孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新型コロナ感染拡大がもたらす変化  国際政治の強権化 在宅勤務拡大による格差助長

2020-08-21 22:23:39 | 民主主義・社会問題

(【8月21日 FNNプライムオンライン】 タイ 全校朝礼において国歌斉唱中に政府への抗議の意志を示す3本指を掲げる高校生 映画館で国王賛歌が流れた際に起立せず不敬罪で逮捕された・・・といったこともあるタイでの信じがたい光景です。それだけ危機感が強いということでもあるのでしょう。)

 

【政治 強権化の進行】

新型コロナの感染拡大は政治・経済・社会の様々な面で「変容」をもたらしていますが、政治面でしばしば取り上げられるのが「政治が強権化する危険がある」ということです。

 

このブログでも、タイなど、コロナ危機で「非常時権限」を手にした政権が、その権限を政治的弾圧などに恣意的に使う傾向がみられることはしばしば取り上げてきました。

 

そのほか、感染拡大という事実を隠蔽するための強権行使、外出規制などを徹底させるための暴力的手段などに関する報道をしばしば目にします。

 

****コロナ惨禍の背後で密かに進む国際政治の強権化****

人前で「コロナ」と言っただけで逮捕される! 落語の落ちではない。現実の国際社会での実際に起きている事実である。

 

そのようなことが起きている場所は、イランの東北部に位置する旧ソ連の国、トルクメニスタンである。人口は500万人あまり。ベルディムハメドフ大統領による独裁が続いている。

 

コロナと発言しただけで逮捕されるので、誰も「自分がコロナに感染しているかもしれない」と病院で言うことができないからだろう。米ジョンズ・ホプキンス大学の調査によると、現時点(8月17日)時点で、トルクメニスタンにおける新型コロナウイルスの感染者の数は確認されていない。

 

新型コロナ感染者については感染者が多い国にばかり注目があたる。しかし、感染者数が少ない国にこそ、実は問題が潜んでいると言える。

 

コロナ禍は、世界各国の政治を大きく変えている。論点を大きくまとめると、以下の2つになると考える。

 

一つ目は、巨額の財政支出による経済財政の不安定化だ。多くの国が感染症防止と経済維持のために、巨大な財政支出を行っている。1929年の世界恐慌時の財政支出と正確に比較することは難しいが、今後の展開によっては、世界恐慌時を超える財政支出がなされることになるだろう。

 

この状況が続けば、世界の大半の国のGDPが大きく減少することになることは間違いない。

 

国際通貨基金(IMF)は6月の段階で、2020年の世界経済がマイナス4.9%の減少になるとの予測を示しているが、その後の各国統計などを見ると、とてもその程度の減少にとどまるとは思われない。感染症防止と経済維持のため、世界史上各国の政府の財政支出が未曽有のレベルに達している。

 

現在の財政支出は緊急事態としてやむを得ない面がある。しかし、歴史上経験したことがない財政支出が経済財政を不安定化させることを考えれば、国民や議会としては一定の財政規律を求めていくことも同時に重要である。

 

二つ目は、新興国を中心に進む政治の強権化によって民主主義の基盤が揺らぎ、人権が蹂躙されていることだ。この点は今後の国際政治を見ていく上で大変に重要な事実を含んでいるが、コロナ禍の方に焦点があたるため、報道の扱いが相対的に小さいと思われる。

 

世界で相次ぐ選挙や裁判の延期

この強権化の実態は、筆者の分析では3つに分類できる。

 

第一に、民主主義の根幹である選挙や裁判が延期になっていることだ。

 

米国において、トランプ大統領が2020年11月に行われる予定の大統領選挙の延期について言及したことは記憶に新しい(もっとも、下院で多数派を占める民主党の反対はもとより、足元の共和党内からも反対意見が続出しており、延期の可能性はほぼないだろう)。

 

世界全体を見ると、選挙の延期が相次いでいる。

エチオピアは、8月に実施予定であった総選挙の延期を決定した。民族融和を打ち出して2019年にノーベル平和賞を受賞したアビー首相が、政治経済改革を推進していた矢先の延期決定である。アビー首相は、総選挙を自らの民族融和に向けた政治基盤強化のために活用しようと考えていた。これにより、同国の政治的経済的安定が遠のいてしまった。

 

国家安全維持法が施行されて民主化運動に制約が強まっている香港では、9月に予定されていた立法会の選挙が1年延期されることになった。表の理由はコロナ感染防止であるが、裏の理由は民主派への牽制であろう。

 

その他、スリランカの総選挙、英仏の地方選挙など多くの選挙が延期になっている。民主主義・選挙支援国際研究所(International IDEA)の調査では、2月21日から4月30日までの間に、少なくとも52の国と地域で選挙が延期された。

 

また、世界では裁判の延期も起きている。

 

コロナを奇貨に権限強化に乗り出す指導者

そもそも刑事事件でも民事事件でも、迅速な裁判は民主主義における重要な権利であり制度である。裁判が長引くこと自体が民主主義の基盤を脅かすのだ。立法権に関る選挙と司法権に関る裁判が延期されていることは、民主主義の根幹が揺らいでいるといってよい。

 

第二に、コロナに関連する表現の自由や報道の自由、反体制派に対する制約、弾圧である。先にお話ししたトルクメニスタンの事例がこれにあたる。

 

コロナの感染者が広がっているという事実を認めること自体を政権の弱体化と考える政治指導者が、自らの政治的権力を維持強化するために制約を課し、弾圧を加えている。

 

コロナ禍に乗じた反体制派の弾圧や自分の政治権力強化も枚挙にいとまがない。

タイやカンボジアでは、野党指導者や反体制ジャーナリストの逮捕が続いている。EU加盟国であるハンガリーでは、2020年3月にコロナ対策のためオルバン首相の権限を無制限に拡大させた(6月に解除)。これについて、野党は野党の弾圧に使われると反発していた。

 

ジンバブエでは、都市封鎖が行われる中、待遇改善を求めた看護師が逮捕、起訴された。

 

コロナ禍が契機であるとは言えないが、コロナ禍の時期に、憲法を改正して、自らの大統領任期を拡張したプーチン大統領のロシアの事例も、広くこの系統に属するといえる。権力者は緊急事態を奇貨として、自らの権力基盤を強化するのだ。

 

第三に、警察による一般住民への暴力などの人権蹂躙である。

アフリカの一部の国では、外出制限が続く期間に警察による住民に対する発砲事件が発生している。例えば、ケニアでは外出禁止時に外出していた青年を発見した警察が無差別に発砲し、流れ弾にあたって近くの自宅ベランダにいた少年が死亡している。

 

このような警察の対応を見ていると、中世にペストが流行した際の、集団ヒステリーによる魔女狩りを思い起こすのは私だけであろうか。明らかに過剰なヒステリックな対応で住民の人権が著しく蹂躙されている。

 

このように多くの新興国においては、民主主義と人権が危機に瀕しているといっても過言ではない。

 

歴史を紐解けば、さらに悪い展開が想定される。政府のパンデミック対策を批判することによる大衆迎合主義の台頭である。

 

大きな惨禍は社会をアップグレードする好機

8月17日現在、世界において政権のコロナ対策を批判することで政権を奪取した大衆迎合的な政権はないと思われる。新興国の各国政府は、このような事態を恐れ、反体制派の弾圧に動いているからだ。

 

しかし、今後経済的な苦境が長期化する中で、選挙やクーデターによる政権交代が起きてもおかしくないだろう。

 

経済的苦境が邪悪な政治を生み出した歴史として忘れてはならないのは、極端な事例であるがドイツのナチスであろう。第一次大戦の敗北による賠償金支払いや世界恐慌による経済的苦境をテコに、大衆の人気を得たヒトラーは欧州、さらには世界を蹂躙した。

 

時代的背景が異なるため、ナチスが敢行したユダヤ人虐殺や対外的な侵略が現時点の国際政治で起きるとは想定しにくい。

 

しかし、極端に強権化した政権やコロナ対策を否定するような政権が台頭して、国際政治に混乱をもたらせる可能性は大いにあり得る。コロナ禍は世界全体の問題である。一国でも対策を否定することになれば、世界的な収束は遅れるのだ。

 

さて、このような状態にいかに対応すべきであろうか。

第一に、国連や民主主義国の政府がさらに提言を出すことだ。

 

言うまでもなく、国連はコロナ禍による人権蹂躙に対して多数の提言を出している(国連の提言はこちら)。しかし、コロナ禍に乗じた表現の自由や政治活動の自由に対する制限や弾圧については、国際社会に影響力を持つ形では提言ができていないのではないか。

 

筆者の見る限り、少なくともCNNやBBC、New York Times で国連の提言は大きくは取り上げられていないようだ。また、G7サミットなどの場で、世界の首脳が民主主義や人権の危機について共同声明を出すようなことも検討されてよい。

 

第二に、新興国の政治経済についての報道量を増やすことだ。日本のメディアに特にいえることだが、コロナ報道が、日本国内と欧米主要国の感染状況に集中しており、中東やアフリカ、(中国を除く)アジア、中南米など新興国の感染状況の報道がそもそも少ない。同様に、コロナによる新興国の政治状況や経済影響についての報道も少ない。

 

第三に、援助・投資を通じて圧力をかけることだ。国際機関や先進国が援助・投資を行う際に、条件として強権化に対する是正を求めることが重要になる。一方で、経済制裁を強めれば、相手国の一般国民の経済生活を直撃することになりかねない。コロナで疲弊した一般国民をさらに追い込むような対応は避けるべきだ。

 

以上、ネガティブな内容が続いたが、ペスト禍収束後に人口が減少した労働者や農民の賃金が上がり近代への道が開かれたり、ナチスの惨禍を経て国際的に平和や人権問題の重要性が認識され、国際機関の活動が活発したり、歴史を振り返れば、大きな惨禍は人類社会を前に進めてもいる。

 

今こそ一人ひとりがこのような歴史に学び、次のステップに行くための判断を間違えないようにしたい。

【8月21日 山中 俊之氏 JBpress】

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****コロナへの恐怖、強権国家の呼び水に 試される民主主義****

 経済成長を続ける東南アジアは、一方で「未成熟な民主主義」と指摘される国も少なくない。野党が解党に追い込まれたり、政権を批判するジャーナリストが有罪判決を受けたりし、新型コロナウイルスの感染拡大も政治の強権化に拍車をかけている。

 

米政府の代表などとして長年、アジアの民主化に携わってきた、全米民主研究所(NDI)のデレク・ミッチェル所長に現状を読み解いてもらった。(中略)

 

 ――東南アジアで民主主義が後退しているという指摘があります。

 「民主的な権利や自由を一部の権力者が消し去ろうとしている。タイの(軍事政権下でつくられた)現行憲法ができた過程は不透明で、人々の意思を反映していない。

 

カンボジアでは実質的な一党支配のもと、野党党首が裁判にかけられるなど強権的な政治が続き、人々の政治への参加の道が狭められている。フィリピンでは『薬物対策』の名目で(政府に批判的な)メディアへの弾圧が横行している」

 

 ――一方、「混乱につながる民主主義より安定した政治の方がプラスだ」という主張を受け入れる人々もいます。

 「銃を持った権力者に『安定と発展を与える』と言われれば、『まあ、いいか』と思う人もいるかもしれない。ただその『安定』はどのくらい続くのか。数十年前に東南アジアの中心だったミャンマーは軍政を経て他の国に大きく遅れた。タイでは2014年のクーデター後、経済成長が鈍化している」

 

 「透明性と人々の参加が必要な民主主義は、人々の声を反映し、常によりよい方向に修正しながら進む仕組みだ。独裁的な政治では、踏み外した道から戻れなくなる」

 

 ――新型コロナウイルスの感染拡大を「口実」に政治がさらに強権化し、国民への干渉を強める例も目立ちます。

 「タイではコロナ対策として何度も『非常事態宣言』が延長されている。『安全のため』を理由に集会の規制を可能にし、政府に反対する個人や野党が批判の標的にされた。問題は、それが感染防止に本当に必要なのかが十分検証されていないことだ」

 

 「社会が危機に陥ると民主主義が機能しなくなることは多い。人々は恐怖のあまり、『強い権力』を求めがちになるからだ。かなりの強制力をもった規制をした国で感染拡大が抑えられているのは事実だが、必要性の検討なしに、多くの人々の自由を制限し続けるのは正しくない」(後略)【8月9日 朝日】

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【国際政治安定化のために必要なワクチン供給における途上国への配慮】

政治・経済的な基盤の弱い途上国が強権支配やポピュリズムに落ちていかないために重要な現実的課題がワクチンの安定供給でしょう。

 

すでに先進国などにより囲い込み合戦・争奪戦が展開され、資金力のない途上国がはじき出されていることは、これまでも取り上げてきました。

 

排除された国々において、どのような不満・批判が噴き出すかは想像するだけで恐ろしいものがあります。

 

このワクチン供給において、国際協力で途上国が排除されないような仕組みを作っていくことが、世界のあちこちに感染源を残さないコロナ対策としても、また、世界の政治的安定のためにも不可欠でしょう。

 

****ワクチン共同出資枠組みに関心 Gavi、米中除く173カ国*****

途上国へのワクチン普及を進める国際組織「Gaviワクチンアライアンス」のセス・バークレー事務局長(63)は20日、新型コロナ感染症のワクチン開発に各国が共同出資する枠組みに、これまでに日本を含む173カ国が関心を示したと明らかにした。

 

感染防止の「穴」が生じないためにも「全ての国に参加を促したい」として、まだ意向を示していない米国や中国にも参加を呼び掛けた。

 

枠組みは「COVAX」と呼ばれ、WHOやGaviが主導。出資金は複数の製薬企業のワクチン開発に利用され、開発が実現した際に、参加国が人口の少なくとも20%分のワクチンを確保できる。【8月21日 共同】

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世界をリードする立場にあるアメリカ・中国がまだ意向を示していないというところが重要なところです。

 

アメリカ・トランプ政権は「アメリカ第一」で、他国のことなど眼中にないのでしょう。

中国は、「マスク外交」のような「ワクチン外交」を独自に展開することで、自国の存在感を強めることを狙っているのでしょう。

 

【社会 在宅勤務対応の可否が深める格差】

コロナ感染が社会生活に与える影響のひとつがテレワークなどの在宅勤務の拡大です。

 

先日のTV放送によれば、日本でも都心をはなれて郊外や、場合によっては別荘地などに生活の拠点を移す動きがみられるとか。

 

そのことはそうした対応ができない人々との間の格差、安全で高報酬の仕事と危険で低賃金の仕事の格差を深刻化させることも考えられます。

 

****在宅勤務普及が米国の格差助長する恐れも、専門家が警告****

サンフランシスコ地区連銀が20日に開催した将来の働き方についてのパネル討論会で、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う在宅勤務の広がりによって、米国社会の格差が一段と拡大しかねないとの意見が専門家から出た。

新型コロナの感染がなお拡大している中で、現在米国の労働人口のおよそ4割が在宅で勤務している。各種調査ではパンデミック収束後も少なくとも部分的に在宅勤務の継続を望む声が大半で、アトランタ地区連銀の最近の調査では企業側もそれを想定している。

ただスタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授は、在宅勤務従事者はそうでない働き手に比べて大卒者の割合が5倍に上ると指摘した。

一方でブルーム氏は、別のおよそ3割は対面で仕事を続けており、彼らの職種は比較的低賃金で、勤務中ないし通勤中に新型コロナウイルスに接触してしまう危険があり、残りの3割は失業もしくは休職状態で、せっかくの技能や仕事上のつながりが失われて将来低い賃金しか得られなくなりかねないと説明。「在宅勤務化は格差を大幅に増大させるリスクがある」と警告した。

これに対してソフトウエア開発プラットフォーム運営会社Github(ギットハブ)のエリカ・ブレシア最高執行責任者は、在宅勤務ができるようになったことでビジネスは「これまでよりずっとinclusive(さまざまな人の技術や経験を活用できる状態)」になったとの見方を強調した。

ブレシア氏によると、家事などの合間に柔軟に働ける環境により、それまで仕事に就けなかった人を雇えるようになっている。ギットハブはパンデミック以前から、在宅勤務制度を導入済みという。【8月21日 ロイター】

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ギットハブの話は、ソフトウエア開発という特殊な技能を持つ人々に関しての話でしょう。

問題は、そういう人々の需要に応じて食事などを自宅に配送するサービスに従事する人々など、対面で低賃金労働を余儀なくされる人々の存在でしょう。

 

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権謀術数渦巻く中東世界を象徴するようなUAEのムハンマド・ザイド皇太子

2020-08-20 22:55:57 | 中東情勢

(カショギ氏殺害事件後の初外遊でUAEを訪れたムハンマド・サウジ皇太子(左)を出迎えるムハンマド・アブダビ皇太子(中央)【2019年8月11日 日経】)

 

【UAE 「合意はイランに対抗するものではない」 「イラン包囲網」形成を否定】

イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)と国交正常化の合意に関しては、山ほどの記事を連日目にしますが、合意の背景として「イラン包囲網」ということが挙げられています。

 

今後も、湾岸諸国のバーレーンとオマーン、さらには北アフリカのスーダンやモロッコも後に続くのでは・・・とも観測されており、地域の中心国サウジアラビアは今のところは慎重な構えとのこと。

 

*****イスラエル、関係改善で攻勢 首相「アラブの指導者と対話」 サウジ慎重、イランは警戒****

アラブ首長国連邦(UAE)と国交正常化の合意に至ったイスラエルが、バーレーンやオマーンといった他のアラブ諸国にも接近し、関係を一気に深めようと攻勢を強めている。

 

一方、敵対するイランは、「イラン包囲網」ともとれる動きに警戒感をあらわにしている。

 

ネタニヤフ首相は16日、米FOXニュースに「アラブの指導者たちと対話を続けてきた。オマーンには公式訪問したが、それだけではない」と語り、アラブ諸国と水面下で接触してきたことを示唆。

 

コーヘン諜報(ちょうほう)相は、今回の合意に続く国として「バーレーンとオマーンは、間違いなく議論に上がっている。スーダンとも和平合意の可能性があると思う」と話した。モロッコとの国交正常化の可能性を報じるメディアもある。

 

今回の合意に対し、UAEと同じ湾岸諸国のバーレーンは「この歴史的な一歩は、地域の安定と平和の強化に貢献するだろう」と賛意を表明。オマーンも「和平に寄与することを望む」と支持を示した。

 

一方、イランは合意への非難を強める。地元メディアによると、ロハニ大統領は15日、「イスラム教徒への裏切り行為だ。合意は大きな間違いだ」とUAEを非難し再考を促した。

 

これに対し、UAE外務・国際協力省はイラン代理大使を呼び出して抗議。ガルガーシュ外務担当国務相は17日、「合意はイランに対抗するものではない」とツイートし、イスラエルとの間で「イラン包囲網」を形成しているとの見方を否定した。

 

他方で、地域大国サウジアラビアは、公式なコメントをせずに慎重な姿勢を貫いている。イランと激しく対立し、2016年には国交断絶に踏み切ったサウジだが、イスラエルとの国交回復には慎重論が根強いとみられる。

 

サウジ政府に近いメディアの記者は「今後、サウジが先陣を切って動くことはない」と見る。イスラム教の2大聖地を抱え、イスラム世界の盟主を自任してきたサウジには保守的な層も多く、イスラエルへの早急な傾斜は反発を招く恐れもあるからだ。(後略)【8月18日 朝日】

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【ムハンマド・ザイド皇太子 中東世界を代表する“策士”】

UAEの政策をかじ取りしているのはアブダビ首長国のムハンマド・ザイド皇太子ですが、イラン対岸に位置するUAEおよびムハンマド・ザイド皇太子(59歳)の動きに関しては、よくわからないところも。

 

中東における影響力の大きい人物としては、地域大国サウジアラビアのムハンマド皇太子(34歳)の名があがりますが、UAEのムハンマド・ザイド皇太子はサウジ皇太子とも親しく、伝統的な思考にとらわれない大胆な改革・行動という点で共通するサウジ皇太子への年長アドバイザーとして影響力もあるとされる人物で、“権謀術数の渦巻く”中東世界にあって、いろんな“政策”“策略”の中心人物としてこれまでも国際的に名が知れた人物です。

 

“トランプ大統領はアブダビ皇太子に信を置き、中東で大きな動きがあるたびに意見を求める。”【2019年8月11日 日経】と、トランプ大統領好みの人物でもあります。

 

そのムハンマド・ザイド皇太子の行動は、決して大国サウジやアメリカに追随するのではなく、自国利益のためにユニークです。

 

イエメンでは南部分離独立派を支援して、暫定政府を支援するサウジアラビアともときに対立し、UAEとしての利益を確保すると泥沼にはまったサウジアラビアを置いて撤退してしまうとか・・・。(親交のあるサウジ皇太子とは一定に話がついているのでしょうが)

 

リビアではハフタル司令官の「リビア国民軍」勢力を支援し、暫定政府を支援するトルコとの間で、ドローン空中戦を演じるとか・・・。

 

現在は「イラン包囲網」と取りざたされていますが、UAEのムハンマド・ザイド皇太子は今年5月には、逆にイランに接近する動きも見せていました。

 

****“敵に塩を送る”UAEの深謀遠慮、コロナ以後に向けイランに接近****

サウジアラビアと並ぶペルシャ湾の産油君主国、アラブ首長国連邦(UAE)がコロナ禍に苦しむ対岸のイランに大量の医療物資を届けている。

 

イランはUAEの敵性国とされており、いわば“敵に塩を送る”図式だ。背景にはコロナ危機に乗じてイランとの関係改善を図ろうというしたたかな戦略がある。その絵図を描いているのはアブダビ首長国のムハンマド・ザイド皇太子だ。

 

イランとの修復に戦略転換

UAEはペルシャ湾に面した7つの首長国による連邦国家。日本にとっては隣国のサウジアラビアに次ぎ、輸入石油量の約4分の1を占める重要な国だ。

 

UAEの大統領は最大の力を持つアブダビ首長国のハリファ首長だ。スンニ派国家とあってイランのシーア派革命輸出を恐れ、大国サウジの親米・反イランの戦略に乗ってきた。

 

だが、米国とイランの軍事的緊張が高まった昨年春、ペルシャ湾で石油タンカーが相次いで攻撃を受け、また9月にはサウジの石油施設がドローン攻撃で破壊され、一時サウジの原油生産がストップする事態になったころからイラン敵視政策に距離を置くようになった。

 

米国やサウジはタンカー攻撃がイランによるものと非難したが、UAEはこれに加わることを慎重に避けた。

 

特に、イランが今年1月、米国によるイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官暗殺に対し、弾道ミサイルでイラクの軍事基地を精密に報復攻撃、米兵約100人が負傷したことに大きな衝撃を受けた。

 

この時、「UAEは米国の力でもイランを軍事的に封じ込めることはできないと見極めた」(ベイルート筋)という。「軍事力で打ちのめせないなら、“友人”になるしかない」(同)。UAEのイラン敵視政策の本格的な転換が始まった。

 

こうしたUAEにとってコロナ・パンデミックはイランへの接近の好機となった。イランは中東ではトルコと並ぶウイルス感染国。感染者は10万人に迫り、死者も約6300人に上っているが、米経済制裁による資金不足で対応が十分にできず、医療物資も欠乏状態。

 

UAEは3月からイラン支援を開始し、大量の医療物資を空輸した。古今東西、困っている時に手を差し伸べてくれた恩は忘れないものだ。UAEはコロナ危機に乗じてイランとの関係修復を図ったということだろう。

 

暗躍する皇太子

このイラン政策の転換を主導したのがアブダビ首長国のムハンマド・ザイド皇太子だ。同皇太子はサウジを牛耳るムハンマド・サルマン皇太子と近く、トランプ米大統領や米中東政策を仕切る娘婿のクシュナー上級顧問とも親交が深い。

 

国際的にはあまり知られてはいないが、中東では、その存在感はサウジ皇太子に勝るとも劣らない。とりわけ、水面下で密かに行動することにかけてはアブダビ皇太子の右に出る者はいないだろう。

 

その最たる例はイエメンとリビアに対する影の影響力だ。イエメンでは親イランの武装組織フーシ派と、サウジが軍事介入までして支援するハディ暫定政権が内戦を続けているが、南部地域の分離派「南部暫定評議会」(STC)が4月26日、同国第2の都市アデンなどを自主支配すると宣言、三つ巴の複雑な様相となり、混迷は一段と深まった。

 

このSTCに肩入れしているのがムハンマド・ザイド皇太子だ。メディアなどによると、皇太子はSTCの兵士に武器を供与し、月給400ドル~530ドルを支払っているという。

 

皇太子がSTCを支援している理由はアデンを実質的な支配下に置き、インド洋と東アフリカへの港湾基地を確保するためと指摘されている。特にペルシャ湾やホルムズ海峡で米国とイランが軍事衝突した場合に備え、アデンを石油輸出の代替ルートにしたい思惑があるという。

 

皇太子はまた、リビアの反政府組織「リビア国民軍」(LNA)への支援を強め、リビア内戦に介入している。LNAの司令官ハフタル将軍はSTCと同じ26日に声明を発表。国連主導で設立された「シラージュ暫定政府」を無効とし、自ら「人民の支持を得ている」としてリビアの支配を宣言した。

 

リビア内戦は現在、主にトルコが援助する暫定政府支配のトリポリに対し、UAEやロシア、フランスなどが支援する「リビア国民軍」が攻勢を掛けている。内戦はトルコとUAEの無人機が互いを攻撃し、「無人機戦争」とも称されている。

 

皇太子が介入している理由は、ハフタル将軍にリビアを支配させ、同国のエネルギー資源へ影響力を保持したい思惑があるからだという。

 

中東誌によると、皇太子はトルコをリビアから引き離すためための“陰謀”も画策したとされる。トルコ軍は2月、クルド人を掃討するためとしてシリアに侵攻し、翌3月にロシアのプーチン大統領の仲介で停戦がまとまった。

 

しかし、皇太子はシリアのアサド大統領に30億ドルの闇金を払って停戦を破るよう依頼し、停戦が発効するまでに手付金として2億5000万ドルを支払ったという。トルコのエルドアン大統領にシリアの戦闘に忙殺させるよう仕組み、暫定政府を支援しているリビアから撤収させようとしたと伝えられている。

 

サウジとの確執

こうした暗躍ぶりが取り沙汰される割には、皇太子は国際的にはあまり目立たない存在だ。「サウジ皇太子とは違い、あえて力を誇示するような表立った言動は控えている。それがアブダビ皇太子の賢いところ。コロナ以後を見据えた長期的な戦略に基づいて行動している」(同)という評価だ。

 

だが、アブダビ首長国のザイド家とサウジのサウド家は元々、ライバル関係にあり、仲は悪かった。サウジがUAEの独立をなかなか承認しなかったという不和の歴史がそれを実証している。

 

ここ数年、皇太子同士が親密だったのはトランプ大統領を引きずり込んで、イランと敵対させることが自分たちの身を守り、自分たちの利益に合致するとの共通認識があったからだ。

 

しかし、イランを武力でつぶすことは不可能なことが明確になり、UAEがイランとの修復に本格的に動き出したことで、両皇太子の間にすきま風が吹き始めている。

 

加えてイエメン内戦をめぐる思惑の違いも鮮明になっている上、コロナ禍による石油価格の暴落で双方とも物心の余裕がなくなっている。いつライバル同士の確執が表面化してもおかしくない状況だ。両皇太子の動向から目が離せない。【5月8日 佐々木伸氏 WEDGE Infinity】

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“敵(イラン)に塩を送り”イランに接近するUAEという見たてについては、別に佐々木氏が読み間違った云々ではなく、UAEのムハンマド・ザイド皇太子が、一筋縄ではいかないと言うか、節操がないと言うか、自国利益のためならその時々で何でもすると言うか・・・、“何でもあり”の中東世界を象徴するような人物だからでしょう。

 

その点で、佐々木氏の記事はムハンマド・ザイド皇太子の行動を理解するうえで参考になります。

 

【過去にはサウジアラビア・トランプ米政権を揺さぶるような行動も】

“策士”ムハンマド・ザイド皇太子のきれいごとや建前にとらわれない独自の行動については、2018年、トランプ大統領のイラン核合意破棄の当時、イエメン南部のソコトラ島に軍事展開したことにもよく表れています。盟友サウジアラビアのムハンマド皇太子を揺さぶり、トランプ大統領が画策するイラン包囲網に穴をあけるような行動でした。

 

****米国によるイラン制裁の限界と危険性―UAEの暴走が示すもの****

トランプ大統領のイラン核合意の破棄は、スンニ派諸国との協力を念頭に置いたもの

しかし、スンニ派諸国を率いるサウジアラビアのリーダーシップには限界があり、各国は個別の利益を追求する傾向を強めている。(中略)

 

ただし、トランプ政権が(イランへの)制裁を再開しても、イラン包囲網が成功するかは疑問です。イスラエルやサウジアラビアは米国を支持する立場ですが、核合意に署名した欧米諸国やロシアは破棄に反対しています。

 

のみならず、サウジが主導し、米国が協力を期待するスンニ派諸国の間にも、一致した協力より各国の利益を優先させる動きが広がっています。

 

とりわけ、サウジとともにスンニ派諸国の結束を主導してきたアラブ首長国連邦(UAE)が、他のスンニ派の利益を脅かしてでも自国の利益を優先させ始めたことは、この亀裂を象徴します。

 

スンニ派諸国に対するサウジのリーダーシップの限界は、米国によるイラン包囲網が穴だらけになる可能性を示唆します。

 

UAEの「暴走」

UAEは5月5日、イエメン南部のソコトラ島で部隊を展開し、この地を掌握しました。ソコトラ島は人口6万人あまりの小島で「インド洋のガラパゴス諸島」とも呼ばれる独特な生態系や、古い城壁都市シバムなどがUNESCOの世界遺産に指定されています。

 

UAEの行動をイエメン政府は「侵略(aggression)」と強く非難しており、サウジアラビア政府が仲介に乗り出していますが、交渉は難航しています。

 

UAEはしばしば「スンニ派の盟主」サウジアラビアの最も信頼できるパートナーとして振る舞ってきました。そのUAEの暴走は、スンニ派諸国の結束のもろさを浮き彫りにしたといえます。

 

イエメン内戦とUAE

UAEの暴走は、イエメン内戦のなかで発生しました。(中略)

 

イエメン内戦は「スンニ派とシーア派の宗派対立」、「サウジとイランの代理戦争」の様相を濃くしていったのです。

 

サウジにとって最も重要な「足場」は、ペルシャ湾岸の君主国家の集まり湾岸協力会議(GCC)加盟国(サウジ、UAE、カタール、クウェート、バーレーン、オマーン)です。

 

そのなかでもUAEは、サウジとともに有志連合の中核を担ってきました。さらに、イランとの関係などを理由に、2017年6月にサウジがGCC加盟国カタールと断交した際、真っ先にこれに同調した国の一つがUAEでした。

 

こうしてUAEは、サウジというビッグブラザーを支える忠実な弟分として、いわばスンニ派諸国の主流としての立ち位置を得たのです。また、リゾート地ドバイを抱えるUAEには、トランプ大統領の名を冠したゴルフ場もオープンしています。

 

サウジとUAEの不協和音

ところが、UAEとサウジの間には、徐々に不協和音が目立つようになりました。その焦点は、フーシ派と対立するハーディ大統領が、イエメンのスンニ派政党「アル・イスラーハ」と協力していることでした。

 

アル・イスラーハは、20世紀初頭にエジプトで生まれたイスラーム組織「ムスリム同胞団」をルーツにもちます。(中略)そのため、UAEはアル・イスラーハとつながるイエメン政府だけでなく、サウジ政府ともしばしば対立。2017年3月には「ハーディ政権を支持するなら有志連合から撤兵する」とサウジに通告しています。(中略)

 

南部部族連合への支援

これと並行して、UAEは徐々にイエメンの南部諸部族への支援を強化するようになりました。(中略)

 

ハーディ政権と距離を置く(南部アデン)周辺の諸部族への支援を強化することで、イエメン政府の頭ごしに同国南部での影響力を強めていったのです。(中略)

 

ソコトラ島の制圧

UAEにとってイエメン南部を切りとることは、フーシ派やアル・イスラーハを追い詰めるという戦略的な利益だけでなく、経済的な利益にも結びつきます。

 

今回、UAEが部隊を展開させたソコトラ島は、各国の商船を狙う海賊が頻繁に出没するソマリア沖に浮かんでいます。近年UAEはソマリアの港湾整備などを手掛けています。つまり、イエメン南部だけでなくソコトラ島を支配下に置くことで、UAEはアラビア半島とソマリアを結ぶ海上ルートを確保できるのです。(中略)

 

サウジの求心力の限界

ただし、ソコトラ島での軍事展開がUAEの国益を反映したものであることは確かですが、これがイエメン政府のいう「侵略」に当たるかは疑問です。(中略)

 

むしろ、ここで重要なことは、これまでの関係からソコトラ島に部隊を進めればイエメン政府から不満が噴出することは目に見えていたはずなのに、あえてUAEがそれを行なったことです。

 

そこには、トランプ政権によるイラン核合意の破棄が目前に迫るなか、スンニ派の結束を強めたいサウジアラビアが自国に譲歩するはずというUAEの目算をうかがえます。

 

言い換えると、UAEはイラン核合意の破棄という外の大きなショックを利用してビッグブラザーに揺さぶりをかけているといえます。

 

それはスンニ派諸国の間でのサウジアラビアのリーダーシップが限定的であることをも示します。サウジの限界は、スンニ派諸国との関係をテコにイラン包囲網を強化したい米国にとってもアキレス腱になるでしょう。(後略)【2018年5月9日 六辻彰二氏 Newsweek】

******************

 

こういう「アラブの大義」などにはとらわれない“したたかな” ムハンマド・ザイド皇太子と、これまた“したたかな”イスラエル・ネタニヤフ首相の結んだ合意ですから、単なる“きれいごと”の「イラン包囲網」というだけでもないように思われます。

 

内容についても“イスラエルのネタニヤフ首相は、(ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地などの併合)停止は一時的なもので「(併合)計画に変更はない」と説明。これに対しUAEは「中止だと理解している」としており、解釈には隔たりもうかがえる。”【8月19日 産経】とも。

 

合意時期も、劣勢も伝えられるトランプ大統領再選を間近に控えたこの時期・・・合意を歓迎するトランプ大統領の“息があるうちに”実績をつくってしまおうとの思惑と思われます。

 

“トランプ大統領がホワイトハウスにいる間にイスラエルとの関係を強化し、バイデンが勝ったとしてもイランとの交渉を阻止できるように手を打ったものと思われる。”【8月18日 GLOBE+】

 

とは言え、今後のアメリカ選挙の行方、西岸地区併合をめぐるイスラエル国内の事情などで、また情勢は大きく変わるのかも。

 

また、サウジアラビアについては、“今回のイスラエルとUAEの国交正常化をムハンマド・ザイド皇太子がサウジ皇太子と協議せずに一方的に行ったとは考えにくい。”【同上】ということで、保守勢力の強いサウジ独自の事情で様子見していると思われます。

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西アフリカ  マリでクーデター 背景には地域一帯に共通するイスラム過激派の勢力拡大

2020-08-19 22:55:55 | アフリカ

(マリの首都バマコに到着した兵士を歓迎する市民(バマコ、18日)【8月19日 BBC】)

 

【マリのクーデター 北部のイスラム過激派の勢力拡大を食い止められていない現政権への不満が背景】

西アフリカ・マリで軍の一部によるクーデターが発生。

 

“軍の給与をめぐる争いがきっかけだったと一部で報じられている。”【8月19日 BBC】との報道もありますが、その背景には(多くのクーデターに共通する)現政権の腐敗のほか、イスラム過激派の拡大があるとも指摘されています。

 

****マリでクーデター 反乱軍、大統領ら拘束 イスラム過激派拡大、政権へ不満****

西アフリカ・マリで18日、軍の一部がクーデターを起こし、ケイタ大統領や閣僚、政府高官らの身柄を相次いで拘束した。ロイター通信などが伝えた。

 

ケイタ大統領はマスク姿でテレビ演説を行い、「流血の事態を避ける」と述べて辞任を表明。併せて国会を解散する意向も示した。マリではイスラム過激派の活動が活発で、今後さらに政情が不安定になる恐れがある。

 

一方、反乱軍側は19日に声明を公表し、「マリがさらなる混乱に陥るのを防ぐため」とクーデターの理由を説明。今後、新たな選挙を実施するための暫定政権を作る意向を示した。軍側のリーダーは明らかになっていない。

 

首都バマコではケイタ氏に不満を抱いてきた市民らが街頭に出て歓声を上げるなど、クーデターを歓迎する動きも出ている。

 

マリでは2012年にも軍がクーデターを起こし、当時の政権が崩壊した。ケイタ氏は13年の大統領選で当選し、18年に再選。ただ、最近は政権の腐敗や選挙での不正を追及する声が国民の間で高まっていた。

 

今年3〜4月の総選挙では憲法裁判所が投票結果を覆し、与党により多くの議席数を認めた疑惑が浮上。その後、野党や市民がケイタ氏の退陣を求める大規模な抗議デモを起こしていた。ただ、一連の退陣要求運動と今回の軍の反乱が連携しているのかは不明だ。

 

ケイタ氏への不満が高まった背景には、北部のイスラム過激派の勢力拡大を食い止められていないことがある。12年のクーデターの際には過激派が混乱に乗じて勢力を伸ばし、旧宗主国のフランスが掃討のため軍事介入する事態に発展した。

 

当時、過激派から拠点都市を奪還するなどいったんは抑え込みに成功したが、過激派は複数のグループが入り乱れながら隣接するニジェールやブルキナファソにも足場を築き、勢力を保持している。12年には過激派が世界遺産都市トンブクトゥのモスク(イスラム礼拝所)などを破壊した。

 

近年はこうした武装勢力の活動に伴う市民らの犠牲も増えている。米国のNGOの集計によると、マリでは20年1〜6月の半年間で19年の1年間とほぼ同じ1835人が死亡し、過去最悪のペースとなっている。

 

一方、国連やアフリカ連合、欧米諸国は「非合法な政権転覆だ」などと反乱軍を非難する声明を相次いで発表した。政争の今後の主導権を担う勢力は不明だが、非民主的な手続きで新指導者が決まれば国際社会からの批判は避けられず、孤立する可能性がある。【8月19日 毎日】

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2012年のクーデターは北部トゥアレグ族の反乱鎮圧にあたっていた軍の一部が「武器が足りない」との不満から蜂起したもので、その後の混乱のなかで、イスラム過激派が勢力を拡大する形になっています。

(参考 2012年7月3日ブログ“マリ 北部で反政府武装勢力が「イスラム国家建設」 イスラム過激派によるイスラム霊廟破壊も”)

 

上記【毎日】にあるように、フランスの軍事介入でいったんはイスラム過激派を追い詰めましたが、その後はイスラム過激派がしぶとくこの地に根を張る形にもなっています。

 

北部を基盤としていたイスラム過激派は中部にも勢力を拡大し、それに伴って部族間の対立・衝突が激化する混乱が生じています。

 

****マリ中部で武装集団が村襲撃、40人死亡****

西アフリカのマリ中部で今週、武装集団が複数の村を同時に襲撃し、民間人31人が殺害された。対応のため派遣された兵士9人も殺害された。同国中部では紛争で暴力が激化している。

 

地元当局者が安全上の理由から匿名を条件に電話で語ったところによると、武装して制服を着用し、ピックアップトラックに乗った男らが1日、ドゴン人の複数の村を襲撃した。襲撃により、女性、子供、高齢者を含む少なくとも30人が死亡。行方不明者も出ているという。

 

襲撃された村の一つ、ゴウアリの長老は「午後3時から9時まで、誰も救助に来なかった」と話している。

 

陸軍報道官のディアラン・コネ大佐はAFPに対し、現地に軍隊が派遣され、1日に31人の遺体の埋葬を支援したと述べた。

 

マリでは2012年に北部で台頭したイスラム教反政府勢力が、民族間の対立をあおりながら中部に移動している。中部ではこの数か月、遊牧民のフラニ人と伝統的に狩猟を行うドゴン人の間で衝突が増加しており、当初は防衛のため組織された地域の民兵らが攻撃に乗り出している。

 

国連の先月の発表によると、マリ中部の混乱で今年に入って民間人600人近くが死亡している。 【7月4日 AFP】

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【西アフりカ全域で跋扈するイスラム過激派 部族対立とも連動】

また、イスラム過激派の拡大はマリだけではなく、ニジェール・ブルキナファソ・ナイジェリアなどの西アフリカに共通する現象ともなっています。

 

****ニジェールで襲撃事件 武装集団がフランス人ら8人殺害****

西アフリカ・ニジェールの首都ニアメーの南東約50キロの保護区で9日、武装した集団がフランス人のNGO職員6人と地元ガイドと運転手の計8人を殺害した。AFP通信などが報じた。NGO職員らはキリンが生息する保護区を訪れた際に狙われたという。

 

ニジェールや近隣のマリ、ブルキナファソなどサハラ砂漠一帯にあるサヘル地域では近年、過激派組織イスラム国(IS)やアルカイダとつながりのある勢力などが台頭。教会や学校、治安部隊への襲撃を繰り返している。

 

昨年12月と今年1月には、マリとの国境近くでニジェール軍の拠点が襲撃され、兵士約160人が殺害された。旧宗主国のフランスは、サヘル地域に軍隊を派遣し、過激派勢力の掃討作戦を展開している。【8月10日 朝日】

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****ブルキナファソで過激派の襲撃相次ぐ、50人死亡****

西アフリカの内陸国ブルキナファソで週末にかけ、イスラム過激派によるとみられる襲撃事件が相次ぎ、合わせて少なくとも50人が死亡した。政府が5月31日に発表した。

 

北部ロルム県で29日、自警団に警備されて移動中の商店主らの車列が銃撃を受け、15人が死亡。翌30日には、東部コンピエンガ県パマ近郊の家畜市場が襲われ、少なくとも25人の死亡が確認された。

 

北部の町バルサロゴでも同日、人道支援団体の車列が待ち伏せ攻撃に遭い、民間人少なくとも5人と憲兵5人が死亡、約20人が負傷した。襲撃を受けた人道支援団体は、北方の町に食料を届けた帰りだったという。

 

旧フランス植民地で最貧国の一つであるブルキナファソでは2015年以降、イスラム過激派の活動が活発化。特に東部と北部で襲撃が多発し、5年間で900人以上が死亡、約86万人が家を追われて避難生活を送っている。

 

こうした中、牧畜民の少数民族フラニ人が過激派を支援しているとの非難が他の民族から上がり、フラニ人を標的とした襲撃事件も相次いでいる。

 

過激派の襲撃は昨年から激化しており、ほぼ毎日のように発生。外国人の拉致事件も相次いでいる。 【6月1日 AFP】

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イスラム過激派の勢力拡大と、部族対立が絡み合っているところはニジェールもブルキナファソも共通しています。

 

また、過激派などの鎮圧にあたる政府軍にも暴力行為が蔓延しているのも、コンゴなど他のアフリカ諸国の混乱状況と同じです。このことが地域の混乱・不安定化に拍車をかけているようにも見えます。

 

****ブルキナファソで180人集団埋葬 軍が超法規的に殺害か HRW報告****

ブルキナファソ北部で、軍によって超法規的に殺害されたとみられる少なくとも男性180人の遺体が発見された。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチが8日、報告書を公開した。

 

ブルキナファソ当局は以前から、2015年から続くイスラム過激派との戦いで超法規的な殺害を行っているとの非難を受けてきた。

 

発見された遺体はすべて男性で、過激派のメンバー勧誘の対象となっているフラニ人が大部分を占めていた。遺体は4〜5月にかけて北部の町ジボの住民らによって埋葬された。

 

報告書によると、あるジボの地域指導者はHRWに「遺体の多くは目隠しをされ、両手を縛られ、(中略)頭部を撃たれていた」と述べた。

 

HRWは、「少なくとも180人の遺体があった大規模な埋葬地はここ数か月に発見された。手に入れた証拠は、政府の治安部隊がこの超法規的大量殺人に関与していることを示唆している」と指摘している。

 

ブルキナファソ政府はこの疑惑を受け、調査を開始すると述べている。 【7月8日 AFP】

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【やまないボコ・ハラムの暴力】

ナイジェリアになると、イスラム過激派「ボコ・ハラム」の本拠地ですが、「イスラム国」と関係する武装集団のテロも横行しています。

 

****イスラム過激派、数百人を人質として拘束か ナイジェリア****

ナイジェリア北東部で、イスラム過激派組織「イスラム国」と関係する武装集団が数百人を人質に取ったと、地元住民や民兵組織などが19日、明らかにした。

 

地元民兵組織の指導者によると、過激派組織「イスラム国西アフリカ州」 の「テロリストら」が18日夜、チャド湖地域の町クカワを襲い、住民を拘束したという。人質となった人々は、避難キャンプで2年間を過ごし、自宅に戻ったばかりだったという。 【8月19日 AFP】

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ボコ・ハラムに関しては、以下のようなおぞましい報道も。

 

****子ども203人を「人間爆弾」に イスラム過激派がナイジェリアで****

国連は24日、イスラム過激派ボコ・ハラムがナイジェリア北東部で2019年末までの3年間に、拉致した203人の子どもを使った爆弾テロを行っていたとの報告書を発表した。約8割が少女だった。

 

大人の戦闘員が子どもの体に爆弾を巻き付けて雑踏に向かわせ、遠隔操作で起爆する手口で、国連は「人間爆弾」と非難している。

 

ボコ・ハラムは14年に北東部ボルノ州で女子生徒276人を拉致し、解放を求めるキャンペーンが世界中に広まった。だが、過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う勢力も現れ、チャド湖に面した地域一帯を混乱に陥れている。【7月25日 共同】

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牧草地と水利権をめぐりる農民と牧畜民の対立が背景にあるのでは・・・とも思われる衝突も。

“武装集団が結婚式銃撃、18人死亡 ナイジェリア北部”【7月21日 AFP】

 

また、イスラム過激派と連携するともいわれる「盗賊団」の暴力も。

“「盗賊団」がナイジェリア軍襲撃、少なくとも兵士23人死亡”【7月20日 AFP】

 

ボコ・ハラムの動きは、チャド軍の掃討作戦にもかかわらず、ニジェール、ナイジェリア、カメルーンの国境付近のチャド湖周辺でも続いています。

 

****ボコ・ハラム、チャド湖周辺で民間人10人殺害、7人拉致***

ナイジェリアのイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」の戦闘員らが7月31日、チャド湖周辺の村を襲撃し、少なくとも10人の民間人を殺害、7人を拉致した。軍の将校と地元の当局者が明らかにした。

 

匿名を条件にAFPの取材に応じた軍の将校は、31日午前3時(日本時間同日午後11時)ごろ、ボコ・ハラムの戦闘員らが村を攻撃し、女性2人と男性8人を殺害と説明。さらに男性7人を拉致し、村を略奪して火を付けた後に引き上げたと述べた。

 

チャド湖はニジェール、ナイジェリア、カメルーンの国境付近に位置し、島々が点在する湿地帯で、ナイジェリアを越境してきた戦闘員らの襲撃が相次いで発生している。

 

ボコ・ハラムは2009年、ナイジェリア北東部で武装蜂起し、これまでに3万6000人以上が死亡し、200万人以上が避難を余儀なくされている。同組織は襲撃の範囲をニジェール、チャド、カメルーンにも広げ、3月には同湖畔にあるチャド軍基地で98人の兵士を虐殺。同軍の部隊が一日で最多の犠牲者を出す事態となった。

 

この襲撃を受け、チャドのイドリス・デビ大統領は3月31日から4月3日にかけて攻撃を実施し、最終的にチャド湖地域には「(ボコ・ハラムの)戦闘員は一人も残っていない」と宣言したが、散発的な暴力沙汰は続いている。 【8月1日 AFP】

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これだけイスラム過激派が広く・根深く存在するということは、やはりこの地域の統治に、そういったものを誘発する何かしらの問題があってのことでしょう。

 

日本や欧米では、イラク・シリアのIS(イスラム国)崩壊で、イスラム過激派への関心は薄れていますが、西アフリカ・サヘル地帯では現在もその暴力・混乱が続き、おさまる気配がありません。

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東地中海キプロス沖のガス田開発  出遅れたトルコの権益主張で高まる緊張

2020-08-18 22:40:18 | 欧州情勢

(トルコ海軍艦艇の護衛を受けて地中海を航行する探査船「オルチ・レイス」。トルコ国防省提供(2020年8月10日撮影)【8月13日 AFP】)

 

【天然ガス開発をめぐって波が高まる東地中海 震源地はトルコ】

南シナ海において、領有権・資源をめぐる中国と周辺国の争い、あるいは連携、さらにはアメリカ、日本の中国抑止政策などで複雑な国際関係が生じていることは周知のところですが、欧州においては東地中海における天然ガス資源をめぐって緊張が高まっています。

 

緊張の震源地なっている国がトルコ。

 

****東地中海で今、何が起きているのか 天然ガスがもたらすせめぎ合いを読み解く****

(中略)

■トルコとリビアが結んだ協定の波紋

トルコ政府は19年11月27日、地中海をはさんで対面するリビアの暫定政府との間で、排他的経済水域(EEZ)の境界を定める協定を締結した。EEZとは、それぞれの国が自由に海洋資源を採ることができる領域だ。

 

まず「暫定政府」という名前が分かりにくいのだが、2011年にカダフィ政権が倒れ、新政府が成立したものの不安定な状態が継続。2015年に国連主導で設立されたのが暫定政権だが、国の西半分しか統治できていない。東半分は、リビア国民軍という反政府組織が支配している。

 

なぜこれが大きなニュースになったかというと、東地中海では2010年頃から次々と大規模なガス田が発見されているからだ。その価値は7000億ドルに相当すると言われており、中東やアフリカの沿岸国はこぞってガス田を開発し、海底パイプラインによるヨーロッパへの輸出も検討していた。

 

キプロス問題を抱えるトルコは、他国が連携して開発に取り組む動きから外されており、そこでトルコはリビア暫定政府とEEZ協定を結ぶ動きに出た。

 

これにより、両国のEEZは接することになり、他国が開発を目指す欧州への天然ガス輸送ルートが通れない、いわば「壁」を作ったことになる。

 

トルコとリビア暫定政府の関係はこれにとどまらず、トルコが武器や軍事物資を供与する協定も結び、さらに12月26日にはエルドアン大統領が「リビアからの要請に応じ、トルコ軍を派遣する」とまで踏み込んだ。

 

トルコ側の関心はEEZにあるが、内戦に憂えるリビア暫定政府側は、安全保障に重きを置いている。リビアの反政府勢力へはトルコが敵対するエジプト、サウジアラビア、UAEや、ロシアも支援している。

 

エネルギー問題での利を得ようとしてリビア暫定政府との関係を深めるトルコの動きは、「トルコとリビア暫定政府」対「反トルコ諸国」の構図をさらに強め、東地中海情勢を不安定化させる可能性をはらんでいる。

 

当然、パイプライン計画を封じられた側の国々は反発した。急先鋒は、ギリシャ、キプロス共和国、エジプト、イスラエルだ。さらにEU、アメリカも加勢している。

 

両国間の合意を受け、4か国は「一方的な境界線の設定であり国際海洋法違反だ」と批判、ギリシャ政府はリビア大使を国外追放処分にした。キプロス共和国政府は、東地中海におけるトルコの掘削活動が違法だとして、国際司法裁判所に提訴した。(後略)【1月2日 GLOBE+】

**********************

 

キプロスについて若干補足すると、地中海東部に浮かぶキプロス島は、四国の面積の半分ほどで人口は約120万人。

 

いろんな経緯があって、北部のトルコ系住民、南部のギリシャ系住民が住む地域に分かれて島は分断されており、ギリシャが支援する南のキプロス共和国だけがEUに加盟、トルコが支援しトルコ軍が駐留する北の「北キプロス・トルコ共和国(北キプロス)」はトルコ以外からの国家承認は受けていません。

 

EU加盟国である南のキプロスは、ガス田開発のため米仏伊などの外国企業と契約し、大規模な探査と掘削を行っていますが、ガス田の多くはトルコと、トルコのみが国家承認する北キプロスが領有権を主張する海域にも重なっていることから、問題が複雑化してきます。

 

上記【1月2日 GLOBE+】の記事は、重要な関係国であるアメリカおよびロシアの対応に関する記述が続きますが、長くなるので省略しました。

 

アメリカは南のキプロス、ギリシャを支援する立場にあり、米企業がガス探査に乗り出しています。

アメリカがトルコと多くの問題を抱えていることはしばしば取り上げてきましたが、ただ、トルコはNATO加盟国でもあり、また、この地域における重要国でもあって、アメリカとしても決定的にトルコと対立するのは難しい関係にあります。

 

ロシアと南のキプロスも非常に深い関係にあります。一方で、ロシアとトルコは微妙。ロシアはシリアなどでトルコと利害が対立しながも、一定の協調関係を構築して、地域大国トルコとの関係が維持されています。

 

上記のような複雑な国際関係を背景として、“仲間はずれ”にされて、資源開発でも出遅れたトルコが、リビア暫定政権と手を組んで、南のキプロス・ギリシャ・欧米さらにはイスラエル・エジプトなどが進める資源開発に待ったをかけようとしている・・・そのような構図になっています。

 

【トルコとギリシャ 双方の海軍が展開】

こうした状況にあって、ギリシャ神話で語られるトロイヤ戦争など歴史的に犬猿の仲でもあるギリシャとトルコの緊張が高まっています。

 

****エジプト・ギリシャ、EEZ画定でトルコけん制=東地中海で対立****

エジプトとギリシャは6日、東地中海での両国間の排他的経済水域(EEZ)を画定する合意文書に署名した。

 

同海域で採掘される石油・天然ガスの開発などで協力を深める狙いだが、東地中海での影響力拡大を図るトルコはすぐさま反発。3カ国はリビア情勢をめぐっても鋭く対立しており、新たな緊張激化の火種となりかねない。

 

エジプトは、国が東西に分裂して争うリビア内戦で、トルコと対立関係にある勢力を支援。また、ギリシャは歴史的に隣国トルコとの関係が悪い。

 

エジプトとギリシャは、イスラエルやキプロスなど域内国を巻き込み資源開発での協力枠組みを構築しているが、「トルコ排除」の姿勢を鮮明にしている。

 

トルコは昨年11月、肩入れするリビア暫定政権と東地中海でのEEZ境界で合意し、軍事協定も結んでリビアに派兵。関係国の反発を招いた。

 

AFP通信によると、ギリシャのデンディアス外相は6日、エジプトとの合意に際し「トルコがリビア暫定政権と結んだ根拠のない覚書はごみ箱行きだ」とトルコを痛烈に批判した。

 

一方、トルコは合意で記された海域の一部が「トルコの大陸棚と重なる」として無効だと主張。「東地中海での合法的な権利と利益を断固守る」とエジプト・ギリシャをけん制した。【8月7日 時事】 

*********************

 

トルコは8月10日、軍艦の護衛を付け、問題の地中海域に探査船を派遣しています。

 

****トルコ、ギリシャとの対立激化 東地中海の資源探査、高まる緊張****

トルコが東地中海で再開した海底資源探査を巡り、ギリシャと対立が激化している。

 

現場は両国がともに自国の大陸棚として海洋権益を主張する海域で、双方の海軍が展開する事態に発展。対話を重視する姿勢は示されているが、緊張が高まりつつある。

 

トルコは10日、トルコ南方海域で探査船の活動を再開し、チャブシオール外相が11日、探査の許可範囲を今月中にギリシャのクレタ島やロードス島に近接する海域まで拡大すると表明した。

 

探査船には海軍の艦船が護衛に就き、アカル国防相は「トルコの権利と国益を守るため、あらゆる対策を取る」と強調した。【8月13日 共同】

********************

 

「国際法に沿った平和的手段により、政治的解決に到達したい」(トルコのアカル国防相)、「われわれから事態を悪化させることはしない。われわれの唯一の力は自制だ」(ギリシャのミツォタキス首相)と、双方とも対話を通じて解決する考えを示してはいますが・・・・。

 

****トルコが地中海でエネルギー探査、ギリシャが軍艦同士の「事故」警告****

ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は12日、トルコが地中海東部にあるギリシャ領の島の沖合に軍艦数隻を派遣してエネルギー探査を行っていることに不快感を示し、軍艦同士の「事故」が起きかねないとして、トルコ政府に「分別」を示すよう強く求めた。

 

トルコは10日、海軍艦艇数隻の護衛を伴った探査船「オルチ・レイス」を地中海東部にあるギリシャ・カステロリゾ島沖に派遣した。これを受け、ギリシャも監視のため軍艦数隻を派遣し、緊張が高まっている。

 

ギリシャの艦艇は現在、キプロス西方を航行している。

 

ミツォタキス首相は「隣国で、最終的に分別が優勢となり、誠意を持った対話が再開できるようになることを注意深く期待している」と発言。「このような狭い海域にこれほど多くの軍艦が集まれば、事故が起きる危険性がある」と警告した。

 

ギリシャ政府は、自国の大陸棚とみなす海域から直ちに退去するようオルチ・レイスに要求し、この問題に関して欧州連合の緊急外相会合の開催を求めている。 【8月13日 AFP】

*******************

 

【フランスも戦闘機派遣】

さらに、フランスもトルコけん制のため戦闘機をクレタ島に派遣して“参戦”

 

****フランス、東地中海での軍事プレゼンスを強化――ガス田試掘のトルコを強くけん制****

東地中海の海底でガス田開発が進む中、トルコと周辺国との緊張対立が高まっている。

 

フランスのマクロン大統領は8月12日(日本時間13日)、東地中海での軍事プレゼンスを一時的に強化するとツイッターで明らかにした。トルコをけん制する狙いがある。

 

マクロン大統領は「東地中海の状況は心配だ。石油探査をめぐるトルコの一方的な決定が緊張を引き起こしている」と指摘し、トルコを強く批判した。

 

  • トルコ、ガス田試掘に軍艦5隻をエスコート

(中略)

 

  • 仏、ラファール戦闘機2機をクレタ島に派遣

フランス国防省は13日、キプロスで10日から12日まで軍事演習に参加していたラファール戦闘機2機を13日付でギリシャのクレタ島のスーダに派遣すると発表した。

 

フランス海軍のヘリ空母「トネール」も、ベイルートでの爆発を受けたレバノンへの緊急輸送が終わり次第、東地中海での軍事プレゼンス強化のために展開される。ラファイエット級フリゲートも参加する。

 

フランス国防省は、東地中海での軍事プレゼンスの強化の目的が、状況の独自評価の実施に加え、航行の自由と海上安全の確保を意図したものと説明している。

 

しかし、トルコの探査船「オルチ・レイス」が軍艦5隻にエスコートされていることに比べれば、フランスの対応は、すでに地中海で展開中の戦闘機2機と軍艦2機だけを振り向けるだけで、多分に象徴的なものとも言える。

 

  • ガス田開発に乗り遅れたトルコ、リビア暫定政権と組む

東地中海のガス田開発をめぐっては、イスラエルが先鞭を付け、エジプトなどが後に続いた。イスラエルとキプロス、ギリシャは、欧州に天然ガスを輸出する海底パイプラインを計画した。

 

これに対し、乗り遅れたトルコは、リビア暫定政権と組んで地中海に排他的経済水域(EEZ)を設定した。これがトルコのリビア内戦への介入を強める大きな要因ともなった。

 

北アフリカのリビアは東西に分裂して内戦状態が続き、混乱している。トルコがリビア西部の首都トリポリを拠点とする暫定政権を軍事支援しているのに対し、リビア隣国のエジプトはこれに対立するリビア東部の軍事組織を支援している。

 

エジプト議会は7月20日、リビアへの軍の派遣を全会一致で承認した。エジプトが今後、リビアへの軍の派遣に踏み切れば、暫定政府を軍事支援するトルコとの間で直接的な軍事衝突が起きる恐れも出ている。

 

エジプト、ギリシャ両政府は8月6日、東地中海にある両国のEEZの画定に関する合意文書に署名した。東地中海のガス田開発やリビア内戦に介入するトルコをけん制する狙いがあるとみられる。地域の火種が絡み合い、緊張がさらに一段と高まることが懸念されている。【8月14日 高橋浩祐氏 YAHOO!ニュース】

********************

 

フランス・エジプト両国は、リビアにおいては東部の軍事組織を支援して、暫定政府を支援して軍事介入しているトルコと対立関係にあります。

 

現段階では、フランスの行動は“多分に象徴的なもの”というレベルですが、東地中海のガス田開発、さらにリビア情勢が絡んで、今後も関係国の駆け引き・けん制が続くと思われます。

 

強気のエルドアン大統領のもと、“トルコはこの種紛争ではあまり妥協はしない”【8月17日 中東の窓】ということもありますので。

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タイ  学生らの抗議行動、タブーとされてきた王室批判にも言及 高まる政治的・社会的緊張

2020-08-17 20:56:48 | 東南アジア

(8月14日夕方、最高学府のひとつチュラロンコン大学 大学側が会場の使用を認めなかったが、SNSで情報を得た学生ら500人以上が集まりゲリラ的に開催された抗議集会 【8月15日 FNNプライムオンライン】)

 

【2014年以降で最大規模の民主改革を求めるデモ】

タイで、新型コロナ感染は抑制されているにも関わらず、軍事政権の後継となるプラユット政権は大規模集会を禁じる非常事態宣言を4度延長しており、「反対派弾圧のために非常事態宣言を利用している」と反発が起きているという話は、8月6日ブログ“タイ  新型コロナ沈静化で再開する反政府抗議行動 政権は非常事態宣言継続で封じ込め狙う”で取り上げました。

 

学生ら若者主導の民主的改革を求める抗議行動はその後も拡大しています。

 

****タイ民主派デモに1万人 14年以降最大規模****

タイで16日、反政府デモが行われ、警察によると1万人以上が参加した。民主派の運動が活発化する中、同国で行われた政治デモとして2014年以降で最大規模となった。

 

タイではここ1か月、学生主導のグループが同国各地でほぼ毎日デモを展開。元陸軍司令官のプラユット・チャンオーチャー首相と親軍のプラユット政権に抗議し、大規模な民主改革を求めている。

 

デモ隊は16日夜までに、首都バンコクの民主記念塔周りの主要交差点を占拠。学生らは「独裁体制をつぶせ!」と声をそろえ、参加者の多くが政権を批判するサインを掲げた。平和の象徴であるハトを形取った切り抜き絵を持った人もいた。

 

警察は同塔を囲む主要道路を通行止めにした。警察当局によると同日午後6時(日本時間午後8時)までに集まったデモ参加者は1万人に及んだ。民主記念塔は専制君主制を終わらせた1932年の立憲革命を記念して設立されたもので、同塔で行われた集会としては、2014年にプラユット氏が主導したクーデター以降最大規模となった。

 

学生らは政府の全面的な見直しと、2017年に公布された憲法の改訂を要求。軍政下で草案されたこの憲法が、昨年の総選挙でプラユット氏率いる親軍政党に有利に働いたと訴えている。 【8月17日 AFP】AFPBB News

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【タブーとされてきた王室批判で高まる政権との緊張 社会的対立の可能性も】

前回ブログでは、抗議行動に“ハム太郎”とか“ハリポタ”といったキャラクターが使用されていることを紹介しましたが、そうした緩い雰囲気が変化し、主張は次第に過激化する様相を見せています。

 

前回ブログの記事にも“非常に繊細な問題とされる不敬罪関連法に反対するプラカードを掲げる参加者も、最近ではみられるようになった”という記載がありましたが、この“非常に繊細な問題”、さらにはタブーとされてきた王室批判も前面に出てきており、一時は民主化運動を懐柔するような姿勢も見せていたプラユット政権との間で再び緊張が高まっています。

 

単に政権との関係だけでなく、王室というタブーに触れることで、王室への信頼が篤かったタイ社会において、この種の抗議行動がどのように受け入れられるのか注目されます。

 

“篤かった”と過去形なのは、文字どおり篤く信奉されていた前国王と異なり、現国王に関してはいろいろなスキャンダルも海外で取り上げられる状況で、タイ国民の人気も前国王に及ばないということがあるためです。

 

もちろん、たとえそうであっても王室批判に対しては・・・という感情も当然これあり、今後の反応が注目されるところです。

 

****激化するタイの民主化運動、「王室批判」のタブーも****

昨年7月、約5年ぶりに軍事政権から民政に復帰したタイで、首都バンコクを中心に「反プラユット政権」を叫ぶ学生や若者らによる民主化を要求するデモや集会が続いてきた。

 

ところがここにきて治安当局の締め付けが一段と厳しくなってきた。この締め付けによって、タイの民主化の芽は摘まれてしまうのだろうか。

 

2014年のクーデター以降、軍事政権が続いていたタイは、2019年3月実施の総選挙の結果を受けて同年7月に発足したプラユット政権によって民政に復帰した。

 

とはいえ、2014年のクーデターは陸軍司令官だったプラユット首相が主導したものだったし、クーデター決行後の首相も一貫してプラユット氏だったことからも分かるように、現在は民政とはいえとも、軍の強い影響下にある。

 

憲法や議会にしても、軍政時代と大きな変化はなく、言論や報道の自由も制限された状況が続いているのだ。

 

民主化要求デモの変質

8月4日の定例閣議でプラユット首相は、前日の3日に約200人の学生らが参加してバンコク市内で行われた反政府デモに対して、「タイ政府は今コロナ対策など多くの重要な課題に直面しており、この時期にさらに事態を悪化させるようなこと、社会の混乱を扇動するようなことは止めるべきだ」と発言して、デモを厳しく取り締まる姿勢を明らかにした。

 

実はプラユット首相は、7月からバンコク市内や一部の地方都市で始まった反プラユット政権のデモや集会に対して「タイ社会の将来を考えている若者には配慮しているし、その声を聞く用意がある。若者には集会を開く権利もある」と柔軟な姿勢で一定の理解を示していた。

 

8月4日の閣議での発言は、その方針の転換を意味していた。

 

方針転換の理由として指摘されているのは、デモや集会での主張が当初はプラユット政権批判が中心だったのに、途中からそこにワチラロンコン国王や王族への批判、中傷も加わり始めて、「反王室」運動へと変質しはじめたことだ。

 

「不敬罪適用停止」は「国王の慈悲」

タイでは王室は絶対的な存在で、批判することもタブーとされている。国王を侮辱した者は3年から15年の禁固刑に処せられるという「不敬罪」も存在する。

 

実際、2014年のクーデターでプラユット首相が政権を掌握して以来、タイでは約100人が不敬罪で起訴されたといわれている。

 

だがそれも、2018年9月以降は「不敬罪」適用による検挙事例はないとされてきた。このことから、タイ社会で長年タブーとされてきた「絶対的権威」である王室に対する批判についても緩和の方向にあるとの認識が国民の間には少しずつ浸透していたのだ。

 

この「不敬罪適用停止」の理由について、この6月にプラユット首相は、「ワチラロンコン国王の直接指示による慈悲」であると明らかにしていた。タイの報道各社の分析によれば、プラユット首相の真意は「国王の慈悲は王室批判を野放図に許すことではない」と見られている。

 

ところが7月以降、学生らの反政府デモが「王族の権限見直し」、さらには「不敬罪撤廃を含めた表現・報道の自由」という具合に、一気に「王室批判」にまで及ぶに至り、ついにプラユット首相も警戒感を抱くようになった、と見られている。

 

「政府批判はある程度許容されても、国王や王族への批判、中傷は限度を超えることは決して許されない」との認識で、学生らの主張がタイ社会の根底をなす王室の存在まで揺るがしかねないようになったため、厳しく対処するしかなくなったというのだ。

 

運動のリーダー格の逮捕

王室批判の中心的人物が、人権派弁護士のアノン・ナムパー氏(35)だ。アノン氏はこれまで集会などで、「我々は王政の廃止を求めているわけではなく、改革を求めている。国家の元首としての国王とともに民主主義を実現したいのだ」との主張を繰り返してきた。

 

前述のプラユット首相が閣議で批判した8月3日の集会でも、組織者の1人として演壇に上がり、大胆な王室批判のスピーチも行った。ところがこれに当局も黙ってはいなかった。7日になってアノン氏の逮捕に踏み切ったのだ。

 

容疑は「不敬罪」ではなく、別の集会で社会を扇動したことだった。また同じく集会主催に関わった活動家のパヌポン・ヤノック氏も同日、逮捕されている。

 

ただアノン氏は翌8日は保釈された。地元メディアなどによると裁判官が「今後同じような活動をしない、もし同様の活動をした場合は罰金10万バーツ(約3200ドル)を科す」との条件で釈放を決めたという。タイではこの逮捕は、アノン氏の「口封じ」と他の活動家への見せしめのためのものだったと受け止められている。

 

しかしアノン氏の方は、そんな逮捕に全く屈する様子はなかった。10日夜にもタマサート大学で開かれた学生集会に参加。そこで再び、政府の改革と王族権力の縮小を訴えたのだ。果たしてプラユット政権は、アノン氏に対して再逮捕などの処置を下すのかどうか注目されている。

 

「王室批判」の扱いが焦点

民主化運動に対する寛容な態度を硬化させたプラユット首相の姿勢転換の背景としてタイで注目されているのは、そこに「国王からの直接の指示」があったのかどうか、ということだ。

 

地元メディアは明確に報じていないが、一部で「民主化要求デモに対して国王が怒った」との情報が広まっている。その意を受けたからこそプラユット首相も強硬姿勢に転じた可能性がある、というのだ。

 

さらに「未確認」としながらも活動家の一人が「不敬罪」で逮捕されたという情報もタイでは広まっている。事実であれば「不敬罪」の復活を意味することになる。そうなると「王室批判」がなかなかやりにくい状況になるのは間違いない。これからの学生デモや集会で「王室批判」がどう扱われるかも焦点になってくる。

 

現在、タイで「王室批判」が大きくなっているのにも背景がある。

 

2016年10月に死去したプミポン前国王へのタイ国民の敬愛と支持は絶大なものがあった。ところが現在のワチラロンコン国王は、普段はドイツに滞在していることが多く、また女性関係や服装が海外メディアなどから興味本位で取り上げられることも多い。そんなことから、国王に対する国民の尊敬の念は、前国王ほどまでには至っていないと言われる。

 

タイ政府は目下、コロナウイルスの感染拡大防止に全力を挙げている。そちらに手いっぱいの中で、「軍政の名残が色濃い現政権、議会の解散」などを強く求める若者らの動きが先鋭化することは、政権基盤を揺るがす運動に拡大する可能性もある。

 

そこに加えて、学生たちがタイの「国体」にも関わる「王室改革」というタブーにまで触れるようになると、王室を支持する国内保守層から「学生運動活動家やデモ参加者に対して当局は法に従って厳正に対処せよ」との強硬論が飛び出し、国論が二分されるようなことにもなりかねない。

 

「微笑みの国タイ」は一体どこへ向かうのだろうか。【8月17日 大塚智彦氏 JB Press】

*************************

 

学生らの王室批判、政権との緊張、社会的な影響・・・ほぼ同内容になりますが、別記事でも。

 

****タイで広がる前例なき「王室批判」の行方****

タイで相次いでいる反政府デモで、これまでタブーとされてきた王室を公然と批判する動きが出はじめる異例の事態となっている。

 

参加者は高校生や大学生などの若者が中心で、当初の訴えは軍主導の現政権に対する批判や、議会の早期解散・総選挙などだった。しかし8月に入るとタイ王室に対する直接的な批判が加わったため、反政府デモを取り巻く雰囲気は一変している。

 

8月14日夕方、最高学府のひとつチュラロンコン大学のスタジアムで予定されていた反政府集会が、大学の命令で中止寸前に追い込まれた。大学側が会場の使用を認めなかったためだ。

 

学生らは大学構内の別の場所でゲリラ的に集会を始め、SNSで情報を得た学生ら500人以上が集まりプラユット政権の退陣や憲法改正、格差の是正を訴えた。

 

この集会では「パリットを助けよう」というスローガンが何度も叫ばれた。パリットとは、ちょうどこの日にタイ警察に扇動などの容疑で逮捕された反政府運動の学生リーダーの一人、パリット・チワラック氏を指す。パリット氏は翌15日に保釈されたが、活動家逮捕の一報に、デモ参加者の間には緊張が走った。

 

最近の反政府集会は、デモが始まった7月の雰囲気とは明らかに雰囲気が変わってきている。7月末の段階では、集会の最後にアニメ「とっとこハム太郎」の替え歌を合唱するなど会場の雰囲気は穏やかだった。そしてデモを見つめる市民の目も温かいものだった。

 

デモを取り巻く雰囲気が一変

しかしデモを取り巻く雰囲気は8月に入ると一変した。
転機となったのは8月3日、反政府運動のリーダー格で人権派弁護士のアノン・ナムパー氏が批判の矛先を王室に向け公然と改革を訴えたことだ。

 

タイでは王室は絶対的な権威であり、公然と批判することは許されない対象だ。不敬罪(刑法112条)も存在し、国王や王族を中傷・侮辱したと判断されると最高で15年、最低でも3年の禁固刑が科される可能性がある。

 

この人権派弁護士ら2人は不敬罪ではなく扇動の容疑で逮捕され、学生らの強い反発を受け、2人は8日に保釈された。しかし王室に対する批判はさらにエスカレートしている。

 

なかでも8月10日にタイの名門校の一つであるタマサート大学で開催された反政府集会は、タイ社会に大きな衝撃を与えた。

 

およそ4000人の学生らが参加した集会の最後に学生代表の一人がタイ王室の改革を求める「10項目の要求」と名付けられた声明文を読み上げ、その内容が王室への直接的な批判とも受け取れるものだったからだ。

この声明には、王室批判に対する不敬罪の撤廃や、王室の権限強化の動きの撤回などが含まれる。

 

ワチラロンコン国王は2016年に即位して以降、国王の権限を強化してきた。2017年には1兆4000億バーツ(約5兆円弱)とも試算される王室の財産に関する法律が改正され、国王は王室財産を運用できるようになった。学生らの要求はこうした国王の権限強化の撤回を求めるものだ。

 

前例ない動き…タイ社会に衝撃

反政府集会の先鋭化の動きは、タイ社会に大きな衝撃を与えている。これまでタイでは幾度となく政治的な混乱が起きてきたが、王室に対する挑戦はほとんどなかったためだ。

 

政権内でも警戒感が高まっている。プラユット首相はこの翌日、反政府集会の動きについて「やりすぎだ」と不快感を示し、閣僚の一人は「国の最も重要な根幹を侵さないよう気をつけなければならない」とデモ参加者を強く牽制した。前述のようにそうした警戒感が冒頭の活動家逮捕など、取締り強化の動きにあらわれている。

 

これらの反政府集会を主催する団体が今後、タイ王室を支持する保守派と衝突するおそれも出てきている。8月10日には両者が互いに近接する場所で集会を開催し、衝突を懸念する声も出た。

 

保守派のリーダーの一人は「我が国の統治システムや文化の破壊に繋がりかねない」と反政府団体の動きを強く批判し、怒りをあらわにした。

 

徐々に広がりをみせる王室批判の動きの一方で、タイでは王室を大切な存在と考えている人も多くいて、今回の動きを嫌悪する声も広がっている。政権側は今後、この問題にどう対処していくのだろうか。

 

もし強権的に若者らの取り締まりに踏み切った場合は、学生側のさらなる反発が予想される。しかし、この状態を放置しておくことも様々なリスクを生む。多くのタイ国民がデモの行方を注視している。

【8月15日 FNNプライムオンライン】

*********************

 

タイにはこのほか、コロナ対策による外国人観光客消失の観光立国に与えている深刻な打撃、イスラム教徒が多いタイ深南部で続くテロといった問題もありますが、それぞれ長くなるので、また別機会に。

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中国  メンツ文化を改善できるか、習近平主席指導の「光盤(皿を空にする)運動」

2020-08-16 21:58:18 | 中国

(中国北部・河北省で、レストランのテーブルに置かれた、食べ残しをしないよう呼びかける注意書き(2020年8月13日撮影)【8月16日 AFP】)

 

最近の中国社会の話題から。

 

****食事の注文少なめに、中国の食堂で呼びかけ 習国家主席が食べ残しに憤慨****

中国の習近平国家主席が、食品廃棄の問題に取り組んで倹約の考えを取り入れる方針を打ち出したことで、同国のレストランでは、料理を少なめに注文するよう呼び掛けられている。

 

「光盤(皿を空にする)運動」と呼ばれるこのキャンペーンは、中国で深く根付く、宴会で多めに食事を注文する文化的習慣を覆すことを目指したもの。

 

国営メディアは今週、食べ残しが「ショッキングで痛ましい」との習氏の発言を報道。「食料の安全保障に関する危機意識を維持する必要がある」とした上で、「今年は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)による影響で、われわれにとってはさらなる警鐘が鳴らされている」と述べたという。

 

地域のケータリング業界は、習氏の呼び掛けに応える形で、通称「N-1方針」を取り入れると表明。団体客に対しはこの方針の下、人数分より1品少なく注文するよう求めるという。

 

またレストランに対し、一人客に少なめか、半分の量を提供するよう提案している。

 

2018年に中国科学院が発表した報告書によると、レストランにおける食べ残しの量は平均で、1人当たり毎食93グラム。大都市で毎年1800万トンもの残飯が廃棄されることにつながっている。

 

パンデミックを受け、当初は封鎖された都市で買いだめや食料不足がみられ、食料の安全保障をめぐる国民の懸念が高まった。

 

さらに深刻な洪水被害によって、長江のデルタ地帯にある広大な農地が壊滅したことで懸念が膨らんだ。中国の農産物の半分近くが生産されるこの地帯での収穫は台なしとなり、食品価格が高騰している。

 

国営メディアやネット上でもまた、食品廃棄に対する闘いが開始された。

 

人気の動画共有アプリ「抖音」や「快手」は、「喫播」と呼ばれる、時には嘔吐(おうと)するまで過剰な量の食事を暴食して動画を投稿する行為に対して、アカウントの閉鎖措置を取ると発表した。 【8月15日 AFP】

********************

 

中国では来客をもてなす際は、食べきれない量を出すのがマナーともされており、「食べきりサイズ」というのは“ケチくさい”というイメージもあるのでしょう。

 

飲食店で注文する際も、料理を多めに注文するという「メンツ文化」があるということもよく言われるところ。

(ただ、食べきれないときにはタッパーに入れて持ち帰るといったことも、普通に行われています。日本では食中毒などの観点から、店によっては歓迎されないことも多いようですが)

 

食べ残し・廃棄を減らそうという「光盤(皿を空にする)運動」自体は以前からあるものだと思います。

数年前、西安を旅行した際にも、その手の表示が飲食店の店内に貼られていました。

 

今回、改めて習近平主席の指導で、取り組みが強化されるということでしょう。

 

中国を旅行して困ることのひとつが、向こうは何人かで食べることが基本となっているせいで、注文料理の一品一品の量が多く、一人旅では持て余してしまうこと。一人で何種類か注文すると大変な量になってしまいます。

 

ですから、「一人客に少なめか、半分の量を提供するよう提案」というのは大歓迎です。

 

記事最後に触れられている「大食い配信」規制については、以下のようにも。

 

****中国で「大食い配信」がやり玉に、国営テレビが批判、背景には…*****

11日に放送された中国国営の中央テレビ(CCTV)のニュース番組内で大食いする様子を配信する動画配信者が批判されたことが注目を集めている。

 

中国版ツイッター・微博(ウェイボー)の検索キーワードランキングでは、「中央テレビが大食い配信者の(食べ物の)浪費が深刻と批判」が一時2位まで浮上した。

中央テレビの番組では、国連食糧農業機関(FAO)の統計を基に「世界では毎年3分の1の食糧が無駄にされており、その量は13億トンに上る。世界人口76.33億人のうち、8.2億人が飢餓に瀕している」と説明。

 

客の食べ残しに頭を悩ませる飲食店や、「食べる分だけ注文すべきだ」といった市民の声を紹介すると同時に、いわゆる「大食い配信者」について「(飲食物の)浪費が深刻。中には食べたものを吐き出す者もいる」と指摘した。

番組に出演した中国科学院地理科学・資源研究所の成昇魁(チョン・ションクイ)研究員は、自メディア(個人などが発信するメディア)などで大食い動画が流されていることについて「非常によろしくない兆候だ」とし、「社会の節約意識の構築、食品の無駄をなくすということにまったくもって背くものだ」と強く批判した。

 

中央テレビが同内容を放送した背景には、習近平(シー・ジンピン)国家主席が先日、食糧の浪費を控えるようにとの「重要指示」を出したことがあるとみられる。

ネットユーザーからは、「こういう配信は取り締まるべきだ。衆目を集めたいだけでやっている」「大食い配信はいいが、吐き出すのは良くない」「大食いは無駄だし、体にも良くない」「他人が大食いするのを見て喜び、投げ銭をする人までいる。理解できない」「食品の無駄だし、見ていてつまらない」など批判に同調する声が多く寄せられている。【8月13日 レコードチャイナ】

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政府がこうした規制を行うことの是非は別として、日本でも頻繁にみられる「大食い番組」に関しては、私個人も「世界には飢餓で苦しむ人が多いのに、こんなことやっていいのか?」という印象を持っていました。

 

最高権力者・習近平主席の指導ということですから、関係機関はその方向で動き出しているとも。

 

****中国の小麦買付量が1000万トン減、習近平氏は食糧を浪費しないよう呼びかけ―仏メディア****

2020年8月13日、仏RFIの中国語版サイトは、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が国民の食習慣における食糧の浪費に注目すると同時に食糧関係機関の責任者らが頻繁に打ち合わせをし、政府メディアも食糧の安全を重視するよう求め、国民に食糧を節約し、危機意識を持ち続けるよう呼びかけたと報じた。

中国農業科学院の統計によると、2015年の統計では毎年3500トンの食べ物が浪費されているという。

記事によると、中国国営新華社通信は次のように中国の人々に理解を求めた。

 

食糧資源が豊富な国で産業チェーンが断絶する可能性がなくはない。サプライチェーンが断絶すると、恐慌のような購買が発生する。

 

また、昨年末からこれまでの世界各地のバッタの大量発生や山火事、さらに新型コロナウイルス感染拡大により、物流が滞ったり輸出制限を受けたりして、世界の農産物供給の不確実性が増し、食糧市場が不安定になっている。

また、フランス通信社は「中国人は盛大な食文化から節約へと移行し、習近平の呼びかけに応えている」と報じ、北京市や武漢市、西安市など多くの都市の職業飲食協会が提唱し推進している「N−1」の飲食モデルに注目した。(中略)


記事によると、中国政府はこれまで、年間在庫は消費量に対し十分で、食糧供給に問題はないと度々強調してきた。

 

国家食糧・物資備蓄局が今週発表したデータでは、河北省から江蘇省、山東省から河南省の多くの小麦主産地の買付量が前年同期比減となり、全体で938万トン以上減少した。だが、現在の小麦と米の在庫量は国民の1年間の総消費量に相当するという。

 

また、米、小麦、トウモロコシの「中国三大食糧」の中国国内自給率は平均97%以上、2019年の中国の1人当たりの平均食糧占有量は470キロを超え、国際食糧安全基準より1人当たり400キロ多いという。データは、食糧の余裕への「十分な自信」を示したと記事は伝えた。【8月16日 レコードチャイナ】

********************

 

一方で、過剰反応・悪乗りではないかと批判を浴びるようなことも報じられています。

 

****客に体重測定求めた食堂に批判殺到、食べ残し削減運動に過剰反応 中国****

中国で食品廃棄の問題に対する全国規模のキャンペーンが展開される中、同国のレストランが過剰に反応し、入店前の客に対して体重測定を求める方針を打ち出した。だが、これが物議を醸して謝罪に追い込まれた。

 

中国中部・長沙にある牛肉料理のレストランが14日にこの方針を明らかにすると、たちまちソーシャルメディア上で厳しい批判を浴びた。

 

国営中国新聞社の報道によると、客は店の前に置かれた体重計に乗るよう求められ、自身のデータをスキャンしてアプリに取り込むと、アプリが体重と料理のカロリー量に基づき、選ぶ料理を勧めてくれるという。

 

習近平国家主席は先週、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)や先月発生した深刻な洪水の影響で、食品価格が高騰している現状を踏まえ、国民に対して食べ残しをやめるよう強く求めた。

 

地域のケータリング業界はこれに応えようと、中国で深く根付いている、宴会で多めに食事を注文する文化的習慣を覆すべく、人数分より1品少なく注文するよう客に求めている。

 

批判を浴びた長沙のレストランは15日朝、ネット上で謝罪。「食べ残しをやめ、健康的なやり方で料理を注文することを呼び掛けるのが本来の意図だった。体重測定を客に強制したことは一切ない」と述べた。

 

中国の国営メディアは暴食している動画を投稿する「喫播」と呼ばれる行為についても批判を展開しており、ライブ配信サイトは暴食や食べ残しを助長するアカウントを閉鎖する意向を明言している。 【8月16日 AFP】************************

 

どうでもいいことでしょうが、“アプリが体重と料理のカロリー量に基づき、選ぶ料理を勧めてくれる”というのが、どういう考え方で“勧めてくれる”のか、それがどのように食べ残しを減らすことと関連するのかよくわかりません。(別記事で、ネット上の具体的な批判を読みましたが、イマイチよくわかりません)

 

体重が軽い者には、少なめの量を勧めるのか、逆に、体重の重い者に肥満防止の観点から低カロリー料理を勧めるのか・・・後者であれば、発想としては悪くないようにも。「何を食べるかまで、いちいち口出しされたくない」という批判でしょうか。

 

「女性の体重はプライバシーです」といった批判もあるようで、「中国でもそういう感情があるのか・・」って変なところが面白かったり。

 

まあ、いずれにしても、冒頭にも書いたように個人的に大歓迎だということを別にしても、(経済はそういう浪費の上に成り立っているとは言いつつも)世界の食糧事情を考えれば食べ残しを減らそうということ自体は結構なことでしょう。

 

市民生活への公権力の介入の在り方については、そのやり方・考え方は、中国のような社会と日本では異なる点もあるでしょうが。

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ベラルーシ  政権移行を求める流れが加速 プーチン大統領に支持を強要するルカシェンコ大統領

2020-08-15 22:50:55 | 欧州情勢

(14日、ベラルーシ西部グロドノの国営化学企業で、勤務時間中に大統領選の結果に抗議する集会に参加した従業員ら【8月15日 共同】 政権の支持基盤であるはずの国営企業にも政権批判は拡大)

 

【拡大するルカシェンコ政権批判 国営企業にも】

8月10日ブログ“ベラルーシ大統領選挙 予定どおり現職圧勝の発表 広がる抗議行動 注目のロシアは勝利を「祝福」”でもとりあげた旧ソ連・ベラルーシのその後の状況。

 

大統領選挙において不正な手段で「圧勝」した(例えば、2,3割しかなかった得票を、8割あったことにするなどの捏造。あくまでも「例えば」の話ですが・・・。国際監視もなく、中央選管は政権の意のままですから何でも可能です)との疑いがもたれているルカシェンコ大統領への抗議・批判は着実に高まっています。

 

この抗議をどう切り抜けるのか、強権で鎮圧するのか、政権は耐えられるのか・・・「欧州最後の独裁者」の判断が注目されます。

 

****ベラルーシ、数千人が「人間の鎖」 選挙後の暴力に抗議****

ベラルーシで13日、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領が6選を果たした大統領選挙の結果や、選挙後に起きた警察による暴力的な取り締まりに抗議するデモが行われ、数千人が「人間の鎖」をつくった。

 

ベラルーシでは大統領選が行われた9日以降、4晩にわたり騒乱が続き、少なくとも2人が死亡、数百人が負傷したほか、7000人近くが拘束された。

 

隣国のロシアはデモについて、旧ソ連邦構成国であるベラルーシの不安定化を狙って国外で組織されたものだと主張。一方、欧州諸国は警察の暴力を批判するとともに、ルカシェンコ大統領に新たな制裁を科す構えを示している。

 

ベラルーシの首都ミンスクでは数千人が手をつなぎ、街頭を行進。多くは白い服を身にまとい、花や風船を手にしていた。現場の雰囲気はここ数日よりも平穏で、デモ隊が都心の通りを歩き、道路沿いに列をつくると、行き交う車が支持を表してクラクションを鳴らした。

 

地元メディアによると、ほかの国内6都市でも同じような人間の鎖がつくられた。一方で活動家らは、夜にさらなる抗議デモを行うよう呼び掛けている。

 

反政権派は、ルカシェンコ氏が大統領選で有力対立候補だったスベトラーナ・チハノフスカヤ氏に勝利するため不正行為におよんだと主張。チハノフスカヤ氏は選挙後、隣国リトアニアに逃れている。 【8月14日 AFP】

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ルカシェンコ大統領を厄介視していたロシア・プーチン大統領ですが、現段階では、隣国ベラルーシがウクライナの二の舞で崩壊して親欧米政権が誕生するような事態を警戒し、ルカシェンコ政権を支える姿勢のようです。

 

しかし、政権の批判は、不正選挙だけでなく、その後の抗議行動への弾圧にも高まっており、本来は政権の支持基盤であるはずの層にも拡大しています。

 

*****国営企業でスト拡大、ベラルーシ 大統領に反発****

9日のベラルーシ大統領選でルカシェンコ大統領が6選を果たしたのは不正の結果だとし、各地の国営企業で13日、ストライキなど、抗議デモへの治安機関の取り締まりに反発する動きが広がった。地元インターネットメディア「TUT・BY」などが報じた。

 

ルカシェンコ氏の支持基盤でも不信や不満が高まっていることが鮮明になった。

 

首都ミンスク郊外のジョジナ市にある大型車製造「ベルアズ」では、生産したバスがデモ鎮圧に使われるのに反対し、公正な選挙実施を求める数百人の従業員が職務を中断して集まり、企業幹部や市長と話し合った。【8月14日 共同】

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【スヴェトラーナ・チハノフスカヤ氏は隣国リトアニアに】

拘束されている夫の代理で出馬し、当選後、拘束中の野党候補者を含めて改めて再選挙するという一点に主張を絞り、実質的野党統一候補の形になったスヴェトラーナ・チハノフスカヤ氏は現在隣国リトアニアに脱出しています。

 

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(中略)主要対立候補だったスヴェトラーナ・チハノフスカヤ氏(37)も11日にリトアニアに脱出した。

 

チハノフスカヤ氏は脱出について、子どもたちのために「非常に難しい決断をした」と語る動画をYouTubeに公開している。

 

政治経験のないチハノフスカヤ氏は、今年5月に政権に批判的だったブロガーの夫が出馬を禁じられ、収監された後に出馬を決めた。

 

ルカシェンコ大統領にとってはここ数年で最も強力な対立候補となり、投票前には大規模な集会を開くまでに至った。

 

しかしルカシェンコ氏は、女性はベラルーシを統治できないと一蹴。チハノフスカヤ氏の支持者を、外国に操られた「ヒツジ」とやゆしていた。

 

チハノフスカヤ氏は、選挙での得票率が10%ほどとされた。その結果について不服を申し立てるため、10日に選挙管理委員会を訪れたところ、7時間にわたって拘束された。

 

その後、11日朝にはリトアニアに到着していた。

近親者によると、自陣の選挙運動責任者の解放と引き換えに、当局に付き添われて国外に出たという。

 

11日には、当局に拘束されていた10日に撮影されたとみられる動画が浮上した。その中でチハノフスカヤ氏は、支持者に「法律に従い」、抗議行動に加わらないよう求めるメッセージを、緊張した面持ちで読み上げた。【8月14日 BBC】

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【強まる欧米諸国の不正選挙・抗議行動弾圧への批判】

ルカシェンコ政権としては、素人の主婦に何ができる・・・と、高をくくっていたのでしょうが、想定外の事態進展に慌てているところでしょう。

 

抗議行動弾圧に関しては、「拷問」も報じられています。

 

****ベラルーシのデモ、警察による「拷問」の証言相次ぐ 大統領選への抗議は5日目****

大統領選挙の結果をめぐり抗議行動者と警官隊の衝突が起きている東欧ベラルーシで、拘束された市民に対する暴力の証拠が次々と上がっていると、人権擁護団体などが警告している。

 

投開票が行われた9日以降、これまでに約6700人が当局に拘束された。一部の人はすでに釈放されたものの、殴打を含む不当な扱いを受けた疑いが持ち上がっている。

 

人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは、証言からは「拷問がまん延している」ことがうかがえると指摘した。(中略)

 

「拷問部屋」

解放された抗議者がメッセージアプリ「Nextra」で共有した写真には、背中やでん部が腫れあがったりあざができている様子が写されている。警察当局の暴行によるものだとみられている。

 

アムネスティ・インターナショナルによると、拘束された人々は裸にされ、殴られたり、強姦すると脅されたりしたと証言しているという。

 

同団体の東欧・中央アジアディレクターを務めるマリー・ストラザーズ氏は、「拘束されていた人からは、収容センターが拷問部屋になっていたと聞かされた。抗議参加者は土の上に横たわるよう強制され、警官に蹴られたり警棒で殴られたりしたという」と話した。

 

BBCの取材班は、首都ミンスクにあるオクレスティナ収容センターから叫び声が上がっているのを録音している。

またAFP通信は国連の人権専門家5人からなる監視団の話として、機動隊は平和的抗議を強硬に取り締まり、過剰で不要かつ無差別な暴力を頻繁に使っていたと伝えている。

 

国連の人権専門家らは共同声明で、「ベラルーシ当局は抗議活動を速やかに解散させ、できるだけ多くの人を逮捕することにしか興味がないように思える」と述べている。(後略)【8月14日 BBC】

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ルカシェンコ政権の選挙不正疑惑、抗議行動弾圧に対し、EUなど欧米からの批判も強まっています。

 

****ベラルーシ、大統領退陣要求デモ拡大 反政権候補隣国へ****

アレクサンドル・ルカシェンコ大統領(65)が6選を確実にした旧ソ連ベラルーシの大統領選をめぐり、対抗馬だったスベトラナ・チハノフスカヤ候補(37)が隣国リトアニアに逃れたことが明らかになった。選挙の不正に抗議する反政権派は治安部隊と衝突し、1人が死亡。欧米はベラルーシへの批判を強めている。

 

(中略)リトアニアは他の欧州連合(EU)加盟国とともに、候補者の拘束やデモ弾圧をめぐってベラルーシ当局を強く批判しており、同氏を保護したとみられる。陣営は「我々は合法的な手段で我々の勝利を守る」とチハノフスカヤ氏本人が不在でも抗議を続ける構えだ。

 

反政権派は10日夕から再び全国一斉に抗議デモを開始。首都ミンスクでは群衆が通りを行進し、ルカシェンコ氏の退陣を要求した。(中略)

 

治安部隊は爆音を出す閃光(せんこう)弾やゴム弾などを発射。デモ隊は街頭のゴミ収集用コンテナなどを並べたバリケードや花火などで激しく抵抗した。内務省は、デモ参加者の1人が投げようとした爆発物が手元で爆発し死亡したと発表した。多数の負傷者が出たとみられる。

 

11日には「ゼネスト」を呼びかける反政権派の一部のメッセージがSNSを通じて拡散。抗議行動はさらに続く様相だ。

 

選挙戦では複数の有力候補が事前に逮捕され、期間中も反政権派の拘束が相次いだ。夫に代わって出馬したチハノフスカヤ氏が反政権派全体のシンボルになったのは、立候補を拒まれた他陣営が合流し、「不正な選挙のやり直し」に公約を絞ったからだ。

 

ジョンソン英首相は10日、「抗議弾圧は全く許すことができない」と発言。

EUは2016年に対ベラルーシ制裁を大幅緩和したが、議長国ドイツのマース外相は10日の会見で、「(制裁解除の)判断が今も有効なのか議論すべきだ」と復活の議論を求めた。ポンペオ米国務長官も同日、選挙の不公正さやデモ弾圧を厳しく非難した。

 

一方、ルカシェンコ氏が「選挙への介入」を批判したことから一時関係がギクシャクしたロシアのプーチン大統領は同氏の6選を祝福し、関係修復を印象づけた。欧米が反政権派の支援に動けば、再びロシアと欧米が旧ソ連国を間に緊張を高めることになりそうだ。

 

制裁の復活、EUが協議へ

(中略)1994年からルカシェンコ氏の強権体制が続くベラルーシに、EUは過去7年で1億7千万ユーロ(214億円)を支援。16年には政治犯釈放などを理由に大半の制裁を解除した。

 

背景にあったのは、14年の隣国ウクライナをめぐる危機だ。ロシアと欧米の対立が激化。その際、連合国家を組むロシアと一定の距離をとって欧州に接近を図ったベラルーシに対し、EU側から民主化を促す狙いだった。

 

しかし大統領選では、期日前投票で独立系監視員が数えた入場者数の1・5倍の投票者が報告されるなど不正の疑いが次々と浮上。対抗馬の女性候補スベトラナ・チハノフスカヤ氏への支持が広がったにもかかわらず、ルカシェンコ氏の得票が80%と発表され、抗議が一気に広がった。

 

反政権派は11日も各地で「ベラルーシ万歳」と叫ぶなど抗議行動を展開した。治安部隊催涙弾などで制圧を図り、国営ベルタ通信によると1千人以上が拘束された。3日間の拘束者は6千人を超えた。

 

抗議参加者1人を複数の警官が激しく殴打する映像がSNSで拡散。首都ミンスクでは警官隊が中心部を押さえ、抗議行動は住宅地など周辺地域に広がった模様だ。内外の報道陣も標的になっている。

 

同通信によると、ルカシェンコ氏は11日、「抗議しているのは前科者と通りをうろうろしている失業者だ」と話した。【8月14日 朝日】

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****EU臨時外相会合「ベラルーシ大統領選、公正ではない」…制裁へ****

欧州連合(EU)は14日、臨時の外相会合をテレビ会議形式で開き、旧ソ連構成国ベラルーシの大統領選挙は公正ではないとの認識で一致し、反政権派による抗議行動の鎮圧に携わる当局者らに制裁を科す方針を決めた。

 

(中略)EUの外相会合後に発表された声明では、「大統領選挙は自由でも公正でもない。結果は改ざんされたと考えている」などと指摘し、ベラルーシ政府に暴力的な鎮圧を停止することも求めた。【8月15日 読売】

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【「懐柔策」に転じた?ルカシェンコ政権 加速する政権移行を求める流れ】

こうした国内外の批判の高まりに危機感を持ったのか、ルカシェンコ政権も「懐柔策」に変化したような動きも。

 

****ベラルーシ、抗議デモで拘束の1000人超を釈放****

ベラルーシ当局は13日夜、大統領選の不正疑惑をめぐる一連の抗議デモで身柄を拘束したデモ参加者のうち、1000人以上を釈放した。ナタリア・コチャノワ上院議長が明らかにした。アレクサンドル・ルカシェンコ大統領が拘束の経緯について調査を命じたという。

 

これに先立ち、同国各地ではこの日、多くの市民が「人間の鎖」をつくり、大統領選の結果と警察の暴力的なデモ取り締まりに抗議していた。また、欧州連合は警察の暴力を問題視し、対ベラルーシ制裁に関する会合を14日に予定している。

 

首都ミンスク中心部では、通りに繰り出した群衆が手に花や点灯した携帯電話を掲げ、クラクションで支援を表明する車が通ると歓声を上げた。

 

内務省によると、9日以降のデモに絡む逮捕者は約6700人に上る。ユーリー・カラエフ内相は国営テレビを通じ、「たまたまデモに巻き込まれた人々が負傷したことについて、謝罪する」と述べた。 【8月14日 AFP】AFPBB News

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こうした「調査命令」「謝罪」がどれほど本気のものとして国民に受け入れられるか・・・非常に疑問です。

政権移行を目指す反ルカシェンコの流れは加速しているようにも見えます。

 

****ベラルーシで「救国戦線」結成 反体制派が政権奪取へ宣言****

9日のベラルーシ大統領選で立候補を却下された反体制派の元外交官ツェプカロ氏は12日、6選を決めたルカシェンコ大統領から政権を実力で奪取することを目的とした「救国戦線」の結成を宣言した。タス通信が報じた。

 

反政権の有力な動きに発展するかどうかは不明。ツェプカロ氏は逮捕を避けるために国外に滞在している。(後略)【8月13日 共同】

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****ベラルーシ、反体制派創設へ 政権移行目指し調整協議会****

9日のベラルーシ大統領選でルカシェンコ大統領が6選を決めた結果を認めないとしている2位の女性候補チハノフスカヤ氏は14日、法秩序回復のための緊急措置が必要だとして政権移行を目指す調整協議会を創設すると発表した。また政権側との対話に向け欧州諸国など国際社会に支援を求めた。

 

隣国リトアニアに滞在するチハノフスカヤ氏は「政権と対話する用意がある」と表明。調整協議会のメンバーにはベラルーシの市民団体代表や著名人、専門家が加わるとした。ルカシェンコ氏が対話に応じるかどうかは不明だ。【8月15日 共同】

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【“ドロ船”に乗った?ロシア 支持を求めてプーチン大統領を脅迫するルカシェンコ大統領】

こうしたなかで注目されるのがロシアの動き。

 

選挙前はロシアの選挙介入を警戒するルカシェンコ政権とロシアは傭兵拘束問題が起きるほどにギクシャクしていましたが、一応その問題は手打ちがなされています・

 

****ベラルーシ、拘束のロシア人傭兵32人を本国に送還****

ロシア検察当局は14日、ベラルーシで9日に行われた大統領選の前に情勢不安定化を画策したとして同国の当局に拘束されていたロシア人傭兵(ようへい)32人の身柄が引き渡されたと発表した。(中略)

 

ベラルーシ国家保安委員会(KGB)は、33人は民間軍事会社ワグネルの傭兵だと説明。ある高官は、テロ行為を準備していた疑いがあると述べたが、ベラルーシ政府はその後、説明を改め、大規模騒乱を画策していた容疑で刑事罰に問うとし、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領の反対派で、拘束されたベラルーシ人と行動を共にしていたとの見方を示していた。

 

ロシアはベラルーシの大統領選への介入を否定しているが、33人が拘束されたことを厳しく非難することはせず、彼らに落ち度はないと述べるにとどまっていた。(後略)【8月15日 AFP】

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ロシア人傭兵が何をしていたのか・・・定かではありませんが、こうした問題が起きたこと自体、ルカシェンコ政権とロシア・プーチン政権の確執を示しています。

 

ただ、ロシアはウクライナの二の舞を避けるため、結局ルカシェンコ支持に回っています。

プーチン大統領のこの判断が正しかったかどうか・・・

 

****ベラルーシ、ロシア首脳が会談=大統領選後の抗議拡大受け****

旧ソ連構成国ベラルーシの国営通信社ベルタによると、同国のルカシェンコ大統領は15日、大統領選の結果を受けて抗議デモが続いていることをめぐり、ロシアのプーチン大統領と電話で協議した。欧州などが選挙不正を指摘する中、ロシアが介入すれば、情勢がさらに緊迫する可能性がある。

 

ルカシェンコ氏は電話に先立ち、政府会議で「プーチン氏と話し合うために連絡を取る必要がある。(抗議デモは)ベラルーシだけの脅威ではない」と主張。ベラルーシが持ちこたえられなければ、混乱はロシアに波及すると警告した。【8月15日 時事】

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追い詰められたルカシェンコ大統領が、これまで確執もあったプーチン大統領を“脅迫”するように、一層の支持を迫る・・・という興味深い展開です。

 

いささか“ドロ船”に乗ったというか、流れに巻き込まれたような感もあるロシアですが、ルカシェンコ氏を排してベラルーシ国民の民意にゆだねるという選択ができなかった、強権支配のルカシェンコ氏に「安定」を託したところが、自国における民主主義が未熟なロシアの限界でしょう。

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アメリカ マスク狂騒曲 「米国人としての責任だ」VS「米国人には自由が必要だ」

2020-08-14 18:45:28 | アメリカ

(12日、米デラウェア州でともに黒いマスクを着用して登場したバイデン前米副大統領(左)とハリス上院議員【8月14日 朝日】)

 

【実際のコロナ死者20万人超? それでもマスクを拒否する人々】

全世界の新型コロナ感染者2060万人の中で最多はアメリカの526万人ですが、そのアメリカは直近の1日の新規感染者数で約5万人、死者累計で16.7万人、1日あたりで千人を超えています。

 

アメリカに限らず、混乱がひどい多くの国でみられる現象ですが、「超過死亡」で推測すると実際の死者数は公式の統計数字よりさらに多いのではとの指摘もあります。

 

****米、実際のコロナ死者20万人超か=集計より6万人多く―報道****

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は13日、疾病対策センター(CDC)のデータに基づく分析として、新型コロナウイルスに関連する3月以降の米国の死者数が少なくとも20万人を超えている可能性があると推計した。新型コロナ感染に直接起因する死者数より約6万人多いという。(後略)【8月14日 時事】 

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どっちにしても、日本だったらどれほどのパニックになるのか・・・という状況ですが、大騒ぎしつつも平常の生活が続くアメリカと日本のメンタリティの違いは非常に興味深いところです。(おそらく、このあたりの分析が本来は一番面白いところでしょう)

 

アメリカにとってやや救いとなるのは、新規感染者数が7月後半には多いときは7万人を超えるレベルだったのが、最近は5万人前後にまで「減少」してきていることでしょう。

ある程度減少したら、おそらくトランプ大統領は「自分の政策の成果だ!」と誇るのでしょうが・・・。

 

感染拡大防止に効果的とされるのがマスクの着用ですが、アメリカではトランプ大統領はじめとして、マスク着用を忌避する風潮があるのは周知のところです。

 

マスクの効果に関しては、ウイルスを吸い込まないという意味での直接の予防効果は、(両脇から空気が漏れるような)一般的なマスクにはほとんど期待できないと思いますが、感染者を含めて全員がマスクをすることで、飛沫の拡散が抑制され、結果的に感染者以外の感染予防に効果ある・・・と、個人的には理解しています。

 

ですから、誰もいないところでのマスク着用など、日本の過剰な「マスク信仰」みたいなものには、ややついていけないような感じもありますが、何よりいわゆる「同調圧力」みたいな社会の雰囲気に息苦しさを感じます。

 

一方で、アメリカのマスク嫌いも・・・何考えてるんだか・・・という感じ。

マスク着用を拒否することが、生活スタイルの象徴にもなっているようです。

 

****遊園地でマスク着用促した17歳従業員、男女に顔面殴られ大けが 米****

米ペンシルベニア州の遊園地で、入場者にマスク着用を促した17歳の従業員が顔面を殴られて負傷する事件があった。

 

ミドルタウン・タウンシップ警察によると、フィラデルフィア郊外にある子ども用テーマパークのセサミ・プレイスで9日、17歳の従業員が、女1人と男1人から顔面を激しく殴られる暴行を受けた。

 

CNN系列局のWPVIによると、この2人に対して従業員が最初にマスク着用を促した時点では抵抗はされなかったが、2度目に促した際に暴行された。

 

同パークは7月下旬、公共の場でのマスク着用を義務付けたうえで、営業を再開した。ウェブサイトでも、マスク着用規定に従わない場合はパークへの入場や滞在を禁止すると通告していた。(後略)【8月13日 CNN】

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マスク未着用のバイク愛好家の数十万人規模のイベントも。

 

****コロナの懸念よそに世界最大級のバイクイベント、米スタージス****

米国の新型コロナウイルスの感染者数が500万人を超えた中、米サウスダコタ州の小さな町スタージスで先週末から世界最大規模といわれるバイク愛好家のイベントが行われている。

 

10日間の日程で行われるこのイベントには毎年数十万人のバイク愛好家が訪れ、酒を飲み交わしたりパーティーに参加したりと交流の場になっている。しかし今年は、地元住民の間で新型コロナウイルスの感染が拡散する懸念が広がっている。

 

サウスダコタ州政府の保健当局によれば、今のところ開催地スタージスが位置するミード郡では新型コロナウイルス感染症による死者は1人しか出ていない。しかしイベントにはこの病気のパンデミック(世界的な大流行)に苦しむ遠くの他州からの訪問客もいる。

 

サウスダコタ州は、これまでロックダウン(都市封鎖)やマスク着用の指示が出されなかった米国で数少ない州の一つ。スタージスのイベントでは参加者へのマスク着用が推奨されているが、義務ではないため、マスクを着けている人はほぼいない。

 

町の主要道路はバイクで埋め尽くされ、バーはイベント参加者で混雑している。ソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)が実行されているところはほとんど見当たらない。80回目となる今年のイベントに訪れた人はすでに、スタージスの居住者人口(約6000人)を大きく上回っている。

 

スタージスにとってこのイベントの経済効果は非常に大きく、9日は業者らがこの機会を最大限に生かそうとしていた。

 

地元住民の一部から懸念が上がる一方で、ドナルド・トランプ大統領の熱烈な支持者であるクリスティ・ノーム知事(共和党)は、「偉大なわが州が提供するものを訪問客が見てくれるのを私たちは楽しみにしている」とツイッターに投稿し、訪問者を暖かく迎えた。 【8月10日 AFP】

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【アメリカ社会分断を鮮明に示すマスク着用義務化是非】

アメリカが、トランプ支持と反トランプに代表されるように、社会における「分断」が顕著になって、対立が先鋭化しているのは周知のところですが、マスク着用への対応、特に「義務化」についても、この「分断」のひとつの側面となっています。

 

****(2020米大統領選 分極社会)マスク義務化、対立の火種****

 7月初め、米南部ノースカロライナ州シャーロット中心部の街頭で、自動車セールスマンのマルコ・アマヤさん(25)と妻のジャネスさん(24)が拡声機を使って叫んでいた。

「我々は、政府の奴隷ではない。違法なマスク着用義務で息ができない」

 

同州のクーパー知事(民主党)は新型コロナウイルスの感染再拡大に伴って6月末、飲食店や公共交通機関でのマスク着用を義務化する知事令を出した。2人は、白人警官に首を押さえられて亡くなった黒人男性の最後の言葉「息ができない」にひっかけながら、マスク着用義務への反対運動を続けている。

 

「奴隷だなんて、何を言っている。(知事ではなく)トランプ(大統領)を追及しろ」

星条旗柄のマスクを着けた、通りかかった男性がマルコさんに怒鳴った。

 

マルコさんは「我々は政府の持ち物ではない。我々には(武器所持の権利を認めた)憲法修正2条がある」と反撃する。マルコさんの腰には拳銃がぶら下げられている。

 

抗議活動は州都ローリーでも続く。外出制限に反対し、経済再開を求めて作られた団体「リオープンNC」のメンバーは8万人超。7月、マスク着用義務化への反対や知事の弾劾(だんがい)を求める請願を議会に提出した。

 

創設者の1人アシュリー・スミスさん(33)は「ウイルスより暴政のパンデミックこそ、我々の生活を脅かすものだ」と訴える。コロナ危機自体に懐疑的だ。「死者数が水増しされているという多くの証拠がある。検査も不正確。偽情報ばかりだ」

 

同州では知事と副知事が別々に選ばれ、フォレスト副知事(共和党)はマスク着用の義務化に反発。11月の大統領選と同時に行われる知事選にも立候補しており、コロナ対策の是非が争点となる。

     ◇

新型コロナの感染者が約500万人確認された米国では、ウイルスをめぐる認識や対策も政治的な争点となっている。背景には、科学と政治をめぐる長年の対立構図も指摘されている。【8月10日 朝日】

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【「懐疑派にとって、科学を疑うことは信条に近い」】

マスク着用義務化への反発は、アメリカ特有の「銃所持」にもみられる極端なまでの「自由」の主張の側面と同時に、温暖化議論でもみられたような一般的な「科学的見解」への反発という側面もうかがえます。

 

****(2020米大統領選 分極社会)不都合な科学、拒絶の動き 対コロナの最前線、脅迫メール****

(中略)収束の兆しも見えないなか、保健当局への脅迫と抗議運動は各地で続く。職員が自宅で集団から抗議を受ける様子もSNSに投稿されている。

 

全米郡市保健当局協会(NACCHO)によると、6月上旬の時点で、地方の保健当局トップが辞職に追い込まれるなどした例が少なくとも27件ある。ロリ・フリーマン最高経営責任者(CEO)は「科学でさえ、政治化してしまった」と頭を抱える。

    □   □

科学が政治的な対立点となって社会の分断を招くことは、米国でこれまでもあった。共和・民主の二大政党の対立が進むことも影響している。

 

典型は、地球温暖化をめぐる議論だ。民主党は対策に積極的だが、共和党では懐疑的な意見が幅をきかせ、「人の活動が温暖化につながっている」かどうかも政治的な対立点だ。4年前の大統領選では、トランプ大統領が国際的な温暖化対策パリ協定からの離脱を公約として掲げ、17年に離脱を表明した。

 

環境学者で、科学に対する懐疑主義の研究をするダナ・ヌッチテリさんによると、科学への懐疑論は次のような5段階を経て進行する。

 

まずは、「地球温暖化はない」などと、否定から始まる。次に「中国の方が温室効果ガスの排出が多い」などの責任転嫁が始まる。

 

しかし、これでは問題が解決せず、「気候はいつか戻る」という矮小(わいしょう)化につながる。危機が認識されても「温暖化対策には巨額の増税が必要だ」などと、代償が大きすぎるという批判が起き、最終的には「すでに対策は手遅れだ」という悲観論に行き着く。

 

「否定」→「責任転嫁」→「矮小化」→「対策の代償の批判」→「手遅れの悲観論」という進行は、新型コロナをめぐっても起きているが、地球温暖化などと比べるとスピードがはるかに速い。「以前は何年もかけて広がった懐疑論が、数カ月で起きている」とヌッチテリさんは話す。

 

地球温暖化やオゾン層の破壊、たばこの健康被害など、従来の科学論争では、関連する産業界が資金力を活用して影響力を与えてきた。新型コロナでは、産業界の動きは目立たないが、保守系の政治家や団体が引き続き懐疑論を主導している。

 

ヌッチテリさんは「米国では全てが政治化している。右と左の対立の中で、市民はどちらかを選ばざるをえない」と指摘し、過去の対立の延長線上に新型コロナがある、とみる。

 

トランプ氏も、新型コロナについて当初は楽観論を語り、感染が深刻になってからもマスクをめったに着けていない。

 

その一方、効果が未知数の治療薬を何度も取り上げ、徹底した対策を求める政権の対策チームの専門家については「たくさんの間違いを犯した」と批判を展開している。

    □   □

科学や専門家を疑う動きは保守系メディアなどにも広がる。FOXニュースのコメンテーターは「選挙で選ばれていない専門家にこの国の未来を任せていいのか」と主張。下院保守強硬派の議員は、接触者追跡について「全米国人を監視する口実にすることが目的だ」と反対する。

 

科学者にも、「事実が伝わらない」という危機感が募る。ヘルスコミュニケーションが専門のビシュ・ビスワナス・ハーバード大教授は「懐疑派にとって、科学を疑うことは信条に近い。特に科学が日々進展する中では、政治的イデオロギーのフィルターを通してとらえられる」と話す。

 

だが、科学的データに基づいて対策が取られるかは、人命に直結する。「党派対立でお互いを責め立てても、機能しない。科学者は事実を積み上げ続けるしかないが、政治の指導力も求められる」とビスワナス氏は語る。【同上】

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【「米国人としての責任だ」と訴えるバイデン氏に対し、「米国人には自由が必要だ」と応戦するトランプ大統領】

こうした「懐疑派にとって、科学を疑うことは信条に近い。政治的イデオロギーのフィルターを通してとらえられる」という状況にあって、大統領選挙におけるトランプ・バイデン両候補のスタンスの違いから、マスク着用の是非が政治的踏み絵に近いものにもなりそうな雰囲気です。

 

****米大統領選、バイデン氏が全州知事にマスク着用義務化呼びかけ****

11月の米大統領選で野党民主党の大統領候補指名が確定したバイデン前副大統領は13日、全州の知事に対し、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するためマスク着用を義務化するよう呼びかけた。米国では、新型コロナで16万5000人以上が死亡、感染者は520万人以上に達している。(中略)

同氏は、「今後3カ月間、屋外ではすべての米国人がマスクを着用すべきであり、全州知事がマスク着用を義務付けるべきだ」と述べ、先にマスク着用の呼びかけが遅れたことで無用な死者を出したと指摘した。

トランプ大統領が長期間にわたり公共の場でのマスク着用を拒否したことから、マスクは政治的な象徴となり、共和党選出の当局者や一部のトランプ氏支持派が着用を拒否するなど、全米で火種となっている。

公衆衛生当局者らは、公共の場でのマスク着用は感染拡大の抑制につながるとの見解で一致している。【8月14日 ロイター】

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外出時のマスク着用を義務付けるよう呼び掛け、「米国人としての責任だ」と訴えるバイデン氏に対し、「米国人には自由が必要だ」と応戦するトランプ大統領。

 

****大統領選、マスク義務化で論戦 積極的なバイデン氏に「非科学的」とトランプ氏****

11月の米大統領選で野党・民主党の候補指名を固めているジョー・バイデン前副大統領(77)は13日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため「すべての米国民が今後少なくとも3カ月間、屋外ではマスクを着用すべきだ」と述べ、全国の州知事に着用義務化の実現を呼びかけた。

 

再選を目指す共和党のドナルド・トランプ大統領(74)は「バイデン氏の考え方は後ろ向きで非科学的。我が政権は違うアプローチを取る」と批判した。

 

バイデン氏は地元、東部デラウェア州で演説し、専門家の試算に基づいて、3カ月間のマスク着用を義務づければ「4万人の命が救われる」と説明。「着用することで同胞を守ってもらいたい。正しいことをしよう」と述べた。

 

これに対しトランプ氏はホワイトハウスでの記者会見で「着用は愛国的な行為だ」と述べる一方、「州によって置かれた状況や環境が違う」と述べ、一律義務化には反対の意向を表明した。

 

そのうえで「大統領が国民一人一人に顔を覆うように命令する力を持つのなら、他にどんな権力を行使するのか」とバイデン氏を批判した。

 

現在、米国では35州や自治体レベルで「公共の場」や「ソーシャルディスタンスが確保できない空間」でのマスク着用が義務づけられている。

 

バイデン氏は今春に国内での感染が拡大した直後から、国民にマスク着用を呼びかけている。トランプ氏は「着用による悪影響もある」などと主張。7月に方針転換するまで、専門家からの着用奨励の要請を拒否してきた。

 

米国内の感染者数は13日現在、約525万人で、死者は16万7000人に達している。【8月14日 毎日】

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トランプ大統領の考える科学的なもの・・・オルタナティブ・ファクトでしょう。

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ボリビア 昨年の政変・モラレス前大統領亡命から続く混乱 大統領選挙再延期で混乱拡大

2020-08-13 23:15:11 | ラテンアメリカ

(ボリビア・エルアルトで、総選挙延期に抗議するデモに参加するエボ・モラレス前大統領の支持者(2020年8月10日撮影)【8月13日 AFP】 ずいぶん物騒なものを手にしていますが、顔が赤く見えるのはマスクのせいです。)

 

【昨年10月の大統領選挙の不正疑惑・混乱で国を追われたモラレス前大統領 海外から支持者を鼓舞】

気にかける人も少ないとは思いますが、南米・ボリビアの話。

 

ボリビアでは昨年10月に行われた大統領選挙で、現職モラレス氏側に不正があったとして国内外で批判が高まり、モラレス氏はメキシコに亡命することになりました。

 

****ボリビア  クーデターか民意の反映か****

南米ボリビア大統領選挙では、事実上、憲法の再選規定を破って4選を目指して出馬を強行した左派モラレス大統領と野党候補の争いとなり、開票率約83%段階の選管当局の集計速報によると、得票率はモラレス氏が約45%、メサ氏が約38%と、その差が10ポイント未満で決選投票が行われると見られていました。

 

しかし、その後その後集計速報が止まり、21日夜に再開するとモラレス氏がリードを10ポイント超に広げており、決戦投票なしでモラレス氏が当選した・・・との結果発表が。

 

さすがにこれでは野党候補側が納得するはずもなく、国際社会も集計発表が中断した24時間に何が起きたのか説明を求めていました。

 

その後は、国内外の批判に加え、軍・警察からも辞任を迫られる形で、結局、モラレス氏は辞任を発表、更に「生命の危機にさらされている」としてメキシコに亡命することに。【2019年11月12日ブログより再掲】

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モラレス前大統領はいわゆる左派系で、2006年に初当選。コカ栽培農家出身で、ボリビア初の先住民出身の大統領。

貧困問題に向き合い、ボリビア経済を改善したと、支持者からは高い評価を得ていました。

 

モラレス前大統領が亡命したのちは、副大統領・上院議長・下院議長も全員辞任したため、憲法が定める規定に従って、反モラレス派女性議員のアニェス上院副議長が暫定大統領に就任したと表明しています。(モラレス派が多数を占める議会は承認していません)

 

その後も、モラレス前大統領支持者と治安部隊の衝突が続き、国内情勢は不安定です。

モラレス前大統領も昨年12月、アルゼンチンに移ったのち、ツイッターで「貧しい人々のため、そして祖国を団結させるため戦い続ける。私は強く、活気にあふれている」と、復活を目指す構えです。

 

【前大統領と近い中国、暫定大統領を支持するアメリカ】

国際的にみると、前大統領を支持してきた中国と、“裏庭”南米での左翼政権を嫌うアメリカの確執もあります。

また、ボリビアの地下には大量のリチウムが存在し、中国・アメリカともにこの資源に関心があるとも。

(ボリビアのリチウムについては、1月1日ブログ“南米ボリビア 膨大な将来的需要が見込まれるリチウム 先のクーデター・モラレス追放にも影響?”)

 

モラレス前大統領は、自身が追われた昨年の政変を「米国の政治・経済的圧力によって引き起こされたクーデター」とし、トランプ政権の陰謀説を主張しています。

 

昨年10月の選挙で、実際に不正があったのかどうかについては、よくわからないところも。

 

やり直し選挙がコロナ禍で延期になったことにも、前大統領派は抗議行動を強めています。

 

****南米ボリビアでも米中覇権争い激化へ****

(中略)

■ 前政権下で中国の影響力増大

こうしたボリビア国情の変化が、同国を舞台とする米中の“覇権争い”に反映される。

 

モラレス前政権は反米左翼路線を進め、駐ボリビア米国大使を国外追放、米国との関係が悪化。中国はそこに乗じる形でボリビアとの関係を強化。モラレス前政権との間で経済技術協力協定を結び、積極的に経済支援を行い、ボリビアのインフラ開発・整備には大量の資金を提供した。

 

2018年には両国の戦略的パートナーシップ確立と「一帯一路」へのボリビアの協力をうたった共同声明が発表された。

 

中国の支援の背景にはボリビアの豊富な鉱物資源獲得という狙いがあったというのが、多くの中南米専門家の一致した見方だ。特にリチウムはボリビアが世界有数の埋蔵量を保有しており、中国にとって同国支援の大きな要因になったことは想像に難くない。

 

■ トランプ政権は“反転攻勢”へ

一方、米国は「裏庭」ともいえる南米の一角に中国の影響力が増大することに神経をとがらせる。トランプ政権は昨秋のボリビア政変を“反転攻勢”への好機と捉えたようだ。

 

トランプ大統領は、モラレス氏失脚後にボリビアで発足した保守系右派のアニェス暫定政権を「平和的かつ民主的な政権移行を目指している」とし、支持する方針を表明した。

 

ボリビアの外交政策は暫定政権の発足後に急転回。対米関係が大幅改善に向かう一方、キューバとの外交関係停止、在イランおよびニカラグアのボリビア大使館の閉鎖が相次いで発表された。

 

在ボリビア外交筋は「トランプ政権がボリビア暫定政権に対し支援の約束と引き換えに、対キューバ関係断絶などを求めた可能性が十分」と語る。

 

現在、アルゼンチンに亡命中のモラレス前大統領は昨年の母国の政変に関し、「米国の政治・経済的圧力によって引き起こされたクーデター」とし、トランプ政権の陰謀説を主張している。

 

ニューヨーク・タイムズ紙は先ごろ、モラレス前大統領失脚の引き金となった米州機構(OAS)監視団の「選挙不正」発表では、欠陥データが使われたとの専門家の見解を紹介した。

 

この報道を受け中南米の専門家の間では「OASが米国主導の国際機関であることを考えれば、昨年のボリビア大統領選でモラレス氏が不正を行ったというOASの見解は信頼性に疑いがあり、同氏失脚の背後で米国が動いた可能性は否定できない」(ペルー・カトリカ大政治学者)との声も聞かれる。

 

■ やり直し選挙に向け緊張増す

ボリビアでは、昨秋の大統領選のやり直し選挙が当初、5月に予定されていたが、新型コロナウイルスの影響で延期となった。

 

やり直し大統領選の実施時期に関しアニェス暫定大統領とモラレス前大統領派の政党「社会主義運動」(MAS)などとの間で対立が先鋭化。

 

同暫定大統領は「新型コロナ禍で選挙を実施することは国民の生命と健康を危険にさらす」と、早期実施に反対。これに対しMASは「アニェス氏は新型コロナを口実に権力維持を画策している」とし、各地で反政府抗議行動を展開、政情不安がさらに増した。

 

最近ようやく9月6日の実施が決まった。次期大統領選にはアニェス暫定大統領やMASのアルセ前経済相らが出馬する予定。

 

現地メディアの情報によれば、アニェス氏が米国の強い後押しを受ける一方、対抗馬となるアルセ氏には中国がさまざまな支援を与えるのは確実だという。米中対立激化も絡んでボリビア政局の行方は一段と注目されそうだ。【7月2日 山崎真二氏 Japan In-deoth】

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【コロナ禍で大統領選挙は再延期 反発を強める前大統領支持者】

いったんは9月6日の実施が決まった次期大統領選ですが、コロナ禍もあってさらに10月に延期されています。

 

****大統領選挙期日を10月18日に変更、モラレス前大統領は反発****

ボリビアの最高選挙裁判所(TSE)は7月23日のプレスリリースで、9月6日に開催を予定していた大統領選挙を10月18日に変更すると発表した。

 

また、同日にいずれの候補者も当選を確定(51%の得票率の確保。または、同40%以上で2位と10ポイント以上の差の確保)しなかった場合は、11月29日に決選投票を行い、就任は12月に行われるとした。

 

TSEは、2つの理由から今回の変更を決定した。1つは新型コロナウイルスの感染状況の分析だ。国内外の専門家の見解を考慮した結果、感染ピークが7月末から9月初旬になるとの見通しだったため、ピーク後の感染下降時の開催が望ましいとしている。

 

2つ目は2020年以内に新政権の樹立を達成しなければならないという憲法上の義務だ。(中略)

 

新型コロナウイルス感染を7月9日に発表して以降、自宅隔離状態にあるジャニネ・アニェス暫定大統領は、自身のツイッターでTSEの決断に従うことを表明。

 

一方、エボ・モラレス前大統領は、選挙の延期は現暫定政権によってもたらされた感染拡大と経済危機を助長するだけだと批難声明をツイッターで発表した。【7月27日 JETRO】

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新型コロナウイルス感染で自宅隔離状態にあったアニェス暫定大統領は仕事へ復帰しています。

 

支持率では優位にあるとされているモラレス前大統領支持者は、この大統領選挙再延期に強く反発し、実力行使を強めています。

 

****モラレス前大統領支持者ら、総選挙再延期に抗議 ボリビア****

ボリビアで、武装した抗議デモ参加者による道路封鎖が10日目に入った。当局は、これにより新型コロナウイルスの感染拡大対策に必要な医療物資が病院に届けられなくなっているとして、デモ隊を非難している。

 

ハビエル・イッサ内務副大臣は12日、国外に逃亡したエボ・モラレス前大統領の支持者らが、ボリビアの政府機関9機関の至るところにバリケード142個を設置したと述べた。

 

デモ参加者の大部分は先住民族と農家で、総選挙が再び延期されたことに怒りの声を挙げている。選挙は当初5月に行われる予定だったが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を受け、9月6日に延期されていた。

 

最高選挙裁判所は今回、総選挙をさらに10月18日に延期。アルゼンチンに亡命中のモラレス氏によりあおられたデモ隊は、これを9月に戻すよう要求している。

 

モラレス氏の支持者らは、総選挙の延期はモラレス氏が党首を務めた政党「社会主義運動」から立候補したルイス・アルセ氏が、大統領になることを妨げるのが目的だと主張している。

 

アルセ氏は、今年1月にMASの候補に指名されて以降、世論調査で常に支持率トップを維持している。 【8月13日 AFP】

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【路上や民家に多くの遺体?】

ボリビアを含めた南米は、現在コロナ感染の中心地となっていますが、ボリビアについては、昨日の新規感染者が1743人と高止まり状態で、累計では95071人。死者は昨日66人増加して3827人となっています。

(人口が1135万人と日本の十分の一以下であることを勘案すれば、かなり高い水準にあります)

 

****遺体400体超、路上などから収容 85%がコロナ感染 ボリビア****

南米ボリビアの警察当局は21日、路上や民家から5日間で400人超の遺体を収容したと発表した。遺体の85%は新型コロナウイルスに感染していたとみられる。

 

国家警察のコロネル・イバン・ロハス長官は報道陣に対し、今月15〜20日にコチャバンバ都市圏だけで、計191人の遺体が収容されたと説明。政府所在地ラパスでも、141人の遺体が収容されたという。

 

さらに同国最大の都市サンタクルスでは、当局が68人の遺体を収容。サンタクルスの都市圏は同国で最も新型ウイルスの被害が大きく、国内で確認された6万人を超える感染者のうち、半数近くを占めている。

 

ロハス長官は、遺体の約85%が「新型コロナウイルス感染症の検査で陽性、または症状を示していたため、感染疑い例として記録される」と説明。残りの遺体については「病気や暴力沙汰など、他の原因」で死亡したという。

 

同国の防疫当局によると、コチャバンバとラパス西部では新型ウイルスの感染者数が「著しく急増している」という。

 

法医学検査所のアンドレス・フロレス所長によると、4月1日〜7月19日に病院施設外で収容された遺体3000体超で、新型コロナウイルス感染が確認された、あるいはその疑いがあった。

 

人口1100万人を有するボリビアでは、同感染症によりこれまでに2200人超の死亡が確認されている。 【7月25日 AFP】

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コロナにせよ、コロナ以外にせよ、“路上や民家から5日間で400人超の遺体を収容”というのは・・・・なかなか日本では想像しがたい状況です。

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新型コロナ対応もカネ次第  国内経済格差の拡大、国際的ワクチン争奪戦

2020-08-12 20:52:24 | 疾病・保健衛生

(アメリカ東部の高級リゾート、ロードアイランド州ニューポートに停泊するクルーザー、何十億円でしょうか。今コロナ禍で飛ぶように売れているとか。【8月12日 NHKより】)

 

【コロナ禍で金持ちは、より金持ちに、貧乏人は・・・】

今更言うまでもないことですし、これまでもブログでしばしば取り上げてきたように、新型コロナは決してすべての人に等しく降りかかっているわけではありません。

 

富裕層は何十億円もするクルーザーを購入したり、地下シェルターに避難することも可能ですが、貧乏人はコロナ感染の危険を承知で働き続ける必要があります。

 

そこまでの富裕層ではないにしても、「自粛」「テレワーク」云々は、ある意味、それが可能な一定レベルの階層の価値観であり、貧困層のものではありません。

 

さらに、コロナ禍による経済不況は、そうした貧乏人の働く職種を直撃して失業に追い込むことにもなり、富裕層との格差はさらに拡大していきます。

 

****飛ぶように売れる豪華クルーザー ~コロナが映し出す格差****

今、何十億円もするクルーザーが売れているという。新型コロナウイルスの感染拡大によって過去最悪の景気悪化に苦しむアメリカの話しだ。

「新型コロナはすべての人に等しく降りかかっているわけではない。所得の低いサービス業で働く人たちにより重くのしかかっている」

FRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長は、コロナ禍をきっかけにした経済格差の拡大に強い警鐘を鳴らす。感染者が世界で最も多い500万人に上るアメリカで、いま何が起きているのか、取材した。

 

売れ筋は60億円

 夏の旅行シーズンを迎えるアメリカ。東部のロードアイランド州に、海に囲まれたニューポートという高級リゾート地がある。黒船で日本に来航したペリーの出身地としても知られる。

取材に訪れて真っ先に目に飛び込んできたのが、停泊中の100隻を超えるクルーザー。この地でクルーザーのディーラーをしているマーク・エリオットさんは上機嫌だ。


「飛ぶように売れていますよ」

新型コロナウイルスの影響で3月は売り上げが減少したが、6月の売り上げはそこから20%上昇したという。

 

売れ筋の価格帯は実に10億円から60億円。驚くばかりだが、顧客はヘッジファンドや不動産会社のオーナー、大企業の経営者など。売れている理由は「安全な場所だから」とのことだ。

旅客機や大型船と違って、家族など少ないグループで利用できる利点がある。

 

最近売れたというクルーザーを見せてもらった。6室のベットルーム付きで75億円。高性能の空気清浄機も複数完備されているという。中を見たいと頼んだが、清潔さを保つため他人を入れるのは無理だと断られた。

アメリカでは、コロナをきっかけにプライベートジェットのリースや販売も好調だという話も聞いた。そこには確実に“別世界”が存在した。

 

金持ちは、より金持ちに

エリオットさん「私のビジネスは株式市場に直結している」

 

超高額品が売れる背景にあるのは、株高だ。3月に1万8000ドル台まで暴落したダウ平均株価は、4月からみるみる上昇。過去最悪の経済打撃(4~6月GDP ー32%)や感染の再拡大に苦しむ実体経済をよそに、コロナ前の9割の水準となる2万7000ドル台まで値を戻している(8月11日の終値)。

 

300兆円にのぼる緊急の経済対策とFRBの大規模な金融緩和策が要因だ。異例の政策は失業者や中小企業を支えた。ただそれ以上に、より多くの株や信用力を持つ者が得をする。そんな世界をつくったのかもしれない。

パウエル議長が警鐘を鳴らす理由も、そこにあるだろう。

ブルームバーグ通信が発表するビリオネア指数という指標では、世界の総資産の上位10人中、8人がアメリカ人だ。アマゾンのベゾスCEOやフェイスブックのザッカーバーグCEOらが名を連ねる。

このうち7人の8月時点の総資産はことし初めよりも増加している。増加額は合わせて18兆円。金持ちは、より金持ちになっている。

 

失業が格差を助長する

 コウリープリンスさん 「突然、メールで解雇を通知されました」

 

東部メリーランド州のボルティモアに暮らすモーガン・コウリープリンスさん(26)は、3月中旬、勤め先のレストランから解雇を言い渡された。

大学卒業から3年半。現場マネージャーも任され、愛着のある職場だった。その後、店は持ち帰りのみで営業を再開したが、職場復帰の声はかかっていない。

アメリカでは、感染拡大の直後、年収4万ドル(420万円)を下回る人の39%が仕事を失った(FRB調査)。全体の失業率は10%台なので、所得の低い人ほど職を失っていることがわかる。

 

とりわけ懸念されているのが、こうした人たちの雇用の受け皿となってきたレストラン、ホテル、映画館などの接客サービスだ。ニューヨークでは、非常事態宣言が出てから5か月がたった今も店内飲食が禁止され、従業員を雇う動きは鈍い。

 

コウリープリンスさんは失業保険で生活費や家賃をまかなっているが、学生ローンの返済も残る。驚くのはその額が1100万円にものぼることだ。私立大学で心理学を専攻していた。

 

コウリープリンスさん 「失業保険がなくなったあとが不安です。今後数年のうちに、正常な生活に戻るとも思えません」

 

出来ないリモートワーク

“コロナと格差”をめぐっては、もう1つ気になるデータがある。シンクタンクのピューリサーチセンターの調査で、テレワークで仕事を続けることができた人は大学卒業以上で全体の62%だった一方、高卒では22%にとどまった。

これは、感染を避けて仕事を続けられるのは学歴が高い一部の人たちで、工場や小売店など不特定多数の人が集まる場所で働かなければいけない労働者が多くいることを示している。

 

ワシントンで出会ったライドシェアの運転手、デビッド・ハーブさんは、ほぼ毎日、早朝までの10時間、車を走らせる。65歳で高血圧の兆候もあると言う。

1回の勤務で20組ほどの客を乗せるため、感染のリスクが伴うが、高卒のハーブさんはこう話す。

ハーブさん 「私にはアパートの中でコンピューターを操作するような仕事の選択肢はない。貯金もなく投資もしていないので、お金が必要なんだよ」

 

本人は仕事に誇りを持っていたが、豪華クルーザーで三密を避ける富裕層がいる一方で、厳しい環境で働き続けている人がいることを痛感した。

 

アメリカはどこに向かうのか

 アメリカの経済格差は長年の課題であり、4年前の大統領選挙でも争点となった。中間層からの脱落を恐れた白人労働者がトランプ大統領の当選を後押しした。

ことしの大統領選挙に関連した取材では、中西部のある大学で民主党左派のサンダース氏の演説を聞いた際、学生ローンの免除や国民皆保険といった格差是正に同調していた大勢の学生たちがいたことが印象に残る。

今回、取材した失業者のコウリープリンスさんに11月の選挙でどちらの候補者に投票するかを尋ねたところ、「今の政権に不満がある」と話し始めたが「どちらの候補者も好きになれない」という結論だった。

経済格差はコロナを機にさらに拡大を続けるのか。それとも是正のきっかけにできるのか。大統領選挙を控えるアメリカに、大きな課題が突きつけられている。【8月12日 NHK】

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金持ちは、より金持ちになるなかで、貧乏人は新型コロナのリスクに最もさらされながら、今まで以上に失業等の貧困に落ちていく・・・というのが現実世界です。

 

下記は現在のコロナ感染の中心地のとひとつ中南米に関する記事ですが、世界共通の話でしょう。

 

****中南米、コロナ危機後に貧困率上昇の公算=IADB総裁****

米州開発銀行(IADB)のモレノ総裁はインタビューで、中南米では新型コロナウイルス対策が失業者や債務の急増につながっているため、パンデミック(世界的大流行)から抜け出すころには貧困率が上昇しているだろうと述べた。

中南米経済は新型コロナを巡る影響により、2020年に8─10%縮小が見込まれると指摘。パンデミックは「中南米だけではなく世界的な貧困化をもたらすだろうが、中南米は新興国史上地域であるため、はるかに大きな打撃を受けることは明らかだ」と語った。(後略)【7月26日 ロイター】

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【富裕国によるワクチン争奪戦 はじき出される途上国】

国内的な経済格差だけでなく、今後はワクチン利用をめぐって、国際的な経済格差も露呈してきます。

 

ワクチンをめぐっては、経済力のある欧米・日本などが、先を争って囲い込みに走っているのは周知のところで、ここでも経済力のない途上国は利用機会が著しく劣後することになります。

 

****ワクチン争奪 世界が巨費 米1兆円、取り残される途上国****

世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中、各国がワクチン必要量を確保する動きが活発化している。

 

大国が巨費を投じて供給量を押さえる一方で、途上国はワクチン調達で出遅れが目立つ。早期の経済活動の正常化にワクチンは欠かせないだけに、先進国と途上国の間で調達格差が広がれば、今後深刻な対立につながる可能性もある。

 

米ファイザーと独ビオンテックは7月31日、日本で来年6月末までに1億2000万回分(2回投与で6000万人分)を供給する計画を発表した。早ければ10月にも米国で緊急使用許可を取得するための手続きに入る。日本政府は英アストラゼネカと英オックスフォード大学からも約1億回分調達で協議している。

 

日本国内では大阪大学発バイオ企業のアンジェスが100万人分(実用化時期は21年春目標)、塩野義製薬が3000万人分(同21年秋目標)の供給を目指すが、国産メーカー分だけでは全国民分には到底届かない。しかも投入時期も欧米メーカーに比べ遅れる。必要分は海外調達しかない。

 

政府は6月に成立した2020年度第2次補正予算でコロナ対策関連名目で予備費として10兆円を上積みした。うち約2兆円がワクチン調達費を含む医療対策強化に充当されるとみられる。「コロナワクチンなら国民の理解を得やすい」(政府関係者)。財政難だがワクチンは例外だ。

 

米欧はワクチン確保で日本の先を行く。

英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)は7月31日、仏サノフィと共同開発する新型コロナウイルスのワクチンを、米国に1億回分供給すると発表した。同時に米政府は21億ドル(約2200億円)を拠出することも明らかにした。

 

米政府がワクチン調達や開発・生産支援などに投じた費用は累計100億ドル(約1兆円)超。ワクチン確保量も15億回分を超え日本の約7倍だ。

 

英国も同様にワクチンに投資する一方で、全人口の4倍近い約2億5000万回分のワクチン供給を確保したもようだ。

 

シャーマ英民間企業・エネルギー・産業戦略相は「多様な候補を早期確保することで、有効ワクチンを見つける機会が増える」と述べる。

 

米英が人口を大きく上回るワクチン確保に動くのはどのワクチンが有効か分からないからだ。しかもワクチン接種は一人に複数回必要なケースが多い。

こうした多方面戦略と一線を画すのが中国とロシアだ。中国は国を挙げてカンシノ・バイオロジクスなど自国の開発会社を支援して、ワクチン確保を目指している。(中略)

 

ワクチン争奪戦で出遅れているのが途上国だ。

大国が争奪戦を繰り広げる中では途上国が求める「安価」は実現しにくい。先進国が買い取るワクチン価格は1回20~50ドル程度になる可能性が高いが、アフリカ各国は高額の支払いを危惧する。状況を放置すれば途上国の感染拡大に歯止めがかからず、先進国への不満が高まるのは必至だ。

 

こうした状況を改善しようとする動きもある。 途上国のワクチン開発支援では官民組織の感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)が「平等なアクセス」を理念とする。

 

CEPIは米バイオベンチャーのモデルナやGSK・サノフィなどが開発するワクチンに投資。CEPIの支援を受けたワクチンは貧困国も富裕国も手に入りやすい価格で平等に供給することを条件としている。

 

世界保健機関(WHO)などは途上国向けと先進国向けでワクチン価格を変える可能性を示唆している。ただ、製造原価割れした価格で途上国に販売する場合の負担を巡る議論が進まず、実現の見通しは立っていない。

 

途上国がワクチンを安定確保するには自国に製造設備が必要だ。しかし、アフリカではワクチン製造設備や企業・研究所がほとんどない。特許を使いやすくして生産を促す「強制実施権」も効果が見込めない。

 

アフリカの現状はインドから安価なワクチン供給を受ける。アフリカ向けワクチンについては中国勢が意欲を示す。

ウイルス拡大に国境はないだけに、世界に公平にワクチンを分配する知恵が求められている。【8月3日 日経】

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各国がどのくらいのワクチンを確保したのか、その数字については、発表時点によっても、いろいろあるようです。

 

****新型コロナワクチンの確保、世界で57億回分****

新型コロナウイルス感染症のワクチン開発が進んでいるが、臨床試験(治験)により効果が立証されたものはいまだない。だが世界各国は、少なくとも計57億回分のワクチンを事前に確保している。

 

現在5種類のワクチン(欧州3、中国2)で、数千人の被験者が参加する第3相試験が行われている。

 

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は11日、新型コロナウイルスに対する「持続可能な免疫」を作る世界初のワクチンを開発したと発表し、世間を驚かせた。このワクチンは旧ソ連が打ち上げた人工衛星にちなみ、「スプートニクV」と名付けられた。

 

世界中の研究機関がワクチン開発を競っており、製造業者らは2021年または今年末までに数百万回分のワクチンを用意するための資金援助を受けている。 【8月12日 AFP】

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上記記事では、日本も欧米並みの数字になっていますが、上記数字には中国が入っていません。

おそらく、中国は途上国がワクチン確保に苦慮する状況で、「ワクチン外交」を展開するのでしょう。

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