孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ハンガリーとウクライナの確執の背景にあるウクライナに暮らすハンガリー系少数民族の存在

2023-06-20 23:11:55 | 欧州情勢


(【2019年12月25日 毎日】 黄色の丸印で示した、現在ウクライナ領となっている一帯がハンガリー系住民が暮らすザカルパチア州です。)

【オルバン政権 ロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対し、ロシア寄りの姿勢】
ハンガリー・オルバン首相がEU内にありながら、西欧的民主主義価値観と一線を画し、メディアへの介入を強化し、“反移民・難民”の姿勢をとっており、“非自由民主主義”掲げてロシア・中国的な強権政治を目指し、EU内部での対立を生んでいること、また、NATO加盟国ながら、ロシア・プーチン大統領と緊密な関係にあって、ロシアのウクライナ侵攻後もロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対していること・・・・などは、これまでも折に触れ取り上げてきました。

内容的には上記4月30日ブログと重複しますが、今回は特にハンガリーとウクライナの確執に絞って取り上げます。

4月30日ブログでも触れたように、ハンガリー・オルバン首相は一貫してロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対し、ロシア寄りの姿勢をとっています。

“対ロシア制裁は「戦争への一歩」 ハンガリー首相”【2022年11月18日 AFP】
“ハンガリー、プーチン氏逮捕せず 入国の場合で当局者、報道”【3月23日 共同】
“ハンガリー、米国を三大敵の一つと名指し 流出文書で判明”【4月12日 WSJ】

最近でも・・・

****ハンガリー、EUのウクライナ軍事支援基金阻止も OTP銀巡り****
ハンガリーのシーヤールトー外相は(5月)17日、ウクライナ政府が戦争支援者リストからハンガリーのOTP銀行を削除しない限り、欧州連合(EU)による次回の対ウクライナ軍事支援資金や対ロシア制裁を阻止する考えを示した。

ハンガリーは今週、EUが運営する基金「欧州平和ファシリティー(EPF)」からウクライナ軍事支援に追加で5億ユーロ(5億5040万ドル)を充てる案に反対した。

EU加盟国政府がウクライナに供与した武器や弾薬の費用を請求できるようにするものだが、ハンガリーは承認の条件として、バルカン半島や北アフリカなど他地域にも資金を充てるよう保証を求めた。

だがEU外交官によると、非公開の場では、ウクライナがOTP銀行をブラックリストに指定していることが反対の主な理由であることを明確にしたという。

EU当局者は、ブラックリストの対象がOTP全体かロシア支店のみか確認を進めるなど問題解決に取り組んでいると述べた。【5月18日 ロイター】
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****「ウクライナに勝ち目なし」 ハンガリー首相****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は(5月)23日、ウクライナに戦場での勝ち目はないと語り、ロシアとの紛争を終わらせるには米国の介入が必須だとの持論を展開した。

オルバン氏は中東カタールで開かれた会合で、ロシアの侵攻は「外交の失敗」の帰結だと主張した。右派の同氏はウクライナ紛争について、これまでロシアのウラジーミル・プーチン大統領を非難したことはない。

オルバン氏は「戦場での解決の試みが奏功していないのは明らかだ」「現実と数字、周囲の情勢、さらに北大西洋条約機構に派兵の意思がないことを見れば、戦力で劣るウクライナが戦場で勝てないのは明白だ」と述べた。

「われわれの心はウクライナの人々と共にある」「その苦しみも理解している」としながらも、「エスカレーションに歯止めを掛け、和平交渉に向けた議論をすべきだ」と語った。

その上で、停戦が実現した暁には、欧州はロシアとの間で新たな安全保障協定を結ぶ必要があると述べた。

オルバン氏は「国家としてウクライナはもちろん非常に重要だが、長期的・戦略的に考えれば、問題は将来の欧州の安全保障をどうするかだ」と強調。「米国抜きに欧州の安全保障の枠組みが成立しないのは明白だ。ただし、ロシア、米国間で何らかの合意が達成されない限り、この戦争は止められない」「欧州人の一人としては不本意だが、それが唯一の解決の道だ」と話した。

一方、自国と欧州連合との関係については、他の加盟国首脳を「理知的」過ぎると批判しながら、ハンガリーの全輸出の85%が域内向けであるため、離脱はできないと語った。 【5月24日 AFP】AFPBB News
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【ハンガリー系少数民族約14万人が暮らすウクライナ・ザカルパチア州】
オルバン首相が表向き「われわれの心はウクライナの人々と共にある」とは言いつつも、実質的にウクライナを突き放すような行動をとる背景に、ウクライナ・ザカルパチア州にハンガリー系少数民族約14万人が暮らしており、オルバン首相はこのハンガリー系住民を支援してきたという経緯があります。

ハンガリーは、“ハンガリー人は、西暦1000年にキリスト教を受容し、ハンガリー王国を成立させた。だが、16世紀にオスマン・トルコ帝国、17世紀にはウィーンを首都とするハプスブルク帝国の支配を受けた。民族主義の高まりを受け、帝国内で自治権を獲得すると、第一次大戦後にハンガリー王国を復活させた”という歴史を有しています。

一方で、ウクライナ側でもクリミア併合以降、民族主義の高まりがあり、ザカルパチア州ハンガリー系住民の自治権を求める動きへの厳しい対応につながっています。

****ウクライナとは絶対に手を組まない…「ハンガリーのトランプ」がロシアに同調する"したたかな理由"「親ロシア」を掲げるオルバン首相の狙い*****
(中略)オルバン氏は政権奪取後、真っ先に他国に住むハンガリー系住民の支援に取り組んだ。ハンガリーは、オスマン・トルコなどに支配されながら数百年間、広大な領土を維持してきたが、第一次大戦後に独立する際、1920年のトリアノン条約で、領土の3分の2を失っている。

ハプスブルク帝国の崩壊後、ハンガリーが強国になることを恐れた西欧諸国による決定だった。国境線が引き直され、当時のハンガリー系住民約1500万人のうち、約300万人がウクライナ、ルーマニア、セルビア、スロバキアなどの隣国に所属することを余儀なくされた。

隣国との摩擦を生むため、ハンガリー政府が隣国のハンガリー系住民に関与することは、これまでタブーだった。だが、オルバン氏はこの問題に果敢に切り込んだ。

オルバン氏は2011年に憲法改正を実施し、新憲法にこう書き込んだ。「ハンガリー政府は国境を越えてハンガリー系住民の運命に責任を持たなければならない」。

ウクライナ・ザカルパチア州に事務所を構えるハンガリー民族政党「ハンガリー文化同盟」のラースロー・ブレンゾビッチ党首(55)は、声に力を込める。「他国のハンガリー系住民は初めて、母国から法的に身分を認められたのです」

ハンガリー系住民の保護にこだわる数少ない政治家
ハンガリーは1989年の民主化後、自らの国を立て直すことに精いっぱいで、隣国に住む同胞に目を向ける余裕はなかった。だがオルバン氏は政権を取る前から、ハンガリー系住民の保護にこだわる数少ない政治家だった。(中略)

政権奪取後、オルバン氏の動きは早かった。祖先が1920年以前にハンガリー王国内に住んでおり、一定程度のハンガリー語を話せる住民に対し、市民権を与える法律を制定したのだ。他国のハンガリー系住民はハンガリー政府に税金を支払っていないにもかかわらず、選挙権などを得られるようになった。

さらに、オルバン氏はハンガリー系住民の居住地域に財政支援を始めた。幼稚園、小学校などに資金援助して現地のハンガリー語教育を充実させ、ハンガリー語のメディアにも補助金を支出した。中小企業や工場、レストランにも出資し、現地の雇用確保に貢献した。

ウクライナでは他国政府による政党への支援が禁止されているが、オルバン政権は「(裏で)ハンガリー民族政党も手厚く支援している」(ベレホベのペトルシュカ市長)という。隣国のハンガリー系住民への支援額は、2019年で計1300億フォリント(約480億円)に上る。ハンガリー国内のスポーツ予算(1200億フォリント)、高等教育への予算(1600億フォリント)に匹敵する額だ。

権力維持のための票田
なぜ、オルバン氏はハンガリー系住民の支援に、こだわるのだろうか。

「目的は大きく分けて二つある」。ハンガリー社会科学センターのバールディ・ナーンドル主任研究員は語る。
一つは、国民の民族意識を高揚させることだ。

ハンガリーは民主化以降、欧米からの投資を受け、経済を発展させてきた。2004年に念願だったEU加盟を実現し、より多くの企業がハンガリーに進出した。だが、米国で起きたリーマン・ショックが2009年、欧州に波及。海外債務が大きかったハンガリー経済は大打撃を受け、ハンガリーから投資を引き上げる欧州企業が続出した。危機の際にハンガリーを見捨てた西欧を、ハンガリー人は容易に信頼できなくなったのだ。

「オルバン氏は、『ハンガリー人の連帯』を訴えることで、『西欧化』という目標を失った国民のアイデンティティーを刺激し、政権の求心力を高めようとした」(ナーンドル氏)という。

もう一つは、他国のハンガリー系住民を自らの「票田」にすることだった。先述したカタリン・バルナさんのように、選挙権を得た他国のハンガリー系住民はオルバン氏を救世主とあがめる。2018年の選挙では、ハンガリー系住民の96%がオルバン氏率いる与党に投票した。

特にオルバン氏に喝采を送ったのが、EUに未加盟で、1人あたりの国民総所得(GNI)が、隣国で最も低いウクライナのハンガリー系住民だった。

ウクライナに取り残された自国民
ザカルパチア州では、約14万人のハンガリー系住民が国境沿いに集中する。同州は元々ハンガリー領だったが、第一次大戦後にチェコスロバキア領になった後、一時自治権を持った。

1939年にハンガリーが奪い返したものの、第二次大戦後に旧ソ連が占領。最終的に旧ソ連の一部だったウクライナに組み込まれたという複雑な歴史を持つ。(中略)

オルバン氏は2014年5月10日、議会でこう発言している。「ウクライナに住むハンガリー人には自治権を持つ資格がある。我々は国際政治の場で、彼らの権利を追求し続ける」。オルバン氏は、ハンガリー人が自治権を獲得することを後押しし、事実上ハンガリーの支配下に置く意欲を示したのだ。

ウクライナの親米政権成立の余波
ザカルパチア州に投資する余裕がないこともあり、オルバン政権の行動を黙認していたウクライナ政府だが、2014年、状況が大きく変わった。反政府デモでウクライナの親露政権が倒れたのだ。親米政権ができることを嫌ったロシアは、軍事的な要衝であるウクライナのクリミア半島を一方的に編入。親露派武装勢力は同国東部の支配を目指し、ウクライナ軍と衝突した。

同年6月に就任したウクライナのポロシェンコ大統領はロシア側との紛争に危機感を強め、国民の連帯を促した。だが、その呼びかけはハンガリー系住民にも意外な形で波及する。ハンガリー民族政党「ハンガリー文化同盟」のブレンゾビッチ党首は言う。

「2014年以降、ポロシェンコ氏はメディアを使い、外国人を敵とするプロパガンダを流し始めた。最初は国内にいるロシア系住民だけが対象だったが、続いてハンガリー系住民も攻撃対象になった」。

極右団体は「ロシアだけでなく、ハンガリーもウクライナの領土を奪おうとしている」と主張。ザカルパチア州では、ハンガリー人の「処刑」を訴えるデモが繰り返されるようになった。2018年、ハンガリー文化同盟が入る建物は2度も放火された。

さらにウクライナ政府は2017年、小学5年生以上の子供に対し、ウクライナ語の学習を義務づける法律を制定した。多くのハンガリー系住民はハンガリー語の学校に通っていたため、オルバン氏は強く反発した。

ウクライナ政府に対抗するため、クリミアの編入を理由にEUから制裁を受けているロシアのプーチン大統領と手を組んだのだ。

ロシアに同調する歴史問題の根深さ
ウクライナは欧州諸国の一員となるため、NATO、EUへの加盟を宿願としている。だが、両組織への加盟は全加盟国の同意が必要だ。

NATO、EUの加盟国であるハンガリーは、ウクライナの加盟に強く反対し始めた。ウクライナが両組織に入った場合、自国への脅威が高まると考えていたロシアに同調したのだ。(中略)

ウクライナのハンガリー系住民は、オルバン氏の意向に従い、本気で自治権を獲得しようとしているのだろうか。筆者の質問に、ハンガリー文化同盟のブレンゾビッチ氏はこう答えた。

「ウクライナ政府はもう信用できない。我々は自分たちのことを自分たちで決める」。オルバン氏の「反ウクライナ」の姿勢は、大ハンガリー主義を巡って既に明確になっていたのだ。【2022年12月13日 三木 幸治毎日新聞記者 PRESIDENT Online】
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ウクライナからすれば、上記のようなザカルパチア州ハンガリー系住民に自治権を・・・・といったことを認めると、「じゃ、クリミアはロシアに」といった話もなってきますので、受け入れがたいところでしょう。

(個人的感想を言えば、領土なんて歴史的に取ったり取られたりして常に変化しており、現在の帰属を決めるのは最終的には住民の意思でしょう。)

【ロシアからハンガリーに引き渡されたハンガリー系ウクライナ人捕虜11人をめぐるハンガリー・ウクライナの対立】
上記のようなザカルパチア州ハンガリー系住民の存在、その自治権や支配をめぐるハンガリー・ウクライナ間の確執が存在することを前提にすると、非常にわかりにくい下記報道の意味合いも少し見えてきます。

****ハンガリーが捕虜との連絡妨害 ウクライナ主張****
ウクライナ外務省は19日、ロシアからハンガリーに引き渡されたハンガリー系ウクライナ人捕虜11人との連絡を、ハンガリー政府が妨害していると非難した。ハンガリーは、ウクライナ侵攻開始後もロシアとの関係を維持している。

ロシア正教会は今月、ハンガリー系少数民族が住むウクライナ西部ザカルパッチャ州出身の捕虜の一行をハンガリーの首都ブダペストに移送したと明かした。同州には、ハンガリー系少数民族約10万人が暮らしている。

ウクライナ外務省のオレグ・ニコレンコ 報道官はフェイスブックへの投稿で、捕虜は隔離されており、「ウクライナの外交官はここ数日、自国民と直接連絡を取るためにあらゆることを試みたがかなわなかった」と主張した。

ニコレンコ氏によると、捕虜が親族と会話する際には第三者の立ち合いが求められ、ウクライナ大使館に連絡することは許されていないという。同氏は、連絡を取ろうとするウクライナ政府の試みをハンガリーが「無視」していると非難した。

ハンガリーのグヤーシュ・ゲルゲイ首相府長官は捕虜について、「ロシアで解放された後、ロシア正教会が(ハンガリーの)マルタ騎士団の慈善団体との協力でハンガリーに移送したため、法的には捕虜と見なされていない」と説明。

一行は「自由意思でここに来たという特別な状況に置かれている」とした上で、「自由意思に基づきいつでもこの国を離れられる。われわれは足止めも監視もしない。完全に自由だ」と述べた。

グヤーシュ氏によると、11人の中にはハンガリー国籍を持たない人もいたが、そうした人には難民資格が与えられたという。

ザカルパッチャ州の少数民族の権利問題をめぐり、両国政府は長年反目し合っている。ハンガリー側は問題が解消するまで、ウクライナの欧州連合と北大西洋条約機構加盟を承認しないと公言している。 【6月20日 AFP】
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ハンガリー系ウクライナ人捕虜11人について、どういう意思でロシアとの戦争に参加していたのか、捕虜となった後、どういう処遇を求めているのか(ウクライナに戻ることを希望しているのか、ハンガリーで暮らすことを求めているのか))・・・そのあたりが明らかにされていませんので、話の半分は依然としてわかりませんが、ウクライナとハンガリーが、11人の処遇を決めるのは自分たちだと主張していがみ合っている事情は、上述のような背景があってのことです。

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ミャンマー  サイクロン被害救済活動を阻害する国軍 タイ、実質国軍支援ともなる外相級会議開催

2023-06-19 22:38:50 | ミャンマー

(サイクロンで損壊した建物=5月16日日、ミャンマー西部ラカイン州【5月16日 共同】)

【スー・チー氏歳誕生日で「フラワー・デモ」 次男は「国軍支援の日本に失望」】
国軍による強権支配が続くミャンマーでは抗議活動も厳しく禁じられていますが、拘束されているアウン・サン・スー・チー氏の誕生日ということで「フラワー・デモ」も行われたようです。

****独房のスー・チー氏が78歳誕生日、解放求め各地で「フラワー・デモ」…花の売り子拘束****
ミャンマーの政党「国民民主連盟(NLD)」のトップで民主化の象徴であるアウン・サン・スー・チー氏が19日、78歳の誕生日を迎えた。軍による拘束からの解放を求め、各地でスー・チー氏が愛用する花の髪飾りをつける「フラワー・デモ」が行われた。

ミャンマーの独立系メディア「キット・ティット」などによると、最大都市ヤンゴンなどで市民が花を髪に飾ったり、手に持ったりして、スー・チー氏の「一刻も早い解放」を訴えた。治安当局は花を販売した複数の売り子を拘束し、花を押収した。

スー・チー氏は2021年2月1日のクーデター時に国軍に拘束され、汚職など複数の罪で有罪判決を言い渡された。刑期は計33年に上り、首都ネピドーの刑務所で独房に収監されている。担当弁護士も面会を許されておらず、健康状態が懸念されている。【6月19日 読売】
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イギリス在住の次男キム氏は、日本が「国軍を支援している」と失望を表明しています。

****スーチー氏次男、日本を批判 母の誕生日前にメッセージ****
クーデターで全権を掌握したミャンマー軍政によって収監されている民主派指導者アウンサンスーチー氏の次男、キム・エアリス氏が18日までに、ビデオメッセージを公表した。母親の解放を求めると同時に、日本が国軍を支援していると批判した。19日はスーチー氏の78歳の誕生日。

キム・エアリス氏は英国在住で、米政府系メディアのボイス・オブ・アメリカ(VOA)を通じて約6分のメッセージを公開。「世界でも最も民主的であるはずの日本やインドが、国軍を支援している」と指摘し「失望している」と語った。【6月18日 共同】
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なお、スー・チー氏と長男のと関係は、以前から不仲が噂されています。
スー・チー氏が大統領になれなかったのは、憲法改正で「国籍条項」が入れられたためですが、息子たちに「英国籍を離れてよ」とは言えない彼女の身上を見透かした措置とも言われていました。
スー・チー氏本人も「成人した息子たちを説得するつもりはない」と漏らしていました。

スー・チー氏の人生は、親子関係よりミャンマー国民を選択したような面もありますので・・・
次男とは2010年に10年ぶりに再開して喜びを示すなど、関係は良好なようです。

日本の(支持はしないものの)ミャンマー国軍との関係も一定に継続するという、欧米とは一線を画した独自の外交が、既存のODA継続などで、結果的に国軍に資金が流入するなど国軍を支える形にもなっていることは、これまでも取り上げてきたところです。

国軍と民主派武装勢力及び少数民族との戦闘が続くミャンマー情勢に関しては、大きな変化は報じられていませんが、これまでに市民6300人超が殺害されたとの報告も。

****ミャンマー、市民殺害6300人超=民間報告、反軍派も3割関与か****
ノルウェーの民間研究機関、オスロ国際平和研究所(PRIO)は13日、ミャンマーでクーデターが起きた2021年2月以降、6300人以上の市民が殺害されたとする報告書をまとめた。

3割超は国軍への抵抗勢力が関与したと指摘し、「全ての当事者は市民の保護に向けて対話を始めるべきだ」と訴えている。

報告書は、ミャンマー語メディアのニュースのほか、人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」や国軍系政党の連邦団結発展党(USDP)が公表したデータなどを基に集計。21年2月から22年9月末までの間に政治的理由で殺害された市民は少なくとも6337人に上り、「国際機関の報告よりも大幅に多い」とした。【6月13日 時事】
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国軍幹部が拘束中のスー・チー氏に民主派勢力に武装抵抗をやめさせるよう協力を要請したが、スーチー氏は拒否したとの現地報道も。

****軍幹部、スーチー氏と面会か ミャンマー、協力要請****
ミャンマーの複数の地元メディアは14日までに、クーデターで全権を掌握した国軍の幹部らが、首都ネピドーの刑務所に収監されている国家顧問兼外相だったアウンサンスーチー氏と面会したと報じた。

国軍と民主派の衝突が続いている現状を説明し、民主派勢力に武装抵抗をやめさせるよう協力を要請したが、スーチー氏は拒否したとしている。

独立系のインターネットメディア「イラワジ」や独立系放送局「ミッジマ」などが関係者の話として伝えた。【6月14日 共同】
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【サイクロン被害救済を阻害する国軍 かつて2008年にも】
戦闘状況以外で気になるニュースが。
ミャンマーは5月にサイクロンが上陸して大きな被害が出ていますが、その救援活動を国軍が阻害しているとのこと。救援物資を渡す際に被災者から高額の輸送費を徴収しているとも。

かつて、民政復帰以前の国軍支配時の2008年にも、サイクロン「ナルギス」による大被害に対し、当時の軍事政権は、海外からの人的支援を拒否し、国際批判を浴びたことが思い出されます。

****ミャンマー サイクロン上陸から1カ月 国軍が救援ボランティアを禁止、物資輸送費徴収に非難殺到****
6月8日、ミャンマーの国軍は、サイクロンで被災した人々への救援を担うNGOやボランティアの活動をすべて禁止するとの通達を出した。

大型サイクロン「モカ」がミャンマー南西部のラカイン州を襲ったのは5月14日。雨に加え、風速50メートルを超える風に晒され、多くの家が屋根を飛ばされ、倒壊。ライフラインもストップした。被災した人々は約540万人にのぼり、そこには約300万人の貧困層が含まれているといわれる。

それから約1ヵ月。食糧や水の救援は遅れ、ライフラインの復旧も進まない。背景にあるのは、救援を担うはずの国軍の問題だった。

サイクロンが襲った直後から、国連や世界各国は緊急救援の声をあげた。物資はヤンゴンに届きはじめたが、それを被災した人々に渡すスタッフにラカイン州までの移動許可を与えるのを、国軍は渋っているからだ。

過去に似たような例も…
(中略)被災したラカイン州は、国軍と敵対する少数民族のラカイン族の軍隊、アラカン軍が広いエリアを支配している。国軍は主要な街を抑えているにすぎない。

国軍はその現状が知られることを怖れ、国際援助組織が活動することで、抵抗勢力が活気づくことを警戒しているといわれる。

国軍がクーデターを起こす前までの10年間、ミャンマーは民政化の時代だった。それ以前も軍事政権だったが、今回のサイクロンと同じようなことが起きている。2008年、ミャンマーをサイクロン「ナルギス」が襲った。この時、当時の軍事政権は、海外からの人的支援を拒否している。

既得権を守るために孤立の道を進むのはミャンマーの軍事政権の特徴といえる。民主派を武力で弾圧する構造のなかで多くの国民が命を落とす。そして経済は低迷し、人々は仕事を失い、世界の最貧国に沈んでいく。今回のクーデターを起こした国軍トップのミンアウンラインは、「我々は少ない友好国とやっていくことに慣れている」とまでいっている。

被災民に「輸送費」を徴収…
軍事政権のこうした振る舞いは災害時の援助すら拒ませ、国民は歯を食いしばって生き延びなくてはならない。今回もその状況が繰り返されている。

「いや、以前よりひどい」というのは、ラカイン州の州都、シットウェ近郊に住むRさん(64)だ。救援を担う国軍は、物資を被災民に渡すとき、ヤンゴンからの輸送費を徴収しているのだという。

「物資といっても、米と、家の修繕用のトタンだけ。米は麻袋ひとつ、約5キロほどで輸送費500チャット(約335円)、トタンは1枚5,000チャット(約3,350円)を払わなくてはならないんです。以前はここまでひどくはなかった。被災した人は家もなくテント暮らし。5,000チャットなんて金があるわけがない」

5,000チャットは、ラカイン州では1日の給料に相当する額。しかしライフラインが断たれたいま、仕事はない。救援物資だけが頼りなのだが……。

国軍に対抗するアラカン軍が支配するエリアでは、救援物資の配給はアラカン軍やNGO、ボランティアが担っているが、もちろん輸送費など徴収していない。迫害されているイスラム教徒のロヒンギャの村にも配られている。

今回の国軍が発したNGOやボランティアの活動禁止通達は、この援助を断ち切ることが目的といわれる。

“蚊が困っている人の陰部を刺す”
6月1日から3日の予定で、中国の仲介によって、国軍とアラカン軍、ミャンマー民族民主同盟軍、クアン民族解放軍の間での会議の場が設けられた。しかし翌日の2日に早々に決裂。その直後から、ミャンマー北部では国軍と少数民族の軍隊との戦闘が再燃し、いままで以上の激しさだという。 

今回のラカイン州での国軍の通達はこの動きと無縁ではないと現地の人たちはいう。
国軍に対し、アラカン軍は、「蚊が困っている人の陰部を刺す」というラカイン州の諺を引用して抗議している。

6月1日からミャンマーでは新学期がはじまった。国軍は子供たちに学校へ行くように指示を出したが、被災地では学校の屋根が飛んだり倒壊したりといった状態だ。それでも国軍は登校を強要する。

被災民は皆で食糧をもち寄り、水害をまぬかれた米を分け合ってしのいでいる。サイクロンがもたらした天災はいま、人災にすり替わりつつある。【6月19日 下川裕治氏 デイリー新潮】
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【タイ 実質国軍支援の外相級会議開催 ミャンマー対応でASEAN内部に足並みの乱れ】
ASEANはこれまでミャンマー国軍の弾圧を改善させようと取り組んできましたが、ASEAN内部に国軍に対する温度差もあって、これまで効果的な対応が取れていません。・・・と言うか、国軍側のASEANとの合意を無視した対応に打つ手がなく傍観している状態。

そのASEANは人道支援を入り口に国軍との関与を深めようともしており、サイクロン「モカ」上陸の翌日、5月15日に「支援の用意がある」との声明を発表、その後2375万円相当の物資を空輸しています。

ただ、国軍の上記のような支援そのものに後ろ向きな姿勢からすると、「人道支援を入り口に・・・」というのも難しそうな印象です。

ASEANはミャンマー問題に関して、暴力の即時停止などを求めた「5項目合意」をミャンマーが履行していないため、首脳会議や閣僚会議にミャンマーのミンアウンフライン国軍最高司令官や国軍が指名した閣僚など「政治代表」の出席を認めていません。

そうした状況で、タイがミャンマー問題に関する非公式外相級会議を開催、ミャンマーからも国軍が任命したタンスエ外相が出席しています。ASEAN加盟国ではラオス、カンボジア、ブルネイ、ベトナムが参加。インド・中国も参加しています。

しかし、国軍に批判的なインドネシア・マレーシア・シンガポールなどは参加せず、ASEAN内部の足並みの乱れも表面化しています。

****ミャンマー情勢めぐりタイ主導でASEAN諸国など非公式会合  一部の国は参加見送り****
2年前の軍事クーデター以降、市民への弾圧や虐殺が続くミャンマー情勢をめぐり、隣国・タイの外務省は19日、ミャンマー軍幹部を招いた東南アジア諸国などによる非公式の外相級会合を開催しています。

タイ外務省関係者によりますと、ミャンマー軍事政権とASEAN=東南アジア諸国連合の加盟国などによる非公式の会合は、19日に観光都市・パタヤで始まりました。

カンボジアやラオスに加え、インド・中国など合わせて8か国が参加し、ミャンマー軍事政権からは新たに外相に任命されたタンスエ氏らが出席しているとみられます。

タイ外務省は18日に発表した声明で、「対話は平和的な解決策を模索する外交の基本的な要件」としたうえで、会合の目的は「ミャンマー情勢の解決に向けたASEANの取り組みを支援することだ」としています。

ただ、今年のASEAN議長国を務めるインドネシアをはじめ、一部の国は参加を見送っていて、ミャンマー軍事政権に融和的な姿勢を保つタイなどが主導する会合の意義について懐疑的な見方が広がっているとみられます。【6月19日 TBS NEWS DIG】
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外相が参加したのは、タイとミャンマー、ラオスとのこと。

参加国を見ると、かねてより国軍に宥和的なタイや中国の影響力が強いカンボジア・ラオス・・・ということで、実質的に国軍支援会議のような色彩も感じます。

タイは自国政権が軍事クーデターによって成立した経緯、軍部の影響力が極めて強い性格から、以前からミャンマー国軍には宥和的な姿勢を見せています。

タイのドーン外相はメディアに「タイは(ASEANの)他の国とは違い、ミャンマーと2400キロの国境を接している。危機が一刻も早く終わることを望む」と会合を呼びかけた理由を語っています。

中国は例によって利権拡大を目論み、ミャンマー国軍との関係を深めています。
しかし、そうした中国にミャンマー国民からは厳しい視線も。

****軍政に甘い中国にミャンマー国民が激怒...全土で抗議デモが勃発****
<民主派が政権を奪還した場合には中国は苦しい立場に追い込まれそうだ>

ミャンマー軍事政権と中国の接近に、ミャンマー国民の不満が渦巻いている。

タイを拠点にするミャンマー情報メディア・イラワジによれば、5月初めに中国の秦剛(チン・カン)外相がミャンマーを訪問した際に全土で抗議デモが勃発。「ファシスト犯罪者への支援をやめろ」といった横断幕が掲げられ、各地で中国国旗が燃やされた。

デモを主導した反政府勢力は、中国政府が軍事政権への支援を続けるのなら、国外でも反中国デモを展開すると語っている。

軍事クーデターが勃発した2021年2月からしばらくの間、中国は政権と一定の距離を保っていた。だが、やがてミャンマー経由でインド洋に至る鉄道網などの実利を優先して態度を変え、軍事政権への関与を深めてきた。

軍事政権が崩壊する兆しがない以上、中国の判断は合理的かもしれない。だがミャンマー国民の反中感情の高まりを考えると、民主派が政権を奪還した場合には中国は苦しい立場に追い込まれそうだ。【6月5日 Newsweek】
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一方、国軍に批判的なシンガポールの外相はワシントンでブリンケン米国務長官と会談し、民主派勢力への関与を確認しています。ただ、「改善の兆候が見られない」との見解も。

****米シンガポール外相会談、悲観的なミャンマー情勢認識を共有****
シンガポールのバラクリシュナン外相は、ミャンマーの政治情勢は2021年の軍事クーデター以来改善の兆候が見られないとの見解を示した。ワシントンでブリンケン米国務長官と会談した後に述べた。

シンガポールが加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)はクーデター以降、ミャンマー軍政がハイレベル会合に出席するのを禁止している。

バラクリシュナン氏は記者会見で、情勢に進展がないことはミャンマー軍政高官とかかわる時期ではないことを意味するが、現在ASEAN議長国のインドネシアはミャンマーの「広範囲なステークホルダー」と接触していると述べ、クーデター反対派との協議に言及した。

その上で「最終的には全勢力が交渉の座に着く必要がある。どのくらい時間がかかるかは分からない。前回ミャンマーで一定の民主主義が実現するまで25年かかっている。そこまで長引かないよう望む」と述べたが、依然「悲観的」だと付け加えた。

一方、ブリンケン氏も同調し、米国はASEANによるミャンマー問題への取り組みを支援すると言明。「われわれ全員が軍政への適正な圧力をかけ続けるとともに、反対派の関与方法を模索していくことが重要」と述べた。【6月19日 ロイター】
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“米国はASEANによるミャンマー問題への取り組みを支援する”とは言うものの、すでにタイが別方向に走りだしており、ASEANがミャンマー国軍に対し、統一的・強力な対応をとることは無理なようです。
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北朝鮮  都市部でも餓死者 1990年代の大飢饉「苦難の行軍」以降で最悪の食糧難

2023-06-18 22:56:57 | 東アジア

(北朝鮮のチョンサム協同農場。畑にある金日成と金正日のプロパガンダ・フレスコ画【5月24日 現代ビジネス】)

【都市部でも多くの餓死者が】
餓死者が出るほどの食糧不足・市民生活の困窮のなかで続けられるミサイル・衛星の発射実験・・・日本的感覚では「異常」としか言い様がありませんが、北朝鮮・金政権は核・ミサイル技術の開発によってアメリカや韓国が手だしできない状況をつくり、より有利な国際環境をつくることを政権存続の基盤としているのでしょう。彼らなりの「合理性」の結果でしょうか。

国民の疲弊・不満は力で封じ込めることができる・・・・ということでしょうが、そこには限界もあるでしょう。

北朝鮮の食糧不足は今に始まった話ではなく、毎年繰り返し報じられているものではありますが、最近の食糧事情は都市部でも餓死者が出るなど、これまでになく厳しいと言われています。

****「都市部で多くの餓死者」北朝鮮の食糧不足の深刻さ 専門家が解説**** 
朝鮮半島の情勢に詳しい龍谷大学社会学部教授の李相哲氏が6月12日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演し、辛坊と対談。北朝鮮の最新情勢について、「都市部で多くの餓死者が出ている」と解説した。(中略)

辛坊)北朝鮮の飢餓は現在、どのような状態なのでしょうか。
李)北朝鮮と海外の間で交わされている電話などから、食糧不足の一端が分かります。例えば、北朝鮮から海外にいる親戚や脱北者に対し、欲しい物を伝える際のしゃべり方から、逼迫の度合いが分かるのです。最近では公の報道によって、都市部で多くの餓死者が出ていることが伝えられています。(中略)

トウモロコシの値段が何倍も跳ね上がっているのです。トウモロコシの値段はコメよりはるかに安いため、皆がトウモロコシを買おうと殺到します。しかし、供給量が少なく、さらに値段が高騰しているため、手に入りにくい状態です。これが、北朝鮮の食糧難が深刻であるという1つの指標になっています。(中略)

北朝鮮の都市部には、在外中国人である華僑も暮らしています。北朝鮮の華僑は裕福と思われているのですが、その華僑が飢え死にしたというニュースもありますから、飢餓状態はかなり深刻だといわれています。(中略)

韓国の発表では、5月31日の北朝鮮による「軍事偵察衛星」と称する飛翔体の打ち上げにかかった費用は、北朝鮮の国民約2500万人全員が10カ月食べられるコメが買える金額に相当するとされています。それだけのお金を使って発射したものの、失敗しました。北朝鮮は馬鹿げたことをやっています。【6月12日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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2月8日ブログ“北朝鮮 餓死、絶望からの自殺、凍死、格差・・・理不尽な現実 それでも「金王朝」は続く”では、比較的裕福な地方都市と見られている開城でも餓死者・自殺者が相次いでいることも取り上げました。

****北朝鮮、食料難が深刻化か 開城で餓死者続出と報道****
韓国の聯合ニュースは6日、北朝鮮南西部の開城市で食料事情が悪化し、1日数十人が餓死しているとの消息筋の話を伝えた。開城は生活水準が比較的高いとされる地方都市で、事実なら食料難が全国で深刻化している恐れがある。

聯合は昨年末に金正恩朝鮮労働党総書記の指示で穀物の生産と流通の統制が強まり、住民の食料調達に重大な問題が生じているとした韓国政府の分析を伝えた。

北朝鮮メディアは6日、朝鮮労働党の重要会議、党中央委員会拡大総会が2月下旬に招集されると伝えた。農業問題を討議するとしており、食料難への緊急対処を目的に開かれる可能性がある。【2月6日 共同】
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【「ロシア産小麦粉」が出回り、多少の安堵感も】
北朝鮮指導部の対応の結果でしょうか、ここにきてロシア産小麦が大量流通し、“多少の安堵感が流れている”という報道もあります。

****餓死者発生の北朝鮮に大量流通し始めた「ロシア産小麦粉」****
ただでさえ深刻な食糧不足にあったところに、前年の収穫の蓄えが底をつく「ポリッコゲ」(春窮期)を迎えた北朝鮮。各地からは深刻な飢えの状況が伝えられている。子どもたちは学校にも行けず、家族のために毎日山に入って山菜採りを余儀なくされる事態に。

一方で当局は、穀物輸入を盛んに行っていると伝えられている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、5月中旬から新義州(シニジュ)一帯で中国から輸入されたと見られる小麦粉が多く出回っていると伝えた。

2キロ入りの袋で、表面にはロシア語と中国語の表記がある。製造はロシアのノボクズネツク小麦粉工場、輸入は泰和翔(大連)供給鍵管理有限公司となっている。中国経由で輸入されたロシア産の小麦粉で、賞味期限は生産日から12カ月となっているが、日付は記載されておらず、どれほど古くなったものかわからないと情報筋は述べた。

販売は国営の糧穀販売所で行われているが、1キロあたり8000北朝鮮ウォン(約128円)。今年1月、2月に売られていた小麦粉と比べて1000北朝鮮ウォン(約16円)安くなっている。その当時、コメは4500北朝鮮ウォン(約72円)、トウモロコシは2000北朝鮮ウォン(約32円)で、小麦粉にはとても手が出せなかった。

ポリッコゲで食糧価格の高騰と飢餓が広がることが懸念されていたが、小麦粉が出回るようになったことで、多少の安堵感が流れているという。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋も、清津(チョンジン)市内の各区域の糧穀販売所で、同じロシア産の小麦粉が販売されていると伝えた。これに伴い、市場の小麦粉の価格も下落した。

この小麦粉がどのような経緯で、いつ、どこから輸入されたかは詳らかでない。
「中国とロシアが共同で支援したのか、わが国(北朝鮮)が主導して輸入したのかわからない。しかし、輸入小麦粉が出回るようになって価格が下落し、ほとんどの住民は胸をなでおろしている」(情報筋)(中略)

北朝鮮では今、ひどい地域だと、人民班(20〜40世帯)の数世帯が餓死するほどの事態になっていると伝えられる。農村での田植えや建設現場への動員にも深刻な影響が出ており、社会的な不満も溜まっている。

コメや小麦粉を大量輸入することで価格を下げ、不満を抑えると同時に、「国営米屋」の糧穀販売所で販売することで、穀物流通や価格決定の主導権を国の手に取り戻そうとする意図があるものと考えられる。

ただ、この手の輸入は、急場をしのぐための一過性のものに終わることが多く、人為的な価格引き下げがいつまで可能かはわからない。【6月1日 デイリーNKジャパン】
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餓死に直面している者に、米の2倍近い、トウモロコシの4倍ほどの値段の小麦を買う余裕があるのか・・・そこらはわかりませんが、社会全体の需給バランスを改善するのには役立つでしょう。継続できればの話ですが。

【強権支配社会秩序の“ほころび”】
国民の疲弊・不満を力で封じ込める社会体制にも“ほころび”が見えるとの報道も。

****「報復殺人」で警察官70人が犠牲も…金正恩体制の“秩序崩壊”****
暴言、暴行、そしてワイロ要求など、その横暴な振る舞いから、国民の怨嗟の的となっている北朝鮮の安全員(警察官)。

しかし、彼らとて気楽に過ごしているわけではない。恨みを買った安全員が報復される事件が多発しているからだ。韓国のリバティ・コリア・ポスト(LKP)によると、1年間に全国で安全員に対する報復と見られる殺人事件が70件超も起きた例もある。

最近、同様の事件がまた起きたが、市民が同情を示すことはないと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、事件が起きたのは今月6日午後2時ごろ。恵山(ヘサン)市の外れにある春洞(チュンドン)の洞事務所(末端の行政機関)前で、町内在住のチェさんが、春洞分駐所(派出所)の安全員2人と出くわした。チェさんは町内で有名なガソリン商人。安全員とも顔見知りだった。

3人はしばらく立ち話をしていたが、何があったのか口論となった。1時間ほどしてチェさんはその場を立ち去ったが、安全員はそのままその場に立っていた。

すると20分後。体格の良い6人の兵士が突如として現れた。そして、石で安全員の頭部を殴りつけ、倒れたところをメッタ蹴りにし、その場から去って行った。その間、わずか1分ほどのことだった。

騒ぎを聞きつけた洞事務所の職員が飛び出してきたところ、頭から血を流し、動けないほどの大怪我を負った安全員が倒れていた。

野次馬が倒れた安全員を取り囲んでいるところに、チェさんが両手にガソリンの入った一斗缶を持って現れた。血を流して倒れている安全員を見た彼は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で「一体何が起きたんだ?」と叫んだという。

別の情報筋によると、暴行を受けた安全員は肋骨を折る大怪我を負って14日の時点でも入院している。チェさんは、ワイロとしてガソリン30キログラム(40.2リットル)を要求した安全員を痛めつけるために、兵士6人を雇ったようだ。恵山市安全部(警察署)に逮捕されたチェさんは、取り調べで容疑を強く否認している。また、兵士6人の身元もわかっていない。

通常、安全員に大怪我を負わせて逮捕された場合、取り調べの過程で、他の安全員から報復として激しい暴行を受ける。それを知りつつも、大胆な報復劇を繰り広げたチェさんには、何かやらかしても庇護してくれる地方政府の幹部との強力なコネがあったのだろう。

ただ、かつての北朝鮮であれば、いくら幹部とコネがあるからと言っても、市民が安全員に半ば公然と集団暴行を加えることなど出来なかった。現在の北朝鮮ではそれだけ、金正恩体制の権威失墜が著しいということなのかもしれない。

安全部も、事件の発端は安全員のワイロ要求と知って、事件の話の拡散を抑えることに必死になっているとのことだ。しかし、話はあっという間に広がり、市民は「痛快だ」「スッキリした」とのリアクションを示している。

「もし戦争が起きたら、人々はまず保衛員(秘密警察)と安全員から『消す』だろう」(別の情報筋の友人)
やりたい放題をしてきた権力に対する、北朝鮮国民の恨みは深い。【6月17日 デイリーNKジャパン】
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賄賂をめぐる安全員(警察官)とのトラブルと言えばそれまでの話ですが、国民が政権に批判の声をあげるとき、先ずそのきっかけとなるのは、権力システムの最前線で国民に対峙する安全員(警察官)みたいな存在と国民の衝突でしょう。

【1990年代の大飢饉「苦難の行軍」以降で最悪の食糧難】
いずれにしても、現在の北朝鮮は“1990年代の大飢饉「苦難の行軍」以降で最悪の食糧難”と言われています。

****「苦難の行軍」以降で最悪…北朝鮮の食糧難、口揃える専門家たち****
北朝鮮は今、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」以降で最悪の食糧難に突入していると言われている。そのきっかけとなったのは、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために2020年1月、国境を封鎖し、すべてのモノと人の行き来を止めたことだ。

食糧難は年を追うにつれ悪化し、各地からは窮状を伝える情報が寄せられている。英国BBCは、デイリーNKの協力で、3人の内部情報筋とのインタビューを行った。

首都・平壌に住むジヨン(仮名)さんは、知り合いの一家3人が餓死したと証言した。
「3日にわたって人の出入りがなかった。それで水を届けようとドアをノックして入れて欲しいと声をかけた。しかし、返事はなかった」

北朝鮮の中では非常に優遇されている首都・平壌ですら餓死者が出るのは、食糧事情がいかにひどいかを示している。

ジヨンさんは、なんとかして2人の子どもに食事を与えようと頑張っているが、2日間何も食べられなかったこともあり、寝ている間に死んでしまうかもしれないと思ったという。また、平壌の路上では、多くの人が物乞いをするという今までになかった状況となっている。

「多くの人が路上で物乞いをしている。中には横たわっている人がいるが、確かめてみると多くが事切れている。自宅で命を絶つ人もいれば、山に入って行方をくらますひともいる。こんなことは今までに聞いたことがない」

また、監視と取り締まりが以前以上に厳しくなり、2020年に制定された「反動文化排撃法」で、詰問されることもしばしば。どこにスパイが潜んでいるかわからないこともあり、相互不信が広がっている。(中略)

「一歩踏み外せば死刑だ」
「私たちはここに閉じ込められ、死ぬのを待つばかりだ」
(中略)ミョンスクさんは、密輸で入ってきた商品を取り扱っていたが、国境警備が強化され、もはや国境の川を渡ることは不可能になったという。このような状況に、金正恩総書記に対する北朝鮮国民の感情も悪化しているようだ。

「コロナ前、人々は金正恩氏を肯定的に考えていた。しかし、今ではほとんどのひとが不満に満ち溢れている」

専門家たちは、今が「苦難の行軍」以降で最悪の食糧難だと指摘している。

北朝鮮経済を専門にするピーター・ワード氏は「平凡な中産階級の隣人が餓死していることは非常に憂慮される」「未だ全面的な社会の崩壊や大規模な餓死ではないが、状況はよくなさそうだ」と述べた。

韓国のNGO、北朝鮮人権情報センター(NKDB)のソン・ハンナ国際協力局長は「過去10年から15年で、餓死の事例はほとんど聞いていない。北朝鮮の歴史上最も苦しかった時期を思い起こさせる」と述べた。

北朝鮮は昨年、63回のミサイル発射実験を行い、その費用は5億ドル(約706億円)に達すると見られるが、北朝鮮国民全てに食糧を配給してもまだ残るほどの額だとBBCは伝えている。

北朝鮮は中国、ロシアからコメや小麦粉を緊急輸入する対策に乗り出したものの、まだ全国民を飢えから救うほどには行き渡っていないようだ。コロナの再流入を極度に恐れ、輸入後の消毒などを行っているが、そのキャパシティを超える量の輸入はできないためだと見られる。

まもなく麦の収穫が始まるが、生産性の低い北朝鮮の集団農業では、すべての国民を救えるほどの麦を確保するのは難しいだろう。また、今年も異常気象による日照りや集中豪雨が予想されている。【6月17日 デイリーNKジャパン】
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【近年の食糧難は、一時導入された市場経済的要素を排し、社会主義的農業政策へ回帰していることの結果】
北朝鮮の慢性的食糧難は、その社会主義的政策に根本原因があると指摘されています。

****北朝鮮「ミサイル連射」のウラで…「農村の革命化」に大失敗した金正恩に待ち受ける「食糧不足」という厳しい現実****
(中略)
金正恩の市場経済的な改革志向の後退
金正恩政権は、政権発足直後には市場経済的な要素を取り入れた対応でそれなりの成果を上げた。  

農業でも協同組合内部の作業班である「分組」を家族単位まで小規模化して、生産性を上げた。北朝鮮はさらに2013年から本格的に「圃田担当責任制」を実施し、ノルマ以上の生産については農民が市場などで処分することを容認した。こうした農民の労働意欲を刺激する措置が農業生産を向上させた。  

しかし、「農村革命綱領」には、このような市場経済的要素を組み込んだ農業政策に言及はなく、むしろ、改革的な農業政策は後退した。農民を共産主義的人間に改造することが優先される中では、市場経済的な働きかけで農民の労働意欲を刺激しようという方向性は抑制されていった。  

金正恩氏自身の考え方も、政権スタートには、発展した現実に合わせ「われわれ式の経済管理方法」を研究、完成していくべきとして、一定の枠内ではあるが経済改革を推し進める姿勢を示していた。  

しかし、2019年2月のハノイでの米朝首脳会談の決裂を受けたのちには、自力更生による「正面突破戦」を主張し、最高指導者の経済政策は改革ではなく、社会主義的な方向へ回帰してしまった。  

北朝鮮の食糧問題は深刻ではあるが、市場が運営されていることで配給制度の不備を補い、何と餓死者を出さない程度の低空飛行を続けてきた。  

しかし、金正恩党総書記は金日成主席の1964年の「社会主義農村テーゼ」を深化、発展させたという「農村革命綱領」を掲げ、農村に「3大革命」を持ち込み、農民の思想革命を起こすという社会主義への復帰ともいうべき道を歩んでいる。  

農村では当初は成果を上げた圃田担当責任制などが消えつつあり、社会主義的な集団営農へと回帰しつつある。これでは「働いても、働かなくても同じ」という状況に陥り、生産性は上がらないだろう。  

また、金正恩党総書記は会議で穀物生産の向上を叫ぶだけで、自らは農場に足を運んでいない。農場や工場の生産現場へ行って、現場での現地指導をメディアで伝え、生産向上を図るというのが、金日成主席、金正日総書記から続く伝統だったが、金正恩党総書記は最近、ほとんど現場に出向かない。  

出向くのは「完成」が予見されている建設現場がほとんどで生産現場に足を運ばない。ほとんどは金得訓首相に丸投げし、自身は党の会議などで檄を飛ばすだけだ。農業生産が向上しない責任をとりたくないためかもしれない。  

北朝鮮当局の動きは、市場での穀物取引を禁止し、食糧の販売を国家統制の下に置こうとしているように見える。配給制を完全に復活できるほど食糧確保ができないために、市場が持っていた市場機能を奪い、国営の糧穀販売所で市場に奪われた食糧販売権を国家が取り戻そうとしているようだ。  

北朝鮮の食糧難は、金正恩党総書記が掲げた「農村革命綱領」で農村の革命化を優先し、農民の思想改造などという理念先行で、農民の労働意欲やインセンティブを無視した政策の結果のように見える。さらに、農場を国営農場化し、糧穀販売所の設置などで食糧販売を国家統制しようとする社会主義的統制による流通政策の失敗だ。  

北朝鮮が食糧問題の解決を図ろうとするなら、政権初期に実施した圃田担当責任制などを農民の労働意欲やインセンティブを刺激する現実的な施策を取らなければ無理だろう。【5月24日 現代ビジネス】
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イラン核合意の本格的交渉再開は未だ 米、事態悪化を防ぐ「クールダウン」のための「静かな外交」展開

2023-06-17 22:33:52 | イラン

(イランの最高指導者ハメネイ師は6月11日、同国の原子力関連施設が現状で維持される条件ならば、2015年の核合意再建は可能だとの見解を示した。【6月12日 ロイター】)

【ハメネイ師発言の真意は? アメリカとのある種の融和に向けて少し扉を開いている・・・】
イランと米欧との核合意再建交渉は行き詰まった状況が続いていますが、イラン最高指導者ハメネイ師が同国の核兵器保有について、西側諸国に「止めることはできない」と述べる一方で、米欧との核合意再建交渉について「われわれの核関連産業の基盤に悪影響を及ぼすのでなければ、問題はない」と語っています。

****核兵器保有、西側は止められず=合意再建協議は継続―イラン最高指導者****
イランの最高指導者ハメネイ師は11日、同国の核兵器保有について、西側諸国に「止めることはできない」と述べた。一方で、「宗教上の信念から(保有を)求めていない」とも語った。ロイター通信がイラン国営メディアを引用する形で伝えた。

イランは最近、濃縮ウランの保有量を大幅に増やしているとされる。発言はイランを脅威とみなすイスラエルなどを一段と刺激しそうだ。

ただ、ハメネイ師は、米欧との核合意再建交渉について「われわれの核関連産業の基盤に悪影響を及ぼすのでなければ、問題はない」と指摘。協議継続の意思を示した。また、国際原子力機関(IAEA)の査察への協力も一定の範囲内で続けるべきだという考えを示した。【6月11日 時事】
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どうも真意が素人にはよくわからない発言ですので、解説記事をもうひとつ。

****イラン原子力施設維持できるなら核合意再建は可能=ハメネイ師****
イランの最高指導者ハメネイ師は11日、同国の原子力関連施設が現状で維持される条件ならば、2015年の核合意再建は可能だとの見解を示した。

米国とイランの核合意再建を巡る間接協議は昨年9月以降停滞が続き、互いに相手方が不当な要求をしていると非難し合っている。数日前には、イラン側が制裁の解除を受ける見返りに、核開発プログラムを制限する形で双方が暫定的な合意に近づいているとの報道を、両国がともに否定した。

こうした中でイラン国営メディアによると、ハメネイ師は「(西側との)合意には何も悪いことなどない。ただしわれわれの原子力産業のインフラには手を付けられるべきではない」と語った。

米国務省の報道官は、ハメネイ師の発言に直接コメントはせず、米国は「決してイランが核兵器を所有するのを認めない決意を持っている」というバイデン政権の方針を繰り返した。

同報道官は、そうした目的達成に最善の方法は外交だと信じるが、大統領はいかなる選択肢も排除しない姿勢を明確にしていると指摘。米国が軍事力行使に含みを持たせていると改めて示唆した。【6月12日 ロイター】
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「イランの核兵器保有を止めることはできない」という部分も含む上記ハメネイ師発言をどのように理解していいのか・・・核合意再建交渉に前向き発言と理解していいのか・・・よくわかりませんが、少なくと交渉を否定するものでもないようです。

ただ「止めることはできない」としながら「求めていない」というイランの論理は理解し難いものがあります。
米欧に指図されて核兵器開発を断念するようなことはないが、そもそもイランは保有を求めていない・・・ということでしょうか。そういうことであれば、交渉に臨むイラン側の面子・建前を述べたものとも理解できます。

もっとも、イスラエルなどは、「求めていない」云々は嘘っぱちで、イランが核兵器開発に邁進していると確信しています。そうであれば「止めることはできない」交渉を続けても無意味で、イランに時間を与えるだけだということにもなります。

イラン国内には、交渉を求める穏健派、妥協を拒否する強硬派、双方がありますので、双方に配慮した発言でしょうか。

後出WSJによれば“2015年の核合意の完全復活には程遠いものの、米国とのある種の融和に向けて少し扉を開いているように思われた”とも。

【アメリカ イランへの反発の強い議会の承認を必要としない形で、状況の“クールダウン”を求め、水面下で模索】
ハメネイ師の真意はよくはわかりませんが、最近、核合意再建交渉に関する動きも報じられています。

****オマーン仲介で米と交渉か=核合意再建巡り―イラン****
イランが2015年に欧米などと締結した核合意の再建交渉に関連し、イラン外務省報道官は12日、中東のオマーンが間に入り、米国と間接的な協議が続いていると明らかにした。報道官は「オマーン当局の努力を歓迎する」とした上で、協議は「秘密ではない」と指摘した。AFP通信が報じた。

報道官はまた「われわれは外交交渉を停止したことはない」と強調した。核合意再建交渉を巡っては、イラン最高指導者ハメネイ師が11日、「(自国の)核関連産業の基盤」を変えるものでなければ合意の可能性はあると述べていた。【6月13日 時事】 
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オマーンでの間接協議は2月頃から継続しているようです。

国内にイランへの妥協を拒否する強硬派を抱える点では、アメリカも同じです。

アメリカもいろいろ水面下で模索しているようですが、アメリカ議会はイランに対する反感が強く、議会承認が必要となる形では、イランとの話がまとまってもアメリカ国内手続きで立ち往生することも予想されます。

****米政府、イラン問題の打開模索 議会承認不要の「相互理解」案も****
米国がイランの核開発問題などを巡りイランと協議をしているもようだ。イランおよび米欧の当局者によると、イランの核開発の制限、イランで拘束されている米国人の解放、海外イラン資産の凍結解除に向けた措置を探っているという。

2015年のイラン核合意の復活交渉が実質的に頓挫し、米国はイランの核開発を阻止する策を検討している。米国内ではイランに対する懐疑論や反発が強いため、議会の承認を必要とする「合意」ではなく、「理解」という形を取ることを想定しているもようだ。

ある西側当局者は、米国家安全保障会議(NSC)の中東政策調整官のブレット・マクガーク氏とイランの核交渉責任者アリ・バゲリ・カニ氏の間接協議が中東オマーンで複数回行われたとし、「これはクールダウンと呼ぶべきものだ」と述べた。

構想されているのが、イランの核問題で全当事者が受け入れ可能な現状維持を形成することで、ウラン濃縮を米欧が越えてはならない一線と見なす90%まで高めず60%で止めることだ。

具体的な手順や、イランが拘束している米国人3人の解放にどのように関連付けるかは不明。米国人の解放については、当局者が以前、資産凍結の解除が条件になるとの見方を示している。

米国の主たる目的は、イランの核を巡る状況の悪化を防ぎ、イスラエルとイランが衝突する事態を回避することだ。「(イランが)誤算を犯し、イスラエルが強く反応する事態は避けたい」と西側当局者は述べた。

米政府は、イランとの合意を模索しているとの一部報道を否定している。ただ国務省のミラー報道官は、米政府はイランに対し、核開発抑制やウクライナに侵攻するロシアへの支援停止、拘束米国人の解放を望んでいると説明。具体的内容に踏み込まず「これら全ての目標を追求するため、引き続き外交的関与を活用する」と述べた。

イラン当局者は「暫定合意、相互理解など、名称は何であれ、双方が事態の深刻化は防ぎたいと考えている」と述べた。【6月16日 ロイター】
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全面的な合意復活への交渉ではなく、事態が悪化するのに歯止めをかける“クールダウン”のための「静かな外交」ということのようです。

****米、イランと静かな外交 緊張緩和なるか****
バイデン政権は囚人解放、イランは資金凍結の解除を求めている

バイデン米政権がイランと水面下で協議を再開していたことが分かった。イランに拘束されている米国人の解放や、核開発に歯止めをかけることが狙いだ。複数の関係者が明らかにした。

米国とイランの当局者によれば、協議が再開される中、イラク政府がイランからの電力・ガスの輸入で25億ユーロ(約3800億円)の支払いを実行することを米政府は承認した。この資金は米国の経済制裁によって凍結されていた。

米当局者は、資金の凍結解除は協議とは無関係だとしている。過去にも凍結が解除されたことがあるが、今回は現地通貨ではなくユーロでの実施となった。

関係者によれば、昨年12月にニューヨークで米国とイラン当局者の協議が始まった後、ホワイトハウス関係者はオマーンを少なくとも3回訪問。オマーン当局者が双方の伝言を仲介した。

ジョー・バイデン大統領は対イラン経済制裁の解除と引き換えに、同国の核開発を制限する核合意への復帰を選挙公約に掲げていた。

新たな外交努力には、イランとの緊張を緩和する狙いがある。バイデン氏にとっては政治的綱渡りだ。イランはウクライナでの戦争に使われる無人機(ドローン)をロシアに提供するほか、ウラン濃縮を推進している。ペルシャ湾岸では石油タンカーを拿捕(だほ)するなど、今年に入り両国の緊張は激化してきた。

イラン政府は囚人解放と核開発制限を受け入れるのと引き換えに、米国の制裁によって国外にとどまっているエネルギー収入の支払いを求めている。イラン当局者は、韓国にとどまっている自国の資金70億ドルへのアクセスと囚人解放とをたびたび結びつけ、イラクで凍結されている石油・ガス代金を利用できるようにすることを要求してきた。

この件に詳しい韓国の前政権の当局者によれば、人道目的でこの資金の凍結を解除する方向でイランおよび米国との協議が継続されている。

バイデン政権は大統領選が迫る中、イランとの交渉を最優先課題とすることを避けたい考え。正式な合意、またはそこにまで至らない合意でさえ、議会の審査を余儀なくされる可能性がある。議会では共和党や民主党の一部がイランとの核合意に強く反対している。

もし夏の間に緊張が落ち着けば、より広範囲に及ぶ協議、場合によっては2015年の核合意を巡る協議の再開にもつながる可能性がある、と関係者は言う。ただ、それが合意復活につながるとの楽観的見方はほとんどない。

西側の当局者は、もしイランに兵器級の核分裂性物質を製造する動きがあれば、外交危機の引き金になると懸念する。イスラエルは、軍事攻撃を引き起こしかねない核の製造レベルだとしている。

「イランによる一部の行動は、われわれを非常に危険な状況に導きかねない。イランも世界もそれを承知している。だから危機を防ぐため、エスカレートした行動を避けるべきだとわれわれは明確にしてきた」。バイデン政権のある高官はそう語った。「同時に、数カ月にわたる状況の悪化を受け、イランに段階的緩和(ディエスカレート)への道を進むよう促してきたことも周知の通りだ」

核合意に関する正式な交渉は、イランが合意から離脱した昨夏以降、行われていない。イランの首都テヘランで抗議デモが弾圧され、ウクライナ戦争でのイランによるロシア支援が拡大する中、米・イラン両政府の接触は縮小していた。

2022年終盤、米国のイラン担当特使であるロバート・マレー氏がニューヨークでイランの国連大使と会談。そこから4月まで続く一連の会合が始まった。これら協議の説明を受けた関係者が明かした。(中略)

拘束された米国人に関する話し合いは、カタールが仲介している。この協議をよく知る関係者はそう語る。(中略)

イランの核開発の成果を展示した会場で11日に演説したハメネイ師は、2015年の核合意の完全復活には程遠いものの、米国とのある種の融和に向けて少し扉を開いているように思われた。

ハメネイ師はイランの現在の核インフラを、何らかの合意の下で排除することがあってはならないと主張。その一方で「いくつかの分野で取引することはあり得る。それは問題ではない」とも述べた。

イランは核開発に関する国際原子力機関(IAEA)への協力姿勢を徐々に示すなど、一部の分野では緩和を思わせる動きをみせている。

またバイデン政権当局者が制裁を実施していると主張する中でも、イランの販売する石油は増え続け、NPO(非営利団体)イラン核装備反対連合(UANI)が集計したタンカー調査のデータによると、5月の輸出量は日量155万バレルに上った。

イランの交渉責任者バゲリ・カニ氏は12日、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで、核合意の交渉を支援したE3(英国、フランス、ドイツ)の高官と会談した。

「米国にせよE3にせよ、ここ数週間に関与を高めた第一の目的は、状況がさらに悪化するのを防ぐことだ」。紛争解決を目的とするシンクタンク、国際危機グループのイランプロジェクト責任者、アリ・バエズ氏はそう指摘する。「それによって核開発などの部分である程度の猶予ができれば、さらなる協議への扉が開かれる可能性がある」【6月15日 WSJ】
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少し扉が開いたなかで“ある種の融和”が成立すれば、本格的合意に向けて“さらなる協議への扉が開かれる可能性がある”・・・・道のりは長いですが、まったくとん挫している訳でもない・・・といったところのようです。
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スーダン  戦闘開始から2か月 見えない“終わり” 増加する犠牲者・難民 拡散する飢餓の脅威

2023-06-16 23:38:53 | スーダン

(チャド東部で、国連WFPがスーダンから新たに到着した避難民に食料を配布している様子【6月5日 国連WFP】)

【実効の疑わしい停戦を繰り返しながら、戦闘は拡大 終わりは見えず】
軍と準軍事組織が武力衝突を始めてから15日で2か月となったスーダン。
ウクライナ軍の反転攻勢などが国際的に注目を集めるなかでは、次第に世間の関心も薄れ、やや「賞味期限切れ」状態にも。

「停戦合意」という記事はときおり目にしますが、必ず「しかし、戦闘は続いている」という記事がそのあとに。
今月10日も、サウジアラビア・アメリカの仲介で“一応”「24時間停戦」があったようです。

****24時間の停戦で合意=スーダン****
アフリカ北東部スーダンの正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が10日午前6時(日本時間同日午後1時)から24時間停戦することで合意した。両者を仲介するサウジアラビアと米国が9日に共同声明で発表した。

声明によると、軍とRSFは停戦期間中、航空機やドローンの使用、空爆や砲撃、陣営強化などをやめ、「軍事的優位を求めない」ことに同意。人道支援を妨げないことでも一致した。【6月9日 時事】 
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10日の24時間停戦がどれほどの実効があったのかは知りませんが、少なくとも戦闘はその後もむしろ拡大しているようです。かつて、「世界最悪の人道危機」と呼ばれた惨劇が繰り広げられたダルフールでも。

そもそも、今回衝突の一方の当事者、準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」はダルフールの「ジェノサイド」で悪名をはせた民兵組織「ジャンジャウィード」の後継組織です。

****RSFとは何者か 独裁者が保護した第2の軍隊―強力な資金源、頼みは「外部」・スーダン****
スーダンで軍と戦闘を繰り広げている準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」は、イランの革命防衛隊と同様、軍がクーデターを起こしても、それを迎え撃てるよう想定された「第2の軍隊」だ。軍と互角に戦える装備や訓練を施されている。

スーダン停戦、また実現せず 軍は「RSF一掃の段階」主張
 ◇総兵力10万
RSFの最近の総兵力は10万人と報じられてきた。スーダン軍は陸軍の10万人が圧倒的で、空軍は3000人、海軍は1000人。兵力数を見れば両者は互角のはずだった。

2019年まで30年に及んだバシル独裁政権が構築した「カウンター・クーデターのための暴力装置」だったが、最後は軍と手を組み権力を奪った。

この協力をきっかけに、RSFは軍から大量の「出向者」を受け入れ、スーダン全土へ急速に膨張する組織を整えた。双方の総兵力数には重複があったとみられ、15日の戦闘勃発の翌日、軍はこうした出向者に「原隊復帰」を命じた。現在の正確な勢力比は分かっていない。
13年に発足したRSFの源流は、西部ダルフール地方で住民弾圧を担った民兵組織「ジャンジャウィード」だ。03年から激化したダルフール紛争で「スーダン解放軍(SLA)」や「正義と平等運動(JEM)」など反政府勢力に対し、軍の先兵となって戦った。

軍による空爆の援護を受けつつ、ジャンジャウィードはダルフールの町や村を略奪し蓄財した。バシル大統領の個人的な保護を受け、RSFを率いるダガロ司令官の一族は今やダルフールの金鉱の利権を握り、幾つも企業を経営する富豪となっている。

 ◇他国の内戦で稼ぐ
さらに、RSFは過去10年、海外との関係を強化した。サウジアラビアのムハンマド皇太子が介入し15年から激化したイエメン内戦に数万人のスーダン人傭兵(ようへい)を送り込み、サウジを支えた。

リビア内戦では、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」と関係を深め、リビア東部のハフタル派のため傭兵を送り込んだという。イエメンやリビアの最近の内戦沈静化はこうした「RSFの資金源」に影響を与え、ダガロ氏に焦りが生まれていた可能性もある。

ロイター通信は19日、軍の空爆を受けたRSFは市内の拠点を放棄し「住宅街に紛れ込んでいる」と伝えた。ダルフール紛争以来磨いてきたゲリラ戦で軍に対抗する構えだ。

しかし、兵力も資金も「第2軍隊」であるRSFは、国庫を握る軍に対し、時間の経過とともに不利になる。サウジやリビア、ロシアなどこれまで培ってきた「外部勢力の支援」が頼みの綱だ。【4月22日 時事】
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今のところは互角の戦闘が続いており、“時間の経過とともに不利になる”という状況でもなさそうです。

****スーダン西部の都市で戦闘激化、準軍事組織批判した州知事殺害****
スーダン西部の複数の都市で14日、正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が激化した。西ダルフール州ではRSFによる市民の「ジェノサイド(大量虐殺)」を批判した知事が殺害された。

正規軍とRSFの戦闘が4月半ばに同州の州都ジェネイナで始まって以来、1100人が死亡したと現地の活動団体は推定しており、首都ハルツームやコルドファン、ダルフール両地方の主要都市が人道危機に陥っている。

米国とサウジアラビアが仲介する停戦は何度も頓挫しており、戦闘終結の見通しが立たないままだ。米国務省の高官らは13日、新たなアプローチを検討していると述べた。

西ダルフール州のアバカル知事は14日、RSFとその協力関係にある民兵組織がジェノサイドを実行したと批判した数時間後に殺害された。知事が指揮する武装集団が明らかにした。2人の政府筋はRSFの犯行だと述べた。【6月15日 ロイター】
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【増加する犠牲者、難民・避難民】
戦闘の犠牲者は少なくとも1800人との推計も発表されています。また、国全体では220万人が家を追われているとも。しかし、戦闘が終わる兆しは見えていません。

****スーダン、終わりのない戦闘2カ月 首都から100万人脱出―軍とRSF、泥沼の衝突****
アフリカ北東部スーダンで正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が始まってから15日で2カ月が経過した。サウジアラビアなどが仲介する中、両陣営は依然として首都ハルツームや西部ダルフール地方で戦火を交え、終わる兆しは見えない。住民からは「国の全域が災害に遭ったようだ」と嘆く声が漏れる。

19日にスーダン支援国会合 サウジ主導、EU・国連も参加
衝突は、軍トップのブルハン統治評議会議長と、RSFを率いるダガロ司令官の権力闘争が表面化する形で4月15日に始まった。ハルツームの支配を巡り都心部で激しい戦闘を展開してきたことが特徴で、首都の街並みは変わり果てた。

目撃者がAFP通信に語ったところによると、軍は14日、戦闘開始後初めてハルツーム南西約350キロの都市オベイドを空爆した。RSFが2カ月間包囲していた地域だった。

ただ、制空権はこれまで、空軍を握る軍が一貫して掌握してきたが、スーダン軍当局者は14日、RSF側が攻撃用ドローンを使用し始めたと述べ、警戒を強めている。

軍は14日、西ダルフール州の知事をRSFが「拉致して殺害した」と非難。「(RSFが)全スーダン人に対して犯している野蛮な犯罪記録に新たな一章が加わった」と批判し、衝突は泥沼の様相を濃くしている。

米NGO「武力紛争地域事件データプロジェクト(ACLED)」によると、戦闘の犠牲者は少なくとも1800人。国際移住機関(IOM)によれば、国全体では220万人が家を追われ、ハルツームからも100万人以上が脱出した。うち52万8000人は周辺国へ避難したとみられている。

ハルツームでは水や食料、医薬品が調達できなくなりつつある。住民アハメド・タハさんはAFPの取材に「われわれには何も残っていない」と訴えた。「国中が完全に破壊された。どこを見ても、爆弾が落ちたり、銃弾が当たったりしている」と力なく語った。

米国やサウジが仲介努力を続けるが、停戦合意は、軍とRSF双方の違反で幾度となく破られ、有名無実が常態化している。援助団体は物資搬送のための人道回廊の設置を訴えるが、実現していない。サウジは19日にスーダンへの援助を話し合う支援国会合を開くと発表している。【6月16日 時事】
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米国は双方の人権侵害、暴力を批判していますが、批判の力点は「即応支援部隊(RSF)」側にあるようにも見えます。

****米、スーダンの人権侵害と暴力非難 対立勢力双方を批判****
米国は15日、スーダンで2カ月にわたり続いている紛争による人権侵害、虐待、「おぞましい暴力」を最も強い調子で非難すると表明した。

国務省のマシュー・ミラー報道官は声明を発表し、米国は特に準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」と、協力関係にある西ダルフール州の民兵組織による民族を対象にした暴力行為を懸念していると指摘。

「西ダルフール州その他の地域で行われている残虐行為は、2004年に米国がダルフールでジェノサイド(大量虐殺)が行われていると判断した事態の残存だ」と述べた。

その上で、RSFによる市民のジェノサイドを批判したアバカル西ダルフール州知事が14日に殺害された事件を特に非難するとした。

一方、スーダンの正規軍(SAF)も「民間人を保護できておらず、部族動員を扇動して衝突をあおっているとの報告がある」と批判した。【6月16日 ロイター】
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【日本政府も新たな緊急支援で食料・水・薬を供与】
“52万8000人は周辺国へ避難”とのことですが、その避難先のひとつが隣国チャド。
しかし、避難先でも雨期で孤立し、状況が懸念されています。

****チャドに逃れたスーダン難民、雨期で孤立も 国境なき医師団が警告****
非政府組織(NGO)の国境なき医師団は12日、スーダンから紛争を逃れてチャドに避難している難民数千人が、雨期の到来で人道支援から隔絶される恐れがあると警告した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は今月、4月の紛争勃発以降にスーダンからチャドへ避難した人は10万人を超え、今後3カ月で倍増する可能性があると予測した。

国境なき医師団のチャド担当者は、例年この時期に発生する洪水で、スーダンと国境を接する地域が孤立する可能性があると指摘。清潔な水が入手しにくく、衛生状態の確保も困難で、降雨により水を媒介した感染症が発生するリスクが高まると警告した。

国境なき医師団によると、同地域には約3万人の難民がおり、人道支援の不足から住居、水、食料が足りない状態にある。

チャドは世界最貧の国の一つだが、今回の紛争前から既に60万人近くの難民を受け入れている。【6月13日 ロイター】
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チャドの状況は、多くの避難民の直面している苦境のひとつに過ぎないでしょう。
日本政府も新たに500万ドルの緊急無償資金協力を行い、食料や飲み水などを供与することを決めました。

****スーダン支援に新たに500万ドル 食料や飲み水など供与へ 政府****
武力衝突が続くアフリカのスーダンの人たちを支援するため、政府は新たに500万ドルの緊急無償資金協力を行い、食料や飲み水などを供与することを決めました。これは、林外務大臣が16日に記者会見で発表しました。

それによりますと、軍と準軍事組織との間で武力衝突が続くスーダンの人たちを支援するため、新たに500万ドルの緊急無償資金協力を行い、WFP=世界食糧計画などの国際機関を通じて食料や飲み水、薬などを供与するとしています。

また、これとは別に、日本政府がすでにNPOに拠出しているおよそ146万ドルを使って、スーダンと周辺国のチャドで、食料や保健などの分野で支援を行うとしています。

林大臣は、「スーダン情勢について、先月の広島サミットでもG7=主要7か国として、一刻も早い停戦の実現に向けて取り組むことで一致した。日本政府として、引き続き必要な支援を実施していく」と述べました。【6月16日 NHK】
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【難民流入でスーダンの不安定な状況が『アフリカの角』の地域全般に拡散する懸念も】
スーダンから国外への避難民流出は、東アフリカ一帯に不安定な状況を拡散し、すでに深刻化している飢餓の脅威を更に悪化させることが予想されます。

****「スーダン、内戦により1900万人が飢饉に追い込まれる」WFP局長の訴え****
「今後3~6カ月以内にスーダンで飢餓に直面した人々は1900万人に達する可能性があります」

内戦中のスーダンで援助活動を行っている国連世界食糧計画(WFP)のマイケル・ダンフォード東アフリカ地域局長は8日、中央日報との書面インタビューで、現地の雰囲気をこのように伝えてきた。

ダンフォード局長は「内戦によりスーダンから近隣諸国への難民流出がすでに始まっている」とし「これが進めば、スーダンの不安定な状況が『アフリカの角』の地域全般に拡散しかねない」と懸念を示した。

「アフリカの角」地域はアデン湾の南部にまたがる東アフリカ地域で、サイの角のように突出している地域を指す。エチオピア・ソマリア・ジブチなどが属している。(中略)

内戦以降、外国人はもちろんスーダン人も「必死のエクソダス」に乗り出して難民が最大86万人発生するという悲観的見通しが出てきている。(中略)

スーダン内の状況が統制不能状態に陥り、国連のような国際救援団体の活動はますます厳しくなっている。一線の救護団体職員たちは文字通りに命懸けで活動している。

WFPも先月16日、スーダンの北ダルフール地域で救護活動中に職員3人が交戦に巻き込まれて命を落とした。WFPはこの事件で活動をしばらく中断したが、今月1日、WFPのシンディ・ヘンスリー・マケイン事務局長が救護を臨時に再開すると伝えた。(中略)

東アフリカは長い政治不安で慢性的な食糧危機を経験しているが、最近になって40年ぶりに最も乾燥した気候に直面し、食糧難が最悪に達しているという。

ダンフォード局長は「エチオピア、ケニア、ソマリアなどでは生計手段である家畜が干ばつや気象異変による洪水などで1300万頭が死亡し、最大8000万人が飢えに追い込まれている」と述べた。(後略)【5月9日 中央日報】
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RSFは“軍と互角に戦える装備や訓練を施されている”(前出 時事)とは言え、民兵組織に由来した歩兵中心の組織であり、装備的には国軍に劣るものと想像されます。

そのRSFがここまで軍と互角に戦い、ドローン攻撃も・・・周辺国、国外勢力の支援も推測されます。

軍・RSFの戦闘を沈静化させるためには、周辺国・関係国の停戦に向けた強い意思が必要でしょう。武器・弾薬などの供給が止まれば、戦闘もおのずから停止するはずです・・・ただ、多くの紛争がそういう道をたどらないのは、現実には関係国の武器支援などが止まないためでしょう。

1日も早い実効ある停戦の実現を期待する・・・としか言い様がありませんが・・・。
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中国経済  若年層の高い失業率 地方政府の巨額債務の問題

2023-06-15 22:59:28 | 中国

(【2019年6月16日 AFP】中国貴州省独山県にある「天下第一水司楼」は、高さが99.9メートルの24階建て、くぎを使わず木と木をつなぎ合わせた大型木造建築物で、地元少数民族シュイ族の文化と知恵の象徴となるはずでした。しかし、2018年ごろに外観がほぼ完成したものの、地方政府の財政難で工事がストップ。過剰な開発投資を続けた独山県の債務は、年間財政収入の40年分にもなっています。)

【力強さを欠く「まだら模様」の中国経済】
****中国でスト頻発 世界需要低迷で工場閉鎖、労働者反発****
中国の工場でストライキが頻発し、7年ぶりの水準に達している。世界的な需要低迷のあおりで、輸出企業が賃金引き下げや工場の閉鎖を余儀なくされているためだ。(後略)【6月15日 ロイター】
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ゼロコロナ後の中国経済については、"中国の景気は悪いのか良いのか。シンガポールのテレビCNA(6月2日)は、民間のPMI(景況感についてアンケート調査した結果を指数化したもの)とサービス業の伸びを並べ、「まだら模様」と表現した。”【6月7日 MAG2NEWS】とのことです。

“国産ジェット旅客機「C919」が商業飛行を開始。すでに、受注数も1000機を超えている”【同上】といった製造業の分野では、技術面でのブレークスルーが継ぎ目なく脚光を浴びている一方で、不動産業界を覆う曇天は相変わらずですっきりしない、若年層の失業率の高さは深刻、米中対立の影響も懸念される・・・といった不安材料も。

かつて「爆買い」と称された旺盛な購買意欲は影を潜め、経済を牽引する需要がイマイチの状況です。
しかし、経済全体が深刻な状況に陥ったり、不況が長引くといった「重症化」することはないと一般的には考えられています。

****中国のインフレ問題「インフレがない」****
西側の中央銀行が根強い高インフレの抑制を目的に利上げを続ける中、中国ではデフレのリスクが高まっている。

中国の5月の生産者物価指数(PPI)は7年ぶりの下落率を記録し、消費者物価指数(CPI)はほぼ横ばいだった。世界第2位の経済大国である中国が国内外で難題に直面していることが改めて示された格好だ。

エコノミストによれば、インフレ圧力がないということは、経済が早期に回復しなければ中国でデフレ――幅広く物価が下落する現象――がしばらく続く恐れがあることを意味する。

長引くデフレは成長の圧迫につながることが多く、なかなか抜け出せないこともある。中国で長期にわたって物価が下落することはおそらくなさそうだが、それでも同国の政策立案者はデフレリスクを食い止め、経済を再び回復軌道に乗せるために金利を引き下げたり、元安に誘導したり、家計や企業への現金など消費の「呼び水」を提供したりして対策を強化する必要がある。(中略)

国内外の消費不足も中国が苦境に陥った理由の一つだ。
中国の工場が値下げしているのは、各国で利上げが始まる前ほど活発に海外で中国製品が買われていないからだ。中国の経済成長を後押しするはずだった待望の消費ブームは起きていない。不動産は低調で、投資は大幅に減少している。(中略)

それでもほとんどのエコノミストは中国が今年、政府が目標とする5%以上の経済成長を達成するか、または上回るとみている。2022年は主要都市のロックダウン(都市封鎖)で経済が打撃を受けており、比較対象となる数字が低いからだ。

キャピタル・エコノミクスの中国担当エコノミスト、ジーチュン・フアン氏は中国で幅広いデフレは起きないと考えていると話し、CPIの伸び率は政策立案者の後押しや労働市場の改善で数カ月のうちに回復するとの予想を示した。【6月12日 WSJ】
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「爆買い」が影を潜めたのは、可処分所得など経済の問題もあるでしょうが、社会の成熟とともに消費行動が変化していることも背景にあるのではないでしょうか。

【社会不安にも繋がりかねない若年層の20%を超える失業率 雇用ミスマッチの側面も】
一方、問題視されている不安材料のひとつが、若年層の失業率の高さです。

****中国 若者の失業率、過去最悪の20.8% 5人に1人が職に就けず…ゼロコロナ政策の“ひずみ”深刻***
中国の若者の失業率が20.8%と過去最悪を更新しました。ゼロコロナ政策が残した経済のひずみが深刻さを増しています。

中国国家統計局の発表によりますと、中国の都市部における16歳から24歳までの先月の失業率は20.8%となりました。前の月の20.4%から0.4ポイント悪化し、2018年以降最も高い失業率となっています。

若者の5人に1人が職に就けない状況は、中国でも社会問題となっていて、中国政府も対策を急いでいます。

また、今年1月から5月までの不動産投資は去年の同じ時期に比べて7.2%減少しました。中国経済の大きな割合を占める不動産市場の回復の遅れは、ゼロコロナ政策の転換からの回復を目指す中国経済の足かせになりそうです。【6月15日 日テレNEWS】
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“4月の都市部全般の失業率が5.2%と前年同月の6.1%を下回っており、これが若者の失業率の高さを一層際立たせている。”【5月25日 WSJ】ということで、全体の失業率が低下しているにもかかわらず、若者の失業率は急上昇している状況です。

雇用の絶対数が不足しているというより、若年層が求める職種と実際の雇用のミスマッチの側面が強いと指摘されています。

****中国の大卒者は就職難 雇用ミスマッチ****
(中略)
中国経済全体に占めるサービス業の割合は高まっている。しかし、過去10年に創出されたサービス職の多くは配達員やレストランのウエーターなど、大卒者にとって必ずしも魅力的とは言えない低位職だ。調査会社TSロンバードの中国・アジア調査責任者ローリー・グリーン氏はそう話す。

中国では過去10年間で高等教育進学者が大幅に増加した。過去3年間に労働市場に加わった大卒者は2800万人を超え、都市部の新たな労働供給の約3分の2を占める。

求人サイトの智聯招聘の調査によると、今夏に卒業する大学生の約30%がインターネットや通信、教育業界での就職を希望している。しかし、それらの業界の多くがここ数年の規制強化で混乱し、雇用主は増員に慎重になっている。(中略)

マッコーリー・グループの中国担当チーフエコノミスト、ラリー・フ氏は、中国の平均的な家庭が豊かになるにつれ、親世代と比べて求職活動に長い時間をかける余裕のある若者が増えていると話す。

多くの若者が、より高度な学位を得るために学校に戻っている。今年、大学院の募集枠120万人に対し、入学試験を受けた学部生は470万人と過去最高に達した。国営メディアの報道によると、2021年には上海の大学の3分の1近くで、既に大学院生の数が学部生の数を上回っていた。

米ノースウェスタン大学のナンシー・チエン教授(経済学)によると、就職を遅らせたり、求職活動を断念したりする若者は、公式統計では求職者としてカウントされない。カウントされれば、実際の失業率はもっと高くなるはずだという。(後略)【5月25日 WSJ】
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【雇用創出の役割を担わされる地方政府 すでに悪化している債務超過問題への更なる重荷に】
“今夏には過去最高となる1160万人の大学生が卒業する見込みであることから、若者の雇用市場は一段と悪化すると一部のエコノミストはみている。”【同上】という状況では、高い失業率は“雇用ミスマッチ”であろうが、やはり大きな社会不安材料になります。

「雇用第一」を重視する李強首相のもとで、大企業などが少ない地方にあっては、地方政府が雇用創出の役割を果たさざるを得ませんが、そのことは、ただでさえコロナ禍で膨らんだ債務超過が問題視されている地方政府の財政状況を更に悪化させる危険があります。

****中国地方政府、雇用と債務の二律背反に 膨らむ財政危機****
中国で債務規模が最大級に膨らんでいる幾つかの地方政府が、大量の新規採用を進めている。今年は記録的な数の大学卒業生が労働力人口に加わるとの見通しに対応し、雇用を創出する狙いとみられる。ただ、これによって既に脆弱な地方財政が一段とひっ迫しかねない、と専門家は警告する。

中国の地方政府が抱える債務は総額9兆ドル。国内総生産(GDP)の約50%に達し、持続的な経済成長を推進する上で最も大きな脅威の1つに挙げられている。

中央政府が今年掲げる主要政策目標には、こうした地方の借金に関連するリスクを取り除くことが含まれる。
一方で、新型コロナウイルスの感染対策として実施したロックダウン(都市封鎖)や移動規制などによる経済の痛手がなお残る中で、雇用創出も優先課題とされる。

ところが、人も企業も出て行ってしまう比較的貧しい地域の場合、仕事口はほぼ地方政府と言っても差し支えない。そして、地方政府は所得税や土地売却を通じた歳入の確保に苦戦を強いられている。

ムーディーズのバイスプレジデント兼シニアアナリスト、ジャック・ユアン氏は「この種の戦略は、高等教育を受けた若者をもっと発展した地域に流出させず、地元にとどめようとする計算が働いているのだろう」と話す。
だが、これらの地域は予算と債務の窮迫感が相対的に強いので、採用拡大に伴う歳出増が財政リスクを助長させると指摘した。

中国の大手公務員試験予備校、中公教育科技股分有限公司(オフcn・エデュケーション・テクノロジー)によると、今年は甘粛省と雲南省、広西チワン族自治区の採用予定者数の増加率が最も高くなりそうだ。(中略)

華宝信託のニエ・ウェン氏は「こうした地域で土地売却の不振に拍車がかかるようなら、これほどの規模の公務員採用は持続できないだろう」と述べた。

<雇用第一>
今年3月に首相となった李強氏は、中国が「雇用第一」を政策課題に据える必要があると訴えた。実際、中央政府は今年の成長率目標を5%前後と控えめに設定しながらも、創出すべき雇用の目標は昨年の1100万人から1200万人に引き上げている。

背景には、今年の労働市場に新規参入してくる過去最高の1158万人の大卒者に仕事を提供しなければならないという事情がある。足元で16―24歳の失業率が18.1%と過去最悪に近い水準で推移しているだけに、これは政府にとっても難しい任務だ。

中公教育科技股分有限公司の説明では、甘粛省と雲南省、広西チワン族自治区が求めている人材は主に法律、ファイナンス、会計の学部出身者で、応募基準も大卒者にとって有利になっているという。(中略)

多くの地方政府は、インフラ整備事業などの資金を債券市場から調達する上で、いわゆる地方融資平台(LGFV)に依存している。LGFVは地方政府が傘下に置く投資会社で、資金調達とデベロッパーの機能を併せ持っている。

国際通貨基金(IMF)は今年2月のリポートで、中国の各LGFVが抱える債務の合計が足元で、昨年の57兆元から過去最大の66兆元(9兆5000億ドル)に膨らんだと発表した。

これらLGFVの借り入れには厳密な公的保証が付与されているわけではなく、その資産には利用されていない空港や道路など価値が疑わしいものも少なくない。

今のところLGFV(地方政府が傘下に置く投資会社で、資金調達とデベロッパーの機能を併せ持っている)がデフォルト(債務不履行)を引き起こしたという公式発表はないものの、ムーディーズのユアン氏は、甘粛省を含む地方政府が債務返済のための借り換え圧力増大に直面していると警鐘を鳴らす。

このためユアン氏や他の専門家は、大量採用や高過ぎる成長目標を実現しようとすれば、とっくに限界を迎えている財政の面で、より深刻な問題が生じる恐れがあると懸念している。

INGの広域中華圏チーフエコノミスト、アイリス・パン氏は「普通ならこのような成長率と債務比率(の共存)は非常に危険なストーリーだ」と眉をひそめた。【4月2日 ロイター】
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上記記事にもあるように、地方融資平台(LGFV)の債務は表には出てこない「隠れ債務」となっていますが、この「隠れ債務」は1100超円を超えているとも指摘されています。

****中国、地方政府の「隠れ債務」1100兆円 深まる財政難****
中国の地方財政が厳しさを増している。

地方政府傘下の投資会社、融資平台が抱える「隠れ債務」の残高は2022年末に1100兆円を超えた。新型コロナウイルス流行前の19年から5割増えた。過剰な借金でインフラ開発などを進めてきたことが要因となる。

金融不安への飛び火を防ぐには債務圧縮が不可欠だ。ただ地方経済の発展モデルが崩れ、中国景気の重荷になるリスクも高まる。(後略)【6月14日 日経】
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****中国地方政府の巨額債務、経済に重荷****
ゼロコロナ政策で支出急増、成長の足かせに

1970年代以来の低成長局面を乗り越えようとする中国経済に、地方政府の財政悪化が暗い影を落としている。新型コロナウイルス禍で地方政府の債務は急速に膨れあがり、その影響がいよいよ表面化してきた。

習近平国家主席が旗振り役となった「ゼロコロナ」政策により、中国各地の都市は大量検査とロックダウン(都市封鎖)で予定外の巨額支出を余儀なくされた。さらに指導部による不動産市場の過剰なレバレッジ(借り入れによるテコ)に対する締め付けは土地売却の急激な落ち込みを招き、自治体から重要な収入源を奪った。

地方政府の約3分の2は債務残高が昨年の歳入の120%を超え、中国当局が非公式に定めた深刻な財政危機を示す債務基準を突破しかねない状況にある。S&Pグローバルが分析した。

調査会社ロジウム・グループの調査によると、中国主要都市のうち約3分の1は利払いすらままならない。極端なケースとして、甘粛省の省都・蘭州の利払いは2021年歳入の74%相当に達している。

債務の大半は近く支払期限を迎える。中国格付け大手の子会社、聯合評級国際では、地方政府傘下の投資会社(融資平台)が抱えるオフショア債務842億ドル(約11兆4400億円)のうち、約84%が今年から2025年に期限を迎えると分析している。

自治体がデフォルト(債務不履行)に陥り、金融危機を招くリスク自体は大きな懸念ではないが、可能性を排除することはできないとエコノミストは指摘する。

ただ、こうして借金を抱えた都市は今後数年にわたり支出を減らし、投資を先送りするなどして債務返済を優先せざるを得ず、成長を下押ししそうだ。

アップルの主要サプライヤー、鴻海精密工業(フォックスコン)がiPhone(アイフォーン)製造拠点を構える河南省・鄭州では昨年、公共バス運転手が減給となり、その後も給与水準は戻っていない。市内清掃員の中には数カ月賃金が未払いになっている人もいるが、出勤を続けている。(中略)

大都市の広東省深セン市では、教師がソーシャルメディアでボーナス急減への不満をぶちまけている。ラストベルト(さびた工業地帯)である黒竜江省の鶴崗市では1月、公益企業が地方政府から補助金を受け取ることができなかったとして、住民に暖房カットに備えるよう通知した。

武漢、大連、広州といった都市ではここ最近、医療システム改革を巡り抗議デモが発生。地方財政の悪化を背景とする医療給付の削減などに市民が不満の声を上げている。

(3月)5日から開幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では、地方政府に対してわずかな支援しか発表されず、財政規律を優先する姿勢を示唆した。

中央政府から地方政府への財政移転は今年、前年比3.6%増の約1兆5000億ドルにとどまる見通しで、18%増だった昨年から急ブレーキがかかる。地方自治体に割り当てられた特別債発行枠は約5500億ドル相当と、前年実績の5800億ドルを割り込んだ。

中国の劉昆財政相は1日、地方政府の財政はそれほど悪化していないとの見方を表明。昨年はおおむね安定した状態にあり、今年は景気回復に伴い、さらに改善するだろうと述べた。 メディアの問い合わせ窓口である国務院新聞弁公室は現時点でコメントの要請に応じていない。

中国政府には大規模なデフォルト回避のために必要なら個別に介入する十分な財政余地がある、と指摘するエコノミストは多い。地方政府は、買い手を確保できれば資産を売却することも可能だ。

もっとも、中央政府のバランスシートはすべての偶発債務について支援できるほど盤石ではない。投資会社シーフェアラー・キャピタル・パートナーズの中国分析責任者ニコラス・ボースト氏は、今月公表した地方債務に関する研究論文でこう指摘している。

同氏は「それどころか、1回限りの救済が相次げばモラルハザード(倫理観の欠如)を悪化させ、そもそも問題を招いた根本原因に対処することにはならない」としている。(中略)

公式データによると、中国31省の政府債務残高は、国内外の投資家が保有する債券を含め約5兆1000億ドル相当に上る。

ただ、これには地方政府系の投資会社が通常、資金調達の手段として使うさまざまな簿外債務は含まれていない。これらの簿外債務は近年、インフラなどの支出を手当てする手段として広く普及しており、国際通貨基金(IMF)では、今年10兆ドルに迫ると予想している。(中略)

利払い負担は他の支出を圧迫する。ロジウム・グループの分析では、中国25都市では2021年の財政資源のうち、利払い額が少なくとも2割を占めた。10%を超える(100都市以上が該当)と「本格的な制約」へとつながると同社は指摘している。

アナリストの間では、中国政府が不動産税導入を通じた資金調達など、地方財政の改善に向けた改革に動く可能性は低いとの意見も出ている。政治的に不人気な措置であり、地方政府に対する中央政府の支配を損なうことにもなりかねないためだ。

また国家資産の売却を増やせば、国有企業を通じて重要なテクノロジー分野で自給自足の実現を目指すという習氏の戦略目標に反する恐れもある。【3月7日 WSJ】
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若年層の失業問題にせよ、地方政府の財政問題にせよ、問題を放置するほど中国指導部は馬鹿でもないので「中国経済崩壊」といった事態にはならないまでも、「足かせ」にはなってくると思われます。

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韓国  以前とは異なり中国に“ひるまなくなった” 野党代表との会談での中国大使発言が物議

2023-06-14 22:31:33 | 東アジア

(韓国最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表(左)が8日、ソウルの中国大使官邸を訪問してケイ海明駐韓大使と握手している。李代表と邢大使は「福島汚染水海洋放流」阻止対策などを話し合った。【6月9日 中央日報】 この際の中国大使発言が物議を醸しています)

【4月 伊大統領の台湾問題発言に中国「口出しを許さない」 刺々しさを増す中韓関係】
韓国では、特に若い世代を中心に、(少なくとも数字の上では)対日本以上に中国に対する嫌悪感・不満が高まっていることは、これまでも何回か取り上げてきました。

****「日本か中国か北朝鮮か…」韓国20〜30代の9割が嫌悪する"好感を持てない国”No.1はどこ?****
近年、韓国人の世界に対する好き嫌いが変化してきているようだ。
4月23日、韓国世論評判研究所が発表した自国と関わりの深い中国・日本・アメリカ・北朝鮮4カ国に対する好感度調査が話題だ。

「100%じゃないのが不思議」
20〜30代の成人男女1001人を対象に、今月13日から18日まで調査を実施したところによると、「好感を持てない国」という質問に対し、回答者の91%が中国を挙げた。

中国が最も好感を持てない国だという結果に、韓国ネット民の間では「100%でないことが不思議」「むしろ9%の人たちに理由を聞きたい」「これが正しい認識だ」など納得する人が多かった。

中国以下では北朝鮮が88%で2位、日本が63%で3位だった。アメリカは「好感が持てる」が67%と、他国より高いことがわかった。「好感が持てる」が過半数を越えたのはアメリカだけだ。

なお、「好感が持てる」という質問に対し日本は37%、北朝鮮は12%という回答だった。現在の韓国でにおいて、中国は北朝鮮以上に嫌悪されている国のようだ。

ほかでは、韓国の安保に「脅威になる」という回答では北朝鮮が最多の83%で、中国が77%という結果に。両国に対する警戒度の高さが数字として表れた。

韓国で北朝鮮よりも嫌悪される中国。両国の軋轢は今後も続くことになりそうだ。【5月8日 サーチコリア】
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背景には、2016年、韓国政府がアメリカの高高度防衛ミサイル(THAAD)配備を決めたことに中国は多くの対抗措置を取り、これらが中韓関係を急速に冷え込ませたことがありますが、キムチ起源論争みたいな文化的摩擦も“好感度”には強く影響していると思われます。

政治的には、これまで韓国は“中国の顔色をうかがう”ようなところがある、長い歴史のなかで中国の脅威が韓国のDNAに刷り込まれている・・・とも言われていましたが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の保守政権になってからは、中国への宥和的な姿勢を改め、日米との協調を重視する方向に転換しつつあります。

それに伴って、中国側の反発も高まり、中韓関係は刺々しいものになってきています。

****尹大統領の台湾巡る発言に「口出し許さない」 韓国が中国大使呼び抗議****
韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が海外メディアとのインタビューで台湾問題に触れたことを巡り中国外務省の報道官が「口出しを許さない」などと述べたことについて、韓国外交部は20日、中国のケイ海明・駐韓大使を呼び抗議した。  

外交部によると、同部の張虎鎮(チャン・ホジン)第1次官はケイ大使に、中国外務省報道官の無礼な発言は外交的な欠礼だと強く抗議。そのうえで韓中関係の発展を妨げるような行為をしないよう求めた。  

尹大統領は19日公開された海外メディアとのインタビューで、台湾海峡の緊張について「このような緊張は力で現状を変えようとする試みのために起きたものであり、われわれは国際社会とともに力による現状変更には絶対反対するという立場だ」と言及。台湾問題は単に中国と台湾だけの問題ではなく、朝鮮半島問題のように域内を越えた世界的な問題と見るほかないと述べた。  

尹大統領のインタビューでの発言について、中国外務省報道官は20日の定例会見で「台湾問題を解決するのは中国人自身の仕事だ」とし、「他人の口出しを許さない」と反発した。その表現については、他国の首脳に通常用いない強いものだった。  

これを受けて韓国外交部も「力による現状変更に反対するという国際社会の普遍的原則をわが国の首脳が言及したことに対し、中国外務省報道官は口にしてはいけない発言をした」と批判した。   

韓中が非常にデリケートな台湾問題を巡って異例とも言える激しい応酬を繰り広げたことで、今後の両国関係に与える影響が懸念される。【4月20日 聯合ニュース】
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****中韓関係は「順風満帆から波瀾万丈へ」―独メディア****
独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは26日、中国と韓国の2国間関係について、「順風満帆から波瀾万丈に変わった」とする記事を掲載した。

記事は、「台湾問題に関する韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の先日の説明が中国を激怒させ、外交の波風を呼んだ。中韓は外交関係を結んでわずか30年。両国の関係は当初の順風満帆から波瀾万丈に変わった」として、これまでの両国関係を振り返る内容。

最初に、ロイターのインタビューを受けた尹大統領は台湾海峡情勢について「韓国は国際社会と共に立ち、力による現状変更の試みに反対する」と表明し、台湾問題を「中国と台湾の間の問題であるだけでなく、北朝鮮問題と同じ国際的な問題だ」としたと伝え、中国側が厳正な申し入れを行ったこと、さらに韓国も中国に抗議したことに言及した。

そして両国の外交関係は1990年代にようやく結ばれたと時計の針を逆戻りさせ、1992年8月24日に国交樹立を迎えたことを説明。

翌月、両国は「中韓貿易協定」「中韓投資保護協定」など一連の協力協定に調印したと紹介し、「1990年代末から2000年代初めにかけて、中韓関係は『21世紀に向けた全面的パートナーシップ』に引き上げられ、2008年5月、当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領が訪中した際、両国関係は『戦略的協力パートナーシップ』へと再び格上げされた」と言及した。

13年2月に就任した朴槿恵(パク・クネ)大統領が中国を複数回訪れ、習近平(シー・ジンピン)国家主席が14年に韓国を訪問したことで、両国関係は「蜜月期」に入ったと受け止められたとも紹介。

両国の経済、文化分野での交流も一層密になったが、16年、韓国政府が米国の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備を決めたことに中国は多くの対抗措置を取り、これらが中韓関係を急速に冷え込ませたと指摘した。

記事は、中国の消費者の間で韓国への反発が起きたことに触れた上で「17年11月にTHAADをめぐって中韓は共通認識に達し、韓国側は『追加配備を検討しない』と表明した」と述べ、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の訪中後に両国関係は緩和に向かい始めたと説明。

だが、22年5月に就任した尹大統領はより積極的に米国に接近する路線を見せ、THAAD配備を加速する方針を示しているとし、「韓国は22年5月に米国が主導する『インド太平洋経済枠組み(IPEF)』に加わり、8月には米国が主導し、日本、韓国、台湾を含む(半導体同盟の)『チップ4』参加を表明した。サプライチェーン強化の他、中国に対する技術輸出の規制もその目的だ」「韓国が経済における対中依存度を極力減らそうとしていることがさまざまな兆しから見て取れる」と伝えている。【4月28日 レコードチャイナ】
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“韓国が経済における対中依存度を極力減らそうとしている”ことの結果なのか、単に一時的現象なのかはさだかではありませんが、輸出依存度は低下しているようです。

****韓国の産業全般で“脱中国”が加速、輸出依存度も20%下回る=韓国ネット「ただの輸出減少」****
2023年6月5日、韓国・マネートゥデイは「韓国の産業全般で“脱中国”現象が起きているとの調査結果が出た」と伝えた。

韓国貿易協会の国際貿易通商研究院によると、今年1〜3月期の対中国輸出依存度は19.5%だった。20年は25.9%、21年は25.3%、22年は22.8%と減少を続け、ついに20%を下回った。

昨年の対中国輸出は21年に比べて4.4%減少したが、中国を除く市場での輸出は9.6%増加した。今年の1〜3月期までの「中国以外の市場」の輸出(マイナス6.8%)も中国(マイナス29.8%)に比べ相対的に良好な数値を記録している。(中略)

企業は“脱中国”現象の中で米国、豪州、インド、ベトナムなどに活路を見出している。(中略)韓国貿易協会関係者は「対中国輸出不振の中でも、米国、インド、豪州、ベトナムを中心に輸出が増加し、輸出市場の多角化がすでに進んでいる」と話したという。

この記事を見た韓国のネットユーザーからは「望ましい現象だ」と喜ぶ声も寄せられているが、「中国に輸出しなくても総額がそのまま、もしくは増えなければ脱中国とは言えない」「脱中国ではなく、中国が韓国製品を輸入しなくなったんだよ」「良く言えば脱中国。実情は冷遇されている」「ただの輸出減少」などと懸念する声も数多く見られた。【6月6日 レコードチャイナ】
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【中国大使の韓国政府外交批判に反発高まる韓国 左派系メディアも中国批判 釈明に追われる最大野党代表】
こうした刺々しい中韓関係にあって、今問題となっているのが最大野党「共に民主党」 李在明代表が中国大使に招かれて行った会談。

中国大使の「米国の勝ち、中国の負けに賭けるのは誤った判断で、後で必ず後悔する」などと韓国政府の外交政策を批判する発言に、韓国側は内政干渉だと強く反発しています。

****“原発処理水”で対立深まる韓国与野党 野党側が中国大使に共闘持ちかけ…与党猛反発「明白な内政干渉」****
東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出をめぐり、韓国では最大野党の代表が中国大使に共闘路線を持ちかけ、与党が猛反発しています。

韓国 最大野党「共に民主党」 李在明 代表
「周辺国の懸念が高まっていますが、共同の対応策も講じてみたいと思います」

きのう、中国大使公邸を訪れた韓国の最大野党の李在明代表。邢海明大使に福島第一原発の処理水の海洋放出に反対するための共闘路線を提案しました。そして…

中国 邢海明 駐韓大使
「日本は経済などの利益のために太平洋を自分の下水道とみなしています」

大使は韓国語で日本の海洋放出を阻止しなければならないと応じました。さらに…

中国 邢海明 駐韓大使
「中国の敗北に賭ける人たちは後で必ず後悔する」

韓国メディアは、アメリカとの同盟関係を重視する尹錫悦政権に対する不満を露わにしたものだと報じています。
こうした中国大使の発言に、与党は「明白な内政干渉だ」と反発。

処理水をめぐる李在明氏の言動についても、「反日感情を助長し、政権を揺さぶろうとする目的以外の何物でもない」と批判しています。【6月9日 TBS NEWS DIG】
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反発する韓国与党「国民の力」の金起炫(キム・ギヒョン)代表は在韓中国大使館からの夕食会の招きに応じないことを決めたとも。

また、韓中双方が相手国大使を呼んで抗議する「抗議合戦」の様相ともなっています。

****今度は中国が韓国大使呼んで抗議 駐韓中国大使の発言巡り****
中国外務省は11日、農融次官補が10日に韓国の鄭在浩(チョン・ジェホ)駐中大使を呼び、韓国側がケイ海明・駐韓中国大使と最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表の面会に不当な反応を見せたことに交渉を提起し、深刻な憂慮と不満を表明したと明らかにした。

中国側は鄭氏に対し、韓中関係に関する中国の立場を説明し、「ケイ大使が韓国各界の人物と接触し交流することは業務」だとして、「目的は理解を増進し、協力を促進させ、中韓関係の発展を進めること」と主張。「韓国側は現在の中韓関係の問題がどこにあるか振り返り、真摯(しんし)に向き合うことを望む」とし、「両国関係の健全かつ安定的な発展のため、積極的に努力することを望む」と述べた。

韓国外交部の張虎鎭(チャン・ホジン)第1次官は9日、李氏との面会で「米国の勝ち、中国の負けに賭けるのは誤った判断で、後で必ず後悔する」などと韓国政府の外交政策を批判する発言をしたケイ大使を呼び、看過できない表現で韓国政府の外交政策を批判したことは外交使節の友好関係促進任務を規定した「ウィーン条約」と外交慣例に反するとして強く抗議した。【6月11日 聯合ニュース】
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尹大統領も「大使の不適切な振る舞いに国民が不快感を抱いている」と中国批判を明らかにしています。

****尹大統領 中国大使の発言に不快感=「不適切な振る舞い」****
韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が13日の閣議で、中国のケイ海明・駐韓大使が韓国の外交政策を批判する発言をしたことについて、「外交官として相互尊重や友好促進の態度があるのか(疑わしい)」と指摘したことが分かった。複数の出席者が明らかにした。

尹大統領は「大使の不適切な振る舞いに国民が不快感を抱いている」とも述べたという。(後略)【6月13日 聯合ニュース】
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更に、通常は韓国政府批判に終始する韓国の左派・革新系メディアも中国の姿勢に批判的になっています。

****韓国左派も中国を批判、「駐韓中国大使の発言」巡る抗議合戦を元駐韓大使が解説****
韓国は以前のように中国の脅しにはひるまなくなっている。しかも韓中のあつれきは外交部のみならず、両国のメディアでの対立にまで広がっている。

● 韓国と中国の外交部が 激しい抗議合戦
(中略)中国が韓国内政に干渉し、脅しをかける今回の姿勢に対し、韓国では政府と与党「国民の力」からの反発があるばかりでない。

民主党の李在明代表も、中国の抗議以降、距離を置く姿勢を示し始めており、さらに、これまで韓国政府を批判し、民主党を擁護してきた革新系のハンギョレ新聞も、中国を批判する側に回っている。

これまで、中国は「戦狼外交」で韓国を操ってきたが、4月の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の台湾問題発言を巡るやりとりから、韓国政府・保守系メディアと中国政府・官営メディアの対立が続いてきた。

今回、韓国の革新系も中国との距離を置く姿勢に転換したことで、今後、韓中の対立は一層激しくなろう。それは、韓国国民の中国嫌いを一層促進することにもなる。(中略)

 中国は韓国を戦狼外交で操れないことを学ばないと、ますます韓国を米国寄りに追いやる結果となるだろう。

 今回は中韓の抗議合戦の意味合いについて考察する。

● 韓国外交部は中国大使に 「内政干渉」と激しく抗議
(中略)

● 韓国政府は 中国の脅しに動じない
韓国政府と中国政府による対立が表面化したのは、前述の通り、4月19日に尹錫悦大統領が訪米前のロイターとのインタビューで「結局は(台湾の緊張高揚は)力による現状変更を図るために起きたもので、我々は国際社会とともに力による現状変更に絶対反対する立場」と述べたことからである。(中略)

韓国は以前のように中国の脅しにはひるまなくなっている。しかも韓中のあつれきは外交部のみならず、両国のメディアでの対立にまで広がっている。これは従来の韓国の姿勢とは全く異なるものであり、中国が強く出れば出るほど、韓国は日米との協力に活路を見いだしていくだろう。(中略)

● 韓国の革新系メディアも 中国政府の姿勢を批判
しかし中国は、韓国の革新系メディアも含めて中国の姿勢に批判的になっていることを見逃している。

革新系メディアのハンギョレ新聞は、中韓外交部の抗議合戦について、「中国は米国に傾倒する尹大統領の対外路線に慣例を超えるレベルの高圧的態度を示している」「中国は習近平国家主席が政権3期目を始めて以来、戦狼外交を控えてきた。しかし、韓国には戦狼外交を連想させる強硬路線を取っている。これは韓国が韓米日協力を強化するなど中国を圧迫する対外路線を採択すると同時に、中国が核心利益と見なす台湾問題に繰り返し言及したためだと専門家たちはみている」と報じている。

ハンギョレ新聞は、中国の姿勢に反対する韓国政府に対して批判的ではあるが、一方で中国の戦狼外交にも批判的になっていることは新しい動きである。

● 中国への卑屈な行動により 李在明代表の立場が困難に
国民の力は、李在明代表とケイ海明中国大使との会合に対し、3日連続で攻撃を続けた。

国民の力の金起鉉代表は、10日、李在明代表に対し、「国のために犠牲となった軍人などの護国英雄の御霊に対し敬意を表することなく冷遇する。これに対し、韓国を侵略した中国の大使の前では従順に両手を合わせてぺこぺこする姿を見ると怒りがこみ上げる」と批判した。

さらに11日には、フェイスブックに「大韓民国院内第1党代表が中国大使の家に訪ねていって屈辱を受けても抗議の一言もできないのに、何の『国益外交』をしたというのか」と批判した。

李在明代表は、国民の力ばかりでなくメディアからも、その中国に対する卑屈な行動について批判されている。

李在明代表もさすがに耐えかねたのか、10日、明洞(ミョンドン)で開かれた6・10民主抗争記念式典後に記者団と会い、「中国政府のそのような態度はしかるべきものではない」と中国にへつらう姿勢を一歩後退させた。ただ、李在明代表は「国益を守るために(中国と)共同協力する方向を見つけることが最も重要だ」として自らの行動を正当化した。【6月14日 ダイヤモンド・オンライン】
********************

韓中両国の非難の応酬が続いている中、韓国最大野党「共に民主党」の国会議員5人が中国を訪問していることが14日、明らかになりました。

“同党関係者は「韓中関係はよくないが、韓国企業と経済にとって中国が重要なため関係改善を模索したい」として、「(訪中は)数か月前から計画されていた」と明らかにした。”【6月14日 聯合ニュース】

日本との関係も、中国との関係も、様変わりの韓国・伊政権です。
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南太平洋島しょ国  米中の影響力拡大競争の主戦場 島しょ国は競合を利用して最大利益を目指す

2023-06-13 23:32:06 | オセアニア

(【imidas】)

【中国の南太平洋進出の橋頭保ソロモン諸島】
世界各地で影響力を競うアメリカと中国ですが、その主戦場のひとつが南太平洋であり、米中双方の陣取り合戦のような様相を呈しています。

中国にとって台湾を国際社会から締め出す外交戦の「成功例」であり、また、この地域への進出の橋頭保ともなっているのが、かつて日本軍がガダルカナル島の死闘を繰り広げたソロモン諸島です。ソガバレ首相は中国支持を鮮明にしています。

****ソロモン諸島****
ニューギニア島の東方に位置し、1千近い島や環礁で構成される島嶼(とうしょ)国。人口約72万人。1978年に英国から独立した。

林業や漁業が主な産業で、輸出の7割近くが中国に集中している。南太平洋の中でも経済発展が遅れており、国連は途上国の中でも開発の遅れた「後発開発途上国」に認定している。ソガバレ現首相は2000年以来、4度首相を務めている。【6月6日 産経】
******************

ソガバレ政権は2019年、台湾と断交して中国と国交を樹立しましたが、中国・台湾の選択は、伝統的な島の間の反目・対立と重なり、国を分断する状況ともなっています。

****中国が「国の分断招いた」 対中傾斜で揺れる島国ソロモン****
太平洋戦争の激戦地として知られる南太平洋のソロモン諸島は今、中国の太平洋進出を象徴する島国だ。約4年前に台湾と断交して中国と国交を結び、軍事拠点化も警戒される。現地を訪ねると、中国の経済支援による発展への期待がある一方、中国との関係が「国の分断を招いた」との強い懸念も上がっていた。

ガダルカナル島にある首都ホニアラの国際空港と中心部をつなぐ幹線道路は、舗装はされていてもデコボコがひどい。車に乗って激しく揺られていると、市街地の外れに近代的な競技場の建設現場があった。11月に行われる南太平洋諸国の競技大会「パシフィックゲームズ」の会場だ。資金は中国の無償支援。周囲に高い建造物は少なく、その存在感は異彩を放つ。

(中略)近くに住む男性、ウィリアム・ダグラスさんはスポーツ振興への期待を膨らませる。ただ、「将来はどう管理するんだろう」と漏らす。

人口の約23%が1日1・9ドル(約260円)未満で暮らす貧しい国が競技場を持続的に運営できるのかとの疑問だ。「懸念はその通りだ。計画はない。中国からの友好のプレゼントは国の負担になる」と語るのは、野党国会議員のピーター・ケニロレア氏。建設を決めたソガバレ首相を批判した。

中国人が「職を奪う」
ソロモンは1978年に英国から独立後、83年に外交関係を結んだ台湾から熱心な支援を受けた。ホニアラの国立病院など台湾支援で完成した施設は多い。

だが、ソガバレ政権は2019年、「国益に基づく対外関係の見直し」を理由に台湾と断交し、中国と国交を樹立。経済支援をテコに台湾の孤立化を目指す中国の〝成功例〟となった。

ケニロレア氏は突然の転換の理由が不明だと憤る。中国の過剰な融資で途上国が苦しむ「債務の罠(わな)」への心配もあるが、それ以上に大きな問題と感じるのは「外交関係の変更が国を分断したことだ」という。

国の「分断」の例が、21年11月の暴動だ。台湾との断交に反発した野党支持者や親台湾派が多いマライタ島出身者らが、ソガバレ政権の退陣を訴え、政権を支える中国への反発も拡大した。ホニアラの中華街が放火され、少なくとも市民3人が死亡した。

中華街には暴動の跡が残る。近くに住む女性のジョージナさんは、暴動に加わらなかったが「気持ちは理解できた」という。1970年代頃から中国系住民が増え、小売業を中心に地元の店の経営が圧迫されていると不満がくすぶっていた。「そんな不満に中国との国交が火をつけたのではないか」とジョージナさんは推察した。

ソロモンでは伝統的にガダルカナル島とマライタ島の間で反目がある。マライタ州のダニエル・スイダニ前知事は、中央政府の外交転換がマライタの住民を刺激したと説明する。マライタは台湾支援のインフラも多く、親台湾的な土壌があるため、「従来の対立を一層深めた」という。

中国への支持が浸透しているとはいえない。昨年の世論調査では、中国からの援助に肯定的な回答は23%で、否定的な回答は77%に達した。「台湾への親しみは全国的に深い。それでもソガバレ氏は中国を選んだんだ」。スイダニ氏は語気を強めた。

今年5月、ホニアラの国立病院では台湾支援を示す記念碑が突然撤去された。野党側は背後に中国の指示があると批判するが、理由は不明。ただ、病院を利用する女性は「台湾がつくったこの病院に愛着がある。記念碑が壊され、非常に憤っている」と語った。

「地政学が国を富ます」
国内に反発が根強くても、ソガバレ政権の中国接近は止まらない。中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)による約160基の電波塔建設を決め、3月には中国企業と「1億ドル規模」の港湾改良事業の契約を締結した。

政権与党に近いガダルカナル州のフランシス・サデ知事は「独立以来貧しいこの国にとり、望ましいのはインフラが整備されることだ」と中国の進出を歓迎する。中国は意思決定も早いと称賛し、中国への警戒は「一部のメディアが言っているだけ」と切り捨てた。

ソロモンは米国とオーストラリアを結ぶ海路の要衝だ。米国はその中国傾斜を警戒し、2月に大使館を開設するなど関与を強化。サデ氏は「国の価値は中国と国交樹立以降、高まった。あなたのような記者も来るようになった」と笑い、米国や日本の支援にも期待を寄せた上でこう述べた。
「地政学が国を発展させるのだ」【同上】
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アメリカ・中国といった大国がその影響力を強めようとする一方で、現地の島しょ国はその競合を利用して自らの利益につながるパートナーをしたたかに選ぼうとしています。

【ミクロネシア連邦 アメリカと経済支援継続で合意 フィジー 中国との警察間協力協定を見直す】
他方、南太平洋地域への中国進出を強く批判していたがミクロネシアのパニュエロ前大統領でしたが、その退任がどのように影響するか注目されていました。

****ミクロネシア・新大統領の外交方針に注目 前大統領は中国批判の急先鋒****
南太平洋の島国、ミクロネシア連邦。選出された新大統領の外交方針が注目されますが、前の大統領は次期政権への書簡で、中国ではなく台湾との関係強化を模索していたことを明かしていました。

赤道のすぐ北に位置する南太平洋のミクロネシア連邦。きのう、新大統領として連邦議会議長だったウェズリー・シミナ氏(61)が選出されました。

実は、ミクロネシアをはじめとする島しょ国に安全保障協定を提案するなど、外交攻勢を強めるのが中国。こうした中で、パニュエロ前大統領は中国批判の急先鋒でしたが、退任が決まった直後、次期政権や州知事らに宛てた書簡をJNNは入手しました。

ミクロネシア パニュエロ前大統領「中国の大使はミクロネシアをアメリカ、日本、オーストラリアなどとの伝統的な連携から抜けさせる任務を与えられている」

書簡では中国への強い危機感を示し、「ミクロネシアの政府高官らは中国に賄賂で買収され、中国の利益のために行動している」とも非難しました。

そして…(中略)「2月に台湾の外交部長と会談し、中国の代わりに台湾と外交関係を樹立した場合、どのような支援が可能か聞いた」 中国と断交し、台湾との外交関係樹立を模索していたことも明かしていました。

一方、シミナ新大統領は就任前には議長として「ひとつの中国」政策を堅持する決議に携わっていて、今後の外交姿勢が注目されます。(後略)【5月12日 TBS NEWS DIG】
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そのミクロネシアは、アメリカと「自由連合協定(コンパクト)」に基づき経済支援を継続するための交渉を終え、合意文書に署名しています。

****米、ミクロネシアと戦略的協定文書に署名 経済支援継続で合意****
米国務省は23日、太平洋の島しょ国ミクロネシア連邦との「自由連合協定(コンパクト)」に基づき経済支援を継続するための交渉を終え、合意文書に署名したと発表した。コンパクトは米国が太平洋地域で中国に対抗する上で重要な戦略的協定。

国務省によると、ミクロネシアの交渉官と米大使館の代理公使がコンパクトに関連した3つの合意に署名した。「連邦プログラム・サービス合意」に基づくプログラムなどを継続するための交渉はなお続いている。

米国は1980年代にミクロネシア、パラオ、マーシャル諸島とコンパクトを締結。米国は同協定の下、防衛面の責任を担い経済支援を提供する代わりに、太平洋の広大な戦略的地域への独占的アクセスを得ている。

同協定の更新は、太平洋で影響力を強める中国に対抗する米国の取り組みの重要な部分となっている。【5月24日 Newsweek】
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フィジーでは、昨年末に誕生したランブカ政権は中国との間で民主主義の価値観を巡る相違があるとの考えから、中国に融和的な外交方針を転換し、オーストラリアなど民主主義国家との連携を重視する姿勢を示しています。

****フィジー首相、中国との警察協定見直しを表明 「民主主義国家との協力」推進へ****
南太平洋のフィジーのランブカ首相は7日、訪問先のニュージーランド(NZ)で記者会見し、中国と締結している警察間の協力協定を見直す意向を正式に表明した。

中国は治安維持部門の協力をテコに南太平洋島嶼(とうしょ)国への影響力拡大を狙っている。協定が解消されれば、他の島嶼国の対中関係にも影響を与える可能性がある。

フィジーでは2006年のクーデターで軍が実権を握った。強引な政権奪取に反発した欧米が援助停止などの措置を取った結果、軍政は中国に接近。警察間の協力協定は11年に締結され、警察部門の相互交流が始まった。

22年12月の総選挙後に誕生したランブカ政権は、中国に融和的な外交方針を転換し、オーストラリアなど民主主義国家との連携を重視する姿勢を示している。

ランブカ氏は7日、NZで「(警察に関する協定を)維持するか、それとも民主主義を共有する国々と協力するのか、検討する必要がある」と述べ、見直す意向を表明した。フィジーとNZは月内にも軍同士の連携を強化する地位協定を締結する見通しだ。

中国は22年11月に島嶼国の警察トップを招待したオンライン国際会議を開催するなど、治安維持面の連携強化で各国に浸透する姿勢を見せている。【6月8日 産経】
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【アメリカにとって痛手となったG7後のバイデン大統領パプアニューギニア訪問の中止】
アメリカは、大使館開設を進めることで島しょ国との関係強化を図っています。

****米、月内に在トンガ大使館開設=対中念頭に関与強化****
クリテンブリンク米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は2日、太平洋の島国トンガで月内に大使館を開設すると明らかにした。上院外交委員会の小委員会で開かれた公聴会で表明した。

バイデン政権は2月、ソロモン諸島で約30年ぶりに大使館を復活し、3月にはバヌアツに大使館を開く方針を発表。キリバスでの大使館設置も目指している。ただ、クリテンブリンク氏は「バヌアツとキリバスに関して、日程は保証できない」と語った。

太平洋諸国への影響力拡大を図る中国に対抗し、バイデン政権は地域への関与を強めている。バイデン大統領は広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)出席後、22日にパプアニューギニアを訪問し、周辺各国・地域首脳らとの会合に出席する。【5月3日 時事】 
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そのアメリカの影響力強化にとって、上記記事にあるG7サミット後のバイデン大統領パプアニューギニア訪問が大きな節目になると期待されていましたが、アメリカ国内の債務上限引上げ問題で訪問中止になったのは周知のところ。

バイデン大統領に代わってブリンケン国務長官が訪問。

****米・パプアニューギニアが防衛協力協定を締結 “中国念頭”もバイデン大統領は訪問見送り****
アメリカとパプアニューギニアが防衛協力協定を結びました。太平洋島しょ国への影響力を増している中国を念頭にした動きです。

22日、パプアニューギニアを訪れたアメリカのブリンケン国務長官はマラペ首相と会談し、2国間の防衛協力協定に署名しました。中国が軍事的・経済的に太平洋島しょ国への影響力を増す中、アメリカとしてくさびを打つ狙いがあります。

パプアニューギニアには、バイデン大統領が現職のアメリカ大統領として初めて訪問し、防衛協定に署名する予定でしたが、債務上限問題に対応するため訪問を見送り、ブリンケン長官が代わりを務めました。

訪問の見送りに伴い、バイデン政権は今年の秋にワシントンで太平洋島しょ国の首脳を集めた会議を開くことを急きょ発表するなど、影響力維持への対応に追われています。【5月22日 TBS NEWS DIG】
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パプアニューギニアのマラペ首相は、アメリカと調印した防衛・海洋監視協定によって同国が戦争の拠点に利用されることはないと言明するとともに、協定は攻撃的軍事行為を禁止していると説明しています。

パプアニューギニアでは、協定が同国を米中の戦略競争に巻き込む恐れがあるとの懸念から学生が抗議行動を起こしています。

いずれにしても、バイデン大統領のパプアニューギニア訪問が中止になったことは、アメリカの対中国戦略にとって大きな痛手でした。

****米中対立の中で重要性増すパプアニューギニア****
5月18日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)社説が、太平洋で中国と競争する中、バイデンのパプアニューギニアおよび豪州の訪問中止は、前進を見せている米国の島嶼国外交に暗雲を垂らすものだと批判している。

バイデンは日本での主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の後に予定していたパプアニューギニアと豪州への訪問を中止したが、それは恥ずべきことだ。バイデンは、債務上限問題を代理に任せることができたが、訪問中止はバイデン政権が西・南太平洋における中国の挑戦に対応するために達成しつつあった前進を危うくするものだ。

2022年に中国がソロモン諸島と安保協定を締結して以来、米国は、この地域での外交と戦略的関与を強化した。パプアニューギニアの首相マラぺは、同国はいずれにせよ米国との防衛協力と公海での不法活動海洋取締りに関する二つの協定の署名を行うと述べた。

これらの合意は、太平洋での施設へのアクセスを拡大させ、米国にとって重要な前進となる。この合意により、米軍はパプアニューギニアの港湾施設を使用できるようになるとともに、空港での給油のための立ち寄りも可能になる。これは、豪州やフィリピンのような伝統的同盟国を除けば最近では初めての太平洋での新たな施設へのアクセスを可能とするものだ。

バイデン政権はミクロネシアとパラオとの自由連合盟約の改定がまとまったことを発表した。米国は最近太平洋諸島フォーラム(PIF)への特使を任命し、島嶼国の地域機構との関与を拡大しようとしていた。

これらによって、西太平洋の第二列島線の内外の水域での米国のプレゼンスを強化できる。第一列島線は、日本から台湾を含み、北フィリピン、ボルネオまでで、第二列島線は、東に伸び、北マリアナ諸島、グアムの米軍基地、パラオ、そしてパプアニューギニアまで続く。

 中国は、偵察船をパプアニューギニアや豪州周辺水域にまで航行させている。新たな米国の前線施設は、米国の海洋監視能力と相俟って、米国やパートナー国をして中国の海軍船団が何をしているかにつき一層監視することを可能にする。バイデンは、早期に当該地域への訪問を再調整することが賢明であろう。

*   *   *
(中略)バイデンのパプアニューギニアと豪州訪問の中止は、ワシントンではかなりの波紋を呼んでいるようで、上記のWSJのみならず、その後ワシントンポスト紙(WP)も社説で同様に批判している(5月21日付「バイデンは太平洋訪問を中止。今やダメージ・コントロールが必要」)。WP社説は、共和党に批判を向けている。

バイデンは、できるだけ早期にパプアニューギニアを訪問すべきだろう。中国が太平洋の島嶼国に対する影響力を強める中、これらの国との関係を当然視すべきではない。9月のインドでの20カ国・地域(G20)首脳会議出席の際の訪問がひとつの可能性になるのではないか。

バイデンはパプアニューギニア訪問を
(中略)なお、ブリンケンはPIF会合での挨拶の中で、島嶼国に対する米国の種々の新たなイニシアチブに言及するとともに、今年の秋に米国で第2回米・太平洋島嶼国首脳会合を開催することとし、関係国の参加を招請した。

もちろん米国での会議も良いが、やはりバイデンはとにかく太平洋島嶼国を直接訪問すべきではないか。米国の大統領は未だ誰もそうしていない。ワシントンでの会議は、米大統領の現地訪問に代えることはできない。機会を見つけて島嶼国を訪問すべきだろう。

パプアニューギニアとの協定は重要なものである。パラオとのコンパクトも同様だ。マーシャル諸島とのコンパクトも早く纏めるべきだ。5月22日、中国外務省報道官は米国とパプアニューギニアの防衛協力協定の署名を「いかなる協力も第三者を標的にしてはならない」と批判した。

日本も、米国や豪州などと協力して島嶼国との関係強化に努めてゆくべきだ。3月、林外相がソロモン諸島とクック諸島を訪問したことは良いことだった。先般のG7広島サミットにはマーク・ブラウン・クック諸島首相がPIF議長国として招待参加した。良いことだった。【6月13日 WEDGE】
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今後、南太平洋島しょ国をめぐるアメリカ・中国の陣取り合戦はますますヒートアップすることが想像されます。
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ドイツ  人事・資金スキャンダルで揺れる緑の党 そのエネルギー政策に批判も 支持を広げる極右

2023-06-12 22:41:59 | 欧州情勢

(【6月8日 日経】)

【緑の党 縁故主義人事、資金の流れに関する疑惑で人気低迷】
ドイツのショルツ政権は、ショルツ首相率いる中道左派の社会民主党(SPD)、環境政党の緑の党、中道リベラルの自由民主党(FDP)の3党による連立政権ですが、最近「緑の党」の評判はよろしくないようです。

****ショルツ与党が第1党=緑の党低迷―独ブレーメン州議選****
ドイツ北部ブレーメン州で14日、州議会選挙が行われた。ショルツ首相率いる中道左派・社会民主党(SPD)が、中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)から第1党を奪還する見通しとなった。

一方、連立与党の緑の党は議席を減らす方向。暖房に関する新たな環境規制などが反発を呼んでおり、支持率が低迷している。

同日深夜の開票速報によると、SPDは3割弱の得票を固めた。大敗した2019年の前回選挙からは持ち直したものの、戦後2番目の低い水準にとどまっている。CDUは約26%とほぼ横ばい。緑の党は12%弱で、5ポイント超下げた。【5月15日 時事エクイティ】
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緑の党が低迷しているのは、ひとつは党のボスであるハーベック副首相兼経済・気候保護相とその右腕だったグライヒェン事務次官周辺の縁故主事的人事や環境政策に流れ込む巨額の資金に関する疑惑のためです。

****ドイツ経済・気候保護省スキャンダルで注目される「環境ロビーネットワーク」の闇の実態****
目に余る縁故採用の実態
ドイツで人気絶頂だったロベルト・ハーベック経済・気候保護相(緑の党)の人気が、真っ逆さまに墜落している。長らく政治家の人気ランキングでは1位だったのに、5月初めには13位。

5月17日、ようやく自分の右腕だったパトリック・グライヒェン事務次官(51歳)を更迭したが、これもいささか遅すぎた。グライヒェン氏というのは、今回、経済・気候保護省を襲っているスキャンダルの“主役”である。  

日本ではまだあまり報道されていないが、ここ数週間、このグライヒェン氏の目に余る縁故採用の実態が大問題となっている。  

たとえば、経済・気候保護省の管轄下にある連邦エネルギー庁の長官に彼が推薦したのが、自分の結婚の時の証人であるミヒャエル・シェーファー氏。それも、この重要な人事は公募ではなく、最終的に候補者はシェーファー氏一人だけで、しかもグライヒェン氏が選考に加わったという。 (中略)

これがまもなくさらに大スキャンダルに発展していったのは、他にもおかしな縁故人事がたくさん報道され始めたからだ。  やはり経済・気候保護省の事務次官の一人であるミヒァエル・ケルナー氏は、グライヒェン氏の妹の夫で、しかも、妹、ヴェレーナ・グライヒェン氏自身は、BUNDという環境NGOの最高幹部の一人だった。  

BUNDはベルリンに本部を持つ会員58万人の巨大な環境NGOで、2014年から19年の6年間に公金から受けた補助金の総額は2100万ユーロ(現在のレートで約29.4億円)に上る。  

また、グライヒェン氏の兄弟のヤコブ・グライヒェン氏は、エコ研究所の幹部。こちらはフライブルクに本部を持つ強力な環境シンクタンクで、環境省に政策提言をしている。(中略)

「アゴラ・エネルギー転換」の闇
ドイツの主要メディアには緑の党のシンパが非常に多いと言われる。だから、これまでほとんどのメディアは、緑の党、および社民党が主導する過激で、時には無意味な環境政策も、抜本的に検証するような記事は書かなかった。 

そんな彼らが今、一番、気にしているのは、このスキャンダルのとばっちりが、環境シンクタンク「アゴラ・エネルギー転換」に行くかどうかということだろう。  

現在のNGOは、巨悪に立ち向かう弱小な組織などではなく、世界的ネットワークを持ち、政治の中枢に浸透し、巨大な権力と潤沢な資金で政治を動かしている強大な組織だ。そして、ドイツでその中枢にいるのが、“アゴラ・エネルギー転換”である。  

“アゴラ・エネルギー転換”は、2012年の創立の時から、当時の経済・エネルギー省と密接な関係を持っており、人材の行き来も盛んだった。シンクタンクというよりも、まさに巨大なロビー組織だ。 問題のグライヒェン氏も、経済・気候保護省に抜擢される前は、“アゴラ・エネルギー転換”の局長だった。  

今では、アゴラは、“アゴラ・交通転換”、“アゴラ・農業”、“アゴラ・インダストリー”、“アゴラ・デジタル・トランスフォーメーション”と、全ての部門でCO2削減を掲げつつ、政策を牛耳っている。  

35年からのガソリン車・ディーゼル車の販売禁止も、今後、農地が縮小されることも、もちろん、風車が倍増されることも、こういうロビー組織の活動の賜物だ。

掌を返すメディアの露骨な印象操作
それにしてもすごいのは、今や、経済・気候保護省、外務省、環境省、農林省などが全て緑の党の手に落ち、その政策を進言している組織が、やはり緑の党の支配するロビー団体となってしまっているという事実だ。  

しかも、政府はそれらに助成金を出しており、いわば、持ちつ持たれつの関係でもある。(後略)【5月19日 川口 マーン 惠美氏 現代ビジネス】
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今や環境政策には巨額の資金が投入されています。

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環境政策と言えばクリーンなイメージがあるが、G7各国ではどこでも環境利権がすでに経済の各分野に根を張っている。緑の党が連立政権に加わるドイツでは、その金額も桁外れだ。

昨年、オラフ・ショルツ首相(社会民主党)の三党連立政権は、「気候変革基金」の創設を決めた。予算規模は今年から二〇二八年までの四年間で、約一千八百億ユーロ(約二十七兆円)という莫大なものになる。

この全額は、岸田文雄首相が大規模軍拡に踏み切る前の、日本の防衛費の五年分(二十七兆円)とほぼ同じだ。【「選択」6月号 “ドイツ緑の党の「黒い真実」”】
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“市民運動のプロ集団が、巨額の予算を差配する立場になり、右往左往しているのだ”【同上】とも。

縁故主義人事にしても、最も信頼できる者で巨額予算官庁トップを固めたかった・・・ということの結果なのでしょう。

【自然エネルギー重視政策のひずみ 「脱原発」維持の一方で、化石燃料に頼りCO2排出は増加】
緑の党が低迷しているのは、もうひとつの理由は、その存在意義でもある環境政策・エネルギー政策の中身に関する疑問です。

ドイツを長く率いてきたメルケル前首相の「脱原発」については、出身政党のキリスト教民主同盟(CDU)からは疑問の声が出ていますが、政敵である緑の党は「他に類をみない」と擁護している・・・という状況。

****メルケル前首相に最高勲章=対ロシア・脱原発で批判も―ドイツ****
ドイツのメルケル前首相に17日、任期中の功績をたたえ、首相経験者に対する最高位の功労勲章が授与された。

独メディアによると、これまでの受章者は戦後ドイツの立役者であるアデナウアー、コール両首相のみ。世界史に名を残す偉人と肩を並べたが、国内ではロシア依存や脱原発が「負の遺産」として語られるなど評価が揺れている。

メルケル氏は2005〜21年の首相在任中、欧州の債務危機への対応や移民受け入れなどで指導力を発揮。国際社会で存在感を示した。受章演説では「意見の違いがあっても、常にうまく協力しようとしてきた」と振り返った。

しかし最近では、メルケル氏が主導したロシア産天然ガスの調達事業や脱原発への回帰がエネルギー危機をもたらしたとして、出身政党のキリスト教民主同盟(CDU)からも、当時の政策は「間違いだった」と非難の声が上がる。一方、政敵である緑の党から「他に類をみない」と擁護論も。評価が定まるまで時間がかかりそうだ。【4月18日 時事】 
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緑の党は「脱原発」を維持するために、自然相手で調整が難し風力・太陽光エネルギー調整を化石燃料で行い、結果、CO2が増えるということにもなっています。

****ドイツ「風車大増設計画」の危うすぎる中身…ハーベック経済・気候保護相はどんな風景を夢見ているのか****
経費は国民が電気代で負担
5月23日、ロベルト・ハーベック経済・気候保護相(緑の党)が「陸上風力戦略」なるものを発表した。
ドイツでは、風力は再エネの中では比較的頼りになる電源として、政府の期待を一身に背負っており、すでに陸海合わせて3万本近い風車が立っている。

しかし、実は、風車の新設は、2017年のピークを境に年々減っていた。
そこでハーベック氏は、新政府の経済担当の大臣に就任してまもない22年初頭、風車建設のピッチを上げることを宣言。

今回の新目標はそのダメ押しのようで、陸上風力の設備容量を30年に115GWに、35年には160GWに増やすという。現在の風力発電の設備容量は58GW弱なので、今年から毎年10GW近くの新設が必要になる。(中略)

つまりドイツでは、風車が3万本近く立っている現在でも、全発電量における風力電気の割合は9%ほど。というか、風車はたとえ10万本あっても、そもそも風がなければ発電はゼロだ。

しかし、その反対に、全国的に適度な風が吹いた場合には、3万本近い風車が突然、能力をフルに発揮するため、何十基もの原発にスイッチが入ったような状態になる。その場合、送電線を保護するため、過剰な電気は急遽、どこかに流さなければならない。

そこで、安価で、時にはマイナス価格で外国に出すことになるが、それでも捌けない場合は、発電事業者に補償を払って風車を止めてもらう。どちらの経費も最終的に国民が電気代で負担する。(中略)

緑の党の目的は「CO2削減」ではなかった
ただ、風車をどんどん増やせば心置きなく火力を停止できて、緑の党の思い描いているような再エネ100%の理想社会に近づけるのかというと、そうはいかない。一番のネックは、当たり前のことだが、風を人間がコントロールできないこと。

直近では21年、風が非常に弱く、折りしもドイツは、原発、石炭、褐炭による発電を軒並み減らしていた最中だったので、必然的にガスに需要が集中した。

その後のウクライナ戦争で、ガスの逼迫、および高騰が顕著になったが、実は、それらはもっと前から始まっていたのだ。かといって、将来の有望な電源と目される水素は、掛け声だけは勇ましいが、まだ商業ベースには程遠い。

そこで、ハーベック氏の「陸上風力戦略」なるものが出てきたわけだが、何のことはない、風のない時は褐炭や石炭を焚き増すのだから、今や、ドイツはポーランドと並んで、EUで一番CO2排出の多い国になってしまった。しかも、ポーランドは現在、原発の建設に前向きなので、そのうち、ドイツだけが置いてきぼりになる可能性は高い。

原発を再エネで代替することが無理だというのは、皆がわかっていたことだ。だから今、化石燃料で代替しているのだが、これでCO2が増えることも、もちろん皆がわかっていた。

CO2の削減が目的なら、先に石炭から止めていき、原発と再エネで釣り合いを取りつつ、本当に原発を代替できるクリーンな電源や技術を、時間をかけて開発していくべきだった。結論として、緑の党の目的は、CO2の削減ではなかったということだ。(後略)【6月2日 川口 マーン 惠美氏 現代ビジネス】
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冒頭記事にもある“暖房に関する新たな環境規制”も不評。

****ヒートポンプ式暖房を巡る謎の法案****
なお、人気絶頂だったハーベック氏が急に落ち目になっている背景には、実は、もう一つ、大きな理由がある。ハーベック氏が夏までに強引に通そうとしている法案(建造物エネルギー法)、通称「暖房法案」のせいだ。  

これは、来年2024年よりガスと灯油の暖房器具の販売を禁止し、徐々に電気のヒートポンプ式の暖房に切り替えることを国民に強制する法律で、従わない場合は年間5000ユーロ(約70万円)の罰金という項目まで入っているというので、ドイツ国民は驚愕した。  

ヒートポンプは日本のエアコンに使われている技術(筆者注:電力を使って大気中の熱を集めて移動させる技術)で、最近は給湯器や床暖房にも普及している。ただ、ドイツの家庭の暖房設備は家全体を暖める大掛かりなもののため、これをヒートポンプでやろうとすると、床暖房となるらしい。  

ヒートポンプはまだ、ドイツでは普及しておらず、そうでなくても高価な上、床暖房となると当然、床を剥がすため、工事費が膨大だ。

ようやく家のローンを払い終えて年金生活に入った人たちが、高価な暖房設備を購入し、大規模リフォームをするなど非現実的だし、年金生活者でなくても負担が大きすぎて、最悪の場合、家を手放さなければならなくなるかもしれない。  

また、家主にとってもすごい出費で、それが家賃に反映されれば借家人も困窮する。  将来、暖房がだんだん電化されていくことはわかる。

しかし、なぜ、今、国民に多大な負担をかけてまで、これほど急激にヒートポンプに取り替えなければならないのかの説明が全くない。全て惑星を救うためと言われても、国民の財力には限度がある。  

しかも、まだ、電気を作るのに石炭やガスを燃やしているのだから、CO2の削減にも役立たない。それどころか、これは、政府による自由市場への介入であり、ひいては国民の自由の制限である。そして興味深いことに、この法案の生みの親もやはりグライヒェン氏だ。【5月19日 川口 マーン 惠美氏 現代ビジネス】
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【反移民・反グリーンで勢力伸ばす極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」】
低迷する緑の党と対照的に支持を拡大しているのが、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」で、緑の党の環境政策への不満の受け皿にもなっています。

****ドイツ極右政党、反移民・反グリーンで勢力伸ばす****
ドイツで反移民を訴える極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が世論調査で支持を伸ばし、主要政党が警戒を高めている。移民の阻止を訴え、環境保護(グリーン)政策にはコストがかかると批判することで、ドイツ東部3州の選挙で勝利を収める勢いだ。

全国世論調査では、AfDの支持率は17−19%と過去最高に近い数字で、調査によってはショルツ首相の社会民主党と2位を争う位置にある。10.3%の得票を確保した2021年の選挙の時点では第5位だった。

AfDがこれほどの支持率を記録したのは、欧州移民危機発生後の2018年以来となる。今回、ナショナリズムと反移民を掲げるAfDとしては、ショルツ首相率いる3党連立政権の内輪揉めにも乗じた格好だ。

極右政党は欧州各国で勢力を広げつつある。フランスでは選挙での対立候補として以前より強力になり、イタリアとスウェーデンでは連立与党として政権に加わっている。

とはいえ、ナチスという過去を持つドイツにとって、AfDの台頭は特に神経を使う問題だ。同党は移民流入の多さやインフレの高進、費用のかかる「グリーン移行」政策をめぐって現政権を激しく批判している。

ドイツの情報機関である連邦憲法擁護庁は、AfDの青年組織を「過激派」と認定し、「人種差別的な社会概念」を広めているとしている。また同庁トップは、対ロシア制裁に反対するAfDが、ウクライナ情勢に関するロシア側のプロパガンダを流布することに協力したと批判している。

ドイツの主要政党はAfDとの協力を拒否して同党を政権から締め出してきたが、AfDの批判者は、AfDがドイツの政界主流をさらに右寄りに引きずるのではないかと懸念している。

デュッセルドルフ大学で政治学を研究するステファン・マーシャル氏は、「移民などの課題をめぐる論調がとげとげしいものになっている」と語る。

移民問題はドイツの政治課題の中で比重を高めつつある。東部ザクセン州のミヒャエル・クレッチマー州首相は中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)出身だが、先週、移民の数が「多すぎる」と述べ、難民受け入れ数の制限と、給付の削減を訴えた。

<グリーン移行のコストは>
(中略)またAfDは人類の活動が気候変動の原因になっているとすることに異議を唱えており、化石燃料からの脱却に伴うコストに関する一部有権者の懸念も利用してきた。

AfDのティノ・クルパラ共同党首によれば、ショルツ政権の連立パートナーであり、化石燃料からの移行の加速を要求している緑の党の政策が、「経済戦争やインフレ、脱工業化」をもたらすと評価する有権者が増加しているという。 「緑の党のような危険な党と連立を組むことのない政党は、私たちAfDだけだ」とクルパラ氏は言う。

2024年に州議会選挙が行われるドイツ東部のチューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルク州では、AfDが初めて第1党になろうとしており、世論調査では23−28%の支持を集めている。

アナリストによれば、旧東独地域では有権者の支持政党があまり固まっておらず、AfDを受け入れる余地がある。統一から30年経った現在も旧東独地域の低所得傾向は続いており、その責任は長年にわたって政権交代を繰り返してきた主要政党にあると有権者が考えていることも理由の一端だという。

連立政権から排除されているとはいえ、AfDの台頭は他党の票を奪っており、州と国政双方のレベルで連立がより不安定にならざるをえない。AfDの支持が最も高い旧東独地域では、それが顕著だ。

<不満のうねり>
マンハイム大学で政治学を研究するマルク・デブス氏によると、一部の有権者たちのあいだでは、特に保守政党は左派と協調するのではなく、正式な連立には至らないまでも、もっとAfDとの連携を強めるべきだという声が強まる可能性があるという。(中略)

他方で、AfDは複数の危機が一時的に重なったことに伴う不満の高まりに便乗しているだけだという見方もある。インフレもすでに峠を越え、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い冬季に急騰したエネルギー価格も落ち着いてきた。

ショルツ政権のウォルフガング・ビューヒナー報道官は、同政権はAfDへの支持を徐々に抑え込んでいけると確信していると語る。 「ショルツ首相は、私たちが良い仕事をしてドイツの問題を解決していけば、この件について心配する必要がなくなる日もそう遠くないと楽観している」と、同報道官は話した。【6月10日 ロイター】
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アメリカ  移民封じのタイトル42失効で新規則 「終わり」は遠い不法移民対策

2023-06-11 23:37:16 | 難民・移民

(2023年5月9日/コロンビアとパナマの国境「ダリエン地峡」を進む移民(Ivan Valencia/AP通信)【5月12日 KWP News】)

【「タイトル42」失効 難民申請を阻む新たな規制】
メキシコ国境に押し寄せる移民にどう対処するか・・・アメリカが抱える大きな問題の一つですが、厳しい移民対応を掲げたトランプ前政権が「目玉」政策としてアピールしたのが「壁」の建設。

アメリカとメキシコの国境は約3145キロ、このうち全く新しい壁が建設されたのが約128キロ、すでにある古い壁や柵を改修したのが約597キロと言われています。

残りは手つかずですが、「壁」の建設を難しくしているのが、国境を流れる激しく蛇行するリオグランデ川の存在。
物理的にも建設が困難ですし、政治的にもメキシコとの治水に関する条約があって、川岸近くに建造物をつくることができないとか。

このリオグランデ川は水深が浅く、歩いて渡ることが可能です。そのため、越境者も多い状況。

そうした越境者をメキシコ側に追放する手段として利用されたのが「タイトル42」

公衆衛生上の規定ですが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、保護の申請すら受け付けずメキシコ側に追放する形で運用されました。

移民に関するトランプ前政権の方針を転換することを公約として掲げたバイデン政権ですが、結局タイトル42は維持し、一部の越境者に適用してきました。22年4月の数字で見ると、身柄拘束の約半数近くがタイトル42を根拠に追放されています。

その後、コロナの収束、党内からの批判を受けて、バイデン政権はタイトル42による規制の解除を計画しましたが、反対する共和党系南部州知事の訴えを受けて、連邦裁判所が解除を差し止め。解除後の混乱を警戒するバイデン政権も本音では安堵したとも言われています。

しかし、5月11日でタイトル42はいよいよ失効。政権は新たな対応を迫られました。
新たな対応は、アメリカ国境に到達するまでに通過した第三国で亡命申請するよう求める厳しい内容となっています。

****米政権、不法移民の送還強化へ 制限措置、失効迫る****
バイデン米政権は(5月)10日、新型コロナウイルスの感染防止を理由とした移民流入制限措置「タイトル42」が11日深夜に失効するのを前に、新たに不法移民の送還を強化する施策を発表した。

移民希望者に第三国で亡命申請するよう求め、陸路で南部メキシコ国境から不法入国した場合は原則として送り返す。タイトル42失効後、即時導入される。

トランプ前政権が導入したタイトル42の下では、不法移民を亡命申請の審査なしに送還できる。失効すれば米国内に滞在できるようになると期待して、中南米などから移民希望者がメキシコ国境に押し寄せている。【5月11日 共同】
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入国できずに苦境に置き去りにされた多くの人々を見てきた「国境なき医師団」は、こうしたバイデン政権の対応を批判しています。

****米国は難民申請制度の確立を──「タイトル42」失効後も続く移民危機  国境なき医師団****
米国で5月11日、3年以上にわたって米国南部国境での難民申請を排除してきた連邦規則第42編(以下、タイトル42)が失効した。

国境なき医師団(MSF)は、同規則の失効を歓迎する一方で、失効後にバイデン政権が強化する移民政策は多くの人びとを危険にさらすと懸念を表明。米国政府は人の尊厳を重んじ、安全な難民申請制度を再度確立した上で、全ての人に利用できるようにすることが急務だと訴える。

公衆衛生を口実にした難民封じ
2020年にトランプ政権によって発動され、バイデン政権によって何度も延長されたタイトル42は、新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に、米国に保護を求める人びとを阻止し、追放してきた。米国から280万人余りが合法的に追放され、多くの人びとが暴力の脅威にさらされる状態でメキシコの都市に放置された。

MSFは、レイノサ、マタモロスなど国境沿いのメキシコ側の都市で医療援助活動を行ってきた中で、この政策によって弱い立場にある人びとが基礎的な診療や心のケアを受けられず、避難所や食料も不足する中で、暴力や搾取など危険にさらされる様子を目撃してきた。

メキシコと中米におけるMSFの現地活動責任者、アドリアナ・パロマーレスは、「私たちはタイトル42の失効に伴って、保護を求める人たちを救済する手続きの復活を期待していました。しかし、バイデン政権は難民申請を禁じる新たなルール造りに注力しているようです。多くの人びとが保護を切実に必要としており、抑止策に効果はないことは明らかで、実際には暴力と危険にさらされる人が増えるだけです」と警鐘を鳴らす。

難民申請を阻む新たな規制
タイトル42が失効し、米国政府はタイトル8と呼ばれる既存の移民審査に戻る。タイトル8では、米国への不法入国を繰り返した場合、5年から20年間は、米国への入国や難民申請を禁じられる可能性や刑事責任を問われる場合がある。

またバイデン政権は、米国南部国境に向かう途中で他国を通過する者が無許可で米国に入国した場合、その難民申請を認めないとする新たな規制も発表した。

さらにバイデン政権による新たなルールの問題の一部に、「CBP One」というスマートフォンのアプリを通じて行う難民申請手続きが挙げられる。MSFが集めた証言によると、一部のスマートフォンではアプリが正常に動作しない、1日あたりの手続きの予約枠が非常に少ない、特定の都市でしか手続きができない、電源やインターネット接続が無い人や読み書きのできない人は申請すらできないなどの問題が浮かび上がる。

パロマーレスは、「バイデン政権は、安全で公正かつ人道的な移民制度を構築すると約束しました。しかし実態は、国境で難民申請を求める人びとを遠ざける方法を継続または拡大しています。MSFが移民ルートで治療する多くの患者にとって、母国に帰るという選択肢はありません。

移民を追い返したり、勾留したり、放置したり、あるいは意図的に審査を難しくして、米国行きをあきらめさせようとするのは、相手を危険にさらすだけの残酷な政策です」と訴える。【5月12日 PR TIMES】
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【混乱は国境だけでなく大都市にも】
一方、移民対応の最前線にあって、より厳格な移民対応を求める共和党系南部州知事は、移民に比較的寛容なメキシコ国境から離れたニューヨークやシカゴなどの大都市へ移民を送り込む施策を昨年からとってきました。

****米大都市、移民急増を警戒 南部州知事らが送り込み****
米国で新型コロナウイルス対策を名目とした移民流入制限措置「タイトル42」が11日に失効したことを受け、メキシコ国境から離れたニューヨークやシカゴなどの大都市でも移民急増に警戒が高まっている。バイデン政権の移民政策を批判する南部テキサス州のアボット知事(共和党)らがバスで移民を送り込んでいるためだ。

アボット氏は昨年以来「バイデン大統領の無謀な国境政策への対応の一環」だとして、民主党が優勢な首都ワシントンやニューヨーク、シカゴなどにバスで移民を送り込んできた。米メディアによると、ニューヨークにはこれまでに6万人近くの移民が到着した。【5月13日 共同】
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これによって、混乱は大都市にも拡大。

****不法移民規制失効の混乱、NY市にも 移民を郊外へ「玉突き移送」****
米国の不法移民規制の失効に伴う混乱は、メキシコ国境から数千キロ離れた米東部のニューヨーク市にも広がった。同市のアダムズ市長は11日、今後1週間で新たに5千人の不法移民が流入し、受け入れ場所がなくなるとして、先に受け入れ済みの不法移民を郊外へ移送する「玉突き作戦」に踏み切った。

ニューヨーク市は、メキシコ国境から入った不法移民3万7500人以上を120カ所以上の一時滞在施設で受け入れている。

アダムズ氏は5日、不法移民のうち希望者をバスで郊外へ移送すると突然発表。郊外の自治体幹部は反発し、アダムズ氏は「根回し不足」を批判された。

11日は、ニューヨーク市の北約100キロのニューバーグのホテルに第1陣のバス2台が到着。地元紙によると、不法移民は警察官や出迎えの支援者に見守られてホテルへ入った。【5月】
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****1週間で4200人、「タイトル42」失効で急増する不法移民・ニューヨーク****
<年間6万人の不法移民を抱えるニューヨーク。トランプ政権が導入した不法移民の即時送還措置の失効で、アメリカを目指す移民が急増中。シェルター整備も追いつかず、莫大な費用も>

急増するホームレスに苦慮するニューヨーク市が、今度は不法移民の殺到に悲鳴を上げている。過去1年間に同市に到着した移民の数は6万人以上。

前トランプ政権が新型コロナ対策の一環で導入した不法移民の即時送還措置「タイトル42」が5月11日に失効すると、アメリカを目指す移民はさらに急増。失効から1週間で、ニューヨークに新たに到着した移民は4200人に上るという。

同市は移民の収容シェルターの整備などに既に10億ドルを投じているが、その費用は2024年6月までに43億ドルに膨れ上がると予測されている。(後略)【5月24日 Newsweek】
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【貧者が避けられない「長くて厳しく危険な道」】
ギャングの暴力が横行する母国を逃げ出した人々は、アメリカを目指す途中でも犯罪組織の餌食となり、病気に苦しみ、国境に到達してもバイデン政権の新規制で入国できず・・・行き場を失っています。

****行くも戻るも地獄...アメリカは「貧者の道」*****
<南米から陸路で新天地を目指す決死の逃亡者に、ギャングと感染症とバイデン政権の新規制が立ちはだかる。「タイトル42」の失効後のアメリカはどうなるのか?>

アレックス・タルキ(31)と妻は、何としても5月11日までにアメリカとの国境に到着したかった。
その日をもって「タイトル42」(コロナ対策を名目にトランプ前政権が導入した不法移民の即時強制送還措置)が失効するのだが、代わりにもっと厳しく、難民申請を困難にする仕組みが導入されると聞いていたからだ。

タルキはエクアドルの首都キトで食堂を経営していた。よくあることだが、地元のギャングから月々の「見かじめ料」を要求されたので逃げ出すことにした。「命が危ない。払わなければ殺される」からだ。そうであれば難民申請の資格はある。

夫妻は3月に悪名高い「ダリエン地峡」を渡った。コロンビアとパナマの国境地帯にあり、南米大陸と北米大陸を陸路で結ぶ主要なルートとなるが、密林の道なき道で、恐怖の無法地帯でもある。

夫妻は既に、持ち金の約1500ドル(約20万円)を全て奪われていた。だから案内役のギャングに高い金を払って安全なルートを行くゆとりはなく、代わりに5日がかりの危険な行程を選んだ。

途中で、夫妻は川の水をじかに飲んだ。そのとき2匹の寄生虫が妻の体内に入り、脳と胃まで到達した。ダリエン地峡を抜けた4日後、妻は昏睡状態に陥った。そして赤十字のボランティアにより、パナマ市の病院へ運ばれた。
もうすぐ退院できそうだ、とタルキは言った。しかし再びアメリカを目指す旅に出ても、その先は見えない。

1944年に制定されたタイトル42は、危険な感染症の国内流入を防ぐため、感染の疑われる人の入国を禁止する規則だ。トランプは新型コロナ対策を口実にこれを発動し、移民の抑制に利用してきた。
それが失効したのだが、バイデン政権の導入する新規制の下ではもっと条件が厳しくなりそうだ。

現時点で公表されている情報によると、例えばメキシコやパナマなどの第三国を経由してくる場合、まずはその第三国で庇護を申請していない限り、アメリカでの申請はできない。

ただし保護者に連れられていない未成年者は例外。米税関・国境取締局(CBP)の入国手続きアプリ「CBP One」で事前申請し、入管事務所での面接を予約した人も例外となる。

不法入国で刑事罰の恐れ
しかし多くの人が申請を却下される恐れがあり、米自由人権協会(ACLU)などは訴訟で対抗する構えだ。
タイトル42の下では、国境での難民申請はほぼ完全に却下された。しかし、不法入国を何度も試みたというだけで罰されることはなかった。

だが今後は不法入国の試みが刑事罰の対象となり、5~20年間は新たな難民申請が不可能になる恐れがある。手段を選ばず国境を越えれば勝ち、というわけにはいかない。

バイデン政権は新たな施策を移民支援の一環と位置付け、不法移民の生じる根本原因の解消に取り組むとしている。まずはコロンビアとグアテマラに専門の事務所を開設し、そこで事前に合法的な入国を申請できるようにするという。最初は2カ所だが、順次増設する計画だ。

だが計画は遅れている。だから当面は「非常に難しい状況になり得る」と、国土安全保障省も認めている。「結果を出したいが、結果が出るまでには時間がかかる」

ダリエン地峡を越えてパナマ領内に入った人のほとんどは、メテティという町で一息つく。そこでは、タイトル42が失効すれば難民申請のチャンスが増えるという噂も流れていた。

国連によると、昨年はダリエン地峡を渡る人が過去最多の25万人弱に達した。今年は40万人になる可能性があるという。今さら引き返せないし、新規則の詳細が分かるのを待ってはいられないからだ。

だが難民申請の機会が減るのは間違いない。国境まで到達すれば誰でも難民申請の面接を受けられるという常識は、もう通用しなくなる。

CBPの入国手続きアプリを使えば、簡単に面接を予約できるとされる。実際、それで救われた人も多い。だが苦情も噴出している。

「使えない」とぼやくのはナイジェリアから来たアブドルラーマン・スレイマン・オライデ(31)。スマホでアプリを開こうとしても、毎回フリーズしてしまうという。
彼はブラジルで働いていたが、アメリカには親類が住んでいる。だからダリエン地峡を越えて来た。でもアプリが使えなければ、面接の予約もできない。

ダリエン地峡を閉鎖へ
メテティには2カ所に移民の待機センターがある。身を寄せた人の多くが道中で強盗の被害に遭い、身ぐるみ剝がれ、渡航書類も持っていない。

コロンビア軍の将校だったカミーロ・マカナ(54)は、反体制武装組織FARCの分派から殺害の脅迫を受け、移住を決意した。だがダリエン地峡でコロンビア人の盗賊に襲われ、全てを奪われた。
「パスポートがないから外に出られない。バス代もない。これではパスポート(の再発行)も手配できない」

バイデン政権は4月、ダリエン地峡を渡る主要なルートを閉鎖するため、コロンビアとパナマの軍隊と協力すると表明した。共同発表によると、2カ月にわたって仲介業者などを取り締まる作戦を展開する。別に安全なルートを用意する計画もあるという。

ベネズエラのマドゥロ政権に反対する活動家でジャーナリストのオメル・アレハンドロ・バリオス・チャコン(37)は6年前、コロンビアに脱出した。
しかし昨年のコロンビア大統領選で勝利したグスタボ・ペトロがベネズエラとの国交再開を決めたので、別の国へ移ることにした。

しかしチャコンと妻はダリエン地峡で強盗に襲われた。2人はパナマにとどまり、この国で亡命を申請するという。「ベネズエラ政府が絶対に手を出せない」アメリカに移住するのが夢だが、今は「命を守れる国ならどこでもいい」とチャコンは言う。

新しい規則を適用しても、ダリエン地峡を渡る人の流れが止まるとは思えない。それはアメリカ政府も認めている。弱い立場の移民を狙う強盗や暴力犯罪、性的暴行などを防ぐ手段もない。

チャコンも、そして冒頭に引いたタルキも、仲介業者に大金を払う代わりに危険なルートを選んでダリエン地峡を越え、パナマまで来た。でも、まだ終わりではない。
「長くて厳しく危険な道だ」とチャコンは言う。「貧者の道さ」【6月8日 Newsweek】
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【追い払っても、それで「終わり」ではない】
アメリカにとっても、「壁」をつくっても、厳格な移民対策で追い払っても、それで「終わり」ではありません。

移民問題を考えるとき、いつも「この蜘蛛の糸はおれのものだぞ!」と叫ぶ小説「蜘蛛の糸」のカンタダを思います。

(アメリカ経済が移民を必要としているということは別にして)大量の移民の流入が多くの問題を惹起するのは一定に事実ですが、関係国と協力した不法移民の生じる根本原因の解消への取り組み、移民が国内で問題を起こすことになる背景や彼らを追い込んでいる国内状況への対応、そうしたものなしに「追い払って終わり」ではカンタダと同じのようにも。
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