フランスも、不法移民取り締まりを強化するため予算を増額するとしているが、具体的な額は示していない。(中略)

「人命売買の商売を終わらせる」
パリのエリゼ宮で共同記者会見したマクロン大統領は、英仏の協力で小型ボートによる不法移民は減少していると主張。両国の合同チームは過去1年間で、3万件の小型ボートによる海峡移動を阻止し、500人を逮捕したと明らかにした。

スーナク首相は、英政府が提供する資金が、「人命を売り買いするこの不快きわまりない商売を終わらせる」ことにつながると述べた。「英仏の協力を通じて、両国の制度を悪用されないようにする」とも強調した。

スーナク氏は、両首脳の合意によって、新たに500人のフランス取締官がドローンなど「増強された技術」を使い、イギリスを目指して海峡を渡る不法移民ボートを阻止することになると説明した。

加えて、フランスにはすでに26カ所の不法移民収容所があるが、イギリスからの資金でさらに1カ所を新設するという。

英首相官邸は、収容所の増設によって「フランスの沿岸部から(さらに多くの不法移民を)遠ざける」ことができると説明した。

「英仏協力の再開」
両首脳は、パリでの会談は英仏関係の新しい始まりだと強調。マクロン大統領は「結びつきを再開した瞬間」だとして、スーナク首相は「英仏協力の再開」だと述べた。

マクロン氏は、近年の両国関係悪化につながっていたのはブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)だったという姿勢を明示し、スーナク氏の前任の英首相3人を言外に批判した。

一方で、共同記者会見では友好関係を強調し、マクロン氏はスーナク氏を「親愛なるリシ」と呼び、スーナク氏はマクロン氏を「モナミ(私の友人)」とフランス語で返した。さらに両首脳は、共同記者会見を抱擁(ほうよう)で締めくくった。【3月11日 BBC】
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新しい収容所が全面稼働するのは早くても2026年末・・・ということで、効果があらわれるのはまだ先のようですし、そもそも、フランスが自国を出ていく不法移民取締りに力をいれるか・・・疑問も。イギリスに出ていってくれればフランスとしては厄介払いできて大助かり・・・という話にもなりますので。

ましてや、相手はEUを勝手に飛び出したイギリス。フランスの協力はあまり期待しない方がいいようにも思えます。

その他、ドイツでは反移民世論を背景に極右政党「ドツのための選択肢(AfD)」の支持率が高まっているという話は、これまでもしばしば取り上げてきましたので今回はパス。

各国が悩む難民移民対応ですが、「だからそうした難民移民は極力受け入れない方がいい」というのは、自分たちさえよければ・・・・といった、いささか短絡的で品格に欠ける発想のようにも。
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