孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ルワンダ 94年の大統領暗殺事件、フランス 定年延長反対

2008-11-20 17:16:03 | 国際情勢

(94年のルワンダでのジェノサイドへのフランスの関与を告発するイベントのようです。 “flickr”より By Cyril Cavalié
http://www.flickr.com/photos/cyrilcavalie/2556713496/)

*****仏当局、ルワンダ大統領暗殺事件の容疑者をパリへ移送 首都キガリでは抗議デモ***
1994年のルワンダでの大虐殺前に発生した大統領暗殺事件に関与したとしてドイツで拘束されたRose Kabuye容疑者(47)の身柄が19日、フランス当局に引き渡された。
Kabuye容疑者は、ルワンダのポール・カガメ大統領の長年の側近。元ゲリラ指導者で、現在はカガメ政権で儀典長を務めている
ドイツ警察は、フランス当局の逮捕状に基づき、フランクフルトの空港に到着したKabuye氏を拘束していた。Kabuye氏の身柄はフランクフルトでフランス当局者に引き渡され、パリへ移送された。
(中略)
欧州の捜査当局では、Kabuye容疑者らに対し準備されている訴訟内容を弁護士らが知るために、Kabuye容疑者が意図的に逮捕された可能性もあるとの見方も出ている。

ルワンダの首都キガリではKabuye容疑者の拘束を受け、3日間にわたって抗議デモが行われた。19日にも、Kabuye容疑者の身柄がフランスに引き渡されたのを受け、再び数万人規模の抗議デモが起きている。【11月20日 AFP】
*******************

【94年当時のルワンダとフランス】
94年に起きたルワンダでのフツ族によるツチ族大虐殺の直接の契機となったのが、同年4月6日、ハビャリマナ・ルワンダ大統領の乗った飛行機(ブルンジ大統領も同乗)が撃墜された事件でした。
フツ至上主義者からは“ツチ族の仕業だ”という扇動がなされ、ツチ族虐殺が開始されました。
この事件へのツチ族反政府組織RPFの関与については、当時PRFを率いていたカガメ現大統領は否定しており、ツチ族一掃を狙ったフツ至上主義者の犯行ではないかとも言われています。

90年から政府軍とRPFは内戦状態にありましたが、フツ族政権を率いるハビャリマナ大統領はRPFの攻勢・国際世論を受けてツチ族RPFとの間でアルーシャ協定を締結します。しかし、フツ過激派がこれを拒否。
協定は凍結され、かわりRPFを含む暫定政府がつくられます。
フツ過激派にとっては、ツチ族に“譲歩”するハビャリマナ大統領が“邪魔”になりつつあったことが想像されます。

ハビャリマナ・ルワンダ大統領の搭乗機撃墜事件をめぐり、ルワンダ政府との結びつきが強かったフランス(撃墜機のパイロットもフラン人)は、事件はツチ族側の犯行という立場から、ルワンダのカガメ現大統領が首謀者だったとする報告書を04年にまとめ、カガメ現大統領の側近9人を国際手配しています。

これに反発するルワンダ政府は06年、仏政府の大虐殺での役割を調べるための特別委員会を設け、06年11月にはフランスと断交しています。
そして今年08年8月には、80万人が犠牲になったとされる94年のルワンダ大虐殺に、当時部隊を派遣していたフランスの政治家らが積極的に関与したとする報告書をルワンダ政府は発表しました。

この報告書では、120人の目撃証言に基づき、仏軍兵士が殺人やレイプに直接かかわったほか、民兵側の路上検問を黙認するなど、政治的・軍事的に支援したとしています。
そして、その責任者として、当時首相だったフランスのエドゥアール・バラデュール氏、当時外相だったアラン・ジュペ氏、当時ジュペ外相の側近を務めのちに首相となったドミニク・ドビルパン氏、当時大統領だったフランソワ・ミッテラン氏ミッテラン氏ら政治家と軍関係者計33人の名前が列挙されています。

このあたりの経緯については、8月6日ブログ「14年前のジェノサイドへのフランス関与を批判」で取り上げたところですので、ルワンダへのフランスの係わりについて再録します。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080807

****フランスの旧フツ族政権のつながり(8月7日ブログからの再録)*****
フランスは当時のフツ族政権を武器や人員派遣などの軍事援助で支える存在であり、フランスから購入された武器が虐殺に使用されたと言われます。
フランスは一貫してフツ至上主義政権とその配下の民兵を反政府軍RPFの攻撃下にある正統な政府組織と認め、同時にRPFをハッキリ敵だと見なしていました。

虐殺発生後も、アメリカなどが動かないなか、「軍事的・人道的介入」と称して“ターコイズ作戦”を提案し、2ヶ月間の期間限定ながら国連の承認を得て、武器使用が許可された軍を展開します。
フランス軍のスポークスマンは「二重のジェノサイド」を喧伝してRPFをクメール・ノワール(黒いクメール)と呼び、虐殺を行ったフツ至上主義者ではなく、進撃するRPFと交戦してその進撃を止めています。

難民保護を目的とするフランス軍のターコイズ作戦は結局のところ、ツチ族の虐殺をさらに一ヶ月続けさせ、ジェノサイドの命令者たちが多くの武器を持ったままザイールへ逃亡する安全な通路を確保したにすぎないとの評価があります。

カガメ大統領は「ターコイズ作戦でフランス人は犠牲者を保護するのではなく、殺人者を救助しようとした」と発言していますが、フランス政府はこれを「事実に反する」と批判しています。
もっとも、フランス元大統領ジスカール・デスタンも「大虐殺をした者を保護している」と非難しています。
*************************

【余裕ある社会】
話は全く変わりますが、「米ドルはもはや世界の基軸通貨ではない」といったサルコジ大統領の挑戦的とも言えるような言動が話題になっています。
そんななか、最近目にしたフランス関連の話題。

****【パリの屋根の下で】山口昌子 定年延長反対、もう働きたくない*****
「65歳まで働くなんて、とんでもない。余生の楽しみを政府は奪おうとしている」。仏南部ニース空港でエールフランス(AF)の制服を着た美人乗務員はこう主張した。(中略)
サルコジ政権は最低限の公共サービスを維持するミニマムサービス法を今年1月から発効させた。しかし、相変わらずストは「フランス名物」だ。先週の週末だけの予定だったAFのストは今週にずれ込み、鉄道、郵便、教員ストも始まった。 (中略)

フランスもご多分に漏れず、年金のほか健康保険料なども含む社会保障費は巨額の赤字だ。政府は65歳、あるいは70歳まで定年を延長することで、掛け金を少しでも増やそうとの算段だ。(中略)

30年以上も前の留学生のころ、フランス人は55歳から60歳への定年延長に反対していた。当時もいまも日本では一般的に「定年延長大歓迎」だから、「定年延長反対」の主張は理解しにくいかもしれないが、フランス人の説明を聞いていると説得されそうになる。
「職場の嫌な人間に永遠に別れを告げ、読書や音楽会、旅行などをたっぷり楽しみたい」
もちろん、フランスのように社会保障制度で老後がきちんと保障されていることが前提条件だ。まず年金でほぼ暮らせるので、定年後の就職先、つまり収入源を探す必要がない。ぶらぶらしていても「いいご身分」と皮肉られることもないし、「再就職先がない無能力者」という扱いもされない。「後期高齢者」の呼び方に象徴されるような老人切り捨て社会ではなく、老人はまあまあ大事にされている。【11月19日 産経】
*********************

ただならぬ不況の襲来に脅える日本で職を探す高齢者を思うと、仕事に対する考え方の違いがあるにせよ、“定年延長反対”というのはうらやましい余裕であり、また、確かにできるものなら自分も人生もそうありたいものだと思わなくはありません。
日本も欧州並みの所得水準を達成してしばらく経ちますが、そこにはやはり差があるようにも見えます。
旅行していても、休暇・バケーションのとり方が全く違います。
このような余裕ある社会を支えているのは富・資産に関するストックでしょう。
もちろん文化の違いもありますが。
フローの比較だけではわからないものがあるようです。

【植民地支配】
しかし、そのヨーロッパ社会が抱えるストックはどこから由来したのか?
やはり長年の植民地支配から収奪した利益の蓄積によるところが大きいのでは。
その植民地支配に関し、05年アルジェリアを訪れたパリ市長のベルトラン・デゥラノエは次のような明確な謝罪を述べています。
「植民地支配は、歴史上の極めて遺憾な行為です。人々が平等でない限り文明社会は存在しません。」
「植民地支配という行為は不当なものであります。正当なものとは、人々が自由であるということです。」
「ドイツの名においてヴィリー・ブラントがひざまずき、許しを請うたとき、ブラントはドイツの威光をさらに高めたのです。過ちを認めることが自らを貶めることにはなりません。」

手にした自国権益を守るべく現地勢力と結託して・・・というようなことがもしあるとすれば、決別したはずの植民地支配と殆ど変わらない構図のようにも思えます。

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アフガニスタン  大統領の和解呼びかけに未だ反応なし 登校中の女子学生、顔を焼かれる

2008-11-19 14:07:56 | 国際情勢

(野外実習で動物園を訪れたカブールの女学生 彼女達が再び家の中に閉じ込められる社会であってはならないと思います。 “flickr”より By thechildrenofwar
http://www.flickr.com/photos/tcow/490203731/)

【「身の安全を保証するという申し出は必要ない」】
アフガニスタンのカルザイ大統領はこれまでもタリバンに対し和解交渉を訴えてきていますが、アメリカが主導する戦いが泥沼化し出口が見通せない情況で、「戦闘だけでは永久に勝てない」という声がアメリカを含めてたかまるにつれ、カルザイ大統領のタリバン和解交渉にも期待が高まっています。

カルザイ大統領は16日、タリバン最高指導者オマル師ら幹部4人の名前を挙げて「政府の和解案を受け入れて政府に参加してほしい」、「オマル師がアフガニスタン訪問や和解交渉を望むのであれば、わたしは大統領として(師の)保護に全力を尽くす」と述べた上で「国際社会が同意しない場合、彼らには2つの選択肢がある。わたしを排除するか、この国を去るかだ」と、アメリカなどの反対には屈しないという交渉への不退転の強い決意を明確にしています。

一方のタリバンは、アフガニスタン政府を支援している多国籍軍が撤退した場合のみ、交渉に応じるというこれまでの姿勢を今のところ崩していません。
米国家安全保障会議(NSC)のジョンドロー報道官は「われわれはオマル師が暴力を放棄し、国際テロ組織アルカイダとのすべての関係を絶ち、アフガニスタンの政府と憲法を支持する用意があるという兆候をまったく確認できていない」と語っています。【11月18日 AFP】

また、タリバン最高幹部の一人は17日、ロイター通信の電話取材に「身の安全を保証するというカルザイ(大統領)の申し出は必要ない」と語ったとも報じられています。【11月18日 毎日】
東南部だけでなく全国に勢力が浸透してきているタリバンにとって、今更政府に身の安全を守ってもらう必要などない・・・という自信・優位性の表れと解されています。

別の報道では、タリバン幹部のひとりが「われわれは外国軍隊とそのアフガン人奴隷に対する聖戦を続ける」と交渉を拒絶したとも伝えています。【11月17日 共同】
タリバン組織もそんなに整理されている訳ではないでしょうから、各々がそれぞれに発言しているものと思われますが、少なくとも交渉に肯定的なものは今のところ出てきていないようです。

【「殺されたとしても学校には通う。」】
そんなアフガニスタンで、痛ましい事件が報じられています。

****女子学生が「酸」攻撃で顔を焼かれる、アフガニスタン南部****
アフガニスタン南部カンダハルで12日、登校中の女子学生がバイクに乗った男たちから水鉄砲で顔に酸をかけられ、15人が負傷した。うち3人が重傷で、特に姉妹2人の容態は深刻だという。同国の教育省が明らかにした。
女子学生らは全身を覆うイスラム女性用の衣服ブルカを着用していた。

ハミド・カルザイ大統領や閣僚らは「アフガニスタンの敵」の仕業と強く非難し、旧支配勢力のイスラム原理主義組織タリバンが襲撃の背後にいると示唆したが、タリバン側は否定している。
酸が目に入るなどの重傷で軍病院に移送されたShamsiaさん(17)は15日、病床で取材に応じ、「殺されたとしても学校には通う。100回襲撃を受けたって勉強を続けるわ」と語った。

1996-2000年のタリバン政権下では、女性の就学は禁止されていた。政権崩壊後も、学校や教育施設への襲撃が繰り返されており、2008年だけでこれまでに115校が放火や爆弾、ブルドーザーなどによる攻撃を受け、教師や生徒など約120人が死亡している。【11月17日 AFP】
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冒頭で取り上げたカルザイ大統領の16日のタリバンへの交渉呼びかけにおいても、大統領は「女子学校を燃やしたり、市民の殺害を即時停止すべきだ」と強い口調で訴えていたそうです。
“2008年だけでこれまでに115校が放火や爆弾、ブルドーザーなどによる攻撃を受け、教師や生徒など約120人が死亡”というのも許しがたい数字です。
タリバン支配時は、女性は一人での外出すら認められていませんでした。
学校教育など女性には不要だとのデモンストレーションでしょうか?
それにしても痛ましいとしか言い様がありません。

タリバンとの和解交渉が今後進展することを望みますが、カルザイ大統領も言っているように「女子学校を燃やしたり、市民の殺害を即時停止する」最低限の人権保障がタリバン側からなされることがその条件であると考えます。

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アメリカ  ビッグスリー救済策審議 共和党からは破産法適用の声も

2008-11-18 17:09:00 | 国際情勢

(今年1月デトロイトで開催された2008 North American International Auto Show に出品されたソーラーカー もう少し真摯にこうした取組みを行ってきたら・・・
“flickr”より By Corvair owner
http://www.flickr.com/photos/joeross/2224566267/)

【支援が無ければ、来年1~3月にも破綻・・・】
アメリカ経済のシンボルでもある、苦境に喘ぐ自動車産業“ビッグスリー”救済策に関する議論がアメリカ議会で今週から始まりました。
法案は17日に民主党から提出され、まず上院で審議されます。

GMの株価は記録的な安値に下落していますが、現在資金繰りに窮しており、アメリカ政府の支援が無ければ、来年1~3月にも破綻するのではないかとの不安が市場に根強くあります。
GMのワゴナーCEOは7日、7~9月期決算発表後の電話会見で、「我々は破綻を避けるために、すべての資金調達手段を利用する」と話し、政府による資金支援に期待を寄せています。
クライスラーのナルデリCEOも13日、「需要低迷があまりに激しく、自力で乗り切るのはきわめて困難だ」と述べて、最大手GMに続き、政府に金融支援を求める方針を表明しています。

民主党は、下院のペロシ議長(民主)らが「金融安定化法に基づく7000億ドルの公的資金を自動車業界の支援に回すべきだ」と以前から主張しているように、9月末に可決されたビッグスリーへの総額250億ドル(約2兆4000億円)の融資保障に加え、総額7000億ドル(約68兆円)の金融安定化法案の予算枠からさらに250億ドルをビッグスリー救済にあてるよう求めています。
共和党はこれに反対。共和党の責任者のシェルビー上院議員は「GMの経営失敗」を強調。「米連邦破産法11条(に基づく会社更生手続きの適用申請)を求める意見もある」として徹底抗戦の構えを見せています。

【「彼らは変わらなければいけない」】
****ビッグスリー支援めぐり民主・共和対立、17日から米議会審議******
民主党のバイロン・ドーガン上院議員は16日の米FOXテレビで、「これは自動車産業もしくはビッグスリーだけの問題ではなく、雇用の問題だ。米自動車産業には直接的には35万人、全体としては恐らく300-500万人が関わっている」と指摘。ビッグスリー救済は米社会全体に安心をもたらすと訴えた。

これに対し共和党のジョン・カイル上院議員は、同じくFOXの番組で、「大半の共和党議員は(民主党案に)反対するだろう」と述べ、民主党の要求は政治的駆け引きだと一蹴。「専門家も認めていることだが、ビッグスリーのビジネスモデルは失敗した。彼らは変わらなければいけない。250億ドルを与えるだけでは何も変わりはしない。清算される日が半年かそこら延びるだけだ」と強調した。【11月17日 AFP】
*****************

ブッシュ政権も反対の立場で、ペリーノ報道官は15日、「経済危機を食い止めるため、金融機関支援計画に基づいて充当される資金は、金融システムを安定させ、強化するという所期の目的のために使う必要がある」と指摘しています。
仮に議会で支援に向けた法修正が可決されたとしても、ブッシュ大統領による拒否権発動の可能性があるとも言われています。
レームダックと化したブッシュ政権にその力が残っているかは疑問ですが。

一方、選挙戦中に労働組合から強い支持を受けたオバマ次期大統領は、自動車業界救済を強く支持しており、7日の就任後初の会見で自動車産業は「米製造業の中軸である自動車産業の救済策に優先して取り組む」と強調したのに続き、10日のブッシュ大統領との会談でもこの問題を持ち出しています。
もともと民主党は労組を支持基盤としており、また、ビッグ3の拠点である中西部のオハイオ州がオバマ次期大統領の地盤であるといった事情もあります。

【金融不安に続く大波】
この問題は当然ながら日本にも非常に大きな影響があります。
ただでさえ深刻化する不況、混迷する政治という状況で、金融不安に続くアメリカ発の大波は勘弁してもらいたい状況です。
たとえ、アメリカの財政事情がどうであれ。

アメリカ自動車業界は産業の多様化とともにアメリカ経済での存在感は徐々に小さくなり、すでにGDPに占める割合は3%にすぎず、「金融機関と違って世界的な連鎖倒産の危険がない」とも言われます。
ただ、そうは言っても裾野・関連業種まで含めた雇用者数は数百万人規模と膨大で、ビッグスリーが本当に経営破綻といった事態になると、アメリカ経済への影響は想像を超えるものがあります。

そのことは、アメリカ経済の混乱を通した日本輸出産業への影響、ビッグスリーと競合する日本自動車産業への影響・・・など直接・間接いろんな方面の影響が考えられます。
実体経済、金融ともに相伴って一層の危機に直面することが懸念されます。

【市場による淘汰 適者生存】
ただ、一連の報道のなかで一番印象に残ったのは、冒頭AFP記事にある、共和党のジョン・カイル上院議員の発言でした。
「ビッグスリーのビジネスモデルは失敗した。彼らは変わらなければいけない。250億ドルを与えるだけでは何も変わりはしない。清算される日が半年かそこら延びるだけだ」

アメリカでも日本でも、政府の対策を求める声が強まるなかで、なにか毅然としたものをこの発言に感じました。
本来、資本主義経済にとって、好・不況という経済変動は不可避のものです。
時代の求めるものを提供できない企業は不況期に淘汰され、これを生き残った企業によって新たな時代が切り開かれる、それによって経済の効率性が維持される・・・というのが基本的な考えでしょう。
火の鳥は火中に飛び込み身を焼いてこそ、不死鳥として蘇ることができる・・・というダイナミズムでしょうか。

最近急に評判が悪くなった市場原理主義ですが、まがりなりにもアメリカがそうした市場重視の自由主義を掲げて経済発展を実現してこられたのは、市場に支持されないものは淘汰を余儀なくされる自己責任の考えを貫き経済のダイナミズムを保持してきたからでもあるでしょう。

しかし、これは政治的には受け入れ難いところがあります。
不況期を乗りこえられる余力のある者・企業はいいですが、淘汰され不況の荒海に放り込まれる弱者にとっては耐えられません。
そこでさまざまな政策対応が用意されることになります。

個人的にはそのような弱者への政策的配慮を重視する立場に賛成しますし、日本としても先述のようになんとか避けたい大波です。
ただ、指導的立場にありながらこれまで自己変革の成果を出せず、従来のアメリカ的生活スタイルを踏襲するだけだったアメリカ自動車産業がこの期に及んで、雇用者を人質にとるかのような形で自己の救済を声高に叫ぶ様子を見ると、「彼らは変わらなければいけない。」と突き放したくなる誘惑にも駆られます。




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パレスチナ  停戦合意破綻の危機 国連援助も停止

2008-11-17 17:11:02 | 国際情勢

(ガザのどこか児童施設でしょうか 穏やかな時間がながれるひとときもあります。 “flickr”より By freegazaorg
http://www.flickr.com/photos/29205195@N02/2752935261/)

【崩壊する停戦合意】
11月4日夜から5日朝にかけてパレスチナ自治区のガザ地区にイスラエル軍が進入してハマスと戦闘になり、ハマス側発表では戦闘員6人が死亡したとのことです。
その後、イスラエル軍による迫撃砲の攻撃地点を狙った空爆も行われ、更に数人の死者が出たもようです。

これに対し、ハマスは報復として、ガザ地区からイスラエル南部に向けてロケット砲と迫撃砲あわせて53発を発射したと発表しています。
一方イスラエルはガザ地区との境界を一時封鎖し、食料・燃料などの生活必需品を外部からの輸入に頼っているガザ地区への圧力を強めています。

パレスチナとイスラエルの間では今年6月19日以来“停戦”が発効しており、この間ガザ地区からイスラエルに向けて迫撃砲などによる散発的な攻撃はありましたが、この衝突は停戦発効後もっとも規模の大きいものでした。
双方は相手を停戦違反として非難しましたが、この時点ではイスラレル側は、攻撃は限定的で「停戦を崩壊させる意図はない」としていました。【11月5日 毎日】

しかし、状況は次第に悪化しています。
12日にもイスラエル・パレスチナ人武装勢力の間の戦闘がありハマスメンバーと見られるパレスチナ人戦闘員4人が死亡、イスラエル軍兵士1人が負傷しています。
6月の停戦以来5か月近く続いた安定が失われ、支援物資の輸送も危険にさらされる事態となっています。

14日には、ガザ地区からイスラエル南部に向かってロケット弾20発近くが発射され、イスラエルのオルメルト首相はバラク国防相ならびに軍高官と緊急会合を開き、ロケット弾発射は「露骨で根本的な」停戦違反だと非難しています。

****イスラエル軍:ガザ北部を空爆…武装勢力メンバー殺害****
イスラエル軍は16日、パレスチナ自治区ガザ地区北部を空爆し、パレスチナ武装勢力のメンバー4人を殺害した。これに先立ち、イスラエル領内にはガザからロケット弾が撃ち込まれた。
ガザ情勢は6月の停戦(6カ月間)後、平静を保っていたが、今月4日、イスラエル軍がガザに一時侵攻したのを機に流動化。双方の暴力が激化し、これまでにガザ側では少なくとも17人が死亡。イスラエル側にはロケット弾が大量に撃ち込まれ、停戦の維持が危ぶまれている。
イスラエルは今月上旬から境界検問所を完全封鎖し、ガザへの物流を止めている。国連機関の援助物資が底を突き、難民キャンプの住民らに食糧支援ができない状態に陥っている。【11月17日 毎日】
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【途絶する食糧支援】
戦闘の激化に伴い、上記記事にもあるように、国連の食糧支援も中断を余儀なくされています。

*****国連、ガザ地区での食糧支援を一時中止******
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は13日、パレスチナ自治区ガザ地区への緊急物資搬入をイスラエル政府が許可しなかったとして、同地区の人口の半数に当たる75万人への食糧支援を一時中止すると発表した。
イスラエル政府は当初、13日に今月5日から封鎖されているガザ地区へ支援物資を積載したトラック30台の通行を許可すると述べていたが、後にガザ地区内の武装勢力の迫撃砲により不可能になったとした。
UNRWAの広報Chris Gunness氏は、「今日は検問所は封鎖されていると告げられた。今日中に食糧配給を一時中止する。倉庫は事実上空だ」と述べた。
一方、赤十字国際委員会(ICRC)は、Kerem Shalomからガザ入りしようとしていたICRCのトラック1台が通行を拒否されたと発表した。

イスラエルは通常、ガザ地区への人道支援物資の輸送を一部許可しているが、およそ1週間にわたりそれも禁止している。そのため、人道支援機関関係者は、イスラエルを強く非難している。
また、イスラエルは同日、ガザ地区で唯一の発電所向けの欧州連合が支援する燃料支給も禁止した。
パレスチナのエネルギー当局は、ディーゼル燃料不足のため13日中にも発電所を閉鎖すると警告している。【11月14日 AFP】
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【進まない和平交渉】
エジプト仲介による交渉の結果得られた今年6月の停戦合意の骨子は以下のようなものでした。
・停戦合意は19日午前6時から発効する
・双方はすべての暴力を停止する。3日が経過した後、イスラエルはガザの封鎖を緩和し、生活必需品の供給を認める
・1週間後にイスラエルは貨物輸送の制限を緩和する
・最終段階でラファ検問所の再開や、2年前からハマス系グループが拘束しているイスラエル兵とパレスチナ囚人の交換について協議する

イスラレルにとっては、“ガザ封鎖”を続けてきたもののガザ地区からの攻撃は止まず、国内的に批判が出ていること、また、ガザ地区住民の困窮について国際的批判も強まっていることなどの背景がありました。
一方、ハマスにとっても、封鎖に苦しむガザ住民の不満を抑え込む必要性があり、また、イスラエルに“ハマスの関与なしにパレスチナ情勢の進展はあり得ないこと”を認めさせた意義も大きいと見られていました。

しかし、これまでも“停戦”は失敗を繰り返しており、当初から、長期継続には懐疑的な見方が強いとも報じられていました。
当然のことながら、パレスチナ問題に関する基本的な枠組みを合意する交渉の進展なくしては、現場の停戦も一時的なものに終わってしまいます。
せっかくの停戦が行われているこの時期にこそ、そうした基本的な枠組みに関する交渉が期待されたのですが、それも全く機能しませんでした。

*****来年春にもパレスチナ和平会議=交渉仕切り直しへ-仲介4者*****
パレスチナ和平交渉を仲介する米ロ、EU、国連の4者は9日、エジプトの保養地シャルムエルシェイクで協議を行った。4者はこの中で、ロシアがかねてモスクワでの開催に意欲を示してきた和平推進のための国際会議について、来年春をめどに実施すべきだとの見解で一致した。

イスラエルとパレスチナの2国家共存を目指す和平交渉は昨年11月、米アナポリスで開かれた国際会議を機に再開された。しかし、エルサレムの帰属などの重要な問題で歩み寄りがみられず、仕切り直しを迫られていた。
交渉は当初、ブッシュ米大統領の任期が満了する来年1月までの妥結を目指したが、達成は不可能な情勢で、仲介はオバマ次期大統領に委ねられることになる。イスラエルも来年2月に総選挙を控えており、4者は両国で政権交代が実現した直後に国際会議を開催するのが適切と判断した。【11月10日 時事】
***********************

何らかの実績を歴史に残したいブッシュ大統領指導の形だけのパレスチナ和平交渉は、こちらも当初から期待されてはいませんでしたが、結果は予想どおり・・・といったところです。

更に、パレスチナ内部でのファタハとハマスの確執も解消の目処がたっていません。
ハマスとファタハの会合がエジプト・カイロで10日に予定されていましたが、ハマスが参加拒否を発表したため中止となっています。
ハマス指導者の1人は「今は対話を行う雰囲気ではない」と指摘しているとか。

【捨て置かれる住民】 
昨年11月にアメリカ・アナポリスで中東和平のための国際会議が開催された後だけで、少なくとも545人が死亡しており、そのほとんどがパレスチナ人だそうです。【11月5日 AFP】
ファタハにしても、ハマスにしても、同胞の血を更にどれだけ流すつもりでしょうか?
“対話を行う雰囲気”が出来るまで、ガザ地区住民はどのように暮らせばいいのでしょうか?

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ソマリア  横行する海賊行為 更に悪辣な連中も

2008-11-16 13:12:29 | 国際情勢

(ソマリア 海を眺める人々 写真の表題は“Hope” 無政府状態が続くソマリアで彼等が見つめる海のかなたにあるものは希望か・・・ その僅かな希望を食い物にするやからもいます。“flickr” By Abdi Cadani
http://www.flickr.com/photos/97603973@N00/2262089708/)

【海賊銀座 日本の被害も】
インドネシア近海と並んで海賊行為が横行するソマリアで、また14日、中国天津市の遠洋漁業会社所属のマグロ漁船「天裕8号」が武装海賊グループにより乗っ取られました。(正確には、事件発生場所はケニア沖ですが。)
船長は沖縄県出身の久貝豊和さんで、その他の乗組員は中国人15人、台湾人1人、フィリピン人3人、ベトナム人4人とのこと。

ソマリアとイエメンとの間のアデン湾は年間2万隻もの船が通航する要所ですが、無政府状態が続くソマリアでは約3000キロの長い沿岸を警備することが出来ず、海賊行為が野放しになっています。
アデン湾は、世界の石油輸送量の3割以上が通過するエネルギーの大動脈で、海賊の襲撃急増で保険料も昨年10倍に跳ね上がったそうです。

国際海事局海賊情報センター(クアラルンプール)が先月発表したところによれば、今年1-9月にソマリア沖とアデン湾の海域で海賊事件が未遂も含め計63件発生し、前年同期比で27件増加、世界全体199件の約3分の1に上ったそうです。

今年これまでに襲撃された船舶は60隻と、昨年からほぼ倍増していますが、支払済みの身代金総額は1800万-3000万ドルで、アメリカからテロ組織に指定されているソマリアのイスラム武装勢力アルシャバブの資金源になっているとも見られています。【10月20日 CNN】

日本関連の被害も急増しており、今年7月20日に日本の貨物船「ステラマリス」号が乗っ取られましたが、9月27日に200万ドル(当時レートで約2億1200万円)の身代金と引き換えに解放されています。
このほか、4月にはソマリア沖でタンカー「高山」が砲撃を受け損傷し、8月21日には同じくソマリア沖で日本が運航するパナマ船籍タンカーが乗っ取られています。
更に8月23日には貨物船「AIZU」が海賊からの攻撃を受けています。

【奪った積荷は戦車33両】
そんな多発する海賊行為のなかでも世界の注目を集めたのは、9月25日ソマリア沖で乗っ取られたウクライナの貨物船「MV Faina」号の事件です。
この船はケニア軍向けとされる旧ソ連製のT─72型戦車33台、砲弾、迫撃砲発射装置、小火器類などを積んでおり、ウクライナ人17人のほかにロシア人3人、ラトビア人1人の21人が乗り組んでいます。

海賊がこの積荷を最初から知っていたのかどうかはわかりませんが、海賊にはあまりにも“大物”すぎたようです。
アメリカ政府は兵器がソマリアの反政府武装勢力へ流出することを警戒しており、この海域をパトロールする多国籍艦隊の駆逐艦「ハワード」(米海軍第5艦隊所属)など軍艦3隻が海賊を直ちに追跡し、これを包囲しました。
ロシア海軍もフリゲート艦を現場海域に派遣しています。
最近では珍しく米ロ協調で対応にあたっています。

海賊側は当初3500万ドルを要求していましたが、その後2000万ドルに減額。
解放交渉は、海賊と運航企業、ウクライナ政府との間で行われていますが、今なお進展していません。
軍艦に包囲され、水・食糧も乏しくなるなかで、10月24日の報道では、苛立ちを強める海賊側は「攻撃を受けた場合は乗組員を殺害する」と警告しています。
(もし、海賊達が積荷のことを知らずに乗っ取ったのであれば、不謹慎な言い様ですが、ちょっとハリウッド映画にでもありそうな展開です。)

国連安保理は10月7日、ソマリア沖の公海上に海軍艦船や軍用機を派遣し、活動を活発化させている海賊制圧のため、武力行使を含む必要な措置を取るよう加盟各国に求める決議案を全会一致で採択しています。

これを受けてNATO各国の国防相は、ソマリア向け支援物資を積んだ世界食糧計画(WFP)の輸送船の護衛支援で、海軍艦船のソマリア沖派遣を承認。
WFPの輸送船の護衛と海賊対策を兼ねて、艦船7隻を派遣しました。
ソマリアのフセイン首相はこの派遣を歓迎することを表明し、NATOに領海内での軍事行動を認める考えを示しています。
領海内に逃げ込めば外国は手出しをできず、自国ソマリア政府は無政府状態で機能していないという“海賊の楽園”も若干勝手が違ってきているようです。

【暴かれる武器輸出の実態】
今回のウクライナ貨物船乗っ取り事件は、武器輸出に関する疑念をさらけ出す副産物を生んでいます。
アメリカ海軍は、積載されていた戦車などの兵器類が、ケニア向けではなく実際はスーダンに送られるものだったと主張、ケニア、ウクライナ両政府はこれを否定していました。

イギリスBBCは先月7日、「MV Faina」号の積荷目録だとする文書を公開し、同船が南スーダンに向かっていたことが明らかになったと報じています。
この文書によると、荷受人は「ケニア共和国、国防省」とされていますが、契約番号に書かれた「国防省」との文字のそばに「GOSS」とのイニシャルが書かれているとか。
これは最終使用者を示しており、GOSSは南スーダン政府(Government of South Sudan)の略称だと見られると報じられています。【10月8日 AFP】

ストックホルム国際平和研究所によると、ウクライナは2003年から2007年の5年間、武器輸出で常に世界のトップ10に入っています。
その一方で、1990年代、ブルキナファソ経由でリベリアへの武器輸出など、問題のある国家や政権に武器を輸出していた疑惑が持たれており、また、2002年には米国も、当時のサダム・フセイン政権下のイラクに対する経済制裁に違反し、ウクライナがイラクに軍事レーダーシステムを輸出していると非難しています。【10月3日 AFP】

こうした国際的な非難を機に欧米が積極的に関与し、その結果、現在のウクライナの武器輸出管理は、世界で最も優れたもののひとつになった・・・とも言われていましたが、やはり武器輸出という世界は秘密のベールに包まれたもののようです。

【海賊ビジネス】
ところで、事件を起こす海賊達については、元漁師が無政府状態で失業し転職したものが多いと報じられています。
“海賊の大半はハラゼレやホビョなど中部の漁村を拠点にしている。自動小銃やロケット砲で武装し、複数の高速艇で襲いかかるのが手口だ。約15年前から出没し始め、この1、2年で急増。漁業会社がそのまま漁船を使って「海賊会社」に衣替えしたケースがほとんどで、複数の武装集団に全体で300人ほどが属しているという。”【11月15日 朝日】

海賊の目的地とみられるエイルは、海賊ビジネスが“主要産業”の無法地帯で、BBCによると、現地では小型パソコンにスーツ姿の海賊用会計士や交渉人が闊歩し、街には人質用の特別レストランもあるそうです。【9月29日 産経 犬塚陽介】

【もっとあくどい所業】
海賊を弁護する訳ではありませんが、海賊の狙いは人質にとった船員の身代金で、実際に人質に危害を加えたと報じられた事例はほとんどないようです。
そうした点においては、海賊よりもっとあくどい連中がいます。
ひとつは、紛争地に武器輸出する連中。
もうひとつが、下記の記事のような連中です。

***移民希望者ら、「追加料金払え」とイエメン沖で海に投げ出される****
ソマリアから対岸のイエメンへ向かっていたボートで、最大40人が移民斡旋業者により海に投げ出され、うち12人の遺体がイエメンに漂着した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が4日明らかにした。
生存者などの話によると、115人を乗せたボートはソマリア北部を前月31日に出発し、アデン湾の対岸にあるイエメンを目指した。
だが2日になって、斡旋業者がすべての乗客に対し、追加料金を要求。これを拒否、または払えなかった乗客は斡旋業者に殴打され、40人程度が海に投げ捨てられた。その大半がエチオピア人だったという。
乗客は全員、斡旋業者に前もって100ドル(約1万円)を支払っていたという。
残りの75人は、イエメンのAhwarにあるUNHCR事務所に到着し、手当を受けている。

UNHCRによると、今年1-10月にソマリアからイエメンに渡った移民希望者の数は3万8000人以上。前年は総計で2万9500人だったことから、急激な増加を示している。なお、航海中の死者・行方不明者数は、今年だけで既に600人を超えている。【11月5日 AFP】
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この種の話は以前から報じられています。
なけなしのお金を奪ったあげく、海に放り出す・・・背筋が寒くなる、人間性のかけらも感じられない行為ですが、こうした行為が横行しているのがソマリアの現実であり、私達が生きている世界です。

日本も、諸外国と同調し自衛隊を海賊対策のためこの海域に派遣すべく新法を検討しているとも言われていますが、このソマリアの現実をなんとかしない限り海賊も根絶できませんし、ソマリアに暮らす人々の明日もありません。



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米軍、冷戦期に行方不明の核兵器をグリーンランドに遺棄

2008-11-15 15:38:45 | 世相

(グリーンランドのチューレ 飛行機でお手軽に北極観光が楽しめるようですが・・・ “flickr”より By Erik Charlton
http://www.flickr.com/photos/erikcharlton/332142723/)

【4個目、発見できず】
世の中には、関係者にはよく知られているが世間にはあまり知られていない・・・という話が多数あります。
グリーンランドで米軍が紛失した核兵器をそのまま遺棄していたという下記の話もその類でしょう。
グリーンランド自治政府は以前から核兵器が発見されていない事実を承知していたそうですが、私などは初耳です。

****米軍、冷戦期に行方不明の核兵器をグリーンランドに遺棄 英BBC ****
英国放送協会(BBC)は10日、1968年に核兵器を搭載した米軍のB52爆撃機がグリーンランド北部チューレの米空軍基地近くに墜落した際、米国は懸命の捜索にもかかわらず行方不明となった核兵器を発見できず、そのまま遺棄していたと報じた。関係者の証言や情報公開法によって入手した機密文書によって明らかになったという。

チューレの米空軍基地は1950年代初めに建設され、北極上空を飛んでくるミサイルを警戒するレーダーを備えるなど、ソ連(当時)との冷戦において戦略的に非常に重要な基地と位置付けられていた。
米政府は、ソ連が米国本土への核攻撃の前段階として同基地を攻撃してくることを懸念していた。そのため、米軍は1960年から同基地に核兵器を搭載したB52爆撃機を配備し、周辺の警戒にあたらせた。同基地がソ連から攻撃を受けた場合は、B52はただちにモスクワに向かうことが可能だったという。

だが、BBCによると、1968年1月21日、同基地に配備されていたB52のうち1機が、基地から数マイル離れた場所にある氷原に墜落。その際、ほかの爆発物は爆発したものの、搭載されていた4個の核兵器自体は爆発しなかったという。
捜索によって、放射線を浴びた破片を含んだ氷など数千個にも及ぶ破片類が回収されたが、4個の核兵器のうち1個が回収できなかったという。同年4月には海中の捜索も行われたが何も発見されず、結局、捜索は打ち切られた。
米国防総省は、以前に発表されていた4個の核兵器すべては「破壊された」とする公式見解に言及するのみで、今回のBBCの報道についてはコメントを避けた。【11月12日 AFP】
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本来“見つからない”ではすまないものですが・・・。
発見できなかったこともさることながら、そのことを公にしてこなかった隠蔽体質が気に入りません。
隠蔽体質は米軍だけでなく、日本国内を含め、あちこちで見られることではありますが、核兵器となると周辺住民の生命にかかわります。

【人間にも関心を向けるべき】
****米軍核兵器遺棄問題で、周辺住民の健康診断要請 グリーンランド****
デンマーク領、グリーンランドの自治政府高官は14日、米軍が40年前に核兵器を遺棄したチューレ周辺の住民の健康診断を求める方針だと語った。
グリーンランド出身で、デンマーク議会でグリーンランド問題を扱う委員会の委員長を務めるLars-Emil Johansen議員はAFPに対し、「核兵器をなくした『犯人』を見つけることは問題ではなく、チューレに住む先住民イヌイット(エスキモー)の健康への影響が懸念される」と語った。(中略)
Johansen氏は「海洋環境や魚類およびほ乳類への調査は多数行われているが、住民に対してはほとんどない。人間にも関心を向けるべきだ」と語った。

一方、グリーンランド自治政府のPer Berthlesen外相は12日、BBCの報道について、自治政府は以前から、核兵器が発見されていない事実を承知していたと述べたうえで、環境への「影響はない」とした。Berthlesen外相は、BBCの報道を受け、米国およびデンマーク両政府からの応答を待っていると語った。【11月15日 AFP】
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遅まきながら・・・というところでしょうか。
確かに、紛争地で生命を脅かされている人々、飢餓に苦しむ人々、人権を侵害され過酷な人生を強いられている人々・・・そんな“どこにでもある”辛気臭く面白くもない話より、クジラやシロクマ絶滅の危機といった話の方がお茶の間での関心を引きやすい・・・というのは現実世界の事実です。

【“持ち込まずは有名無実で誰が見ても無理”】
先日、NHKスペシャルで「こうして“核”は持ち込まれた~空母オリスカニの秘密~」という番組を観ました。
日本政府の非核三原則にもかかわらず、朝鮮戦争からベトナム戦争までの27年間アメリカ第7艦隊の主力空母として日本を拠点に活動していた空母オリスカニには核兵器組み立て工場があり、核兵器が日本に当たり前のように持ち込まれていたという事実を関係者の証言等で明らかにしたものです。

番組によれば、空母オリスカニだけでなく、相当に広範な艦船に核兵器が積み込まれているようです。
冒頭の核兵器遺棄問題とは異なり、三原則の“持ち込ませず”については空文にすぎない・・・ということは、ある意味では周知のところではあります。
核保有については時折政治家の発言が話題になることがありますが、持込については最近は話題にすらなりません。
ただ、そのように皆が薄々感じているところではありますが、政府も未だ非核三原則を公式に否定している訳ではありません。
“否定せず堅持すること”に、まだそれなりの意味あいもあるのでしょう。

番組で最も印象的だったのは、核持込の事実よりも、元防衛事務次官夏目晴雄氏が「作らず、持たずはよいが、持ち込ませずは有名無実で誰が見ても無理。アメリカが『ない』ということだから、『ない』ことにしておこうということだった」といった趣旨の“そんなこと皆知っているじゃない。何を今更・・・”という感じの発言を、実に楽しそうに笑いながらしていたことでした。

元防衛事務次官という立場でそんなことを軽々に語っていいのだろうか?と非情に不可解に感じた次第です。
田母神前空幕長の一件といい、上記の元元防衛事務次官の開けっぴろげな言い様といい、“戦後レジーム”は空洞化しただけでなく、やすやすと踏み潰される存在に成り果てたようです。

番組でもうひとつ印象に残ったのは、アメリカの核抑止力を守るべく自衛隊が三海峡を封鎖してロシア海軍を封じ込める戦略について、米軍関係者が日本列島を“盾”と表現していたことです。
アメリカの核の傘の下に安穏としているつもりが、アメリカの核戦略を守る“盾”になっている・・・というのも皮肉な感じです。
“不沈空母”ではなく“沈まぬ盾”です。
“盾”ということであれば、当然攻撃の矢面に立つことになります。

【ポストSTART1】
話が横道に逸れてきました。
核軍縮について、第1次戦略兵器削減条約(START1)が、来年09年12月に失効します。
“次”をめぐっての米ロの交渉が伝えられています。

*****米露:新たな戦略核削減条約へ協議開始*****
米国とロシアは12日、09年12月に失効する第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる枠組みに関する協議をジュネーブで開始した。米国が進める東欧へのミサイル防衛(MD)配備と密接に関連しており、同1月のオバマ米次期政権発足後に本格化する交渉では、MD計画に慎重姿勢を示してきたオバマ氏の姿勢が問われる。

ロイター通信によると、米国はすでに▽東欧に配備されたMDをロシア側が査察できる▽新条約で核弾頭の数を制限する--の2点提案した。
だが、ラブロフ露外相は8日、ライス米国務長官との会談後に米提案への不満を表明するとともに、オバマ次期政権との対話に期待を示唆した。

冷戦終結直後の91年に調印されたSTART1は、核弾頭を載せた弾道ミサイルの数などを制限している。ロシア側は、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大などで安全保障環境が劇的に変わったとして、「START1に代わる核軍縮に関する新たな条約を作ることが重要」(メドベージェフ大統領)と主張している。
【11月13日 毎日】
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使うとお互い破滅に至ることがわかっている兵器を大量に保持して威嚇しあう愚かさ自覚して欲しいのですが。
日本を盾に使われては困りますので。

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イエメンの児童強制結婚 日本女性の社会的地位

2008-11-14 14:24:20 | 世相

(イエメン 結婚式を祝いジャンビア・ダンスを舞う男達 半月刀ジャンビアは男の誇りです。でも、8歳の少女を・・・と言うのでは“男”が泣きます。
“flickr”より By ninjawil
http://www.flickr.com/photos/ninjawil/2205217653/)

【離婚を勝ち取った少女】
“米女性誌「グラマー」は10日、恒例の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」(今年の女性)に、コンドリーザ・ライス米国務長官のほかに、イエメンで歴史的な離婚を勝ち取った10歳の少女Aliちゃんと、離婚訴訟でAliちゃんの弁護を担当した人権派弁護士の2人を選んだと発表した。Aliちゃんは8歳のときに28歳の男性と強制結婚させられたとして今年、裁判所に婚姻無効を申し立て、離婚が認められた。”【11月12日 AFP】

Aliちゃんは18歳までは自宅で両親と一緒に暮らすとの約束でしたが、その1週間後に、男性との同居を両親から強制されたとのことで、この男性は「本人とその両親の合意の上で結婚した」と主張。裁判では「結婚の契り(=性交)」は交わしたが、暴力はふるっていないと証言しています。
また、結婚を強制した父親は、「娘が誘拐されるのがこわかったために(嫁にやった)」と証言しています。

“最貧国の1つであるイエメンでは、結婚最低年齢を規定する法律はない。弁護士によると、Aliちゃんのようなケースはこの国では珍しくなく、その数は数千件にものぼるのではないかという。したがって、複数の市民団体が結婚最低年齢を法律で18歳に規定するよう議会に働きかけているという。”【4月16日 毎日】

このAliちゃん、なかなかにしっかりした子のようです。
“この話で一番すごいのが、このNujoodという女の子(Aliちゃん)だ。伝統的には顔をさらすのもはばかれるであろうこの地で、顔写真とともに話が報道されることに同意し、「結婚はこりごり。学校に戻って勉強を続けて、苦しめられている人を助けるシャダ(自分を助けてくれた弁護士)のような人になりたい。他の女の子たちのお手本になりたい」と言っている。”
【『NGO主義でいこう』10歳で離婚した少女―イエメン― http://www.p2aid.com/perryblog/2008/07/10.html 】

【少女の52.5%が、15歳未満で結婚】
こうした、本人の意思によらない子供の結婚は、イエメンに限らず各地で見られます。
最近目にしたものでは、バングラデシュとパキスタンでの“事件”があります。
これらは、何らかの事情で表沙汰になったので“事件”として扱われていますが、現地ではごく普通の風習のようです。

****11歳少女の結婚式、警察の介入で中止に バングラデシュ****
バングラデシュ西部の村で今週、11歳になったばかりの少女の結婚式が取りやめになった。ようやく思春期に入ったレクハ(Rekha)ちゃんは、両親の決定で嫁に行かされる寸前だったが、うわさを聞いた村の住人が警察に密告したのだ。
警察によると、夫となる予定だったのは17歳の少年。バングラデシュでは男女とも18歳未満での結婚は法律で禁止されている。

しかし、この事件では誰も逮捕されていない。担当した地元警察の警部補は、「レクハちゃんの事件は氷山の一角」と述べ、過去半年に近隣地域だけで50件近くの同様の違法な結婚式が予定され、警察が介入して中止させたと話した。
キリスト教系人道支援団体ワールドビジョン(World Vision)が今週発表した報告書によれば、同国の少女の実に52.5%が、15歳未満で結婚させられている。この割合は、同団体が調査対象としたサハラ以南のアフリカ、南アジア、中米の15か国中で最も高い。

警部補によると、人口の4割が1日1ドル以下で生活するバングラデシュでは、農村部を中心に18歳未満の強制結婚は一般的だという。両親は18歳未満の結婚が違法だということを知っているため、こうした結婚式は密かに行われるのがほとんどだ。
警察はレクハちゃんの両親にカウンセリングを施し、若年結婚は違法であり、適齢を迎えるまで待つよう諭しているという。【9月12日 AFP】
**********************

*****子どもを強制的に結婚させた父親ら逮捕、パキスタン******
パキスタン南部カラチの警察は30日、一族同士の紛争を解決するため、4歳の女児と7歳の男児を強制的に結婚させたとして、それぞれの子どもの父親と結婚登録係の計3人を逮捕した。カラチの裁判所は1日、3人の保釈を認めた。
弁護士によると裁判所は、3人に各自3000ルピー(約6000円)の保釈金の支払と、男児と女児を親の保護下に戻すことを命じた。

女児の父親は、子どもを結婚させたのは両家の間に古くから存在した紛争を解決するためだったと述べ、男児の父親は、子どもたちが結婚最低年齢に達してから結婚式を挙げようと両家で決めていたと語った。
このような児童結婚は「vani」として知られる慣習で、人権侵害と非難され、イスラム教徒の多いパキスタンでは禁止されている。パキスタンの結婚最低年齢は男性が18歳、女性は16歳となっている。【11月2日 AFP】
**********************

バングラデシュにしてもパキスタンにしても法律はあるようですが、全く機能していません。
風習とか伝統にはもちろん尊重すべきものは多々ありますが、基本的な人権を脅かすものはこれをあらためる勇断が望まれます。
また、こうした婚姻風習の背景には経済的な問題が存在していることも多いと推察されますので、単に“禁止”を唱えるだけではない施策が求められます。

【日本女性の社会的地位】
ところで、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」といった女性の話題のついでに、もうひとつ、こんな記事もありました。

****男女格差指数:日本は世界98位に後退 スイスの機関調査*****
ダボス会議で知られるスイスの民間研究機関・世界経済フォーラムは12日、世界130カ国の男女格差に関する指数を発表した。男女平等に最も近いのはノルウェーで、フィンランド、スウェーデンなどの北欧勢が続いた。日本は前年の91位から98位へと後退した。
ビジネスや政治で決定権を持つポストへの進出度や、教育機会の均等、平均寿命などについて、国連統計などを基に算出した。
日本は、教育や保健分野では格差が比較的少なかったが、経済や政治での女性の進出度がいずれも100位を下回った。アジアではフィリピンが6位で最高。中国は57位、韓国は108位だった。 【11月12日 毎日】
*******************

イエメンやパキスタンなどの婚姻風習にしても、日本の女性の社会的地位にしても、その社会にどっぷり浸かっている者には“ごく普通のこと”としてしかとらえられません。
しかし、いったん目を外に転じて他の国々と比較検討すれば、よくよく不思議な社会に自分達が生きていること、それを当然のこととして甘受していることに驚かされます。

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コンゴ  「反政府軍は強くて怖い。酔った政府軍はもっと恐ろしい。国連は何もしてくれない」

2008-11-13 18:38:56 | 国際情勢

(昨年07年9月、ゴマ近郊で撮影された難民家族 隣村が襲撃されたため逃げてきたそうです。現在の状況は更に逼迫しているように想像されます。“flickr”より By Julien Harneis
http://www.flickr.com/photos/julien_harneis/1318903794/)

【コンゴで続く混乱】
政府軍と反政府勢力との戦闘が激化し大勢の難民が発生しているアフリカ中部コンゴ(旧ザイール)東部(ルワンダが近い北キブ州)の状況については、10月31日ブログ「コンゴ 進攻する反政府軍と国連PKOが対峙 多数の難民 ルワンダは?」で取り上げましたが(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081031),このとき心配した反政府軍(ヌクンダ将軍率いる「人民防衛国民会議(CNDP)」)と国連が展開している最大のPKOである国連コンゴ監視団(MONUC)が直接に衝突するという最悪の事態は、今のところは避けられているようです。
ただ、危機的な状況が続いていることにはかわりありません。

なお、コンゴではヌクンダ将軍の反政府軍に隠れてあまり記事にはなっていませんが、スーダン国境が近い北部ドゥング方面では、ウガンダの反政府軍“神の抵抗軍(LRA)”による攻撃が9月以降激しくなっており、ドゥングでは全市民5万7千人が避難する事態となっています。

少年兵や少女の性的虐待といった問題で悪名高い“神の抵抗軍(LRA)”については、リーダーであるジョセフ・コニーに対する国際刑事裁判所(ICC)の人道の罪に関する告訴が足枷になる形で交渉がストップしていますが、そのあたりの経緯は7月13日ブログ「国際刑事裁判所の逮捕状 スーダン、ウガンダそしてアメリカ」に紹介しています。(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080713

話をヌクンダ将軍のCNDPに戻すと、7日にはケニアのナイロビで、関係国や国連による緊急首脳会合が開催され、参加した首脳らは人道支援のための通行路設置と即時停戦を呼びかけています。
この会合で、反政府勢力に対しは、すでに合意している武装解除を実行するよう要求。
更に、平和維持能力をより発揮できるよう、国連平和維持部隊の権限の強化を要請しています。

しかし、戦闘は収まっておらず、9日朝にも反政府勢力と政府支持派武装勢力“マイマイ”の間で約6時間にわたる戦闘が発生したことが報じられています。
この戦闘は国連コンゴ監視団(MONUC)の調停によって6時間ほどで終わったようです。

【難民キャンプではコレラ発生】
難民の生活環境は悪化しており、医療援助団体「国境なき医師団」によると、少なくとも100件のコレラの発生が報告されているそうです。

***コレラ流行・親とはぐれ子多数…コンゴ東部戦闘激化*****
反政府組織と政府軍の戦闘が激化するコンゴ東部の避難民キャンプは、人々であふれかえっていた。一度止まっていた戦闘も9日になって再開。逃げまどう人を乗せたトラックが、キャンプに向かう道で列をなす。雨期で衛生状態が悪く、キャンプではコレラの流行が始まっていた。

9日午後4時ごろ、東部の中心都市ゴマの北約5キロにある検問所に人と荷物を満載した大型トラックが4台到着した。ゴマの北80キロの村キワンジャから集団で避難してきた約100人の住民だった。
キワンジャでは5日から6日にかけて、コンゴ政府軍の元将軍ヌクンダ氏が率いる反政府組織「人民防衛国民会議(CNDP)」と、政府軍の支援を受けているとされる民兵組織「マイマイ」の激しい戦闘があり、少なくとも20人が死亡したという。
家族10人でやってきたジョスリンさん(19)は「戦闘は自宅の周りで起きた。CNDP兵に銃を突きつけられ、殺されると思った。20人どころか、200人は死んだと思う。近所の住民と一緒にトラックを借りた。どこに行ったらいいのか」と語った。
ゴマ周辺に1万7千人が駐留する国連平和維持部隊(MONUC)によると、キワンジャ近郊の町ルチュルなどでは9日にも、政府軍とCNDPの戦闘が起きた。 (中略)

一方、キャンプを警護する政府軍の規律の乱れが目立ち、避難民は安心し切れない。9日午後4時20分過ぎ、キャンプ内で銃声が響き、避難民が一斉に逃げ出した。約5分間の銃声がやんでみると、発砲したのは泥酔した政府軍兵士たちだったと判明した。被害はなかった。
ルチュルから来た避難民ベルナールさん(50)が「CNDPは強くて怖い。政府軍は酔って何をするか分からないから、もっと恐ろしい。国連は何もしてくれない」とまくし立てた。周りの避難民たちが一様にうなずいていた。 【11月11日 朝日 古谷祐伸】
*************************

【誰が住民を守るのか・・・】
「CNDPは強くて怖い。政府軍は酔って何をするか分からないから、もっと恐ろしい。国連は何もしてくれない」という言葉が実態を表現しています。
国連は、政府軍が民間人に対し略奪や性的暴行をはたらいているとし、コンゴ東部で「人道的ブラックホールが口を開いている」と警告しています。
地図を見ると、日本の6倍以上ある広大なコンゴですが、首都キンシャサは西の果てに位置し、紛争地北キブ州とはジャングル等で隔てられています。
政府のコントロールがきかない事情もわかるように思えます。

一方、反政府勢力CNDPの方も民間人殺害が問題になっています。

*****敵とみなされ襲われた村 内戦激化のコンゴ東部*****
反政府勢力と政府軍の戦闘が激化しているコンゴ東部で、一般住民が敵対勢力と決めつけられ、多数殺された可能性が出ている。国連は「戦争犯罪」として追及することも視野に調査中だが、住民らはすっかり、おびえきっている。
東部の中心都市ゴマから北へ80キロ。キワンジャ村のマブンゴ地区では、11日にも新たな遺体が見つかった。大勢の住民が5日、反政府組織、人民防衛国民会議(CNDP)の兵士らに殺された現場だ。

夫を殺されたトウィゼレさん(30)は自宅の片隅を指さして、泣いた。「隣人にも助けてもらって夫をここへ埋めた。離れた墓地まで、怖くて運べなかったの」
夫のヌタムハンガさん(35)は妻と3人の子をかばいながら、狭い自宅に隠れていた。正午過ぎ、木のドアをけって兵士3人が入ってきた。
「金をくれと言うので、夫は食費のために3日前に鉄板を売って手にした10ドル紙幣をポケットから出して渡した。それで大丈夫だと思った瞬間、夫は胸を撃たれ、部屋の隅まで吹き飛ばされた」

(中略)地区長ムビリンデさんは「最初は住民を巻き込むことはなかったが、5日朝になって、若い男性をマイマイ兵と決めつけて殺し始めた」と話す。
約5キロ離れた町ルチュルの丘の上に、CNDPは拠点を構えている。ナンバー2を名乗るヌゲベ氏が取材に応じ、「我々は私服で活動するマイマイ兵を見つけて殺しはしたが、民間人は殺していない」と答えた。
国連は犠牲者数を26人としているが、ムビリンデさんは「遺体を埋めていた赤十字のスタッフは、250人は死んだと言っていた」と言う。赤十字は取材に応じなかった。 【11月12日 朝日 古谷祐伸】
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犠牲をいとわず力で押し進む反政府軍、規律が乱れ略奪・暴行に走る政府軍、傍観するしかない国連・・・コンゴ住民の悲劇はしばらく続きそうです。
国連のPKO活動のあり方については、一般的な物言いは難しいですが、こうした具体的な現場の状況からすれば、難民保護という立場にたったもっと積極的な行為が求められるように思えます。
場合によっては、現地政府や反政府勢力と対立・衝突することがあっても。

カガメ・ルワンダ大統領の「(ルワンダでの国連PKO)UNAMIRは武装してここにいた。装甲車や戦車やありとあらゆる武器があった。その目の前で、人が殺されていた。私だったら、絶対にそんなことは許さない。そうした状況下では、わたしはどちらの側につくかを決める。たとえ、国連の指揮下にあったとしてもだ。わたしは人を守る側につく。」という言葉が重く感じられます。

蛇足ながら、コンゴのPKO活動は地元住民に対する暴行がかつて問題になったことがあります。
04年の虐待では、難民の10代の少女に対し、PKO兵士が卵や牛乳などと引き換えに売春を強要したり、ビデオ撮影などをしたと言われています。
今年8月にもMONUCのインドからの派遣団の一部(100人規模)が、地元の女性に対する性的虐待に関与している疑いが報じられ潘基文(バンギムン)国連事務総長を悩ませていました。




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フィリピン・ミンダナオ島  戦闘激化で引き裂かれる暮らし

2008-11-12 15:36:02 | 国際情勢

(ミンダナオ島の中心都市ダバオ 8月第3週に行われるお祭りKadayawan Sa Davao(季節の果物やランの花の収穫を祝うお祭り)を楽しむ少女 
アメリカではオバマ氏が“ひとつのアメリカ”を訴えて共感を得ましたが、世界中のあちこちでは争いで引き裂かれた暮らしばかりです。
“flickr”より By ED :-)
http://www.flickr.com/photos/belarminoed/2791419669/)

【約40万人の避難民】
一昨日のインドネシア、昨日のカンボジアの話題に続いて、今日はフィリピン。
フィリピン・ミンダナオ島のイスラム反政府勢力「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)とアロヨ政権との間の和平交渉の破綻については、8月23日ブログ「フィリピン ミンダナオ島 MILFとの和平交渉破綻 戦闘激化」で取り上げたところです。

一旦はMILFが拠点とするミンダナオ島にあるイスラム系住民の「ホームランド(先祖伝来の土地)」について、独自の治安維持、金融、行政事務、教育、法律などのシステムを認めるほか、天然資源の管理に完全な自治権を与えることなどが盛り込まれた合意の方向でアロヨ政権は動いていましたが、一部政治家らが「国の中にもう一つ国を作るようなものだ」、「憲法違反」だと反発、ミンダナオ島のキリスト教系住民も抗議デモを行う中、フィリピン最高裁が和平合意文書の調印を一時差し止める決定を下しました。
このため、8月21日、アロヨ大統領は和平合意を破棄することを発表しました。

これ以降、国軍とMILFとの戦闘が激化、8月以降、政府発表で一般住民を中心に91人が死亡、約40万人の避難民が出ています。
9月には、政府はMILFとの和平交渉団を解散。
アロヨ大統領は交渉再開の条件として、MILFの武装解除を求めていますが、MILF側は「軍事面のアプローチは交渉の最終段階の問題であり、(新交渉の枠組みとして)受け入れることはできない」として、現状では武装解除に応じないとの立場を崩していません。

MILFの内部も1枚岩ではないようで、国軍と特に激しくぶつかっているのは、それぞれ「カト」「ブラボー」という指揮官に率いられたふたつのMILF分派組織であると報じられています。
政府は、全面戦争を宣言した両指揮官に、残虐行為を行ったとして1000万ペソ(約2000万円)の懸賞金をかけ、行方を追っています。【10月31日 毎日】

【気がつくと冷たくなっていた・・・】
戦闘激化は住民に大きな犠牲を強いています。

****フィリピン:ミンダナオ島戦闘激化 物資届かず子供犠牲に****
 フィリピン政府とイスラム反政府組織「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)の和平交渉が決裂した、比南部ミンダナオ島。8月以降、激化した国軍とMILFの戦闘で、約38万人の住民が山間部の郷里の村を捨て、避難生活を強いられている。約4万人の避難民が流入した島西部のダトゥピアン町では、栄養失調や感染症で子供たちの命が失われている。町には援助物資も十分に届かず、飢えの危険も迫っている。

同島西部の中心都市コタバト市から車で1時間半。町へ向かう側道に入ると国軍の警備が急に厳重になった。
町は避難民であふれていた。「何もしてあげられなかった」。孫の3歳と1歳の兄弟を赤痢で亡くしたアユクダイさん(70)は、テントの前で声を押し殺すように話した。
国軍の空爆が迫ったため、9月初旬に息子一家と逃げてきた。間もなく、元気に走り回っていた3歳の兄はテントで横になる日が多くなり、弟も泣く回数が減った。
10日に1度配給される米を与えても、すぐに下痢をした。今月12日の夜、気がつくと兄が冷たくなっていた。ぼうぜんと夜明けを待つと、弟も後を追うように息を引き取った。
村への立ち入りを阻止する国軍に無理やり頼んで、2人の遺体を故郷の村に埋葬した。「孫のいる村に戻りたい」。アユクダイさんはそう繰り返す。(中略)
国軍は「危険」を理由に、町へ通じる道を通行止めにするため、国際機関からの援助の食糧や飲料水が十分に届かない。
地元の援助団体メンバーは「政府は、海外とつながりのある援助団体などを危険だとして町に立ち入らせない。
町の住民はイスラム教徒で、MILF側に物資が渡るのを恐れているからだ」と指摘する。 【10月28日 毎日 矢野純一】
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【「親友がわざと狙いを外しているように感じる」】
以前はイスラム教徒とキリスト教徒が共存し、普通に友人として暮らしていた村の生活も紛争で引き裂かれています。
上記同様、毎日・矢野純一のルポです。

****やまない銃声:比・ミンダナオ島の現場から/上 親友が「敵」の兵士に*****
「小学校時代の親友が率いるMILF小隊が、ここを攻撃してくる」。同島北コタバト州バリキ集落の代表、マリヨールカさん(51)はうつむきながら話した。
332家族が暮らすバリキ集落は、全員がカトリック教徒だ。まわりをぐるりとイスラム教徒の集落に囲まれている。親友は少年時代、隣の集落からバリキの小学校に通っていた。

親友が「敵」の兵士になっても、関係は変わらなかった。コメの収穫期には、親友が率いるMILFの下級兵士を農作業に雇うこともあった。「上官からの命令がない限り、攻撃はしないよ」。周辺を支配下に置く親友とは、互いの集落に立ち入るときは武器を持ち歩かないことも約束していた。

だが8月初旬、戦火は瞬く間に広がった。バリキ集落も3週間にわたって毎晩、MILFの砲撃を受けた。隣の集落との境界付近の5軒の家は、侵入してきた兵士に焼かれた。
住民の要望で、自衛のための民兵組織を作った。18歳以上の男性住民全員が武器を持ち交代で集落を守る。自動小銃などは軍や警察がくれた。自身も、家を出るときは拳銃を手放せない。
今も2、3日おきに交戦があるが、負傷者は一人も出ていない。「親友がわざと狙いを外しているように感じる」という。
 
イスラム教徒の集落は国軍の攻撃を受け、全員が避難している。マリヨールカさんは避難した住民に、バリキで一緒に暮らすよう呼びかける。
肥よくな土地のミンダナオには大規模な農園があり、豊富な地下資源が眠るといわれている。「我々の間には何も問題がなかった。戦闘は政治家の利権争いだ」。マリヨールカさんはつぶやいた。【11月11日 毎日】
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「親友がわざと狙いを外しているように感じる」というのは、感動的でもありますが、悲しすぎる現実です。

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カンボジア  魔除けのピンクのスカーフ

2008-11-11 14:43:01 | 国際情勢

(“flickr”より By gullevek http://www.flickr.com/photos/gullevek/156532134/)

【長引く国境紛争】
世界遺産登録されたクメール寺院プレアビヒア周辺の領有権を巡ってカンボジアとタイが対立している問題についてはこれまでも取り上げてきたところですが、お互いの国内事情、特にタイの場合はバンコクでの首相府占拠という反政府活動が収まっておらず、不用意な妥協は政府攻撃の火種になりかねないといった事情もあって、7月の問題発生以来、あまり進展してきませんでした。

カンボジアのフン・セン首相とタイのソムチャイ首相は10月24日、アジア欧州会議(ASEM)出席のため訪問中の北京で初めて会談し、双方はこれ以上の軍の衝突を避け、対話による平和的解決を目指すことで一致しました。
“会談で両首脳は、国連や国際司法裁判所などの第三者機関に仲介を依頼せず、2国間で協議を継続して解決策を模索することで合意。また、国境の係争地帯に展開する双方の軍に発砲しないよう指示する一方、両軍の幹部レベルによる会議を11月にも開催する方向で調整することでも一致した。”【10月24日 朝日】

そして、今月10日、両国政府代表による合同国境委員会がカンボジア・シエムレアプのホテルで始まっています。
合意が得られれば、明日12日にも両国外相が共同発表する予定と報じられています。
タイ政府筋によると、領有権については当面棚上げし、軍事衝突を当面回避するための打開策で合意する見通しだとのことですが。【11月10日 朝日】

そんななか、“魔除け”のスカーフや仏像を携帯するカンボジア兵士の様子が紹介された面白い記事がありました。

****タイ軍の近代兵器に魔除けグッズで対抗、カンボジア兵士****
世界遺産「プレアビヒア寺院」遺跡周辺の領有権をめぐるカンボジア、タイ両軍の対峙が銃撃戦へと発展して数週間が経つが、カンボジア軍の兵士たちは、「装備はタイ軍が勝るが、自分の身はピンク色の『魔法のスカーフ』が守ってくれる」と自信たっぷりだ。

「タイ軍は近代兵器を持っているが怖くない。お守りがあるから」と話すのは、頭に魔除けのスカーフを巻き、お守りの入ったベルトを締め、小さな仏像2体を携帯する28歳の兵士。「旧ポル・ポト派(クメールルージュ)の残党と数え切れないほどの戦闘をしたけれど、危険な目に遭ったことは一度もないよ」と魔除けの力に信頼を寄せる。
7月に国境沿いで始まったタイ軍とのにらみ合いでは、装備で圧倒的に優位に立つタイ軍に対し、カンボジア軍兵士らは自国の護身の風習にならって仏像を身に着け、魔除けの呪文を体に入れ墨した。カンボジア軍では司令官からも、仏僧がまじないをかけたという魔除けの印を描いたスカーフが配られた。

お守りや護符を持つ習慣や迷信は、世界中の兵士に共通して見られるものだが、1998年まで何十年も続いた内戦で戦闘に慣れきったカンボジア軍兵士たちが絶対的に信用するのは、護身の入れ墨と魔法のシンボルだ。タイ軍が野営する丘の下で待機していた別の兵士は「戦闘中、こうした魔法がぼくの命を救ってくれると100%信じている」と語った。

兵士たちと異なり、カンボジア政府には、自国領の防衛を魔法に頼ろうという意志はないようだ。国境をめぐる対立が続くなか、政府は国内の困窮状態にもかかわらず、次年度の軍事費を5億ドル(約500億円)へと倍増することを決定した。

それでも、10月の戦闘中に自分の司令官を亡くした38歳の兵士は、それ以来、いっそうお守りの力を信じるようになったと言う。「司令官も魔除けを持っていたが、仮眠を取ろうとしてそれを外したんだ。銃撃戦が突然始まったときには、魔除けを着けなおしている暇はなかった。だから、死んでしまったんだ」。

駐留するカンボジア軍兵士のため、これまで数え切れないほどの魔除けベルトを作った紛争地域内にある寺院の院長は、「お守りに弾除けの効果があるかどうかは分からない」と首を傾げる。
しかし、10月の戦闘中に、奇跡のようなことが起きたのは確かなようだ。院長は続けてこう言った。「(10月に)戦闘が始まったとき、わたしは僧たちの寝所にいたが、まるで脱穀するときのもみ殻のように寺院中を弾が飛び交っていた。それでもわたしたちのいた寝所には、一発も当たらなかった」。【11月10日 AFP】
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【御守りに懸けた願い】
“お守りや護符を持つ習慣や迷信は、世界中の兵士に共通して見られるもの”と記事にありますが、“お守り・魔除け・まじない”というものは、別に兵士に限らず人類文化に一般的な現象です。

いくら兵器で遅れているカンボジア軍兵士と言えども、お守り・魔除けさえあれば身を守れると考えている訳でもありません。
戦いにおいて、兵器の質・量、兵員数などが決定的に重要であることは彼らとて当然に認識しています。

しかし、戦場という生死を分かつ極限の場においては、どんなに装備を充実させても、どんなに用心しても、どんなに勇敢に戦っても、突然の死を避けることはできません。
そのとき、どうして隣にいた友人が死に、自分が生きているのか、あるいはその逆なのか・・・人間の力ではいかんともしがたいもの、それを偶然と呼ぶか、運命と呼ぶかはともかく、人間の力を越えたものに翻弄されていることを痛感します。

そうした無力感から人間を幾分でも救ってくれるのが、お守りであり魔除けなのでしょう。
古今東西の人類の生活のあそこそこで見られるお守り・魔除けもまた、そうした人間の力ではいかんともしがたいものへの人々のささやかな対応・願いであると言えます。

一日も早く、カンボジア兵士が魔除けのスカーフを手放せる日がくることを願います。

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