孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク戦争開戦から6周年、アフガニスタンでは?

2009-03-21 11:51:04 | 国際情勢

(バグダッドの治安は確かに改善しましたが、そのひとつの要因はシーア派とスンニ派の居住区を壁で分離して争いが起きないようにしたことにあります。
写真の子供達が遊ぶコンクリート壁がそうした壁でしょうか。
街を隔て、人々の心を隔てる壁が取り除かれてはじめて本当に平和が戻ったと言えるのですが、そのような日はまだ遠いようです。Bagdad 2009. Photo's: Chalaan Charif / RNW. “flickr”より By Radio Nederland Wereldomroep
http://www.flickr.com/photos/rnw/3349234588/in/set-72157608500246270/)

【イラク 開戦から6年で得た“平穏”】
治安情勢の改善が伝えられるイラクで“観光旅行”が復活したそうです。

****イラクで観光旅行が実現=開戦6年、「初めて」と当局者*****
イラク観光省当局者は19日、米軍による2003年のイラク開戦後初めてとされる公式の西側諸国からの観光旅行グループが同国を周遊していることを明らかにした。同当局者は「(観光旅行の実現は)治安状況の改善を示すものだ」と述べた。AFP通信が伝えた。
この旅行は英国の業者が企画したもので、英国人5人と米国人2人、カナダ人1人の計8人が参加しており、今月8日にバグダッド国際空港からイラク入りした。治安情勢は改善に向かっているものの、なお散発的なテロが起きており、グループには私服の武装警備要員が同行しているという。【3月20日 時事】 
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人目につきやすい外国人集団ですから、これに参加するのは相当の覚悟が必要です。

イラク戦争開戦から6周年を迎え、1日当たりの攻撃件数は190件から10件以下に減少したとのこと。【3月25日号 Newswek】
06~07年のシーア派対スンニ派の宗教対立によって泥沼化したときは全く出口が見えない状況でしたが、米軍の大規模増派、スンニ派の対アルカイダ戦への取り込み、シーア派の停戦などもあって、何事につけても変化はあるもののようです。
駐留米軍は戦闘部隊が6月末までに都市部から、10年8月までには3万5千人~5万人規模の訓練部隊を残してイラク全域から撤退の予定です。

6周年の20日は、イスラム教の休日で「金曜礼拝」が行われる金曜日に当たり、反米指導者サドル師の支持者らが駐留米軍の即時撤退を求める数千人規模のデモを行ったそうです。
デモはサドル師派の拠点であるバグダッドのサドルシティーや、南部バスラ、中部クートなどで行われています。【3月21日 共同】
しかし、そうしたサドル派のデモ以外は目立った抗議行動もなかったようです。
米軍側も特別の式典などは行っていません。
日常的な平穏さを取り戻しつつあるというところでしょうか。

もちろん未だテロは散発しています。
8日、バグダッドの警察学校で自爆テロがあり、28人が死亡、57人が負傷しています。
二日後の10日には、バグダッド西部の市場で、市場を視察していた部族指導者や治安当局者など要人を狙った自爆テロがあり、少なくとも33人が死亡、46人が負傷しています。
日本であれば年間のトップニュースになるような事件が、日常的に起きている状態には変わりないようです。

また、復興は進まず、生活に苦しむ多くの人々が存在しています。
仮に、復興が軌道に乗ったにしても、イラク全土・全国民に残した傷は計り知れないものがあります。
クルド自治区の問題も今後の火種になりそうです。
問題は山積していますが、それでもひと頃に比べれば出口が見えてきたように思えます。

【アフガニスタン “オバマのベトナム”の懸念】
一方で、オバマ政権がイラクから軸足を移しつつあるアフガニスタンは“オバマのベトナム”が懸念される状況です。

****米国:アフガニスタンの安定重視…対テロ新戦略*****
オバマ米政権はイラクから軍事的な軸足をアフガニスタンに移すが、その戦略見直しが大詰めを迎えている。既に1万7000人の米軍増派方針を示し、今月中に発表される新戦略には、アフガンの国力強化やパキスタン対策なども盛り込まれる見通しだ。「軍事力だけでは勝利できない」(大統領)との信念で、困難なテロとの戦いを進める。
新戦略は今後3~5年の中期計画になりそうだ。「(旧支配勢力)タリバンによる政権奪取と(国際テロ組織)アルカイダの聖域化を防ぐこと」(ゲーツ国防長官)が目標となる。

柱の一つがアフガン軍・警察の強化。米紙ニューヨーク・タイムズによると、現在の倍以上の40万人とする計画で、年間費用は、アフガン政府予算の約11億ドルの倍以上となる見込みだ。
アフガン政府主導でのタリバン穏健派との融和作戦も模索中。「タリバンの約7割は金のために戦闘に参加している」(バイデン副大統領)との分析を基に強硬派との分断も可能と踏んでいる。
だが、タリバン幹部の一人は「米国の対話とは、1人当たり数百ドル程度の現金をばらまいてタリバンを分断していこうというものだ」と語り、その試みは失敗するだろうと一笑に付す。

タリバン最高指導者オマル師は先月、パキスタン側の三つの武装勢力と「新同盟」関係を築き、対米共闘態勢に入ったとされる。タリバン側にはオバマ政権に対する強い警戒感がある。
タリバンやアルカイダの拠点は、アフガン国境沿いのパキスタン北西部の部族地域や南西部クエッタにある。このため米国は、パキスタン対策をも重視、同国に対し軍事支援のほか、非軍事支援を今後5年間で75億ドルと現在の3倍に増額し、テロ対策への協力を要請する見通しだ。

一方、オバマ大統領が20日、ビデオメッセージでイランに対話を呼びかけたのも、アフガン安定化を視野に入れ、隣国で影響力の強いイランを包括的対策に取り込もうとする思惑の一環とみられる。
31日のアフガン安定化国際会議(オランダ)に加え、米国務省は19日、上海協力機構(SCO)が27日にモスクワで開く同種の会議への高官派遣を発表。イランはSCO準加盟国で、ここでも対話の糸口を探るとみられる。 【3月20日 毎日】
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米軍増派・アフガン軍・警察の強化、タリバン穏健派との融和、パキスタン対策、イランの取り込み、記事にはありませんが経済復興支援も重要な柱です。
どの程度効果をあげうるものかは、なんともわかりません。

米軍増派ひとつとっても、イラクの14万人に対し、アフガニスタンは今回増派後も6万人。
今日も“南部カンダハル近郊で20日、爆発物による攻撃が2件連続して発生し、国際治安支援部隊(ISAF)の一員として同国に駐留するカナダ部隊の兵士4人とアフガン人通訳1人が死亡、少なくとも8人が負傷した。”【3月21日 時事】といったニュースが入っている状況で、欧州各国も増派には慎重姿勢です。

パキスタン情勢についても、北西辺境州部族支配地域でのパキスタン政府と武装勢力の停戦は、アフガニスタン情勢を悪化させることも懸念されています。
また、パキスタン国内での政情不安、反米感情の高まり、シャリフ氏の影響増大も不安材料です。

上記の包括的アフガニスタン戦略の柱のひとつとされる“警察の強化”については、日本もこれを財政支援する方針です。

****アフガン警察給与に120億円拠出=緒方特使、米代表に説明*****
アフガニスタン・パキスタン政策を調整する首相特使に任命された緒方貞子国際協力機構(JICA)理事長は9日、米国務省でアフガン・パキスタン担当のホルブルック特別代表らと会談した。緒方特使は席上、アフガン警察官の給与支給のため、日本政府が1億2400万ドル(約122億円)の拠出を決めたことを伝えた。
 記者会見した緒方特使によると、同特使は会談で、アフガンにおける日本の支援の実績や今後の方針を説明。今回の拠出が警察官8万人の半年分の給与に当たることなどを報告した。これに対しホルブルック特別代表は「素晴らしい支援だ」と高く評価したという。【3月10日 時事】
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06~07年当時、イラク情勢について、私を含め多くの人が悲観的でした。
イラクで起きたような治安改善がアフガニスタンでも可能なのか、それとも“ベトナム化”するのか。
私にはわかりませんが、前者の方向で進んでもらいたいものです。



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マダガスカル  クーデターまがいの政治混乱で、元DJ・34歳の若き大統領誕生

2009-03-20 14:29:21 | 国際情勢

(軍に警護されながら市中をパレードする若き指導者ラジョエリナ氏
“flickr”より By toiletgoose2002
http://www.flickr.com/photos/12067221@N04/3363701203/


【一番アフリカに近いアジアの国】
マダガスカルと言うと思い浮かぶのはバオバブの木、横っ飛びする猿などの不思議な動植物、米を主食とするアジア的な文化の国・・・そんなところです。

アジアとの関連で調べると、人種的にもアジア系で、子供には蒙古斑があるとか。
地質的にも、“ジュラ紀後期のゴンドワナ大陸分裂でアフリカ大陸から分離し、さらに白亜紀後期にインド亜大陸がマダガスカル島から分離した”【ウィキペディア】ということで、アフリカから早い段階で分離したようです。
国民意識のうえでもアフリカと一線を画する意識が強く、アフリカ連合には加盟していますが、アフリカ諸国との関係はかなり希薄であるとも。
“一番アフリカに近いアジアの国”という、元大使が書いた本もあるようです。

個人的には、バオバブの並木の写真とアジア的な要素に惹かれるものがあって、旅行できないものかと思ったりもするのですが、やはり遠いアフリカの国なのでなかなか行く機会がありません。

【軍の力による権限委譲】
そんなのどかなイメージのマダガスカルで反政府運動が起きて、治安当局による発砲で28人が死亡との記事を目にしたのが2月初旬でした。
ラベロマナナ大統領の退陣を求めての抗議デモ参加者への発砲で、1月下旬にも、首都アンタナナリボで野党指導者のラジョエリナ氏が呼び掛けたデモが一部暴徒化し、76人が死亡したとか。

正直なところ、「またアフリカで政治混乱か・・・」ぐらいの印象しかなかったのですが、混乱は拡大。
“野党指導者で首都アンタナナリボのラジョエリナ市長が呼びかけるデモは地方に拡大。軍は大統領派と反大統領派に分裂を始め、内戦も懸念される。”【3月16日 毎日】
“首都アンタナナリボのラジョエリナ市長(34)が呼びかけたラベロマナナ大統領(59)の退陣を求める野党支持者らの抗議行動は16日、軍が装甲車などで大統領府に突入した。”【3月17日 毎日】
と軍部を巻き込んだ状況に。

****マダガスカル:野党支持者騒乱が拡大 大統領府に装甲車****
発端は昨年12月、元DJのラジョエリナ氏運営の放送局がラチラカ前大統領のインタビューを放映し、それを理由に政府が放送局を閉鎖。再三の営業再開要請も認められず1月26日、野党支持者が国営放送局を占拠するなど暴徒化した。
同月末、ラジョエリナ氏は自らを「国家指導者」と宣言。大統領の即時辞任と暫定政権発足、2年以内の大統領選実施を訴えた。大統領は2月初めにラジョエリナ氏の免職処分を決定したが、混乱は収まらず、死者は100人以上に上っている。軍内部にも野党派が支持を広げ、大統領の命令系統は機能していない。
大統領は15日、国民投票実施を提案したが、ラジョエリナ氏は拒否し、ついに軍の大統領府突入に発展した。【3月17日 毎日】
***************

野党派の軍によって追い詰められたラベロマナナ大統領は17日、軍に権限を移譲。
権限を移譲された軍は、野党指導者ラジョエリナ氏にその権限を更に委譲。
ラジョエリナ氏は、野党派の軍部隊などと大統領府に入ったあと、市内を車でパレードするなどして大統領の退陣をアピールしています。

こうしたクーデターまがいの権力奪取に対し、“アフリカ連合(AU)は17日、「軍部がラジョエリナ氏に手を貸した事態は憲法に反する行動。AU加盟のルールにも抵触する」と非難。潘基文(バンギムン)国連事務総長も重大な懸念を表明した。”【3月18日 毎日】
もっとも、クーデターによる政権、軍部による強権政治の政権・・・そんなものは珍しくもなんともないアフリカの国々ではありますが。
権限を委譲されたラジョエリナ氏は憲法改正後、暫定政府を発足させ、2年以内に大統領選と議会選を実施するとしています。

【気になる若さ】
元ディスクジョッキーのラジョエリナ氏は、旧宗主国フランスのテレビ局に対し、「大統領と呼んでもらってかまわないよ」と語ったとか。【3月19日 AFP】
マダガスカルの憲法では大統領は40歳以上でないと就任できないことになっており、34歳のラジョエリナ氏は6年足りません。
前出AFPの記事では、“マダガスカル憲法裁判所は18日、野党指導者のアンドレイ・ラジョエリナ氏(34)を同国の新大統領として認定した。”とありますので、この年齢問題もクリアされたということでしょうか。

ラベロマナナ大統領の政治については、“2002年に政権に就いて以来、経済成長を維持してきたラベロマナナ大統領だが、国民の声に耳を傾けなくなり、貧困問題に取り組まなかったとの批判が出ている。”【2月9日 ロイター】とあるぐらいで、どういった政治だったのか全くわかりません。
権限を掌握した元DJのラジョエリナ・首都アンタナナリボ市長(34歳)がどいう人物なのかも全くわかりません。

恐らくよくある権力争いのひとつなのでしょうが、目を引いたのは、憲法も想定していないラジョエリナ氏の若さというか“軽さ”というか・・・従来の“クーデター”とは少し異なる印象があります。
ラジョエリナ氏の所属政党は「決意したマダガスカルの青年」という組織だそうで、その名称からすると、現状に不満を持つ若年層の支持を受けて頭角を現した人物でしょうか。
彼を支持した野党系軍部というのも“青年将校の決起”のようなものでしょうか。

冒頭のアジアとの関連云々にもつながりますが、写真で見るラジョエリナ氏の風貌はアフリカ的というより、東洋的な雰囲気があります。
元DJだからどうこうということもありませんが、紹介されている写真の多くが、ピースサインや投げキスをしているような場面で、周囲を警護するいかめしい軍隊やラフな服装の大勢の民衆とは全く異なる洒落たスタイルであることなどもあって、「この人大丈夫かね・・・?」という頼りなさ・線の細さも感じます。

今は軍は銃口を彼の警護に向けていますが、いつその銃口が彼自身に向けられるか・・・。

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パレスチナ  和平進展を阻む“拉致問題”

2009-03-19 22:10:50 | 国際情勢

(イスラエル・テルアビブの大学でのデモで掲げられた拉致兵士シャリット伍長
“flickr”より By Lilachd
http://www.flickr.com/photos/lilachdan/3152777571/)

【解放交渉 不調に終わる】
パレスチナ和平の実現のためには、イスラエルの生存権の承認、テロ行為の放棄、東エルサレムの帰属、違法入植地・分離壁問題、パレスチナ難民の帰還などの問題が、またさしあたりのガザ地区の現状改善のためには、経済封鎖解除、本格的停戦の実現・・・等々、様々なレベル・段階の問題が山積していますが、直近のハードルとなっている問題に06年にハマス等によって拉致されたイスラエル兵士ギラド・シャリット伍長の問題があります。

イスラエルはギラド・シャリット伍長の解放を経済封鎖解除や本格停戦の前提としていますが、イスラエルのオルメルト暫定首相は17日夜、国民向けのテレビ演説で、この解放交渉が不調に終わったと発表しました。

****イスラエル兵の解放交渉不調 ハマスが3年前拉致****
イスラエルは、ガザの境界検問所封鎖の解除や本格停戦に応じる前提として、ハマスに兵士の解放を求めていた。イスラエルでは2月の総選挙の結果を受け、パレスチナに強硬姿勢をとる右派を中心とした政権が近く発足する見通し。交渉は一層の難航が予想され、ガザ復興に向けた動きが停滞するのは必至だ。

ハマスは06年6月、他の武装勢力とともにガザからイスラエル側に越境して兵士を拉致。解放の条件として、イスラエル人殺害にかかわった罪などでイスラエルが長期収監している450人をはじめ、計千人以上のパレスチナ人の釈放を求めていた。イスラエルは自爆テロなどに関与したとされるハマス軍事部門の幹部ら約130人の釈放を拒否し、ハマスも譲らなかった。
オルメルト氏は「残念ながら我々は残忍で冷酷な組織と衝突した」とハマスを非難。一方、ハマスも「交渉不成立の責任はイスラエル側にある」とする声明を出した。【3月18日 朝日】
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【対立を望む勢力】
このイスラエル兵拉致事件は、当時のハマス内閣が「イスラエル生存権の間接的承認」に向かっている状況で、こうした融和の動きを歓迎しないハマス軍事部門・強硬派が事態を緊張させる協議妨害工作として強行した事件とも言われています。

****イスラエル兵拉致される、ハマス軍事部門が暴走?****
イスラエル軍が25日、南部ケレムシャローム付近で軍拠点を襲撃したパレスチナ武装勢力と交戦し、軍兵士2人を含む5人が死亡した戦闘で、イスラエル兵(19)が武装勢力に拉致された。
武装勢力には内閣を率いるイスラム原理主義組織ハマスの軍事部門も加わっており、ハマス内閣は批判にさらされると同時に、内閣と軍事部門とのハマス内部の対立も露呈した。

25日の襲撃は、ハマス内閣の関係者には知らされていなかった模様だ。シャエル副首相はヨルダン川西岸のラマッラで記者会見し、「我々は拉致について何も聞かされていない。兵士は即時解放されるべきだ」と述べ、ハマス軍事部門を暗に非難した。
一方、軍事部門「カッサム隊」の報道担当者は、地元通信社に対し、「我々はイスラエルのどこででも軍事行動を行えることを証明した。拉致について情報は明かせない」と述べ、解放要求を拒否した。

襲撃前日の24日夜、ハニヤ首相はアッバス議長と会談し、パレスチナ各派の合意文書として「対イスラエル攻撃は、ヨルダン川西岸とガザ地区のイスラエル占領地に限定する」という文言を盛り込むことを検討していた。襲撃は、ハマス軍事部門が協議を無視する形で行ったもので、首相の指導力の低下を印象付けた。
当地ではハニヤ首相が、アッバス議長が求める「イスラエル生存権の間接的承認」に傾いているとの見方が強まっており、襲撃は、生存権承認に強く反対するハマス政治部門最高指導者メシャル氏(シリアに亡命中)ら強硬派が協議妨害を狙った可能性もある。

AP通信によると、25日の襲撃を行ったハマスなどの三つの武装組織は26日、共同声明を出し、兵士の消息を明かす条件として、イスラエルがテロ関与容疑などで収監しているパレスチナ人女性や18歳未満の若者の釈放を要求した。
アッバス議長は25日夜、ハニヤ首相と会談し、兵士解放を要求。一方、イスラエルのオルメルト首相は26日、エルサレムで演説し、ガザ地区の武装勢力に対する本格的な掃討作戦に向け、国軍に準備態勢を整えるよう指示したと明らかにした。【06年6月26日 読売】
*********************

結局、イスラエル軍はヨルダン川西岸地区のラマラなどで、シャエル副首相らハマス系の閣僚と議員ら少なくとも計20人を拘束、拉致兵士救出のためとしてガザ地区への大規模な軍事侵攻を行うことになり、多大の犠牲者を出しています。
和解の動きは粉砕され、ハマス強硬派の描いたシナリオどおりになったとも言えます。
しかし拉致兵士救出は果たせず、その後この拉致事件はイスラエルにとって懸案事項となっています。

“もしこの事件がなければ、当時のハマス内閣がイスラエル生存権を間接的にも承認し、パレスチナ問題は今とは異なる展開を示したかも・・・”とも思われますが、そうした“もし”は無意味であり、また、この事件がなくても別の妨害工作がなされたであろう・・・とも思慮されます。

ハマス側にも、イスラエル側にも、対立・緊張関係にあってこそその存在意義を主張できる勢力があり、そうした勢力は和平の動きを認めようとしない、そのことがパレスチナ和平が進まない背景にあるように思えます。

【拉致兵士の安否】
ハマスは、シャリット伍長の生存を証明するために、07年6月25日に本人の音声メッセージを発表、08年6月には、ハマスの最高指導者ハレド・メシャール氏とカーター元米大統領が4月に結んだ約束に基づき、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区のラマラにある財団「カーター・センター」の事務所に手書きの手紙が届けられ、両親に渡されています。

ハマスの最高指導者メシャル氏はシャリット伍長が戦争捕虜として人道的に扱われているとしたうえで、国際社会がシャリット伍長の安否に関心を寄せながら、イスラエル国内のパレスチナ人被拘束者の状況を無視していると指摘しています。
それも、もっともな言い分ではありますが・・・。

なお、シャリット伍長の両親は解放の早期実現を求め、今月8日、オルメルト首相邸の前にテントを設営して座り込みを始めたそうです。夫妻はオルメルト首相が退任するまでの間、テントでの生活を続けると表明しており、「(オルメルト首相が)任期中に問題を解決し、息子を連れ戻してくれるよう求める」と語っています。【3月9日 CNN】


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中国  8%成長目標を掲げる中国経済

2009-03-18 20:31:24 | 世相

(膨大な農民工が故郷に帰る春節が近づく広州駅 列をなす人ごみのなかで疲れ、母親に抱かれて眠る子供 “flickr”より By dongdawei
http://www.flickr.com/photos/dongdawei/3177001774/in/set-72157609966819884/)

今更ながらのことではありますが、世界銀行は9日までに発表した調査報告で、国際的な金融・経済危機により、09年の世界経済が戦後初めてマイナス成長に陥るとの、また、世界の貿易量は過去80年で最大の落ち込みになるとの予想を明らかにしています。
米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長も10日、「世界は1930年代以降では最悪の金融危機に直面している」と危機感を表明しています。

日本のように輸出のウェイトが高い経済の場合、長期的な経済構造変革の問題はさておき、とりあえずの景気動向については、日本の主たる貿易相手国であるという意味でも、また、世界経済に及ぼす影響という意味でも、世界最大の最終消費市場であるアメリカと世界の工場としての中国の経済動向が大きく影響してきます。

前出のFRB・バーナンキ議長は15日のテレビインタビューで、アメリカの経済危機について、不良資産買い取りや大手金融機関への追加資本注入などの早期実行により「恐らく今年中に景気後退は終わるだろう」と述べ、年内の米景気後退脱却は可能だとの認識を示したそうです。【3月16日 毎日】
ただ、これは予測というより期待あるいは意図的なアナウンスメントのようにも思えます。
なお、住宅市場については、2月の米住宅着工および建築許可件数(季節調整済み)が、前月の50年ぶりの低水準から一転して大幅なプラスとなっています。

アメリカ経済が不透明な先行きを示すなか、中国経済に対する期待が一部にあります。

****世界経済危機、中国が脱出に導く可能性=国連アドバイザー****
国連の潘基文事務総長の特別顧問を務めるジェフリー・サックス氏は、中国が潤沢な外貨準備と堅調な貿易黒字、世界中での巨額の投資を生かし、世界的な経済危機からの脱出を先導する可能性があると述べた。
中国は、欧米の経済不振を受けて輸出セクターに工場閉鎖や人員削減といった影響が出ているが、欧米各国と比較するとまだ景気悪化の影響をしのいでいる。
11日発表された中国の経済指標では、世界的な金融危機の影響で2月の輸出が大幅に減ったものの、1─2月の都市部固定資産投資は政府の景気刺激策が奏功し力強い伸びを見せた。
同国の外貨準備高は総額約2兆ドル。また当局によると、2008年末時点での経常黒字は前年比20%増の4400億ドルだった。

サックス氏は「中国には米国や欧州ほど大きなバブルがなかった。また、中国には潤沢な外貨準備や貿易黒字、多くの投資があり、いち早い経済回復に必要なものがそろっている」と指摘。その上で「中国が年内に(経済危機からの脱出に)成功すれば、それが他国の経済にも波及するだろう」と述べた。【3月12日 ロイター】
****************

中国経済の先行きについては、強気の見方、悲観的な見方、様々のようです。
一番強気なのが中国当局。
中国は全国人民代表大会(全人代=国会)で13日、経済成長率の目標「8%程度」を承認しました。

“先進国が軒並みマイナス成長となる中、突出したプラス成長を維持することで、国際社会における自らの発言力を強めたいとの思惑が透けて見える。8%成長の実現は容易でないにせよ、数%でも成長できれば、「金融危機から抜け出せずにいる米国など先進国に中国の存在を強く印象付ける好機になる」(中国の学識経験者)というのだ。”【3月14日 産経】といった見方もあります。

ただ、そうした思惑以上に、経済成長減速により深刻な雇用問題がこれ以上拡大すると社会不安を増長し、体制の危機に直結するという危機感が“8%成長目標”に現れているように思えます。
そうした中国経済の問題点・不安定さを指摘するのは下記のような見方です。

****中国「8%成長」目標承認 足元揺るがす「雇用」 失業率9・6%、消費も低調****
中国は全国人民代表大会(全人代=国会)で13日、経済成長率の目標「8%程度」を承認したが、その実現に欠かせない雇用の安定化や民間消費が足元で揺れている。なかでも雇用問題は深刻で、同日記者会見した温家宝首相は「直面する重大な問題だ」と危機感をあらわにした。
雇用問題に温首相が力を入れるのは、1989年の天安門事件から20年を迎えるなど治的に敏感な問題が相次ぐ今年、民衆の不満が募れば社会不安が一気に高まるとの強い懸念からだ。

温首相は今回の全人代で最優先課題として、高成長維持とともに「社会の調和と安定の維持」を指摘している。農民工(出稼ぎ労働者)だけで約2500万人が職を失った。都市部の実質的な失業率は昨年「9・6%」(中国社会科学院)とされ、今年は2けた台に乗る可能性が大きい。
これに加え、610万人の新規大卒者と、2007年、08年に卒業したものの就職できなかった250万人の計860万人のうち、「500万人が就職困難に陥っている」(政治協商会議委員)という衝撃的な実態も明らかになっている。
これら雇用問題を「(これまでよりも)百倍重視する」と温首相は会見で強調したが、裏を返せば、安定維持のために思想や反体制言動への統制を強める方針だ。「社会安定維持(に向けた)早期警報メカニズムを完全なものにする」と全人代で温首相は明言した。

8%成長の行方を左右する消費関連の経済指標も心もとない。国家統計局が13日までに発表した社会消費品小売り総額(小売り売上高)が今年1~2月累計で15・2%増と、前年実績21・6%を6・4ポイントも下回った。
2月の中国の消費者物価指数(CPI)も前年同月比で1・6%減と、6年2カ月ぶりにマイナスに転落。消費拡大への足かせとなる「デフレ懸念」が急浮上している。
中国のCPIは、豚肉など食品価格の高騰を背景に昨年2月に8・7%とピークをつけてインフレ過熱が社会問題になった。その後は原油価格の下落で下降し1月は1・0%だった。

全人代で確認された総額4兆元(約58兆円)の景気対策や中国人民銀行(中央銀行)による昨年9月からの5回の利下げなど金融措置も講じられたが、雇用や消費で効果は表れていない。【3月14日 産経】
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世界銀行は18日、中国経済に関する四半期見通し報告を発表し、09年の中国の国内総生産(GDP)伸び率を前年比6.5%と予想、昨年11月時点(7.5%)から1ポイント下方修正しています。
このなかで、輸出の低迷、雇用の伸び鈍化、デフレリスクなどをあげています。
ついこの間までは、インフレで中国経済は危機的な状況にあるという論調が多くありましたが、今度はデフレリスクとのことです。

上記産経記事のような中国経済の問題点を指摘するものは多数ありますが、明るい見通しが全くない日本経済に比べると、中国経済については若干明るい話題・政策の効果を指摘するものもあります。

****中国都市部の固定資産投資、1-2月は26.5%増****
中国国家統計局が11日発表した今年1-2月の都市部の固定資産投資(設備投資と建設投資の合計)は前年同期に比べ26.5%増となった。増加率は前年同期の24.3%増をやや上回った。
中国政府は昨年11月、世界的な金融危機を受けて2010年までの総投資額が4兆元(約57兆円)に上る大規模な景気刺激策を発表している。1-2月の固定資産投資の増加は、この巨額投資の効果が表れ始めていることを示している。国家統計局では、この2カ月間に中央政府の出資による投資が40.3%増加したとしている。【3月11日 時事】
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****中国:新車販売、80万台を回復 2カ月連続、米超え最大市場*****
中国工業・情報化省は10日、2月の国内の新車販売台数が80万台を超えたと発表した。中国は米国の2月の販売台数(68万9000台)を2カ月連続で上回り、世界最大の自動車市場となった。
2月は自動車の生産台数も85万台を上回り、販売、生産とも昨年6月以来、8カ月ぶりに80万台の水準を回復した。李毅中工業・情報化相は10日、政府が自動車産業支援策として、1月から排気量1600CC以下の小型車の取得税を引き下げた効果が表れたとの見方を示した。【3月11日 毎日】
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****中国:1人当たりGDP3千ドル超 発展の節目に到達 *****
中国国家統計局の李徳水元局長は6日記者会見し、中国の昨年の1人当たり国内総生産(GDP)が3000ドルを超えたことを明らかにした。3000ドルは経済発展の一つの節目で、突破すると消費の活発化が起こりやすいとされる。(中略)
新華社電によると、中国の1人当たりGDPは、03年に1000ドルを超え、06年に2000ドルを突破した。経済が発達した上海市や広東省深セン市では、すでに1人当たりGDPが1万ドルを超えている一方で、農村部を中心に低所得者も多く、貧富縮小が課題だ。【3月6日 毎日】
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12日発表された日本の昨年10~12月期の実質国内総生産(GDP)改定値は、率換算で前期比12.1%減の大幅減でした。
大幅なマイナス成長となった先進国のなかでも、日本の落ち込みが突出しています。
中国経済の底が割れると、日本経済は更に困難な状況に陥ります。


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イラン  ハタミ前大統領が大統領選挙出馬を辞退、ムサビ氏支持

2009-03-17 21:10:51 | 国際情勢

(2005年イラン大統領選挙での改革派支持者 ハタミ前大統領の写真を掲げていますが、この選挙にはハタミ前大統領は三選禁止で出馬しておらず、改革派からはモイーン氏が出ました。そして第1回投票で5位という惨敗に終わりました。この選挙で、テヘラン市長にあったアフマディネジャドが有力候補ラフサンジャニ前大統領を抑えて大統領の座を得ました。最近のオバマ大統領の巻き起こしたブームにも似たものがあります。
“flickr”より By Mostafa Saeednejad
http://www.flickr.com/photos/mostafa/19389525/)

【改革派ながら、体制内に足場を築く数少ない政治家】
これまでも何回か取り上げてきた6月に行われるイラン大統領選挙の話題。
2月9日ブログ「イラン ハタミ前大統領、大統領選挙へ名乗り 高いハードル」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090209)では、現職アフマディネジャド大統領と出馬を表明したハタミ前大統領の保革一騎打ちの流れなどにも言及しましたが、ここにきてハタミ前大統領が出馬を辞退して、代わりに改革派をムサビ氏で一本化する方向に動いています。

****イラン大統領選:ムサビ氏「台風の目」に 現職批判票集め****
6月のイラン大統領選に向け、出馬を断念した改革派のハタミ前大統領が同じ改革派のムサビ氏への全面支持を表明したことで、ムサビ氏が「台風の目」になる可能性が出てきた。
ムサビ氏は、保守強硬派のアフマディネジャド大統領と同様に「イスラム革命(79年)原理への回帰」を訴えており、保守派支持層内の大統領批判票を大量に取り込む可能性があるからだ。圧倒的優位と見られていた現職への有力対抗馬として急浮上しそうだ。

ムサビ氏は、現在の最高指導者ハメネイ師が大統領を務めた81~89年、大統領を補佐する首相を務めた。イラン・イラク戦争(80~88年)中の厳しい経済状況を「統制経済」で乗り切った。現在も最高評議会委員を務め、改革派ながら、体制内に足場を築く数少ない政治家の一人だ。
ハタミ前大統領時代には大統領最高顧問を務め、ハタミ氏とも緊密な関係にある。
また、出馬声明で「真のイスラムの教えや価値観、(革命指導者)ホメイニ師の思想に基づく社会を実現させる」と強調するなど、「保守派からも文句の出ない人物」として、アフマディネジャド大統領の出身母体である革命防衛隊や、情報省などにも根強い支持層があるという。

経済政策では「(原油など)少ない資源を短期的な利益や政治的に価値のない目的のために浪費してはいけない」と述べ、原油収入に依存するバラマキ政策を続けた現政権を暗に批判した。
アフマディネジャド政権が05年に発足して以来、インフレが加速。ムサビ氏は「(大統領は)革命思想から生まれた被抑圧者(庶民)の思いを理解していない」とも喝破した。
改革派系有力紙エテマドのマスメ・ストゥデ記者は「ムサビ氏は本当は改革派とも保守派とも呼べない立場だだけに、両方の支持を糾合する可能性を秘める」と指摘する。

ただ、ムサビ氏はハタミ氏に比べ知名度では劣る。演説内容も難解で、アフマディネジャド大統領に比べ庶民へのアピール力にも欠ける。これらを補う形でハタミ氏が国民への露出を高め、改革派が候補のムサビ氏一本化に成功すれば、勝機が生まれると見られる。 【3月17日 毎日】
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【“ポピュリスト”アフマディネジャドを越えられるか】
改革派からは、カルビ元国会議長も出馬を表明しており、一本化のためにはまだ調整が必要です。
ハタミ前大統領はもともと自らの出馬には消極的で、同じ対外融和路線のムサビ氏を推していました。
両者は今年初め候補一本化協議を行いましたがムサビ氏の決断が遅れたため、ハタミ前大統領が2月に見切り発車で出馬表明に踏み切った経緯があるようです。
ハタミ前大統領はムサビ氏が当選した場合、政権に影響力を確保して自らの政策や信条を反映させたい意向とも報じられています。また、2月9日ブログで取り上げたように、“アフマディネジャド大統領が三選禁止で出馬できない次の次を狙っている”といった声もあるようです。

上記記事で、ムサビ氏について、「演説内容も難解で、アフマディネジャド大統領に比べ庶民へのアピール力にも欠ける。これらを補う形でハタミ氏が国民への露出を高め・・・」とありますが、演説内容が難解で庶民へのアピール力が欠けるのはハタミ前大統領も同じです。
これからどのように国民の広い支持を集めていけるかが課題です。
逆に言えば、“ポピュリズム”とも“バラマキ政策”とも批判されるアフマディネジャド大統領ですが、庶民層での人気は高く、そのアピール力は大きいということでもあります。

記事での紹介を読む限り、単に対外融和路線の改革派というだけでなく、最高指導者ハメネイ師との繋がり、保守派内での一定の支持もあるとのことですから、保守派・改革派の対立をまとめていくには適任のようにも思えます。

なお、「現在も最高評議会委員を務め、改革派ながら、体制内に足場を築く数少ない政治家の一人」とありますが、“最高評議会”は“公益判別会議”とも呼ばれており、構成員は最高指導者の任命によります。
公益判別会議の目的は、議会と監督者評議会のあいだで相違や不一致が生じた場合にこれを解決すること、また最高指導者に対する諮問会議として機能することだそうです。

仮にハタミ前大統領が大統領選挙戦で勝利できても、監督者評議会などの保守派勢力との対立で身動きできない状況になるであろうことが想像されていただけに、“改革派ながら体制内に足場を築く数少ない政治家の一人”というのは大きなポイントに思われます。

【選挙でも“変化”がイメージできない日本】
遠い国イランの大統領選挙なんてどうでもいいようなことではありますが、強烈な個性でイランを引っ張るアフマディネジャド大統領が続投するのか、対外融和的な新大統領に交代するのか・・・・イラン国民にとってだけでなく、イランが大きな影響力を持ちつつあるイラク・アフガニスタン・パレスチナの情勢、とりわけアメリカとの緊張関係に大きく影響してきます。

それに比べ、日本の総選挙でどの政党が勝利するのか、誰が首相になるのか・・・ということは、もちろん個人的好みも関心もありますが、“どうなっても、そんなに変わりばえしないだろうな・・・”という感も正直なところあります。
それは、ある意味では日本社会・政治の“成熟度”を表すものでもあるでしょうし、どうしても排除すべき特定政治家・団体も存在しないということでもあるでしょう。
そうは言いつつも、自国の政局よりも、遠い国イランの政局の方に目が向いてしまうというのは、寂しいというか、何か問題があるようにも思えます。


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“理想論に終わらない現実主義的な核軍縮論”“戦略論としての核軍縮”

2009-03-16 20:36:40 | 国際情勢

(長崎に投下された原爆 “flickr”より By schriste
http://www.flickr.com/photos/schriste/2048054498/)

川口順子元外相らが共同議長を務める「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」が、核廃絶へ向けた勧告を行っています。

****国際委、米に「先制不使用」勧告 核廃絶へ3段階*****
ペリー元米国防長官など日米欧豪の政治家らでつくる「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(共同議長・川口順子元外相ら)が核兵器の廃絶への道筋を示すために策定している報告書案の概要が15日、分かった。オバマ米大統領が核の「先制不使用」政策の採用を検討すると宣言し核軍縮を先導するよう勧告、3段階で核を全廃する。諮問委員の阿部信泰元国連事務次長ら関係者が明らかにした。【3月15日 共同】
***********************

唯一の被爆国として核廃絶を国是とする日本国民としては大いに関心を払うべき問題ですが、その現実性を考えると、正直なところどうしても「そうは言ってもね・・・」といった反応になってしまいます。
しかし、最近世の中の流れがやや変わってきつつあるとも言われています。

****From:ジュネーブ 核軍縮へ高まる機運*****
6日にジュネーブで行われたオバマ米政権発足後初の米露外相会談で、クリントン米国務長官は、小さな箱に入った「リセットボタン」をラブロフ露外相に贈った。(中略)
今回の外相会談では、今年末に失効する第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約を年内にまとめるという目標が合意された。米露関係改善へ向けた一里塚となる合意であり、ジュネーブ駐在の各国の軍縮担当官たちは「前向きな動きだ」と歓迎している。

米露合意がとりわけ歓迎されるのは、ここ数年、核軍縮が現実的課題として認識されるようになってきたからだ。ジュネーブの国連軍縮室当局者は「核廃絶はこれまで『平和ボケ』の主張と考えられてきたが、流れが変わってきた。安全保障分野の専門家が、真剣に核軍縮や核廃絶の必要性を語り出した」と話す。軍縮担当の外交官や赤十字国際委員会(ICRC)関係者も「戦略論としての核軍縮が語られるようになってきた。これから大きな動きがあるかもしれない」と口をそろえる。

だが、期待の背景にあるのは、オバマ米大統領が「核兵器のない世界」を究極的目標に掲げたというような明るい話だけではない。むしろ、インドやパキスタンだけでなく、北朝鮮までもが核実験に踏み切り、イランも核開発が疑われるというように核兵器が拡散していることへの懸念と、テロ組織が核兵器を手にしてしまうことへの恐怖の方が、大きな要因だ。
核戦略論の専門家である軍縮・不拡散促進センター(東京)の戸崎洋史主任研究員は「核拡散や核テロは、米国にとって現実的な脅威だ。だから米国は、やる気になっている」と指摘する。
もちろん、簡単な話ではない。クリントン長官が用意した「リセットボタン」は、表面に刻んだロシア語が誤訳で「過積載」という意味の単語になってしまっていた。会談では長官が「私の間違い」と謝罪して笑い飛ばしたが、笑い話には終わらないかもしれない。米露の核軍縮交渉も、実際には課題山積で難航必至なのだ。

それでも、核テロの脅威を封じ込め、イランや北朝鮮に核開発の口実を与えないためには、米露をはじめとする核保有国による核軍縮交渉の進展が必要だ。そうした考えが、理想論に終わらない現実主義的な核軍縮論として説得力を持ち始めている。【3月16日 毎日】
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第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約については、クリントン米国務長官から両国関係の「リセット」を提案されたロシアのラブロフ外相も7日、「ロシアにもその用意がある」、「法的拘束力のある2国間の新しい条約締結が最優先のステップとなる」と表明しています。

“ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の08年1月現在の推計では、核弾頭の実戦配備数は米国が約4100発、ロシアは約5200発とみられる。6日の会談では、具体的な削減目標数は明らかにされなかったが、クリントン長官はこの分野で「世界をリードする」と言明しており、核弾頭の大幅な削減も現実味を帯びてきた。
4月にロンドンで予定されるオバマ大統領とメドベージェフ露大統領による会談では、一気に1000発レベルまで削減を目指すことで合意するとの観測も出ている。”【3月7日 読売】

核軍縮自体には米ロとも乗り気ですので、東欧へのミサイル防衛(MD)配備や、ウクライナとグルジアの北大西洋条約機構(NATO)加盟などで米ロ関係がこじれない限り、何らかの新しい枠組みが作られるのではないかと推測されます。

4000~5000発が1000発レベルに大幅削減されれば、核軍縮の大きな進展でしょう。
「核の脅威という点において、5000発と1000発にどれだけの差があるのか?」と水を差したい気持ちもなくはないですが、まあ、素直に評価すべきものでしょう。

“核テロの脅威を封じ込め、イランや北朝鮮に核開発の口実を与えないための、米露をはじめとする核保有国による核軍縮交渉の進展”というのも、要は現在の核保有国クラブの既得権益を維持しようとするものですが、まあ、これも核拡散がなし崩しに進む状況よりはましでしょう・・・多分。
核拡散が進めば、米ロが今のような大きなパワーを行使することは難しくなりますので、そのような方向を望む考えもあるでしょうが(日本国内の核武装論を含め)、同時に核テロや核戦争のリスクが今より現実性を帯びてきます。

「戦略論としての核軍縮」「現実主義的な核軍縮論」・・・実際どのように機能するのでしょうか。

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スーダンとパキスタン  広がる混乱 “どうするつもりなのか?”

2009-03-15 21:34:33 | 国際情勢

(スーダンのバシル大統領 写真は07年のものですが、逮捕状が出された最近はますます意気軒昂な姿を国民に見せているようです。内心まではわかりませんが。
“flickr”より By RFT
http://www.flickr.com/photos/rft/351655519/)

【命綱を絶たれるダルフール住民】
「史上最悪の人道危機」と呼ばれるスーダン・西部ダルフール地方におけるアラブ系民兵による黒人住民の虐殺等にスーダン政府が加担しているとして、国際刑事裁判所(ICC)がスーダンのバシル大統領に対する逮捕状を発行した件については、3月6日ブログ「ICC、バシル大統領への逮捕状発行 スーダン、人道支援NGO追放で報復」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090306)でも取り上げました。

逮捕状発行に反発するバシル大統領側は、国境なき医師団、オックスファム、セーブ・ザ・チルドレン、ケア・インターナショナルなど計13団体の人道支援NGOを追放したことも上記で取り上げています。
これらNGOは国連と協力して、避難民ら約470万人に対する食料や水、医療品の援助を担っており、その援助対象者は13団体で計6500人に上り、援助要員全体の約4割を占めることから、支援活動に致命的な影響があると報じられていました。【3月6日 朝日】

今日のTVでそのスーダンの様子が報じられていました。
バシル大統領はICCによる逮捕状を外国勢力による不当な圧力と国民に訴え、国民の大統領支持は高まっているとのことです。
もちろん、マスコミ管理を含め、強権国家ですから国民の本音は知りにくいところはありますが、今回の措置がナショナリズムに火をつけ、大統領支持・欧米批判につながりやすいことは想像できます。
大統領は“中国の支援があるから大丈夫だ”とも語っていました。

中国の対応はともかく、気になるのは、アラブ・アフリカ諸国も今回のICC逮捕状に批判的なことです。
ダルフールの人道的な問題が、「新植民地主義」批判という根深い欧米対アフリカ諸国の図式に転化されてしまうことが懸念されます。

何より問題なのは、これまで援助団体の支援で生活を維持してきた住民の食糧や水などが不足し、その生活が立ち行かなくなっていることです。
バシル大統領の措置を非難するのは容易ですが、今回逮捕状によって結果的に最も弱い立場の住民に負担が負わされているのが現実です。

ICCも、その動きを見守っていた国連・関係国も、まさかバシル大統領が逮捕状に従順に従うなどとは考えていないでしょう。
では、どのような帰結を思い描いているのでしょうか?
命綱を断たれつつある住民をどうするつもりなのでしょうか?
落としどころは想定されているのでしょうか?

【シャリフ元首相を自宅軟禁】
話は全く変わりますが、もうひとつ“どうするつもりなのか?”と訝しく思われるのがパキスタンでの動き。
最大野党指導者シャリフ元首相の被選挙権停止で激化したパキスタン政府と野党側の対立で、シャリフ派とチョードリ元最高裁長官の復職を求める弁護士グループ・市民団体が12日、南部などで大規模な反政府デモを開始し、政府は反政府運動の拡大を阻止しようと野党職員やデモ参加者を拘束している件について、昨日3月14日ブログ「パキスタン 政権を揺さぶるシャリフ派と法曹グループのデモ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090314)で取り上げました。

****シャリフ元首相を自宅軟禁 パキスタン、政権を批判****
パキスタン政府は15日、ザルダリ政権に対する抗議デモへの参加を呼びかけていた野党指導者のナワズ・シャリフ元首相を3日間の自宅軟禁下に置いた。政権の強権姿勢に対する国内外からの批判が一層強まりそうだ。シャリフ氏支持者らは、軍出身のムシャラフ前大統領が解任した判事を復職させないザルダリ政権に対する弁護士らの抗議デモに同調している。【3月15日 共同】
************************

シャリフ元首相は14日、チョードリ元最高裁長官の復職を求める弁護士グループ・市民団体が首都イスラマバードで行う抗議行動に参加する意向を示していました。
シャリフ派と与党・政府との対立も表向きの理由も、元長官の復職問題にあります。
(もともとライバル関係にありますから、復職問題はシャリフ派にとっては与党・政府を揺さぶる格好の材料というところでしょう。)

前年9月に就任したザルダリ大統領は、大統領選直後は職を追われた判事を1か月以内に復職させるとしていましたが、前日ブログに記したように、元長官はムシャラフ前大統領が人民党のザルダリ氏らの汚職訴追を免除したことも違憲と考えているとされていることがあって、その復職が保留されています。

元クリケット選手のイムラン・カーン氏や、イスラム政党ジャマーティ・イスラーミーのガジ・フセイン・アフマド氏を含む野党政治家にも自宅から出ないよう命じられましたが、両氏は自宅周辺を取り囲んだ警察の警備をかいくぐってイスラマバードに向かったそうです。【3月15日 AFP】

“警察の警備をかいくぐって”というのもよくわからない事態ですが、いずれにしてもシャリフ元首相の自宅軟禁でシャリフ派の行動がエスカレートしそうなことは想像されます。
政府はこうした措置で押さえ込めるとふんでいるのでしょうが、火に油を注いだ結果どうなるのか?
こちらも、“どうするつもりなのか?”と思われます。
そもそも、ザルダリ大統領が、元長官復職を求めるシャリフ元首相と一時的に手を組んだことが “どうするつもりなのか?”という問題でしたが。



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パキスタン  政権を揺さぶるシャリフ派と法曹グループのデモ

2009-03-14 08:40:50 | 国際情勢

(07年当時の弁護士などによる反ムシャラフのデモのようです。
“flickr”より By orionoir
http://www.flickr.com/photos/orionoir/1890841514/)

アフガニスタン対策の要になる国、パキスタンのザルダリ政権にとって大きな試練になりそうな大規模反政府デモが始まっています。

****パキスタン野党側、各地でデモ 政府、参加者らを拘束****
野党指導者の被選挙権停止で激化したパキスタン政府と野党側の対立で、野党と法曹団体は12日、南部などで大規模な反政府デモを開始した。16日まで続ける予定で、政府は拡大を阻止しようと前日に引き続き野党職員やデモ参加者を拘束。海外や人権団体から批判が出ている。

リーダーのシャリフ元首相らの被選挙権が無効とされたイスラム教徒連盟シャリフ派など野党と、法曹・市民団体が参加したデモ隊は12日、数百人規模で同国南部のカラチと西部のクエッタからバスや乗用車に分乗し、イスラマバードを目指して出発。16日ごろの合流を目指すという。また、東部ラホールでも弁護士ら数百人が街頭を行進するなど、各地でデモが相次いだ。地元テレビは12日もカラチでデモに参加した弁護士ら50人以上が逮捕されたと伝えた。
同国の人権団体「パキスタン人権委員会」は11日、「集会の自由への抑圧や不当逮捕はかつてのムシャラフ軍事政権と同じやり方。民主的に選ばれた政府の性質と相いれない」とする声明を発表した。【3月12日 朝日】
***************************

パキスタン最高裁は2月25日、下院最大野党のイスラム教徒連盟シャリフ派を率いるナワズ・シャリフ元首相と、弟でパンジャブ州首相のシャバズ・シャリフ氏の被選挙権を認めない決定をしました。
元首相は過去に汚職などで国外追放されたこと、シャバズ州首相も汚職で過去に訴追されたことが理由とされています【2月26日 朝日】

この決定に対し、シャリフ元首相は対立するザルダリ大統領ら現政権の意向があったと示唆、全国的な抗議行動を展開すると表明していました。
すでに今月2日には、ラホールなどの都市で、シャリフ氏支持者の一部が車両に放火したり、警官隊と衝突するなど、抗議行動が暴動化し、ザルダリ氏が大統領の座について以来、最大規模の反政府行動となっています。

もうひとつの反政府グループは、07年にムシャラフ前大統領に解任されたチョードリ元最高裁長官の復職を求める弁護士グループ・市民団体です。
07年の長官解任時にも大規模デモがあって多数の死傷者を出していますが、ムシャラフ前大統領が陸軍参謀長兼務のまま大統領に就任したことの違憲性を主張するチョードリ元最高裁長官の存在は、ムシャラフ退陣の大きな要素となりました。

チョードリ元最高裁長官は民主化運動の象徴的な存在となっていますが、元長官はムシャラフ前大統領が人民党のザルダリ氏らの汚職訴追を免除したことも違憲と考えているとされており、ザルダリ大統領にとってもその処遇が大きな問題となってきました。
当初連立を組んだイスラム教徒連盟シャリフ派は、元長官の復職を強く要求することで人民党側を揺さぶり、結局連立は解消されました。

もともとザルダリ大統領は国軍に対する力を持たないうえに、党内でもブット元首相の夫という立場にすぎず、人民党内部の権力基盤も弱いと言われています。
そういう基盤が脆弱なザルダリ政権にとって、シャリフ派と元長官支持グループのデモは脅威となりそうです。

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ウクライナ  再度のガス騒動 大統領と首相の確執 ロシアの思惑

2009-03-13 21:13:13 | 国際情勢

(ウクライナのティモシェンコ首相 かつてはロシアからの天然ガス輸入に際しロシア高官に賄賂を贈ったとしてロシア検察から指名手配を受けていたぐらいで、反ロシア派でしたが、最近は大統領選挙に向けて、ロシア・プーチン首相に接近しているようです。
“flickr”より By Minirobot
http://www.flickr.com/photos/minirobot/173621687/)

【ティモシェンコ、プーチン両首相の“密約”】
今年1月、ウクライナとロシアの天然ガス輸出価格交渉が決裂し、ロシアが1月1日からウクライナへの天然ガス輸出を停止、7日にはウクライナによるガスの抜き取りなどを理由に同国経由の欧州向けガス供給も停止、欧州17ヵ国を巻き込んだ大騒動になったことはまだ記憶に新しいところです。

この3月にも、ウクライナ国内の大統領と首相の対立から国営企業ナフトガスへの強制捜査が行われ、これに反発するロシアは、ウクライナ側の2月の天然ガス代金支払いが遅れる場合再度ガス供給を停止する旨をウクライナに警告する・・・といった騒ぎがありました。

ただ、今回はウクライナの経済危機、ロシアの旧ソ連圏への影響力回復の思惑などあって、これまでとは少し異なる様相も見せています。

****ウクライナ:ガス供給不安再燃、大統領と首相の対立激化で****
ロシア産天然ガスの供給などを巡り同国と対立するウクライナで、ユーシェンコ大統領直轄の治安部隊がティモシェンコ首相とロシアの「密約」を暴くため、国営ガス企業ナフトガス本社に乗り込むなど、両首脳の確執が深まっている。ロシアのプーチン首相はウクライナと欧州向けのガス供給停止の可能性に言及し、ロシア産ガスの供給不安が再燃する恐れも出ている。

国家保安局の武装要員は4日、ナフトガス本社で強制捜査を行い、翌5日にも私服の捜査員が捜索した。大統領側は、今年1月にティモシェンコ、プーチン両首相の主導でロシア産ガスの供給再開が合意された際、両者の間で次期ウクライナ大統領選などを巡り「密約」が交わされたとみて、証拠文書の押収を試みた模様だ。
地元メディアなどによると、来年初めまでに行われるウクライナ大統領選でロシアがティモシェンコ首相を支持する見返りに、同首相はウクライナのガスパイプライン事業へのロシア企業の参入容認を約束した、との観測が流れている。ウクライナの法律は、パイプライン事業への外国企業の参入を認めていない。
今回の強制捜査について大統領報道官は「法律に基づき行動した」と主張。ティモシェンコ首相は「ナフトガスの活動を妨害し、国民を恫喝しようとした」と批判している。

一方、プーチン首相は5日、「(ナフトガスの)関係者が逮捕され、ガス料金が支払われないような場合、ウクライナと欧州向けのガス供給を停止する」と警告。その後、ナフトガスが2月分のガス料金を支払い、供給停止は避けられたが、プーチン発言は捜査を主導したユーシェンコ大統領への不信感をあらわにした格好だ。
プーチン首相はかつて、欧米寄りの姿勢を取っていたティモシェンコ首相を批判していた。しかし、昨夏のグルジア紛争の際、ユーシェンコ大統領がロシア批判を展開したことから、「交渉相手としてユーシェンコ氏を見限り、ティモシェンコ氏に乗り換えた」(ウクライナの政治評論家)とみられている。 【3月9日 毎日】
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ウクライナのユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相はかつてのオレンジ革命の同志ですが、現在では、来年早々に行われる次期大統領選挙をめぐって激しいライバル関係にあります。
ウクライナ・ロシアの天然ガス問題がこじれるのも、この両者の政治対立が背景にあると言われています。
今年1月末にも、大統領が突然TV演説で首相を批判するドタバタ劇が報じられていました。

****突然TV演説「経済危機は首相のせい」ウクライナ大統領****
経済危機が深まるウクライナで30日夜、ユーシェンコ大統領が突然国民に向けてテレビ演説し、「今の経済状態を招いた全責任はティモシェンコ首相にある」と名指しで批判、議会に09年予算の見直しを求めた。1月のガス紛争を収束させるため同首相がロシアと結んだガス価格契約についても、ウクライナに不利な内容だと文句をつけた。

これに対しティモシェンコ首相は「大統領のテレビ演説は虚偽とパニックとヒステリーのちゃんぽんだ」と声明を出して反論。「大統領は経済危機で苦しむウクライナに必要なリーダーではない」と切り捨てた。 【1月31日 朝日】
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今回3月のトラブルについては、ウクライナ・ナフトガスが支払うガス代金の期限は7日で、5日夕までに総額の約2割にあたる5千万ドルが未払いでしたが、 ロシアからの警告直後に全額送金され、とりあえず1月の二の舞は避けられたようです。

【「パートナーにとどめを刺すのは良くないことだ」】
一方、ロシア・プーチン首相からは、ウクライナ取り込みを狙った“余裕”の発言も出ているようです。

****ロシア首相、「ウクライナは財政破たんの瀬戸際」****
ロシア通信(RIA)によると、ロシアのプーチン首相は、ウクライナは財政破たんの瀬戸際だと述べた。首相は、ウクライナは天然ガス供給契約に違反しているが、ウクライナの財政破たんを招きかねないため、罰金は請求しないとしている。

世界的な景気悪化を受け、ウクライナ経済は急激に悪化している。鉱工業生産は前年比で30%超減少、2009年の国内総生産(GDP)は6%縮小する見通し。通貨も昨年一時期、対ドルで50%下落した。
RIAによると、プーチン首相は「ウクライナは破たんの瀬戸際にある。だが、パートナーにとどめを刺すのは良くないことだ」と述べた。
ロシアも世界的な金融危機の影響を強く受けているが、プーチン首相は、準備金が豊富なため、他国より良い状態にあるとの認識を示した。【3月12日 ロイター】
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経済が破綻に瀕しているウクライナは多額の債務をロシア・ガスプロムに抱えており、50億ドルの金融支援が必要とされています。
ロシアは2月にこの金融支援を申し出ましたが、いまのところウクライナ政府はこの申し出を拒否しているようです。しかし、EUからの支援の見通しが立たない場合はロシアからの誘惑にあらがえなくなるかも・・・・とも報じられています。【3月18日号 Newsweek】

【拡大するロシアの影響力】
上記Newsweek誌によると、ベラルーシはロシアからの20億ドルの融資を受け入れた後、ロシア主導の対空防御システムを構築することを同意、キルギスもロシアから20億ドルの融資を受けて米空軍基地閉鎖を発表、ロシアの勢力拡大に抗するEUの“東方パートナーシップ”をモルドバが“対ロシア包囲戦略”と批判し参加を拒否・・・など、ロシアは経済危機に喘ぐ旧ソ連圏の国々への影響力を拡大しているようです。

今後はロシアとEUの綱引きとなりますが、3月9日ブログでも取り上げたように、西欧諸国は自国の経済危機対策で手一杯という状況です。
ロシア・プーチン首相の引き寄せる綱に更に力が入りそうです。
ウクライナでも、親ロシア政権へ転換という目もありそうです。



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イラン  アメリカが関係改善へ向けての動き、関係国にも波紋

2009-03-12 22:20:30 | 国際情勢

(昨年4月25日に行われたイラン国会選挙の決選投票の投票場で、アフマディネジャド大統領(写真右)と会った後気絶した女性(写真左) 石油収入を背景にしたバラマキ政策もあって、アフマディネジャド大統領の貧困層での人気は絶大だとも言われています。
“flickr”より By Amir Farshad Ebrahimi
http://www.flickr.com/photos/farshadebrahimi/2908926138/)

【アフガン問題の国際会議にイランを招聘】
「敵との対話」路線を掲げるアメリカ・オバマ政権ですが、5日開かれた北大西洋条約機構(NATO)外相理事会で、クリントン米国務長官はアフガン問題に特化した国際会議にイランを招く考えを示しました。
この会議は国連が主体となり潘基文事務総長が議長を務める閣僚級会議で、31日オランダ・ハーグで開催されます。
会議には、国際機関代表やアフガン政府のほか、パキスタンなど近隣国、国際治安支援部隊(ISAF)に参加する約40カ国、日本などの財政支援国に出席が呼びかけられるそうです。

イスラム教シーア派国家イランは、スンニ派で敵対関係にあったタリバンの復興を望んでおらず、さらに、アフガニスタンからの麻薬や難民の流入にも苦慮していると言われます。
イランは7日、参加を前向きに検討すると表明しました。
アフガニスタン安定はイランの国益でもあり、「共通の利益」に向けて米国と連携することで、断交中の米国との関係修復の足がかりを得たいとの思惑があると報じられています。

当事国のひとつパキスタンも、「イランは地域の重要な存在である」(パキスタン・クレシ外相)として、隣国のイランに対し、反政府勢力のテロ活動が活発化しているアフガニスタンを安定させるため、アメリカなどの主要国に協力するよう促しています。【3月9日 時事】

もっとも、パキスタンはインドと繋がりが深いアフガニスタン現政権が安定することを望んではおらず、アメリカ撤退後もにらんでタリバンとの関係も持続しているとも言われていますので、このあたりの本音はよくわかりません。

当のイランは日本に対し、アフガニスタンの復興支援で「日本が準備する事業があれば、その枠内で協力する用意がある」(10日来日のイラン外務省東アジア・大洋州局のイザディ局長)と、橋や幹線道路などインフラ整備と麻薬撲滅活動などへの財政・人的支援を具体的に例示しています。【3月10日 毎日】

アメリカはイランに先立って、かねてから対立していたシリアとの関係改善に向けて動き出しています。
こうしたアメリカ外交は、パレスチナ和平、イランやシリアとの関係改善、アフガニスタンやイラクの安定化について、互いに関係する問題として三位一体で推進していく「中東・南西アジア包括外交」の新機軸ととらえられていますが、シリアとの関係改善について、“イランとの同盟関係にあるシリアと対話し両国の間にくさびを打ち込むことで、イランの中東での影響力低下を図るねらいもあるとみられる。”【3月12日 産経】という見方もあるようです。

【親米アラブ諸国の警戒】
非常に興味深いのは、とにもかくにもアメリカがイラン接近の動きを見せていることに対し、いわゆる親米アラブ諸国が警戒を強めているということです。

****イラン:周辺国と摩擦 対米巡り対立顕在化*****
中東の非アラブ国家イランが、親米アラブ諸国との間で摩擦を深めている。イラン要人が隣国バーレーンを領土だったかのような発言をしてアラブ諸国の反発を受け、今月6日には北アフリカのアラブ国家モロッコとの外交関係が断絶した。背景には、イスラム教シーア派国家イランと、スンニ派主導のアラブ諸国の歴史的対立が、イランの覇権拡大とともに顕在化してきたことに加え、イランが米国との関係修復の動きを進めていることへの親米アラブ諸国の警戒感もある。

イラン最高指導者ハメネイ師の顧問、ナーテクヌーリ元国会議長は先月10日、ペルシャ湾岸のバーレーンを「イランの14番目の州だった」と発言。バーレーンは「歴史的事実のわい曲だ」と反発、イランと交渉中の天然ガス輸入計画の停止を発表した。
バーレーンなどアラブ6カ国が加盟する湾岸協力会議(GCC)も「イランは領土拡張という夢想が頭から離れないのだ」(アティーヤ事務局長)と非難した。GCCは元来、イランが79年のイスラム革命後に推し進めたシーア派「革命輸出」に対抗する形で結成された地域機構だ。
バーレーンは、王家をはじめ指導部はスンニ派だが、国民の8割はシーア派で、イランの影響力浸透を警戒している。

アラブの盟主サウジアラビアは今月3日、アラブ諸国に「我々はイランの挑戦に対し共通の戦略を取る必要がある」(ファイサル外相)と呼び掛けた。6日にはイスラム教国でスンニ派主体のモロッコがイランとの関係を断絶、「イランがモロッコでシーア派を広げ、我々の宗教的土台を覆そうとしている」(外務省)との談話を出した。
イランは先のイスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ攻撃を巡り、サウジやエジプトなどを「シオニスト政権(イスラエル)に対し沈黙するな」と非難、関係が険悪化した。 【3月10日 毎日】
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アメリカとしては、単にイランとの関係を深めればいいというものではなく、イランに反発する親米・周辺アラブ諸国をどのように納得させるかという問題もあるようです。

【イラン大統領選挙】
今後の展開については、当然ながらイラン自身の国際社会への対応にかかってきますが、そのあたりは6月に予定されているイラン大統領選挙の結果によっても大きく変わってきます。
いまのところ、保守強硬派のアフマディネジャド大統領が優位との情勢が報じられています。
先日のブログで、アフマディネジャド大統領と改革派のハタミ前大統領の一騎打ちか・・・といった内容を書いたこともありますが、改革派の重鎮、ムサビ元首相が10日に立候補を表明するなど、どういう形になるのかはまだこれからのようです。


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