(【8月18日 産経】に一部追加)
【米欧中の景気低迷 外需依存度が高いベトナムの景気後退】
不動産大手「中国恒大集団」が17日、アメリカの裁判所に破産法の適用を申請したことなど、中国不動産市場の低迷・混乱、更に若者の失業率の高さ、巨額債務を抱える地方政府の財政問題など、中国経済の後退は連日報じられています。
中国のような大きな経済圏の景気動向は、日本を含めた経済関係を有する多くの国々へ影響が及びます。
中国だけでなく、欧米の需要も停滞しており、途上国からの輸出が減少しています。とりわけ、外需依存の高いベトナムのような国には大きな影響があります。
****輸出減少で新興国景気が減速****
─ 背景にある世界的な在庫調整は当面続く見通し ─
新興国では、主要な需要地である米国、欧州、中国向けの輸出が減少。背景には世界的な在庫調整による財需要の減少があり、当面は輸出の下振れが続く見通し
そのため、新興国では外需依存の高い国を中心に景気は減速へ。なかでもベトナムへの影響は大きく、輸出の減少が関連産業の雇用・所得を通じ、内需にも波及しやすい試算結果
足元で内需が堅調なメキシコや、インバウンド需要の回復に沸くタイも、在庫調整の影響が当面続くと予想されることから、今後は輸出減少が内需に波及するリスクに要注意【7月24日 井上 淳氏 みずほリサーチ&テクノロジーズ】
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“米欧中向け消費財輸出のGDP比率をみると、ベトナムでは2割に達する。したがって、足元の米欧中で進行する在庫調整と、それに伴う財需要の減少は、特にベトナム経済にとって大きな下押し圧力になっていると考えられる”【同上】とのこと。
ベトナムに関しては、4月20日ブログ“ベトナム 成長が期待される経済 反汚職キャンぺーンの国内政治 外交では米中間で微妙なバランス”で、“ベトナム経済は成長著しく、「人口が間もなく1億人を突破して、世界で15番目の人口1億超えの国となり、昨年のGDP成長率は8%超だ」(中国メディアの毎日経済新聞)と、「明るい未来」が期待されています。”と経済面の「明るい未来」を取り上げたのですが、目下の状況は話が違うようです。
****ベトナム経済失速、5000人余りの中国人投資家がインドネシアへ―中国メディア****
2023年5月23日、騰訊新聞は、今年に入ってベトナムの経済成長にブレーキがかかり、中国人がベトナムから離れ始めていると報じた。
記事は、21年夏ごろに「次の世界になるのはベトナムだ」との議論が活発に繰り広げられ、22年のベトナムの経済成長率も8%に達したとする一方で、今年1〜3月期の成長率は3.3%にとどまり、同国政府が定めていた6.5%の目標を大きく下回ったと紹介。
同国経済の急減速は米国市場への過度の依存が背景にあり、米国経済の成長鈍化とインフレによる消費の冷え込みで、ベトナムの輸出が大きく減少したと伝えている。
一方、東南アジア経済への熱視線は相変わらずで、今年に入って中国企業は主にインドネシアにターゲットを定めるようになったと指摘。(後略)【5月25日 レコードチャイナ】
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【ベトナムに多い「一発逆転」の再起を狙う韓国人 その夢もベトナムの不動産バブル崩壊で萎む】
意外だったのは、ベトナムには一発逆転を狙ってやってくる韓国人が多いということ。
ベトナムと韓国の間にはベトナム戦争への韓国参戦による問題が今も尾を引いている・・・という微妙な関係にあるだけに。(5月26日ブログ“韓国 ベトナム戦争での韓国軍による民間人虐殺の賠償責任を初めて認定する判決 政権は「調査せず」”)
ベトナムの景気後退で、そうした韓国人の“一発逆転”の夢が萎んでいるとのことです。
****夢に終わった「一発逆転」、ベトナムでバブル崩壊に巻き込まれた韓国人たち****
ベトナムに滞在していると不思議に思うことがある。それはベトナムに多くの韓国人が暮らしていることだ。日本人は約2万人だが、韓国人は20万人以上がベトナムに住む。ハノイやホーチミン市にはコリアンタウンがある。
韓国の人口は日本の4割程度でしかないのに、なぜ日本人の10倍以上もの韓国人がベトナムに住んでいるのであろうか。
「負け組」が一発逆転を狙ってベトナムに
歴史の中でベトナムと韓国の仲が特に良かったと言うわけでもない。むしろその逆で、ベトナム人は韓国人に対して複雑な感情を抱いている。それはベトナム戦争の時に韓国が米国の要請に従って多くの兵士をベトナムに送ったためだ。ベトナム人は韓国軍兵士が行った数々の残虐行為を今も記憶している。
ベトナム人は日本人と韓国人を識別することができないので、レストランなどで韓国人と間違われることがある。私が自分は日本人だと言うと、おしなべて好意的な態度を示してくれる。おぼつかない英語で「日本人は好きだが、韓国人は嫌いだ」という人までいる。
韓国人は広く東南アジア全体に住んでいるわけではない。特に多く住んでいるのがベトナムだ。私はベトナムに華僑が少ないことが、その理由ではないかと考えている。南北統一後にベトナム政府が南ベトナムにいた華僑を排斥したために、東南アジアの中でベトナムは例外的に華僑が少ない国になっている。
朝鮮半島に住む人々は長い歴史の中で、中国人と付き合うことの難しさを知り抜いている。中国人は朝鮮半島に住む人々の上に立とうとする。中国に進出した韓国企業は日本企業以上にさまざまな嫌がらせを受けてきた。そんな韓国人は、華僑が少ないベトナムを選んで進出したのだろう。
ベトナムにやってくる多くの韓国人はエリートではない。ごく普通の韓国人がベトナムにやって来て、焼肉屋やカフェなどを経営している。
韓国は熾烈な競争社会であり、かつ学歴社会。ソウル大学など一流大学を出て財閥系企業に就職できなかった者は、医者や弁護士を除けば「負け組」とされる。そんな社会なので、「負け組」が一発逆転を狙ってベトナムにやって来るとも言われる。
韓国人は日本人よりもビジネスに積極的だ。ベトナムで何度もそのような話を聞かされた。一発逆転のチャンスがあると聞けば、ベトナムにまでやって来て自分で焼肉店を開業する。そのチャレンジ精神はバブル崩壊後に、何事につけても消極的になってしまった日本人とは大きく異なる。
逆回転し始めた不動産投資
しかしそんな韓国に逆風が吹き始めた。それはベトナムで不動産バブルの崩壊が始まったからだ。ベトナムにも住宅の価格は絶対に下がらないとする神話が存在した。だが、昨年(2022年)の秋から不動産価格の下落が始まった。ベトナムの不動産バブルは中国ほど膨らんではいないものの、それでもその崩壊は経済に大きな影響を与え始めた。今年になって倒産件数が急増している。
ベトナムに進出した韓国人もバブル崩壊の影響を受けている。ベトナムでは新築マンションが販売される際に、総戸数の30%までは外国人が購入できる。韓国人が値上がりを期待して不動産を購入しているとの噂をよく耳にした。「なぜ日本人は買わないのか?」「日本人は消極的だ」昨年夏頃までベトナム人からそんな非難がましい言葉を聞いたものだ。
だが、その不動産投資が逆回転し始めた。そして景気が低迷する中で売り上げが急減し、廃業に追い込まれる飲食店も増えている。
こんな噂を聞いた。韓国人は信用できない。事業が上手く行かなくなると夜逃げして韓国に帰ってしまう。確かに個人が営業する焼肉店やカフェの経営がうまくいかなくなった時には、そのようなことも起きるのだろう。それに比べて日本人は信用できると言っていた。
だが、そもそも個人でベトナムに来て飲食店などを経営する日本人は少ない。多くは日本に本社がある会社の駐在員であり、バブル崩壊が始まったからと言って夜逃げするような立場に追い込まれる人は稀であろう。
中国だけでなくベトナムでもバブルの崩壊が始まった。少し焦点を引いてみれば、これは東アジアにおいて、橋や道路を造り港湾や学校などを整備することによって経済を発展させる時代が終わったことを示している。
日本ではハコモノへの無駄な投資をなくすことは小泉改革や民主党政権の重要な課題であったが、中国やベトナムは今まさにそのような時代を迎えようとしている。(後略)【8月21日 川島 博之氏 JBpress】
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【南シナ海領有権での中国との対立を背景にアメリカとの関係強化】
外交的には米中間でバランスをとるベトナムですが、南シナ海での領有権をめぐる中国との対立が続いています。
****中国、南シナ海で新たに滑走路建設…ベトナム沿岸に最も近いトリトン島****
香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストは18日、南シナ海のパラセル(西沙)諸島のトリトン(中建)島で、中国が新たに滑走路を建設していると報じた。
トリトン島は中国が実効支配し、ベトナムなどが領有権を主張している。輸送能力を高め、実効支配を強める狙いがあるとみられる。
同紙が報じた衛星写真の分析によると、建設中の滑走路は東西約630メートルと比較的短く、利用できる軍用機の大きさには制限があるとみられる。
トリトン島はパラセル諸島の中でベトナム沿岸に最も近く、島には既にヘリポートやレーダー施設があるという。中国軍はトリトン島で軍事訓練を行うなど軍事拠点化を進めている。【8月19日 読売】
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そうした中国との緊張を背景に、アメリカとの関係強化の動きが見られます。
****バイデン米大統領、ベトナムと戦略パートナーシップ協定署名へ=報道****
バイデン米大統領は9月中旬に予定されているベトナム訪問で、同国と戦略パートナーシップ協定に署名する方針だ。米政治専門サイトのポリティコが関係者3人の話として報じた。
ポリティコは、協定締結によりベトナムの半導体生産や人口知能(AI)などのハイテク産業の発展に向けた新たな両国間の協力が可能になるとしている。【8月19日 ロイター】
ポリティコは、協定締結によりベトナムの半導体生産や人口知能(AI)などのハイテク産業の発展に向けた新たな両国間の協力が可能になるとしている。【8月19日 ロイター】
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【進むアメリカの「中国包囲網」構築 反発を強める中国】
周知のように、18日にアメリカ・キャンプデービッドで行われた日米韓首脳会談で、3か国の首脳は中国や北朝鮮の動きに対応するため、安全保障面を中心に連携の強化を確認しました。
3首脳は「日米韓パートナーシップの新時代」を宣言し、3か国の協力を北朝鮮対応だけでなく、インド太平洋地域全体の平和と安定を強化する枠組みとして打ち出しました。
南シナ海をめぐる問題では、アメリカはフィリピンとの関係も強化しています。
高齢に伴う問題が指摘されるバイデン大統領ですが、外交面での「中国包囲網」構築は着々と成果をあげているようです。
****日米韓で中国対処へ バイデン米政権が構築する多層ネットワークの一環****
バイデン米大統領は18日にキャンプデービッドで開く日米韓首脳会談で、防衛や経済安全保障における3カ国の協力強化を目指す。米国は「唯一の競争相手」と位置付ける中国への対処のため、インド太平洋地域でさまざまな多国間枠組みを構築している。日米韓も対北朝鮮にとどまらず、中国をにらんだ多層なネットワークの一環としたい考えだ。
フィリピンも取り込み
ブリンケン国務長官は15日の記者会見で、日米韓首脳会談に関して「われわれの地域と世界が地政学的競争により試されている瞬間に開かれる」と述べた。念頭にあるのは中国やロシア、北朝鮮の脅威であり、その対処のためにも日米韓連携の重要性が増しているとの認識をにじませた。
インド太平洋での中国への対抗のため、バイデン政権はすでに英国、オーストラリアとの安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」を立ち上げ、日豪のほかインドも加わる協力枠組み「クアッド」を通じた取り組みを重視してきた。
最近ではさらに南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンの取り込みも急ぐ。同国で昨年、マルコス大統領が誕生して前政権の対中融和から対米重視に転換したのを好機として、日米比の安保担当高官による新たな協議の枠組みを6月に設置。豪州も交えた4カ国防衛相の初の会談も開いた。
台湾有事への対処能力引き上げ
中国が経済力を背景に浸透を図る南太平洋地域では、日英豪やニュージーランドなどと、太平洋島嶼(とうしょ)国を支援する枠組み「ブルーパシフィックにおけるパートナー」も構築している。
米国が首脳会談の定例化など「制度化」を目指す日本と韓国は中国の隣国であり、中国対応の最前線に位置する。両国には米軍基地があり、3カ国が緊密な連携をとれれば、台湾有事への対処能力を引き上げることになり、対中抑止力を高めることにもなる。
バイデン政権は多彩な枠組みを通じて、軍事分野のみならず、中国との競争に打ち勝つため、新興技術の開発やサプライチェーン(供給網)の強靱化など非軍事分野での対処も重視する。半導体産業に強い韓国との協力強化は経済安全保障にとっても重要となる。【8月18日 産経】
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中国はこうした「包囲網」形成に警戒感を強めています。
****習政権は「包囲網」と警戒 頼氏訪米では軍事演習****
日米韓3カ国が安全保障面で協力強化に動いていることを、中国の習近平政権は「中国包囲網」の強化につながるとして警戒している。習政権は、台湾の頼清徳副総統の立ち寄りを許したとして米国に反発し、19日に台湾周辺で軍事演習を行った。
中国外務省の汪文斌報道官は18日の記者会見で、日米韓首脳会談について「陣営対立や軍事グループをアジア太平洋地域に引き入れるくわだては人心を得ず、地域国の警戒と反対を引き起こす」と非難した。
習政権は、米国が同盟国などとアジア太平洋地域で協力を進めていることを「アジア太平洋版NATO(北大西洋条約機構)」などと呼んで警戒をあらわにしている。硬軟両様の手法で3カ国の連携にくさびを打つ構えを見せている。
一方、中国人民解放軍で台湾方面を管轄する東部戦区の報道官は19日、台湾周辺で軍事演習やパトロールを同日行ったと発表した。報道官は談話で「これは『台湾独立』分裂勢力と外部勢力が結託した挑発に対する重大な警告だ」と強調。頼氏が南米パラグアイ訪問に際して米国に立ち寄ったことへの対抗措置との事実上表明した。
演習は艦船と航空機の連携に重点を置いており、「実戦能力」の検証を行ったと説明した。中国国営中央テレビによると、海軍の多数の駆逐艦や護衛艦、空軍の戦闘機、ロケット軍などの部隊が加わった。
中国軍は今年4月、台湾の蔡英文総統が訪米してマッカーシー米下院議長と会談した後、台湾周辺で軍事演習を実施。その際の演習期間は3日間で、国産空母「山東」も参加した。【8月19日 産経】
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戦前、日本の台頭・アジア進出に対してABCD包囲網といったものがあり、石油などの資源調達が困難になる日本は包囲網の軍事的突破を試み、太平洋戦争突入、そして敗戦の道を進むことになりましたが・・・・。