(バングラデシュの難民キャンプでゲームに興じるロヒンギャ族の子供 “flickr”より By rafiqarakani http://www.flickr.com/photos/62731381@N06/5718757917/ )
【次期大統領有力候補:軍人議席枠改正に柔軟発言】
テイン・セイン政権による民主化が進展するミャンマーですが、テイン・セイン大統領は健康問題もあって1期限りと言われています。
後任大統領次第では、動き始めた民主化も大きく方向が変わりかねません。
後任候補として有力視されているのがシュエマン下院議長。軍事政権時代は、テイン・セイン大統領より上位の序列3位にあった人物で、テイン・セイン大統領とは意見が対立することも多いとも言われています。
そのシュエマン下院議長が、スー・チーさん等が求める憲法改正の中心的問題である軍人議席枠について、「憲法が国民の利益にかなっていなければ検討すればよい」と柔軟な発言をしたそうです。
****ミャンマーのシュエマン下院議長、憲法改正に柔軟姿勢****
ミャンマーのシュエマン下院議長が7日、首都ネピドーの国会内で朝日新聞記者と単独会見した。先月下院議員に就任した最大野党党首のアウンサンスーチー氏が、国会に軍人議席枠を定めた憲法の改正を求めていることについて、「憲法が国民の利益にかなっていなければ検討すればよい」と述べ、柔軟に対応する考えを示した。
個人として軍人枠の必要性を感じるかとの問いには「憲法改正の是非を決めるのは、個人ではなく、政党や国会議員である」と述べて、直接の評価は避けた。
来月招集される見通しの通常国会の審議からスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の議員が加わることについて、シュエマン氏は「野党と考えていない。国や国民のために協力していきたい。政党間の違いについて議論するのは、その後だ」と述べ、まずは与野党の協調が重要だとの認識を示した。
NLDが圧勝した4月の国会補選について、「どの政党も勝利を目指す。しかし結果が出てみると、何をやってきたのか、また何をすべきなのかを学ぶことができる」と述べ、政権与党の連邦団結発展党(USDP)が大敗した理由を分析し、学ぶ必要があるとした。3年後の総選挙への影響については「予測するには時期尚早だ」として言及を避けた。
テインセイン政権が進める改革について、「速さや効果に物足りなさを感じるものの、満足している」と評価。一部の閣僚や議員が改革に消極的ではないかとの問いには、「複数政党制や市場経済制度は憲法で定めている。これに反対する議員はいない」と述べ、改革への反対勢力はいないとの見方を示した。
さらに「前の政権が複数政党制による民主主義と市場経済システムの導入の基礎を造った」と指摘し、当時の最高実力者タンシュエ氏率いる軍政が現在の改革の道筋をつけた点を強調した。(後略)【6月8日 朝日】
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現在の改革について「速さや効果に物足りなさを感じる」そうですから、もしシュエマン“大統領”となれば、更に民主化も進展する・・・と期待していいものでしょうか。
【治安当局は民族・宗教紛争になって飛び火しないよう警戒を強めている】
ミャンマーにとって、憲法改正問題と並んで重要なのが、反政府活動を続けてきた多くの少数民族との関係改善です。
そんななかで、民族間の衝突を伝えるニュースがありました。
****住民衝突、4人死亡=西部の町に夜間外出禁止令―ミャンマー****
ミャンマー西部ラカイン州の町で8日、イスラム教徒と仏教徒の住民同士の衝突があり、AFP通信によると、4人が死亡した。国営メディアは同地域に夜間外出禁止令が出されたと報じた。
同通信によれば、仏教徒の女性がイスラム教徒に暴行された事件をきっかけに住民同士の対立が激化。イスラム教徒の乗ったバスが襲撃される事件も起きた。8日にはイスラム教徒の放火などにより、仏教徒4人が死亡した。【6月9日 時事】
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西部ラカイン州は、バガンと並ぶミャウウー遺跡が観光的には注目されているエリアで、今年か来年には旅行したいと思っているところです。
それはともかく、上記記事そのものには、“よくある民族間のいさかいのひとつ”という感じで、さほどの関心も持ちませんでした。
しかし、別記事【6月10日 朝日】によれば、“仏教徒”というのはアラカン族(ヤカイン族)で、“イスラム教徒”というのがロヒンギャ族のことだそうです。
国営メディアによると、ヤカイン族の7人が死亡し、17人が負傷。住宅や店舗など約500軒が放火や破壊の被害を受けたとのことです。
“ミャンマーの各地では仏教徒とイスラム教徒が共生しており、治安当局は民族・宗教紛争になって飛び火しないよう警戒を強めている。【6月10日 朝日】”
【存在を否定された民族】
ミャンマーには、「毒蛇とヤカイン族を見つけたらヤカイン族を先にやっつける」という言葉があるそうで、多数派ビルマ族(国民の約7割)とヤカイン族の関係も、分離独立運動を含めいろいろありますが、それ以上に特殊なのはロヒンギャ族の問題です。
09年1月に、タイ海軍が同国南部のアンダマン海で、ボートに乗ってミャンマーから逃れてきたイスラム系少数民族のロヒンギャ族の難民を縛るなどして拘束し、殴るなどの暴行を加えたあと、エンジンのない木製の小舟に乗せて十分な水・食料も与えないまま海上に放置、インドやインドネシアで救出されるまでに数百人規模の死者が出したという難民虐待問題が公になったことがあります。
このロヒンギャ難民については、10年3月13日ブログ「ミャンマーのロヒンギャ 存在を否定された民族」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100313)でも取り上げたところです。
問題の根底には、ロヒンギャ族がミャンマーにおいて市民権が与えられておらず、無国籍者として迫害を受けていることにあります。
ロヒンギャが難民化する経緯については、上記ブログでも引用したウィキペディアには、以下のように記されています。
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ロヒンギャの迫害が始まったのは1942年からである。ミャンマー軍とともにモッグ族により、10万人が殺され、50万人が家を失った。
その後も迫害が続き、1978年ネ・ウイン政権のもとで「ナーガミン作戦」が行われた。これにより30万人のロヒンギャが難民としてバングラデシュにのがれた。このときは国際的な救援活動が受けられず、1万人ものロヒンギャが亡くなった。その8割は子供であった。のちに3年間ほどかかり20万人がビルマに帰国した。
しかし、1982年の市民権法が成立し、ビルマのロヒンギャは無国籍としてあつかわれるようになった。ミャンマー政府は「バングラデシュからの違法移民だ。違法だから取り締まる」という見解を示している。市民権が与えられなくなったことで、教育の機会や医療を受ける権利も剥奪された。職業も限られ、その多くは農民である。ミャンマーは税金と称し作物・米をとりたて、それを払えなければ、強制労働に従事させ、拒めば投獄されるという。さらにビルマ民族の入植もしだいにすすめられ、ロヒンギャはもとから住んでいた土地をおい出されていった。
1988年アウンサンスーチー氏らの民主化運動をロヒンギャは支持したため、ビルマ軍事政権はアラカン地方に7~8万人の軍隊を集結し、モッグ族とともに再び迫害・襲撃を開始した。また軍事施設や道路・橋を建設し始め、ロヒンギャを労働力としてこき使った。
彼らは、強制労働させられるだけでなく、家の財産や家財道具・食料・家畜まで略奪され、反抗すれば暴行や強姦もうけ、場合によっては殺されるなど、残虐に扱われた。その結果、1991年12月末から1992年3月にかけてロヒンギャは1~2kmの川幅のナフ川を小船で渡ったり、山々を歩いたりして、国境を超えバングラデシュにのがれた。その数は、28万人であった。
当時としてはカンボジア難民(約35万人)にせまる数であり、このような急激な大量難民の発生は、最近10年間のアジアの中で最多となる。
国連はこの状況を危惧し、コックスバザールから南に向かう道路沿いに13ヶ所の難民キャンプを設けた。一つのキャンプに約1万人~4万人の難民が生活していたが、結局キャンプに入れなかった人など、キャンプ以外にも避難生活している人たちも多くみられた。避難施設に住むことができたのは難民の約6割で、4割は粗末な小枝を集めた小屋で避難生活を送らねばならなかった。(中略)その後、最近では、避難しているタイなどにも迫害され、逃げ場を失っている。
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避難したバングラデシュでも、同様に厄介者として迫害を受けています。
****バングラデシュ、ミャンマー少数民族の難民への弾圧を強化 報告書****
隣国ミャンマーから流入してバングラデシュ国内にとどまっているミャンマーのイスラム教少数民族ロヒンギャの難民に対し、バングラデシュ政府が弾圧キャンペーンを展開しているとの報告書を、米団体「人権のための医師団」が9日に発表した。
これによると、バングラデシュ政府はロヒンギャの難民に食糧が行き渡らないようにしているほか、恣意(しい)的な逮捕、法律によらない国外追放、強制収容所への抑留などを行っている。
これまでに、難民登録をせずにバングラデシュに住んでいるロヒンギャ難民数万人が、仮設の収容所に強制収容された。中には数十年間、バングラデシュで暮らしてきた難民もいる。収容所の中で彼らは放置され、餓死者も出ているという。(後略)【10年3月9日 AFP】
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ミャンマーからは追い立てられ、バングラデシュからも戻るように弾圧を受け、海に出ればタイでは海上に放置され・・・ということで、ロヒンギャは世界の少数民族の中でも最も過酷な迫害を受けている民族のひとつです。
“アムネスティ・インターナショナルが報告するように、まずもって重要なのは、外国での難民問題だけを議論の俎上に上げるのではなく、ミャンマー国内での人権保護と国籍付与であろう”【ウィキペディア】
国籍を持たないという意味での“非国民” ロヒンギャへの対応は、テイン・セイン政権の進める改革、およびスー・チーさん等の民主化運動の試金石にもなると言えます。