孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新型コロナ  WHO「この山は、ワクチンなしで登らなければならない」 

2020-11-20 22:34:20 | 疾病・保健衛生

(“サイゼリヤは、食事用マスク「しゃべれるくん」を開発した。客自身のマスクと、備え付けの紙ナプキンを使ってその場で作るもので、紙ナプキンが口元を覆うため、会話しながら食事をしても感染リスクを抑えることができるという。”【8月7日 Impress Watch】 要するにマスクで紙ナプキンを止めただけのもののようです。

片手に団扇みたいな手持ちマスクを持っていて、しゃべるときはそれを口の前に・・・という方が実用的な気もしますが)

 

【WHO「現在の感染の波は、ワクチンなしで耐え抜くことになるだろう。」】

日本は新型コロナ第3波に襲われて、GO TOをどうするか、会食中も食べるとき以外はマスクを、我慢の三連休を・・・等々が論じられていますが、そうした中で将来への希望となっているのがワクチン開発。

 

ファイザーのワクチンは、高齢者でも有効率が94%を超えたとか。

 

****米ファイザー、コロナワクチン有効率95%確認 近く緊急使用申請****

米製薬大手ファイザー<PFE.N>は18日、独バイオ医薬ベンチャーのビオンテック<BNTX.O><22UAy.F>と共同開発する新型コロナウイルス感染症ワクチンの臨床試験(治験)で95%の有効率が確認されたとする最終結果を発表した。

ファイザーは2カ月分の安全データもそろっているとしており、数日以内に米食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を申請する可能性がある。

ファイザーとビオンテックが開発するワクチン「BNT162b2」はメッセンジャーRNA(mRNA)技術に基づくもの。遺伝子を人工的に合成するため、短期間で大量のワクチンを製造できる利点がある。ファイザーは今月9日、同ワクチンの有効率が90%を超えたと発表していた。

ファイザーによると、4万3000人を超える治験参加者のうち、170人が新型ウイルス感染症(COVID−19)に感染。感染者のうちワクチンの接種を受けていたのは8人にとどまり、残りはプラセボ(偽薬)の接種を受けていた。このことから、有効率が95%だったと確認されたとした。

また、感染して重症となった被験者10人のうち、プラセボではなくワクチンの接種を受けていたのは1人のみだった。

リスクが高いとされる65歳以上の年齢層でも有効率は94%を超え、ファイザーはワクチンの効果は人種や年齢を問わず一様だったとしている。

副作用については、おおむね軽度ですぐに解消したと報告。ワクチン接種を受けた被験者の2%超が疲労感を訴えたとした。

ファイザーは、米FDAのワクチン委員会が12月にも開かれるとみられる会合で今回のデータを検証するとの見通しを示した。ファイザーとビオンテックは世界中の保健当局にデータを提出するとともに、査読(ピアレビュー)を受けた論文を科学誌に提出するとしている。【11月18日 ロイター】

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アメリカのバイオ医薬品メーカー「モデルナ」も16日、新型コロナウイルスワクチンの臨床試験で94.5%の有効性が確認されたと発表しました。

 

“モデルナのワクチンは通常の冷蔵庫の庫内の温度である2─8度で30日間の保存が可能。マイナス20度では最大6カ月の保存が可能になる。ファイザーのワクチンはマイナス70度と、超低温での保存が必要。”【11月16日 ロイター】

 

トンネルの向こうに光が・・・・といったところですが、実際にワクチンが戦力となるのはしばらく先。

 

****WHO「現在の波はワクチンなしで耐えて」発売は来春か****

新型コロナウイルスのワクチンについて、世界保健機関(WHO)の緊急対応責任者マイク・ライアン氏は18日、ソーシャルメディア上での質疑応答で、「多くの国が経験している現在の感染の波は、ワクチンなしで耐え抜くことになるだろう。この山は、ワクチンなしで登らなければならない」と語った。

 

ライアン氏は「春になればワクチンが発売され、追加の強力な武器を手にすることになるだろう」との見通しを示した。そのうえで「ワクチンが魔法の解決策だと考える人もいるが、そうではない。ワクチンだけに頼って他の抑止策を忘れたら、ウイルスはゼロにならない」と強調した。

 

ワクチンをめぐっては、米企業のファイザーやモデルナが今週相次いで、大規模な最終治験の暫定結果として9割以上の高い効果を確認したと発表した。早期の実用化に期待が高まっているが、ライアン氏の発言は過度な期待を抑制する形となった。【11月19日 朝日】

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ワクチンへの過剰の期待を戒める発言は、WHOの他の高官からも。

 

****マスク使用95%で封鎖回避、ワクチンは特効薬でない=WHO高官****

 世界保健機関(WHO)のハンス・クルーゲ欧州地域事務局長は19日、欧州における新型コロナウイルスの感染拡大について、マスクの着用を徹底することなどで新たなロックダウン(都市封鎖)は回避可能との考えを示した。

クルーゲ氏はコペンハーゲンから記者会見し、欧州では過去1週間だけで新型コロナ感染による死者が2万9000人を超えており、一部で医療体制がひっ迫していると述べた。

同氏は、「欧州は米国とともに、再び感染の震源となっている。トンネルの向こうには光があるが、今後6カ月は厳しい時期となる」と語った。

また、「ロックダウンは回避可能で最後の手段というのが私の立場。マスクは万能薬ではなく、他の感染抑制手段と併用する必要がある。だが、マスク着用率が95%になれば、封鎖は不要となり、回避できる」と述べた。

一方、封鎖は安全かつ段階的な解除が必要とし、緩和を急ぎすぎた場合に生じる悪影響を警告した。

学校については、初等教育機関は閉鎖すべきでないとし、青少年は感染拡大の主因となっておらず休校措置は「効果的でない」との見解を示した。

希望的なニュースがこのところ相次ぐワクチンについては、「特に初期段階では供給が限られることが分かっており、特効薬ではない」と指摘した。【11月20日 ロイター】

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治療薬の方は、パッとしません。

 

****WHO、新型コロナ治療薬として「レムデシビル」推奨せず****

WHO(世界保健機関)は新型コロナウイルスの治療薬として使用されている「レムデシビル」について、症状の度合いに関わらず推奨しないとのガイドラインを公表しました。

WHOが20日に公表したガイドラインでは、新型コロナウイルスの治療薬として使用されている「レムデシビル」について、症状の度合いに関わらず効果を示す証拠がないため、使用は薦めないとしています。レムデシビルは比較的コストが高く、点滴による投与期間が長いため、医療機関にとって負担になることも推奨しない理由だということです。

エボラ出血熱の治療薬として開発されたレムデシビルは、新型コロナへの効果が確認されたとして日本でも特例承認されていて、感染したアメリカのトランプ大統領にも投与されていました。しかし、WHOは先月、レムデシビルについて、入院患者への治験で致死率などに改善がみられず、新型コロナへの効果がほとんどないとしていました。

一方、デキサメタゾンなどステロイド系抗炎症薬については重症者の致死率を下げる効果がみられ、コスト面でも優位であるとして使用が推奨されています。【11月20日 TBS NEWS】

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【バイデン新大統領、マスク着用は「政治的声明ではなく、愛国的義務だ」 共和党知事「状況は変わった」】

「やれやれ、またマスクかよ・・・」という感もありますが、マスクの有効性に関しては、相変わらず多様な議論が。

 

****マスクの新型コロナ感染予防効果、期待より限定的=研究****

 デンマークのコペンハーゲン大学病院は18日、マスク着用による新型コロナウイルス感染予防効果は限定的、とする研究結果を発表した。ただ、感染拡大抑制策としてマスクの広範囲な使用に対する反論材料に利用すべきではないとの見解も示した。

研究は、デンマーク政府がマスク着用を推奨していなかった4─5月に、成人6024人を対象にマスク着用と非着用のグループに分けて調査を実施。

その結果、1カ月後に着用グループで新型コロナに感染した人の割合は1.8%、比較対象グループではこの割合が2.1%となった。

研究は、「この調査では期待された感染リスクの半減は確認されず、予防率は15─20%である可能性が示唆された」と分析。一方、「この研究では、マスクが保護の機能を果たさない可能性も排除できなかった」としている。

専門家らは長らく、マスク着用による予防効果は限定的だが他者に感染させるリスクは劇的に下げられるとの見解を示しており、今回の結果はこれに一致する内容となった。

ただ研究は、「調査では感染源を取り除く『ソースコントロール』については検証しておらず、今回の結果を、市中でのマスク着用推奨は感染抑制に効果なしといった結論の根拠とすべきではない」とも指摘している。【11月19日 ロイター】

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上記と異なる、マスクの予防効果、重症化リスク軽減効果を示すような調査研究も、日々TV等で報じられています。

 

ただ、会食中にも食べるとき以外はマスク着用を・・・というのは、どんなものかね?

数か月前なら「笑い話」ですけどね。

 

政府のコロナ対策のお達しに従順な日本はむしろ(強権支配国家を除けば)珍しい方で、欧米などでは激しい抗議行動も起きているのは周知のところ。

 

****独警察、コロナデモに放水 首都中心部、規制に反発****

ドイツの首都ベルリン中心部のブランデンブルク門前で18日、新型コロナウイルス感染拡大を受けた政府の規制に反発する5千人規模のデモが行われた。マスクを着用せずに密集した参加者が多く、警察の解散指示に従わなかったため、警察は放水し、違反者を拘束した。

 

連邦議会(下院)では同日、コロナ規制関連の法案が審議され、デモ隊が抗議していた。報道によると、参加者には政府を敵視する右派支持者のほか、一般市民も含まれていたという。

 

ドイツでは政府のコロナ対策に反対するデモが繰り返されている。【11月18日 共同】

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全国的に感染拡大が止まらないアメリカ、バイデン新政権はマスク着用などコロナ対策を強化する方針。

 

****バイデン氏、マスク着用の全国的義務付けを州知事らと協議****

米大統領選で勝利を確実にした民主党のバイデン前副大統領は19日、全米の州知事らとの電話会議で、新型コロナウイルス感染予防対策として全国的にマスク着用を義務付けることを議論したと明らかにした。

バイデン氏は電話会議後、マスク着用は「政治的声明ではなく、愛国的義務だ」と指摘した。

さらに、各州がウイルス対策を強化できるよう連邦政府の資金支援が必要だとの考えを示した。【11月20日 ロイター】

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このあたりは、感染拡大・犠牲者増加を受けて、共和党知事の州でもやや変化が。

 

****ノースダコタ州、公共の場でのマスク着用義務化 全米35州目****

米ノースダコタ州は、公共の場でのマスク着用を義務化した。米国で新型コロナウイルスの感染が急拡大、医療現場が逼迫する中、マスク着用の義務化を導入した州はこれで35州となった。

ロイターの集計によると、ノースダコタ州を含む39州で今月、新型コロナの1日当たりの新規感染者が過去最多を更新。ノースダコタ州を含む18州で死者数が最多となり、同26州で新型コロナ感染症による入院患者数が過去最多を記録した。

ノースダコタ州のバーガム知事(共和党)は13日夜に声明を出し「状況は変わった。われわれも変わる必要がある」などと訴えた。

同州は、大半の屋内の公共空間と「対人距離を確保できない屋外の営業区域並びに公共の場」において、顔を覆うことを義務付けた。

バーガム知事はまた、レストランとバーについて、受け入れる客の数を収容可能人数の50%までに制限したほか、午後10時までの時短営業を命じた。【11月15日 ロイター】

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ただ、マスク着用は分断の象徴ともなっていますので、これを全国義務化となると、またひと悶着ありそうです。

 

【韓国では徒労感も「感染するのはある程度、運次第だ」】

「K防疫」の成果を世界に誇ってきた韓国では「コロナ疲れ」も。

 

****韓国、感染対策に徒労感か 意識調査、半数「防ぎ切れず」****

韓国のソウル大保健大学院の研究チームは20日までに、同国内の約千人に新型コロナウイルス感染予防対策への意識調査で約46%が「感染するのはある程度、運次第だ」と答え、防ぎ切れないとみていると明らかにした。

 

研究チームは、感染対策に徒労感が出ており、悲観論が強まることで対策がおろそかになる恐れがあると指摘している。

 

調査は今月上旬に実施。5月の同じ調査では防ぎ切れないとみている人は約38%だった。

 

韓国では感染再拡大を受け、政府が感染症対策のレベルを引き上げたほか、多くの人が集まる場所でのマスクの着用を義務化した。【11月20日 共同】

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日韓の間の様々な問題はさておき、このあたりの感覚は日本でも共感できるところです。

 

濃厚接触者の追跡で大騒ぎといった話さえなければ、仮に感染しても「運が悪かったね」ですませることができるのですけどね・・・。

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アメリカ  敗北を認めないトランプ大統領 深まる分断 安全保障の問題も 「駆け込み外交」続々

2020-11-19 23:10:31 | アメリカ

(【11月19日 朝日】)

 

【「不正選挙」主張で深まる国民の分断・憎悪】

トランプ大統領が選挙結果を認めようとしないのは相変わらずです。

いささか駄々をこねる子供のような感も。

 

****オバマ氏「自分の子なら叱る」 敗北の受け入れ、与党に説得促す****

「自分の子が同じことをしたら叱りつけるはずだ」―。オバマ前米大統領は15日放映のCBSテレビのインタビューで、大統領選で負けを認めないトランプ大統領を、競争に負けたのに証拠もなく相手がずるをしたと非難する子どもに例え、与党共和党に敗北受け入れへ説得するよう“決起”を促した。

 

オバマ氏はトランプ氏の性格について「負けるのが嫌いで、負けたと絶対に認めない」と分析した。その上で共和党議員の多くが事態を黙認し、トランプ氏の機嫌取りに終始していると批判。

 

「次期バイデン政権だけでなく、民主主義全般の正当性も損ねようとしている。危険だ」と述べた。【11月16日 共同】

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“ウィスコンシン州で一部再集計へ、費用300万ドル…結果が覆る可能性は低い”【11月19日 読売】と、トランプ陣営がすでに再集計費用約3億1000万円を支払ったとのこと。

 

ここで「不正」の根拠を見つけて、大統領選挙全体の「不正」へ全面展開する狙いでしょう。

 

“トランプ氏、「大量の選挙不正」否定のサイバーセキュリティー長官を解任”【11月18日 AFP】と、政権内部の締め付けにもなりふり構わぬ姿勢です。

 

トランプ大統領が敗北を認めない限り、支持者の間の分断も和らぎそうにありません。

 

****共和派の半数、バイデン氏が不正選挙で「勝利盗んだ」と認識=調査****

ロイター/イプソスの世論調査によると、米大統領選で共和党支持者の半数が、民主党のバイデン候補は不正選挙で「勝利を盗んだ」と認識しており、現職のトランプ大統領が正当な勝利者と考えていることが分かった。

調査は今月13─17日に実施。バイデン氏は大統領選で勝利を確実にしているが、トランプ氏は敗北を認めておらず、選挙で不正が行われたと一貫して主張している。

大統領選で誰が勝利したと思うかとの質問には、73%がバイデン氏と回答。トランプ氏と答えた向きは5%にとどまった。一方、正当な勝利者はどちらかとの問いには、共和党支持者の52%がトランプ氏と答えた。バイデン氏は29%だった。

トランプ氏が正当な勝利者と考える理由について、共和党支持者の68%は選挙が不正に操作されたためと認識。こうした考えを持つ民主党支持者は16%、独立派は30%強だった。

トランプ陣営は、選挙で有権者のなりすましや投票監視員に対する妨害、ドミニオン集計システムを利用した票の入れ替えなどの不正が横行したと主張している。

今回の選挙は合法かつ正確だったと思うかとの質問には、55%が「そう思う」と回答。前回2016年時点では62%だった。また、選挙は「不正に操作され違法」と考える向きは28%で、前回から12%ポイント上昇した。【11月19日 ロイター】

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分断の結果は「憎悪」 トランプ政治の最大の害悪のひとつでしょう。

 

****米国内のヘイトクライム、過去11年で最多 FBI報告****

米連邦捜査局(FBI)は16日、2019年の米国内のヘイトクライム(憎悪犯罪)が7314件に上ったとする報告書を発表した。18年より194件増え、09年以降では最も多かった。殺人事件は51件で、統計を取り始めた1991年以来、最多となった。

 

FBIはヘイトクライムを「人種・民族、宗教、性的指向、性自認などに基づく偏見に動機づけられた犯罪」と定義。動機別では、人種・民族=57・6%▽宗教=20・1%▽性的指向=16・7%▽性自認=2・7%――となり、人種差別が根強く残る米国の現状が明らかになった。

 

中でもマイノリティーが被害にあうケースが多く、人種・民族を理由にしたヘイトクライムの被害者のうち、黒人=48・5%▽ヒスパニック系=14・1%▽アジア系=4・4%だった。【11月17日 朝日】

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【アメリカ大統領選挙の「制度疲労」】

今回の混乱はトランプ大統領の「個性」によって際立ったものにもなっていますが、アメリカ大統領選挙の混乱は今に始まった話でもなく、世界でもいち早く民主主義を実現した選挙でもあるアメリカ大統領選挙が「制度疲労」を起こしているところに問題の根幹があるように思われます。

 

幌馬車で各州から選挙人がワシントンに集まるような時代と現代では、やはり差があるでしょう。

とりわけ、いつも問題になるのは州ごとの選挙人獲得競争と、国全体の投票総数の結果の乖離をどう考えるかという問題。

 

日本的な常識からすると、州ごとに選挙制度が異なるというのも、なかなか受け入れがたいところ。

もちろん、州の独自性は合衆国の成り立ちに起因する「アメリカの核心」でもあるのでしょうが、いつまでもそれでいいのか?という疑問も。

 

****「選挙人」実質廃止の動き=得票総数で勝敗を―15州と首都が協定加入・米大統領選****

米国で大統領選の勝者を州単位の選挙人獲得数でなく、全国の得票総数で決めようという動きが広がっている。これまでに全米50州のうち15州と首都ワシントンが賛同。

 

トランプ大統領も2016年の大統領選で、全国得票で対立候補のクリントン元国務長官を下回りながら、選挙人獲得数で勝って当選を決めており、制度変更が実現すれば、大統領選の様相が一変することになる。

 

西部コロラド州で大統領選と同じ今月3日に行われた住民投票で、同州の「全国一般投票州際協定」加入が正式に決まった。加入に関する州法は昨年成立していたが、多数の反対署名が寄せられたことから、改めて住民投票を実施。52%が加入に賛成票を投じた。

 

協定に加わった州では大統領選で、州内の集計結果にかかわらず、全米の得票総数トップの候補がその州に割り当てられた選挙人を獲得する。ただし、発効するのは加盟州の選挙人の合計が、選挙人(538人)の過半数に当たる270人に達してからだ。

 

協定の推進団体によると、ニューヨーク、カリフォルニア、イリノイなど大規模州も既に加入しており、コロラドを含めると、加入州の選挙人の合計は196人。加入州がさらに増えて発効すれば、全米の得票でトップの候補が自動的に選挙人の過半数を得ることになり、選挙人制度は実質的な意味を失う。

 

ただ、共和党には慎重な声が強く、協定発効への道筋が見えているわけではない。NBCニュースによれば、反対派は選挙人制度が実質的に廃止されれば「候補者は(有権者の多い)都市部での運動に集中し、小規模州の声を届けられなくなる」と主張。都市部に強い民主党が結果的に有利になると懸念する。

 

実際、今回の選挙戦でもトランプ氏とバイデン前副大統領は、支持が伯仲する「スイング・ステート(揺れる州)」での運動に重点を置いた。それでも推進団体幹部は「(制度を支援するのは)米国内の他の選挙と同様、最多の票を得た候補が勝つべきだという単純な理由からだ」と述べ、党派的な動きをけん制する。

 

今回の大統領選では、勝利を確実にしたバイデン氏が史上最多となる約7900万票を獲得。得票率でトランプ氏に約3.6ポイントの差をつけた。【11月15日 時事】 

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全体の得票数にかかわらず、小さな「スイング・ステート(揺れる州)」の動向で勝敗が決まるという現状は、「なんだかな・・・」という感じがしますが、「銃規制」も一向に進まないようなアメリカで、民主・共和で利害が対立する上記「全国一般投票州際協定」の動きは、「話としては面白いけど、実現には・・・」というレベルの話なんでしょう。

 

【政権移行停滞で安全保障にも支障】

でもって、話を今回の選挙に戻すと、トランプ大統領が敗北を認めないことで、様々な問題が生じています。

 

****トランプ氏の“政権移行妨害”が生んだ深刻な事態 「安全保障を犠牲にしてまで抗戦か」との報道も****

(中略)

■政権移行を阻む措置

トランプ氏は、公の場に出ることもなく、存在感を消しているかに見えるが、実は、バイデン新政権への移行を困難にする措置を着々と行っている。

 

オバマ前大統領が2016年、投開票日の2日後にトランプ氏をホワイトハウスに招待したのとは、大きく異なり、バイデン氏は当確から5日経ってもホワイトハウス入りしていない。

 

政権移行の妨害は、深刻だ。

 

第1に、国防総省(ペンタゴン)では、反トランプ派の幹部がわずか2日間で4人解任されるか、辞任した。その中には、トランプ氏にツイッターで解任されたトップのマーク・エスパー国防長官が含まれる。

 

同長官は今夏、黒人のジョージ・フロイド氏が白人警官に殺害された事件をきっかけに起きた「ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命は大切だ)」デモに対し、トランプ氏が連邦軍を送ろうとしたが、記者会見を開いて公式に派兵を否定した。「危険なレベルに達していない」というのが理由だが、民間人の非武装デモに、武装した兵士が配備されるというのは異常事態だ。

 

エスパー長官に続き、高官のジェームズ・アンダーソン国防副次官(政策担当)が自ら辞任。つまり、国家安全保障という最優先事項について、新政権移行の際に行われる「引き継ぎ」をする幹部4人が、空席という事態だ。米誌ニューズウィークは「安全保障を犠牲にしても、トランプはバイデンの政権移行に徹底抗戦する構えか」と書いた。

 

第2に、選挙をめぐる開票作業や訴訟がいまだに続いており、逆転を期待するトランプ派市民を活気づかせていることも事実だ。(後略)【AERA 2020年11月23日号より抜粋】

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こうした政権移行が停滞し、安全保障に空白を生じかねない事態には共和党サイドからも懸念が。

 

****トランプ氏法廷闘争、共和党は様子見も 移行停滞には懸念****

(中略)共和党議員らがトランプ氏に配慮するのは、同氏が選挙に敗れたとはいえ現職大統領としては最多となる7200万票を獲得し、今後も共和党内で強い影響力を維持していくことが確実とみられているためだ。

 

また、大統領選と同時に行われた上院選では、これまでに共和党が50議席、民主党が48議席を獲得した。来年1月に行われる南部ジョージア州の2議席をめぐる決選投票で、どちらの党が上院多数派を確保するかが決まる。

 

共和党としては現段階で、トランプ氏に敵対することはトランプ支持者の反発を招き、ジョージア州での議席確保に向けた選挙戦略の上でも好ましくないと判断しているとされる。

 

共和党議員らは一方で、トランプ氏が具体的な根拠を示さずに「不正があった」と主張し、訴訟攻勢で政権移行プロセスに支障を与えている現状を有権者がどう受け止めているかも慎重に見極めている。

 

大統領選での勝利が確実となった次期大統領は通常、米国を取り巻く安全保障情勢を正確に把握するため、国家情報長官から大統領に毎日提供される最高度の機密報告「大統領日報」(PDB)を就任前から受けることができる。

 

しかし、トランプ氏は敗北を認めていないことから政権移行手続きを拒否。国家情報長官室も、政権移行作業を統括する一般調達局(GSA)がバイデン氏を勝者に認定していないことを理由にPDBの閲覧を認めない立場だ。

 

共和党議員のグラム、コーニン、ランクフォード各上院議員らは、訴訟が続いている間も、安全保障上の観点からPDB報告を受ける権限を受けられるべきだと主張している。

 

共和党の息子ブッシュ大統領の選挙参謀を務めた政治評論家のカール・ローブ氏は米紙ウォールストリート・ジャーナル(12日付)への寄稿で「再集計で選挙結果が覆ることはない」と指摘し、トランプ氏に「訴訟が終結したら、平和的な政権移行を主導して怨念を捨て、国の統合に力を貸すべきだ」と訴えた。【11月13日 産経】

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【相次ぐ「駆け込み外交」 共和党内からも懸念が】

当のトランプ大統領は「駆け込み外交」とも評される安全保障分野での重要決定を続々と行っています。

 

*****「駆け込み外交」トランプ氏展開 アフガン駐留米軍削減・対中強硬策も*****

大統領選に敗れたトランプ米大統領が、任期切れを前に「駆け込み外交」を展開し始めた。

 

国防総省は17日、アフガニスタンイラクの駐留米軍を削減すると発表。ポンペオ国務長官がイスラエルの占領地ゴラン高原などを初訪問する予定もある。政権のレガシー(後世に残る功績)作りを狙ったものとみられるが、拙速な動きが混乱を広げ、バイデン次期政権の外交に影響を与える恐れもある。

 

ミラー米国防長官代行は17日、アフガニスタンの駐留米軍を約4500人から2500人に削減すると表明。イラク駐留米軍も約3千人から2500人に減らす。期限はトランプ氏の任期が切れる来年1月20日直前の同月15日とした。

 

米国はアフガニスタンの反政府勢力タリバーンとの合意に基づき、駐留米軍を段階的に撤退させてきたが、和平の道筋は見えていない。トランプ氏は「終わりなき戦争を終わらせる」との公約を掲げるが、強行すれば「テロの温床」に逆戻りしかねず、エスパー前国防長官や軍高官らは撤収に懸念を示していた。

 

上院共和党トップのマコネル院内総務は17日、「今後数カ月、国防や外交政策で極めて重大な変更をしないことが重要」と記者団に語った。アフガニスタンに部隊が駐留する北大西洋条約機構NATO)のストルテンベルグ事務総長も「性急で、バラバラな形での撤収の代償はとても大きいかもしれない」と述べた。

 

一方、米ニュースサイトのアクシオスによると、ポンペオ米国務長官は18日からのイスラエル訪問中に、イスラエルの占領地であるヨルダン川西岸のユダヤ人入植地ゴラン高原を訪れる予定だ。ともに現職の国務長官として初めてで、トランプ政権が鮮明にした親イスラエルの姿勢をアピールする狙いとみられる。ただ、パレスチナの猛反発は必至だ。

 

また、ニューヨーク・タイムズは16日、トランプ氏が12日にホワイトハウスで政権幹部に対し、イランの核施設を数週間以内に攻撃するための選択肢があるかを尋ねたと報じた。ペンス副大統領らが、大規模な紛争に発展しかねないと説得して止めたが、トランプ氏イラクの親イラン勢力などへの攻撃を検討している可能性があるという。

 

トランプ政権は選挙後、対中国でも強硬策を次々と打ち出している。ポンペオ氏は12日に出演したラジオ番組で「台湾は中国の一部ではない」と発言し、中国政府は強く反発した。トランプ氏は同日、米側が中国軍の影響下にあるとみる30超の中国企業に対し、米国人が株式や投資信託などの購入を通じて投資するのを禁じる大統領令に署名。米メディアは、さらに複数の対中強硬措置を計画していると報じている。【11月19日 朝日】

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現地情勢に大きな影響を及ぼすアフガニスタン・イラクからの撤退は、ある程度織り込み済みではありますが、「イランの核施設を数週間以内に攻撃するための選択肢」となると、この期に及んで世界情勢をひっくり返すのは勘弁して欲しい・・・という感が。

 

トランプ大統領からすれば、イランの核開発阻止という公約実現なのでしょうが・・・(公約を駆け込み的に実現しようというのは、次回立候補に向けた布石でしょうか。やる気満々のようです。)

 

****トランプ氏、敗北認めず安保分野で続々と重要決定****

米上院の超党派議員は18日、トランプ政権が10日に承認したアラブ首長国連邦(UAE)への最新鋭ステルス戦闘機F35などの武器売却を承認しないとする決議案を提出すると発表した。

 

トランプ大統領は11月3日の大統領選で敗北が確実となって以降、エスパー国防長官の解任、アフガニスタンやイラクからの米軍部隊の撤収など、政権移行期にある米国の安全保障を脅かしかねない決定を次々と下しており、身内の共和党の間でも懸念が広がっている。

 

F35の売却反対決議案は、民主党のメネンデス、マーフィー両議員と共和党のポール議員が共同提出する。

 

トランプ政権は、UAEがイスラエルと国交を正常化させたのを受けてF35最大50機の売却を決めた。だが米国内では、中東でのイスラエルの軍事的優位が崩れ、地域の不安定化につながるとして、売却に反対する声が強い。

 

トランプ政権が17日発表したアフガニスタンとイラクからの米軍撤収に関しても、米国とアフガンのイスラム原理主義勢力との和平交渉の行方をにらんだ現地情勢などが考慮されていないとの批判が強い。

 

安全保障関係者の間では、2000年大統領選挙での集計をめぐる訴訟で息子ブッシュ政権への引き継ぎが遅れたことが翌年9月の米中枢同時テロにつながったとの反省も踏まえ、アフガンからの性急な米軍の撤収は、アフガンを再び米本土を脅かすテロの温床に逆戻りさせかねないとの懸念も強まっている。

 

歴代米政権の交代期は通常、次の政権が政策上の選択肢を確保できるよう、現状を大きく変更させる安全保障分野の重要決定は行わない慣例となっている。

 

上院共和党トップのマコネル院内総務も17日、記者団に「(次期大統領就任までの)向こう数カ月間は、国防や外交政策を著しく変えないことが極めて重要だ」と述べ、トランプ氏に暗に自制を求めた。

 

オブライエン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は16日、民主党のバイデン氏が大統領選の勝利を確実にしたことに関し「明らかにその方向にあるように見える」と認め、同氏の勝利が確定し次第、「非常にプロ意識の高い政権移行を行う」と強調した。

 

しかし、トランプ氏と決別したボルトン前大統領補佐官(同)は18日、「トランプ氏はバイデン氏の執務ができるだけ困難になるように仕向けている」と指摘し、安保分野で今後も予想外の行動をとる恐れが「十分にある」と警告した。【11月19日 産経】

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「トランプ氏はバイデン氏の執務ができるだけ困難になるように仕向けている」・・・・子供じゃあるまいし・・・。

マケイン氏が存命なら、叱りつけるところでしょうが。

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中国  武漢でのコロナ対応の誤りを認めないことにも示される国家主義への傾斜

2020-11-18 23:22:27 | 中国

(江漢路を行き交う人々=8月12日、湖北省武漢市【11月5日 NNA ASIA】)

 

【武漢での原因不明の肺炎の発生を公表して処分された医師 死後に名誉回復はなされたものの、当局の隠蔽による被害に関しては言及なし】

中国・武漢で猛威を振るう新型コロナの存在を中国政府がまだ認めていないときに、原因不明の肺炎の発生をSNSに公表したことで「訓戒処分」を受けた眼科医だった李文亮氏が、その後新型コロナに感染して死亡。

 

国際的な批判があるなかで、中国政府は死後になってようやく処分が不当だったことを認め、李文亮氏の名誉回復をしたことは、中国政府の初動態勢のまずさを端的に示すエピソードになっています。

 

トランプ大統領がコロナについて(自分への責任追求をそらすために)執拗に中国の責任を言いたてるのも、このあたりの中国政府の隠蔽体質があっての話です。

 

****新型コロナを告発し罰せられた医師。死後に「処分は不当でした」と発表、その本当のワケは?****

原因不明の肺炎の発生に警鐘を鳴らしたつもりが、逆に処分の対象になり、訓戒を受けた医師。後に自ら新型コロナウイルスに感染し死亡したこの医師に対し、中国政府の調査チームが「処分は不当だった」と結論を出した。だが本当の狙いは、単に医師の名誉回復だけではなさそうだ。(中略)

 

「処分は不当」と調査結果

李医師は、不正などの内部告発者を意味する英語のホイッスルブロワーを中国語に訳した呼称で国内でも讃えられ、勇気ある行動ゆえに同医師が受けた処分に対しては、怒りの声が上がっていた。

 

そうした中で、中国政府の最高の監察機関である国家監察委員会の調査チームが、李医師の死から1か月以上経った、昨日3月19日、調査結果を発表した。調査は、実際に12月中に武漢市内の複数の病院で原因不明の肺炎患者が確認されていた事実などに触れた。

 

その上で、李医師の処遇について「警察が訓戒書を作ったことは不当であり、法執行の手順も規範に合っていなかった」と結論づけた。警察に対し訓戒書の取り消しと関係者の責任追及などを求めた。

 

この調査結果に対し、ネット上では「真相が明らかになった」「国家を信じ、調査結果を支持する。李先生安らかに」などと賛辞が寄せられている。もっとも中国では政府の判断に反対する意見がネット上に残るはずはないが、人々の批判の矛先を逸らすには、まずまずの効果があったようだ。

 

しかし、この調査結果は、重要な点に触れていない。李医師の発信が「社会の関心を集めた」などとしているが、訓戒によって李医師が口をつぐんでしまった事態が招いた結果についての検証がされていない。

 

その結果とは「情報隠し」が引き起こした感染拡大だ。特に、医療関係者の防疫が後手に回ったために、武漢では医療崩壊が起きた。(中略)

 

敵対勢力が李医師を利用?

国営新華社通信が、李文亮医師の調査チームとの質疑を報じている。その中で、李医師の情報発信が、社会にどのような作用を与えたかとの質問に対して、調査チームは次のようにこう答えている。

 

「一部の敵対勢力は中国共産党と中国政府を攻撃するために、李文亮医師に体制に対抗する“英雄”“覚醒者”のラベルを貼っている。しかし、それは事実に全く合わない。李文亮医師は共産党員であり、いわゆる“反体制人物”ではない。そのような下心を持つ勢力が、扇動したり、人心を惑わせたり、社会の不満を挑発しようとしているが、目的を達せられないことは決まっている」

 

中国の体制にとって感染症そのものよりも、対策で下手を打ったとして民心が離れる事態の方が脅威だ。今回の調査結果の一番の狙いは、おそらくこれだ。【3月20日 宮崎紀秀氏 YAHOO!ニュース】

*******************

 

武漢の感染拡大を「鎮圧」したことは、政府・党の「勝利」であり、政府・党の対応には誤りはなかった・・・という「無謬性」「硬直性」が、はからずも外部の人間にとっては中国共産主義の「限界」を示すものに思われます。

 

【武漢の状況を報じた市民 拘束・禁固刑も】

この旧聞ともいえる李文亮氏の件を改めて取り上げたのは、今日、下記記事を目にして驚いたせいです。

武漢の惨状を伝えた結果、当局によって拘束されていると思われる市民が今も複数名存在し、そのうちの1名は禁固刑の恐れがあるとか。

 

****中国・武漢の市民記者、禁錮刑の恐れ 感染流行報じて起訴****

中国・武漢市で発生した新型コロナウイルスの大流行について伝えた市民ジャーナリストが、最長5年の禁錮刑に処される可能性に直面している。彼女の起訴状が16日、表面化した。

 

元弁護士の張展さん(37)は、5月に逮捕されて以来、拘束が続いている。

容疑は「口論をけしかけトラブルを誘発した」というもの。中国でよく活動家に適用される内容だ。

 

新型ウイルスの感染が広がった当時の武漢市の状況を報じ、トラブルに直面した市民ジャーナリストは、張さんだけではない。

 

2月以降、少なくとも3人の行方がわからなくなった。そのうち、李沢華さんは4月に姿を現し、「隔離」されていたと述べた

 

陳秋実さんはその後、政府の監視下に置かれていることが判明。方斌さんは今も行方不明のままだ。

中国当局は、声を上げる活動家を弾圧することで知られている。

 

ハンスト

今回明らかになった起訴状によると、張さんは2月に武漢市に入り、多くの記事を出した。NGO中国人権擁護者(CHRD)ネットワークによると、張さんは他の独立系ジャーナリストらの拘束や、当局の責任を追及した新型ウイルス犠牲者の家族に対する嫌がらせなどを報じていた。

 

CHRDによると、張さんは5月14日に武漢市で行方不明になった。翌日になって、640キロメートル以上離れた上海で警察に拘束されていたと明らかにされた。

 

6月19日になって、上海で正式に逮捕された。ほぼ3カ月後の9月9日、弁護士が面会を許可された。

CHRDは、張さんが逮捕に抗議してハンガーストライキに入っていたとしている。9月18日には張さんの弁護士に電話があり、彼女が起訴されたと伝えられたという。正式には今月13日に起訴された。

 

「悪意をもって広めた」

16日に表面化した起訴状は、張さんについて、「微信(ウィーチャット)、ツイッター、ユーチューブを通して、偽の情報をメールやビデオ、他のメディアで」送ったとしている。また、外国メディアのインタビューを受け、武漢市の新型ウイルスに関する情報を「悪意をもって広めた」と非難している。

当局は禁錮4〜5年の刑を求めている。

 

張さんはこれ以前にも、当局とトラブルになったことがあった。CHRDによると、2019年9月に上海で警察に呼び出され、香港の活動家らへの支援を表明したとして拘束された。

拘束中、精神鑑定を受けさせられたと報じられた。【11月18日 BBC】

********************

 

「目をつけられる」ような存在だったようですが、“外国メディアのインタビューを受け、武漢市の新型ウイルスに関する情報を「悪意をもって広めた」”というあたり、特に、外国メディアに中国の実情が流れることに中国当局は異様に神経質になります。

 

彼らの尊大なブライドを傷つけるせいでしょうか?

 

【厳しいバッシングを受ける「武漢日記」の方方さん 文革を想起させるような国家主義に走る習近平政権】

パンデミック当時の武漢の市民生活を赤裸々に描いて有名になった中国作家・方方さんも、海外での英語翻訳版が出版されると、「裏切者」と厳しいバッシングを受けるようになり、当局対応もそうしたバッシングを容認するものに急変しています。

 

****中国、「武漢日記」発禁に 作者を攻撃、当局黙認****

新型コロナウイルス対応で封鎖された中国湖北省武漢市の生活を記録して国際的反響を呼んだ地元作家、方方さん(65)の「武漢日記」が中国で事実上の発禁扱いとなり、出版できない状況であることが分かった。

 

方方さんが21日までに共同通信の書面取材に応じ、明らかにした。武漢市が封鎖されてから今月23日で半年。中国の暗部を描いた日記の出版を阻もうとするメディアなどが攻撃し、当局も黙認しているためだという。

 

海外では既に英語の翻訳版が出版された。しかし中国では国内出版に向けて準備が進んでいたものの、出版社が圧力を恐れて本を出せない状況だ。【7月21日 共同】

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「国家のやることに間違いはない」「共産党のやることに間違いはない」、そしてそのことは最終的には「習近平主席のやることに間違いはない」へ・・・こうした「無謬性」、さらに外国からの批判を受け付けない肥大した国家プライド・・・武漢における新型コロナ対応に限らず、中国政治全般に見られることであり、かつ、近年その傾向が強まるように見えるところです。毛沢東時代の文革を想起させるぐらいに。

 

****習主席支配の中国、過激な国家主義への暗転****

「国家への忠誠欠如」で過激なバッシング横行

 

中国に吹き荒れる国家主義の風がここにきて、過激な様相を帯びてきた。毛沢東主義の暗い過去を想起させる足元の潮流を後押ししているのが、共産党のプロパガンダや習近平国家主席の政治的野望、そして新型コロナウイルスの封じ込めに成功した国家のプライドだ。

 

ネット上で、中国指導部を批判する、または国家への忠誠が欠如していると見なされた人物は、執拗(しつよう)な集団攻撃の標的になる。嫌がらせは標的が沈黙するまで続く。中には職を失った人もいる。

 

今年目立った標的となったのが、コロナ対応を巡り、当局者の初動に疑問を投げかけた人々だ。湖北省武漢市の文筆家である方方氏もターゲットになった1人だ。

 

方方氏がネット上で住民の苦境に言及し、地元政府の対応の遅れを批判すると、多くの国内ネットユーザーは同氏を「裏切り者」と切り捨てた。

 

武漢市内のバス停には、同氏に対して「人々に犯した罪を償うため、頭をそるか死ね」と書かれた匿名のポスターが貼られ、その画像はネット上に拡散した。太極拳の有名な武術家は「正義の握り拳」で同氏を攻撃するよう唱えた。

 

方方氏はその後、中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」で、市民にこう呼びかけた。「中国は文化大革命の時代に後戻りすることはできない」

 

中国政治の専門家は、国家主義の高まりについて、世界における中国の地位が向上する中で自然な成り行きだと指摘する。中国人からは、国家に対する心からの誇りが根底にあるとの声も聞かれる。

 

中国政府も国家主義の増進に余念がない。当局者はネット規制や大量のソーシャルメディア(SNS)アカウントを通じて、当局に対する批判を検閲により徹底的に封じ込めているほか、政府や共産党を促進するコンテンツを大量拡散するエコシステムを構築している。

 

長期独裁体制を視野に入れる習氏も、国家主義者の急先鋒に立つ。国家復興という「中国の夢」の実現を誓う同氏は、経済成長が鈍り、米国との対立が先鋭化する中で、共産党への支持を固めようと、生活のあらゆる面で国民の愛国心に訴える。

 

習氏が目指す中国の国家像はこうだ。独裁政権およびハイテク技術による社会統制を超国家主義の浸透と組み合わせることで、反対派を封じ込める新たなタイプの強国――。

 

中国のネット検閲では、社会問題に関する限定的な議論を容認していた時代もあった。だが、習氏が実権を握って以降の8年間、国内リベラル派の間では、文化大革命の熱狂的な政治に後戻りするのではとの懸念が強まっている。

 

毛沢東が仕掛けた「反革命的な要素」に対する戦争により、中国社会と経済は1960年代~70年代に崩壊の瀬戸際に追い込まれた。

 

文化大革命の時代には、100万人以上が死亡した。近代中国の文化・思想史を研究する歴史家ジェレミー・R・バーメ氏は、当時ほどの過激さはないものの、当局は「痛烈な批判、ヒステリー(興奮状態)、毛沢東時代の祖先の暴力的な意図と、デジタル監視で入手可能になった科学捜査的な詳細情報を組み合わせている」と指摘する。

 

また、反対意見に対する中国の不寛容さは、往々にして欧米諸国を上回るとして、「欧米人が自分たちには『キャンセルカルチャー(言動を問題視する相手への集中的なバッシング)』があると思うなら、欧米人は(中国のことを)全く分かっていない」と述べる。

 

<バッシングを呼んだ日記>

方方氏が「武漢日記」を記録し始めたのは、コロナ封じ込めに向けて武漢市当局がロックダウン(都市封鎖)を敷いた直後の1月だ。同氏は、政府も資金援助する湖北省の作家協会のトップを務めていた経歴を持つ。

 

中国メディアの報道が厳しく制限される中、同氏の日記は深刻化していたコロナ感染拡大の実態を知る上で、貴重な機会を提供していた。大半はロックダウン下の日常に関する記述だが、時には真実を隠ぺいしているとして、当局者を批判することもあった。同氏の日記の視聴回数は数百万回に上った。

 

同氏への攻撃が加速したのは、日記の英語の翻訳版が米国で出版されるとのニュースが4月に伝わってからだ。ネット上では方方氏の動機に対して疑問を呈し、外国人に中国を攻撃するための「短刀を提供している」として糾弾する声が上がった。

 

方方氏の自宅には石が投げられた。あまりの嫌がらせに耐えられず、同氏は自身のウェイボー投稿に対するコメントが目に入らないよう遮断した。中国語版の日記を含め、本土や香港の出版社は、同氏の作品を出版することを拒否しているという。

 

ネット上のバッシングには、中国共産党系の新聞「環球時報」の胡錫進編集長など、政府とつながりのある人物も加わった。胡編集長は、方方氏が欧米で注目を浴びることで、中国人はその影響に苦しむだろうと投稿した。

 

方方氏はメールで、胡編集長らは、政府の意見を代表しているとみられているため、世論に影響を与えることができると話す。「とりわけ政府の支援を受けているこうしたやくざと1人で戦うのは無駄だ」

 

胡編集長は方方氏への攻撃をあおったとする見方を否定。批判を受け入れようとしない同氏の姿勢が、世論の反発を呼んだとコメントした。

 

<プロパガンダの威力>

中国のサイバー空間に詳しい専門家らは、ネット上には政府寄りのコンテンツを投稿する数百万人のユーザーが存在すると推定している。こうしたユーザーは、政府からの雇われか、政府当局者だ。(後略)【10月26日 WSJ】

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武漢での当局のコロナ対応に関しては、犠牲者の遺族に不満も残っているようですが・・・・

 

****武漢の遺族ら 習主席宛てに請願書****

世界で最初に新型コロナウイルスの感染が拡大した、中国・武漢市の患者の遺族たちが、習近平国家主席に宛て請願書を送った。

 

遺族の男性「隠ぺいでこんなに多くの人が死んだ。なぜ逃れようとするのか」

遺族たちは、感染拡大は武漢市当局の情報隠ぺいによって起きたとして、関係者の法的責任を追及するよう求めている。

 

FNNの取材に応じた男性は、2020年2月に父親を亡くし、これまでに武漢市などに謝罪や情報公開を求めてきたが受理されず、習主席宛ての書簡のほかに、16日、最高人民法院に訴状を送ったという。【11月16日 FNNプライムオンライン】

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こうした訴えがまともに取り扱われることはないでしょう。

無視されるだけならまだいいですが・・・。

 

中国政治の流れは、過激な国家主義への流れであると同時に、国家・党=習近平体制であり、習近平指導部礼賛の流れでもあります。

 

中国共産党は2022年の次期党大会で「党主席制」を復活させ、習近平国家主席が就任する見通しとも報じられています。

 

方方さんは、こうした現況について、「(過酷な経験をした)多くの人は本当の思いを表現したくてもできず、心の中に押しとどめたままだ。ウイルス発生の反省も責任追及もされていない」「形式主義や政治最優先、表面的な繁栄を追求する体質を改めなければ前には進めない。放置すれば全土の人が再度重い対価を支払うことになる」「政治的に正しくないと処分、文革と同じ」と語っています。【11月17日 毎日より】

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ペルー  腐敗体質の政治家全体への国民の怒りが噴出 1週間で3人目の大統領

2020-11-17 22:43:05 | ラテンアメリカ

( ペルーの首都リマの議会前で、マヌエル・メリノ大統領の辞任に歓喜する人たち(2020年11月15日撮影)【11月17日 AFP】)

 

【汚職対策を進めたビスカラ大統領 意趣返しで野党勢力によって罷免】

南米ペルーに関する日本での関心というと、入院・収監を繰り返しているフジモリ元大統領の体調とか、その長女で一時は大統領職にあと一歩のところまで迫ったケイコ・フジモリ氏の動向(不正資金疑惑の渦中にあって、今年1月には3回目の身柄拘束を受け、彼女が党首を務める政党も1月の総選挙では大きく後退)といったあたりに限られている感がありますが、ここ数日は相次ぐ大統領交代が話題になっています。

 

****ペルー国会、大統領を罷免=州知事時代の汚職疑惑で****

南米ペルーの国会(定数130)は9日、州知事時代の汚職疑惑が持ち上がったビスカラ大統領に対する罷免決議を賛成多数で可決した。ビスカラ氏は失職し、現地報道によると、国会議長が来年7月までの残り任期を務める。

 

現地報道によると、ビスカラ氏をめぐっては、南部モケグア州の知事だった2014年ごろ、公共工事受注の見返りに業者から賄賂を受け取った疑いが浮上していた。

 

一部議員が憲法で定められている「恒久的な倫理的不能」に当たるとして罷免決議案を提出。ビスカラ氏は「断固として告発内容を否定する」と疑惑を否定していた。採決では、罷免に必要な89票を上回る105票が集まった。【11月10日 時事】 

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****ペルーで抗議デモ激化 汚職防止進めた前大統領の罷免に反発 新大統領の辞任要求****

南米ペルーで汚職防止対策を進めたマルティン・ビスカラ前大統領(57)が国会で罷免されたことに抗議するデモが激しさを増している。

 

治安当局は催涙ガスなどを使って抑え込みにかかるが、市民の反発は強まるばかりだ。首都リマでは13日、数千人が行進し、就任したばかりのマヌエル・メリノ新大統領(59)の辞任を求めた。

 

国会(1院制、定数130)は9日、汚職疑惑が浮上したビスカラ氏の弾劾決議案を賛成多数で可決。メリノ国会議長が10日に大統領に就任し、ビスカラ氏の残りの任期である2021年7月まで務めることになった。

 

だが、これをきっかけに大規模なデモが連日、続いている。デモ隊と治安当局の衝突でこれまでに数十人が負傷した。政治腐敗が激しいペルーで、ビスカラ氏は犯罪歴のある政治家の立候補を禁止するなど汚職対策を図り、国民の高い支持を得ていたからだ。

 

一方、ビスカラ氏の関与が指摘される汚職は、南部モケグア州知事時代(11〜14年)に業者から公共工事受注の見返りに賄賂を受け取ったというもの。まだ訴追されておらず、ビスカラ氏は関与を否定。罷免は、汚職対策を進めるビスカラ氏に反発する野党議員が画策した政権転覆劇との見方が広がっている。

 

ビスカラ氏は18年に当時のクチンスキ大統領が汚職疑惑で辞任したのを受け、第1副大統領から昇格した。【11月14日 毎日】

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“ビスカラ氏は18年に当時のクチンスキ大統領が汚職疑惑で辞任したのを受け、第1副大統領から昇格した”とあるように、ペルー政界は汚職・腐敗が蔓延しています。

 

“ロイター通信によると、国会議員の半数は資金洗浄(マネーロンダリング)や殺人の疑いなどで捜査を受けている。ビスカラ氏の罷免は、汚職対策を進めたことへの野党の意趣返しとの見方が出ていた。”【11月16日 毎日】

 

結果、歴代大統領は逮捕されるか、自殺するか・・・

 

****ペルー 大統領経験者 5人連続で逮捕かその直前に自殺*****

ペルーのトレド元大統領が16日、汚職の容疑でアメリカで逮捕されました。ペルーでは元大統領の逮捕が相次いでいて、今回の逮捕で現職を除いて5人連続で大統領経験者が逮捕されるか逮捕直前に自殺する事態となっています。

 

ペルー政府によりますと、ペルーの検察は16日、アレハンドロ・トレド元大統領をブラジルの大手建設会社から賄賂を受け取った汚職の容疑でアメリカのカリフォルニアで逮捕したと発表しました。

 

ペルーでは、ことし4月に前大統領のペドロ・クチンスキ氏が同じく、ブラジルの大手建設会社から賄賂を受け取った汚職容疑で身柄を拘束されたほか、同じ月に元大統領のアラン・ガルシア氏が収賄の疑いで逮捕される直前に銃を使って自殺しています。

 

ペルーでは1990年に日系人で初めての大統領に就任したアルベルト・フジモリ氏が退任後、逮捕、収監されたことをきっかけに、大統領経験者が逮捕されるケースが続いていました。

 

現職の大統領を除けば今回のトレド氏の逮捕で、1985年以降に選挙で選ばれた大統領経験者5人すべてが逮捕されたか自殺したことになります。【2019年7月17日 NHK】

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9日に国会によって罷免されたビスカラ前大統領は、こうしたペルー政界の腐敗を正そうとしたところ、脛に傷ある議員ばかりの国会によって罷免されてしまった・・・とのこと。

 

【腐敗体質の政治家への国民の怒りが噴出】

国民は、そうした政治家に怒りを爆発させた次第のようです。

国民の怒りに直面したメリノ新大統領は、わずか5日で辞任に追い込まれました。

 

****ペルー大統領、5日で辞任 前大統領罷免、国民批判****

収賄疑惑を発端に大統領が罷免(ひめん)された南米ペルーで15日、就任したばかりのメリノ新大統領がわずか5日で辞任を表明した。新政権や国会に抗議する大規模な集会が連日、全土で開かれており、首都リマでは治安部隊との衝突で参加者2人が死亡。国民の間に積もった長年の政治不信が一気に噴き出しており、今後も混乱が続きそうだ。

 

15日正午過ぎ、テレビで演説したメリノ氏は「大統領の職を辞す」と述べ、辞任を明らかにした。ビスカラ前大統領の罷免に伴い、10日に国会議長から大統領に昇格したばかりだったが、就任宣誓から5日での辞任表明となった。

 

混乱の発端は、ビスカラ氏が9日に国会で罷免されたことだ。自身の政党を持たないビスカラ氏は、大統領を妨害する野党が仕切る国会を「腐敗した利権の巣窟」と批判し、議員の連続再選禁止などの国会改革を主導。新型コロナウイルス対策でも評価され、5月には支持率が8割に達した。

 

これに対し、野党が多数の国会はビスカラ氏降ろしを画策。過去の疑惑を掘り起こし、ビスカラ氏が県知事だった2014年ごろ、公共工事で便宜を図る見返りに建設会社から230万ソル(約6700万円)を受け取ったという疑惑の追及を始めた。

 

ただ、21年4月には大統領選が予定されており、直近の世論調査では8割が「ビスカラ氏は任期満了後に捜査を受けるべきだ」と回答した。それでも、国会は「道義的能力の欠如」を理由に、ビスカラ氏の罷免に踏み切った。

 

国民不在の決定に「腐敗を隠したい国会によるクーデターだ」との批判が起こり、メリノ氏が大統領に昇格すると、SNSでは「私の大統領ではない」というハッシュタグが拡散。抗議の波が全土に広がった。

 

リマでは14日、市内各地で断続的に抗議集会が開かれた。現地の情報によると、数万人が参加したとみられる。夜には、治安部隊との衝突で20代の若者2人が死亡したと報じられ、直後から閣僚が次々と辞任の意向を表明。地元メディアによると、15日未明までに、首相を含む新内閣19人の閣僚のうち13人が辞任した。

 

15日午前には、国会が党代表者会議を招集し、新大統領の退陣方針を決定。メリノ氏には、辞任勧告の受け入れ以外に道は残されていなかった。

 

抗議集会は当初、新大統領や国会への批判が中心だったが、政治改革を求める声も次第に高まっている。ペルーではフジモリ元大統領以降、ビスカラ氏まで6人の歴代大統領が汚職疑惑で捜査され、政治家らの腐敗が長年取りざたされてきた。今回の抗議は、国民の政治不信が爆発した結果だ。

 

今後の政権については、国会もメリノ氏も言及しておらず、政党間のかけひきが続くとみられる。国会議員による密室政治に、国民は強く反発しており、メリノ氏の辞任で混乱が収束するかは見通せない状況だ。【11月17日 朝日】

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抗議行動は、ビスカラ氏個人を擁護するものというより、ペルー政界の腐敗体質への怒りでしょう。

 

メリノ氏辞任を受けて、新大統領には野党「紫の党」所属議員のフランシスコ・サガスティ氏が選出されました。

 

****異常事態、1週間で3人目の大統領「ペルー国民に希望を取り戻す」****

南米ペルーの国会(定数130)は16日、新大統領にフランシスコ・サガスティ議員(76)を選出した。17日に就任する。政情が混乱しているペルーでは、1週間のうちに大統領が2度交代するという異常事態となっている。

 

新大統領の選出は、マヌエル・メリノ前大統領の辞任に伴うものだ。国会議長だったメリノ氏は、マルティン・ビスカラ元大統領に対する罷免ひめん決議を主導した末に、自ら大統領に就任。「クーデターだ」などと主張する抗議デモを招き、わずか6日目で辞任に追い込まれた。

 

サガスティ氏が所属する「紫の党」は所属議員全員が罷免決議に反対票を投じていた。国民の理解が得られやすいとして国会内での支持も広がり、100票近い賛成票を得た。

 

サガスティ氏は選出後、「ペルー国民に希望を取り戻すため、できることはすべてやる」と述べた。任期は来年7月まで。4月の大統領選を円滑に迎えられるかが課題となる。

 

サガスティ氏は、1996年12月、首都リマの日本大使公邸に武装した左翼ゲリラが立てこもった際、数日間にわたって人質となった経験がある。【11月17日 読売】

*********************

 

これを機に、“国会議員の半数は資金洗浄(マネーロンダリング)や殺人の疑いなどで捜査を受けている”という現状が是正されればいいのですが・・・どうでしょうか。

 

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エチオピア  “ノーベル平和賞受賞者”のアビー首相のもと、民族間の遺恨は解消せず戦闘へ 

2020-11-16 22:51:38 | アフリカ

(【11月15日 NHK】 戦闘を避けて隣国スーダンに逃れる人々のようです)

 

【“ノーベル平和賞受賞者”のアビー首相 ティグレ人勢力との戦闘に踏み切る】

アフリカでは民族間の対立は珍しくありませんが、東アフリカ・エチオピアも、実権に握っていた少数民族ティグレ人(人口比6%)と、これに不満を持つ多数民族オロモ人(人口比34%)の間で混乱がありました。

 

2018年、多数派オロモ人からの初の首相となったアビー氏の起用は、そうした混乱を収めるための意表をついたものでした。

 

****<エチオピア>新首相にアハメド氏 最大民族オロモ人起用****

エチオピアからの報道によると同国の与党連合は(2018年3月)28日までに、アビー・アハメド元科学技術相(42)を新首相に選ぶことを決めた。

 

政府に抗議行動を続けてきた最大民族オロモ人であるアハメド氏が指導者となることで、民族間の緊張緩和が期待される。

 

エチオピアでは、少数民族ティグレ人が政治・経済を掌握しており、疎外されてきたオロモ人らの不満が噴出していた。長引く混乱を受け2月にハイレマリアム首相が辞意表明したのに続き、非常事態を宣言していた。

 

同国の人口は約1億人とアフリカ大陸でナイジェリアに次いで2番目に多く、2000年代半ばから10%前後の経済成長を維持。一方で、反体制派の弾圧で多数の死傷者が出たほか、活動家らの逮捕も相次ぎ、地域大国の不安定化に対する懸念が広がっていた。【2018年3月29日 毎日】

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その後、アビー首相は国内の民族対立解消や長らく敵対してきた隣国エリトリアとの和平などに尽力し、その功績は国際的に高く評価され、2019年10月にはノーベル平和賞を受賞しました。

 

ただ、民族間の対立・不信感の根は深く、“道半ば”の状況であることは、2019年10月27日ブログ”エチオピア  民族対立の現実に直面する「ノーベル平和賞」受賞者アビー首相の“道半ば”の「改革」”でも取り上げたところです。

 

特に、実権を奪われる形になったティグレ人との確執は、「ノーベル平和賞」受賞者アビー首相をしても戦闘行為によってしか対処できないものとなったようです。

 

****エチオピア、北部州を空爆 ノーベル平和賞の首相が命令****

アフリカ東部エチオピアのアビー首相は6日、北部ティグレ州を拠点とする政党ティグレ人民解放戦線(TPLF)の軍事施設を空爆したと発表した。

 

周辺国を含む地域全体の不安定化につながると懸念される中、アビー首相は「作戦は明確で限定的かつ達成可能な目標を持つ」と強調している。

 

現地メディアやAP通信などによると、空爆の標的は州都メケレとその周辺に配備されていたロケット兵器など。ティグレ州ではインターネット、電話回線が遮断されており、被害の詳細は明らかになっていない。

 

(中略)エチオピア議会は7日、「憲法違反」としてTPLFが率いるティグレ州の政府と議会を廃止し、暫定の州政府を立ち上げる決議案を可決した。TPLF側の反発は必至だ。

 

軍事衝突は4日、TPLFが連邦政府の軍事施設を攻撃したとして、アビー首相が反撃を命じたことで始まった。

エチオピアでは今年8月に総選挙が予定されていたものの、新型コロナウイルス対策のために延期。アビー政権と対立するTPLFはこれに反発して9月に州内の選挙を強行し、連邦政府との対立が悪化していた。

 

アビー首相は6日、作戦の目的について「法の支配や憲法による秩序を取り戻し、国民が国内のどこででも平和に生きる権利を保護するため」とツイッターで投稿。TPLF側を、対話を通じた平和的な解決策に応じなかったと批判し、政府軍による攻撃の正当性を強調した。

 

隣国ソマリアなどを含めた「アフリカの角」と呼ばれる地域一帯への影響を憂慮する声も上がる。

 

国連のグテーレス事務総長は6日、ツイッターに「エチオピアの安定性は、地域全体にとって重要だ。緊張の即時緩和と紛争の平和的解決を求める」と投稿。エチオピアの首都アディスアベバに本部を置くアフリカ連合も軍事衝突の停止に向けて当事者全てに働きかけているという。

 

ティグレ州に近いスーダンのカッサラ州は5日、エチオピアとの国境を閉鎖した。

 

アビー首相は隣国エリトリアとの国境紛争を終わらせたことや政治犯の釈放などが評価され、昨年12月にノーベル平和賞を受賞した。【11月9日 朝日】

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【戦闘の中で市民虐殺の報道も 大量の難民発生】

こうした戦闘のなかで、数百人の市民が虐殺された可能性も報じられています。TPLF側は関与を否定しています。

 

****エチオピア紛争、市民数百人虐殺の可能性=人権団体****

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは12日、戦闘が続くアフリカ東部エチオピアの北部ティグレ州で、数百人の市民が虐殺された可能性があると発表した。

ティグレ州では、同州を支配するティグレ人民解放戦線(TPLF)と連邦政府軍が戦闘を繰り広げている。

アムネスティーは目撃者の情報をもとに、虐殺は9日夜にティグレ州南西部マイカドラで発生したと説明。殺害された人々は、紛争に関与していない日雇い労働者のようで、死体には刺傷の痕があったという。

目撃者によると、TPLFを支援する勢力による犯行という。TPLF側は関与を否定している。【11月13日 ロイター】

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また、戦闘拡大によって、隣国スーダンに逃れる難民が多数発生しています。

 

****エチオピア人約2.5万人、戦闘逃れスーダンに流入****

エチオピア北部ティグレ州で発生した紛争を逃れるために、同国から約2万5000人がスーダンに流入していると国営スーダン通信が報じた。

 

SUNA(国営スーダン通信)は「14日以降に(スーダンの)ガダーレフ州とカッサラ州に到着したエチオピア人難民の数は2万4944人に達した」としている。

 

国連難民高等弁務官事務所のスーダン代表補佐ヤン・ハンスマン氏によると、同局はスーダンにエチオピア人のための難民キャンプの設置を進めていると述べた。

 

スーダン政府はすでに、ウム・ラクバ難民キャンプでエチオピア難民を受け入れると表明していた。同キャンプには、1980年代に飢饉(ききん)を逃れた多くのエチオピア人が身を寄せた。

 

先週は、焼けつくような暑さの中2日かけて徒歩で移動し、疲弊してスーダンに入った難民たちの姿も見られた。その多くは裸足だった。故郷での激しい戦闘を逃れ、スクーターや自転車でスーダンにたどり着いた人たちや、有り合わせの材料で作った小舟で川を渡ってスーダンに入った人たちもいた。【11月16日 AFP】

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【隣国エリトリアも戦闘に関与か】

ティグレ人側は、隣国エリトリアに対してもロケット弾攻撃を行い、紛争が拡大することも懸念されています。

 

****エチオピア州政府、隣国エリトリアを攻撃 紛争拡大の恐れ****

エチオピア北部ティグレ州の州政府与党「ティグレ人民解放戦線」は15日、隣国エリトリアの首都アスマラの空港をロケット弾で攻撃したと明らかにした。

エチオピアの紛争が「アフリカの角」と呼ばれる地域の周辺国にも拡大する恐れが高まっている。

 

外交筋は14日、複数のロケット弾がアスマラの空港近くに撃ち込まれたとAFPに語った。だが、ティグレ州やエリトリアでは通信が制限されており、こうした報告の検証が困難となっている。(中略)

 

TPLF(ティグレ人民解放戦線)を率いるデブレチオン・ゲブレミカエル州大統領はAFPに対し、「エチオピア軍はアスマラの空港も使用している」と指摘し、空港が今回の攻撃の「合理的な標的」となった理由だと語った。

 

TPLFはこれまで、アビー政権がエリトリアから軍事支援を受けていると非難してきた。だが、エチオピア政府はこれを否定している。

 

エチオピアとエリトリアの両政府はこれまでのところ、攻撃に対する反応を示していない。(後略)【11月15日 AFP】

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今日現在の戦闘状況は下記のとおり。TPLF(ティグレ人民解放戦線)制圧に隣国エリトリアも協力しているとの情報もあります。

 

****エチオピア政府軍、北部で1都市制圧 隣国エリトリアも関与か****

エチオピア政府は16日、北部ティグレ州で新たに1都市を制圧したと発表した。連邦政府軍は4日、ティグレ州を支配するティグレ人民解放戦線(TPLF)に対する軍事的制圧に乗り出した。

この戦闘で数百人が死亡、少なくとも2万人が難民となって隣国スーダンに流入している。また政府軍がティグレ人に対し空爆や地上戦を開始してから、複数の残虐行為が行われたと報じられている。

TPLFは、隣国エリトリアがエチオピア連邦政府を支援し、国境付近に戦車や数千人の兵士を展開していると非難している。ただ、エリトリア政府はこれを否定している。

TPLF側は先週末、エリトリアにロケット弾を発射した。

アビー首相から危機対応を任命されたタスクフォースは、政府軍がティグレ州の州都メックエルから120キロの位置にある都市アラマタを「解放した」と発表。

現地は通信事情が悪く、メディア報道も禁じられているため、ロイターは双方の主張の正確さを客観的に検証できていない。ティグレ人側からアラマタに関するコメントは現時点では出ていない。

TPLF側は国連とアフリカ連合に対し、連邦政府軍の行為を非難するよう要請、政府軍がドローンなどのハイテク兵器を使用してダムや砂糖工場などを破壊したとしている。

TPLFの幹部は「我々がこの紛争を始めたわけではない。アビー首相が自身の権力基盤を固めるために戦争を始めた」とし、国家分断の危機を訴えた。【11月16日 ロイター】

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今回の衝突が、かつて実権を有していたティグレ人側が、従来の「力がある民族が実権を握り、甘い汁を独占する」といった思考から抜け出せないために起きたのか、あるいは、新たな権力者となったアビー首相側の専横的な姿勢によってもたらされたものなのか・・・そのあたりはよくわかりません。

 

こうした民族間の衝突自体は、冒頭にも書いたように珍しくもないことですが、アビー首相の場合は「ノーベル平和賞受賞者の」という枕詞が付いて回ります。

 

【エジプトとの対立となっている巨大ダム 貯水・発電開始で強硬姿勢】

その「ノーベル平和賞受賞者の」アビー首相が直面している国際問題が、ナイル川での巨大ダム建設。

エチオピアはこのダムに国の将来を託していますが、ナイル下流のエジプトは死活問題として激しく対立しています。

 

****「アフリカの角」の地政学を変えるナイル川巨大ダム****

エチオピアは、ナイル川の支流に建設した巨大ダムへの湛水を開始する。2011年に建設工事が開始されたこのダムは、アフリカ最大の発電プラントであり、エチオピアの発電能力を倍増させ、サハラ以南で既に最もダイナミックな経済を活性化する電力を供給することになる。

 

巨大発電所の効果としてエチオピア経済は強化され、「アフリカの角」地域における同国の存在感が増すことになろう。

 

この巨大ダムによりエジプトのナイル川の水量が大幅に減少する可能性もあるとされ、エジプトにとっては死活問題とされる。

 

何千年もの間ナイル川を支配してきたエジプトは強く反発している。他方、エチオピアにとっても国家の威信をかけたプロジェクトであり、発電に利用された水は放出されるのでそのような大きな影響は出ないと主張し、延々と交渉が続いていた。

 

ムバラク政権時には、武力でこのプロジェクトを破壊する作戦も練られたとされ、現政権もすべてのオプションがテーブル上にあるとしている。

 

エチオピアの見込みでも湛水には4〜7年かかるとされており、水量の多い雨期に行うとのことなので、直ちに大きな影響が出るわけではないが、中長期的にどのような影響が生ずるかは予測しがたい。

 

今年1月には米国と世銀の仲介により、両国にスーダン(エジプトと同じくダムに警戒感を持っている)を加えた3か国の協議がワシントンで行われ、双方の歩み寄りが見られたものの、貯水期間、放水量、運用方法についての合意は得られなかった。

 

6月末にAU(アフリカ連合)の仲介で行われた首脳間のテレビ会議の結果でもエジプト、スーダンはエチオピアによる一方的措置は控えることで一致したと発表したのに対し、エチオピア側は2週間以内に貯水を開始すると発表し、にわかに緊張が高まっている。

 

このような国際河川の利用については、慣習法を条約化したとされる「国際水路の非航行的利用に関するする条約」が発効しており(ただし、エチオピアとエジプトは同条約を未締結)、国際法上、他の流域国の利益を考慮して衡平かつ合理的な方法で、最適かつ持続可能なものとする義務があるとされてはいるが、下流国の同意が条件とはされていない。

 

エジプトの出方次第では、地域情勢を不安定化させる問題ともなりかねない。とはいえ、エチオピア、エジプト、スーダンの3か国は10年近くに渡り交渉を行ってきており、既に条件闘争の段階に入っている。

 

(中略)いずれにせよ、米国にとっては、上記のような3か国間の調整の中で何らかの役割を果たせれば地政学的に重要な「アフリカの角」への影響力の確保にもつながるであろう。対エリトリア和平でノーベル賞を受賞したアビィ首相の調整力にも期待したい。【7月30日 WEDGE】

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10年近くに渡り交渉を行ってきているものの、逆に言えば、それだけ時間をかけても利害対立は解消されないということでもあり、エチオピア・アビー首相側は貯水・発電開始を強行する姿勢も見せています。

 

****エチオピア、1年以内にダム発電 情報漏れ防ぐため上空飛行禁止****

ロイター通信によると、エチオピアのサヘレウォルク大統領は5日、議会で演説し、ナイル川の上流に建設した巨大ダムで1年以内に水力発電が始まると明らかにした。下流で農業・工業用水をナイル川に依存しダムの稼働停止を求めるエジプトの反発は必至だ。

 

エチオピアの航空当局トップは5日、ロイターの取材に対し、ダム上空の航空機飛行を禁止したと述べた。貯水やダムの稼働状況に関する情報が外部に漏れるのを防ぐためとみられる。

 

貯水は既に7月に始まっている。サヘレウォルク氏は演説で、さらなる貯水に向け準備が進んでいると発表した。【10月6日 共同】

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エチオピア・エジプトの対立に拍車をかけているのが、エジプト・シシ政権に肩入れするトランプ大統領。

 

****トランプ氏が「戦争扇動」 ナイル川ダムで反発―エチオピア****

ナイル川上流でエチオピアが建設中の「大エチオピア・ルネサンスダム」をめぐり、ダムに反対するエジプトに肩入れしたトランプ米大統領の発言が物議を醸している。

 

米国はエジプトとエチオピアの協議を仲介し中立性が求められる立場だが、トランプ氏は「エジプトはダムを爆破するだろう」と主張。トランプ氏の偏った外交姿勢が、当事国の対立をあおる形となっている。

 

ナイル川下流のエジプトとスーダンは、ダムで川の水量が激減すると懸念。エチオピアと運営や貯水方法に関する協議を続けてきた。しかし、エチオピアは今年に入り、一方的に貯水を始めた。
 

トランプ大統領は、米国の要請に応じてイスラエルと関係正常化で合意したスーダンのハムドク首相との23日の電話で「エジプトは生き延びられなくなる。怒るのも無理はない」とエジプトに同情。「約束を破ったエチオピア向けの多額の援助は止めた」と語った。トランプ氏は、強権的なシシ・エジプト大統領と緊密な関係にある。
 

これにエチオピアは猛反発した。アビー首相は声明で「脅迫は見当違いで無益だ。いかなる攻撃にも屈しない」と批判。ゲドゥ外相は駐エチオピア米大使を呼び、「現職米大統領がエチオピアとエジプトの間で戦争を扇動するのは、国際法上も受け入れられない」と抗議した。
 

米政府は昨年11月、エジプトの要請を受ける形でワシントンにエジプト、エチオピア、スーダンの3外相を招き、仲介を本格化させた。米大統領選に向けたトランプ政権の外交成果の一つとするため2月の包括合意を目指したが、新型コロナウイルスの混乱で交渉は停滞。7月に貯水が始まって、トランプ政権の面目はつぶされた格好になっていた。【10月28日 時事】

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エジプトも、ピラミッドの時代から数千年、「ナイルの賜物」に依存する体質が少しも変わっていないあたり、考えを新たにする必要があるようにも思います。

 

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タイ 長期化する若者らの抗議行動 王室改革をも求める声に「愛」を語るワチュラロンコン国王

2020-11-15 22:49:57 | 東南アジア

(地下鉄の開通式に出席後、集まった支持者に手を振るワチラロンコン国王(左)とスティダー王妃=タイの首都バンコクで2020年11月14日 【11月15日 毎日】)

 

【長期化する抗議行動 若者らの3つの要求】

これまでも何回か取り上げてきたタイにおける若者らの政府への抗議行動は、思いのほか長期化し、いまも継続中です。

 

その要求は、「プラユット首相の退陣」「非民主的な憲法の改正」、そして従来はタブーだった「王室制度の改革」ですが、どれもおいそれとは実現しそうにはない難しいもの。

 

****タイ反政府デモ 3つの要求に異例の事態****

タイで2020年7月から続く、学生らによる大規模な反政府デモ。交差点や道路を占拠する光景も、すでに特別なものではなくなってきました。

 

抗議活動が長期化する中で、学生らはこれまで公で語られることのなかった、ある改革についても声を上げはじめています。彼らは何を求め、なぜ大規模なデモを続けるのか、その背景を探ります。

■タイの若者をデモに駆りたてたもの
10月のデモでは、警察車両がデモ会場に向け、放水しながら進入してきました。警察との衝突も起きていて、デモの参加者は「国家が武器を持たない国民にこんなことをした」「政府は我々と話すべきで、もっと良い解決策があったはずだ」と訴えます。この衝突は、商業施設も建ち並ぶバンコクの中心部で起きました。

こうしたデモが広がるきっかけは、2月に憲法裁判所がある政党に解党命令を出したことでした。

解党されたのは政権批判の急先鋒で、若者から絶大な支持を集めていた野党「新未来党」。党首は最後の会見で「政府は私たちを潰そうとしているが、潰せないと証明するときだ。今より強くならなければいけない」と支持者らに呼びかけました。

こうした裁判所の判断には政権の意向が働いたとされ、バンコクで抗議集会が始まりました。

そこを襲った新型コロナウイルスの感染拡大。非常事態が宣言され、集会は禁止されました。ただ政府は、感染拡大が収まったあとも「第2波に備える」として、非常事態宣言を何度も延長。学生らは集会禁止が目的だと反発し、デモの拡大につながりました。

■学生らの求める「3つの改革」
民主化を求める学生らの要求は、大きく3つあります。1つめは、「プラユット首相の退陣」です。プラユット首相は陸軍出身で、2014年のクーデターを主導。軍政から民政への移管を目指した2019年の総選挙のあとも首相を続けています。学生らは軍主導の強権政治だと批判しています。

2つめが、「非民主的な憲法の改正」です。現在の憲法は軍事政権下で定められていて、事実上、軍が上院議員を任命できる内容となっています。これでは民意が反映されないと反発を強めているのです。

そして3つめの要求は、タイ社会に衝撃を与えました。「国王を君主とする今の王室制度の改革」です。タイで王室は神聖で不可侵な存在とされています。王室を批判すれば罪に問われますが、そのタイで公然と改革が叫ばれるのは、異例の事態です。


■なぜ今、王室の改革が求められるのか
批判の矛先は、ワチラロンコン国王に向いています。新型コロナウイルスの影響で国民が苦しい生活にあえぐ中、ドイツで生活していることなどが「国民に寄り添っていない」と反発を呼んでいるのです。

デモの中で初めて王室改革の声をあげた人権派の弁護士が、NNNの単独インタビューに応じました。弁護士のアノン氏は「多くの参加者がタブー視されてきた君主制(王室制度)に疑問を持ち始めた。誰もが今、タイで何が起きているか気づいている。だから私たちはそれについて堂々と話すことにした」と力を込めて話します。

さらに学生らは、国王が即位後、王室財産を自ら運用できるようにしたり、軍の精鋭部隊を直轄にしたり、権限を強化していることにも反発しています。アノン氏は「君主制が権力を拡大していることがはっきりしている。それは民主主義が許す範囲を超えている」と指摘しました。

ただ、アノン氏は君主制の廃止は求めていないと強調します。「王室を改革して民衆とともに歩むことは、まだ可能だと思う。(王室制度には)やはりタイらしさが残っている。しかし、もし改革が拒否されたら、間違いなく暴動につながる」とも強調しました。

権力や王室という特権階級に対して高まる学生らの不満。民主化を求めるデモは、収束の見通しが立っていません。【11月10日 日テレNEWS24】

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【国王を頂点とする既成秩序への挑戦】

若者らの抗議行動は、王室を頂点とした軍部・有産階級らからなる既成秩序への挑戦になります。

似たような動きはタクシン元首相がバラマキ・金権なども駆使して展開しましたが、タクシン元首相は既成秩序の反撃で国外逃亡生活を余儀なくされています。

 

****タイ抗議運動は「王室・軍・有産階級」に勝てるのか****

(中略)今回大っぴらに王室改革が求められた背景には国王の交代がある。前のプーミポン国王が国民からの敬愛を一心に集めていたのに対し、今のワチュラロンコン国王は、その言動に批判が多い。

 

前国王に比べ人格者でない、1年の大半を国を空けドイツで過ごす、王室の財産を王室財産局の管理から国王自身の財産にした、国王の権力を憲法に期待された立憲君主としての地位を超えて拡大しようとしている、などである。

 

10月20日付けのワシントン・ポスト社説‘A student movement offers a ray of hope for democracy in Thailand’は今回の動きについて、「タイにおける民主主義が何年もの抑圧を経て復活しうる希望の光である」と言っているが、あながち誇張とは言えない。

 

かつてタクシンが首相となった時、バンコクを中心とするエリート層は反発した。タクシンはタイ東北部を中心とする数で勝る農村部で圧倒的な支持を集め、選挙をやればタクシンが勝つこととなる。

 

これに対し、タクシンが首相になるのを妨害するため、新しい憲法では上院議員も首相の任命に参加するが、その上院議員はすべて任命とし、当時のプラユット元陸軍司令官の政権の意向が反映されるように図った。これは民主主義の原則を曲げた典型的な例である。

 

その背景には王室、軍、有産階級の結びつきがタイの政治を支配してきたという事情がある。人口から言えば農村地帯の方が多いのであるが、王室と軍に近いバンコクを中心とする有産階級の政治的発言力の方が強かったというのが実態であった。

 

また、タイは依然として階級社会の様相を帯びているように思われる。これが微妙な形で政治にも反映されていると言えるのかもしれない。

 

学生を中心とする抗議運動は、このような社会的慣性を打つ破る力を持っている可能性がある。ただ、抗議運動が掲げているプラユット政権の退陣、憲法の改革、王政の改革は容易に実現しそうにない。当分の間、タイは抗議運動で揺さぶられ続けるのではないかと思われる。【11月13日 WEDGE】

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【国王の最近の一連の発言 真意は?】

焦点となっているのがワチュラロンコン国王

 

国王は多くの時間をドイツで過ごしていますが、父のプミポン前国王の命日と仏教の祝日に合わせ、10月頃からはタイに滞在しているようです。(国王が普段、外国で贅沢な暮らしをしているというのも奇妙な話ですが・・・)

 

そのワチュラロンコン国王、さすがに危機感を持ったのか、最近国民向けのメッセージを連発しています。

 

****タイ国王、国民への「愛」示す デモ数か月続く中****

タイのマハ・ワチラロンコン国王は1日、同国で政権の退陣や王室改革を求めるデモが数か月にわたり続く中、英チャンネル4の取材ですべての国民に対する「愛」を示した。国王が取材に応じるのは異例。

 

ワチラロンコン国王はタイ権力の頂点に立ち、その影響は同国社会のあらゆる側面に及ぶ。しかし、かつては安泰とされた王室も、民主派デモの高まりにより前例のない困難に直面している。デモ指導者の中には、王室批判を厳格に禁じる不敬罪の廃止などの改革を訴える人もいる。

 

1日、国王を一目見ようと集まった数千人が首都バンコクの王宮(グランドパレス)前にあふれ、国王のシンボルカラーである黄色の服を着て王室への支持を表明。

 

ワチラロンコン国王とスティダー王妃の写真を撮ろうと王宮近くに押し寄せ国王夫妻を待ち構えた。国王が王宮から出てくると、群衆は「私たちは忠実に生き、忠実に死にます」「国王万歳!」と声をそろえた。

 

国王は群衆の間を縫って歩き、支持者から花を受け取った。地元メディアの映像によると、国王が「ありがとう」と述べ、自身の写真にサインする場面もあった。

 

群衆にいた英チャンネル4の記者から改革を求める抗議デモ参加者について問われると国王は「私たちは同じように彼らを愛している」と述べた。譲歩の余地があるかとの問いに国王は「タイは譲歩の国だ」と答えた。チャンネル4の公式ツイッターに投稿された映像で明らかになった。(後略)【11月2日 AFP】

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その後、11月8日、王宮に向けて行進していたデモ隊に警察が放水し、地元メディアによると5人が軽傷を負いました。主催団体はデモ参加者に、ワチラロンコン国王に改革を訴える手紙を書いて持参するよう呼びかけていました。

 

****タイ国王「この国を愛そう」、デモ巡りメッセージ***

タイのワチラロンコン国王は10日、東北部ウドンタニ県を訪問中、王室改革などを求める抗議活動を巡り、国民の結束と愛を呼び掛けるメッセージを披露した。デモ参加者は2日前に国王の権限縮小を求める書簡を国王に送っていた。

王室は何カ月も続くデモについてコメントを出しておらず、国王の発するメッセージに注目が集まっている。

国王はウドンタニ県知事へのメッセージとして「私たちはみな、互いを愛し、大事に思っている。この国を大事にし、繁栄を求めてこの国やタイらしさを守るために互いを助けよう」と記した。

王室支持者から渡された自身と王女の写真に「国を愛し、国民を愛し、タイらしさや真の幸福を大事にしよう」と書いた。

首都バンコクでは8日、王室改革やプラユット政権の退陣などを求める多数の市民が王宮までデモ行進した。

デモ参加者は「国王が真に民主主義を大切にすれば、全ての人々が幸せを見いだせる」と訴えた。

国王は先週、反体制デモについて初めて公に発言し、デモの参加者も「全員同様に愛している」などと述べた。

プラユット首相は権力を維持するために昨年の選挙を操作したとのデモ参加者の主張を否定し、辞任しないと言明している。【11月11日 ロイター】

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そして、今度は「よく考え、善を行い、希望を持ち、耐えなさい。タイ人として団結しなさい」とのこと。

 

****タイ国王、国内の団結求めるメッセージ 「妥協の国」強調****

タイのワチラロンコン国王は14日、バンコク市内のイベントに出席し、国内の団結を求めるメッセージを発した。ロイター通信によると、国王は支持者から差し出された写真の裏に「よく考え、善を行い、希望を持ち、耐えなさい。タイ人として団結しなさい」と書き記したという。王室支持者と反体制デモ隊の対立の解消を呼びかけたとみられる。

 

バンコクでは不敬罪の廃止や王室財産の透明化といった王室改革とともに、プラユット首相の退陣を求める反体制デモが継続中。国王夫妻は14日、バンコク市内で開かれた地下鉄開通式に出席したが、デモ隊は移動中の夫妻の車列に向かい、独裁への抵抗を意味する3本指を掲げるなど、抵抗姿勢を取り続けている。

 

反体制デモについて王室は公式コメントを出していない。だがデモ隊が王室批判を強めるのに従い、国王の言動が報じられることが増え、その真意を含め、さまざまな臆測を呼んでいる。(後略)

 

1日には、欧米の記者に反体制デモの参加者にかける言葉を問われると、国王は「ノーコメント」としたうえで「全ての人を同じように愛している」と返答。王室改革で歩み寄りの余地があるのかを聞かれると「タイは妥協の国だ」と答えた。

10日には東北部ウドンタニ県を訪問し、県知事へのメッセージとして「私たちはみな、互いを愛し、大事に思っている。国を大事にし、国の繁栄やタイらしさを守るために助け合おう」と記した。今回のメッセージもその流れとみられる。【11月15日 毎日】

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「私たちは同じように彼らを愛している」

「タイは譲歩の国だ」

「私たちはみな、互いを愛し、大事に思っている。この国を大事にし、繁栄を求めてこの国やタイらしさを守るために互いを助けよう」

「よく考え、善を行い、希望を持ち、耐えなさい。タイ人として団結しなさい」

 

世界でも最も資産が多いとされ、これまで奇行で知られ、贅沢な暮らし、多彩な女性関係も話題になる方に言われる筋合いはない・・・・と言いたくもなりますが、それはともかく、一連の発言の意図は・・・?

 

国王がこのように「愛」を語っている状況では、プラユット首相としてもあまり暴力的な対応もしづらいのでは・・・とも思いますが、甘いかな?

 

1928年、関東軍によって奉天軍閥の指導者張作霖が暗殺された満州某重大事件では、陸軍の関与・責任を明らかにするように迫る昭和天皇に対し、田中義一首相は諸般の事情から軍の関与を明らかにできませんでした。

 

これに対し、「お前の最初にいったこととは違うじゃないか。田中総理のいうことはちっともわからぬ。再び聞くことは自分はいやだ」といった趣旨の叱責が天皇からあったとか。

 

このお言葉を聞いた田中首相は立つ瀬がなくなり、即座に辞職。

 

昭和天皇も、自分の発言の重みを改めて感じたのか、以後、政治に影響するような発言には慎重になったとか。

もっとも、そのことが軍部の専横を容認する結果ともなりましたが・・・。

 

ワチラロンコン国王とプラユット首相の間で、抗議行動に関し、どのような言葉が交わされているのか。

「穏便におさめろ」と言っているのか、「不埒な奴らを早く抑え込め」と言っているのか・・・。

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移民・難民をめぐる状況、新型コロナでカオスに それでも増加する命がけの密航

2020-11-14 22:12:50 | 難民・移民

(リビア・フムスの浜辺に運ばれた、転覆した移民船の生存者ら(2020年11月12日撮影)【11月13日 AFP】)

 

【新型コロナ禍で難民再定住事業はカオスへ】

欧米を目指す移民・難民の話題は、欧州に大挙押し寄せた頃に比べると目立たなくなってはいますが、状況が改善した訳でもなく、今年3月以降の新型コロナ禍による国境封鎖、国際フライトの運航停止などによってむしろ悪化しています。

 

各国のビザ発給業務の停止、大使館機能の縮小などで、難民再定住事業は無期限停止状態にもなっています。

 

****コロナ禍にあえぐ世界の難民 渡航制限で生命の危機****

今年3月13日、ミシェル・アルファロ氏がジュネーブの国連本部にあるオフィスを離れるまで、彼女の任務は順調に進んでいた。世界で最も脆弱な立場にある難民のために住居を見つけるという仕事だ。

 

だが4日後、事態はカオスへと転じた。新型コロナウイルスの感染拡大を恐れた世界各国の政府は国境の封鎖、ロックダウンの実施、国際航空便の運航停止を発表した。国連は、難民再定住プログラムの中断を余儀なくされた。

 

難民問題を担当する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で再定住プログラムを指揮するアルファロ氏は、「あの週にすべてが崩壊した」と振り返る

 

新型コロナの蔓延によって混乱に陥った人々は数百万人にも上る。アルファロ氏が支援してきた難民たちは、戦争と暴力、紛争や迫害からの脱出を約束されていた。 

 

状況次第で、申請から何年もかかる審査過程を経て、米国やカナダといった国で新生活を始めるチャンスを獲得することもできたはずだ。しかし、何千人もの人々が突然、多くは電話1本で、彼らが乗るはずだったフライトが運航中止になったことを知らされたのである。

 

ソマリア出身の23歳、ユバー・モハメドさんもその1人だ。前夫からイスラム原理主義を奉じる武装集団アルシャバーブへの参加を強要されたため、彼女は逃げだした。その後、モハメドさんの父親はアルシャバーブにより殺された。彼女は3月24日に英国向けのフライトに搭乗する予定だった。

 

モハメドさんは難民として過した辛い5年間について、「自分がどこに向かっているのか分からなかった」と語る。「ただ進んでいくだけで、自分では何もコントロールできなかった」

 

<難民の再定住率は大幅に低下>

国連のデータによれば、2020年上半期、難民の再定住率は2019年の水準に比べ69%減の10000人強になってしまった。再定住プログラムは6月に再開されたが、ペースは以前よりも大幅に低下している。

 

パンデミック(世界的大流行)が襲来したとき、移民をめぐる空気は厳しくなっていた。グローバルな連帯を維持しようという国際的な努力がますます疲弊するなかで、パンデミックがさらに新たな綻びを生み出した。

 

ナショナリズム、感染への恐怖感、経済への懸念、高齢化する有権者の変革に対する抵抗により、「迫害や虐待、暴力のリスクに直面した人々は庇護に値する」という戦後長きにわたり定着していたコンセンサスは損なわれつつある。

 

英国政府は今月、フランスからの不法移民を運ぶボートの増加への対処をめぐり、軍の協力を要請した。ギリシャは今年に入ってトルコからの移民数千人の受け入れを拒否しており、ボートで漂着する難民を阻止すべく警戒を強化している。欧州連合は、欧州大陸南岸への移民流入に歯止めをかけるため、アフリカ諸国に数十億ドルの資金を拠出している。

 

難民再定住プログラムにおいて最も多くの難民を受け入れているのは米国であり、近年では、米国が受け入れる難民の過半数がこのプログラムを経由している。

 

だが、2017年に反移民政策を公約として就任したドナルド・トランプ大統領のもとで、このプログラムを介して米国にたどり着く難民の数は半分以下に減少した。同大統領はほぼ同じ公約を掲げて再選を目指している。米国は昨年、国連の仲介により再定住した難民の3分の1を受け入れているが、現在、受け入れを縮小しつつある。(中略)

 

国連の試算では、緊急の支援を必要としている難民は140万人。だが、新型コロナ以前から、彼らのために資金を集めて新たな住居を見つけることは困難だったという。

 

再定住プログラムを担当するアルファロ氏は、「今年は難民にとっては特に困難な年になっている」と言う。「再定住に協力していた国は、どこも(新型コロナの)影響を受けている。無傷の国は存在しない」

 

<希望の旅立ち、直前の中止> 

ソマリア出身の23歳、モハメドさんが足止めを食らっているのは、ジュネーブから2000マイル南に離れた、ニジェールの首都ニアメ郊外の砂原に設けられた難民キャンプだ。2人の子の母であるモハメドさんは、国連が運営するアムダレイユ難民キャンプの小さなテント型の建物で風雨を凌いでいる。フライトが中止になったことをUNHCR職員に知らされたのは、出発予定日のわずか数日前だった。(中略)

 

彼女の旅が始まったのは2015年だ。「一番安全なのは子供を置いて夫から逃げることだ」と父親から言われ、彼女は沿岸の都市ボサソに向かうバスに乗った。

 

ある男性が、アデン湾を越えてイエメンに向かうボートに乗らないかと声をかけてきた。数十年にわたり、紛争から逃れようとするソマリア人にとっては定番のルートだ。だが、この提案を受け入れたことで、彼女は気づかぬうちに難民相手の密航請負業者のネットワークにはまり、金品を奪われ、レイプされ、イエメンからスーダン、リビアへと売られていった。

 

家を離れて数日後、彼女は居場所を知らせようと父親に電話を掛けたという。だが電話に出た継母は、父親は娘の脱出を助けたために武装勢力に殺された、と告げた。

 

リビア南部では、ある密航請負業者がモハメドさんを繰り返しレイプした。彼女は2016年の春、その男の子供を流産した。男はモハメドさんを捨て、彼女は北への旅を続けた。

 

その年の暮れ、リビア北部の移民一時収容所で、モハメドさんは別の密航請負業者から殴打された。十分な旅費を持っていないことを告げたためである。

 

2016年、ピックアップトラックの屋根のない荷台で、ガソリン臭い水をすすりながら、スーダンからリビアへとサハラ砂漠を越えた。その途上、モハメドさんの心はずっと残してきた子どもたちへの想いで溢れていた。彼女は、子どもたちが他の家族と一緒にいると思っている。

 

「彼らがどこにいるのかは分からない」と彼女は言う。「私は母親なのに、子どもたちと一緒にいられない。ただ泣くだけだ」(後略)【9月3日 ロイター】

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【増加するスペイン・イタリアを目指す移民・難民 事故も多発】

そんな状況にあって、正規の難民・移民手続きを経ることなく、密航請負業者に身をゆだねて、命がけの渡航を試みる者も多く、それに伴って事故による死者も。

 

“ 仏沿岸で難民ボートが転覆、少なくとも3人が死亡”【10月28日 CNN】

 

****移民船が転覆、少なくとも140人死亡 今年最多の犠牲者****

西アフリカのセネガル沖で移民を乗せた船が転覆し、少なくとも140人が死亡した。国連の国際移住機関(IOM)が29日に明らかにした。このルートを航行する移民船は急増しているが、今回の転覆による犠牲者の数は今年に入って最も多かった。

 

IOMの発表によると、同船には約200人が乗船していた。セネガルとスペインの海軍や、近くにいた漁船などが59人を救出し、20人の遺体を回収したと報じられているという。

 

同船はセネガル西部のムブールを出航してスペイン領カナリア諸島に向かっていたが、出航から数時間後に火災が発生、セネガル北西部のサンルイ沖で転覆した。

 

IOMによれば、地中海中部では過去1週間の間に4隻の転覆が相次ぎ、英仏海峡でも1隻が転覆していた。西アフリカからカナリア諸島を目指す移民船の数は、今年に入って4倍以上に増え、1万1000隻に上っていた。

 

「若者の絶望に付け込む人身売買網や密輸網を解体させるため、政府や関係者、国際社会の連帯を求める」とIMOは訴えている。

 

セネガル政府とIOMはサンルイに調査団を派遣して、救助された人などの支援に当たる。

IOMによれば、9月だけでも移民663人を乗せたボート14隻が同じ航海を試み、うち4分の1以上が転覆したり遭難したりしていた。【10月30日 CNN】

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上記記事にあるように、アフリカから欧州を目指す場合のルートとして、スペイン領カナリア諸島を目指す移民・難民が増加しています。

 

****移民漂着、2日間で1600人超 スペイン・カナリア諸島****

スペイン・カナリア諸島の当局は8日までの2日間で、アフリカから1600人超の移民が漂着したと明らかにした。短期間にこれほど多くの移民が漂着したのは約10年ぶりだという。

 

救急当局によると、7日にはグランカナリア島、テネリフェ島、エルイエロ島に計1000人超が流れ着いた。移民らは耐航性の低い船、約20隻に分乗していたという。エルイエロ島では1人が遺体で収容された。さらに翌8日朝には、約600人が別の複数の船で漂着した。

 

数か月前に欧州連合とリビア、モロッコ、トルコが国境管理の強化をめぐって合意に至って以降、北アフリカ沿岸から100キロほどに位置するカナリア諸島では、難民の漂着が急増している。

 

スペイン内務省のデータによると、今年1月以降これまでにカナリア諸島を目指した不法移民は、昨年同期比7倍を上回る1万1000人超となっている。 【11月9日 AFP】AFPBB News

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スペイン・カナリア諸島だけでなく、リビアからイタリアを目指す難民・移民も増加しています。

 

****リビア沖でゴムボート転覆 欧州めざす難民ら94人死亡****

北アフリカ・リビア沖の地中海で12日、欧州をめざしてリビアを出港した難民・移民を乗せたゴムボート2隻が相次いで転覆し、少なくとも94人が死亡した。この海域では11日にも、NGOの難民救助船が難民・移民を乗せたゴムボート1隻を見つけ、111人を救助したが、救助船に泳いで避難しようとした6人が死亡した。

 

イタリアメディアなどによると、12日に転覆した2隻のゴムボートには女性や子どもを含む140人以上が乗っていたという。これまでにリビアの沿岸警備隊や漁師によって47人が救助された。11日に死亡した6人の中には生後6カ月の男の子もいた。

 

国際移住機関(IOM)によると、欧州をめざして地中海を渡ろうとして死亡した難民・移民は今年、少なくとも900人に上る。IOMは13日に出した声明で「地球上で最も危険な海上ルートを終わらせなければならない。移民・難民を安全に下船させ、無意味な死をなくすため、各国は連帯しなければならない」と訴えた。

 

イタリア内務省によると、リビアやチュニジアなどのアフリカ北部をゴムボートなどで出港し、イタリアなどの地中海沿岸の欧州諸国をめざす難民・移民は今年急増している。今年1月から今月13日までに地中海を渡ってイタリアに上陸した難民・移民は3万1214人で、昨年同期(9944人)の約3・1倍となった。【11月14日 朝日】

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【「玄関口」で高まる緊張】

「玄関口」ともなっているスペイン、イタリア、ギリシャでは、その後の移送も決まらず、現地では緊張状態も生じています。

 

****ギリシャ警察、火災で住む場所失った難民に催涙ガス 難民キャンプ新設めぐり衝突****

難民キャンプの火災で1万人以上が生活場所を失ったギリシャ・レスボス島で12日、新たな難民キャンプの建設に抗議する難民と警察が衝突し、警察が催涙ガスを噴射した。

 

火災当時、モリア・キャンプには収容可能人数(3000人)を大幅に超える約1万3000人が暮らしていた。難民は島を離れることを切望している。

 

警察と難民の衝突は、ギリシャ当局が設置した仮設キャンプ近くで起きた。警察の封鎖線近くに火が放たれ、消防隊が消火にあたる場面もあった。

 

難民はモリア・キャンプへ続く道を封鎖する警察に接近し、「自由」を訴えるプラカードを掲げながら新しいキャンプ施設の建設に反対した。

 

新施設の建設をめぐっては島の住民からも強い反発が上がっており、救援物資の配達を止めようと住民が道路を封鎖している。

 

現在は生活場所を失った難民のために、同島カラテペに新たなキャンプが設置されている。(中略)

 

モリア・キャンプには約70カ国からの難民が生活していた。そのほとんどはアフガニスタンからの難民だった。

 

難民問題めぐり欧州が分断

主にイタリアやギリシャへ渡った大量の難民の扱いは、欧州各国を長年にわたって分断させてきた。

欧州中部や東部の多くの国は、難民の受け入れを分担するという考えに公然と抵抗している。

 

イタリアとギリシャは、裕福な欧州北部の国々がさらなる対応を取らずにいると非難してきた。

 

難民のために何が行われているのか

ギリシャのノティス・ミタラチ移民相は、新たな難民キャンプで12日から火災で避難場所を失った人たちの一部を受け入れる方針だと述べた。

 

ドイツは11日、モリアで生活していた身寄りのいない未成年者400人を受け入れることで、欧州10カ国が合意したと発表した。

ホルスト・ゼーホーファー独内相は、モリア・キャンプでの火災が「欧州で何を変えなくてはならないか、私たちに鋭く突きつけた」と述べた。

 

しかし複数の慈善団体やNGOのグループはドイツ政府に宛てた書簡で、未成年者だけでなく全ての難民が、追加の支援策を必要としていると訴えた。

 

この公開書簡の中で、同グループは、「モリア・キャンプでの恥ずべき状況や火災による大惨事は、欧州の難民政策の失敗がもたらした必然的な結果だ。今や欧州は、ついに影響を受けた人々を助けなければならない状況に置かれている」とした。

 

火災について分かっていること

地元警察によると8日夜、モリア・キャンプ内の3カ所以上から出火があり、キャンプがほぼ壊滅状態となった。

同キャンプをめぐっては、火災の数時間前に新型コロナウイルスの検査で35人の陽性者が出たとの報告があった。このうち8人は隔離されていたとみられる。

 

当局は先週、ソマリアからの難民1人の新型ウイルス感染が確認されたことを受け、施設を隔離状態に置いていた。

ギリシャのミタラチ移民相は、隔離措置が講じられたことを受け、亡命希望者が火をつけたと述べた。感染が確認された人の中には、家族全員での隔離を拒否した者もいたと報じられている。

 

一方でミタラチ氏は、キャンプの破壊を目的とした意図的な放火だとは明言しなかった。

一部の難民はBBCペルシャ語に対し、モリア・キャンプで難民とギリシャ軍が衝突した後に火災が発生したと証言した。【9月13日 BBC】

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【命がけの渡航で欧州にたどり着いても、開けぬ展望】

無事に欧州にたどり着いても、その先には展望はありません。

上記ギリシャのように、施設で希望もなく収容される人々、なかには自力でフランスからイギリスを目指す人々も。。

 

****「神と海とわれわれだけ」 危険な英仏海峡横断にかける移民****

ゴムボートで英仏海峡を渡り英ドーバーの海岸を目指すワリドさん(中央)や兄家族らの移民(2020年9月11日撮影)。

 

ついに英国だ!何年もかけて歩いた国は数知れず、フランス沿岸の清潔とは言い難いキャンプでの数週間と英仏海峡の荒波に小さなゴムボートでもまれた7時間を経て、ワリドさんは、ついにやり遂げた。

 

ワリドさんは「死のルート」と呼ばれる海峡横断に成功したが、友人のファラさんは、フランス側で出発の機会を待つばかりだ。

 

AFPの取材2チームは、仏北部沿岸の街グランドサントから英仏海峡を越え英南部のドーバーを目指すクウェート人のワリドさんとイラク人のファラさんを3週間にわたって同行取材した。50代のファラさんは、アルワちゃんと重度の糖尿病を患うロワネちゃんの娘2人と一緒に行動している。

 

仏沿岸からドーバーの白い崖までの距離はわずか33キロ。晴れた日には対岸が見える距離だが、海峡を行き来する船の数は世界有数を誇り、その横断には最大級のリスクが伴う。

 

仏海事当局によると、今年1月1日から8月31日までに海峡の横断を試みた移民は6200人に上る。昨年は、1年間で2294人だった。

 

金銭的に余裕があればインフレータブルボート(ゴムボート)に乗ることができるが、そうでない場合はパドルボードやカヤック、浮き輪などに頼ることになる。

 

今年8月、ゴムボートで横断を試みた28歳の移民が溺死した。昨年は4人の遺体が海上や仏海岸で見つかっている。(後略)【11月13日 AFP】

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“(イギリスにたどり着いた)ワリドさんは歓喜し、どっと疲れが出て、そして感情がこみ上げた。突然、携帯電話を取り出して海に投げ入れた。これまでの軌跡を全て消すためだ。一緒に乗っていた人々も両腕を空に伸ばし、大声を出した。”【同上】

 

命がけの7時間の航行の末にイギリスにたどりついたワリドさんですが、新型コロナのロックダウンに揺れるイギリスでどのような生活が待っているのか・・・そうした欧州での厳しい生活に関する情報が移民・難民に伝わっているのか?

 

そうした情報を承知で、それでも「座して祖国で死を待つよりは・・・」と、命がけの渡航に賭けるのか・・・。

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フランス 2度目のロックダウン 今春に比べると「緩め」 規制徹底を難しくする根強い個人主義も

2020-11-13 22:29:18 | 欧州情勢

(フランスの新型コロナ新規感染者数推移)

 

【2度目の都市封鎖は緩め」】

日本も新型コロナ第3波といった状況になりつつありますが、周知のように欧州では一足早く猛烈な感染拡大に見舞われています。

 

フランスの感染者数は累計でロシアを抜き世界第4位になったとか。

10月30日からは、今年の春以来となる全土での外出制限(ロックダウン)も始まりました。

 

****フランスの新型コロナ感染者数、ロシア抜き世界で4番目の多さ****

フランスで11日、3万5879人の新型コロナウイルス感染者が確認され、累計は186万5538人と、ロシアを抜いて欧州・ロシア地域で最多となった。ロイターの算出では世界で4番目に多い。

フランスは約2週間前にロックダウン(都市封鎖)を再開。11日の新規感染者数は前日の2万2180人は上回ったが、7日に記録された過去最多の8万6852人は下回った。

過去24時間の入院者は441人で、先週前半の1日当たり1000人超の水準を下回った。

集中治療を受けている人は53人で、10月半ば以降で最も少ない。

過去24時間の死者は328人。10日は1220人だったが、高齢者施設で数日間に亡くなった754人が含まれていた。同国の累計死者数は4万2535人。【11月12日 ロイター】

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ただ、ロックダウンとは言いながらも、その実態は“今春に実施した最初の封鎖に比べて緩やかなスタートになった”【下記 産経】とも。

 

****2度目の都市封鎖 「緩め」スタート 「文化は例外に」の声も フランス****

新型コロナウイルス対策で10月30日、フランスは2度目の都市封鎖に入ったが、家電店などの営業は容認され、今春に実施した最初の封鎖に比べて緩やかなスタートになった。「文化を守れ」と訴え、書店や美術館の継続を求める声も広がっている。

 

パリ中心部の大手家電用品店は30日、外出禁止令が始まったのに、店内に20人近く客がいた。営業が認められる「生活必需品の販売店」扱いのため。DVDや文具コーナーも開いたままで、金融業のルカ・デヌボさん(35)は「街中は意外と人出が多くて驚いた」と話した。

 

生花店も今週末、例外的に営業が認められた。11月1日はカトリックの祝日で「墓参りの日」として定着しているためで、店員は「前回の封鎖では、入荷した花を全て廃棄しなければならなかった。今回は閉店準備の余裕がある」と話した。週明け以降、注文制で営業を続けるという。

 

3〜5月の都市封鎖では、外出への取り締まりのため10万人の警察官が動員されたが、今回は巡回するパトカーはまばら。家族連れに人気の公園も開いている。「社会的距離」という概念が一般化したことに加え、コロナ流行で「規制疲れ」が広がる中、経済や市民生活への負担を軽減したいという政府の配慮がうかがえる。今回は都市封鎖中も、小中学校や高校は授業を続ける。

 

一方、レストランやカフェ、書店、劇場などは今回も閉鎖され、政府への不満が広がる。

 

30日には、ノーベル文学賞を受賞した作家パトリック・モディアノさん、思想家のジャック・アタリさんら出版界の250人が「文化を守れ」と訴え、マクロン大統領に書店の営業を求める公開書簡を発表した。

 

中部ヨンヌ県では、人口約7千人の自治体の首長が、独自に規則を出して小売店営業を許可。「都市部のスーパーの営業が認められるのに、地域を支える小売店を認めないのは不公平」と主張し、政府と争う姿勢を示した。政府は商店営業について、2週間ごとに感染状況を見ながら、規制のあり方を判断する方針。【10月31日 産経】

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もっとも、この“緩いロックダウン”に首都パリでは追加対策も。

 

****パリ、新型コロナで追加対策 夜間営業を制限****

フランスの首都パリのアンヌ・イダルゴ市長は5日、新型コロナウイルス対策の一環で追加の制限措置を導入する方針を示した。夜間営業を禁止する店舗を増やす。

仏BFMテレビに明らかにした。飲食物の持ち帰りサービスを行う一部の店舗の営業を夜10時までとする。

同国のマクロン大統領は先月、全土で再び都市封鎖(ロックダウン)を実施すると発表したが、パリでは依然として夜間に外出する人が多く、追加の対策が必要だと判断した。

同市長は「ルールを守らない人がおり、大勢の人々の健康を危険にさらしている。新たな制限措置が必要だ」と述べた。

フランスで4日に報告された新規の新型コロナ感染者は4万0558人。4日に報告された死者は385人、累計の死者は3万8674人となった。【11月5日 ロイター】

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【規制に従わない人も多い実情】

規制が“緩く”なるのは、今春のような厳しい対応には国民の抵抗が強いこと、新型コロナに対する一定の認識が進み今春のようなパニック状態にはないことなどがあるとおもわれますが、個人主義が強いフランスではその“緩い規制”にも従わない人も多く、規制の徹底が難しい状況もあるようです。

 

そのあたりの状況について、元フジテレビ女子アナでフランス人を夫に持つ中村江里子氏が“怒って”います。

 

****中村江里子、夫に怒り「嫌味の一つも言いたくなる」ロックダウンしてから「まだ数日です」****

パリ在住の元フジテレビアナウンサーでタレント、中村江里子(51)が9日、ブログを更新。ロックダウン中にも関わらず、ディナーの誘いを断ることをためらった夫に対して怒りをあらわにした。

 

フランスは先月30日から12月1日までの約1カ月間にわたり、2回目のロックダウン(都市封鎖)に踏み切っているが、中村は夫から「あのね、ディナーの誘いが2件きているんだ…。勿論、断ったけれども…エリコはどう思う?」と聞かれたという。

 

中村は「彼が『断ったけれども…』と言う前から私は鬼の形相になっていたのでしょう 『まさか、今じゃないよね?ロックダウンが終わったらってことよね?勿論…』そうじゃないことはわかっていたけど、嫌味の一つも言いたくなる。私が怒っていた理由は…これです」と明らかにし、「この状況が数カ月続いたら…レストランやカフェに行きたくなるし、誰かに会いたいし、騒ぎたくなると思う」と理解を示しつつも、「でも…まだ数日です」とたしなめた。

 

続けて「レストランやカフェやバーが一体何のために休業となってしまっているのかをよく考えるべきだと思っています。なぜ、もうちょっと我慢できないのか? レストランよりも誰かの家に集まることの方が私は危険だと思っています。私の怒りがすごいので(笑)、彼は一体誰から誘われたのか結局、名前を言いませんでした」と振り返った。

 

また、「この数日で、あちらこちらで自宅でのディナーが開催され始めていると聞きました。パリの郊外に住む友人は近所のカフェも営業をしていて、人が集まって飲んでいると…。

 

『それぞれの考え方があり、それを変えることは出来ないし、他の誰かを批判するつもりもないけど…ロックダウンしても成果がなければフランス人は政府のせいにするでしょう?甘えすぎよ!!』という…怒りでした」と、フランスに住む人たちについても憤りを覚えたことをつづった。【11月9日 SANSPO,COM】

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『ロックダウンしても成果がなければフランス人は政府のせいにするでしょう?甘えすぎよ!!』というのも、いかにもフランス人の国民性を示しており笑えます。

 

調査によれば、“1度目の時よりもロックダウンを軽視していることが確認された”とも。

 

****フランス人の過半数がロックダウン違反、コロナ入院患者は第1波上回る****

フランスが新型コロナウイルスの第2波に見舞われ、入院患者数が第1波を上回る中、フランス人の過半数が2度目の全国的なロックダウン(都市封鎖)措置に違反したことがあるとする調査結果が12日、発表された。

 

調査会社Ifopが2度目のロックダウンの折り返し地点に合わせて実施した調査で、フランス人は、1度目の時よりもロックダウンを軽視していることが確認された。

 

調査によると、60%が少なくとも1回はロックダウンに違反したことがあると回答。外出許可証に虚偽の理由を記載したり、家族や友人と会ったりするなどしたという。1回目のロックダウンの時は、違反したと回答したのは40%未満だった。

 

フランスでは新型ウイルスによる死者は4万2000人を超えており、11日だけでも329人が死亡した。11日時点で集中治療を受けている患者は4789人に上る。

 

ジャン・カステックス首相はオンライン記者会見で、「第2波は極めて強い」「いまや、死者の4人に1人の死因はコロナだ」と述べた。

 

さらに、新型ウイルスの入院患者数は現在、4月に記録された3万2000人を上回っていると指摘し、病院の収容能力が逼迫(ひっぱく)していると警鐘を鳴らした。 【11月13日 AFP】

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“60%が少なくとも1回はロックダウンに違反したことがある”という絶対値はともかく、今春より数字が大きくなっているあたり、「コロナ慣れ」みたいなものも感じられます。

 

強迫神経症的に「コロナ、コロナ」と大騒ぎするのもいかがなものかと思いますので、ある意味、自然な流れでしょう。

 

【欧米に強い「個人主義」】

個人主義から一律・強制的なコロナ対応に従わないというのはアメリカも同様です。

 

****NY出張中にホテルで見たハグや大声の会話 危機感を訴えたら、その返事は****

(中略)

■個人の自由か公衆衛生か

そんな状況の米国に出張してきた筆者自身も、自分事として危機感を募らせている。

日本から消毒液やマスク、うがい薬や解熱剤などを大量に持ち込んだ。渡米直前にPCRテストを受けて陰性の結果を得て、インフルエンザ予防接種も受け、海外旅行保険にも入った。しかし渡米初日から、米国側のコロナ対策には不安を感じることが多かった。(中略)

 

コロナ感染防止に向けた決まりや取り組みはちゃんと存在していた。確かに、多くの人がマスクの着用を習慣化している。少し安心したが、数日すると、厳しい現状が見えてきた。

 

ホテル内のエレベーターには「4人制限」を気にせずに利用客が乗り込んでくる。缶詰状態でも平気で会話する人が結構いて、思わず呼吸を止めた。

 

箱詰めされた朝食は閉鎖中のはずのレストラン内で食べる人が多く、全く意味がない。520室の約半分が埋まっているらしく、このホテルには常に人が多い。

 

ホテルの外では、ハグ、握手、大きな声での会話が日常的な風景となっている。最も危機感を抱いたのは、会話をするときに、わざわざマスクをあごまで下げてしまう人が結構多いことだった。

 

感染防止策を徹底している人と、そうでない人との意識の差が大きくて、恐怖を覚えた。

 

予防意識が比較的浸透しているとされるニューヨークでこうなのだから、他の州での状況が心配になる。コロナ対策の重要性を軽視しているとされるトランプ大統領の支持者にはマスクをしない人も多いというから言葉がでない。

 

自分の身は自分で守る。全ては個人任せの対応になっている。ホテルのフロントに危機感を訴えると、納得はできなかったが、回答は分かりやすかった。

 

「米国は個人主義を重んじる国なので、自由を縛り付けられることに抵抗を感じる人が多い。それよりも公衆衛生を重んじるという考え方を本当に理解できている人がどれほどいるのか、私には分からない。ただ、コロナの影響で、そういう人が増えてきていることは確かで、バイデンが選挙で勝利したことにも表れている」

 

そのうえで、こう言われた。

「ホテル内でのあなたの安全を守ることに私たちは最大限の努力をすることを約束します。ただ、あなたの部屋が10階にあるとしても、エレベーターが混んでいれば階段を使う。ホテル周辺でマスクをしていない人がいるなら、そこを避ける。あなたの安全ですから、自分を守る努力をしてください」

 

予防するのも、しないのも、自己責任ということなの?やっぱり緩い。米国が世界で最も感染者を出している背景が、なんとなく分かった気がした。(後略)【11月13日 GLOBE+】

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同調圧力が強い日本とは異なるこのあたりの感覚は、意識が低い云々というより、個人の自由に関する思い入れの強さの違いよるものでしょう。

 

****コロナ規制が個人の自由を侵害、アリト米最高裁判事が懸念****

米連邦最高裁判所のアリト判事は12日夜、新型コロナウイルス感染防止のための諸規制が、信教の自由を含む個人の自由に制限をかけることに懸念を示した。

アリト氏は、保守系法曹団体「フェデラリスト・ソサエティー」の年次会合に向けた講演で「信教の自由は一部で急速に嫌われた権利になりつつある」と発言。

「新型コロナ危機は、憲法への一種のストレステストとなっている」と述べ、パンデミックを受けた行動制限などの規制が過去に例がないほど「厳しく、広範囲で長期的」だと指摘した。

アリト氏は、新型コロナウイルスの重大性を軽視するつもりはないと断った上で、新型コロナの流行は「個人の自由に以前は考えられなかったような制約」をもたらしたと指摘した。

米国の新型コロナ感染者は1040万人を超え、死者は24万人以上となっている。【11月13日 ロイター】

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話をフランスに戻すと、11月8日に新規感染者86,852人とピークに達したのちは急減し、その後増減・・・このまま減少するのかどうか・・・まだ不透明です。

 

【コロナのストレスがアジア人差別に向かう風潮も】

そうしたなか、気になる風潮も。

 

****コロナ封鎖のフランス ネットで中国系攻撃呼びかけ アジア人差別「第2波」で再発****

新型コロナウイルス「第2波」流行が広がるフランスで、中国系住民への攻撃を促すインターネットの書き込みが相次ぎ、検察が捜査を開始した。今月始めには国会議員100人が、「コロナ禍でアジア系への人種差別が広がっている」と連名書簡で警告し、波紋が広がっている。

 

中国系を標的とした書き込みは10月28日、マクロン仏大統領が外出禁止令を宣言したのと前後して見つかった。「路上で会った中国人をすべて攻撃せよ」「漫画はやめる。これからはアジア人狩りだ」などと記されていた。パリ検察筋は「人種差別に基づく攻撃挑発の疑いで、捜査を始めた」と明かした。

 

仏メディアによると、パリ市内で女性が「コロナ禍はお前のせい」と罵倒されて殴られたり、公園で卓球をしていた高校生が襲われたりするケースが報告されている。

 

パリ内外では今年始めにも、中国での第1波拡大に伴ってアジア系への嫌がらせが急増。マスク姿の女性が遠ざけられたり、中国系経営のすし店に白ペンキがぶちまけられたりなどの被害が出た。

 

公開書簡は仏紙リベラシオン(電子版)に掲載され、「コロナ流行の第2波で、アジア系がかつてないほど標的にされている」と主張。差別発言が攻撃的になっていることを懸念し、被害防止のため、差別的な行為や発言を見かけたら、当局に届け出るよう訴えた。【11月9日 産経】

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中国人も日本人も区別化つかない・・・というか、差別的憎悪はアジア人全般に向いているようにも。

日本大使館は、現地滞在の日本人に対して安全に注意するよう呼びかける警告を出しています。

 

****フランスのSNSで「アジア人を攻撃せよ」、日本大使館が警告=中国メディア****

中国のポータルサイト・百度に12日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、欧米でアジア人に対する差別が激しくなっており、フランスのSNSでは「アジア人を攻撃せよ」を市民に呼び掛ける書き込みが拡散しているとする記事を掲載した。

記事は、近ごろフランスのSNS上で市民に「アジア人を攻撃せよ」と呼びかける言論が拡散しており、フランス在住のアジア人の生活に大きな影響を及ぼしていると紹介。「どうやら、フランスでは人種主義がすでに爆発してしまっているようだ」と伝えた。

そして、この件についてフランスの一部大手メディアが速やかに反応し「フランスはアジア人を差別しているわけではない」、「われわれは変わらずアジア人を歓迎している」といった論調を展開しているとする一方で「フランスの人種差別はこれまでにも存在しており、差別はすでに深く根差していることは紛れもない事実だ」と評している。

また、以前に米ニューヨークの地下鉄駅で、現地在住の日本人ピアニストが現地人から集団暴行を受けて負傷した事件があったことに触れ、欧州でも同様の事態が発生する可能性が高まっていると認識したフランスの日本大使館が、現地滞在の日本人に対して安全に注意するよう呼びかける警告を発していたことを紹介した。

 記事は、多くのフランス政府関係者や医学専門家がたびたび「新型コロナをレッテル化してはならない」との考えを示すとともに、フランス政府もソーシャルネットワークにおける差別の制御に努めてきたとする一方で「しかし、現実の状況は、実に多くの人が自由の旗印を振りかざして差別的発言を繰り返しているのだ」と伝えている。【11月13日 Searchina】

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日本にも、「中国ウイルス」「武漢ウイルス」と呼んでストレス発散している人たちも大勢いますので、同じようなものでしょう。

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アルメニアの「事実上の敗北」で停戦合意したナゴルノカラバフ紛争 「苦渋の決断」と国民の怒り

2020-11-12 22:52:31 | 欧州情勢

(アルメニアの首都エレバンにある政府庁舎前で、係争地ナゴルノカラバフをめぐる停戦に抗議するデモ参加者を拘束する警察(2020年11月11日撮影)【11月12日 AFP】)

 

【「筆舌に尽くし難いほどつらい」(パシニャン首相) アルメニアの事実上の敗北で停戦合意】

アゼルバイジャン領内に飛び地的に存在するアルメニア人居住地域ナゴルノカラバフを実効支配するアルメニアと、これを自国領として奪還したいアゼルバイジャンの紛争は、トルコの支援を受けるアゼルバイジャン、ロシアと軍事同盟関係にあるアルメニアという構図の中で戦われましたが、結局、ロシア仲介のもと、軍事的に勝るアゼルバイジャン側が一定に領土回復を果たす形で停戦合意に至ったことは周知のとおり。

 

同地域をめぐっては、多数派のアルメニア系住民がアルメニアへの帰属変更を求めてアゼルバイジャンと対立し、以前も3万人以上が死亡する紛争に発展。ロシアの支援を受けたアルメニア側が実効支配を確立した状態で1994年に停戦となった経緯があります。

 

小規模な衝突はその後もありましたが、今年9月27日発生の戦闘は1994年の停戦後で最大規模となり、ロシアは双方で約5000人の死者が出たとみているようです。

 

今回衝突では、戦闘拡大を回避したいロシアなどによる何度かの停戦合意にも関わらず、終始優位に戦いを進めていたリベンジを狙うアゼルバイジャンですが、戦局を決定づけたのは要衝シュシャをアゼルバイジャン側が奪還したことでした。

 

****ナゴルノカラバフ第2の都市、アゼルバイジャンが奪還 要衝、アルメニアに痛手****

アルメニア人勢力が実効支配するアゼルバイジャンのナゴルノカラバフ周辺で続く戦闘で、アルメニア人勢力は9日、カラバフ第2の都市シュシャ(アルメニア語でシュシ)を奪取されたことを明らかにした。インタファクス通信などが伝えた。

 

同市はカラバフ中心部とアルメニア本国をつなぐ要衝で、アルメニア側にとって大きな痛手となる。

 

インタファクス通信などによると、シュシャの奪還は8日にアゼルバイジャンのアリエフ大統領が発表。アルメニア人勢力の報道担当者も9日にフェイスブックで認め、同市から約10キロ離れたカラバフの中心都市にも敵軍が迫っていると明らかにした。

 

アルメニア人勢力を支援するアルメニアのパシニャン首相は直後に「シュシを巡る戦闘は続いている」と訴えたが、アゼルバイジャンは市内の映像を公表し、同市の奪取をアピールしている。

 

シュシャはカラバフ中心部とアルメニア本国をつなぐ補給路の途中にある要害で、1990年代の紛争でも激戦地となった。

 

以前はアゼルバイジャン系住民が多かったが、90年代に避難を余儀なくされており、アリエフ政権が奪還を目指していた。重要拠点の陥落にアルメニアの野党からはパシニャン氏の退陣を求める声が出ている。

 

9月27日に始まった今回の紛争では、アゼルバイジャン軍がナゴルノカラバフ周辺のアルメニア人勢力支配地域への攻勢を強め、10月末以降はカラバフ内部での戦闘も激化し、住民がアルメニアに避難する動きが続いている。

 

両国と関係の深いロシアなどが停戦を呼びかけているが、9日にはアルメニアに駐留するロシア軍のヘリコプターをアゼルバイジャン軍が誤って撃墜し、謝罪する事態も発生。和平が見通せない状況が続いている。【11月10日 毎日】

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要衝シュシャ(シュシ)の陥落で、このまま戦闘を続ければカラバフ全域が奪還される事態に陥ったアルメニア側は、大幅に譲歩する「事実上の敗北」で停戦合意を余儀なくされました。

 

****ナゴルノ紛争、完全停戦で合意=アルメニア、事実上敗北****

ロシアのプーチン大統領は10日、係争地ナゴルノカラバフをめぐり軍事衝突を続けてきたアゼルバイジャンとアルメニアが現地時間10日午前1時(日本時間同6時)からの完全停戦で合意したと発表した。

 

プーチン氏とアゼルバイジャンのアリエフ大統領、アルメニアのパシニャン首相が停戦に関する共同声明に署名した。

 

ロシアのメディアによれば、共同声明にはアルメニアが占領地をアゼルバイジャンに返還することなどが盛り込まれており、劣勢だったアルメニアが事実上敗北したと受け取れる内容。アリエフ氏は10日、合意は「事実上アルメニアの降伏だ」と主張した。

 

一方、パシニャン氏はフェイスブックに「私個人やわが国民にとって筆舌に尽くし難いほどつらい」と書き込んだ。アルメニアからの報道では合意に憤った市民が政府庁舎に侵入するなど混乱が起きた。【11月10日 時事】 

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【ロシアもトルコを意識しながら「苦渋の決断」】

両国ともに旧ソ連の国ですが、ロシアは宗教的にも近いアルメニアと軍事同盟関係にあるだけでなく、アゼルバイジャンとも密接な関係を有しています。

 

****南コーカサス地方の地政学****

ロシアはアルメニアに軍事基地を置いており、両国は旧ソ連国の軍事協約、集団安全保障条約(CSTO)に加盟している。

 

CSTOでは、アルメニアが攻撃を受けた場合はロシアが軍事支援を送ることになっているが、ナゴルノ・カラバフ地方を含む、アルメニアが実効支配しているアゼルバイジャン領には適用されない。

 

一方で、ロシア派CSTO非加盟のアゼルバイジャンとも良好な関係を築いており、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコもこれを後押ししている。

 

ロシアはアルメニアにもアゼルバイジャンにも武器を輸出している。【11月10日 BBC】

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今回も停戦は両国と関係が深いロシア仲介によるものですが、停戦合意を維持するためにロシア軍が派兵されています。

 

****アルメニアとアゼルバイジャンが停戦合意 ロシアが仲介****

(中略)アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフのうち、今回の戦闘で制圧した地域を保持する。一方でアルメニアは、向こう数週間をかけて、進攻した複数の地域から撤退することに合意した。

 

ロシアのウラジミール・プーチン大統領はテレビ演説で、ロシアの平和維持軍が前線警備に当たると説明。ロシア国防相も、ロシア兵1960人を派遣すると認めている。すでにウリャノフスクの空軍基地から平和維持軍や戦闘員を乗せた軍用機がカラバフへ向かったという報道もある。

 

また、プーチン氏と会見に臨んだアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領によると、トルコも平和維持プロセスに参加する。

 

合意ではこのほか、捕虜の交換や、「全ての経済と運輸の接触が再開される」ことが決まった。(後略)【前出 11月10日 BBC】

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ロシアからすると今回停戦は、アゼルバイジャン同じイスラム教で、ともにアルメニアと対立関係にあるトルコを強く意識したものと指摘されています。

 

****ナゴルノ停戦合意 トルコに押された露の「苦渋の決断」****

ナゴルノカラバフ紛争をめぐるアルメニアとアゼルバイジャンの10日の停戦合意は、ロシアを後ろ盾とするアルメニア側が、トルコの支援を受けるアゼルバイジャンに大幅な譲歩をする内容だった。

 

停戦合意を仲介したロシアは、戦闘を放置すればアゼルバイジャン側がナゴルノカラバフ自治州の全域を掌握しかねないと判断し、事実上のアルメニア敗北を容認した。

 

10日の停戦合意は、アゼルバイジャンが9月末以降の戦闘で奪還したナゴルノカラバフ自治州内の領域を、引き続き支配下に置くことを認めた。さらに、今回の戦闘以前にアルメニアが実効支配していた自治州周辺の多くの地域を、アゼルバイジャンに返還するとした。

 

分断される自治州とアルメニア本国には幅5キロの回廊を維持する。ロシアは約2000人の停戦監視部隊を前線地帯に投入した。(中略)

 

アルメニアのパシニャン首相は「停戦は軍が提案した。苦渋の決断だった」と説明した。

 

ロシアにとっても「苦渋の決断」だったのは明白だ。アルメニアは露主導の集団安全保障条約機構(CSTO)の加盟国で、ロシアにはアルメニアの防衛義務がある。

 

だが、ロシアはアルメニア本土に戦闘が及ばない限りは介入しない方針をとり、アゼルバイジャン側の猛攻に手を打てなかった。アゼルバイジャンを軍事支援するトルコとの直接衝突を警戒した。

 

アルメニアの首都エレバンでは10日、停戦に抗議する数千人が暴徒化し、議会庁舎を占拠。停戦合意の破棄やパシニャン首相の退陣を要求した。野党も合意破棄に向けた手続きを始めると表明した。

 

アルメニアはナゴルノカラバフ紛争でのロシアの庇護(ひご)を期待してきただけに、今後、国民の怒りがロシアに向けられる可能性もある。

 

今回の停戦合意は自治州の帰属問題には全く触れておらず、本質的な紛争解決は先送りされている。

 

衝突が再燃する可能性はなお残る上、露停戦監視部隊に死傷者が出るなどすればロシアが自ら参戦する展開も考えられる。

 

アゼルバイジャンはトルコを停戦監視に参加させるべきだと強く主張しており、ロシアの出方が注視される。【11月11日 産経】

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アゼルバイジャンの後ろ盾トルコは、今後への表立った関与を検討しているようです。

 

****トルコ、アゼルバイジャンを祝福=停戦への関与検討―ナゴルノカラバフ****

アナトリア通信などによると、トルコのエルドアン大統領は10日、アゼルバイジャンのアリエフ大統領と電話で会談し、アゼルバイジャンがアルメニアとの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突で「勝利」したことを祝福した。その上で両首脳は、停戦維持に向けたトルコの協力について意見交換した。

 

停戦をめぐっては、ロシアが現地に平和維持部隊を派遣する方針。アゼルバイジャンは後ろ盾のトルコが停戦維持に協力することを求めており、トルコも関与する方向で検討している。【11月10日 時事】 

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シリア、リビアに続いてナゴルノカラバフ・・・トルコ・エルドアン大統領の軍事介入をいとわない積極姿勢、「新オスマン主義」全開といった感も。

 

【ユダヤ人にも似た苦難の歴史を経験してきたアルメニア人 それだけに今回の結末への怒りも】

一方、おさまらないのが「敗北」となったアルメニア。

 

****ナゴルノ停戦にアルメニア国民激怒、首相辞任求め抗議デモ****

アルメニアの首都エレバンでは11日、ニコル・パシニャン首相が係争地ナゴルノカラバフの広域でアゼルバイジャンの支配を認める内容の停戦に合意したことを受け、数千人規模の抗議デモが行われた。

 

パシニャン氏は10日未明、ロシアの仲介でアゼルバイジャンとの完全停戦に合意したと発表。約1か月半にわたって死者1400人以上、避難民数万人を出した激しい戦闘に終止符が打たれた。ロシアは11日、ナゴルノカラバフに平和維持部隊400人以上を派遣した。

 

アゼルバイジャンでは停戦合意に喜びの声が上がったが、アルメニア側では怒りが沸騰。政府庁舎にデモ隊が突入する騒ぎとなった。

 

人々はパシニャン首相を「裏切り者」と呼んで辞任を要求している。デモに参加した学生は、「私たちの歴史、文化、精神が失われるのと同じだ。言うまでもなく、殺されたり負傷したりした大勢の同胞の犠牲も無駄になった」と訴えた。

 

警察によると、抗議デモでは著名な野党指導者を含む135人が一時身柄を拘束された。 【11月12日 AFP】

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素人的には、周囲をアゼルバイジャンの囲まれたナゴルノカラバフを死守するのは、圧倒的軍事力かロシアの介入でもなければ難しい・・・と思いますが、国民の思いはまた別物でしょうか。

 

アルメニア人というのは、苦難の歴史、世界に散らばって暮らす多数の人々、祖国との強いつながり・・・ユダヤ人とも似たところがあります。

 

****ナゴルノ紛争の当事国、アルメニアはどんな国? アルメニア人とユダヤ人の共通点****

(中略)アルメニアの歴史は古く、紀元前3世紀ごろに始まったといわれています。宗教はキリスト教ですが、独自のアルメニア使徒教会をもち、4世紀にはキリスト教を世界で初めて国教としました。(中略)

 
一方で、本来の地域である中央アジアと東トルコにおけるアルメニア人の環境は悲劇的でした。1915年から1923年の間のオスマン帝国終焉の時代、アルメニア人に対する組織的な大量殺人と民族の追放が行われました。

 

アルメニア人は彼らの離散の地エルサレムに逃げてきました。この期間のアルメニア人に対する大量殺人と追放による死者は信じられないくらい多く、約150万人が犠牲になった「アルメニア・ジェノサイド」として知られています。

 

この大量虐殺は20世紀になって初めての虐殺とされています。加害者のトルコはこの情報が広がって巨額の賠償責任が生じることをおそれてこの事件を否定しており、トルコではこの件を話題にすることはできません。

大量虐殺から逃れてきたアルメニア人は、自分たちの生活を聖地で立て直しました。エルサレム旧市街のユダヤ人、キリスト教、イスラム教の各信者が住んでいる地区に隣接したアルメニア人地区やベツレヘム、さらにイスラエル国内の港町ヤッフォやハイファにもアルメニア人コミュニティーがあります。

 

アルメニア人は世界に交易ネットワークをもっており、エルサレムでも家具や香辛料を世界各地から集めて販売しています。また独自の芸術的な伝統品、とくに冒頭で紹介した青と白で彩られた手作りタイルも有名です。アルメニア人はまた、1857年にエルサレムに写真を最初に紹介しました。

アルメニア人の宗教はキリスト教だと書きましたが、圧倒的多数はアルメニア使徒教会の信者です。カトリック教会や東方正教会とは少し異なる立場をとっています。また使徒教会という名前の通り、使徒たちの伝道によって伝えられたと言われています。

 

これはアルメニア人の誇りです。アルメニア人はエルサレムやヤッフォに独自の教会を建てました。またエルサレム旧市街にあるイエスがはりつけになったといわれる場所に立っている聖墳墓教会やベツレヘムの聖誕教会などキリスト教各派が聖地とする教会で、カトリック教会・東方正教会と共にアルメニア使徒教会も中心となって共同管理しています。

大量虐殺がアルメニア人のトラウマの歴史になっているせいか、そのコミュニティーは秘密的です。(中略)


興味深いことに、アルメニア人とユダヤ人は多くの共通点を持っています。

 

世界がグローバル化してひとつになるずっと以前から、アルメニア人はユダヤ人のように世界を旅していました。自分の国も帰る国もない時代です。この地球上でいろいろな場所にユダヤ人とアルメニア人のコミュニティーがあります。そして離散の地でも民族と家族の強い団結を保っています。

 

二つの民族は自分たちの文化と宗教のアイデンティティーを失うことなく、他民族と交易のルートをつくることができます。

 

民族の離散「ディアスポラ」の文学のほとんどは、世界の異なる地域にある民族グループの現状に言及したものですが、ユダヤ人とアルメニア人の事例をもとにしたものだといっていいでしょう。

 

二つの民族が独自の祖国を得たのは最近です。イスラエルは1948年、アルメニアは1991年。ところが、この二つの民族が一番多く住んでいるのは祖国ではなく、実は米国ともいわれています。(中略)

世界を見渡した時、アルメニア人は強い「離散した結びつき」を維持しており、母国との連帯感も持っている。そして、経済的には成功しているイメージがあるかもしれません。

 

最も有名な「アルメニア人離散家族」は、米国ロサンゼルスの超セレブファミリー・カーダシアン家でしょう。とくにテレビショーの「カーダシアン家のお騒がせセレブライフ」という番組は、14年間も人気です。エンタメ産業や洋服デザインなどのビジネスの分野で顕著な活躍をしている一方、有名人とのスキャンダルもあり、米国では知らない人はいないほどだそうです。

「ディアスポラ(離散)」という運命に見舞われた民族は多くはありませんが、この悲劇に直面したユダヤ人とアルメニア人は、宗教こそ違えども民族と家族の「絆」で結びついてきました。(後略)【10月27日 AERAdot.】

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「アルメニア・ジェノサイド」をめぐるトルコとの対立は、韓国と日本の関係を連想させるものもあります。

 

アルメニアを旅行したことはありませんが、以前イランに行ったとき、イランに点在するアルメニア人関連施設を訪問した際、その強烈なアイデンティティの主張を展示物に感じたことがあります。

 

それだけに、今回の敗北、ナゴルノカラバフの一部喪失というのは、アルメニア国民には耐えがたいものがあるのでしょう。

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新型コロナワクチン 高まる期待 米・ロシア・中国産ワクチンの状況 政治化する状況も

2020-11-11 23:33:15 | 疾病・保健衛生

(【11月11日 AFP】)

 

【“90%超に有効”とは?】

新型コロナに関しては、日本はいよいよ第3波の状況になっているようですが、まあ、仕方ないでしょう。

経済活動や日常生活をそうそう止める訳にもいきませんから、そのなかで感染の拡大・縮小を今後も繰り返していくのでしょう。

 

ただ、重症化のリスクや死に至る確率などについても、ある程度把握できるようになっていますので、感染が拡大したからといってパニックになる必要もないでしょう。

 

コントロール可能な状況に収める対応・工夫・努力が求められています。

 

ウイルスの根絶が不可能である以上、待たれるのワクチンと治療薬。

そのあたりが整備されれば、通常のカゼやインフルエンザ流行と同程度の感覚で対応することも可能になるでしょう。

 

そうした「人類の希望の灯り」でもワクチンについて、米製薬大手ファイザーから期待がもたれるニュースが発表されたのは周知のところ。

 

****米ファイザーのワクチン 90%以上で有効 来週にも使用許可申請へ****

期待が高まる新型コロナウイルスワクチンの最新情報。

最終段階の臨床試験で初めて有効性が確認され、来週にもアメリカで許可申請の予定。

 

アメリカの製薬大手・ファイザーは9日、ワクチンの最終段階の臨床試験で、参加者の90%以上に感染を予防する効果があったと発表した。

安全上の重大な懸念もなかったとしている。

 

この結果を受けてファイザーは、来週にも製薬各社のワクチンでは初めて、アメリカ当局に緊急使用許可を申請する予定。

 

日本政府は、ファイザーと2021年6月末までに6,000万人分のワクチンの供給を受けることで合意している。【11月10日 FNNプライムオンライン】

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トランプ大統領は、自分を勝たせないために選挙前の発表を遅らせて、選挙後にした・・・と怒っていますが、それはあるかも。

 

そういう対応が「仮に」あったとしても、それは「勝たせないため」というより、現在の世界最悪の感染状況(累計で1千万人超)、しかも今も新感染者数は7日連続過去最多を更新(11月10日の新規感染者は少なくとも13万4000人。ここ1週間、新規感染者の平均は12万人)という状況をもたらしたトランプ大統領が、ワクチン開発を自分の「成果」として選挙利用することへの拒否感というべきでしょう。

 

私がファイザーの立場なら、選挙に利用されない時期まで発表を遅らせます。トランプ大統領は自身の「不徳の致すところ」と考えるべきでしょう。

 

それはともかく、「90%以上で有効」というのは、ワクチンとプラセボ(偽薬)を投与した集団の、その後の感染者数などを比較した場合の「有効性」を示していますが、今一つ分からない感じも。

 

****“90%超に有効”なワクチンの未だ分からないこと****

拙速なワクチン開発は危険

(中略)

 

未だわからないことが多い

しかし、このワクチンは、まだ実用化されたことが一度もないmRNAワクチンというタイプで、まだわからないことも多いという。(注・末尾に追記あり)

 

まず副作用・副反応についてである。

ファイザー社はこれまでのところ重大な懸念は生じていないと言うが、せいぜい数か月という短期的な観察結果である。長期的な副作用についてはまだ分からない。

 

4万人以上の被験者を対象とした臨床試験とはいえ、10万人に1人というような稀な副作用についてはわからない。例えば、重大なアレルギー反応が起こるのか、起こるとすればどの程度の頻度なのか、まだはっきりしないらしい。

 

次に、効果・効能についてである。

90%超の確率で感染を予防できるというが、そもそも感染自体を防げるのか、感染しても発症するのを防げるのか、発症しても重症化を防げるのか、重症化しても命を救えるのか、具体的なところはまだ示されていない。2回接種することが必要のようだが、その後いつまで効果が持続するのかも不明である。

 

さらに、「抗体依存性感染増強」の有無もはっきりしていない。

通常、ワクチンを接種してできた抗体は、我々を感染症から守ってくれる。しかし、ウイルスによっては、抗体が存在すると却って感染力を増す場合がある。

 

例えば、デングウイルスは日本でも2014年に問題となったが、それに対して開発されたワクチンが一時期東南アジアなどで使われた。しかし、このワクチンは「抗体依存性感染増強」のリスクが認められ、使用が制限されている状況だという。

 

検証可能な形でのデータ共有が大事

増田教授は「そもそも新型コロナウイルスのワクチンについては、学会発表や論文に先行して、部分的な情報だけが流布するのが昨今の風潮になっている。科学的視点から検証可能な形でデータや情報の共有が行われることが望ましい。」と今回の発表について述べている。

 

例えば、ファイザーは、これまでのところ、年齢階層別の有効性までは発表していないという。英・ガーディアン紙は「一般的にワクチンは高齢者になればなるほど効きが悪くなる傾向がある」が、この点の詳細はファイザーの新たな発表を待たなければわからないと報じている。

 

また、90%超に有効というが、残る10%弱の人々にそうでないのは何故かも明らかになっていないとガーディアン紙は指摘している。単なる確率の問題なのか、効かない人に何か共通点があるのか、これらについても発表を待つ必要があるという。(中略)

 

繰り返すが、期待は大きい。

不明の点のいくつかは、遠からず出されるであろう詳細な発表によって明らかになると思われる。ファイザーが予定通り承認申請をすれば来月にも接種が始められるとの見通しをアメリカのアザー厚生長官は示したというから、期待が一層高まるのもやむを得ないと思う。

 

しかし、断片的な情報で一喜一憂せず、開発途上の過度の楽観は最後まで禁物ということを実際には肝に銘じるのが大切なようだ。

 

(追記)増田教授によれば、ウイルスに対する従来のワクチンは、

・弱毒化したウイルスを生きたまま使うもの(麻疹など)

・ウイルスをホルマリン処理し感染性を失わせたもの(ポリオなど)

・ウイルスを分解してタンパクを精製したもの(インフルエンザなど)

・ウイルスタンパクを遺伝子工学の手法で製造したもの(B型肝炎など)

のいずれかである。

 

どれもウイルスのタンパクを含んでおり、それがヒトの免疫反応を促す。しかし、今回のワクチンはmRNAワクチンというタイプである。これは、タンパクの設計図となるmRNAという物質を接種して、ヒトの体内でウイルスタンパクを作らせようとするワクチンである。

 

ファイザーが開発中のものは超低温(マイナス70℃)で輸送・保管する必要があるとされる。そうだとすれば、実際に接種するという話になった時、日本でも一般開業医では取り扱いが難しく、ロジスティック上の大問題が生じる可能性があるという。【11月11日 FNNプライムオンライン】

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【ロシアのワクチンも予防効果は92%とも】

ファイザーに対応するように、ロシアも

 

****ロシア、国産新型コロナワクチンの予防効果は92%と発表****

ロシア直接投資基金(RDIF)は11日、国立ガマレヤ研究所が開発している新型コロナウイルス感染症ワクチン「スプートニクV」について、第3相治験の中間結果で感染を防ぐ有効性が92%だったと発表した。

RDIFのキリル・ドミトリエフ総裁は非常に有効なワクチンであることをデータが示していると述べた。

治験は2回の接種を受けた1万6000人の被験者のデータに基づいており、20人の陽性が確認された時点で何人がワクチンもしくはプラセボ(偽薬)を投与されたか調べた。

一方米ファイザーは94人が陽性となった時点で予防効果が90%になったとしており、RDIFの治験はこの数を大きく下回っている。ファイザーは陽性被験者が164人に達するまで治験を続けるとしている。

RDIFは発表文でワクチンの治験はさらに6カ月継続するとし、結果を査読(ピアレビュー)後に主要な国際学術誌に公表すると説明した。【11月11日 ロイター】

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これまでの試験に関しては、9月末時点の報道では、発熱などの軽度な副反応も、被験者の14~15%にとどまっているとのこと。

 

すべての医薬品がそうであるように、副作用ゼロということはあり得ません。

感染のリスクを大きく下回る範囲に副作用リスクが抑えられるなら許容されるべきものでしょう。

 

(今朝のTVでは、“38℃ぐらい”あるいは“38℃以下の”発熱が15%程度・・・とか言っていましたが(記憶は曖昧です)、もし「軽微」とは言え38℃の熱が15%ぐらい出るとなると、ちょっと接種を考えてしまうかも。)

 

なお、試験と並行して、ロシアは9月8日、リスクの高い一般市民への接種をすでに開始しています。

ただ、量産化の問題も報じられています。

 

****ロシア、国産コロナワクチンで量産に問題-接種ペースが鈍化****

モスクワでの「スプートニクV」接種件数はピーク時から20-25%減

「一部の問題は必要な装置の有無に関係」-プーチン大統領

 

ロシアのプーチン大統領は29日、新型コロナウイルス感染症(COVID19)の国産ワクチンについて、量産体制に問題が生じていると明らかにした。モスクワでの接種ペースは鈍化している。

  

プーチン大統領はVTBキャピタル主催のフォーラムで「当面の唯一の課題は求められる生産量をいかに確保するかだ」とした上で、「一部の問題は必要な装置の有無に関係している」と語った。

 

モスクワの国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所とロシア直接投資基金(RDIF)が開発したワクチン「スプートニクV」は既にフロントラインワーカー(最前線で働く人々)の感染予防に使用されているが、量産で支障が出た。ただプーチン大統領は年内に一般市民への接種が始まる可能性があると説明した。

  

事情に詳しい関係者によると、モスクワでのスプートニクV接種件数はピーク時の1日当たり1000件から20-25%減少している。

  

ロイター通信はロシア当局がスプートニクVの臨床試験で新たな被験者への接種を停止したと先に報じた。モスクワでの臨床試験実施を支援している団体クロカス・メディカルの匿名の担当者を引用した。

  

ただRDIFが配布した資料によると、クロカス・メディカルのアレクセイ・ブチリン氏は試験中断を否定し、ワクチンの供給量は十分にあると述べた。ロシア保健省も第3相試験は継続中だと説明している。【10月30日 Bloomberg】

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ロシアの新規感染者数は2万人超と過去最多を更新(11月10日 ロイターより)する状況ですから、最近求心力低下も云々されるプーチン大統領にとってワクチンの世界に先駆けた実用化は「切り札」的な存在でしょう。

 

いずれにしても、試験に内容・結果についての透明性が求められています。

 

【ブラジルで次期大統領選挙をめぐる「政治問題」化している中国ワクチンの試験】

アメリカ、ロシアときたら、次は中国。

中国のワクチンは、ブラジルでも試験が行われていますが、ワクチンとは関係ないと言われていますが、死者がでたとの報道も。

 

ブラジルでは、ワクチンが完全に次期大統領選挙絡みで「政治化」しており、中国製ワクチン導入を進める州当局を批判しているボルソナロ大統領は死者の発生・試験の中断を「勝利」だと誇っています。

 

****ブラジル当局、中国製ワクチンの治験を停止 大統領は「勝利」と****

ブラジルの国家衛生監督庁(ANVISA)は9日、中国製の新型コロナウイルスワクチンの臨床試験を停止すると発表した。

 

ANVISAは、10月29日に被験者の1人に「重篤な有害事象」が起きたと発表。詳細は明かさなかったものの、この被験者が死亡したとの報道も流れた。

 

しかし治験を行っている研究所は地元メディアに対し、被験者の死は治験そのものとは関係がないと話している。

 

かねてこの臨床試験を批判してきたジャイル・ボルソナロ大統領は、ANVISAの決定は「自分の勝利」だと述べた。ボルソナロ大統領は、このワクチンの中国との関連を非難し、完成してもブラジルでは購入しないとしている。

 

ブラジルは新型ウイルスの被害が特に広がっている国のひとつ。米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、ブラジルの感染報告は約570万件と、アメリカとインドに続いて世界で3番目に多く、死者も16万3000人近くに上っている。

 

治験中断はブラジルだけ

中国の北京科学生物制品有限公司(シノヴァク・バイオテック)が開発しているこのワクチンは、臨床試験の最終段階に入っているワクチン候補のひとつ。

 

ブラジル以外でもインドネシアとトルコで治験が行われているほか、中国国内では緊急使用認可が出ており、数千人が接種している。現時点で、インドネシアとトルコは臨床試験を停止していない。(中略)

 

ブラジルでこのワクチンの治験を行っているブタンタン研究所のディマス・コヴァス所長は地元メディアに対し、治験の一時停止は被験者の死によるものだが、死因はワクチンとは関係ないと説明した。

コヴァス所長の主張は、サン・パウロ州の保健高官も支持している。

 

またコヴァス氏は、このワクチンによる有害事象は出ていないと話した。その上で、研究所はANVISAから治験停止について相談を受けておらず、今回の決定に「憤然と」していると述べた。

 

シノヴァクは10日、ブラジルでの出来事について同国と連絡を取っていると明らかにした。

声明でシノヴァクは、「ブタンタン研究所の所長は重篤な有害事象とワクチンは関係ないとの見方を示している。ブラジルでの治験は、同国の医薬品の臨床試験に関する基準(GCP)を厳格に守って行われており、ワクチンの安全性には自信がある」と述べている。

 

新型ウイルス問題が政治化

臨床試験が中断されることは珍しくない。9月には英アストラゼネカとオックスフォード大学が開発中のワクチンで有害事象が発生し、臨床試験が一時中断。数日後には安全に治験を継続できると判断された。

 

このワクチンをめぐっては、ブラジルでの治験でボランティアが1人死亡しているが、安全性の懸念はなかったとされている。

 

ボルソナロ大統領は、アストラゼネカ製のワクチンを好んでいると公の場で発言する一方、中国製のワクチンは購入しないと述べている。

 

BBCのケイティー・ワトソン南米特派員は、ブラジルでは新型ウイルス問題が非常に政治化しており、ANVISAの決定が科学的か政治的かについても、多くの人が疑問を抱いていると説明。

 

また、新型ウイルスを軽視するボルソナロ大統領にとっては、ブラジル最大の人口と富を抱えるサン・パウロ州のジョン・ドリア知事が逆の方向を示しているのも懸念材料だと報じた。

 

ドリア知事は他の州と同様に独自のロックダウンを展開したほか、シノヴァクの臨床試験を支持している。

ワトソン特派員によると、ドリア知事は2022年の大統領選に出馬するとみられているという。【11月11日 BBC】

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日本で死者発生を「勝利」と言ったら首が飛びますが、“ブラジルのトランプ”ボルソナロ大統領の場合は「またか」といったところ。

 

ブラジルではロックダウンについても、実施する州当局(知事が次期大統領選挙に出馬予定)と反対する大統領が揉めていました。まあ、日本でも小池都知事と政府の間で確執があったりもしますから・・・。

 

なお、この死者は自殺だったとの報道も。

 

****中国ワクチン被験者の死因は自殺 ブラジル衛生当局、治験中断継続****

・・・・ブラジルのメディアは10日、この被験者の死因は自殺だったと報じた。

シノバックは10日、「事態とワクチンは無関係」との声明を出したが、同監督庁は治験の中断を続けるとしている。(後略)【11月11日 共同】

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ボルソナロ大統領は“「(新型コロナ感染で)亡くなった方については気の毒に思う。本当にそう思う。だが、われわれはみんないつか死ぬ。現実から逃げても仕方がない。ホモの国みたいなことはやめなければならない。(中略)顔を上げて闘わなければいけない。ホモみたいなのは大嫌いだ」と続けた。”【11月11日 AFP】

 

ブラジルのような貧困層が多い国でロックダウンの導入は、コロナ感染以上の問題を惹起することも考えられ、大統領の考え方には賛成できるものもあります。しかし、いつものことながら、この種の無分別・差別的な発言はなんとかしてほしいものです。

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