孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「国際女性の日」  生命すら脅かされる女性の境遇 インドの議会改革

2010-03-11 21:35:00 | 世相

(3月8日の「国際女性の日」 カバディの国際トーナメントを楽しむインドの女性
“flickr”より By Marissa Bronfman
http://www.flickr.com/photos/marissabronfman/4419786933/)

3月8日(月)は「国際女性の日」でしたが、今なお女性の置かれている立場に大きな問題があること、単に社会的地位云々ということではなく、生命の危機にさらされることが少なくないことが、残念ながら世界の現実です。

【名誉殺人】
中東やアジアの国々では「名誉殺人」と呼ばれる慣習が今も行われ、司法的にも野放しになっていることもあります。
****毎年5000人が名誉殺人の犠牲に、国連人権高等弁務官*****
ナバネセム・ピレイ国連人権高等弁務官は4日、世界で毎年5000人の女性が「名誉殺人」で命を落としていると発表した。
名誉殺人(honour killing)とは、婚外交渉を持った女性や、親が決めた相手とは別の男性との結婚を望む女性を一族の名誉を守るためとして殺害すること。中東や南アジアなどで報告されている。
発表によると、世界の女性の3人に1人は生涯のなかで殴打や性的暴行などの虐待を受けており、そのような虐待は同じ一族からなされることが最も多いという。
ピレイ高等弁務官は、一部の国の司法制度が名誉殺人を犯した者を罰しない仕組みになっていることが問題を悪化させていると指摘し、国際法のもとでは、女性が差別されないよう制度を整備するのは国家の責任なのは明かだと述べた。インドは前月、名誉殺人を厳しく罰する新法の制定を検討していると発表している。【3月6日 AFP】
************************

【胎児選別】
女性は、誕生した時点、あるいは胎内に宿った時点で、“望まれない子供”としてその生命が意図的に断たれることも多くの国で見られることです。人口大国の中国やインドで特にそうした傾向が強いとも報じられています。

****アジアでの性差別、命奪われた女性は9600万人 UNDP報告書*****
アジアでは差別的な医療やネグレクト(育児放棄)、または胎児の選別により、中国とインドを中心に約9600万人の女性の命が失われている――。国連開発計画(UNDP)は8日、こうした報告書を発表した。

国際女性の日(International Women's Day)に合わせて発表されたこの報告書は、「経済力」「政治参加」「法的保護」の3分野における女性の権利向上の必要性に焦点をあてたもの。
それによると、アジアでは、男児の方が好ましいという古い考えに基づいた女児の殺害や中絶が男女比の大きな不均衡を生み、この問題は急速な経済発展にもかかわらず悪化する一方だという。
世界的に見ても、出生時の男子の比率が最も高いのは東アジアだ。出生時男女比の世界平均が107:100であるのに対し、東アジアは119:100となっている。
この比率を押し上げているのが、出生における性別格差の著しい中国とインドだ。失われた女性の命の数は両国で約8500万人にのぼっているという。
なお、失われた命の数は、現在の人口における実際の男女比を、妊娠・出産・出産後に男子と同等の医療が受けられたと仮定した場合の理論的な男女比と比較することにより導き出された。
報告書は、アジアは力強い経済成長を遂げているにもかかわらず、多くの女性がいまだにその恩恵を被ることさえできずにいると指摘している。
アジア地域、特に南アジアは、暴力からの保護、保健・教育・雇用の機会、政治参加などにおける女性の地位が、しばしばサハラ以南のアフリカ諸国をも下回り、世界最悪と位置づけられることが多い。【3月9日 AFP】
***************************

【女性議員割合とクオータ制】
こうした女性の地位・境遇の改善は、その地域によって様々な問題と関わり一様ではありませんが、政治の世界における女性の進出を促進し、女性の声が政治決定に反映するシステムにすることは、有力な解決方法のひとつです。

****女性議員:ルワンダ56%で世界1位、日本11%で97位*****
世界151カ国の国会議員らでつくる列国議会同盟(本部・ジュネーブ)は8日の「国際女性の日」に合わせ、今年1月末現在での世界187カ国議会(下院)における女性議員の割合ランキングをまとめた。
上位は、(1)ルワンダ(56.3%)(2)スウェーデン(46.4%)(3)南アフリカ(44.5%)。日本(衆院)は11.3%で97位。「小沢ガールズ」の登場で昨年同時期より増えたが、各国平均の18.8%をかなり下回った。

各国平均は1995年の11.3%から、15年間で年0.5ポイントの割合で増加。これは男女に差が出ないようあらかじめ議席比を決めておくクオータ制の効果が大きく、列国議会同盟は「女性進出増加のための唯一の対策だ」としている。
制度発祥の国はノルウェーで、北欧から欧州全域に広がった。女性議員の割合が高い今年の上位15カ国のうち、クオータ制を採用していないのは3カ国だけ。ルワンダは大虐殺による動乱の後、国連の指導で憲法に「女性議員を全体の30%以上とする」クオータ制を規定。南アフリカも民主化と同時にクオータ制を導入している。
ただし、比例代表制の国では80%が採用しているのに対し、小選挙区制の国の導入率は25%で、選挙制度による差が大きい。【3月6日 毎日】
***********************

今年に限った話ではありませんが、主要国の中では日本の低さが際立っています。
昨年が107位だったとのことで、「小沢ガールズ」効果で若干は改善したようですが。

【インド 「女性が家庭(Home)から下院(House)へ」】
名誉殺人や出生時の女性差別が大きな問題となっているインドでは、このほど“クオータ制”が取り入れられました。
****下院と州議会の議席の3分の1を女性に、印上院が憲法改正案可決*****
インド上院は9日、下院と各州議会の定数の3分の1を女性に割り当てる憲法改正案を可決した。共産党、インド人民党(BJP)が与党国民会議派とともに賛成にまわって賛成票は186となり、憲法改正に必要な3分の2を超えた。法案は下院に送られる。
この法案は1996年に最初に提案されたが、イスラム教徒と低カーストの女性に議席を割り当てなければヒンズー教徒の一部の女性しか恩恵を受けないとして、地域の社会主義政党が猛烈に反対していた。

国際女性の日(International Women's Day)の8日に上程されたが、反対する議員が法案を破って議長に投げつけたり、議長席のマイクを奪ったりするなどの妨害をしたため、議員7人が処分を受け、採決は見送られていた。9日は院内の秩序維持のため衛視が動員された。
マンモハン・シン首相と国民会議派のソニア・ガンジー総裁が女性の権利拡大のうえで画期的な出来事だとするコメントを出したほか、現地紙タイムズ・オブ・インディアが「女性が家庭(Home)から下院(House)へ」という見出しでこのニュースを伝えるなど、新聞各紙も歓迎する論調が目立った。

インドにはガンジー氏やプラティバ・パティル大統領など、重要な役割を果たしている女性政治家もいるものの、政界は男性が支配的で、女性議員は定数545の下院で59人、定数248の上院で21人にすぎない。【3月10日 AFP】
****************************
こうした試みが女性の境遇の改善を加速させることを期待したいものです。

【タリバン】
それにしても、アフガニスタンで、女性の人権・教育を否定しているとしか見えないタリバンが再び政治的な力を得ようとしていることは残念なことです。
サウジアラビアのように、やはり女性の社会的立場が制約された国もありますが、一般には、イスラム社会とはいってもタリバンのような極端な女性差別政策を取っている国は多くはないと思います。
そうしたイスラム国家が、イスラム世界全体のイメージダウンにもなるタリバンの女性差別について、どうして厳しい批判を行わないのでしょうか?
かつて、タリバンが政権獲得した際、その女性差別を批判したのは“悪の枢軸”とも呼ばれるイランだけでした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー軍政、政党登録法でNLDにスー・チーさん除名を迫る

2010-03-10 22:29:27 | 国際情勢

(“flickr”より By falang_bah2002 http://www.flickr.com/photos/falang_bah2002/1501655476/)

【除名して選挙参加か、政党資格はく奪・解党か】
ミャンマー軍事政権は、今年実施予定の総選挙に向けた五つの選挙関連法(上院、下院、地方議会選に関する各選挙法、政党登録法、選挙管理委員会法)を制定し、そのうち政党登録法、選挙管理委員会法の内容が明らかになっています。

アメリカとの対話姿勢や、アウン・サン・スー・チー解放の憶測などもあって、民主的な選挙をアピールして国際社会から「民政移管」の支持を取り付けたいとされる軍事政権の対応にやや期待するところもありましたが、明らかになりつつある選挙関連法の内容は、改めて軍事政権側の厳しい姿勢を示すものであり、ミャンマー民主化運動の難しさを痛感させるものです。

特に、政党登録法では、“過去に有罪判決を受けた人物、服役中の人物、裁判が継続中の人物は政党のメンバーに登録できない”とされており、野党「国民民主連盟」(NLD)は、米国人男性による自宅侵入事件の裁判で有罪判決を受けているスー・チーさんや、投獄されている多くの活動家を「除名」する形でしか政党資格が認めらないことになり、60日以内の選挙管理委員会への登録期間という時間的制約のなかで、NLDに対し、選挙に参加するのか、政党資格を失うのかの“踏み絵”を迫る内容となっています。

*****ミャンマー:スーチーさんの活動困難に 政党登録法を公表*****
ミャンマー軍事政権は10日、今年予定されている総選挙に向け、政党登録法を公表した。過去に有罪判決を受けたり、現在刑事裁判中の人物の政党登録を禁止しており、事実上、民主化運動指導者のアウンサンスーチーさん(64)を最大野党「国民民主連盟」(NLD)の活動から締め出す内容となった。NLDはスーチーさん抜きで総選挙に参加するかどうか、困難な選択を迫られることになった。
スーチーさんは昨年、米国人男性による自宅侵入事件の裁判で懲役3年の有罪判決(後に政権が自宅軟禁1年6月に減刑)を受け、最高裁への上告も今年2月に棄却された。政党法の規定に従えば、NLDが政党として登録し総選挙に参加する場合、スーチーさんを「除名」せざるを得なくなる。

軍事政権が08年に制定した憲法は「外国の影響下にある人物」の選挙参加を禁じており、英国人男性と結婚したスーチーさんは総選挙に立候補できないとみられていた。新たに政党法の規定によって、たとえ総選挙前に自宅軟禁を解除されたとしても、自身の立候補だけではなく、NLDなど民主化勢力への応援活動も困難になった。

米国など国際社会は昨年来、政権との対話姿勢に転じながらも、「自由、公正で誰もが参加する総選挙の実施」を求めてきた。このため、政党法の公表を受け、軍事政権への批判を強めるのは必至だ。AFP通信によると、キャンベル米国務次官補(東アジア太平洋担当)は10日、訪問先のクアラルンプールで「失望と遺憾の意」を表明した。
 ◇政党登録法の主な内容は次の通り。
一、総選挙に参加する政党は、60日以内に選挙管理委員会に登録しなければならない。
一、政党は選管への登録後90日以内に、500人以上のメンバーを確保しなければならない。
一、過去に有罪判決を受けた人物、服役中の人物、裁判が継続中の人物は政党のメンバーに登録できない。
一、僧侶など宗教関係者は政党のメンバーに登録できない。【3月10日 毎日】
*********************************

一方で、党員数に関する選挙参加への資格については、比較的緩やかに定められており、NLDの選挙参加で、形式的な民主選挙を演出したい軍事政権側の意向を反映しているとも言われています。

【民主的選挙アピールにこだわる軍事政権】
****スー・チーさん野党、迫られる総選挙参加判断*****
ミャンマー軍事政権が8日に制定した選挙関連法のうち、焦点だった政党登録法の内容が9日、軍政筋の話で明らかになった。
選挙の参加条件は比較的緩やかに定める一方、既存の政党は同法制定から60日以内に再登録しなければ廃党に追い込まれる可能性があるとしている。
総選挙への対応を明確にしていないアウン・サン・スー・チーさん率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)の参加を促し、民主的な選挙を演出する狙いがある。
政党登録法は、総選挙の参加に必要な党員数として、国会にあたる人民議会(下院)と民族議会(上院)の選挙には90日以内に少なくとも1000人、地方選は500人を組織する必要があるとしている。関係筋は、「少数政党の乱立を防ぐ狙いがある一方、一般的な政党にとっては、3か月あれば十分に確保できる数字だ」と指摘する。

一方で、1990年の前回総選挙時に施行された政党登録法が今回失効したことから、すべての既存政党に対し、改めて政党登録するよう規定している。登録の期限は5月5日ごろと見られ、「再登録に応じない党の資格は廃止される」(消息筋)見通しだ。
NLDは、総選挙参加の条件として、〈1〉約2100人とされる政治囚の釈放〈2〉軍政が制定した現行憲法の改正〈3〉国際監視下での公正で自由な選挙の実施――を挙げているが、NLD内部には「政党の責務を果たすため、参加すべきだ」との声もある。
こうした中で軍政が政党登録法制定で揺さぶりをかけた格好となり、スー・チーさんらNLD幹部は、再登録期限もにらみながら、選挙に参加するかの最終的な判断を迫られる。
軍政がNLDの総選挙参加に固執するのは、形の上では民主的な選挙をアピールして、国際社会から「民政移管」の支持を取り付けた上で、軍政状態を維持する狙いがあるためだ。【3月10日 読売】
******************************

【選管委員を事実上、軍事政権が指名】
なお、選挙管理委員会法に関しては、軍政側に委員の任命権限があるなど、軍政に有利な運用を許す規定が盛り込まれており、「選挙の公平性」への懸念も出ています。
****ミャンマー:軍政が選管委員指名 民主勢力から批判も*****
ミャンマー軍事政権は9日、国営紙を通じ「連邦選挙管理委員会法」の内容を公表した。選挙管理委員会は5人以上で構成され、委員は軍事政権の最高意思決定機関である国家平和発展評議会が「国家と国民に忠誠を尽くす」と判断した人物から選ばれる。選管委員を事実上、政権が指名する内容で、今年予定される総選挙の「自由、公正な実施」を求める民主化勢力や国際社会から批判を受ける可能性がある。
同法によると選挙管理委員会には、候補者リストの承認のほか、自然災害や治安上の理由による選挙延期、無効化決定など、大きな権限が与えられる。【3月9日 毎日】
*****************************

【不本意ながらも、新たな展開への転機に】
もとより、軍事政権側がスー・チーさんの解放に応じても、彼女の自由な政治活動を許すとは思えませんでしたし、「外国の影響下にある人物」として、選挙への立候補も憲法で阻まれていましたので、今回の政党登録法によるスー・チーさん排除を受け入れたとしても、実質的な差はさほど大きくないとも言えます。

もし、排除を受け入れなければ政党資格を失い解党に追い込まれるということであれば、現在のミャンマーの政治状況ではいかんともし難いものがあります。
スー・チーさんにこだわる限り、合法的なミャンマー民主化運動はほとんど不可能にもなります。

国連の潘基文(バンギムン)事務総長は8日、政治犯を含むすべての国民を参加させ透明性を確保した選挙にすることの重要性を強調、「このままでは信頼性を欠いた選挙になる」と懸念を伝える書簡を軍政トップのタンシュエ国家平和発展評議会議長に送ったことを明らかにしていますが、残念ながらこのような国際批判は軍政の対応を動かす力は持ち得ていません。

こうした状況では、目標とするところとのギャップが大きいにしても、スー・チーさんを排除する形になったとしても、軍事政権側の民主化演出に沿う形になったとしても、一定の政治的影響力を維持し、軍政側の独走を阻止するためには、選挙に参加してできるだけ多くの議席を確保することしか道はないように思います。
スー・チーさんやNLDとしては不本意でしょうが、厳しい現実にあっては選択の余地はないのでは。
軍政側がどうしても許容しないスー・チーさんの問題から解き放たれる形で、新たな民主化運動の展開を構築する方向で進む転機と考えることもできるのでは。
それにしても、投獄中のメンバーを除名するというのは、つらいものがあります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

メコン川異常渇水と中国のダム建設  今後問題化する水資源争奪戦

2010-03-09 22:50:10 | 国際情勢

(2月1日 タイ北部のチェンセーン近郊“ゴールデントライアングル”観光の際に撮影した大河メコン 右岸がラオス、左岸がミャンマー、撮影地点はタイです。このときは“異常渇水”は感じませんでしたが・・・)

【「わが国は誰も非難するつもりはない」】
東南アジアの大河メコン川は、流域の中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムにとって、農業・漁業・工業用水・飲用水・観光など、その生活を支える基盤です。
また、このメコン流域は日本や、特に最近では中国の主導による道路建設などの開発が進んでいるエリアでもあります。

そのアジアの大河メコンが、中国のダム建設によって異常渇水に陥っているとの報道がありました。
****「中国のダム原因」 メコン異常渇水 タイ反発******
インドシナ半島を流れるメコン川の水位が現在、ほぼ20年ぶりの低さまで下がり、流域のタイ、ラオス、ベトナムで農作物に被害が出たほか、船を使った人や物の輸送も滞り、地域経済にも深刻な影響を及ぼしている。タイでは地域住民が、メコン川上流に中国が新たに建設したダムが原因として反発を強めている。中国政府はダムの影響を否定しているが、4、5月は例年、メコン川の水位が最も下がる時期のため、放置すれば住民の不満がさらに高まるのは確実だ。
 
≪20年ぶりの低位≫
メコン流域各国で構成するメコン会議(MRC)が2月末に発表した資料などによると、メコン川の現在の水位は大渇水となった1992年に並ぶ低さとなった。タイ北部チェンライ県では通常、海抜2・2メートルある水位が2月には33センチまで減少した。原因については、昨年からの降雨量が例年の半分以下だったことなどをあげている。この結果、各地で船による人や物資の輸送ができず、潅漑(かんがい)用水の不足で農作物の成長にも影響が出ている。
なかでも被害が大きい同県チェンコーンの住民らは2月末、「2年前の大洪水と今度の渇水は、中国が上流に作った4つのダムの運用が原因」として、中国がダムからの放水を行うよう働きかけることをタイ政府に要求。同時に4月初めにバンコクの中国大使館前で抗議デモを行うと宣言した。
こうした事態に、タイのアピシット首相は7日、地元テレビの番組で、中国に善処を求める考えを示した。ただ、フランス通信(AFP)によると、タイ外務省は「わが国は誰も非難するつもりはない。中国に求めているのは話し合いであり、彼らとともに問題を解決したい」として、中国側を極力刺激しないようにする構えだ。

≪越・ラオスは沈黙≫
水位の減少による影響はラオスやベトナムでも出ている。ラオスのビエンチャン・タイムズによると、同国北部では、やはり船を運航できず、観光ツアーが中止に追い込まれているという。一方、ベトナムでは、メコン川が南シナ海に流れ込むメコンデルタ一帯で、川の水量が減ったために、海水が逆流して田んぼが塩水をかぶってしまい、収穫に影響が出そうだという。
ただ、両国とも原因については「自然の問題」(ビエンチャン・タイムズ)などとして、中国には触れていない。【3月9日 産経】
*************************

タイ北部のチェンライには、つい先月、観光で行ってきたばかりです。
チェンコーンも近い、ゴールデントライアングルで有名なチェンセーンでは、メコン川をボートでクルージングし、対岸ラオス領の小島などにも上陸したりしました。
その時は、特別“異常渇水”という印象はありませんでした。

渇水が中国のダム建設による影響なのか、温暖化の影響なのか、それとも単なる一時的自然現象なのか・・・そのあたりはわかりませんが、そうした原因とは別に、タイ外務省の冷静なと言うか、腫れものに触るような対応、ベトナム・ラオスの沈黙といった各国の対応も興味深いものがあります。
この地域での存在感を増している中国への配慮があるのでしょうか。

【“ダムは良いことばかり”】
なお、当の中国は、中国のダム建設批判に反発しています。
****「下流の国にも利益」 中国強調 メコン異常渇水*****
中国によるメコン上流でのダム建設に東南アジア関係諸国が反発していることはここ数年、中国国内でしばしば話題となっており、中国外務省の何亜非次官は2008年3月、「中国は水利施設を建設するとき、下流の国々の利益を十分考えており、配慮をしている」と述べ、「ダム建設はほかの国に悪い影響を与えていない」との見解を示している。

中国紙「科技日報」はメコン川の開発に関する09年2月の特集で、「下流の国で起きた洪水や干魃(かんばつ)は自然現象であり、ダム建設との因果関係はない」と主張、中国のダムはむしろ川に水の量のバランス良く調整する役割を果たしており、下流の自然災害の被害を減していると強調した。
同紙はまた、ダムが発電した電力は中国国内だけではなく、タイ、ベトナム、ラオスなどに提供されていると指摘。“ダムは良いことばかり”であるにもかかわらず、東南アジア諸国の世論が中国に反発するものとなっているのは「東南アジア諸国で活動している欧米系のNGO(非政府組織)がメディアを利用して意図的に中国のイメージダウンを図ろうとしていることが影響している」との独自の見解を掲載した。【3月9日 産経】
****************************

“ダムは良いことばかり”というのは、ダムが不人気な最近の日本の感覚には沿わないものがあります。
また、“欧米系のNGOがメディアを利用して意図的に中国のイメージダウンを図ろうとしている”云々は、いささか被害者意識過剰で、“大国”中国にはそうした反射的反発はそろそろ卒業してもらいたいような気もします。

【「東南アジアの電源供給国」】
もっとも、中国を弁護する訳でもありませんが、メコンでダム建設を進めているのは何も中国だけではありません。
2年以上前の古い記事ですが、ベトナムがラオス領内で進めるダム建設、ラオスの電力開発を報じたものがあります。

****ベトナム、ラオスのメコン川流域に巨大水力発電ダム建設計画*****
急速な産業発展に伴いエネルギー不足に悩むベトナムが、隣国ラオスに20億ドル(約2300億円)規模の巨大水力発電ダムを建設するプロジェクトを立ち上げる。
今年度8.4%の経済成長率を遂げたベトナムは、電力需要が毎年倍増する勢いだ。しかし、水力発電の供給元となる水源が国内には乏しいことから、水源豊富な隣国ラオスに目をつけた。
ダム建設予定地は、ラオス北部の古都ルアンプラバン近郊のメコン川流域。ベトナム電力大手ペトロベトナム電力総公社(PVパワー)は、翌年4月をめどに事前調査をまとめるとしている。完成すれば、現在ラオスで稼働中の既存ダムを超える最大規模のダムとなる。

■「水源」で外貨獲得
インドシナ半島の内陸国ラオスは、アジアの最貧国の1つに数えられるが、メコン川など水源に恵まれることから、「東南アジアの電源供給国」を目指すべく、水力発電に力を注ぐ。
現在、ラオス国内で稼働中のダムは10基以下だが、70基を超える水力発電ダム開発の計画が進行中だ。ラオス政府は、国内のダムで発電される電力を隣国のベトナムやタイに売却したい考えだ。
現在、建設着工中の最大規模のダムは、フランスとタイ資本による「ナムトゥン第2ダム(Nam Theun 2)。稼働開始は2009年の予定だ。このほか、中国やタイもラオス国内のメコン川流域にダム開発を計画している。

■浮上する環境問題
一方で、環境活動家などからは、こうしたダム開発に伴う、地元住民の立ち退き問題や、メコン川流域の希少な生態系の破壊を懸念する声もあがっている。
米環境団体「International Rivers」のカール・ミドルトン氏は、ダム建設によるメコン川の水環境変化で、魚の減少など生態系への影響を危ぐする。
「メコン川は流域住民に、飲料水、食料となる魚、田畑に実りをもたらす肥沃な土壌、交通手段を提供してきた。メコンはラオスの人々にとって生活の源なのだ」【07年12月26日 AFP】
********************************

【熾烈になる水資源争奪戦】
更に言えば、水をめぐる国際紛争はメコンだけの問題ではありません。
以前バングラデシュを旅行した際、ガンジス川の水位低下に関して、インドのダム建設と水量調整のせいだと怒る現地の方の話も耳にしました。
水資源をめぐる国際的な対立・紛争は、今後世界における中心的な問題になるとも予想されています。

ヒマラヤ氷河について、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、報告書のなかの「ヒマラヤ氷河が2035年までに消滅する」との記述は科学的根拠がなく誤りだったと認め、陳謝しましたが、“2035年”はともかく、多くの報告があるように今後ヒマラヤ氷河が縮小していくことになれば、メコンやガンジスなど、ヒマラヤ氷河を源とするアジアの河川は将来的には干上がってくることにもなり、水資源の争奪戦は流域各国の生存を賭けた熾烈な争いにもなっていくことが懸念されます。
オス連絡橋にゴーサイン
 シター副官房長官は、政府が北部チェンライ県チェンコン郡とラオスのフアイサイの間に流れるメコン川に架ける橋の建設プロジェクトを承認したと明らかにした。今回政府はプロジェクト予算の半分にあたる15億バーツを承認しており、残り半分は中国に融資を求める予定。この橋は、整備計画中のバンコクと中国・雲南省の昆明とを結ぶ幹線道路上に位置する。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アイスランド  英蘭預金保護を反対93%で否決 関係強化をはかる中国

2010-03-08 21:54:38 | 国際情勢

(アイスランドで行われた国民投票の様子 “flickr”より By jakonja
http://www.flickr.com/photos/47787954@N04/4412604580/)

【反対93.2% 賛成1.8%】
アイスランドでは、リーマン・ショックの影響で08年10月に経営破綻した大手銀行のイギリス、オランダの預金者を公的資金で保護する法律の是非を問う国民投票が7日行われましたが、予想されたように否決されました。しかも、93.2%が反対という圧倒的な結果でした。

金融自由化を極端に進めて海外からの巨額の資金を集めたアイスランドは、世界的な金融危機の直撃を受け、08年9~10月、国内大手3行を次々と国有化しました。3行の負債総額は国内総生産(GDP)の10倍以上にのぼっています。

アイスランド政府は国有化した国内2位のランズバンキ銀行の系列ネット銀行「アイスセーブ」を閉鎖。イギリスとオランダに約34万人の預金者がいたため、昨年10月、アイスランド政府が公的資金でこの預金を保証することで合意していました。

これを受け、アイスランド政府は、英蘭両国の預金者を保護するため、公的資金で約50億ドル(約4500億円)を支払う法案を議会に提出、議会は昨年12月末、小差で可決しました。
しかし、イギリスやオランダがアイスランド政府に対し、各口座の預金を5万ユーロまで保護し、5・5%の金利をつけるよう求めたことに、「外国を優遇するのか」とアイスランド国民が猛反発。
グリムソン大統領は今年1月、国民の反対が強いとして、法案への署名を拒否、今回の国民投票実施となったものです。

もともと、イギリスとアイスランドは漁業権をめぐる「タラ戦争」(50~70年代に漁業権をめぐり、両国の艦艇が砲撃や体当たりを繰り返した対立)があったように、あまり友好的な関係とは言い難いところがあったこともベースにあるのかも。
なお、英蘭両国政府は、すでに預金の払い戻しを肩代わりしており、アイスランド政府にその支払いを求めています。

今回の否決によって、アイスランドは国際的信用を失い、国際通貨基金(IMF)などからの支援や、EU加盟が暗礁に乗り上げる可能性が高いとも見られています。
アイスランド政府は法律の練り直しを迫られ、預金返済の条件緩和を求めてイギリス、オランダ両政府と再交渉する方針で、シグフスソン財務相は7日、今年5月の実施が有力視されるイギリスの総選挙までに合意を目指す考えを示していますが、見通しは立っていません。

【中国 北極圏対策でアイスランドへ接近】
一昨日のブログで取り上げたギリシャの財政危機に関するドイツとギリシャの感情的な対立も同様ですが、欧州にはEUという共同体の理念が存在はしますが(アイスランドは加盟申請中)、いったん事あると、国家を超えた救済・協力にはまだ高い壁があります。

そうした欧州各国間の対立の一方で、中国が着実にアイスランドとの関係強化を進めていることが報じられています。
**************************
アイスランドと欧州の関係悪化を横目に中国は、地球温暖化による北極海航路開通に備え、アイスランドに最大級の大使館を建設するなど着々と関係を強化している。(中略)
各国とも金融危機の事後処理に追われる中、“厄介者”扱いのアイスランドに近づいているのが中国だ。
地球温暖化で2030~40年には夏の間、北極海の氷がなくなると予測されている。中国は、国内総生産(GDP)の半分の経済活動を海上輸送に依存しているが、ベーリング海峡を通って太平洋と大西洋を結ぶ北極海航路が開通すれば、上海~ドイツ・ハンブルク間が、スエズ運河経由の航路より6400キロも短縮できる。しかもマラッカ海峡やインド洋の海賊に悩まされる心配もなくなる。
北極圏は石油、天然ガス、ニッケル、金、コバルトなど海底資源も豊富だ。
こうした北極圏への中継地として中国が注目するのがアイスランドである。

中国は同国と自由貿易協定(FTA)の交渉を始めるとともに、首都レイキャビクに5~6階建てで、約30台の駐車が可能な大使館を建設した。中国の在外公館の中でも最大規模。人口約30万の小国に設ける大使館としては異例の大きさで、レイキャビクでも話題を集めている。
中国はまた、アイスランドの口利きで、北極圏の開発・環境問題を協議する政府間組織「北極評議会」に暫定オブザーバーとして参加している。アイスランドの港湾建設のため資金提供したとも伝えられる。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の報告書は、中国がハイテク技術を結集した新型砕氷船の建造を決定するなど北極圏への関心を強めているとし、中国が北極海沿岸国と同盟を結ぶ可能性を指摘する中国人専門家の声を紹介している。【3月8日 産経】
******************************

中国の、国際世論に構うことなく自国利益をひたすら追求する外交姿勢は、問題視されることも少なくありませんが、それにしても、先を見越しての抜け目ない外交努力です。
昨今の世界における中国の存在感の急速なたかまりは、単に中国経済の急成長というだけのものではないように思われます。
国内の足の引っ張り合いに終始し、外交無策の感もある日本外交は見習うべき点も多いのでは。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中台関係今昔  映画「台湾海峡緊急指令」 政治対話圧力を緩めた温家宝首相

2010-03-07 19:38:31 | 身辺雑記・その他

(中国映画「台湾海峡緊急指令」(1988年 チャン・イーモウ監督)より
共同して事件解決にあたることになった中国部隊指揮官(右)と台湾部隊指揮官(左)
両者には信頼と友情が芽生えます。
当時の中国でこういう映画が認められていたというのは意外な感もしますが、“ひとつの中国”という大枠内のものということでしょうか。)

【ひとつの中国】
「台湾海峡緊急指令」という、ちょっと変った古い映画を観ました。

北京オリンピックの開会式・閉会式を演出した、また、「紅いコーリャン」「菊豆」などで世界的にも評価の高い、中国を代表する映画監督、チャン・イーモウの珍しいアクション映画です。
チャン・イーモウ映画には欠かせないヒロイン、コン・リーも出演しています。
1988年制作ということですので、「紅いコーリャン」の翌年、比較的初期の作品です。

筋書きは、“台湾政財界の大立者を乗せた台北発の専用機がハイジャックされ、中国大陸に不時着。犯人は台湾の刑務所に投獄されている仲間の釈放を要求する。北京と台北は共同で人質救出に当たることになった。中国部隊と台湾部隊が共同してさまざまな試みを行うが失敗する。・・・・”といったものです。

アクション映画として観ると、ハリウッド映画の大掛かりな映画を観慣れた目には、その出来栄えはいかにも時代を感じさせるものがあります。一昔前のTVドラマ程度と言えなくもありません。
いわゆる“つっこみどころ”も多々あります。

ただ、北京と台北という政治的に対立関係にある両者が手を結び、事件解決にあたる。そして、現場の両国部隊指揮官には政治を超えた男の友情が芽生える・・・という筋書きは、1988年(天安門事件の前年)という時代背景を考えると、興味深いものがあります。
今でこそ台湾は馬英九・国民党政権で、中台接近を進めていますが、まだ中台が激しく対立していた時代です。あの頃に中台合同作戦というような映画もあったのか・・・と、感慨深く観た次第です。

映画の中の一場面、特に印象的なシーンがありました。
雲南省出身の中国部隊の兵士が果敢にのぞむものの、テロリストの凶弾に倒れてしまいます。その勇気を惜しんだ、彼の名も知らぬ台湾部隊の指揮官は遺体から彼のタバコをとり、台湾部隊兵士に「雲南のタバコだ。同郷の者がいたら吸ってくれ」と差し出すと、「私も雲南です」と数人の手があがります。指揮官は中台の絆の強さに今更ながら驚いたような表情を浮かべます。

兵士の年齢からして、本人が雲南で生まれたのではなく、父母が雲南出身ということでしょう。
中台の指揮官同士も「どこの出身だ」「わたしは北京だ」といった類の会話で次第に心を開いていく場面もあります。
同じ民族、“ひとつの中国”を印象づける演出です。

映画の中では、88年当時の北京や台北の庶民の暮らし、街の風景を映した静止画がカットバックでたくさん挿入されます。この前後の86年と91年に中国を旅行して多くの思い出もある私としては、映画そのものよりも、当時のそうした映像をもっとじっくり観たい・・・という感もありました。

【台湾の敏感な世論と馬総統への配慮】
さて、現在の中台関係です。
****中国:中台関係 政治対話の圧力弱まる 経済中心で強化へ*****
中国の温家宝首相は5日、全人代の政府活動報告で、中台関係に「重要な進展があった」と評価した。しかし、昨年3月の同報告で台湾側に敵対状態を終わらせる平和協定締結の協議を呼び掛けたのに比べ、政治対話の圧力は弱まった。台湾では中国への警戒感が依然根強く、温首相は引き続き経済協力を進めながら「政治的な相互信頼を強めたい」と述べるにとどめた。
中台間の自由貿易協定(FTA)に相当する経済協力枠組み協定(ECFA)について、温首相は「相互利益を促し、両岸(中台)の特色ある経済協力メカニズムを構築したい」と積極的な姿勢を示した。
台湾の馬英九総統も先月22日、中国で事業展開する台湾ビジネスマンによる台北の会合で「ECFAは絶対に必要」と断言した。双方は5月にも調印することを目指している。

ECFAに対する中台双方の指導者の姿勢は同じだが、中国側が早期に政治対話に移行したいのに対し、馬総統は二の足を踏む。
台湾では、ECFAによって中台の経済一体化が更に進み、台湾が中国にのみ込まれるとの懸念が大きい。また、馬総統は昨年8月の大水害の不手際で批判を受けて以来、支持率低迷にあえぐ。台湾で世論の激しい対立を招きかねない対中政策では、思い切った動きを取りにくい状況だ。
中国としては、中台関係の改善に貢献した馬総統との連携を継続したい考え。政治対話の圧力を緩めた背景には、台湾の敏感な世論と馬総統への配慮があったとみられる。【3月5日 毎日】
*****************************

馬英九政権は“逆風”のもとにあります。
****台湾立法委員:国民党3議席中、補選で2議席減****
台湾の立法委員(国会議員)の補欠選挙が27日、北部や東部などの4選挙区で行われ、与党・国民党は現有3議席のうち2議席を失った。昨年の大水害での不手際や米国産牛肉の強引な輸入解禁で、馬英九総統の支持率は低迷。国民党は後退が続いている。年末の台北市など5都市首長選までに巻き返しを図れないと、12年の総統選にも影響が出そうだ。
今回の補選で、国民党の地盤が固い北部・桃園県(改選数1)では、同党から候補者3人が乱立し、議席を失った。国民党主席を兼務する馬総統は党内運営でも苦戦が続きそうだ。
野党・民進党は3議席を確保した。
立法院(定数113)の議席は国民党75、民進党33で、66%の議席を占める国民党の優位は変わらない。【2月27日 毎日】
****************************

中国としては、ここで馬政権を更に追い込むようなことは避けて、中台接近を推し進めてきた馬政権の立ち直りを期待する・・・、そして最終的には政治統合の話へ・・・という思惑のようです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ギリシャ  追加再建策でEU支援を求める 国内には激しい反発も

2010-03-06 11:19:42 | 国際情勢

(2月10日のアテネでのストに参加した移民労働者 財政再建の厳しい締め付けの影響を真っ先に被るのは、こうした移民労働者など社会的弱者でしょう。“flickr”より By Left~Lens
http://www.flickr.com/photos/laoulaou/4351008198/)

【公務員ボーナスの30%削減や付加価値税引き上げ】
欧州ではギリシャの財政危機、債務不履行の危惧、単一通貨ユーロからの離脱の懸念が依然として続いています。
ギリシャの財政赤字は、09年に国内総生産(GDP)比12.7%と、EU基準(3%)の4倍以上となり、累積赤字も約3000億ユーロに達しています。

ギリシャの破たんは、ポルトガル、イタリア、アイルランド、スペインなど“PIIGS(豚)”とも呼ばれる、同様の財政事情にある他のEU諸国、更にはやはり財政事情の悪化しているイギリスなどにも波及することになるので(ということは、日本を含めた全世界に波及するということでもありますが)、危機の回避に向けて、ギリシャ自身の財政再建計画の発表や支援に向けたEU各国との調整が行われています。

****ギリシャ:「消費税」21%に 追加再建策******
深刻な財政危機に陥っているギリシャは3日、追加的な財政再建策をまとめた。
付加価値税(日本の消費税に相当)を2%引き上げて21%とするほか、公務員のボーナスを3割カットするなど歳出、歳入両面で財政赤字削減に取り組み、48億ユーロ(5800億円)の財政赤字を追加削減する。
欧州連合(EU)がギリシャ支援の前提としていた再建策がまとまったことで、EUは、ギリシャ支援策の具体化に向けた詰めの作業を急ぐ。
パパンドレウ首相は、「EUの支援を受け取る条件が整った」との考えを表明したほか、EUが支援に踏み切らない場合は、従来は否定していた国際通貨基金(IMF)から支援を受け入れる考えを初めて示し、EUに早期の支援実施を促した。(中略)

ギリシャ政府は、当初、10年の財政赤字を、09年に比べGDP比4%削減すると表明していたが、EUは、ギリシャ支援を決定した2月11日の非公式首脳会議で、ギリシャに対し計画達成を確実にするため、さらなる財政赤字削減を求めていた。(中略)
パパンドレウ首相は、5日にメルケル独首相、7日にサルコジ仏大統領と会談するほか、週明けには訪米し、オバマ米大統領、IMF首脳などとも会談し、支援実施に向けた最終調整を進める。ギリシャ支援をめぐっては、独仏両国が中心となって取り組む方向で調整が進んでいる。【3月3日 毎日】
****************************

IMFからの支援受け入れについては、受入国には厳しい財政規律が求められる負担が伴います。
また、EUとしても、ユーロ圏内の財政問題を自力で処理できなければ、EUとユーロの信認にかかわります。
その他、フランスのサルコジ大統領の政治的思惑もあって、これまではギリシャはIMF支援受け入れを否定してきました。しかし、支援の意思の表明だけで、なかなか支援具体策が提示できないEUを牽制する意図もあってのIMF支援受け入れ容認発言のようです。

【「ギリシャ側から支援要請はなかった」】
そのEUによる支援の中心となると見られているのが、EU諸国のなかでも一番強い経済力を持つドイツです。
****直接の金融支援、不要で一致=独・ギリシャ首脳会談*****
ドイツのメルケル首相は5日、同国を訪問したギリシャのパパンドレウ首相と会談し、ギリシャの財政赤字問題で、ユーロ圏諸国による同国への直接の金融支援は不要との認識で一致した。
両首相は会談後に記者会見し、メルケル首相はギリシャ側から支援要請はなかったと指摘。さらに「ユーロの安定は脅かされていない」と強調した。
メルケル首相は、ギリシャ政府が今週、48億ユーロ(約5900億円)の財政赤字追加削減案を決め、これを議会が5日に可決したことを「大変な努力」と評価。一方で、早急な実行とさらなる措置を取るようクギを刺した。【3月6日 時事】
****************************

【せめて「ありがとう」くらいは言う必要がある】
EUという共同体とは言え、他国の財政赤字を自国の税金を注ぎ込んで救済することには強い抵抗があります。
ただ、放置すれば、その火の粉は自らにも及びます。
ギリシャ側にも“上から目線”の支援については抵抗感があるようです。
支援が期待されるドイツとギリシャの間には、双方の苛立ちが募っています。

****ギリシャとドイツの「救済ヒステリー」******
欧州の首脳は2週間ほど前、財政危機に陥ったギリシャの救済に向けてドイツに先導的な役割を委ねた。以来、両国の間には騒乱と混沌が広がっている。ドイツ人から見れば、ギリシャが米大手金融機関の力を借りて行っていた債務隠しから、年金制度を圧迫し財政赤字を招く平均定年年齢の低さ(61歳)まで、何もかもが腹立たしいようだ。
一方のギリシャ人は、ドイツの新聞は人種差別的であり、西ヨーロッパの指導者たちは自分たちに干渉しすぎだと非難している。(中略)
同国のテオドロス・パンガロス副首相はドイツ批判に歴史まで持ち出した。イギリスのBBCラジオとのインタビューで、30万人近い死者を出したとされる41年のナチスによるギリシャ侵攻について触れた。
「(ナチスは)ギリシャの銀行にあった黄金を奪った。彼らはギリシャから金を奪うだけ奪って、決して返金しなかった。これはいつか向き合わなければならない問題だ。何が何でも金を返せとは言わないが、せめて「ありがとう」くらいは言う必要がある。それに盗みや、経済的取引の詳細説明の不足についてあまり文句を言うべきではない」

結局のところ、こうした外交的な攻撃は誰にも恩恵をもたらさない。ギリシャ人はドイツの助けを求めていないし、ドイツ人はギリシャを救済する立場に置かれることを快く思っていない。しかしギリシャが助けを拒めば、待っているのは大量の失業と人口の国外流出、社会保障費の大幅削減、そして長引く不況だ。たとえ緩やかな緊縮財政対策に、富裕層への増税など大衆迎合的な政策を組み合わせても、うまく行かないだろう。
余談だが、「黄金には感謝している」とアンゲラ・メルケル独首相が言っても、ギリシャ政府には受けないと思う。【2月26日 アニー・ラウリー 「フォーリン・ポリシー」】
*****************************

【カネがないなら島を売れ】
今回会談でメルケル首相が「黄金には感謝している」と言ったかどうかは知りませんが、不満が募るドイツではこんな声も。
****カネがないなら島を売れ=財政危機のギリシャに-独******
財政危機に見舞われているギリシャはエーゲ海の島を売却し、赤字を穴埋めするべきだとの議論が、同じユーロ圏のドイツで浮上している。あまりに無神経な提案に、「両国間の世論が険悪になる」(独紙)との懸念もある。
独大衆紙ビルトによると、与党の一部政治家らが「破産者は所有物で金をつくらなければならない。ギリシャには借金の形にできる無人島がある」などと語った。ギリシャには3054の島があり、うち人が住んでいるのはわずか87という。
市場では、ギリシャが国家破綻(はたん)の瀬戸際に追い込まれれば、ドイツを中心とするユーロ圏諸国が救済せざるを得ないとの観測がある。ただ、放漫財政のツケが回ったギリシャへの「血税」投入にドイツ人の反発は根強い。
ギリシャのパパンドレウ首相は5日、メルケル独首相との会談後の記者会見で、「われわれは主権国家。島売却など問題外」と、余計な提案を一蹴(いっしゅう)した。【3月6日 時事】
*****************************

【「金持ちを助けるため、これ以上国民に犠牲を強いるな」】
肝心のギリシャ国内の再建策への反応ですが、負担増加・条件改悪への反発と、再建のためにはやむを得ないとの容認に、世論は二分されているようです。
労働組合など反対派は激しい抵抗を行っています。
先月24日、交通機関や学校、省庁、旅行社などが24時間ストを決行。約2万人が「金持ちを助けるため、これ以上国民に犠牲を強いるな」と叫びながら国会議事堂に向けて行進し、警官隊が催涙ガスを発射する騒ぎになっています。
3日に発表された、公務員ボーナスの30%削減や付加価値税引き上げ、高所得者増税などの緊縮財政策を受けて、更に厳しい抵抗が予想されています。

****ギリシャ公共・民間最大労組が3月11日にスト実施へ、労働力人口の半分に相当*****
ギリシャ最大の公務員労組連合組織「ギリシャ公務員連合」(ADEDY)と同国最大の民間企業労組連合組織「ギリシャ労働総同盟」(GSEE)は5日、同国政府が新たな緊縮財政措置を決めたことに反発し、11日にストライキを行う方針を示した。
GSEEの広報担当者は「3月11日の木曜日にストを実施する」と述べた。またADEDYを代表するIlias Iliopoulos氏は、同じく11日にストライキを実施するとした。同組織は当初16日にストを予定していたが、日程を前倒しした。
両労働組合にはギリシャの労働力人口の半分に相当する約250万人が加盟している。【3月6日 ロイター】
*****************************

【自らが蒔いた種】
しかし、2月25日ブログ「ギリシャ 財政再建策にゼネストで抗議 イギリス、日本は?」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100225)でも触れたように、ギリシャでは左派勢力が政権を担う期間が長く、公的部門が拡充され、就労人口の4割近くを占めるほど公務員が多くなっています。この非効率で社会保障制度が手厚い公的部門の拡大が財政悪化の原因になっています。また、社会全体に課税逃れが横行し、政府が把握できていない闇経済がGDPの30%以上に達するとも言われています。
こうした自らが蒔いた種は、自らの負担で刈るしかないように思えます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラク  7日連邦議会選挙 “中東で最も元気のいい民主国家”

2010-03-05 22:06:11 | 国際情勢

(バグダッドでの選挙集会 “flickr”より By Al Jazeera English
http://www.flickr.com/photos/aljazeeraenglish/4403694983/in/set-72157623416917237/)

【イラク流民主主義の誕生】
イラクでは05年12月以来の連邦議会選挙が明日7日に行われます。
一昨日のブログ「イラク 国民議会選挙 遠のく国民和解 強まるイランの影響」で、旧フセイン政権支配政党であるバース党関係者排除の動きによってスンニ派勢力が反発を強めており、「国民和解」実現が危ぶまれる状況となっていることや、イランの影響力拡大をしめす「バース党排斥委員会」を率いるチャラビ元副首相の行動などを取り上げました。

しかし、こうした悲観的な見方は事実誤認のようで、宗派間対立の懸念とか、仲裁にあたる米軍の縮小といった不安はあるものの、大枠としてはイラクにも民主主義が根付き始めているという非常に希望の持てる記事「イラク流民主主義の誕生 暴力への拒否反応と民主主義への情熱 終戦から7年、ようやく大きな転機を迎えた」がNewsweekの3月10日号にありました。

上記記事より若干抜粋すると、
**********************
“主要宗派すべてと多くの政党から約6100人が立候補、利害も野心も激しく対立している。それでも政治家の間には、みな同じイラク人だという意識が芽生えてきた。そして武力ではなく議論で決着をつけるようになってきた。以前なら大統領令(あるいは駐留米軍による有形無形の圧力)を用いるしかなかったような事案も、今は議会での議論を通じて決まるようになった。”

“(バース党との関係から立候補が認められなかったスンニ派有力議員ムトラク氏の件については)大切なのはそれで何が起きたかではなく、何がおきなかったかだ。この後、暴力に訴える動きは起きず、ムトラクも選挙ボイコットの呼びかけをやめた。立候補を表明しながら候補者リストから除外された人数は、結局150人程度。シーア派による魔女狩りだとか、クルド人の陰謀などと、テレビでスンニ派の政治家が怒鳴ることもなかった。その他の有力なスンニ派の政治家も低姿勢を保ち、その事実のほうがかえって注目された。”

“(立候補者のひとりアルルバイエ氏は)「私たちは妥協という技を学んだ。ある法案に関してはクルド人とシーア派が組んでいる。シーア派がスンニ派と、またスンニ派がクルド人と組むこともある」、(米政府高官は)「この国の政治家たちは争ってばかりいるが、それでも必要な数の支持を集めて法案を成立させている」”

“今のイラクでは、もはや有権者が宗派別の候補者リストに無条件で従うことなど期待できない。”

“イラクのメディアは中東では最も自由かつ大胆に報道を行っている。800余りのテレビ、新聞、ラジオが政治家や財界人の不正を果敢に追跡しているのだ。女性たちも声を上げるようになり、地方議会の議席の25%を女性が占めるまでになった。最も心強いのは、イラク軍が国民に信頼されるようになったことかもしれない。宗派間の緊張が高まったり、米軍が撤退すれば、(今も爆弾テロを繰り返している)テロ組織が再び活発になるという見方もある。しかし、もはや中央政府が機能停止に追い込まれるような事態にはならないだろう。第一、国民のほとんどが暴力には拒否反応を示す。”

“(イランの革命防衛隊の特殊部隊であるクッズ部隊のイラク国内での活動もへっており)「以前は月に1回くらい来ていたが、最近では6、7か月に1回になった。クッズの指揮官はイラン国内の作戦に追われ、イラクに構っていられないらしい」”

“イラクの民主主義はまだうまれたばかりだが、レバノンを除いて、イラクはいま中東で最も元気のいい民主国家だろう。(莫大な石・天然ガス資源を有する)新生イラクは地域の大国として、サウジアラビアやイランの双方を脅かすような大国として、頭角を現しつつある。善かれ悪しかれ、民主的かどうかはともかく、新生イラクは中東地域で一目置かれる大国になるだろう。これがアメリカの勝利のほろ苦い現実だ。”
*********************

そこまで楽観視していいものか・・・という感もありますが、選挙後も、是非とも同様の見方でいられることを期待したいものです。
それにしても、とかく女性の社会進出や人権が問題となるイスラム国家のイラクで女性議員が地方議会で25%とは・・・日本の民主主義も改めて考え直す必要があるかも。

****女性議員数18.8%に=日本は97位-187カ国の国会調査****
世界各国の議会関係者らで組織する列国議会同盟(IPU)は4日までに、各国国会(187カ国)での女性議員(上院を含む)の割合について、平均値が2010年1月末時点で18.8%に達したと発表した。15年前の1995年(11.3%)から7ポイント以上アップした。
国別ランキング(日本は衆院)では、1位はルワンダ(56.3%)、2位はスウェーデン、3位は南アフリカ共和国。日本は97位(11.3%)で、前年の104位から順位を上げたものの、55位の中国、81位の韓国に水をあけられた。【3月5日 時事】
***************************

あと、シリアの影響を受けたヒズボラの存在で政治が膠着しがちだったレバノンが、そんなに“中東で最も元気のいい民主国家”だとは知りませんでした。

【続投を狙うマリキ首相派に勢い】
それはともかく、イラクでは選挙妨害のテロも報じられています。
****イラク議会選の事前投票始まる、自爆攻撃相次ぎ14人死亡*****
イラクで4日、治安要員や服役囚、入院患者らによる連邦議会選挙の事前投票が7日の本投票に先立ち行われた。その一方で投票所を狙った自爆攻撃などが相次ぎ、兵士7人を含む14人が死亡、48人が負傷した。
選挙を控えたイラクでは、国際テロ組織アルカイダのイラク内勢力の指導者、アブオマル・バグダディ師が「武力による」選挙妨害を予告していることから厳重な警戒態勢が敷かれており、首都バグダッドだけで治安要員20万人が配備されていた。【3月4日 AFP】
****************************

そういった問題はあるものの、新生イラクに向けた総選挙が実現しそうです。
情勢は、地方選挙で圧勝したマリキ首相の勢いがやはり強いことが報じられています。

****米軍撤退に影響も=7日に議会選、首相派が優勢-イラク*****
2003年のイラク旧フセイン政権崩壊後2回目となる連邦議会選(定数325)の投票が7日実施される。11年末までの米軍完全撤退に向け、治安回復や政治の安定を担う新政権の姿を決める選挙となり、結果は撤退日程に影響を及ぼしそうだ。
今回は前回選挙をボイコットしたイスラム教スンニ派勢力も参加、正統性のある選挙の体裁が整った。内戦の瀬戸際に陥った宗派間抗争で多数の犠牲者が出たのに嫌気した世論を背景に、各派を糾合したマリキ首相率いる「法治国家連合」や、アラウィ元首相の世俗勢力「イラキーヤ」が最有力となっている。ただ、単独過半数はあり得ず、連立協議が選挙後の焦点となる。
両勢力に、シーア派のイスラム最高評議会や強硬指導者サドル師派が連携する「イラク国民同盟」、クルド2大政党の統一会派「クルド同盟」が絡む展開で、計約6200人の候補が争う。宗派間対立を収めて治安回復へ道筋を付けたマリキ首相は続投を狙っており、他勢力を突き放して権力基盤を固めたい考えだ。【3月5日 時事】
**************************

クルド人系はクルド愛国党(PUK)、クルド民主党(KDP)の2大既成政党に加え、昨年7月の自治議会選挙で躍進した「変革運動」も国政進出を図っています。新生イラクにおいては、アラブ系中央政府とクルド自治政府の緊張(キルクークの自治区への編入問題や石油利権の問題)は非常にデリケートな火種となります。

とにもかくにも、新生イラクが民主主義国として、今回選挙でその基盤を固めることができることを願います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポルトガル  正書法の統一、「ブラジル式」へ 英断か、文化の放棄か

2010-03-04 22:19:09 | 国際情勢

(ポルトガル・リスボンの大航海時代を記念したモニュメント どの国も栄枯盛衰はあります。おそらく日本にも。中国にも。“flickr”より By sterol.andro
http://www.flickr.com/photos/sterolandro/2231797642/)

【ポルトガル文化をブラジルの「市場の力」に明け渡すも同然・・・】
ポルトガル語を公用語とする国は、ポルトガルが世界中に植民地を持っていた大航海時代の歴史によって、下記のように相当数あります。
欧州:ポルトガル
南米:ブラジル
アフリカ:アンゴラ、カーボベルデ、ギニアビサウ、サントメ・プリンシペ、モザンビーク、赤道ギニア
アジア:東ティモール、マカオ

現在ポルトガル語を話す2億3000万人のうち、推定1億9000万人がブラジルに暮らしているということで、ブラジルの占めるウェイトは圧倒的です。
ポルトガル本国のイベリアポルトガル語とブラジルポルトガル語では、若干の差異があるそうです。
英語でも、イギリスとアメリカでは異なりますし、世界各国の英語は、それぞれの地域で特徴をもっています。

ただ、上述のようにブラジルのウェイトが圧倒的で、なおかつ、今後ブラジルは“新興国”の代表国として、世界への経済的・政治的影響力が更に高まると見られていることもあって、ポルトガル本国においてもブラジル式のつづリに統一することになっているそうです。
当然ながら、“ポルトガル文化をブラジルの「市場の力」に明け渡すも同然だ”といった反発もあります。

****ポルトガル語圏で「ブラジル式」に表記統一へ、国民は混乱*****
2010年03月02日 10:54 発信地:リスボン/ポルトガル
ポルトガル語を母国とする国々での正書法の統一が、ポルトガル国内でもようやく始まりつつある。しかし、統一的に実施されていないため、多くのポルトガル国民が混乱しているという。
ポルトガルの文字改革は20年以上の議論の末、「ブラジル式」にしていくことで2008年にポルトガル議会で承認された。現在は報道機関が中心となって新たな「つづり」の採用をすすめているものの、政府は学校教育などで二の足を踏んでいる。

■混乱するポルトガル国民
ポルトガル政府は新正書法の2014年までの移行を打ち出しているが、教育省は新正書法の実施をたびたび延期しており、学校では2014年まで新旧両方の正書法を採用するとしている。
また、新聞社の多くも「漸次的な」移行を行うとしており、ある地方紙は「当面は約70%ほど」改正を採用するとの考えを表明しており、こういったことが住民の混乱にさらに拍車をかけている。
「改革が矛盾に満ちている」として採用を拒否しているポルトガル日刊紙プブリコのヌーノ・パチェコ共同責任者は、「(改革は)バカげている」と述べ、「子どもたちは学校で教わったものと違う正書法で書かれた新聞を読むことになる」と語る。
一方、教師のエリザベート・ロドリゲスさんは、新正書法に表記を改める際の規則が複雑な点を指摘している。

■正書法の共通化がもたらすもの
現在ポルトガル語を話す2億3000万人のうち、推定1億9000万人がブラジルに暮らしている。正書法を統一することで、インターネットの検察が容易になり、法的文書の共通化がますます進み、ポルトガル語の映画や書籍の市場が拡大することになるとされている。
2月初めに改革支持を打ち出したポルトガルLusa通信の情報関連責任者のルイス・ミゲル・ビアナ氏は、「正書法の共通化は、特にブラジルなどで巨大な市場を開くことになる」と語った。
一方、言語学者のアントニオ・エミリアーノ氏は、「正書法の改悪だ。ブラジルの拡大のための政治の道具になっている」と主張する。元植民地のブラジルですでに進められているこの文字改革について、エミリアーノ氏ら反対派は、ポルトガル文化をブラジルの「市場の力」に明け渡すも同然だと主張している。【3月2日 AFP】
*********************************

【漢字の統一は?】
ブラジルですでに進められているこの文字改革が、本国ポルトガルの文字とどれほど違うものか全くわかりませんが、旧宗主国ポルトガルの文化的反発・抵抗は当然のこととして、ある意味では“よく踏み切ったものだ・・・”と感心する部分もあります。

先ほどは英語の話をしましたが、日本語で言えば漢字の統一でしょうか。
中国の簡体字、台湾の繁体字、そして日本の漢字・・・それぞれのスタイル・歴史がありますが、人口的にも圧倒的で、新興国の旗頭でもある中国の簡体字に統一しようか・・・なんて話は、今のところありえません。
それを思えばポルトガルの方針は、相当の決断です。

【ブラジル大統領選挙】
一方、日の出の勢いのブラジルは、今年大統領選挙が予定されています。
経済の急成長や2016年リオデジャネイロ夏季五輪招致などの実績を上げた左派ルラ大統領の人気は絶大ですが、憲法の規定で次期大統領選には出馬できません。

****大統領の後継候補は元ゲリラの女性官房長官 ブラジル****
今年10月に予定されるブラジル大統領選挙で、ルラ大統領の与党・労働党は後継の公認候補に女性のルセフ官房長官(62)を擁立することを決めた。当選すれば、ブラジル初の女性大統領になる。
ロイター通信や地元報道によると、ルセフ氏は1964年から85年まで続いた軍政下で左翼ゲリラの抵抗運動に加わり、3年間の投獄経験もある。経済学者でもあり、鉱業・エネルギー相も務めた。
大統領選には、前回ルラ大統領に敗れたセラ・サンパウロ州知事が野党・ブラジル社会民主党から立候補する見通しだ。世論調査ではセラ氏が約35%の支持を集め、ルセフ氏を10ポイント以上リード。ルセフ氏は貧困層の底上げを図るルラ大統領の政策維持を訴え、支持を伸ばしつつある。【2月25日 朝日】
************************

コロンビアのウリベ大統領以外は左派が政権を担う南米ですが、ルラ大統領の後継候補ルセフ氏の支持は低迷しており、ブラジルでは左派政権が一旦終了するのではないかと予想されてきました。
“ルセフ氏は貧困層の底上げを図るルラ大統領の政策維持を訴え、支持を伸ばしつつある”とありますし、ルラ大統領のテコ入れもあるでしょうから、今後のルセフ氏の伸びはどんなものでしょうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラク  国民議会選挙 遠のく国民和解 強まるイランの影響

2010-03-03 22:52:40 | 国際情勢

(候補者の選挙用ポスターが溢れるバグダッドの街角 “flickr”より By ZAMMILIAT ALNUSSIMIA ALSULTANIA
http://www.flickr.com/photos/a35m40/4395668436/)

【危ぶまれる「国民和解」】
イラクでは7日の国民議会選を前にした選挙妨害の爆弾テロが起きています。
****イラク中部でテロ、30人超す死者 選挙控え妨害か****
イラク中部バクバで3日、警察署や病院を標的とした連続爆弾テロがあり、AFP通信によると少なくとも33人が死亡、55人が負傷した。7日投票の国民議会選挙の妨害を予告するアルカイダ系スンニ派武装勢力による計画的な同時多発テロの可能性がある。(後略)【3月3日 朝日】
************************

今回の選挙は宗派・民族を超えた「国民和解」を実現し、アメリカ撤兵後に向けた基礎を固める重要な選挙ですが、マリキ政権側による、旧フセイン政権支配政党のバース党関係者排除の動きによって、スンニ派勢力が反発を強めており、「国民和解」実現が危ぶまれる状況になっています。

****イラクのスンニ派政党、選挙ボイコットを表明 *****
バグダッド(CNN) 来月7日に行われるイラク国民議会選挙について、イスラム教スンニ派の政党「イラク国民対話戦線」が20日、ボイコットの意向を表明した。イラク駐留米軍のオディエルノ司令官およびヒル駐イラク米大使が、選挙に対するイランの影響力行使について発言したことへの対応だとしており、スンニ派とシーア派、クルド人の和解に向けた歩みは後退したとみられている。
同党の有力指導者サレハ・ムトラク氏は先日、フセイン元大統領の政党で現在非合法化されているバース党寄りとの理由で、立候補禁止措置を受けた。同会派はこの決定が、イラン寄りのシーア派与党勢力による政治的陰謀だとの見解にある。
オディエルノ司令官は先日、米軍が直接入手した情報として、ムトラク氏の出馬を禁止した委員会のアハメド・チャラビ氏ら2人が、イラン革命防衛軍のエリート組織「コッズ部隊」の司令官とイラン国内で協議しており、選挙結果の操作に関与していると発言。ヒル大使も、2人がイランの影響下にあるとコメントした。
イラク国民対話戦線は、ムトラク氏がアラウィ元首相らと今回の選挙に向けて設立した世俗派の会派「イラク国民運動(INM)」に参加しており、他党にも選挙ボイコットを促している。【2月21日 CNN】
************************

【アメリカの思惑 イランの影響力】
「国民和解」が実現できず、再び宗派対立が火を噴く事態となると、アメリカの出口戦略も狂ってきますし、イラクのスケジュールが狂うと、アフガニスタンへの兵力転換にも支障がでます。
また、イラクも予定通りいかない、アフガニスタンも泥沼・・・・では、アメリカ国内世論をなだめることも難しくなります。

アメリカはイラク侵攻でバース党関係者を排除しましたが、今となっては「国民和解」への形をつくるためにも、また、イランの影響力を抑えるためにもバース党関係者を含めたスンニ派の政治参加を求めています。
しかし、マリキ首相やチャラビ元副首相などを通じて、イランの影響力が強まる気配をみせています。

****イラク選挙 後ろ盾の影****
マリキ首相・・・イランが影響力 対立会派・・・米が対抗し支援

イランの影響力を受けているとされるのが、4年前に首相に就任したマリキ氏だ。
宗派主義を脱した「強い国家指導者」像を打ち出し、治安改善を追い風に昨年1月の地方選挙で圧勝。その勢いで、イランの影響力が強いシーア派与党会派を割って超党派の会派「法治国家連合」を結成した。
宗教・宗派や民族にとらわれない「国民政党」を打ち出し、今回の選挙での躍進をもくろんだ。イランとも距離を置く姿勢を示していた。
ところが、昨夏の首都バグダッドからの米軍撤収に合わせるかのように大規模な爆弾テロが相次いで発生、威信と求心力が低下した。
「国民政党」の看板では選挙を戦えないとみてか、基盤のシーア派民衆の支持獲得に力点を置き、旧フセイン政権の支配政党バース党復活の恐怖や治安確保の重要性を訴える戦略にかじを切っている。

マリキ氏が標的にしているのが、米国の支援を受けると言われる世俗派のアラウィ元首相(シーア派)やハシミ副大統領(スンニ派)らの会派「イラク国民運動」だ。
この組織の中核の一人でスンニ派有力政党を率いるムトラク議員に対し選挙運動開始直前の先月、バース党と関係があったとして立候補禁止の最終判断が出た。立候補禁止を企てたのは、シーア派主導の現政権で「バース党排斥委員会」を率いるチャラビ元副首相。
ブッシュ前政権にイラク侵攻を働きかけた人物で、戦後、米国の信頼を失い、現在はイランに近いとされている。
これに対し、米国は「チャラビ氏はイラン政権中枢と関係がある。イランはイラクの選挙結果に影響を及ぼうとしている」(オディエルノ駐留米軍司令官)と警戒を強め、バイデン副大統領らが立候補禁止措置の見直しを働きかけた。米国はイラク戦争後、バース党排除を主導した。
今ではイランの影響力が強まるのを避けるため、元党員の政治参加を求めるという方針転換を強いられる状況となっている。
米国はイランの影響力拡大に神経をとがらせているが、これ以上露骨な介入はできず、手をこまねいている状況だ。
一方、イランのアフマディネジャド大統領は「米国がイラク侵攻で追い出したはずのバース党員を今になって政界に復帰させるよう圧力をかけ、イラクの選挙に介入している」と批判している。【3月2日 朝日】
**************************

この件に関しては、アフマディネジャド大統領の言い分は、筋は通っています。
いったい何のための戦争だったのか・・・という感もします。
ただ、そう言っても、再び宗派対立が激化する事態は避けねばなりません。

【アフマド・チャラビ】
アメリカに取り入りイラク戦争開戦でも暗躍したチャラビ氏は、今ではイランの代理人的な活動を行っています。
チャラビ氏のイラク戦争開戦当時の活動については、次のように紹介されています。

****戦争詐欺師 “戦争に引き込んだ男”アフマド・チャラビとは何者か****
もともとブッシュ政権が誕生するより前から、「イラク打倒」「サダム・フセイン打倒」をライフワークにしていたイラク人亡命者の一群が、米国の安全保障サークルで影響力を増しつつあったネオコン・グループと合体しました。1990年代の後半のビル・クリントン政権の頃です。
実はこの頃から、ワシントンではこのグループが中心となって、サダム・フセインを倒すことを目的にした運動が活発に展開されていました。彼らは税金で活動していました。
このグループは米議会を巻き込んだ「反フセイン運動」を展開させ、98年には「イラク解放法」という法律を成立させることに成功しました。
これは「米政府がイラクの政権交代のために努力しなくてはならない」と定めた法律で、事実上、米国によるイラクの「レジーム・チェンジ」を正式な政策として位置づけた法律です。私がインタビューをしたある国務省高官は、「2003年のイラク戦争の直接的な出発点は、このイラク解放法だった」と証言しています。

この法律の下、フセイン政権転覆を目的とした反フセイン政府活動を支援する予算が正式に誕生し、この米政府から支払われる活動資金を使って前述したイラク人亡命者やネオコンの一部が反フセイン政府活動を開始していたのです。
一度このように米政府の予算がついてしまうと、いったん流れた資金を継続的に受け取れるようにするため、フセイン・イラクの脅威を訴え続ける必要があります。そこでワシントン内で仲間をつくり、ロビイストを雇い、議会や世論にイラクの脅威を訴えて、資金が継続的に流れるような組織に変貌していった。
この反フセイン運動の中心にいたのがアフマド・チャラビという謎の多い亡命イラク人で、彼は「イラク国民会議(INC)」という組織をつくりました。彼は後に「イラクは大量破壊兵器を開発している」ということを「裏づける」情報をたくさんメディアやブッシュ政権に流しました。
本当であろうとウソだろうと別に構わない。米国を戦争に駆り立てるのが彼の仕事だったからです。
こうして「イラク反体制ビジネス」とでも言う利権の集団が出来まして、2001年にブッシュ政権が誕生すると、この利権グループのメンバーだったり、このグループと近い人たちが多数政権の中枢、特に中東政策に大きな影響力を行使できるポストに就いたのです。
ポール・ウォルフォウィッツ元国防副長官だとか、ダグラス・ファイス元国防次官などはチャラビの大の仲良しで、この利権集団の一部でした。

私はアーミテージ元国務副長官に、「ブッシュ政権の対中東外交は、こうしたイラク反体制ビジネスの集団にハイジャックされてしまいましたね?」と聞くと、「全くその通りだ」と答えていました。
もちろんアーミテージを含む国務省はCIAと組んでこの集団(その中心がネオコン勢)と真っ向からぶつかって激しい政策闘争を展開しました。CIAとチャラビのグループとの関係も複雑です。詳しくは拙著をお読みいただきたいのですが、ブッシュ政権が出来た時には完全に敵対関係にありました。
ですからCIAは何とかチャラビたちの影響力を削ごうと水面下でこの集団に対する秘密戦争を行っていました。ブッシュ政権の当時の対イラク政策や、戦後イラクの統治政策を巡る混乱は、この政権内部での「抗争」の実態を知らないと全く理解できないわけです。【09年5月8日 菅原出 日経ビジネス】
***************************

イラク戦争直後の一時期、米ブッシュ政権との個人的パイプから「首相候補ナンバー1」とされたチャラビ氏は06年1月の国民議会選挙では落選していたはずですが・・・。
なんとも怪しげな人物ですが、世界の大国アメリカも、戦争に引きずり込まれたあげく、宿敵イランの影響が強まるとあっては、憤懣やるかないところでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウクライナ  親露派ヤヌコビッチ新大統領、EU訪問で「東と西の懸け橋」を強調

2010-03-02 21:51:13 | 国際情勢

(イエジ・ブゼック欧州議会議長(右)と共同会見するウクライナのヤヌコビッチ新大統領(左) 新大統領は「EUとの協調は、改革を加速させる」と語っています。
“flickr”より By European Parliament
http://www.flickr.com/photos/european_parliament/4398937776/)

【ティモシェンコ首相、失脚】
ヤヌコビッチ前首相(親ロシア派の「地域党」党首)とティモシェンコ首相(オレンジ革命の立役者)の間で争われたウクライナ大統領選挙は、ヤヌコビッチ前首相の勝利に終わりました。

僅差の勝負となったこともあって、ティモシェンコ首相は敗北を認めていませんが、不正投票があったとして最高行政裁判所に提訴していた件については、「裁判所の形式的な審理は無意味だ」と、その訴えを取り下げました。
ただ、首相職の辞任は拒否していましたが、ティモシェンコ首相の内閣を支えてきた連立与党会派が2日崩壊し、国会は3日、ティモシェンコ内閣への不信任案を可決し、辞任を拒否している首相の解任を正式に決定する見込みとなっています。
新首相選出が難航すればティモシェンコ氏が首相代行として留任して政治混乱が続く可能性もあり、新大統領の手腕が問われるとも報じられています。

“30日以内に新首相を選出できなければ、大統領は国会を解散できる。だが、国際通貨基金(IMF)は、政権の早期安定を経済支援の条件にしている。解散による混乱の長期化は、新大統領にとって避けたいところだ。
ヤヌコビッチ大統領は新首相候補として、自身が党首の「地域党」(171議席)議員で側近のアザロフ元第1副首相ら3人を挙げている。ただ、同国では大統領に首相の任免権はなく、国会(定数450)の過半数を占める与党会派による首相候補指名がまず必要になる。”【3月2日 毎日】

【東西どちらを「優先」すべきか・・・】
ティモシェンコ首相は親欧米派とはいいつつも、ユーシェンコ大統領のとったロシアとの対決姿勢を改めて、ロシアとの協調も重視する姿勢を示し、プーチン・ロシア首相との関係も良好なことから、どちらが勝ってもロシアとの関係改善が進むと見られていた選挙でした。

ただ、そうは言いつつも、親ロシア派の新大統領誕生で、西欧とロシアの境界に位置するウクライナが今後どのような方向に進むのかが注目されています。
選挙戦ではヤヌコビッチ新大統領は、ロシア一辺倒は排除する姿勢も見せていました。

さしあたっては、新大統領がロシアと西欧、どちらに先ず訪問するのかに関心が寄せられていました。
“外交政策では就任後、最初の外遊先にどこを選ぶかが焦点に浮上している。新大統領は20日、ロシアのメドベージェフ大統領に3月初めの訪露を約束したが、今週になって、これに先立ちブリュッセルの欧州連合(EU)本部を訪れるとの情報が流れた。東西どちらを「優先」すべきか苦吟しているとの報道もある。” 【2月25日 毎日】

【「欧州の非同盟国家を目指す」】
この件に関しては、ヤヌコビッチ新大統領は欧州・EUを選択しました。
****ウクライナ:新大統領、EU首脳と会談 協力維持を強調****
ウクライナのヤヌコビッチ新大統領が1日、ブリュッセルを訪れ、欧州連合(EU、加盟27カ国)のファン・ロンパウ欧州理事会常任議長(大統領)、バローゾ欧州委員長らと相次いで会談した。親露派とされる大統領だが、2月25日の就任後、最初の外遊先にEUを選び、経済・エネルギー分野などで欧州との関係を強化する姿勢を強調した。

5日のモスクワ訪問に先駆けてのブリュッセル入りを欧州側は「EUウクライナ関係の重要性を示すもの」(ロンパウ議長)と歓迎している。ヤヌコビッチ大統領は記者会見で外交の重点政策として(1)EUへの統合(2)ロシアとの建設的な関係(3)米国との友好関係--を挙げ、「東と西の懸け橋」の役目を果たす考えを強調した。
一連の会談ではウクライナ経由で欧州に運ばれるロシア産天然ガスの安定供給問題が話し合われた。ロシアによるウクライナ向けガス供給停止のあおりを受けてきたEUは再発防止を求めており、ヤヌコビッチ大統領はロシアとの関係改善と国内のガス産業部門の改革によって欧州向けガスの安定供給に努める考えを強調した。

EUはユーシェンコ前大統領時代にウクライナを「欧州国家」と規定し、貿易を自由化する「連合協定」の締結交渉を開始した。交渉はウクライナ内政の不安定化で遅れてきたが、双方は1日の会談で「1年以内の妥結」を目指す方針を確認し、相互の査証免除協定の締結に向けての行程表作成で合意した。
ウクライナの安定を望むEU側はヤヌコビッチ大統領に対し、経済危機から脱却するための経済・政治改革を促した。国際通貨基金(IMF)は政治混乱の収拾を対ウクライナ融資の再開条件にしており、EUは新政権による改革努力を支援する用意を表明した。

ユーシェンコ前大統領は欧米の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO、加盟28カ国)への加盟方針を掲げ、ロシアの反発を招いた。ヤヌコビッチ大統領は「欧州の非同盟国家を目指す」とNATO非加盟路線を宣言しており、経済・政治分野主体のEUとは関係が強化される可能性がある。【3月1日 毎日】
***************************

【ロシアの懸念】
ロシアは、最初の訪問はEUに譲った形となりましたが、親ロシア派政権誕生でウクライナがNATOに加盟するという最悪の事態は避けられることになり、安全保障上の懸念はひとまず払拭されました。
ただ、経済危機にあえぐウクライナが対ロシア関係改善にかじを切っても、ロシアが得るものは少なく、かえって財政面などで負担が増えるとの懸念も出ているとも報じられています。

****ウクライナ新政権 親露派なのに喜べぬロシア 歓迎ムード…本音は財政負担懸念****
半面、大きな代償を強いられると懸念する識者も、ロシア国内では少なくない。
ストロカン評論員は露コメルサント紙で、ウクライナが国際通貨基金(IMF)の財政支援に依存している現状に触れ、「(ウクライナ新政権が)どの国にまず借金を申し込むかは明らかだ」と分析。ヤヌコビッチ氏がロシアの天然ガスをより安価で購入できるよう契約を見直す意向を表明していることから、政治評論家のラジホフスキー氏は政府系ロシア新聞で、「(新政権が)『親露国家への割引価格』を要求してこなければ幸いだ」と評した。
民主化政変「オレンジ革命」から5年。念願の親露派政権発足が現実味を増す一方で、ロシアがウクライナを持てあます局面も出てきそうだ。【2月22日 産経】
****************************

これまで再三問題を引き起こしてきた天然ガスの価格交渉(西欧側からすれば、天然ガス安定供給の問題)が、今後ウクライナ・ロシア間でどのように扱われるかが注目されます。

【最大の過ちは「ティモシェンコ」】
ところで、大統領選挙後の一連の報道の中で最も面白かったのは、予想通り1回目の投票で惨敗したユーシェンコ前大統領が「5年間で最大の過ち」について、「ティモシェンコ(首相を任命したこと)」と指摘したコメントでした。【2月17日 毎日より】
ユーシェンコ前大統領のティモシェンコ首相への“恨み”が、切実に伝わります。
オレンジ革命を導いた両者の不毛の対立が政治的空白を生み、経済悪化に適切に対応できず、結果的にヤヌコビッチ新大統領誕生へとつながったと言えます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする