孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリスでのロシア関与が疑われる二重スパイ襲撃事件に関する“個人的な印象”

2018-03-21 23:14:04 | 欧州情勢

(墓地を除染する化学防護服の係官(木村正人氏撮影)【3月13日 木村正人氏 YAHOO!ニュース】)

激しい非難・報復の応酬で吹き飛んだEU離脱問題
イギリス南部ソールズベリーで今月4日、イギリス側の二重スパイでロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)のセルゲイ・スクリパリ元大佐(66)と長女ユリアさん(33)が、町の中心部にあるショッピングセンター前のベンチで意識不明の状態で見つかった事件で、イギリス側は2人はロシアの猛毒神経剤「ノビチョク」によって襲われたとしており、ロシア側は事実無根と反発、これまでも良好ではなかった英ロ関係は「新冷戦時代に突入した」と言われるほど悪化していることは多くの報道のとおり。

多くの報道がありますので、事件の詳細、スクリパリ元大佐の経歴、これまでの英ロ双方の反応・報復合戦の内容などは省略します。

当然ながら事件の真相はわかりません。

あくまでも“個人的な印象”ということになりますが、今回事件で最初に感じたのはイギリス側が随分強気というか、強硬な姿勢を早くから示していることです。

メイ英首相は12日、下院で演説し、襲撃に使用された毒物は旧ソ連が開発した軍用神経剤「ノビチョク」と特定し、「非常に高い可能性」でロシアが関与していたとの見解を明らかにしています。

更に14日には、ロシアへの報復措置として、ロシア人外交官23人を追放すると発表。

16日には、ジョンソン外相が「(ロシアの)プーチン大統領が神経剤の使用を決定した可能性が極めて高い」とプーチン大統領を名指しして非難。

これだけ一気に強硬姿勢をとるからには、イギリス側は相当に“確証”を持っているのだろう・・・と考えてしまいます。

イギリス側の強硬な対応もあって、これまでイギリス関連の話題というとイギリスにとってあまり順調とは言い難いEU離脱の話題ばかりでしたが、事件を境に、この事件の記事ばかりに一変しました。

イギリスのEU離脱にとってはひとつの節目となる決定も19日にはあり、イギリスは今後どうするつもりなのか?という重要な問題もあるのですが、事件に吹き飛ばされた感もあります。

****<英EU離脱>移行期間で合意 20年末まで単一市場残留****
英国と欧州連合(EU)は19日、英国が2019年3月末にEUを離脱した後の激変緩和措置である「移行期間」の導入で合意した。

20年末までの1年9カ月、英国はEUのルールに従うことを条件に単一市場と関税同盟にとどまる。EUのバルニエ首席交渉官は、英国のデービスEU離脱担当相と共同で記者会見し、「決定的な一歩だ」と述べた。
 
移行期間の協議は今年始まり、離脱日まで約1年と迫る中、双方は不透明な先行きに対する経済界の懸念を払拭(ふっしょく)する必要に迫られていた。

移行期間中の英国はEUへの拠出金の支払いを続けるが、EUの政策に関する議決権は与えられない。また英国は現在、米国や日本などEU外の第三国との自由貿易協定の交渉が認められていないが、離脱直後から可能になる。
 
英EUは同日、手切れの清算金や英国に暮らすEU加盟国出身者の権利保障などを定めた「離脱協定」の草案も発表した。

移行期間の規定も盛り込まれた協定草案は現時点で7割程度で合意しており、双方は今秋の最終合意を目指す。

アイルランドと英国との間に新たに生じる国境の管理を巡り依然として溝があり、国境問題が長期化して離脱協定の批准が遅れれば、移行期間が導入されないまま離脱を迎える可能性も残る。バルニエ氏は「(交渉は)まだ終わりではない」と強調した。
 
EUと英国は来月から、離脱後の自由貿易協定について準備協議に入る見通し。【3月19日 毎日】
*******************

移行期間についてイギリス側は、離脱する19年3月末から「2年程度」を軸に、延長も可能な移行期間を設けることを求めていましたが、長期化を警戒するEU側の線で決着したということでしょうか。(事件以外の報道が少ないので、詳細・事情がよくわかりません)

そもそもイギリス国内の離脱強硬派は、カネは出すが議決権はなく、EU決定に従う・・・といった移行期間を了承しているのでしょうか?

「(交渉は)まだ終わりではない」どころか、アイルランドとイギリスとの間に新たに生じる国境の管理をどうするのか、EUの言うように北アイルランドを手放すような形を承諾するのか、それとも北アイルランド紛争を再燃させるリスクのある国境管理に戻るのか・・・といった初歩的な問題をはじめとして、問題山積状態です。

事件のおかげでこうした深刻な問題も、当面はどこかへ行ってしまったようです。
イギリス側が異例なほど強硬姿勢に出ているのは国民の目をそうした問題からそらすためでは・・・というのは“下種の勘繰り”で、そんなことを言うつもりは全くありませんが、結果的にはそういった状況にもなっています。

なお、EU離脱後は、イギリスは今回のような事件でも、EUのバックアップを期待することなく、ロシアと“単独”で対峙する形にもなります。政治的な差はやはりあるのではないでしょうか。

ついでに言えば、大統領選挙を控えたロシア・プーチン大統領の側も問題をエスカレートさせることは、「再び欧米がロシアに不当な圧力をかけている」という形で、ロシア国内の愛国意識に訴え、プーチン支持に結びつけるという点では好都合だったのかも。(ロシア側は、大統領選挙前という微妙な時期にあえて犯行をおこなうことはあり得ないと言っていますが、ロシア国内の欧米に対する被害者意識を考えると、逆のようにも思えます)

どうして“犯人はロシアである”と宣言するような方法で? “見せしめ”を明確にしたかった?】
事件の“個人的な印象”の二つ目は、仮にロシアがやったとして、どうしてロシアの犯行と特定される「ノビチョク」など使ったのだろうか?という疑問です。

「ノビチョク」については、以下のようにも説明されています。

***************
OPCWの元日本代表団長代行で重松製作所の濱田昌彦主任研究員は「ロシア側には強弁できる理由がある」と指摘する。「ノビチョク」は成分の詳細が分からないため、化学兵器禁止条約の規制対象リストに含まれていないというのだ。

化学兵器の開発や保有を禁じる同条約の基本理念には反するが、禁止対象でない以上、仮にロシア側がこの神経剤を開発・保有していても、条約を守っていると言い逃れができる。
 
ノビチョクは2種類の物質を混ぜてできる「バイナリー兵器」とも呼ばれる。その毒性は、昨年2月に金正男(キム・ジョンナム)氏殺害事件で用いられた神経剤VXの5〜8倍とされるほど強い。

混合前の物質はそれぞれ、ほとんど無害なうえ、条約違反にもならない。また、VXやオウム真理教が使用した神経剤サリンと異なり、分解後に特有の物質が残らないため使用を立証することが難しいという。【3月21日 毎日】
********************

一般的に人を殺すなら、暗闇で後ろから殴るとか、車でひき殺すといった単純な方法が、一番ばれにくいように思われます。

にもかかわらず「ノビチョク」なんて“犯人はロシアである”と宣言するような方法をとったことに関する一つの推測としては、“ばれるはずはない”と高をくくっていた・・・という理解です。

“事件の容疑者は、使用した神経剤がノビチョクと特定されないと踏んでいた可能性がある。しかし、世界有数とされる英国の化学兵器分析能力により正体は暴かれた。”【同上】

それでも、殺しのプロなら、もっと簡単確実な方法があるだろうに・・・とも思ってしまいます。

もうひとつ考えられるのは、“犯人はロシアである”と宣言したかった・・・という推測です。何のために?祖国の裏切り者の最後はこうなるという“見せしめ”のためです。

ロシア側、プーチン大統領はかねてより、スクリパリ元大佐に関する怒りをあらわにしていたとも報じられています。

また“「裏切り者」であるうえ、英情報機関当局者との接触を繰り返していた元大佐の行動が、ロシア側の「レッドライン(許容限度)を超えた」とする見方もある。”【3月21日 毎日】とも。

****ロシア元スパイ暗殺未遂 プーチンは「彼らは友人や仲間を裏切った****
・・・・英情報機関に情報を流し、二重スパイだった同氏は、2004年に逮捕され、国家反逆罪で服役したが、10年の米露間のスパイ交換で釈放された。

英BBC放送によると、プーチン氏は、釈放されたスクリパリ氏らについて「彼らは友人や仲間を裏切った。交換釈放で何かを得るとしても、窒息するだろう。バケツを蹴飛ばすことになる」と不満をあらわにしたという。

バケツを蹴飛ばす」とは、首を吊るのに、バケツの上に乗り、首をロープにかけてからバケツを蹴飛ばすことから、死を意味するスラングだ。ロシア当局の犯行とすれば、秘密組織がプーチン氏の意向を忖度して“バケツを蹴飛ばした”可能性がある。
 
06年にはロンドンで、プーチン氏の政敵で元スパイのリトビネンコ氏が放射性物質のポロニウムを盛られて死亡する事件があった。

ロンドンにはロシア人約10万人が居住。「ロンドングラード」と呼ばれ、ロシアの工作員が動きやすい所だ。

英内務省の調査委は「ロシア情報機関の犯行であり、おそらくプーチン大統領が承認した」とする報告書を公表した。
 
今回の事件がロシアの犯行だとすれば、ひとつには、国内外の裏切り者に対する“見せしめ”という意味があろう。
 
さらに3月18日の大統領選と絡んだ動きとの見方も一部に出ている。プーチン氏の当選が確実な無風選挙だが、このところ欧米を挑発し、愛国心を刺激するような言動が目に付く。

1日の年次教書演説では、6種類の強力な新型戦略核兵器を開発中だとして、「米国のミサイル防衛は無意味になる」「現実を直視するがいい」とまで述べた。
 
今回の事件への関与をロシアは全面否定したが、英国のジョンソン外相は「破壊的な国家だ」と暗にロシアを批判。だがプーチンにすれば、欧米との関係悪化を演出し、ロシアは包囲されているという国民の危機意識を高める「ショック療法」だったのかもしれない。【3月21日 文春オンライン】
*********************

「バケツを蹴飛ばすことになる」・・・・本当にプーチン大統領が口にしたのでしょうか?誰が聞いたのでしょうか?

それはともかく、“見せしめ”にしたい・・・という思いはあったのかも。周囲がプーチン大統領の意向を“忖度”したのか、それとも何らかの“指示”があったのか・・・は、日本同様にわかりませんが。

そうであるなら、あえて“犯人はロシアである”と宣言するような方法で殺害したうえで、関与していないと強弁するのは理にかなった方法かも。

*********************
・・・・それでもロシアが強いのは、外国が如何に批判しようと、自国が如何に孤立しようと、彼らが必要と思えば、如何なる蛮行も平然と、かつ確実に実行する力があるからだ。

その典型例が最近の英国での元ロシア人スパイ親子暗殺未遂事件である。冷戦時代のスパイ映画を彷彿させるこの事件に英国政府はカンカンだが、ロシア政府は完全に無視している。

政治体制が社会主義であろうが、民主主義もどきであろうが、これほど政治の実態が変わらない国は少ない。恐らく中国が民主化しても同様だろう。【3月21日 宮家邦彦氏 Japan In-depth】
**********************

イギリスに集まるロシア人 身柄引き渡し要求に応じないこと マネーロンダリング 純然たる経済的機会
事件に関する“個人的な印象”の三つめは、イギリスとロシアの関係の深さ、もっと端的に言えばイギリスにはロシア人がスパイや亡命者を含めて随分たくさん暮らしているということです。

その結果、ロシアの関与も疑われるスパイ・亡命者関連の事件も多発しています。

*****************
かつてロシア有数の富豪だった銀行家のボリス・ベレゾフスキー氏は2013年、首にスカーフの一部を巻いた状態で浴室の床に倒れているところを発見された。

実業家のアレクサンドル・ペレピリチニー氏は2012年にジョギング中に倒れ死亡した。どちらの事件についても、ロシア政府は関与を否定している。
 
(2006年には)ロシアを批判していたアレクサンドル・リトビネンコ氏は放射性物質ポロニウム210が混入されたお茶を飲み死亡した。

リトビネンコ氏は英国の市民権を取得していた。英国の調査では事件について、おそらくプーチン氏の承認があったとの判断が下されたが、ロシア政府は「受け入れられない」と反発した。【3月15日 WSJ】
*****************

イギリスのロシアから問題人物が集まるのは、イギリスの裁判所がロシアからの身柄引き渡し要求に応じないこと、
「英国政府にはプーチン大統領に立ち向かうだけの強さがあり、身柄が引き渡されることはないと分かっている」というロシア人の認識があるようです。【同上】

そういうかっこいい話だけでなく、ロンドンがマネーロンダリングの世界拠点となっているから、ロシア人富豪が集まるという指摘もあります。

****欧州金融の深い闇、元露スパイ暗殺未遂で露呈****
ロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏とその娘に対する暗殺未遂事件を受けて、マネーロンダリング(資金洗浄)の世界的拠点として、英国に再び注目が集まっている。

英国がロシアの仕業だとみる今回の事件により、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と近い新興財閥が築いた不透明な富に対して、英国が驚くべきオープンさを見せていることに懸念が再燃した。

近年、欧州で明るみに出た大規模なマネーロンダリング事件に関して、英国で登記を行った会社が異例の役割を果たしている点も危惧されている。(後略)【3月19日 WSJ】
*********************

資本家、弁護士、最上の投資物件のネットワークが存在するロンドンは、汚れた資金を動かす格好の場所だと言われています。おまけにロシアに引き渡されることもないとなれば・・・。

そうしたスパイ・亡命者・大富豪だけでなく、イギリス・ロンドンにはロシアから多くの若者がチャンスを求めて集まっています。

****ロンドンには経済的機会を求める若いロシア人が多く住む*****
ロンドンは「テムズ川沿いのモスクワ」と呼ばれるほどロシア人住民が多い。その大半にとって、ロシアの元情報機関員が神経剤で襲撃された事件は、自分たちが後にしたと思っていた世界が不愉快な形で突然現れたようなものだ。
 
彼らは高度な教育を受けた若い職業人で、政治的な理由ではなく経済的な理由でロシアを離れた。母国政府の怒りを買い移住した古い世代や、英国の投資家制度などにつられてやって来た裕福なオリガルヒ(新興財閥)、今月4日に神経剤で襲撃され重体となったセルゲイ・スクリパリ氏(66)のような人たちと共通するところはほとんどない。
 
「彼らは残虐な政権から逃げてきたわけではない」とロシア語雑誌のプロジェクトマネジャー、アンナ・チェルノバ氏は話す。同誌は先週、ロンドンのおしゃれなショーディッチ地区で若いロシア人向けのパーティーを開いた。「彼らは機会を求めてここにいる」
 
(中略)ロンドン在住のほとんどのロシア人はこうした陰謀とはかけ離れた世界で暮らしている。ロシア政府に疑いがかかり、ロンドンで働く多くの若いロシア人はプーチン政権は独裁的で不寛容だと反対しているが、それでも不安は感じていないという。
 
一方、今回の事件がロシアの外国でのイメージをさらに悪化させ、外国への渡航が難しくなるとの懸念の声もある。
 
「こうしたスキャンダルは反ロシア感情を引き起こすだけだ」と、ロンドンを拠点とする石油コンサルタントのピーター・カズナチェフ氏は話す。「それに不愉快だ。われわれはあの政府とは何の関係もない」
 
先週ショーディッチ地区で開かれたパーティーでは、きちんとした身なりをした旧ソ連生まれの若いロシア人数十人がワイングラスを傾け、ロシアのポップミュージックを聞きながら、芸術や仕事、不動産、ソーシャルメディアの話をしていた。スクリパリ氏の話はほとんど出なかった。

王立国際問題研究所(チャタムハウス)でロシア・ユーラシア部門を担当するジェームズ・ニクシー氏は「著名な反体制派の数が多ければ、そうした人が関わる事件も多くなる」と指摘する。
 
「英国在住のほとんどのロシア人は、有名ではない中間層の職業人で、普通の生活を送っており、ニュースで取り上げられることはない」【3月15日 WSJ】
***********************

来日中のラブロフ・ロシア外相は21日、ロシアの責任を問うイギリスへの不満を語り、「ロシアの問いに英国は答えないが、日本になら話すかもしれない」「英国と接触する適切な場で、この二つを聞いてほしい」と河野外相に要請したそうです。【3月21日 時事】

もし、実際には関与していながらこういうことを言うのであれば、相当に“面の皮が厚い”ということにもなりますが、まあ、ラブロフ外相など、表のルートには何も知らされていない・・・ということは十分にあり得ます。

もちろん、ロシア・クレムリンは関与していないという可能性もあります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー・ロヒンギャ問題 沈黙を守るスー・チー氏へ強まる批判 未だ収束していない民族浄化

2018-03-20 21:23:48 | ミャンマー

(豪シドニーで開催された同国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の特別首脳会議に出席するミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問(2018年3月18日撮影)【3月18日 AFP】
何の話題のときの写真かはわかりませんが、いかにも“身動きが取れず苦悩を深めるスー・チー氏”あるいは“高まる批判に苛立ちを強めるスー・チー氏”といった感がある写真です)

講演キャンセルの理由は? 抗議集会に訴追を求める動きも
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャが国軍等の暴力による民族浄化として隣国バングラデシュ島に追放されたこと、および、その状況が一向に改善しないことに関し、沈黙したままのスー・チー氏の最高指導者としての責任を問う声が強まっています。

そのスー・チー国家顧問はオーストラリアを訪問していますが、体調不良で講演をキャンセルしたとのこと。

****スーチー氏、体調不良で講演キャンセル 訪問先の豪州****
オーストラリアを訪問しているミャンマーの国家顧問アウンサンスーチー氏が、体調不良を理由に、シドニーで20日に予定していた講演をキャンセルした。

シドニーのシンクタンク、ローウィー研究所は19日、スーチー氏の体調がすぐれないことから、20日の講演を中止せざるをえなくなったと発表した。講演後は、聴衆からの質問を受け付けるはずだったという。

講演が取りやめになった数時間後、ミャンマー政府報道官はCNNの取材に対し、スーチー氏は時差ぼけで多少体調を崩したが、今は回復してオーストラリア在住のミャンマー団体と過ごしていると説明した。日程を調整し直して講演を行う予定はないとしている。

スーチー氏は東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に出席するため17日にシドニーに到着。19日には首都キャンベラで、オーストアラリアのターンブル首相と会談した。

シドニーでは17日の首脳会議に合わせて、スーチー氏に対する抗議集会が開かれていた。

ミャンマー政府は、少数派イスラム教徒のロヒンギャに対する「民族浄化」を行ったとして国際社会から非難されている。隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャは、過去半年で少なくとも68万8000人に上る。

オーストラリアのロヒンギャ団体はスーチー氏に対する抗議運動を展開。ターンブル首相に対し、スーチー氏との会談ではミャンマーの人道危機について話し合うよう求めていた。

ターンブル首相が18日の記者会見で語ったところによると、スーチー氏はASEAN首脳会議で行った演説の中で、ロヒンギャ危機に対応するための人道支援や対策の強化を呼びかけたという。【3月20日 CNN】
********************

“スーチー氏に対する抗議集会が開かれていた”という風当たりが強い状況ですから、質疑でのそうした批判を回避した・・・・と、どうしても思ってしまいます。

オーストラリアでは、「普遍的管轄権」に基づいて、「人道に対する罪」でスー・チー氏を裁くように求める動きも出ています。

****スーチー氏の裁判、豪弁護士が求める ロヒンギャ問題で****
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの約70万人が国外に逃れた問題でオーストラリアの人権派弁護士らが16日、アウンサンスーチー・ミャンマー国家顧問を豪州で裁くよう、豪ビクトリア州の地裁に申し立てた。ロヒンギャを国外に追放した「人道に対する罪」を犯したとしている。
 
豪州は2002年、人道犯罪や戦争犯罪などについて、起きた国や加害者の国籍に関係なく自国で裁く権限があるとする「普遍的管轄権」を採用。今回の申し立てもこれに基づく。
 
スーチー氏は17、18の両日に開かれている豪州と東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議のためにシドニーを訪問中。ロヒンギャ問題への対応に批判が高まるなか、豪州に住むロヒンギャの人々の求めに応じて、この時機を狙って申し立てた。
 
弁護士らの発表では「ミャンマー治安部隊のロヒンギャに対する殺害やレイプなどを含む犯罪が幅広く目撃された」としたうえで「スーチー氏は治安部隊による強制的な国外追放に対して(それを止められる)自らの権限を行使してこなかった。強制追放を認めたことになる」と申し立て理由を説明している。
 
ただ、豪州での普遍的管轄権での起訴は司法長官(閣僚)でないとできない規定になっており、訴追へのハードルは高い。起訴されれば、スーチー氏は裁判所への出頭を求められる。【3月17日 朝日】
*******************

もちろん、実際に起訴されるようなことはないのでしょうが、ミャンマー民主化の期待を込めてノーベル平和賞が授与されたスー・チー氏を取り巻く空気は様変わりもしています。

豪・ASEANの特別首脳会議でも厳しい意見が出されたものと思われます。

****豪・ASEAN首脳会議、ロヒンギャ問題を議論 スー・チー氏からも説明****
オーストラリアのシドニーで18日、同国とミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問らが出席する東南アジア諸国連合の特別首脳会議で、イスラム系少数民族ロヒンギャの問題が議論された。
 
スー・チー氏は、ミャンマーのラカイン州で政府軍によるロヒンギャ弾圧を逃れ隣国バングラデシュに70万人近くのロヒンギャが流出している事態にも沈黙を貫き続け、国際社会からの激しい批判にさらされている。
 
ロヒンギャの人道危機問題は、シドニーで同日まで開かれた豪・ASEANの特別首脳会議でも主要な議題となった。
 
オーストラリアのマルコム・ターンブル首相は会議後の記者会見で「ラカイン州での状況を、長時間かけて議論した」と述べた。スー・チー氏自身からも、ロヒンギャ問題に関して時間をかけた話があったという。
 
今年のASEAN議長国を務めるシンガポールのリー・シェンロン首相も同じ記者会見で、ロヒンギャをめぐる現在の状況は「ASEANの全加盟国の懸念事項だが、ASEANは干渉したり結果を強要したりはできない」と述べた。
 
そのうえで両首相は、ロヒンギャ問題の長期的な解決策に到達するための取り組みを支援し、ロヒンギャ難民らへの人道的支援を提供していくと述べた。【3月18日 AFP】AFPBB News
**********************

強まるミャンマー政府とスー・チー氏の責任を問う声
国軍への影響力を彼女が有していないことや、国民一般のロヒンギャへの嫌悪感が強く、世論を味方につけての動きもとれないこと、それどころか、ロヒンギャへの宥和的な対応をとれば国民世論から批判を受けかねないことなど、スー・チー氏が置かれている政治状況が難しいものであることは事実ではありますが、民主化運動の象徴としての期待が大きかっただけに、沈黙を守るスー・チー氏への失望も大きなものとなっています。

また、依然としてロヒンギャの厳しい状況が続いていることに関しては、やはり政治の責任者として、“権限がない”云々では済まされないでしょう。

****ミャンマーのロヒンギャ迫害に「大量虐殺の性質」 国連特別報告者****
ミャンマーの人権問題を担当する国連の李亮喜(イ・ヤンヒ)特別報告者は12日、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害は「ジェノサイド(大量虐殺)の性質」がみられると指摘し、迫害の責任はミャンマー政府にあるとの認識を示した。
 
仏教徒が多数派のミャンマーでは軍がロヒンギャの掃討作戦に乗り出した昨年8月以降、70万人近いロヒンギャが北部ラカイン州から隣国バングラデシュに避難している。
 
ロヒンギャに対して兵士や自警団員らが放火や殺人、レイプに及んだとする証言もあり、米国や国連は民族浄化の疑いがあると非難する一方、ミャンマー政府はロヒンギャ武装集団「アラカン・ロヒンギャ救世軍」による襲撃に対応したものだとして、迫害を断固否定している。
 
しかし李氏は12日の国連人権理事会で、ラカイン州でのロヒンギャ迫害について「ジェノサイドの性質を有しているとの確信を強めている」と述べ、「最大級の強い言葉で説明責任を求める」と糾弾した。
 
李氏はミャンマーへの入国を同国政府から禁じられているが、生きたまま火をつけて殺害するといった無差別殺人に関する「信頼ある報告」があったと懸念を口にした。

また、責任について「命令を下した人々と暴力に及んだ人々を追求しなければならない」と言及し、迫害を放置した政府指導部にも責任があると強調した。
 
ロヒンギャ迫害をめぐってはゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官も先週、ミャンマーでの残虐行為の刑事告発も視野に入れた新たな国際調査団の組織を呼び掛けた。【3月13日 AFP】
******************

****スー・チー氏にも「責任ある」 ロヒンギャ迫害で国際調査団長****
ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害に関し国連人権理事会が設置した国際調査団のダルスマン団長は12日、「調査の結果、大規模な暴力があったのは明らかで、国際法違反の犯罪といえる」と指摘した。

ミャンマー指導層の責任にも言及し、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相にも責任があるとの見方を示した。ジュネーブで共同通信のインタビューに応じた。
 
ダルスマン氏は12日、人権理で調査結果を報告。ミャンマー政府が入国を認めないため、周辺諸国でロヒンギャ難民ら600人以上から迫害の実態について聞き取り調査をした。【3月13日 共同】
******************

進まぬ帰還作業 未だに続く民族浄化の動き どういう資格で帰還できるのか?】
70万人近くが難民化したロヒンギャのバングラデシュからの帰還は、今年1月23日からを予定していましたが、作業が遅れています。

ミャンマー政府は14日、「帰還を進める準備はできている」と述べ、また、ラカイン州のロヒンギャが居住していた地域で、国際メディアに取材を許可する意向も表明しています。

こうした動きは、メディアを通じて帰還への取り組みを公開し、高まる国際批判をかわす狙いがあると思われます。

ただ、作業は遅延しています。

****身元確認374人にとどまる=ロヒンギャ帰還でミャンマー****
ミャンマーのミン・トゥ外務次官は14日、ネピドーで記者会見し、西部ラカイン州から隣国バングラデシュに逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャの帰還に向け、身元確認できたのは374人にとどまっていることを明らかにした。次官は「374人については受け入れる用意がある」と明言した。
 
バングラデシュはこれまでに帰還対象者8032人のリストを送ってきたが、指紋や顔写真がないなどの不備が多かったという。

ミャンマー政府は身元が確認できなければ帰還を認めない方針。両国は1月23日の帰還開始で合意していたが、先送りされたままとなっている。【3月15日 時事】
*****************

そもそも、ロヒンギャが居住していた地域での安全も確認されず、暴力の責任の所在も明らかにされていない状況で、ロヒンギャの多くが帰還を拒んでいると報じられています。

ラカイン州ではいまだにロヒンギャ追放・民族浄化に向けた力が働いているとも言われています。

****ミャンマー(ビルマ):ロヒンギャを飢えに追い込む作戦 帰還は時期早尚****
ミャンマーは、依然としてロヒンギャに対する民族浄化を続けている。食糧補給の道を断つ「強制的飢餓」もその一つだ。国連が発表した。

この卑劣な民族浄化作戦は、アムネスティがロヒンギャの人びとへの聞き取りで確認した事実とも一致し、疑いようもない事実である。

ロヒンギャの難民たちは口々に、真綿で首を締めるような兵糧攻めで、住み慣れた土地から追い出されている様子をアムネスティに語った。

この状況では、バングラデシュのロヒンギャ難民の本国送還は、はなはだ時期尚早だ。安全が確保され、安心して自主的に帰国できるようになるまで待つべきだ。

ミャンマー当局は、武力であろうと強制的飢餓であろうと、ロヒンギャの人びとを追い出すいかなる作戦も停止すべきである。また、国際社会は今こそ、武器の禁輸や特定の制裁など実効性ある対応を取らなければならない。

背景情報
アムネスティは2月7日の記事で、ロヒンギャの人びとが、食糧を断たれ、所持品を盗まれ、子どもを含む女性たちが性的暴力を受けるという民族浄化がいまだ続いている状況を報告した。【3月13日 国際事務局発表ニュース】
********************

****ロヒンギャの「民族浄化」は今も継続 国連の人権問題担当者が主張****
ミャンマー北部ラカイン州でイスラム系少数民族ロヒンギャに対する暴力が横行している問題で、国連の人権問題担当特使は6日、同国では現在も恐怖と強いられた飢えを伴う「民族浄化」が続いていると主張した。
 
昨年8月にミャンマー軍がロヒンギャ掃討作戦に乗り出して以降、兵士や自警団員らによるロヒンギャへの暴力、殺人、レイプ、放火についての証言が絶えない。
 
国連人権担当アンドリュー・ギルモア事務次長補はバングラデシュのコックスバザールにある難民キャンプで新たに到着したロヒンギャの人々と対面した後、「ロヒンギャの民族浄化は続いている。コックスバザールで私が見聞きしたことからは、それ以外の結論を導くことができると思えない」と主張した。
 
また「暴力の性質は、昨年における流血の事態および集団レイプの激発というものから、恐怖と強いられた飢えという軟性のものに変わった」と指摘。
 
同氏はミャンマー政府がロヒンギャの帰還受け入れを開始すると約束したものの、近い将来に可能となることは「あり得そうもない」と述べ、「ミャンマー政府が世界に対して、ロヒンギャの帰還者を受け入れる用意があると言い立てているが、一方で同時に軍はロヒンギャをバングラデシュに追い立て続けている」と話した。【3月6日 AFP】*****************

帰還するにしても、どういう資格・地位で帰還するのか、ミャンマー国民として帰還できるのか、外国人として受け入れるのか・・・・も問題になります。

****援助金よりも安全の担保を」ロヒンギャ問題に見る日本の責務****
・・・・ミャンマー外務省は「2年以内に全員を帰還させる」と宣言。日本政府もこれに対し、1月12日に河野太郎外務大臣がアウンサンスーチー国家顧問と首都ネピドーで会談し、ロヒンギャ難民帰還のために「ミャンマー政府に寄り添う」として約25億円の支援を申し出た。

これらの動きはあたかも事態が平和裏に収束へ向かっているかの印象を与えた。

しかし、決してそうではなかった。筆者は帰還開始が決まった1月16日にクトゥパロンの難民キャンプを訪れた。冒頭のコメントはそのときにコミュニティーの長とも言える75歳の老人から聞いた言葉である。

「故郷には誰もが帰りたいと思っている。しかし、ミャンマー政府が提唱している帰還と再定住はとうてい受け入れることはできない。我々は帰っても国籍のないまま外国人として登録されるのだ。収容されてラカイン州の外に行くことも就労の自由もない。何よりもまた迫害の恐怖に晒されて殺されてしまうことが怖い」

そもそもロヒンギャに対する民族浄化は、1982年に制定されたビルマ市民権法によってミャンマー国籍を剥奪され、違法移民におとしめられて合法的に行われてきた。

今回の合意に基づいて帰国を果たしたとしてもその地位は何ら変わらず、しかも外国人として自ら登録してしまえば、父祖の土地を完全に放棄することになり、いつ何時再び追いたてられるか分からない。【3月17日 AERAdot.】
********************

更には、ロヒンギャの集落に、治安部隊の施設を設営しているとの情報も。

****ミャンマー政府、ロヒンギャ集落に治安施設を設営か アムネスティが報告書****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは12日、ミャンマー政府が軍の掃討作戦によって壊滅状態になったイスラム系少数民族ロヒンギャの集落に、治安部隊の施設を設営しているとする報告書を発表した。

ミャンマー政府は北部ラカイン州から隣国バングラデシュに避難している何十万人ものロヒンギャの帰還を進めているが、計画に疑念を抱かせる事態となっている。
 
アムネスティは報告書「ラカイン州の再生」で、ロヒンギャの集落で軍用施設やその他の建造物が今年に入って急増していると、入手した衛星写真と取材を基に指摘している。
 
アムネスティで危機対応を統括するティラナ・ハッサン氏は施設について、「ロヒンギャが帰還すべき場所にミャンマー当局が建設をしていることを示している」と説明。また、建設において現存する家屋が破壊されたケースもあるという。
 
アムネスティは衛星写真に写っているのが一部の地域であることを認めているものの、写真にはロヒンギャの帰還予定地に治安部隊の設備やヘリポート、道路が造られている様子が捉えられていると主張している。(後略)【3月12日 AFP】
********************

こうしたロヒンギャ民族浄化の動きが未だ収束していないことを推察させる情報が報じられる現状では、ミャンマー政府が本気でロヒンギャの帰還を進めようとしているとは考えにくく、沈黙を守るスー・チー国家顧問が批判の矢面に立たされるのはやむを得ないことでしょう。

 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フランス  概ね好評なマクロン大統領の「第3の道」を探る改革路線 徴兵制に「間違いを犯す権利」も

2018-03-19 22:34:19 | 欧州情勢

(メルケル独首相の再選後の最初の訪問はフランス 共同記者会見でEUの改革に向けて協力して行くと発表したメルケル首相とマクロン大統領 マクロン大統領は「EUの再形成のために6月までに明確で確固とした道順を発表する。」とも。【3月17日 TRT】)

右でも左でもなく、グローバル化の否定でも無条件の推進でもない「第3の道」】
フランス・マクロン大統領の評価はおおむね好評です。

就任すると、公約どおり、激しい抵抗が予想されていた労働法改正を断行。

“フランスの労働法は高度成長期に共産党に対抗するために既得権を厚く保護し、解雇を困難にしているうえに、煩雑な手続きが伴う。世界でも例を見ない法律だということは、どの専門家も認めている”【1月2日 文春オンライン】という状況で、労働法を整理整頓して、海外から投資をしやすくし、中小企業の負担を軽減して雇用促進を図ろうという改革でした。

結果、既得権益を失う労働界からの反対によって一時的に支持率を急落させましたが、反対運動は大きな広がりとはならず、支持率は回復しています。(支持率が回復するというのは、近年の仏大統領支持率としては、異色の展開とか。この動きは野党勢力が総崩れ状態にあることも大きく影響しています。)

マクロン大統領は、かつての日本の小泉政権時代のように、「フランスを古臭い規制の封鎖から解放する」大胆な規制緩和に取り組んでいますが、竹中平蔵氏流の“努力が足りないから貧乏になる。だから、成功できるように保護する必要はない”といった新自由主義“信仰”ではなく、公共の役割も認めながら、社会保険制度、失業保険、職業教育の改革もワンセットにして調和のとれた理性による新しい社会を構築しようとしているとも。【1月2日 文春オンラインより】

これまでのところ、マクロン改革によって好調なフランス経済は欧州経済を牽引する結果も示しています。

****蘇った欧州経済、マクロン氏の改革が奏功か****
米国を上回る伸びを見せた欧州経済、牽引役はフランスの復調だ
 
かつて欧州経済の代表的な落ちこぼれ組だったフランスの景気回復を受け、ユーロ圏は息を吹き返した。2017年のユーロ圏経済は10年ぶりの高成長となり、米国を上回る伸びを見せた。
 
欧州連合(EU)統計局が30日発表した2017年のユーロ圏の実質域内総生産(GDP)は前年比2.5%増と、2007年以来の大きな伸びとなった。
 
牽引役となったのはフランス経済の復調。同国の経済界からは、マニュエル・マクロン大統領が官僚主義の打破や法人減税に向け歩み始めたことから、長年にわたる経済不安が払しょくされつつあるとの声が聞こえる。(後略)【1月31日 WSJ】
*******************

外交面でも、イギリスがEU離脱の泥沼にはまり、ドイツ・メルケル首相も組閣に苦労したように、かつての求心力を失った欧州にあって、2017年11月にはマクロン大統領はアメリカの雑誌「タイム」の表紙を飾り、「欧州の次の指導者」と評されています。

また、アメリカ・トランプ大統領の暴走を止める“最後の砦”としての役割も期待されています。

ただ、ことさらにトランプ政権との対立を煽るような道はとっていません。ロシア・中国にも現実的な対応をとっています。

市場は重視しながらも「ソシアル」(共産主義とは別の「社会」主義)の考え方を大きく取り入れている内政同様、マクロン大統領は、一方に偏ることのない「第3の道」を求めています。

****強い欧州を目指すマクロン「第3の道****
<右でも左でもない新しい政治を訴えて改革を推し進めるマクロンが、フランスを復活させ欧州を安定させる>
1月18日に開かれた英仏首脳会談に先立ち、フランス政府は1枚の歴史的なタペストリー(刺繍織物)をイギリスに貸し出すことを決めた。

「バイユーのタペストリー」と呼ばれる作品で、ノルマンディー公ギヨーム2世が1066年の戦いでアングロ・サクソンの王を破り、晴れてイングランド王ウィリアム1世を名乗ったことを記念するもの。

(中略)タペストリーには、貸与を決めたフランスのエマニュエル・マクロン大統領の熱い思いが込められている。島国イギリスと大陸欧州は切っても切れない関係で、たとえ今はEUからの離脱を選ぶとしても、千年来の歴史的・文化的な結び付きの求心力は昨今のポピュリズム(大衆迎合主義)がもたらす遠心力よりも強い。そういう固い信念だ。

ノルマンディー公でありながらイギリス国王でもあるというウィリアム1世の二重のアイデンティティーは、いま欧州各国に吹き荒れるポピュリズムが掲げる偏狭で閉鎖的な自国民第一主義を真っ向から否定するものだ。

それはまた既成政党の枠組みを壊して大統領選挙を勝ち抜き、フランスの再生と同時にヨーロッパの安定を取り戻す道を探ろうとするマクロン自身の政治的アプローチを体現するものでもある。

こうしたアプローチは功を奏しているようだ。大統領就任からほぼ9カ月、マクロンの国内での支持率は50%を維持している。そしてEU内部はもとより、グローバルな外交の舞台でも、今のフランスは主導的な役割を果たしている。

マクロンはその選挙戦を通じて、欧米諸国が産業革命の時代から引きずる「左派対右派」の対決という政治の構図を超越していた。急速なグローバル化と情報経済化が進み、脱産業時代に入った欧米諸国の直面する社会・経済問題に対処するには、もっと別なアプローチが必要と気付いていたからだ。

価値観の共有は強制せず
もちろん、アメリカのドナルド・トランプ大統領もイギリスのEU離脱派も、伝統的な左右の対立を利用して戦いを制した。ただし投票に勝った後の米英の処方箋は正反対で、トランプの「アメリカ第一主義」が各種貿易協定からの離脱を目指す一方、EU離脱派の「イギリス第一主義」は各国との新たな貿易協定の締結を最重視している。

マクロンのアプローチはどちらとも違う。グローバル化の否定でも無条件の推進でもなく、その中間を行こうとする。それがヨーロッパにおけるフランスの地位を高め、世界におけるヨーロッパの地位を強化する唯一の道と信ずるからだ。

まず国内では、もっぱら市場寄りの改革を推し進めている。いい例が17年9月の労働法改正だ(ポピュリズムの脅威を考慮して、一部に保護主義的な要素を残しているが)。

社会政策はどうか。同性婚などの扱いについてはリベラルな立場だが、移民問題では保守的だ。フランスに難民申請する人の数を減らそうとする試みが、それを表している。

EUについてはどうか。マクロンが掲げるのは「ヨーロッパの人を守る1つのヨーロッパ」だ。EU域内での単一自由市場の実現を望む一方で、中国をはじめとする新興国から安価な製品がEU市場に大量流入する事態は防ごうとしている。

EUの財政統合の深化にはドイツが消極的なので、マクロンが望むようなユーロ圏改革が実現される可能性は(少なくとも短期的には)低いだろう。彼が求める防衛面での連携強化についても、NATOとの調整やEU離脱後のイギリスの役割をめぐる問題の解決が必要だ。

とはいえ、マクロンが今や国際舞台で最も注目を集めるヨーロッパの指導者であることは事実。彼の外交スタイルはおおむね多国間主義だが、EU域内での価値観共有に重点を置く一方で、欧米以外の国に価値観の共有を押し付けてはいない。

この幅広くざっくりとしたアプローチが、気候変動など真に世界規模の問題に関し、国際社会を主導していく上で有利に働く。

気候変動の問題では、マクロンの立場はトランプ政権の見解と相いれない。しかしトランプを敵に回すことは避けてきた。

同様に、ロシアのプロパガンダに強く反発する一方、ロシアを孤立させるのは危険だと論じてきた。中国に対しては経済関係を優先させ、「一帯一路」構想への支持を表明する一方、人権問題には触れずにいる。

中東については、アメリカほど二律背反的な立場を取っていない。近年のどの指導者よりもイランとの関係修復に意欲を示しており、サウジアラビアの強権的な姿勢(カタールとの断交や、レバノンのサード・ハリリ首相に対する辞任の強要など)には反発する一方で、同国の若き皇太子ムハンマド・ビン・サルマンとは良好な関係を維持している。

ポピュリズムに頼らない
少なくとも現時点で、フランスが国内外で勢いを盛り返していること、そしてマクロンが国際舞台で(ドイツの不在を利して)大きな存在感を放っていることは間違いない。

しかし彼の挑戦はまだ始まったばかりだ。(中略)

イギリスのEU離脱派もトランプ支持者も、それぞれの指導者が根っからのポピュリストかどうかはともかくとして、彼らが過去の黄金時代と考えるものの復活をにおわせて巧みにポピュリズムの波に乗った。

一方でマクロンは、ヨーロッパにおけるポピュリズムの歴史は自らの改革プランに逆行するものと見なしている。彼が目指すのは、ポピュリズムに代わる真の選択肢を示すこと。そしてEUに改革を促し、その崩壊を防ぐことだ。

なぜEUが必要なのか。単に経済的な繁栄を追求するためではない。1914年と1939年の戦争につながった偏狭な民族主義の再現を許さないことが最大の目的だ。マクロンはそう信じている。きっと歴史が、彼の正しさを証明してくれる。【2月20日号 Newsweek】
***********************

国民連帯のための徴兵制復活には多くの批判も
概ね好評なマクロン大統領ですが、やや“変わった”ところでは、ごく短期の徴兵制復活を目指しています。公約の一つであり、軍事的な目的ではなく、若者の意識に関する取り組みのようです。彼の国民連帯に対する理念を体現するものなのでしょう。

****<仏大統領>徴兵制復活へ 1カ月間、危機意識高める狙いか****
フランスのマクロン大統領は19日、仏南部トゥーロンで軍兵士らを前に演説を行い、「国民が兵役に従事する仕組みを作りたい」と述べ、大統領選の公約に掲げた、若者に1カ月間の兵役を義務付ける徴兵制度を復活させる考えを示した。
 
演説では詳細まで踏み込まなかったが、マクロン氏は昨年春の大統領選で、「軍と国民のつながりを強めるため、短い期間であっても軍での生活を体験してもらいたい」と述べ、兵役の義務化を公約に盛り込んでいた。

対象は18〜21歳の男女で、良心的兵役拒否も認めるとしていた。期間は1カ月間と短いため、訓練よりも、相次ぐテロなどを背景に若者らの危機意識を高める側面が強い。
 
だが、効果を疑問視する声もある上に、自由を重んじる若者らの反発も呼びそうだ。
 
大統領選の決選投票をマクロン氏と競った極右政党・国民戦線のルペン党首も少なくとも3カ月の兵役義務化を公約に掲げていた。
 
フランスでは、1996年に当時のシラク大統領が志願兵制に切り替えて、徴兵制(10カ月)の段階的廃止を表明。2001年に職業軍人化が完了した。
 
徴兵制を巡ってはスウェーデンが昨年、ロシアに対する脅威を念頭に7年ぶりの復活を決めた。【1月20日 毎日】
*********************

ただ、若者の反発に加え、実現には膨大なコストがかかることもあって、批判は多いようです。

****日本も他人事じゃない。フランスの「徴兵制再開」に反発強まる**** 
(中略)
復活できない?フランスの徴兵制
フランスのマクロン大統領は2017年の選挙中、徴兵制の再開を公約したが、軍部や学生の反対に遭っているうえ、財源のあてもなく、マクロン氏がめざす徴兵制のイメージも明確でないので、実現が危ぶまれている。

はっきりしているのは、徴兵制とは別になんらかの国民奉仕制度が実現した場合も、フランスの軍事力を増強するものとはならないということだ。(中略)

これに対してマクロン大統領は、「国防と市民権の日」が参加者に努力を求めないので形骸化しているとして、国民皆兵の復活を公約した。

マクロン氏自身は大学在学中に徴兵制が廃止され、軍隊経験を持たないのだが、フランスの若者は「短期間であっても軍隊生活を経験すべきだ」と主張した。

マクロン氏が公約したのは、社会的・経済的背景や出身地の異なる青年が、陸軍と国家憲兵隊の監督の下で集団生活することによって、共通の義務を自覚し、「危機にあっては国民衛兵の予備兵力」となるという制度だ。

ちなみに、国家憲兵隊は主として人口2万人未満の基礎自治体での警察活動を担当しており、国民衛兵は国家憲兵隊や警察の予備兵力である。

ところがマクロン大統領は1月19日、高級軍人に対する演説で、「国民皆兵(セルヴイス・ミリテール・ユニヴェルセル)」を「国民奉仕(セルヴイス・ナシオナル・ユニヴェルセル)」と言い換えた。国民皆兵の費用の見当がついておらず、また、国防予算に含める場合、実質的に国防予算を削減することになるからである。

国民皆兵の費用の見積はまちまちだが、巨額の数字が飛び交っている。2月初めまでにフィリップ首相に提出された報告書では設備投資に32-54億ユーロ(4200-7100億円)、その後、毎年24-31億ユーロ(3200-4100億円)という数字が示された。

元老院(上院)の昨年6月の報告書では、毎年80万人を徴兵する場合は300億ユーロ(4兆円)、野党・共和党のコルニュ=ジャンティーユ国民議会(下院)議員の見積では設備投資だけで100-150億ユーロ(1.3-2兆円)となっている。

費用見積がまちまちなのは、軍への入隊者と非軍事の奉仕を行う者の比率が定まっていないし、そもそも軍事・非軍事の奉仕が義務付けられるのかも決まっていないからだ。

制度のイメージが決まらない理由の一つは、国防予算の実質的削減を防ぐ目的で、誰にも軍への入隊を義務付けないことになった場合、誰かに非軍事の奉仕を義務付けることが、兵役と無関係な強制労働を禁止した欧州人権憲章に違反するおそれが強いことである。

フランス最大の学生組織FAGEは1月18日付の声明で、マクロン大統領の国民奉仕構想について、「社会悪の元凶と決めつけた世代を『正そう』とするデマゴーグ的提案」と非難し、フランスの若者はかつてないレベルで市民的活動に参加しているというデータを根拠に、「若者のニーズからかけ離れた大統領選の小道具」と酷評している。

マクロン氏はそれでも、3-6か月間の国民奉仕を義務化するという主張を堅持している。

マクロン政権の国内政策の柱である労働規制緩和には、一部の労組を中心に反対も強いので、政権が国民奉仕制度を実現できず、それに代わる国民的連帯のための政策を提案できない場合、政権の新自由主義的傾向への批判が強まるだろう。【3月18日 西恭之氏 MAG2 NEWS】
******************

軍への入隊だけでなく、非軍事の奉仕でもかまわないという話のようですが、よく中身がわかりません。
少なくとも、軍部は、役にもたたない徴兵制実施のために予算を取られるのは強く反対するでしょう。

自分が軍隊経験がないのに、“フランスの若者は「短期間であっても軍隊生活を経験すべきだ」”と主張するのは。非常に奇異な感もあります。

【“謝罪しない”国民性にあって、国民に「間違いを犯す権利」を認める法律???】
徴兵制よりわからないのは、国民に「間違いを犯す権利」を認める法律というもの。

****国民に「間違いを犯す権利」認める新法可決 フランス議会**** 
フランス国民議会(下院)は23日、公的制度において国民に「間違いを犯す権利」を認める重要条項を含む新法案を可決した。
 
新法案はエマニュエル・マクロン大統領が、昨年の大統領選中に掲げた改革の一環で、公的制度上、国民が違反を犯しても、初めて犯す違反で故意でない場合は、自動的に罰することをなくすというもの。故意の違反かどうかの証明義務は国側が負う。
 
仏政府は同条項について「信頼できる社会に仕える国家」を目指す新法の要石だとしている。
 
採決についてジェラルド・ダルマナン行動・公会計相はツイッターに「管理する側と管理される側の関係に革命が起こった」と投稿した。
 
条項には、これに反対する主張を取り入れ、人間は間違いを犯すものだが政府が違反を見逃すのは「初回に限られる」との文言が付け加えられた。【1月25日 AFP】
******************

具体的には、“この法は国民および企業が誠実な行動をしている、もしくはそう証明されると考えられるという原則に基づいて成り立っている。例えば納税において個人または企業が本当に間違いを犯してしまった場合、延滞金の負担は30%まで減額する。もし納税者自身が間違いに気付き申告すると、罰金は半分になる。”【https://jcc.jp/globali/id/04691/】とも。

情報が少なすぎて、なんのことだかさっぱりわかりません。

フランス人は“自分の非を認めない”“謝罪しない”という国民性・文化で有名です。

テーブルに置かれた砂糖入れやトレイを自分のミスで落としても、「どうしてこんなところの置くの!」というのがフラン人の反応とか。

あるいは、相手にミスがあると思われるようなケースで、とりあえずこちらから「ごめんなさい」と言うと、「いえ、こちらこそ」ではなく「たいしたことではありません」との返答が返ってくるとか。

日本人から見て“自分の非を認めない”“謝罪しない”と思われるアメリカ人が、フランス人に関して上記のように評価しているのですから、筋金入りのようです。

そんな“謝罪しない”フランス人の「間違いを犯す権利」というのが「何だろう?」と訝しく思った次第です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシア大統領選挙  投票率アップにあの手この手 この際日本も参考にしたら?

2018-03-18 22:25:33 | ロシア

【3月18日 NHK】

【「投票率70%、得票率70%」達成で正当性を国内外に
ロシアでは今日18日、大統領選挙の投票が行われています。

プーチン大統領の高い支持率に加え、汚職批判で若者らの支持が高く、一定に現体制批判の受け皿ともなりうるアレクセイ・ナワリヌイ氏が有罪判決を理由に立候補できない形に追い込まれたこともあって、4期目を目指すプーチン大統領の圧勝が確実視されていることは、2月11日ブログ「ロシア プーチン圧勝確実で“面白味にかける”大統領選挙 焦点は投票率か」や各メディア報道でも取り上げられているとおりです。

********************
世論調査基金(FOM)、3月3〜4日の調査によると、
1位 プーチン 64%
2位 ジリノフスキー 6.6%
3位 グルディニン 6.5%
4位 ソプチャク 1.2%
他の候補は、1%以下。【3月16日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】
*********************

2月11日ブログでも取り上げたように、得票率もさることながら、焦点は投票率でしょう。立候補が認められなかったナワリヌイ氏は投票ボイコットを呼びかけており、投票率を押し下げることでプーチン政権への批判としたい構えです。

逆に、プーチン大統領は「投票率70%、得票率70%」を実現することで、正当性を国内外に示し、強い政権基盤を維持したいところです。ロシア各地の工場労働者や地方自治体の職員が報酬を受け取って政治集会に出席したり、バスで投票所に連れていかれたり・・・といった違法な動員も行われており、なんとか“圧倒的支持”を演出しようとしています。

西側との対立色を深める政策や社会保障費を削る再軍備を正当化するためにも、高い投票率のもとで再選を果たすことが必要とされています。

プーチン大統領は18年間の権力掌握中に敵を押しつぶしてきており、「投票率が低ければ、政府の成功自体が人々を政治から追いやっている証拠になる」(モスクワ国際関係大学のバレリー・ソロベイ教授)とも。【3月16日 WSJより】

しかし、得票率70%はともかく、投票率70%はかなり高いハードルです。

********************
大半の人はプーチン氏を支持しているが、それは彼らがわざわざ足を運び、同氏に投票することを意味する訳ではないと、独立系世論調査機関レバダ・センターのレフ・グドコフ所長は指摘。「プーチン氏は力強い支持を得ているが、それは受動的な支持であり、能動的なものではない」という。【3月16日 WSJ】
********************

****過去4回の投票率と得票率****
プーチン氏にとって通算3回目の立候補となった前回、6年前(2012年)の選挙は投票率が65.34%、プーチン氏の得票率が63.60%でした。

その前の選挙は2008年。ロシアでは憲法の規定で連続3選が禁止されているため、プーチン氏に代わって当時第1副首相を務めていた側近のメドベージェフ氏が立候補し、投票率69.81%、得票率70.28%で勝利しました。

2004年、プーチン氏の2期目の選挙は投票率が64.38%、プーチン氏の得票率は71.31%でした。

そして、プーチン氏が初めて立候補した2000年の大統領選挙は投票率が68.70%、プーチン氏の得票率が52.94%でした。

2000年以降の過去4回の大統領選挙で投票率が70%を超えたことは、1度もありません。また、プーチン氏の得票率が70%を超えたのは2004年に1度だけとなっています。【3月18日 NHK】
******************

投票率アップにあの手この手
“プーチン氏は、投票のあと、記者団から、「どれくらいの得票率が自分にとってよい結果だと考えていますか」と質問されたのに対し、「大統領職を行う権利が与えられるのであればどのような得票率でもよい」と述べるにとどまり、陣営が掲げているとされる投票率と得票率でともに70%を達成するという目標には触れませんでした。”【3月18日 NHK】と、(達成できなかった場合を考慮して)目標を明示することは避けていますが、投票率アップになりふり構わない対応も。

投票所での野菜・パンの格安販売、無料がん検診やコンサート・チケットなど・・・。

****ロシア大統領選 投票率アップにあの手この手****
ロシア各地の投票所では、投票率を上げようと、有権者を投票所に呼び込むためのあの手この手の取り組みが行われています。

このうちモスクワ市内の学校では、投票所と同じ建物内に無料でがん検診を受けられるコーナーが設けられました。

検診はモスクワ市が初めて企画したもので、女性は18歳以上、男性は40歳以上であれば誰でも受けられ、投票開始の午前8時から次々と有権者が訪れていました。

女性の1人は「ふだんは仕事で忙しく、病院に行く時間がないので、投票と一緒に検診を受けられるのはとても便利です」と話していました。

また、モスクワ郊外の別の投票所では、25歳以下の有権者であれば人気歌手のコンサートのチケットがもらえる仕組みが用意されました。

有権者は、投票所の外に貼られているコンサートのポスターを背景に、スマートフォンで「自撮り」をしてSNSに投稿し、投票したことを証明すれば、後日、チケットがもらえるということです。

投票を終えた19歳の女子学生は、「コンサートのチケットをもらえるなんて期待していなかったのでうれしいです。経済の発展に期待して、プーチン大統領に投票しました」と話していました。【3月18日 NHK】
*******************

アップル製品も“景品”にされているとか。

********************
ロシア有数の寒冷地域ヤマロ・ネネツ自治管区では選挙絡みのコンテストが開催される予定。

有権者の住民は投票ブースの横断幕をバックに写真を撮影し、同国で最も人気のあるソーシャルネットワークの一つ「フコンタクテ」に投稿できる。「いいね」を多く集めた写真の撮影者は、アップル製品や自転車やデジタルカメラなど1300を超える景品から一つを受け取る。主催者は地元当局が創設した民間ファンドだ。【3月16日 WSJ】
********************

ピョンチャンオリンピックのフィギュアスケート女子シングルの銀メダリスト、メドベージェワ選手を起用して投票を呼びかけるテレビCMも連日放送すされています。

こうした“なりふり構わぬ”手法に“こうした試みは旧ソ連時代の選挙を彷彿させる。当時の選挙はフェスティバルとして行われ、投票所ではバンドが演奏し、共産党公認の候補に投票した有権者は店頭入手がままならなかったソーセージやビールや衣料を買うことができた。”【同上】との批判も。

投票は日本時間の19日午前3時に締め切られて即日開票され、19日朝には大勢が判明する見通しです。
午後7時のNHKニュースでは、現時点の投票率は前回選挙を上回っているとのことでした。

50%付近を低迷する日本の国政選挙投票率

【総務省HP】

こうした投票率アップに関する“なりふり構わぬ”手法の記事を見ていて思ったのですが、投票率の低さが問題となっているのは日本も同じですから、この際日本もロシアを見倣って、法律の範囲内で、格安販売、無料がん検診や景品応募などやってみたらどうでしょうか?

ここ2回ほどの国政院選挙の投票率は52~54%程度で、50%を切りそうなあたりにまで落ち込んでいます。
地方選挙では10%台もあるようです。こんな選挙で最多得票を得たからといって、有権者の信任を得たとは言えません。

投票率が50%を切る選挙など、無効にしてもいいぐらいです。

国民の“政治離れ”“政治不信”を示すこのことは、民主主義にとってどの政党が勝利するかより重要な問題をはらんでいます。

市役所の放送で「選挙へ行きましょう!」と繰り返しているだけでは能がありません。

日本にとってはプーチンの政治決断しかないが、現実にはプーチンでも前進なし
なお、プーチン圧勝が予想される結果にかんして、以下のような指摘もありますが、どうでしょうか・・・。

****プーチン再選で、日本は困らない****
安倍―プーチンで、日ロは現在、良好な関係にあります。欧米とロシアの関係が最悪にも関わらず、日ロ関係はいい。これは、安倍総理が「自立外交」をしている証拠ですね。

ロシアとの関係は、特に「対中国」で大事です。日米関係が良く、日ロ関係も良ければ、中国は尖閣強奪に動けない。既述のように、安倍―プーチンで日ロ関係は良好。だから、「プーチン再選」で、日本は困りません。【3月16日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】
****************

“安倍―プーチンで日ロ関係は良好”とは言いつつも、北方領土での共同経済活動なども一向に進展せず、ロシア側のガードは固くなる一方のようにも見えます。

****ロシア外相「迎撃ミサイルは日ロ平和条約の障害****
ロシアのラブロフ外相はNHKなどのインタビューに応じ、日本がアメリカから導入する地上配備型の新型迎撃ミサイルシステムが、北方領土問題を含む平和条約の締結交渉を前進させるうえでの障害になっている、と指摘しました。

そのうえで、北東アジア周辺の安全保障問題はロシアも含めた多国間の対話によって解決すべきだという考えを強調しました。

ロシアのラブロフ外相は21日に日本で河野外務大臣と会談するのを前に、15日、NHKなどのインタビューに応じました。

ラブロフ外相は「日本とロシアが戦略的かつ友好的な関係を拡大するという目標に向かって前進するためには、アメリカのミサイル防衛システムが日本に配備される問題も検討しなければならない」と述べ、日本がアメリカから導入する地上配備型の新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」が、北方領土問題を含む平和条約の締結交渉を前進させるうえでの障害になっている、と改めて指摘しました。

そのうえで「北東アジアを含めた地域の安全保障問題は、日米などの同盟だけで解決すべきではない。すべての関係国が1つのテーブルについて交渉を始めることが大事だ」と述べ、ロシアも含めた多国間の対話によって解決すべきだという考えを強調しました。

共同経済活動 さらに大規模事業の検討必要
日本が平和条約の締結に向けた環境整備のためにロシア側に提案した、北方領土での共同経済活動のうち、海産物の養殖や温室野菜の栽培など優先的に取り組む5つの事業については「規模がそこまで大きくない」と述べ、さらに大規模な事業を検討する必要性を指摘しました。

そのうえで、共同経済活動を実施するにあたって、日本が両国の法的立場を害さないための特別な制度を求めていることについては「必要がない」と述べ、小規模の事業であればロシアの法律に従って実施すべきだという考えを示しました。

北朝鮮への圧力維持「適切でない」
5月までに開かれる見通しの米朝首脳会談については「希望を感じている」と期待を示しました。

その一方で「トランプ大統領が、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長と会談しすべての問題を解決する用意があると言ったが、同時にアメリカは北朝鮮に対して圧力を継続しなければならないと表明した。これは適切ではない」と述べ、前向きな動きがあるにもかかわらずアメリカが北朝鮮に対して制裁と圧力を維持する方針を掲げていることは、適切でないと批判しました。【3月17日 NHK】
********************

ただ、プーチン大統領以外のロシア政治家はさらに民族主義的で、北方領土問題の前進は“強い”プーチン大統領の政治決断に待つしかない・・・というのが現状ですから、“プーチン再選で、日本は困らない”と言えばそうなんでしょうが・・・。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベトナム  日本にも共通した“ゆるい文化” ソンミ村大虐殺事件から50年

2018-03-17 22:46:23 | 東南アジア

(慰霊碑にハスの花を手向ける人たち=16日、旧ソンミ村、鈴木暁子撮影【3月17日 朝日】)

米原子力空母のダナン入港 地元住民と交流
南シナ海のスプラトリー諸島(南沙諸島)、パラセル諸島(西沙諸島)の領有権を中国と争うベトナムですが、同じく中国の海洋進出を警戒するアメリカの原子力航空母艦がベトナム戦争終結以来初めて入港しました。

中国牽制という共通の思惑があってのことで、昨年8月には発表されていた予定の行動です。

ただ、ベトナム戦争当時、米軍が拠点とした最重要港湾ダナンに米空母が入港・・・というのは、感慨深いものがあります。

****空母、ベトナムに歴史的訪問****
ダナンと聞けば、すぐにベトナム戦争を思い出す。アメリカと北ベトナムとの戦いはダナンに始まり、ダナンに終わったともいえるからだ。(中略)

アメリカが介入してのベトナム戦争は1965年3月8日、米軍海兵隊がダナンに上陸したときが公式の始まりだった。その後のベトナム駐留の米軍にとってダナンは最大の基地だった。(中略)

ダナンは南シナ海に面した港湾都市である。そこを拠点として米軍は北ベトナム軍と激しく戦った。8年にも及ぶものすごい戦いだった。だが米軍は南ベトナムを守り切るという目的を達せずに撤退した。

そんな戦いの場だったダナンにこの3月5日、アメリカ海軍の原子力航空母艦カールビンソンが入港した。歴史も変われば変わるものである。

(中略)しかもベトナム側から熱い歓迎を受けたのだ。かつての敵同士が固い握手を交わしたのだった。

現地からの報道によると、カールビンソンの乗組員約6000人はみな港に降りて、地元の住民たちとも交流した。米軍将兵はダナンの養老院や孤児院を訪れ、慰問をした。ベトナム人の子供たちとサッカーにも興じた。ニンニクの皮をだれが一番、速くむくかというコンテストにも加わった。

同時にベトナム市民たちが空母カールビンソンの艦内を訪れ、見学したという。

ベトナム駐在のアメリカ大使、ダニエル・クリテンブリック氏は現地で記者会見して次のように語った。

「この空母訪問はアメリカ、ベトナム両国が近年、果たしてきた二国間関係の劇的な前進を誇示しています。両国は平和と繁栄、そしてこの地域の諸国が依存する商業や航行の自由を保つという願望を共有しています」

この言明のなかの「航行の自由」という言葉こそがカギだった。アメリカとベトナムというかつての敵同士を接近させた要因の一つは南シナ海での「航行の自由」の確保なのである。より具体的に述べるならば、この「航行の自由」を脅かす中国への共同の対処なのだ。

中国が南シナ海でベトナムなどと領有権を争うスプラトリー諸島、パラセル諸島のほとんどを一方的に軍事占領し、「航行の自由」を脅かしているのである。

アメリカもベトナムも中国のその侵略的な行動を強く非難してきた。トランプ大統領が昨年11月、このダナンを訪れた際、ベトナムのチャン・ダイ・クアン国家主席と会談して、中国の海洋での膨張を非難し、共同で抑止の行動をとることを合意していた。

今回の空母カールビンソンのダナン寄港はその具体策の一つだった。ベトナム戦争での敵同士をいまや味方同士にしたのは中国の危険な拡張行動に反対する共通の連帯だったのである。【3月10日 古森義久氏 Japan IN-depth】
***************

日本とベトナムに共通した“ゆるさ”】
ベトナムに関しては、以前、“日本とベトナムが兄弟のようによく似ている”という興味深い記事を目にしました。
両国ともに歴史的に中国の影響が強く、漢字文化、儒教、大乗仏教などを中国から取り入れた、その結果“ゆるい文化”が・・・という話です。

****日本とベトナムが兄弟のようによく似ている理由****
ベトナムは東南アジアの国。「ベトナム戦争」「ホーチミン」「社会主義」、普通の日本人が思いつくのはそれぐらい。それほど関係のない国だと思っている。しかし、実はベトナムは日本とは兄弟と言ってもよいくらいよく似ている国である。
 
そもそもベトナムを東南アジアの国と考えること事体が間違っている。ベトナムはその歴史において、朝鮮半島や日本と同様に中国の強い影響下にあった。その結果、インド文化の影響が大きい東南アジアと考えるよりも、東アジアの国とした方が理解しやすい。
 
実際にベトナムは日本や朝鮮半島と同様に漢字文化圏である。首都ハノイは「河内」、ホーチミンは「胡志明」、漢字による表記がある。

現在はフランス人宣教師が考案したローマ字による表記が用いられているが、漢字は第2次世界大戦前までごく普通に使われていた。チューノムと呼ばれる漢字を変形した文字も作られている。日本が“かな”を作ったのと同じ感覚だ。

静かに根付いている仏教
日本もベトナムも宗教や道徳の根底に大乗仏教と儒教がある。それを“ゆるく”受容した点において両国は似ている。
 
ベトナムは日本や朝鮮半島と同様に大乗仏教を中国から輸入した。タイやミャンマーも仏教国であるが、彼らは上座部仏教徒であり大乗仏教とは異なる。(中略)

唯物論を奉じる共産党は仏教を弾圧していない。その結果、ベトナムには仏教寺院が多数存在して参詣する人も多い。お葬式だけでなく結婚式も仏式で行う人が多い。

ただ、仏式で結婚式を挙げた人も、熱心な仏教徒ではない。日常生活では忘れている。その辺りの感覚は日本人にそっくりである。

政敵を完全には追い詰めない
そして、ベトナムは日本や朝鮮半島と同様に、中国から儒教を輸入した。その結果として、年長者を敬う感覚が存在する。
 
だが、儒教を輸入しても、それは朝鮮半島の人々とは少々異なる。朝鮮半島の人々の行動様式は強く儒教的である。儒教では善悪を峻別する。“悪は悪”“善は善”である。その感覚の延長で敗者を徹底的に痛めつける。(中略)

一方、日本は儒教の影響を受けたが、それを全面的に受け入れることはなかった。むしろ、誰でも「南無阿弥陀仏」と唱えれば浄土に行けるという“大乗的”な考えを好んだ。(中略)

まさにその“ゆるい”文化がベトナムにも存在する。先日、汚職のためにディン・ラ・タンが逮捕されたが、タンは汚職を摘発されてホーチミン市長を更迭された後も1年以上にわたって政府の別の要職に留まっていた。なかなか逮捕されないのだ。(中略)

政敵を完全に追い詰めないのがベトナム流である。この辺り、タクシン元首相やインラック前首相が亡命を強いられたタイや、ロヒンギャと仏教徒の間で深刻な対立が続くミャンマーとは異なる。

日本人とは異なる中国に対する感情
以上のようにベトナムと日本はよく似ている。ただ、ベトナムは中国と陸続きであり何度も侵略を受けたことから、中国に対する感情が日本人とは異なる。
 
ベトナムは中国の強い影響下にあったために、今でも中国との関係に敏感にならざるを得ない。日本でも首相や外務大臣が中国に対してちょっとでも下手に出ると、「右寄りの人々」から朝貢外交との非難が飛ぶ。

それは中国を強く意識していることの裏返しなのだが、ベトナムにもそのような感情が強く存在する。はっきり言って、ベトナム人は中国が大嫌いである。

「安倍首相は中国が嫌いなようだが、首相が変われば田中首相の頃のように中国と仲よくするのではないか」 ベトナム人は現在日本が中国に強硬な態度で接していることを好ましいく思いながらも、心のどこかで日本の変節を心配している。(後略)【2017年12月13日 川島 博之氏 JB Press】
*********************

歴代大統領が逮捕・徹底糾弾される韓国と、田中角栄が逮捕されながらも人気・評価を保つ日本との違いでしょうか。

韓国の“善悪を峻別する文化”から見れば、日本・ベトナムのような“ゆるさ”は“不誠実”とも思われるのでしょう。

“勤勉”という点でも、ベトナムはカンボジア・タイよりは日本に近いものがあります。その結果、経済的にはカンボジアなどを圧倒することになりますので、カンボジア人はベトナム人が大嫌いです。

そのベトナムが同じ社会主義国にありながらも“中国大嫌い”というのは事実ですが(歴史的に常に圧力を受けてきましたので)、陸続きで、これまでも戦火を交えた経験があるだけに、中国との付き合い方は“現実的”でもあります。

今回の米空母入港のように中国を牽制する一方で、中国と決定的に対立し、戦火の危険が及ぶようなことにならないように常に“調整”を行っています。その意味では、なかなかしたたかな外交術とも言えます。

ソンミ村大虐殺事件から50年 広島・長崎のような平和公園構想も
一方、ベトナム戦争、アメリカとベトナムの関係という点では、“3月16日”というのは、ソンミ村大虐殺事件から50年という節目の日でもありました。

****ご存知ですか? 3月16日はソンミ村大虐殺事件が起こった日です****
いまから50年前のきょう、1968年3月16日、ベトナム戦争のさなかにあった当時の南ベトナムのクァンガイ省ソンミ村ミライ地区で、米陸軍バーガー機動部隊のウィリアム・カリー中尉(当時24歳)率いる小隊が、無抵抗の村民500人以上を虐殺した。

ソンミ事件と呼ばれるこのできごとは当初、軍内の秘密とされたものの、翌69年3月、ベトナム帰還兵の一人が何人かの政治家に手紙を送って調査を要請したことからあかるみとなり、同年11月17日付の『ニューヨーク・タイムズ』が詳細を報じた。

その後、カリー中尉は逮捕され、1971年に軍法会議で終身重労働刑の宣告を受けるが、当時の米大統領ニクソンの命令で即時釈放される。カリーは軍法会議で「上官の命令に従ったまで」と繰り返し証言するも、有罪とされたのは彼一人だけだった。

米国は1960年代前半より、南ベトナムのサイゴン政権を支援する形でベトナム戦争への介入を深めていった。65年には北ベトナムへの爆撃(北爆)を開始するとともに、米国とサイゴン政権に抵抗する南ベトナム解放民族戦線と激戦を繰り広げる。

68年1月30日には、南ベトナム全土で、解放戦線や北ベトナム軍が猛烈な攻勢に出た(テト攻勢)。これは軍事的には失敗だったが、米国を心理的に揺さぶる。

民衆の蜂起を恐れた米軍は必死の反撃に出て、米軍基地の安全を確保するため周辺を徹底的に掃討した。虐殺の現場となったソンミ村もチュライ米軍基地のほど近くにあり、カリー率いる小隊は解放戦線のゲリラを探し出して殲滅するため出動した。

しかし、ミライ地区で殺されたのは、子供や女性、僧侶など無抵抗の人たちばかりだった。
 
テト攻勢が米国に与えた衝撃は大きく、ソンミ事件から半月後の68年3月31日には、ジョンソン大統領がこの年の大統領選への不出馬を表明、北爆の一時停止を発表し和平交渉を呼びかけた。

翌年、ソンミ事件が報じられると、米国内では戦争への批判が強まることになる。【3月16日 近藤 正高氏 文春オンライン】
******************

無抵抗の村民500人以上を虐殺するというソンミ村大虐殺事件は“戦争の狂気”を象徴する事件ですが、現地では元米兵らも参加して追悼式典が行われたそうです。

ベトナム戦争の残した多大な犠牲を乗り越えて、現在ではアメリカとの関係を改善し、“カールビンソンの乗組員約6000人はみな港に降りて、地元の住民たちとも交流した。米軍将兵はダナンの養老院や孤児院を訪れ、慰問をした。ベトナム人の子供たちとサッカーにも興じた。・・・・”というのは、ベトナムの“ゆるさ”のあらわれでしょうか?
それとも、“したたかさ”の方でしょうか?

****ソンミ村504人虐殺50年、平和公園構想も ベトナム****
ベトナム戦争中の1968年、ベトナム中部の旧ソンミ(現ティンケ)村で、多くの子どもを含む無抵抗の住民504人が米軍に殺害された「ソンミ村虐殺事件」から50年となった16日、現場跡地の記念碑前で追悼式典が開かれた。
 
50年前の同事件は、米軍部隊が南ベトナム解放民族戦線のゲリラに対抗するとの理由でソンミ村にヘリコプターで降り立ち、村民504人を殺害したとされる。ベトナム反戦運動が拡大するきっかけになった。
 
現場跡地で開かれた式典には遺族や元米兵らが参加。事件で姉など親類8人を亡くし、遺体の下に隠れて生きのびた当時5歳のドー・タン・ズンさん(55)は取材に、「今でも血のにおいがよみがえる時がある。でも、憎み続けるのではなく、二度と起きないよう願いながら前に進みたい」と話した。
 
式典では、原爆被害を受けた広島・長崎の取り組みを参考に、跡地周辺に平和公園をつくる構想も発表された。構想づくりを率いた財団代表のチュオン・ゴック・トゥイさんは、「平和の尊さを若者に伝え、世界に発信する場にしたい」とし、建設費約16億円を寄付などで集めるという。【3月17日 朝日】
*****************

“憎み続けるのではなく、二度と起きないよう願いながら前に進みたい”“広島・長崎の取り組みを参考に・・・”といったあたりも、日本人のメンタリティーに近いものがあるのかも。(もちろん、憎しみが消えたとかいうものでは全くないでしょうが。)

それはともかく、いかなる名目があったにせよ戦争というのはそれ自体が“狂気”であり、「ソンミ村虐殺事件」のような人道に反する犯罪がつねに起こりうる・・・ということは深く心に銘記すべきことでしょう。(当のアメリカは、とっくに忘れ去ってしまっているようですが)

韓国のベトナム戦争関与 自国の歴史に向き合う難しさ
ベトナム戦争に関連した、最近目にした記事をもう1件 ベトナム戦争の清算が済んでいるのか、いないのか・・・・韓国の話題です。

****韓国軍の民間人虐殺を謝罪せよ!ベトナム訪問の文大統領に請願相次ぐ****
2018年3月15日、韓国・中央日報によると、22日に予定されている文在寅(ムン・ジェイン)大統領のベトナム訪問を前に、韓国大統領府が公式サイトで運営する国民請願掲示板に「ベトナム戦争での韓国軍によるベトナム民間人虐殺に対する公式謝罪」を求める内容が書き込まれた。

同サイトでは、30日以内に20万人を上回る署名が集まった請願には政府関係部門が必ず何らかの回答をすることになっている。

記事によると、あるネットユーザーは15日、「ベトナム戦争で多くの罪を犯した韓国はベトナムに謝罪し、被害者たちに賠償しよう」と題する請願で、「ベトナム戦争での戦争犯罪を速やかに調査し、それを基に賠償と謝罪が行われなければならない」と主張した。

また、「日本は自国の過去の過ちを安易に考え、傍観している」とした上で、「韓国も過去の過ちにまともに対応していないのに、日本だけに過ちを悔い改めるよう求めることは正当でない」と指摘したという。

さらに前日の14日には、別のネットユーザーが文大統領に向けて「ベトナム訪問で韓国軍の民間人虐殺を謝罪し、国レベルで被害者への対策を立ててほしい」と求める請願を寄せていた。

同ユーザーは「日本の蛮行や慰安婦問題への謝罪を願う韓国が先に自国の外国に対する過ちを潔く謝罪すれば、韓国の格が上がる」とし、「それが国際社会における日本と韓国の差になる」と強調したという。

その他にも「ベトナム訪問時、ベトナム国民に公式に謝罪してほしい」との題名で、「ベトナムには“韓国軍憎悪碑”が設置されている。慰安婦問題で日本に公式謝罪を求める国として、正面から被害者と向き合わなければならない」と主張する請願も寄せられているそうだ。しかし、これらの請願に集まった署名はまだ少数とのこと。

この報道に寄せられた韓国ネットユーザーの意見は真っ二つに分かれている。

謝罪賛成派は「公式謝罪しなければ、日本と同じになってしまう」「美しい国に向かうためには必要なこと」「日本に堂々と謝罪を要求するため、まずは韓国が謝罪するべき」などと主張している。

一方、反対派の意見としては「韓国軍が虐殺した事実はなく、むしろ支援活動を活発に行っていた。それなのになぜ韓国軍に悪いイメージを付けようとする?」「ベトナム戦争参戦勇士を侮辱することになる」「韓国は日本と違い、ベトナムを侵略していない。民間人に扮したベトナム軍が先にベトナム人と韓国軍を殺した」「朝鮮戦争で犠牲になった北朝鮮軍にも謝罪することになるけど?」といった内容が見られた。【3月169日 Record china】
*******************

ベトナム戦争当時、韓国軍兵士によっていろいろな行為が行われたのは事実であり、韓国からの対日批判に対し「韓国だってベトナム戦争当時・・・・」という話がよく出ます。

そういった他国の非をあげつらうような話はともかくとして、記事最後の“反対意見”を見ていると、自国の歴史に冷静に向き合うのは、韓国にしても、日本にしても、なかなか難しいことであるということがわかります。

特に“善悪を峻別する文化”の場合、いったん非を認めれば徹底して追求される・・・ということもありますので、日本のように“まあ、それはそれとして・・・”というふうにはいかないのかも。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

飽食ニッポンにも存在する飢餓経験 先進国最悪レベルの「子供の貧困」

2018-03-16 23:14:11 | 民主主義・社会問題

(画像は【相対的貧困率とは何か:6人に1人が貧困ラインを下回る日本の現状(小林泰士氏)】
日本はOECD加盟先進国のなかでも「相対的貧困率」が高い国です。OECDでは、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割って算出)が全人口の中央値の半分未満の世帯員を相対的貧困者としています。)

貧困層の存在がクローズアップされたイタリア総選挙
3月4日に行われたイタリア総選挙は、周知のように新興ポピュリズム政党の「五つ星運動」と、右翼政党「同盟」という、いずれも既成政治の枠外にあった勢力が台頭する結果となりましたが、いずれの勢力も過半数には及ばす、今後の連立交渉が注目されています。

連立に否定的だった「五つ星運動」は、選挙直前当たりから、必ずしも連立を否定しないという方向に軌道修正をかけていますが、今回選挙で躍進した「五つ星運動」と「同盟」の連立という、異色の組み合わせの可能性も俎上に上っているようです。

「同盟」のサルビーニ党首が「五つ星運動」との連立の可能性を示しています。(【3月15日 ロイター】より)

確かに、EUに懐疑的(直ちに離脱という訳ではないようですが)で、難民受け入れにも消極的という点では共通するところもある両者ですが、経済的に優位にある北部の分離独立運動からスタートしている右翼「同盟」に対し、「五つ星運動」は社会保障などで左派的な施策を掲げており、相当に性格が異なる政党でもあります。
「どうなるか見てみよう」というところでしょうか。

一方、このイタリア総選挙を“貧困”という視点から見たのが、選挙直前の下記記事です。

****貧困層」が急拡大している欧州のリアル 「ベーシックインカム」では解決できない****
先進国において貧困層が選挙結果を左右することはあまりない。だが、3月4日に総選挙を控えたイタリアでは貧困層が草刈り場になっている。

中道右派政党「フォルツァ・イタリア」を率いるシルビオ・ベルルスコーニ元首相(公職禁止の有罪判決を受けている)と、コメディアンでポピュリスト政党「五つ星運動」の党首、ベッペ・グリッロ氏が共にベーシックインカム導入を唱えているのだ。
 
貧困層に毎月、気前よくおカネを支給することになるこの公約は、制度設計からしてまゆつばものだ。とはいえ、少なくともこれによって急速に深刻化する欧州の貧困問題に光が当たったのは事実だ。

イタリアでは貧困層が10年で3倍に
もちろん、貧困層の全員が悲惨な生活を送っているわけではない。が、多くは困窮しており、イタリアでは貧困層が選挙結果に与える影響は無視できないものになった。

全人口の約8%、500万人近くが生活必需品すら買う余裕がなく苦しんでいる。しかも、こうした貧困層の数は、わずか10年で3倍近くに膨れ上がっているのだ。
 
欧州全体の状況も、同様に深刻だ。欧州連合(EU)では1億1750万人、域内人口のおよそ4人に1人が貧困層に転落するか社会的に疎外される危機にさらされている。

その人数は2008年以降、イタリア、スペイン、ギリシャにおいて600万人近く押し上げられている。フランスやドイツでも、貧困層が人口に占める割合は20%近辺で高止まりしたままだ。
 
2008年のリーマンショック以降、貧困層転落のリスクは全般に高まったが、その傾向は若者において顕著だ。年金を除く社会保障給付がカットされたのに加え、既存従業員の雇用を守るために新規採用を犠牲にする労働市場のあり方にも原因がある。

2007〜2015年に欧州では18〜29歳の若者が貧困化するリスクは19%から24%に上昇したが、65歳以上の高齢者については逆に19%から14%に低下した。
 
確かに最近の景気拡大によって若者の貧困化リスクは多少緩和されるかもしれない。しかし、構造問題はなくならない。失業が長期化すれば、その人の職業スキルは取り返しのつかないところまで劣化してしまうかもしれない。テクノロジーの急速な進化によって、能力が時代遅れになる可能性もある。
 
このままだと再就職は不可能となるか、低賃金で不安定な仕事に甘んじるか──貧困層の多くにとって選択肢はその2つだけ、ということになろう。

OECDの最近の統計によれば、スペインとギリシャでは生産年齢人口の14%が、働いているにもかかわらず貧困から抜け出せずにいる。

人間の尊厳が問われている
累進課税や、給与に上限を課すサラリーキャップなど、富の再分配を通じて不平等に対処する手段もある。だが、貧困の撲滅には再分配を超えるものが必要だ。

貧しい人々は社会の周縁に追いやられているが、貧困層が世の中に再び居場所を得て活躍できるよう支援していかなければならない。これは単に政情の安定や経済の公正さの問題なのではない。人間の尊厳が問われているのである。
 
この先、欧州の福祉国家モデルは改革が必要になろう。もはや欧州の高齢者は一番の経済的弱者ではないが、いまだに社会保障給付で最大の分け前を手にしている。欧州の各国政府は、老齢年金をカットし、貧困層や失業者・若者への配分を増やすべきである。
 
ベルルスコーニ元首相とグリッロ氏は貧困問題に狙いを定めているが、両氏が掲げるベーシックインカムは付け焼き刃の対策でしかない。確かに貧困層の厳しい懐事情はにわかに和らぐかもしれない。だが、背後にある構造問題が解決するわけではない。
 
それどころか、問題をさらに悪化させるかもしれないのだ。ベーシックインカムは失業者が職を探したり、職業訓練を受けたりするのを特に後押しするものではないため、貧困層が永遠に公的給付に依存して生きていく状況を生み出しかねない。
 
欧州の政治家は貧困問題を無視し続けることはできない。ベルルスコーニとグリッロの両氏が明らかにしたのは、そのことだ。【3月3日 東洋経済オンライン】
*****************

若年層、低学歴層に多い飽食ニッポンの飢餓経験率5%
途上国における絶対的貧困については、2月21日ブログ「途上国貧困層を襲う“ゴミの山”崩壊事故 中国の資源ごみ輸入禁止で対応を迫られる日本」でも取り上げました。

“先進国において貧困層が選挙結果を左右することはあまりない”とありますが、先進国においても“格差”が非常に重要な問題となっており、アメリカ・大統領選挙でのトランプ勝利も、発展から取り残された経済的に苦しい白人層の票が決めてになったと思われます。

相対的貧困とも言える“格差”はともかく、飢餓に直結するような絶対的貧困がどうか・・・ということに関して、イタリアでは“全人口の約8%、500万人近くが生活必需品すら買う余裕がなく苦しんでいる”とのことですが、日本でも「この1年間で、十分な食料がない状態で過ごしたことがある」という者が全人口の5%あまり存在するようです。

****飽食ニッポンにも飢餓は存在する****
<現代の日本でも少なくない人たちが飢餓を経験している。その経験率は若年層、低学歴層に偏っている>

2007年7月、北九州市で52歳の男性が自宅で死亡しているのが発見された。死因は餓死で、遺書には「おにぎり食べたい」と書かれていた。生活保護を打ち切られ、生活困窮に陥っていたためと見られる。

「今の日本で餓死なんてあるわけない」と思う人もいるかもしれないが、餓死者がいることは統計でも確認される。2016年中に、「食糧の不足」が原因で死亡した者は15人と記録されている(厚労省『人口動態統計』)。そのうちの10人は、40~50代の現役層だ。

餓死には至らずとも、飢餓を経験している人は多いだろう(1日1食でしのいでいる)。

2010~14年に各国研究者が共同で実施した『第6回・世界価値観調査』では、「この1年間で、十分な食料がない状態で過ごしたことがあるか」たずねている。

18歳以上の国民のうち、「しばしばある」ないしは「時々ある」と答えた人の割合を国ごとに計算し、高い順に並べると、<表1>のようになる(英仏は調査に参加せず)。


発展途上国では飢餓の経験率が高い。ルワンダやハイチでは、国民の半分以上が飢餓を経験している。経済大国のアメリカも11.5%と比較的高い。富裕層と貧困層の格差が大きいためだろう。

日本は5.1%で、20人に1人の割合だ。人口の概数(1億2000万人)に乗じると612万人で、東京都の人口の約半分が飢えを経験していることになる。決して少数ではない。

これは国民全体の数値だが、問題とすべきは、飢餓経験が社会的にどのように分布しているかだ。おそらくは、社会的な不利益を被りやすい層で多いと考えられる。

18歳以上の国民を年齢と学歴の軸で9つの層に分け、それぞれの飢餓経験率を計算してみた。学歴社会の日本では、低学歴層ほど飢餓の頻度は高いはずだ。年齢も重要で、最近指摘される若者の貧困が可視化されるかが注目される。

<図1>(省略)は結果をグラフで示したものだ。(中略)飢餓経験率をみると、若年層・低学歴層ほど高くなっている。30歳未満の義務教育卒(中卒)の群では17.9%、6人に1人が飢えを経験している。

左下の若年・低学歴層に困難が凝縮されていることが見て取れる。高齢化・高学歴化が進んだ現代日本の飢餓経験の分布図だ。

日本は豊かな社会だが、大多数から外れた不利な層の状況が見えにくい。冒頭の「おにぎり食べたい事件」をレアケースと取ってはならないだろう。その予備軍は決して少なくない。生活保護費が大幅削減される見通しだが、このような悲劇が再現される懸念が出てくる。

目を凝らして見ると、飽食の国・ニッポンでも飢餓は存在する。その一方で、まだ食べられる食品が年間621万トンも捨てられている(2014年度、環境省推計)。1人の国民が毎日、茶碗1杯分の食べ物を捨てていることになる。こうしたロスを減らす対策も求められている。<資料:『第6回・世界価値観調査』(2010~14年)>【2月22日 舞田敏彦氏 Newsweek】
*****************

<表1>には冒頭のイタリアや、英仏などは含まれておらず、先進国全体における貧困の様相はまひとつよくわかりません。

論旨がそれますが、突出して高い数値を示すのがルワンダとハイチ。ハイチはもともとの貧困国に加え、2010年のハイチ地震の壊滅的被害から復興できずにいますので、この数字もわかります。ルワンダは?

1994年のジェノサイドの後、カガメ大統領のもとで「ルワンダの奇跡」とも言われるような復興を実現している・・・と耳にしていましたので、意外な数字に思えます。成長の陰に深刻な格差があるのでしょうか?

先進国で最悪レベルの日本の「子供の貧困」】
話を先進国、特に日本の貧困に戻すと、日本は「子供の貧困」が先進国の中でも非常に悪い状況にあることが指摘されています。

****先進国で最悪レベル「子供の貧困」 なぜ豊かな日本で解決できないのか****
日本の子供の貧困率は今、先進国の中で最悪レベルにあるという。

貧困は、子供の教育機会を奪うだけでなく、豊かな日本社会の将来のツケとして暗い影を落とす。少子高齢化、無縁社会…。わが国の未来は、貧困などの危機にある子供たちに託すしかない。貧困が貧困を生む、この見えにくい現実について考えたい。

豊かな日本社会なのに子供の貧困問題が深刻化している。昨年、厚生労働省が発表した「子供の(相対的)貧困率」は過去最悪の16・3%に上り、6人に1人の約325万人が「貧困」に該当する。豊かな先進20カ国のうち、4番目の高さにある。
 
だが、この6人に1人という数字を見て、疑問を持つ向きもあるだろう。日本は経済大国である。「相対的」というぐらいだから、豊かな日本では貧困であるという基準が高く、このような驚くべき値が出てしまうのではないか。
 
この基準、貧困ラインは個人単位の額である。平成24年では年額122万円となるが、子供の場合、単身で暮らすことは少なく、これでは具体性に欠ける。

世帯単位に換算してみると、親と子1人ずつの一人親世帯(2人世帯)で年額173万円、月額約14万円、親子4人世帯で年額244万円、月額20万円余りにしかすぎないのである。

学力以前の「不利」
このような厳しい経済状況は子供たちにどのような影響を与えているのであろうか。注目を浴びているのは学力の問題だろう。全国学力テストでも、低所得世帯の子供の学力が低いことが分析されている。
 
だが、筆者の児童相談所での臨床経験からすると、学力以前の段階ともいえる健康、食生活、親子関係などで不利な状況を背負う子供も多いことを伝えなければならない。
 
さらに、貧困家庭の収入が低いのは親たちが働いていないからではない。ほとんどがワーキングプアであるからだ(日本の子育て世帯の失業率は先進国の中で最も低い)。
 
ある工場で働くシングルマザーは収入を増やすため、昼間から少し単価の高い夜間に勤務時間をシフトさせたが、その結果、近隣から育児放棄していると通報された。

筆者が経済状況を聞くと、母親の選択に共感せざるを得ない気持ちが湧いてきて、子供の危険性に対する判断との間で自分自身が板挟みになってしまったこともある。
 
こうした厳しい状況の背景の一つは、子供を持つ親たち、特に若い親たちの労働状況の悪化だろう。しかし、日本の場合、貧困化の進展に合わせて、政府からの子育て世帯への援助が限られている。つまり、公的支援が貧困なことを指摘しなければならない。
 
まず、子育て世帯は経済的に困窮していても、児童手当などの金銭的な支援(現金給付)を十分に受けていれば、貧困に陥らずにすみ、子供への影響を防ぐことができる。

他の豊かな先進国が子供の貧困率を低く抑えることができているのは、親たちの稼働所得に格差が少ないためではない。現金給付が日本に比べ、潤沢なためである。
 
さらに、子育て世帯は現金給付だけでなく、教育や保育など公的なサービスを受けている。こうしたものを「現物給付」と呼んでいるが、現物給付が十分であれば経済的に困窮していても、例えば、高い教育費負担に悩むことは少なくなる。
 
ところが、日本では現物給付も現金給付以上に貧困な状況だ。特に、公的教育支出(対GDP比)に関しては、2005年から11年までOECD(経済協力開発機構)31カ国(メキシコ・トルコなど中進国も含む)の中で最も低い割合である。少子化率を配慮しても極端に低い。

子供への社会投資を
私たちは、この社会の未来を子供に託すしかない。天然資源の少ない国であればなおのこと、子供という人的資源に頼るしかない。子供への社会投資しか道はない。
 
もちろん、そのためには社会的な負担の議論も必要だろう。しかし、同じ時間の長さでも子供は大人以上のダメージを受ける。

負担(コスト)の議論を待っている間に、損失(コスト)は相乗的に増え続けていることを私たちは自覚すべきである。待つことができる時間はわずかである。【2015年5月16日 山野良一氏 産経】
********************

上記記事のもとになった2012年調査の後、2015年調査では数字は改善してはいますが、基本的問題は解決していません。

****日本の子どもの貧困率 深刻な状況は変わらない****
子どもの貧困はまったく楽観できる状況にない。
 
厚生労働省が発表した国民生活基礎調査によると、2015年時点の子どもの貧困率は13・9%で、前回調査(12年)より2・4ポイント低下した。政府は「雇用の改善や賃金の上昇が加速しているため」と経済政策の効果を強調する。
 
しかし、子どもの7人に1人がまだ貧困状態にあり、高止まりしているのが実情だ。ひとり親世帯の貧困率は相変わらず5割を超える。先進国は2割未満の国が多く、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中では依然として最低水準にある。
 
貧困世帯への経済的な支援とともに、子ども自身への教育や生活支援を含めた総合的な対策が必要だ。
 
子どもの貧困率とは、世帯1人あたりの手取り収入を順に並べ、真ん中となる人の金額(15年は245万円)の半分(貧困線)に満たない世帯で暮らす子どもの割合だ。
 
今回の調査では、貧困線に近い低所得層の収入が減っており、景気や雇用状況が少し変わるだけで大幅に貧困率が悪化する恐れがある。
 
特に母子家庭は所得200万円以下の世帯が4割近くを占める。非正規雇用で仕事を掛け持ちしている母親は多く、所得は増えても子どもの養育にかける時間が減っている人もいる。

食生活が貧しく、風呂に入らない、歯磨きをしないといった子どもは、勉強にもついていけず、不登校やひきこもりにつながりやすい。
 
親の所得が少し増えただけでは、子どもの貧困状態を解消することはできないのだ。
 
厚労省が貧困率を初めて公表したのは09年、子どもの貧困対策法が成立したのは13年のことだ。昨年には児童扶養手当を増額したが、対象は2人目以降の子で金額も数千円程度にとどまっている。まだ対策は緒に就いたばかりである。
 
今年度から給付型奨学金も一部導入されたが、大学卒業後も長年にわたって奨学金の返済に追われている若者の苦境に比べれば、効果はあまりにも限定的だ。
 
必要な財源を確保し、福祉や教育、雇用など多角的な政策の展開が必要だろう。政府を中心に国民全体で日本の子どもの貧困を直視しなければならない。【2017年7月1日 毎日】
********************

「一億総中流社会」と称されていた日本にあって、「ワーキングプア」という言葉がクローズアップされたのが2006年。
高齢者に偏重しがちな福祉政策の在り方、非正規雇用増大の経済構造変化、貧困の連鎖、奨学金による自己破産等々、論ずべき点は多々ありますが、状況はあまり改善されていないように見えます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

チベット動乱から10年 焼身自殺続くもペースは減少 監視強化か情勢安定か? “Xデー”問題も

2018-03-15 22:01:20 | 中国

(手が届くほどの低い場所に設置されているため、視界に飛び込んでくる大型の監視カメラの下を歩くチベット族の僧侶【3月14日 朝日】)

ウイグルの「完全監視社会」】
新疆ウイグル自治区が、街角での突然の強制的なスマホ内情報のチェック、そうして方法を含む様々な方法で得られたデータの活用による「危険人物」の割り出し、AI活用の顔認証システム、さらにはDNA情報の利用・・・・等々で、近未来的な「完全監視社会」となっていることは、2017年12月23日ブログ“新疆ウイグル自治区 圧倒的な治安維持強化のもとで進む「完全監視社会」構築”でも取り上げました。

また、こうした監視体制のもとで「危険人物」とみなされた者は、法律的根拠の有無にかかわらず、当局が「教育センター」と呼ぶ劣悪な環境の強制収容施設へ送られていることは、2月17日ブログ“中国 新疆ウイグル自治区における強制収容所の実態 「唯一の罪は、ウイグル族に生まれたことだけ」”でも取り上げました。

その実態は定かではありませんが、89万人以上、ウイグル人密集地域ではウイグル人口の2〜4割が強制収容されているという、にわかには信じがたい数字も報じられています。

これだけの住民が強制収容されれば、残された家族、特に幼い子供はどうなるのか?という深刻な問題も派生します。

****ウイグル絶望収容所の収監者数は89万人以上****
<リークされた詳細なデータによれば、新疆ウイグル自治区のウイグル人密集地域で、ウイグル人口の2〜4割が中国共産党の「再教育」キャンプに強制収容されている>

トルコ・イスタンブル在住の亡命ウイグル人組織によって運営されているインターネットテレビ『イステクラルTV』は2月14日、「信頼できる現地の公安筋から入手した」として、新疆ウイグル自治区の強制収容施設に収監されているウイグル人やカザフ人の数を公表した。(中略)

漏洩した拘束者数がいつの段階のものかはわからないが、収容が大々的に始まった17年に作成されたと考えて間違いない。データは1212万人いるウイグル人口の71%をカバーしているが、県レベル以外のデータが明らかになれば、収監者数はおそらくさらに増える。

89万人を超す拘束者数は新疆全域のデータではないとはいえ、この数値からは多くを読み解くことができる。色で囲ったアクス地区、カシュガル地区、ホタン地区はいずれも住民に占めるウイグル人の割合が極めて高い土地で、データ上で明らかになった収監者数の約8割は、こうしたウイグル人密集地域から連れ去られている(中略)。

著名なウイグル人民族主義者の出身地も拘束率が高い。例えば現在の世界ウイグル会議総裁であるドルクン・エイサの出身地ケリピン県は2割以上、1930年代に東トルキスタンイスラーム共和国を南新疆に興そうとしたムハンマド・イミン・ボグラの一族が住んでいたホタン県では、ウイグル人やカザフ人の4割近くが拘束されている。(中略)

留守児童の死と、収容所で死んだ子ども
収容所では携帯電話を充電することさえできないが、ごくまれに内部の声も漏れ伝わってくる。

(中略)つまり収監の正当な理由など無いのだ。文化大革命の時代と同様、「反革命」「反愛国」的と見なされれば、誰でも収監される。

ウイグル人強制収容政策が始まって1年を過ぎた最近、国外在住ウイグル人の間で最も懸念されているのが、「留守児童」の問題だ。

親族が収容所送りとなり幼児だけ自宅に取り残されているケースが多発し、残された幼子たちは孤児収容所送りとなることが多いものの、自宅に残された幼児も多数いて、そうした子どもが事故死したとの事例も頻繁に聞こえてくるようになった。さらに「非人道の極み」として聞こえてくるのが、収監された子どもの死亡ニュースである。(中略)

17年10月13日の報道で、南新疆の孤児院の職員は場所と施設名を未公開とする代わりに、比較的詳細を語っている。

「両親が再教育施設収監のために孤児となった生後6ヶ月から12歳までのウイグル人の子ども達を預かっているが、突如として増えた子ども達であふれかえり、仔牛の群れを小屋に入れて飼育しているような状態だ」「福祉が追いつかず、週に一度だけ肉を使った食事を出せ、それ以外は基本的におかゆだけだ」「施設は厳重に制限され、外部者が施設内に入れない」(中略)

親族との連絡も途絶えており、子どものために帰国すれば、本人が拘束される恐れもあり、日本に連れてくることさえできない。(中略)

「シリアの戦場でさえ、シリア人たちはネットを通じて家族は連絡をしあっているのに」と嘆くウイグル人に、私は掛ける言葉もない。【3月13日 水谷尚子氏 Newsweek】
*******************

ウイグルに先立って監視社会が構築されたチベット
2月に日本を訪問したチベット亡命政府のロブサン・センゲ首相によれば、ウイグルで問題となっている「監視社会」の手法はもともとチベットで実行された手法とのこと。

“最近、欧米メディアが新疆ウイグル自治区の監視社会化について盛んに伝えているが、実はそうした手法の多くはチベットでは既に導入済みだ。現在、新疆ウイグル自治区のトップは陳全国(チェン・チュエングオ)だが、前任地はチベットだ。

無数の監視カメラ、私服警官による巡視、無数の派出所と検問、トラブルが起きたときに地域全体のネットを遮断する情報封鎖などの手法はまずチベットで実行され、現在の新疆に持ち込まれた。数千人もの漢民族、チベット人が密告者として雇用されているとも伝えられている。”【2月21日 高口康太氏 Newsweek「ウイグル絶望収容所の起源はチベット」センゲ首相インタビュー】

そのチベットでは、2008年3月にラサで多数のチベット族の僧侶や住民が暴動を起こし弾圧された「チベット動乱」から、14日で10年を迎えました。

習近平指導部は、チベット自治区を経済的に発展させ、安定をアピールすることで統治の正当化を図る一方、不満や反発を抑えるための監視と統制を強化し続けています。

****チベット族に強まる監視、募る不満 ****
歴史的な寺院にほど近いチベット自治区ラサ市の中心部。コーヒーを片手にカフェの2階に上がると思わず息をのんだ。屈強な男達が窓際に陣取り、人が行き交う道路を見下ろしていた。小型のカメラを携えており一目で私服警官と分かる。道路からは全く気が付かなかった――。

昨秋、ラサを訪れたチベット族の男性が語った現状だ。自治区外からラサに入る際、チベット族は漢民族よりも厳しく検査された。

街のあちこちに監視カメラがあり、人工知能(AI)による音声解析も駆使して監視。「ラサでは身内同士でも本音はしゃべれない」と顔を曇らせる。
 
チベット族が多く住む青海省同仁県の住民は、2年ほど前に起きた事件が忘れられない。700年の歴史を持つ隆務寺の前の広場で、1人の若者が自らの身体に火を付けて亡くなった。信仰の自由を求め、抑圧に抗議する焼身自殺だった。

その現場で営まれた葬儀には千人以上が参加。広場を埋めた人々がチベット仏教の作法にのっとって手厚く葬った。「みんな思いは同じなんだとわかった」と涙を浮かべた。
 
中国はチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世に対して、独立を目指す「分裂主義者」として敵視している。チベット側は、目指すのは独立ではなく「高度な自治」だとして話し合いを求めているが、中国側は応じていない。
 
「何が起こるか不安だ」。チベット族が心配するのは82歳のダライ・ラマが亡くなった後のことだ。非暴力を掲げるダライ・ラマがいるからこそ、独立を主張する強硬派のチベット族も行動を控えている。不在になれば、抑えが利かなくなる可能性があるという。
 
ダライ・ラマの後継者は、死去後に生まれ変わりを探す「輪廻(りんね)転生」制度で決める伝統だ。ただ、チベット側の選定とは別に、中国政府も独自に生まれ変わりを探すようなら、チベット族の反発が一段と高まる恐れもある。
 
チベット族の立場も一様ではない。不満は持ちつつも、中国の経済成長で一定の恩恵に預かっている人は少なくない。子供の将来を考え、チベット語ではなく、中国語の教育を受けさせる人もいる。

“Xデー”が近づくなか、あるチベット族の女性は「答えの見つからない悩みばかりだ」とため息をついた。【3月12日 日経】
********************

チベット固有の“Xデー”問題
チベットはウイグルと似たような状況にありますが、チベットにはダライ・ラマが亡くなる“Xデー”の問題があります。

暴動発生の可能性もありますが、中国当局としては意向に沿う後継者を据えて、ダライ・ラマ14世という精神的支柱を失ったチベットのより強固な統治を実現するチャンスともなります。

チベット側は、後継者選定に中国当局が介入(パンチェン・ラマ11世で実施済み)することを恐れ、伝統的な“輪廻転生”によらない、高僧による会議による後継者選定にも言及するようになっています。

本来宗教には否定的な共産党が伝統的“輪廻転生”を強調し、宗教側が伝統によらない方法を模索する・・・という、なんとも皮肉なねじれた状況でもあります。

*********************
――昨年、ダライ・ラマ法王は日本訪問をキャンセルした。健康問題を抱えているのか。年内に高僧の会合が予定されていると聞くが、転生問題が話し合われるのか。

健康状態は良好だ。検査でもそう診断された。訪日キャンセルは過労を主治医が心配して忠告したためだ。ダライ・ラマ法王は83歳のお年なのだから、休み休み働くのは当然だ。

高僧会合は3年おきに開催されている定期的な会合だ。転生問題を含む多くの議題が話し合われる。ただ、転生と後継者の問題は法王に決定権があることは強調しておきたい。当然だが、中国政府に決定権はない。
 
転生とは過去のラマの使命とビジョンを新たなラマが受け継ぐことである。先代のラマが亡命の身であれば、次代のラマも亡命者から生まれてくるのが道理だろう。われわれとしてはチベット問題が解決し、法王が帰還されることを望んでいるが。【前出センゲ首相インタビュー】
*****************

【「焼身以外に抗議の方法ない」 その焼身自殺も減少 監視強化のためか、情勢安定か?】
厳しい「完全監視社会」によって、抗議行動も亡命できず、できるのは焼身自殺だけ・・・という悲痛な状況と言われています。

****<チベット>ラサ暴動10年「焼身以外に抗議の方法ない****
2008年に中国チベット自治区ラサを中心にチベット人の大規模な暴動が発生してから14日で10年。インド北部ダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府は中国に対し、自治区での「高度の自治」実現を求めているが、中国側との対話は進んでいない。中国では抗議の焼身を図るチベット人が相次ぎ、亡命チベット人の間には怒りが渦巻いている。
 
「チベットに自由を!」。米政府系の自由アジア放送(RFA)などによると、中国四川省で7日、40代のチベット人男性がこう叫んで自らに火を放ち死亡した。男性は普段から中国への不満を口にしていたという。

「チベットは中国の抑圧により、人が住める場所ではなくなった。焼身はその証明だ」。亡命政府のロブサン・センゲ首相は声明でこう嘆き、改めて中国に対話を呼びかけた。
 
チベット僧や市民による抗議の焼身は暴動の翌年の09年に始まった。その数は150人以上に上り、少なくとも130人が死亡している。

ニューデリーで取材に応じたダラムサラの亡命チベット僧、ベン・バグドロさん(45)は「チベットでは暴動以来、監視がいっそう厳しくなり、亡命も難しくなった。焼身以外に抗議の方法がない」と語る。
 
バグドロさんも過酷な経験をしている。1988年3月、ラサで抗議デモに加わり警官隊と衝突。発砲で左足を負傷し拘束された。

ラサの刑務所で3年間、政治犯として過ごし「連日、電気ショックなどの拷問を受けた」。国際人権団体の助けで91年に解放されインドへ亡命。「チベットに人権はない。中国は暴力的だ」と語る。
 
ラサ暴動ではデモ隊が警官隊と衝突し、他地域にも暴動が拡大。中国政府によると市民ら約20人が死亡したとされるが、亡命政府は数百人が死亡したと主張している。北京五輪直前だったことから国際的な注目を集めた。

北京では2022年も冬季五輪が予定されており、「チベット人は必ずまた声を上げる」(ニューデリーの亡命チベット人2世)との観測もある。バグドロさんは言う。「チベットは我々の国だ。決してあきらめることはない」【3月13日 毎日】
******************

しかし、残された家族・関係者への弾圧が強化されたことによって、焼身自殺もままならない状況にもなっており、そのことが最近自殺件数のペースが鈍っていることに現れているとも言われています。ダライ・ラマ14世も焼身自殺には否定的な対応をとっています。

一方、中国当局の見方によれば、自殺の減少は共産党指導による経済発展の実現による情勢の安定の結果だ・・・という話になります。焼身自殺だけでなく、亡命も激減しています。

個人的には、焼身自殺の発生がラサなどチベット自治区より周辺地域に多いようにも思われ、そのことの意味が気にもなっていますが、データ・情報がないのでなんとも。

中国当局の言い分がどこまで真相を反映しているのかはわかりませんが、前出【日経】にもあるように、経済成長・当局の施策による利益を得ているチベット人も一定にいることも事実でしょう。

“締め付けと並行する形で、習指導部は経済発展によるチベット族の懐柔に躍起だ。8日の分科会でチザラ・チベット自治区主席は「17年の域内総生産は10%増加した」「15万人の貧困人口を減らした」と実績を口にした。さらに、中国当局は国内から自治区に大量の教師を派遣し、中国語教育を強化、言語・文化面の「中国化」を急いでいる。”【3月12日 時事】

****チベットで抗議の焼身自殺、10年で150人超が図る*****
中国の少数民族チベット族と治安部隊が衝突し、多くの死傷者を出した2008年3月のチベット騒乱から10年。中国政府は弾圧と経済振興を使い分け、騒乱の再発を封じてきた。だが、チベット族の抗議の焼身自殺が後を絶たない。チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(82)の後継者問題が不満噴出の「火種」としてくすぶる。

(中略)中国が統制を強める背景にあるのが、チベットの重要性の高まりだ。「チベット自治区は国家の安全を守る重要な砦(とりで)だ」。習近平(シーチンピン)氏は国家主席に就任した13年の全国人民代表大会(全人代)の会議で強調した。
 
中国政府が従来、力点を置いてきたチベット独立の阻止に加え、習氏はチベットを国境問題があるインドに対する「最前線」と明確に位置づけた。16年の同自治区の治安対策予算は、07年の5倍以上に急増した。
 
同自治区に隣接する四川省・成都。チベット族が集まる「武侯祠」周辺に数年前から大型の監視カメラが数十メートルおきに取りつけられた。ここのカメラは中国の一般的なサイズの約2倍。「監視していると見せつける狙いがあるんだろう」。民芸品店を営むチベット族の女性がつぶやいた。
 
中国政府は外国メディアによるチベット自治区内での取材を厳しく制限。四川省でも3月上旬、チベット族の地域につながる道路に検問を設け、外国人の立ち入りを禁止した。一方、習氏は「チベットの経済発展こそが問題解決の基礎だ」と貧困対策に力を入れる。
 
チベット族の建設労働者の男性(42)は12年に習指導部が発足してから、3カ月に1度、家族1人あたり500元(約8500円)超を低所得者の生活支援金として受け取るようになった。月収が3千元ほどの男性にとっては小さな金額ではない。男性は「習さんには、とても感謝しています」と笑顔を見せた。
 
四川省にある甘孜(カンゼ)チベット族自治州の地方政府職員は「私たちよりも収入が多い『貧民』もいるぐらいだ」と苦笑いした。

厳しい国境監視、亡命者減少

チベット亡命政府があるインド北部ダラムサラには、チベットから逃れた難民たちが暮らす。難民の大半はダライ・ラマが率いた亡命政府に登録してもらおうと、まずはダラムサラを目指してきた。
 
ところが、逃れてくる人の数が騒乱後に激減した。07年までは年間2千人前後が来ていたが、昨年は116人にまで減った。(中略)
 
亡命政府が難民の数が減った理由として挙げるのが、中国当局などによる国境警備の強化だ。中国とインドの国境地帯は両国の軍による厳しい監視があり、越境が困難で多くの難民はネパールを経由してきた。
 
だが、ネパールは近年、共産主義を掲げる政権が続いたこともあり、中国の要請を受けて国境管理を強化。亡命政府のロブサン・センゲ首相は「中国はネパール警察に装備を供与し、訓練もしている」と危機感をあらわにする。(後略)【3月14日 朝日】
*******************

中国の影響力拡大になびく外国企業・関係国
焼身自殺や亡命の減少が当局の施策による“情勢の安定”ではなく、単に監視強化によるものだったとしても、その封じ込め策は功を奏しているようです。

中国とかかわる企業・国家も、中国の強い意志に沿う方向になびいています。
最近では、ダライ・ラマの言葉を引用したベンツが謝罪に追い込まれたケースが話題になりましたが、中国と領有権をめぐり小競り合いを続け、チベット亡命政府も抱えるインドも、あまり波風たてない方向のようです。

****ダライ・ラマ行事中止 インド政府が中国に配慮か****
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世がインドに亡命して来年で60年となるのを前に、チベット亡命政府がニューデリーで企画していた記念行事が中止されたことが8日までに明らかになった。

インド政府高官が中国との関係が「敏感な時期だ」として、政府職員らに参加自粛を通知したことを受け、大規模な開催を見送ったとみられる。中国に配慮を見せたインドの対応が波紋を広げそうだ。
 
亡命政府は31日と4月1日に、ニューデリーの競技場などで、インドの支援に感謝する行事を企画し、ダライ・ラマによる演説も計画されていた。

だが、亡命政府はこのほどニューデリーでの予定を取り消し、本拠があるインド北部ダラムサラで規模を縮小して実施することを決めた。
 
ダライ・ラマ法王ニューデリー代表部事務所は産経新聞の取材に「インド政府の対応を尊重する」としており、インド側の動きを受けた中止措置だったことをのぞかせている。
 
印英字紙インディアン・エクスプレスなどによると、インド政府高官の参加自粛を流す通知は2月下旬に出されており、中印関係が昨夏のドクラム(中国名・洞朗)地区での対峙などを通じてこじれる中、これ以上の摩擦を回避したい思惑が見える。
 
モディ政権は、2014年5月の首相就任宣誓式に亡命政府のロブサン・センゲ首相を招くなど、亡命政府側に一定の配慮を見せていたが、今回の措置は「亡命政府の政治的活動に距離を置くという古い立場に戻っている」(ネール大のアルカ・アチャリャ教授)との声が上がっている。【3月8日 産経】
********************

中国の監視体制強化・国際的影響力拡大にあって、“Xデー”問題を抱えるチベット側は難しい対応を迫られることが多くなりそうです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サウジアラビア・ムハンマド皇太子は「改革者か、それとも悪党なのか」 独裁者を歓迎する風潮

2018-03-14 22:34:04 | 中東情勢

(メイ首相に手厚くもてなされたサウジアラビアの実権を握るムハンマド皇太子 画像は【3月8日 NHK】)

【「改革」と強権・人権無視
従来は保守的イスラム主義で知られていた中東サウジアラビアにあって、実権を掌握したムハンマド皇太子による、女性の自動車運転解禁などの幾ばくかの社会的自由化を含んだ政治・経済・社会における「改革」路線が進行していること、国内的にはこの「改革」が国民から概ね歓迎されていることは、2017年12月19日ブログ“サウジアラビア  国民に支持される経済・社会改革 パレスチナを置き去りにするイスラエル接近”などでも取り上げてきました。

今年に入ってからも、主に女性に対する抑圧・束縛の緩和に関するニュースなどが報じられています。

“サウジ、競技場での女性のサッカー観戦を12日から解禁 同国史上初”【1月8日 AFP】
“初の女性向け自動車ショールーム開店 サウジ”【1月12日 AFP】
“女性に運転を、27年前に握ったハンドル サウジ、6月から解禁”【1月15日 朝日】
“「女性へのアバヤ着用義務付け、必要ない」 サウジの高位聖職者が発言”【2月11日 朝日】
“「牙を抜かれた」サウジの宗教警察、社会に解放感も一抹の不安”【2月15日 AFP】
“女性の省庁次官が初めて誕生、軍勤務も可能に サウジ”【3月1日 CNN】
“サウジ、初の女子マラソン大会を開催 数百人が伝統衣装で参加”【3月5日 AFP】

どうでもいいことではありますが、最後の“伝統衣装で女子マラソン”というのは、酷暑のサウジアラビアにあって、聞くだけで汗が吹き出しそうですが、日差し除けになってかえって好都合なのでしょうか?(イスラム女性の全身を覆う衣装は、乾燥地帯で日差しがきつい中東だからこそ生まれたスタイルだとの指摘もあるようです)

当然ながら保守派からの反発・せめぎあいもあることは、上記“「牙を抜かれた」サウジの宗教警察、社会に解放感も一抹の不安”のほか、下記のようなニュースにも見てとれます。

****人気歌手のコンサートで踊り禁止、サウジアラビアで批判殺到****
サウジアラビアで開催予定のエジプト出身の人気歌手ターメル・ホスニーさんのコンサートを前に、事前販売されているチケットに「踊りや体を揺らすことは禁止」という注意書きが載せられ、ソーシャルメディア上ではこれを嘲笑したりからかったりする批判の投稿が殺到している。(中略)
 
サウジアラビアは現在、近代化に向けた社会改革に取り組んでおり、最近では海外から著名アーティストを招待してコンサートを開催している。会場では男女が踊り出す様子も見られるが、そのような光景はつい近ごろまで考えられなかったことだという。
 
社会改革を進めるムハンマド・ビン・サルマン皇太子はエンターテイメントに関する選択肢を増やし、原油価格の下落による助成金の削減に対する不評との均衡を図ろうとしている。

一方、サルマン皇太子の改革にイスラム強硬派の聖職者たちは反発している。【3月7日 AFP】
******************

ムハンマド皇太子の一連の社会改革は、社会の在り方に関する皇太子の考えを反映したものでしょうが、同時に、女性や若者の支持を背景に権力掌握を確かなものにしようという政治的意図もあってのことでしょう。

「改革」にあっては、「反腐敗」名目の一斉捜査で王族ら350人が逮捕された財産を没収される政治的動きも平行しています。

****大富豪のサウジ王子が釈放 「反腐敗」捜査、権力固めか****
サウジアラビア政府による「反腐敗」名目の一斉捜査で逮捕された王族ら350人の一人、大富豪のアルワリード・ビン・タラル王子が27日、釈放された。

次期国王候補のムハンマド皇太子が率いた大規模捜査は、個別の容疑や処分内容が公表されぬまま、同皇太子の対抗勢力になり得る有力者の多くが失権する形で幕引きとなりそうだ。一連の捜査が、同皇太子の権力固めの一環だったとの見方が強まっている。(中略)

「聖域なき改革」を掲げるサウジ政府は昨年11月以降、ムハンマド皇太子が率いる「反腐敗最高委員会」の主導で王族や閣僚らを含む350人を逮捕。贈収賄や着服の容疑をかけた。

同国の衛星テレビ局アルアラビアによると、1月下旬までに多くが容疑を認めて「和解」に応じ、現金や不動産などの資産を国庫に納めた。一方、90人は嫌疑なしとして釈放された。【1月29日 朝日】
******************

国民受けのいい「聖域なき改革」によって政敵を打倒し権力を確実なものにするというのは、中国・習近平国家主席の「トラもハエも・・・」にもよく似ています。

この汚職取り締まりは、相当に強権的・暴力的に行われているとの指摘もあります。

****サウジ汚職取り締まり、被拘束者らへの虐待が横行 米紙報道****
米紙ニューヨーク・タイムズは12日、サウジアラビアで進められている大規模な汚職取り締まりで、身柄を拘束されている人々が威圧や身体的な虐待を受けており、釈放後も恐怖心や不安感にさいなまれていると報じた。
 
同紙によると、虐待を受けて少なくとも17人が入院。また目撃証言によると、拘束中に死亡したある将軍は首の骨が折れていたという。
 
王子や閣僚、大物実業家を含む容疑者381人の多くが依然軍の監視下に置かれており、中には位置追跡用の足輪の着用を強制されている人もいると、同紙は伝えている。(後略)【3月12日 AFP】
********************

イエメンへの軍事介入、カタールとの断交、といった外交上の強硬姿勢も、ムハンマド皇太子が主導しているといわれています。

そのイエメンは、サウジアラビアの激しい空爆もあって、国連も人道危機を懸念する悲惨な状況になっています。

****<国連事務次長>イエメン支援訴え「深刻な人道危機****
来日中のマーク・ローコック国連事務次長(人道問題担当)が20日、東京都内で毎日新聞の取材に応じた。

内戦が続き、感染症も拡大しているイエメンについて、人口約2700万人のうち2200万人以上が食料や医療の支援を必要としており、「世界で最も深刻な人道危機に直面しており、国際社会の支援が必要だ」と訴えた。
 
ハディ暫定政権とイスラム教シーア派系武装組織フーシの争いが続くイエメンでは、暫定政権を支持するサウジアラビア主導の連合軍の介入で戦闘が激化。

国連人道問題調整事務所(OCHA)のトップでもあるローコック氏は「支援が届くように国内のアクセスを改善し、内戦の当事者らに戦闘の縮小を働きかける必要がある」と主張した。(後略)【2月20日 毎日】
*****************

ユニセフは1月16日、イエメンで内戦が激化した2015年3月以降に死傷した子どもが5000人余りに達したこと、また、深刻な栄養失調に陥り命の危険にさらされている子どもも40万人に上っていることを報告しています。

国際的批判も強く、また、サウジアラビアにとって財政的負担も大きいイエメンの“泥沼”に、ムハンマド皇太子も相当に焦っているとの指摘もあるようです。

以上のようにムハンマド皇太子の施策には、女性の権利拡大などの評価される側面だけでなく、暴力的な政敵打倒とか国際的人道危機を招いているといった側面もあります。「改革者」とは言っても、基本的には人権を尊重しているとは言い難い独裁的強権支配者でもあります。

ムハンマド皇太子の訪英を手厚くもてなしたメイ首相
ただ、多くの国にとっては、サウジアラビアの資金力は魅力的であり、イギリス・メイ首相もムハンマド皇太子の訪英を手厚くもてなしています。

****サウジアラビア皇太子が訪英「改革者か悪党か****
中東サウジアラビアの王位継承者ムハンマド皇太子は、就任後、初めてイギリスを訪問し、メイ首相から自身が主導する改革への協力を取り付けた一方、軍事介入を続けるイエメンの内戦が人道危機を招いているとの批判にも直面していて、賛否が分かれる中での外遊となっています。

サウジアラビアのムハンマド皇太子は、石油に依存した経済からの脱却を進めるため、世界で唯一禁止されてきた女性の運転解禁を決めて、社会進出を促すなど、父親のサルマン国王とともに改革を進めています。

ムハンマド皇太子は、国内への投資を呼び込み、改革を加速させるため、就任後、初めてとなる外遊に乗り出していて、欧米では最初の訪問国になるイギリスに滞在しています。

7日にはメイ首相と会談し、今後数年間で、およそ9兆5000億円を目標に両国間の貿易・投資案件を進めることで合意し、改革への協力を取り付けました。

イギリスの首相府は、改革によって女性の権利が向上している点を評価するとともに、イギリスがEU=ヨーロッパ連合から離脱を進めるうえで関係強化が重要だと意義を強調しました。

一方、サウジアラビアが軍事介入を続けるイエメンの内戦が人道危機を招いているとして、抗議デモが行われるなど、皇太子が主導する軍事作戦に批判の声も上がっています。

イギリスメディアは、ムハンマド皇太子を「改革者か、それとも悪党なのか」と表現するなど、内政と外交で相反する評価を伝えていて、賛否が分かれる中での外遊となっています。【3月8日 NHK】
********************

ブレア元首相やブラウン元首相らの「ニューレイバー」に対して「オールドレイバー」とも称される、伝統的左翼を堅持するコービン労働党党首はさすがに、「イギリス政府は、イエメンにおけるサウジアラビアの犯罪を支持するため欺瞞行為に訴えている」【3月11日 Pars Today】と噛みついています。

【“彼が改革を実行する基本的な手法は、権力をできる限りかき集めることだ”】
コービン党首のような批判はありますが、昨今の国際政治の環境にあっては、メイ首相がムハンマド皇太子を手厚くもてなしたように、独裁的指導者が高く評価される傾向にもあるようです。

*****改革派」皇太子に期待し過ぎるな****
欧米にもてはやされた独裁者たちの見果てぬ夢 抑圧的支配による民主的改革という矛盾

(中略) 独裁的指導者の人気が高まっている理由の1つは、ドナルド・トランプ米大統領だ。トランプは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領やフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領、エジプトのアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領など「タフガイ」への共感を隠そうとしない。
 
欧米の政府が他国の支配者を選ぶことはできないが、彼らは独裁者が安定をもたらすという考えを信じているようだ。しかし現実には、強権的支配者は善意のあるなしにかかわらず、優れた実績を残していない。
 
50年代~60年代、アラブ革命によってエジプトでガマル・アブデル・ナセルが、アルジェリアでウアリ・ブーメジエンが、シリアでハフェズ・アサドが政権に就き、発展と社会改革と国力の増強を約束した。ただし、彼らが築いた国家は、機能したとしても短期間だった。 

革命の情熱が薄れ、穏やかな経済成長が尻すぼみになるとその空白を武力が埋めた。彼ら革命指導者の後継者はイデオロギーで世論を動かそうとしたが、中途牛端でしかなかった。

「チャベス革命」の末路
(中略)その後、エジプトのホスニ・ムバラクや、アルジェリアのシヤドリ・ベン・ジェディド、シリアのバシヤル・アサドがそれぞれ大統領の座を継いだ頃には政権の正統性が弱まっていた。

国が方向を見失いかけた状況では市民を抑圧的に支配する以外に、統制を取る方法はほとんど残されていなかった。
 
これはアラブ世界だけの問題ではない。ベネズエラでウゴ・チャベスが始めた「民主的革命」は、後継大統領のニコラス・マドゥロが経済破綻という形で完成させようとしている。

オスマン帝国を倒してトルコ共和国を樹立したムスタフア・ケマル・アタチュルクによる政教分離の世俗主義さえ、今では多くの国民にとって魅力が薄れている。

(中略)大規模で複雑な社会で改革を実現するためには、ある程度の国民の合意と権限の移譲が必要だ。どちらも典型的な独裁者にとっては、いくら改革志向が高かったとしても受け入れ難い。
 
その結果、強権政治は社会の不安定を招き、暴力や腐敗、過激化などの病をもたらす。

これは分かり切った事実に思えるのだが、欧米諸国は強権的支配者の考えに迎合するだけでなく、促進してきた。
 
エジプトのシシは、欧米からムハンマドほど温かく歓迎されているわけではないが、テロリストを残虐に殺害し、経済改革を推進する姿勢が主要国から称賛されている。

政敵や批判を徹底的に封じるやり方も、形式的に非難されているにすぎない。
 
欧米の為政者にしてみれば、独裁者のほうが付き合いやすく見えるに違いない。何しろ、民半王義は厄介なものだ。
世論に敏感な民主主義者より独裁者のほうが、例えばアメリカに迎合しても、それほど国内に気を使う必要はない。

民主主義は扱いにくい?
さらに、民主主義が選ぶ指導者は、欧米から見れば独裁者よりはるかに都合が悪い場合もあるだろう。リビアとイエメンが現在の混乱を生き延びることができるとしたら、おそらく強権的な支配者の下でのことだ。

国際社会の指導者も基本的に彼らを歓迎し、流血と混乱がようやく終わることに安堵するというわけだ。
 
ただし、独裁者がもたらす安定と治安は決して堅固ではない。彼らの権力を脅かすような社会のひずみが生まれ、反発、抑圧、急進化、暴力の悪循環が繰り返されることになる。 

それでも、ムハンマドのような人物の登場に内外からの期待を感じずにいられない。隣国イエメンの内戦への介入は泥沼化を招いているが、自国では新しい社会契約を築こうとしている。

サウジアラビアを「投資のハブ」にして、女性に自動車の運転を認め、若者に機会を与える。これらの改革は、サウジアラビアが崩壊するか、崩壊する危機よりはるかに好ましい。 

しかし、欧米がムハンマドを歓迎する本当の理由は、彼がイスラム教を「正す」と改革を約束していることだ。同じ目標を掲げるシシよりも、メッカとメディナという「二聖モスクの守護者」であるサウジ国王の後継者ムハンマドのほうが言動に重みはある。(中略)

とはいえ、サウジアラビアの人々や欧米の支配層がムハンマドに熱い視線を送るのは筋違いだろう。彼が改革を実行する基本的な手法は、権力をできる限りかき集めることだ。
 
ムハンマドが改革を達成できず、国民に約束している生活と現実の差が明らかになって、抗議の声が広がったときに、代償を払うのは彼を支持している人々だ。
 
失敗するとは限らないが、強権的な支配者が民主的な改革に成功するとしたら、予想外であり皮肉な結果だ。【3月20日号 Newsweek日本語版】
*****************

そもそも「今の私たちはリベラルな民主主義型の政治形態こそが標準的だと捉えがちだが、それは違う。人類史全体で見れば、民主主義の歴史は国際秩序の観点ではとても浅い」(英オックスフォード大学中国センターのジョージ・マグヌス准教授)という基本的問題があります。

****深刻な危機に直面している民主主義****
(中略)一方、人権活動家らは、世界各地にみられる権威主義者や独裁者が、グローバル化や産業の衰退、テロ、移民流入に対する国民の不満を利用して自らの行為を正当化していると警鐘を鳴らしている。
 
人権監視団体「フリーダム・ハウス」によれば、民主主義は2017年に個人の自由が12年連続で衰退したことが分かっており「この数十年で最も深刻な危機に直面」しているという。
 
また、トランプ政権下の米国は、他国で起きた問題行為を非難する立場でいられるほどの倫理的権威をもはや失い、欧州はハンガリーとポーランドで台頭したナショナリストに悩まされていると指摘する声もある。
 
1990年代、フランシス・フクヤマ氏をはじめとする知識人は、リベラルな民主主義と資本主義が共産主義や全体主義に対して優越する正当性を獲得し、人類がついに「歴史の終焉(しゅうえん)」に到達したのではないかと問い掛けた。
 
しかし20世紀の終わりを待たずして、専門家らは半独裁国家の台頭に警鐘を鳴らした。民主主義と独裁制の中間に位置しているのはトルコやロシアなどの国だ。
 
中国は、政治的自由のある多元的社会を構築するという考えからは徹底的に距離を置いてきた。しかも急速に経済成長を遂げ、軍事力を拡大してきたことと相まって、反民主主義型の政体の見本としてその役割を果たしている。【3月13日 AFP】
*****************

“国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのケネス・ロス代表は、民主主義的な指導者には、独裁政治や、著しい抑圧によって権力を握り続けようとする独裁者を非難する責任があると主張する。”【同上】とも。

真ん中から突き落とされた人々の、真ん中的な政治への逆襲
最近は、ポピュリズムという形で国民の不満を利用して権力を握る勢力も目につきます。国民がこうしたポピュリズム勢力を受け入れがちな背景としては、イタリアでの「同盟」や「五つ星運動」の台頭に関して以下のようにも。

****浜矩子「真ん中から突き落とされた人々の恨みつらみが、真ん中的な政治に逆襲」****
(中略)なぜ、政治的真ん中が拒絶されたのか。それは経済社会的な真ん中が抜け落ちたからである。いわゆる中間層からどんどん人々が追い出され、突き落とされ、下層へと転落していく。真ん中が空洞化していく。

真ん中から突き落とされた人々の恨みつらみが、真ん中的な政治に逆襲の声を上げている。この声を煽り立てているのが、現代の偽預言者たち、すなわち、いわゆるポピュリストどもである。その扇動にいくら乗っても、人々は真ん中に戻れはしない。

真ん中から縁辺に追いやられた人々は、真ん中に連れ戻してあげなければいけない。さらにいえば、何人も縁辺に置き去りにしておいてはいけない。そこが肝心なところだ。

だが、偽預言者たちにそれはできない。彼らは外敵を指し示すばかりだ。それに人々が気づいた時には、既に手遅れかもしれない。

ふと我に返った時、人々は得体の知れない排外的独裁体制下で、二度と真ん中には戻れない場所に封じ込められてしまっているかもしれない。これは他人事ではない。【3月13日 浜矩子氏 AERAdot.】
******************


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トルコ  シリアでのクルド人勢力制圧を進行 国内外で“力を誇示”するエルドアン大統領

2018-03-13 22:27:28 | 中東情勢

(エルドアン大統領は熱狂的な支持者があふれる集会で、戦闘服姿の少女を壇上に上げ、戦闘で「殉教者」になれば名誉を受けるだろうなどとIS指導者のような発言。少女はおそらく「殉教者」の意味を理解したのではなく、単に緊張・不安のためでしょうが、涙ぐんでいます。画像は【https://matome.naver.jp/odai/2152004998966813001】)

【「今はアフリンにいるが、明日にはマンビジ、明後日にはユーフラテス川の東側に進撃・・・・」】
国連安全保障理事会は2月24日、内戦が激化するシリアでの人道支援物資の搬入や負傷者の退避のため、シリア全域での30日間の停戦を求める決議をシリア政府を支援するロシアを含む全会一致で採択しました。

しかし、テロ組織と関係する他の全ての個人やグループが停戦の除外対象に加えられたことで実効性はなく、ダマスカス郊外東グータ地区を支配する反体制派へのシリア政府軍の攻撃は激しさを増し、地上部隊を投入した制圧作戦も進行、多くの犠牲者が出ていることは周知のところです。

もうひとつの主戦場が隣国トルコが侵攻するクルド人勢力支配地区であるアフリン。
トルコは2月28日、「テロリスト」と戦っているとして、戦闘停止を求める欧米の要求を拒否しています。

中東最強(世界でも第8位 米国の軍事力分析機関グローバル・ファイヤーパワーの発表 ちなみに、日本の自衛隊は世界第7位とか 米中ロとの比較はできないものの、結構強力な軍隊です)の軍事力を誇るトルコが本気で攻め込めば、IS掃討で大きな実績を誇るクルド人勢力も苦戦は免れないでしょう。

****トルコ軍作戦、アフリン中心部に「今すぐにでも」突入可能 大統領****
シリア北西部アフリンで軍事作戦を実施中のトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は9日、トルコ軍ならびに同盟関係にあるシリア反体制派は、クルド人勢力が掌握しているアフリン中心部に「今すぐにでも」突入できると述べた。
 
前日の8日にはトルコ側がアフリンの西に位置する要衝の町ジャンダリスを制圧していた。

エルドアン大統領は9日、首都アンカラで開かれた与党・公正発展党の集会で、「現在わが方の目標はアフリンだ。現時点でアフリンを包囲しており、神のおぼしめしがあれば今すぐにでも突入できる」と述べ、「アフリンでの軍事作戦はテロを根絶するまで継続する」と警告した。
 
トルコは1月20日から、自国の領土への脅威となる「テロ組織」とみなすクルド人民兵組織「クルド人民防衛部隊」に対する軍事作戦「オリーブの枝」をシリア北部で展開している。
 
クルド側の激しい抵抗によってこれまでにトルコ兵42人が戦死しているが、トルコ側の攻勢はこの数週間で勢いを増しているもようだ。【3月10日 AFP】
*****************

ただ、クルド人勢力側も戦力をアフリン地区へ移し、徹底抗戦の構えです。

****米軍支援のクルド勢力転戦、敵は米同盟国のトルコ シリア****
シリアで米軍主体の有志連合の支援を受け過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」を掃討する少数民族クルド人勢力系の「シリア民主軍(SDF)」は8日までに、シリア北西部アフリンに侵攻するトルコ軍と戦うためアフリンに転戦すると発表した。

SDFの報道担当者がCNNの取材に声明を述べた。戦闘員1700人をユーフラテス川東部からアフリンへ差し向けたとした。今回の転戦は、ISISを追い詰める掃討戦に悪影響を及ぼす可能性がある。

SDFの報道担当者は、トルコ軍によるアフリン侵攻はISISに新たな再生の機会を与え、ISISへの軍事作戦に影響すると主張してきたと述べた。ただ、この作戦は現段階で終了したとも語った。

有志連合の報道担当者はSDF部隊の一部離反はISIS掃討戦を遅らせかねないとの懸念を表明した。

米国とトルコは共に北大西洋条約機構(NATO)加盟で同盟関係にある。トルコは国内に自治独立問題がくすぶるクルド人問題を抱え、シリアのクルド人勢力を「テロ組織」とも見なしている。今年1月にシリアに越境しクルド人勢力が握るアフリン侵攻に踏み切っていた。【3月8日 CNN】
****************

トルコ・アメリカの関係悪化
問題は、トルコの侵攻がクルド人支配地区の飛び地であもあるアフリン地区でとどまるのかどうかです。
エルドアン大統領は、国内向けの要素もありますが、「今はアフリンにいるが、明日にはマンビジ、明後日にはユーフラテス川の東側に進撃し、イラクとの国境に至るまでの全ての地域でテロリストを一掃する」と豪語しています。

“明日にはマンビジ”とのことですが、マンビジにはクルド人勢力を支援する米軍が駐留しており、ここへトルコが転戦するとアメリカとの衝突という事態にもなります。

そうした情勢で、トルコとアメリカの関係は緊張が高まっています。

****米軍、トルコ空軍基地の使用を大幅削減 両国関係の緊張の高まりが背景****
軍はトルコのインジルリク空軍基地を使った戦闘作戦を大幅に削減しており、今後もその状態を継続することを検討中だ。米政府当局者が明らかにした。これは、米・トルコ間の緊張の高まりを受けたものだという。
 
同基地は、米国主導の有志連合と過激派「イスラム国(IS)」との数年にわたる戦闘の拠点となっていた。しかしシリア内戦をめぐり米国とトルコの目的にずれが生じ、両国の対立が深まっている。米軍のインジルリク基地使用の縮小は、そうした両国関係の悪化を反映した動きの1つである。
 
インジルリク基地に駐留しているA-10対地攻撃機中隊は1月にアフガニスタンに移動し、現在、同基地は給油機のみの使用にとどまる。米国防総省は同じ時期にアフガンでの作戦強化を明らかにしていた。米軍は同基地に居住している米軍家族も徐々に減へらしている。(中略)
 
あるトルコ政府当局者は、米軍のインジルリク基地を使ったシリアでの空爆の回数が減少していることを認めたが、それは米・トルコ関係の悪化を受けたものではなく、米軍の優先事項がシリアからアフガニスタンにシフトした結果だと述べた。
 
トルコと米国の関係は以前から問題を抱えていたが、このところシリアのISとの戦闘をめぐって緊張が激化している。米軍は、トルコが脅威と見なすクルド人民兵を支援しているが、トルコ軍は最近越境し、クルド人が支配するシリア北西部のアフリンを攻撃している。(中略)
 
米国はトルコとの協定に基づき、2015年からISに対する空爆作戦のためにインジルリク基地を使用してきている。ただ、16年のトルコのクーデター未遂を受けて、国防総省は同国の治安上の懸念から駐留部隊の家族に避難命令を出し、約700人が出国している。
 
米軍のアフガニスタンへのシフトは、ISに対する作戦の回数が全体として減少し、同基地に戦闘機や輸送機を駐留させる必要性が低下していることも影響している。

しかし米軍当局者は、何と言っても米・トルコ関係の悪化が、米軍のインジルリク基地駐留に関する厳しい議論を引き起こしたと指摘する。【3月12日 WSJ】
*****************

IS戦闘員に寛容な態度を示すエルドアン政権
トルコのクルド人勢力への攻撃は“ISISに新たな再生の機会を与え、ISISへの軍事作戦に影響する”だけでなく、トルコ自体がIS戦闘員の受入国ともなっています。

****ISIS潜伏に目をつぶる、トルコ・エルドアン政権の誤算****
<大勢の「イスラム国」残党がトルコに潜伏。早いうちにテロの芽を摘まないと政権の命取りに>

テロ組織ISIS(自称イスラム国)が樹立を宣言していた「カリフ制国家」の崩壊は、ISISの聖域となっていたイラクとシリアには朗報だが、戦闘員の逃走先の国々には脅威だ。

その筆頭格は両国と国境を接するトルコ。報道によれば「何千人もの」ISIS戦闘員がイラクとシリアを脱出、相当数が「トルコなどに潜伏中」だという。16年には、密入国業者の手引きで戦闘員らがシリアとトルコを行き来しているとドイツ出身の元戦闘員が暴露した。

17年1月1日にイスタンブールのナイトクラブで発生した銃乱射テロは、トルコにISISのテロ細胞が根付いていることを露呈した。イラクとシリアから逃げてきたアラブ系やヨーロッパ系の戦闘員は「細胞」の外国人部隊の一翼を担っている。(中略)

この1年、ISISはトルコでのテロに慎重だが、増加する戦闘員はいずれトルコの警察や軍との衝突を招く可能性が高い。大規模テロがトルコ国内で準備される可能性もある。17年8月には簡易爆弾の材料がトルコからオーストラリアに航空便で送られている。

トルコはISISのテロ計画の後方支援拠点と化すかもしれない。トルコがアフガニスタンやリビアなど多くのテロリストの聖域と違い、破綻国家でないことは重要だ。比較的ビザが取りやすく、航空交通網の重要な位置にあり、金融取引の追跡体制に不備があるため、過激派が通信・輸送・金融のネットワークを利用しやすい。治安当局の腐敗と共謀が賄賂と威圧によるアクセスをさらに容易にする。

クルド封じに利用するな
一部の政治家や治安部隊高官については、ISISに対抗する気があるかどうかも疑問だ。2月上旬、イスタンブールや首都アンカラなどで3件の爆破テロに関与したISISメンバー10人以上が突然釈放された。

トルコは元ISIS戦闘員にシリアのクルド人を攻撃させているという話もあり、裏取引があったのではと臆測を呼んでいる。

この10年で、トルコのイラクやシリアとの国境沿いの都市や集落では、ISISやアルカイダなど原理主義的なサラフィー主義者への支持が高まっている。

トルコの国内安定は過激化の動向、国民や増加する難民のジハード(聖戦)への支持が今後どう変化するか、そしてクルド人の反乱などに影響されるだろう。

16年のクーデター未遂事件以降の大規模な粛清も、ISISの脅威に拍車を掛けている。警官や兵士らが大量解雇され、経験が浅く訓練不足の人間が手だれの敵を相手に対テロ作戦を展開せざるを得ない。

優先順位も問題だ。エルドアン政権は権力集中、クーデター協力者への粛清の継続、クルド民兵組織との戦いを重視し、ISIS系テロ組織への対抗策は後回し。ISISはトルコの一番の敵とされるシリアのクルド人組織と戦っているだけに、なおさらだ。

政権が国内のISIS戦闘員に寛容な態度を示していることは、彼らの存在に暗黙の了解を与えるに等しい。クルド人と戦うためにISISを容認するのは危険で近視眼的な政策だ。ISIS戦闘員は一定数に達すれば自分たちを受け入れたトルコに牙をむくだろう。

そうなってからでは手遅れだ。ISISの脅威から目を背け続ければ、政権の命取りになりかねない。【2月24日 Newsweek】
***************

欧米的価値観から離れるエルドアン大統領 結果的に“トルコは他のアラブ諸国と同じ”】
単に軍事的な対立だけでなく、エルドアン大統領の強権的な国内支配は、欧米との価値観の相違も拡大させています。

エルドアン大統領の政治姿勢を示す最近の記事には、以下のようなものも。

****トルコ大統領発言に批判 少女の戦闘で「殉死」は名誉****
トルコのエルドアン大統領が与党公正発展党(AKP)の集会で、戦闘服姿の少女を壇上に上げ、戦闘で「殉死」したら名誉を受けるだろうなどと発言、ネット上で批判の声が出ている。英BBC放送などが27日までに伝えた。
 
AP通信によると少女は6歳。トルコ南部カフラマンマラシュで24日に開かれたAKPの集会で、エルドアン氏は少女のポケットに入ったトルコ国旗を見て「殉死者になれば彼女は国旗で覆われるだろう」などと述べた。
 
これに対し、ツイッター上には「子どもの死をたたえるなんて」「子どもを守るのは国の義務だ」などの批判が書き込まれた。【2月28日 共同】
****************

****言論弾圧とトルコ政府批判 ノーベル受賞者ら公開書簡****
トルコ政府が作家やジャーナリストらを拘束、有罪判決を下しているのは「表現の自由」の侵害で言論弾圧だとして、英作家カズオ・イシグロ氏らノーベル賞受賞者38人が2月28日、拘束中の作家らの釈放などを求めるエルドアン大統領宛ての公開書簡を発表した。英紙ガーディアンが伝えた。
 
書簡は一昨年のクーデター未遂事件後に多数の作家らが体制転覆の罪などで訴追されたと指摘。エルドアン氏自身が1997年の演説内容を罪に問われ有罪となった経験があるはずだとし、非常事態宣言撤廃や法の支配の回復などを求めた。【3月1日 共同】
*****************

こうしたエルドアン大統領の政治姿勢で、かつて“イスラムの民主化モデル”として注目されたトルコですが、今では“トルコは他のアラブ諸国と同じ”とも見られるように変質しています。

****力を誇示するトルコ 消え失せたソフトパワー****
最近、トルコ絡みで大きなニュースが2つあった。1つは、トルコ軍がシリアに軍事介入し、クルド人支配地域の飛び地アフリンに侵攻したこと。もう1つは、アラブ世界で大人気のトルコのTVドラマを、サウジアラビア資本の汎アラブテレビ局MBCが放映中止にしたことだ。
 
この2つのニュースは無関係のように見える。しかし、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領による15年に及ぶ統治の重要局面に訪れたトルコの変質を浮き彫りにしている。
 
トルコはかつて、イスラム教を民主主義や繁栄と結び付けたとして、中東内外でうらやましがられていた。だが、今ではその「ソフトパワー」の多くを無駄にしている。それどころか、ますます武力紛争に足を踏み入れ、近隣諸国や同盟国と厳しく対立している。
 
トルコのTVドラマは、アラブ世界にトルコの自由なライフスタイルを持ち込んできた。それが、同国の影響力の重要な源泉となり、ハリウッドが米国のイメージを世界中に広めたのと同じやり方で、アラブ世界にトルコに対する羨望の念を抱かせてきた。
 
エルドアン氏がいつも口にする過去のオスマン帝国に対する郷愁の念も、トルコ人気を背景に受け入れられてきた。
 
だが今では、1922年に消滅したオスマン帝国へのエルドアン氏の思いは、共通の歴史や文化への郷愁から、見え隠れする領土権の主張、そして領土を失った「汚名」をめぐる不満に変質している。
 
当然のことだが、それはオスマン帝国時代の敵、つまりサウジ王家やヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)の間にはほとんど共感を呼ばない。シリア政権もクルド人勢力も、トルコ軍のアフリン侵攻を「オスマンの侵略者」と評し、同じような不快感を覚えている。
 
MBCがトルコのTV番組放映の全面中止を決定したのは、第1次大戦中のメディナ(現在はサウジ領)でのオスマンのふるまいをめぐりエルドアン氏とUAEが言い争ってから数週間後のことだった。MBCは、中止の理由は明らかにしていない。(中略)

「軍事力の誇示は、ソフトパワーの構築とは違う」。民間シンクタンク、ガルフ・リサーチ・センターのシニアフェローであるモハメド・アルヤヒャ氏はこう語る。「トルコが提供できることはたくさんあるが、エルドアン氏の政治はそれに暗い影を投げ掛けている」
 
さらにエルドアン氏が、特に2016年のクーデター未遂後にメディアや野党への弾圧を強化していることが、トルコのイメージを傷付けている。(中略)

トルコの最大野党・共和人民党(CHP)のOzturuk Yilmaz副党首は「以前は、アラブ世界の人々は自由や民主主義、法の支配を目にするめにトルコにやってきた。彼らはトルコをモデルと見ていた」と語る。「今や、トルコは他のアラブ諸国と同じだと見られている」
 
残ったのは軍事力だ。エルドアン氏はシリアで武力行使する意向をますます強めている。
 
トルコ軍は、2016年のクーデター未遂前後に行われた粛清によって弱体化していたため、同年にシリア北部で過激派組織「イスラム国(IS)」に対して行った「ユーフラテスの盾」作戦で苦戦を強いられた。

だが、今年1月に始めた「オリーブの枝」作戦では、より迅速な進展を見せている。この作戦では、米国が支援するクルド人民兵組織からアフリンを奪還することを目指している。(中略)

エルドアン氏は5日の演説で、アフリンは始まりに過ぎず、今後はマンビジを皮切りにもっと広大な地域、つまりシリア東部で米軍の支援を受けるクルド人支配地域を目指す意向を示唆した。(中略)

こうした発言は主に、クルド人や米国に敵意を抱く国内の強硬な国家主義的有権者に向けられている。
 
エルドアン氏は、トルコの統治者となった当初は少数派クルド人との和解の道を探っていたが、16年以降は強硬なナショナリストの主張に沿う方向に大きくかじを切った。

次の大統領選は来年の予定だが、トルコの多くの政治家によると、時期は早まる可能性がある。エルドアン氏が大統領選に勝利するためには、ナショナリストからの支持が必要だ。
 
エルドアン氏率いる公正発展党(AKP)の元議員で、著名な弁護士であるOsman Can氏は、「トルコ政府の唯一の狙いは、議会での過半数議席と権力の維持だ。シリアでの行動はこれに基づいており、合理的な分析には基づいていない」と述べる。
 
北大西洋条約機構(NATO)で2番目に大きな軍隊を持つトルコは、シリアだけで力を誇示している訳ではない。最近は、誤って越境したギリシャの国境警備隊員を拘束したり、キプロスの領海に海軍を派遣してイタリアの天然ガス探査船を妨害したり、チェコがYPG指導者の身柄を引き渡さなかったことについて報復措置を講じると警告したりしている。
 
「これが新しいトルコのやり方だ。非常に取引じみていて、好戦的だ」。シンクタンク「アトランティック・カウンシル」のトルコ専門家、アーロン・スタイン氏はこう指摘し、さらに続けた。「トルコはあらゆるツールと『狂人』アプローチを使い、うわべだけの同盟国から一層の譲歩を得ようとしている」【3月9日 WSJ】
*******************

最後の指摘は、“トルコ・エルドアン大統領”を“アメリカ・トランプ大統領”に代えてもよさそうです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

南インドの旅を終えて 異なる国に暮らす同じような人々

2018-03-12 02:11:26 | 身辺雑記・その他

(バンガロール  専用の広場でクリケットに興じる若者たち)

1週間ほどの南インドの旅行もそろそろ終わります。
今は、バンガロールの空港で帰国便の搭乗を待っています。

日本とインドの間には異なるものも多々あります。
先ほど、ホテルをチェックアウトするまで時間があったので、近くを散策。公園で大勢の若者がクリケットを楽しんでいました。

インドで大人気のクリケットですが、日本人にはまったく馴染みがないものです。これも多々ある日本とインドの異なるもののひとつでしょう。

近くの屋台で買ったスイカ(チラシのような紙の上に乗せた一切れを食べやすいようにカットしてくれます。10ルピー(約17円))を食べながらクリケットを眺めていると、通りがったおじさんたちが、にこやかに微笑みかけていきます。

街の食べ物屋さんや移動の寝台列車などで、勝手がわからず戸惑っていると、いろいろと教えてくれる人も。
 
インドと言うと、国際関係では中国との対抗関係で取り上げられることがよくあります。
インド国内の問題では、モディ首相のヒンズー至上主義もよく指摘されます。
その他、圧倒的な貧困、カースト制などの社会問題、女性への性暴力、環境汚染なども。

日本との多くの違いはあるものの、国内外の問題はありつつも、日本と同じように毎日の暮らしを楽しみ、相手を思いやる心を持った人々が暮らしている・・・・という、当たり前のことが再確認できるのが旅で得られるものでしょうか。


(バンガロール  何かの集会の帰りのような人々)


(バンガロール  大勢の女の子が群がっているところを見ると、甘いスナックでしょうか)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする