孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中東外交の仕切り直しを図るアメリカ 中国はパレスチナ仲介に関心

2023-06-10 21:46:39 | 中東情勢

(サウジアラビア・ムハンマド皇太子と会談するブリンケン米国務長官【6月8日 NHK】)

【アメリカ 中東外交の仕切り直し サウジ・イスラエル関係の仲介】
サウジアラビアとイランの中国仲介による関係正常化、シリアのアラブ連盟復帰など大きく動き始めた中東情勢ですが、その背景としていつもあげられるのが、中東におけるアメリカの存在感・影響力が薄れていること。

それは、アメリカ国内の石油生産が増加し、中東石油を必要としなくなったことや、アメリカが中東より中国を重視した戦略に変化していることなど、アメリカ自身が中東への関与を弱めていることが背景にあります。

とは言え、アメリカとしても国際政治をリードしていくうえで中東への影響力は必要でし、アメリカに代わって中東における中国・ロシアの影響力が増すのも困ります。

アメリカにとっての中東を考えると、(イスラエルは別として)一番中核になるのがサウジアラビアとの関係。
ブリンケン米国務長官がサウジアラビアを訪問し、中東外交の仕切り直しを図っています。

****「米国はとどまる」中東への関与強調 米国務長官、サウジ訪問*****
中東の石油大国サウジアラビアを訪問したブリンケン米国務長官は7日、首都リヤドで開かれた湾岸協力会議(GCC)の閣僚級会合に出席した。ブリンケン氏は開催に先立ち、「米国はこの地域にとどまる」と述べ、中東諸国との関係強化に努める方針を示した。

ロイター通信によると、ブリンケン氏は同日、サウジの実力者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子に続いてファイサル外相とも会談した。

サウジは3月、中国の仲介でイランと外交関係の正常化で合意したほか、ウクライナに侵攻したロシアとも一定の関係を維持している。中露がサウジなど中東諸国への影響力を強める中、ブリンケン氏は訪問を通じて米国の存在感をアピールした形だ。

ブリンケン氏は訪問最終日の8日、リヤドで開かれたイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の壊滅を目指す有志連合の閣僚級会合に出席し、「シリアとイラクではIS打倒に成功したが、ISはアフガニスタンで勢力を回復しつつある」と述べ、「ISとの闘いは終わっていない」と強調した。【6月9日 産経】
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米国務長官が「米国はこの地域にとどまる」と敢えて言う必要があるというのは、中東諸国や関係国がアメリカは中東から手をひく姿勢を強めていると見ていることの裏返しでもあります。

それはともかく、アメリカにとって、サウジアラビアとの関係を再構築する具体策は、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化を仲介することでしょう。

イスラエルもサウジアラビアとの関係正常化を求めてサウジアラビアと交渉していますが、サウジ・イラン関係の方が先行し、イスラエルとしては中東情勢変化の流れから取り残された形にもなっています。

サウジアラビアもイスラエルとの関係は望むところでしょうが、やはりアラブの盟主としては「アラブの大義」であるパレスチナの問題を捨ておく訳にもいきません。たとえ「アラブの大義」がどんなに形骸化しているとはいっても。

****米、中東外交を仕切り直し イスラエルとサウジの国交正常化模索 難航は必至****
ブリンケン米国務長官は8日、3日間のサウジアラビア滞在を終えた。今回の訪問でブリンケン氏は、中東における2大同盟国であるサウジとイスラエルの国交正常化に向けた橋渡しを模索。

外遊は、中国やロシアがイランと接近するなど中東の力学が変化する中で行き詰まりをみせていた中東外交の仕切り直しを図るものとなった。

8日の帰国に先立って記者会見したブリンケン氏は、イスラエルとサウジを含むアラブ諸国の国交正常化を促進することが「米国の戦略のカギ」だと語った。帰途の機中ではイスラエルのネタニヤフ首相と電話で正常化問題を協議。サウジ側から得た感触を伝えたものとみられる。

米国の中東外交はここ数年で何度も変転した。サウジ、イスラエルの両国と緊密な関係を築いたトランプ前政権は2018年、オバマ政権が結んだイラン核合意から一方的に離脱し、イランへの圧力を強めた。末期にはアラブ首長国連邦(UAE)など一部のアラブ諸国とイスラエルの国交正常化を実現し、「イラン包囲網」を強化している。

これに対しバイデン政権は、イラン核合意の修復によって域内の緊張緩和を目指すことを中東外交の基調に置いた。
だが昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、イランが露軍への兵器供与に乗り出したことで、一時は妥結寸前にこぎつけた核合意の再建協議は頓挫。

世界的なエネルギー高騰の解消に向け、人権問題を巡って関係が険悪化していたサウジに歩み寄って石油増産を働きかけたものの、成果はあがらなかった。

対イスラエルでは、バイデン政権が推すパレスチナとの「2国家共存」案に否定的なネタニヤフ氏が右派連合を率いて政権に返り咲いたことでぎくしゃくした関係が続く。八方ふさがりといっていい状態だ。

そこで目を向けたのが、イスラエルとサウジの国交正常化を仲介することで中東での影響力確保を図る路線だ。断交していたサウジとイランが今年3月、中国の仲介で関係正常化に合意し、米国の影響力低下がささやかれたことも方針転換を後押ししたとみられる。

米ネットメディア「アクシオス」によると、バイデン政権は今後6〜7カ月でイスラエルとサウジの正常化に向けた動きを軌道に乗せたい考え。バイデン大統領が再選を狙う来年11月の大統領選を前に大きな外交的成果をあげ、選挙運動に勢いをつけたいとの計算もにじむ。

しかし、道のりは険しい。サウジのファイサル外相は8日の会見で、国交正常化に前向きな姿勢を示しつつも、前提としてイスラエルと将来のパレスチナ国家による「2国家共存への道が開かれる必要がある」と強調した。アラブ諸国の盟主を自任するサウジとしては、「パレスチナを見捨てた」との印象は避けたいためだ。

ところが、ネタニヤフ政権は国際法に反するヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地建設を推進しており、そもそも「2国家共存」案には否定的だ。バイデン政権の仲介努力は、出発点から壁に直面している。【6月9日 産経】
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イスラエルとサウジの国交正常化を仲介と言っても実際にはなかなか難しいものがありますが、アメリカのこうしたサウジアラビアへの関与によってサウジアラビアの中国・ロシアへの接近を止められるかと言えば、それも困難なようです。

****サウジと中露の関係深化「米国には止められない」 評論家ハミディ氏****
ブリンケン米国務長官のサウジアラビア訪問について、国際情勢に詳しい在英評論家のサミ・ハミディ氏(32)が産経新聞の電話取材に応じ、「米国はサウジと中露の間で進む関係深化を食い止めることはできないと思う」などと述べた。

 ハミディ氏は「(サウジにとって)中露との関係は、米国に対抗する上で核心的なテコになっている。米国を譲歩させたり、要求を聞き入れさせたりする上で重要だ」との見方を示した。(後略)【6月9日 産経】
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【中国 サウジ・イランの次はパレスチナ?】
一方、サウジアラビアとイランの関係正常化を仲介して、その存在感を示した中国ですが、中東問題の長年の懸案であるパレスチナ・イスラエルの間の仲介にも関心があるようです。

****パレスチナ議長、13日訪中=習主席の「仲介外交」加速か****
中国外務省は9日、パレスチナ自治政府のアッバス議長が13〜16日に中国を訪れると発表した。習近平国家主席が招待した。

中国はかねて中東和平への関与に意欲を示しており、習氏とアッバス氏の会談でも対イスラエル関係などが議題になるとみられる。

中国外務省の汪文斌副報道局長は9日の記者会見で、「中国とパレスチナの伝統的な友好関係のさらなる発展を願っている」と強調。「引き続き国際社会と協力し、パレスチナ問題の早期かつ永続的な解決に向けて努力する」と述べた。

中国は3月、イランとサウジアラビアの関係修復を仲介。4月には秦剛国務委員兼外相がイスラエル、パレスチナの両外相と個別に電話会談し、和平促進に向けて中国が「建設的な役割」を果たす用意があるなどと伝えていた。

ロシアが侵攻するウクライナ情勢を巡っても、独自の「和平案」を掲げて欧州に接近するなど、「仲介外交」活発化による影響力拡大を図っている。【6月9日 時事】
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誰がやってもうまくいかなかったパレスチナ問題ですから、そうそう簡単に成果がでるとも思えませんが、パレスチナにしても、ウクライナにしても、最近の習近平国家主席は「仲介外交」に意欲的です。

中国の国際的影響力の大きさを世界に、そしてアメリカに見せつけることで、新たな国際秩序の主役たらんとしているのでしょう。
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中国がキューバにスパイ施設を設置する計画で大筋合意との報道 ブリンケン米国務長官訪中は?

2023-06-09 22:36:13 | アメリカ

(キューバの首都ハバナ【6月8日 WSJ】)

【多くの“火種”の中でも、中国との対話を模索するバイデン政権】
米中間では最近だけでも気球問題、tiktok禁止法案に関する議論、先端半導体製造装置の対中輸出規制強化、中国警察の「海外派出所」、南シナ海や台湾海峡での米中両軍のニアミス・・・等々、“火種”には事欠きません。

こうした状況でアメリカ世論にあっては中国への厳しい見方が増加しています。

****中国に好意的な米国民15% 世論調査、79年以来最低****
米調査会社ギャラップは7日、中国を好意的に受け止めている米国民は15%で、1979年からの同社世論調査で最低になったと発表した。

民主党や共和党の支持者、無党派層を問わず厳しい意見が多いとし、米国民の6割以上が中国の軍事力と経済力が「重大な脅威」だと感じているとした。

調査は今年2月1〜23日、約千人に実施。中国偵察気球が米上空を飛んだことが問題化し、ブリンケン国務長官が訪中を取りやめて米中の緊張が高まった時期と重なる。

66%が中国の軍事力を「重大な脅威」とし、経済力には64%が同様の危機感を示した。台湾を好意的に見るのは77%だった。【3月8日 共同】
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ただ、バイデン政権としては中国との関係が過度に悪化する事態を懸念しており、そのことで厳しい対中国政策が抑制・先送りされているとも。

****対中強硬になり切れない米国務省、「偵察気球事件」で露呈****
今年2月に米本土に侵入した中国の偵察用とみられる気球を米軍が撃墜した際、米政府内の一部にはこれで今まで準備していた一連の対中強硬策の実行に弾みがつくのは間違いないだろう、との見方が浮上した。

ところが、その後に国務省が米中関係へのダメージを限定的にしようとして、人権問題に絡む制裁や輸出管理といった「際どい」対中政策に待ったをかける役回りを演じていたことが、4人の関係者への取材や、ロイターが同省職員間でやり取りされた電子メールを確認して明らかになった。

バイデン政権が「最も重大な競争相手」とみなす中国に対し、順次投入するために用意した具体的措置を断固打ち出せないという事実は、政権内で対中強硬派と慎重派が対立する構図を浮き彫りにしている。

国務省は中国の気球侵入を受け、ブリンケン長官の訪中延期を決めて米国側の不快感を表明したのは確かだ。ただ、内部メモによると、複数の高官が予定していた中国向けの強硬策実行の先送りに動いたことが分かる。

今回初めて明らかになったのは、同省の対中国・台湾政策調整を担う「チャイナハウス」のトップを務めるウォーターズ次官補代理が2月6日付で職員に宛てた電子メールの内容だ。

そこには、とりあえず気球問題以外の事務を正しく処理しろ、というのが長官の指示で、この事件に関連する行動は数週間以内に改めて手を付ければ良い、といった趣旨が記されていた。

だが、関係者によると、対中強硬策の多くは今もなお実施手続きが復活していない。中国通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)に適用する輸出規制や、ウイグル族への人権弾圧に関与している中国当局者を対象とした制裁の延期で、チャイナハウスの職員の士気が低下しているという。

バイデン政権は一面では、1979年の国交開始以来、最も冷え込んでいるとの見方が多い中国との関係をこれ以上悪化させないような努力をしているのは間違いない。

元外交官や与野党政治家の言い分に基づけば、双方の意図を誤解して危機を招かないようにするために、米国は中国側との対話チャンネルを維持しておく必要もある。

それでも現在の政策は、ハイレベルの対話を通じて中国からの譲歩を引き出す、という以前の外交方針に似すぎている、というのが関係者の見方だ。この方針は結局、ほとんど実を結ばなかった。

また、関係者はロイターに、ブリンケン長官は対中政策をシャーマン国務副長官に「ほぼ丸投げ」していることも明らかにした。

国務省のある高官はロイターの取材に対して、バイデン政権の下で同省は他の省庁と協力して過去にないほど中国に対抗するための多くの制裁や輸出管理などを策定してきたと強調。「個別の措置には触れないが、この仕事は繊細で複雑だ。そして、効果を最大限にするとともに、われわれのメッセージをはっきりと正確な形に定めるためには、政策の順位付けが不可欠になる」と述べた。

シャーマン氏はコメント要請に応じていない。ただ、2月9日の上院外交委員会では、国務省は中国の軍事、外交、経済面での攻撃的姿勢をはね返す取り組みを続けていると説明した。(後略)【5月12日 ロイター】
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対中国強硬策を求める立場からは、こうしたバイデン政権・国務省の対応は弱腰・優柔不断と映るでしょうが、両国関係のダメージを限定的なものにし、対話のチャンネルを求めること自体は、責任ある政府としてはまっとうな対応でしょう。

アメリカだけでなく、日本を含めた欧米主要国の対中国戦略の基本は、中国を排除する「デカップリングdecoupling」(関係切り離し)から、中国との間のリスクを最小化する「ディリスキングde-risking」(リスク回避)へと転換しているとも言われ、先のG7広島サミットでも「ディリスキング」戦略が確認されています。

****デカップリングからディリスキング対中戦略転換の真意****
日米欧主要国が対中国戦略の経済面で、「デカップリングdecoupling」(関係切り離し)から「ディリスキングde-risking」(リスク回避)への転換に乗り出し始めた。中国との関係悪化を避けると同時に、西側世界の結束を図る狙いがある。(後略)【6月8日 WEDGE】
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ただ、もとより現在のグローバル経済において完全な中国排除が不可能なこと(そんなことをすれば、自国経済が潰れてしまうこと)は誰の目にも明白であり、中国側が批判するように「『ディリスキング』はたんなる『デカップリング』の言い換えに過ぎず、行動面では同一であり、対中国包囲を意図したもの」(中国新華社通論評)といった感もあります。

まあ、それでも「関係切り離し・排除」という言葉を使わずに「リスク回避」という言葉を使うということには、それなりの「姿勢・方針」が反映しているとも言えるでしょう。

米中両国のハイレベルの対話は、気球問題によるブリンケン長官の訪中延期以来途絶えています。
今月2日のアジア安全保障会議でも両国国防相は“笑顔で握手”にとどまりました。

***“笑顔で握手”米国防長官と中国国防相が短時間接触…直接会談は中国側の拒否で見送り***
台湾問題などで対立する米中の国防トップは、2日に開幕したアジア安全保障会議での直接会談を見送っていましたが、さきほど握手を交わすなど短時間、接触しました。

アメリカのオースティン国防長官と中国の李尚福国防相は2日、シンガポールで始まったアジア安全保障会議の開幕イベントの会場で、笑顔で短く握手を交わしました。

関係者によりますと、オースティン氏が李氏のもとに歩いていったということですが、2人の会話はほぼなかったとみられます。

台湾や南シナ海問題などで両国の対立が激化するなか、今回、アメリカ側が打診した直接会談を中国側が拒否したことから両国の溝が改めて鮮明になっていました。(後略)【6月2日 TBS NEWS DIG】
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もっとも、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が5月に極秘に訪中していたと報じられており、水面下ではそれなりの動きがあったようです。

こうした状況で、ブリンケン国務長官が早ければ来週にも中国を訪問すると報じられています。

****米国務長官、来週にも訪中か=習主席との会談焦点―報道****
米政治専門紙ポリティコ(電子版)は8日、ブリンケン国務長官が早ければ来週にも中国を訪問すると報じた。複数の関係者の話として伝えた。

実現すれば、2021年1月にバイデン米政権が発足後、国務長官の訪中は初めて。中国の習近平国家主席と会談するかが焦点となる。【6月9日 時事】
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【中国がキューバにスパイ施設を設置する計画で大筋合意との報道 再びブリンケン米国務長官訪中は不透明に】
しかし、また“新たな火種”も。
アメリカの喉元に位置するキューバにスパイ施設を設置する計画で中国・キューバが大筋合意したとの報道。

****中国、対米スパイ拠点をキューバに設置へ****
米軍基地の多い米南東部の通信傍受も可能に

中国はキューバに諜報(ちょうほう)活動の拠点を構えることで、同国と水面下で合意した。機密情報に詳しい米当局者が明らかにした。

米南部フロリダ州から約160キロメートルに位置する社会主義国キューバに拠点を設置すれば、中国は多くの米軍基地のある米南東部全域の通信を傍受し、船舶の航行状況を把握できるようになる。

複数の米当局者によると、中国がキューバに盗聴の拠点を設置し、見返りとして財政難にあえぐキューバに数十億ドルを支払うことで両国は基本合意に達した。

バイデン政権は、自国の「裏庭」といえるほど近距離にあるキューバに中国が高度な軍事・情報収集能力を備える拠点を設立すれば、新たな脅威になるとみて警戒感を募らせている。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は、今回の報道について論じることはできないとしつつ、中国は世界各地で軍事目的の可能性があるインフラへの投資に努めているとし、バイデン政権はその動きを監視し、対策を講じると述べた。

複数の米当局者は、キューバへの拠点設立計画についての情報には信ぴょう性があるとの見方を示した。また、中国はキューバに拠点を構えることで電子メール、電話、衛星通信などを対象に、電波信号の傍受による情報収集活動(シギント)を実施できるようになると話した。(後略)【6月8日 WSJ】
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アメリカ政府は「報道を確認したが、正確ではない」と。

****中国、キューバにスパイ施設設立で数千億円を拠出か バイデン政権「正確ではない」****
中国が米国の「裏庭」とされるキューバにスパイ施設を設置する計画で大筋合意したと、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が8日、米当局者の情報として報じた。

キューバに近い米南東部には米軍基地が多くあり、中国は米軍の電子通信傍受が可能になるほか、船舶の動きなどを監視できるようになるため、バイデン政権にとって新たな脅威となる可能性がある。

報道によると、中国はスパイ施設建設に向けキューバに数十億ドル(日本円で数千億円)を支払うとみられる。

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官はロイターに対し「報道を確認したが、正確ではない」と指摘。ただ不正確とする箇所については明言しなかった。

また、米国は中国とキューバの関係について懸念しており、注意深く監視していると述べた。

米国防総省のパトリック・ライダー報道官は「中国とキューバが新型のスパイ施設を開発していることについて認識していない」と述べた。(中略)

米上院外交委員会のボブ・メネンデス委員長は、WSJ報道が真実であれば「米国への直接的な攻撃」になるとした。【6月9日 Newsweek】
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キューバは否定しています。

****キューバ、「事実無根」と反発=中国の米情報傍受計画報道****
キューバのコシオ外務次官は8日、同国に通信傍受施設を設置することで中国と合意したという米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの報道に関して「全くの誤りであり、事実無根だ」と反発した。

コシオ氏はツイッター上で、報道を「米国や世界の世論を欺くものだ」と指摘。同時に、米国による対キューバ制裁などへの批判も展開した。【6月9日 時事】 
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中国も不快感を表明しており、ブリンケン米国務長官の訪中に再び黄色信号点滅の状況です。

****中国、キューバ巡るWSJ報道に不快感 「米国はハッカー帝国」****
中国外務省の汪文斌報道官は9日、同国がキューバにスパイ施設を設置する計画で大筋合意したとの米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)報道について、「うわさや中傷を広める」ことは「ハッカー帝国」米国の一般的な戦術であるとコメントした。

同報道官は「周知のように、うわさや中傷を広めることは、米国の一般的な戦術である」とし「米国は世界で最も強力なハッカー帝国であり、また、本当の監視大国でもある」と述べた。

米政府当局者によると、ブリンケン米国務長官は近く中国を訪問する計画だが、今回の報道で訪中に疑問が生じる可能性がある。(後略)【6月9日 ロイター】
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ウクライナ・カホフカ水力発電所ダムの決壊  原因については不明 確かなことは甚大な被害

2023-06-08 22:27:23 | 欧州情勢

(カホフカダムが決壊し、水浸しとなった住宅街=ウクライナ南部ヘルソン州で7日、AP【6月8日 毎日】)

【ダム決壊に諸説】
連日大きく報じられているウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所ダムの決壊については、その被害の大きさに加えて、ウクライナ側の反転攻勢が始まろうとしていた(あるいは、始まった)ちょうどそのタイミングで起きただけに、一体誰が?という犯人・原因について周知のようにいろんな憶測がなされています。

****ダム決壊に諸説も、ロシア関与の見方広がる…発電所のSNS「機関室が内部から爆破された」****
ロシアが侵略するウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所ダムの決壊原因を巡り、様々な可能性が指摘されている。

米政策研究機関「戦争研究所」が6日、断定は避けながらも、「ロシアが意図的にダムを損傷した」ことが決壊につながったと分析するなど、ロシアによる関与が原因との見方が広がっている。

ウクライナ軍南部方面部隊は、ダム決壊後の6日午前7時30分過ぎにSNSに「露軍がカホフカ水力発電所を爆破した」と投稿した。

これに続き、ウクライナ国営の水力発電所企業はSNSで「発電所の機関室が内部から爆破された結果、発電所は完全に破壊された」と発表し、ダムを占拠する露軍が意図的に爆破したとの見方を補強した。

ウクライナ大統領府は露軍が6日午前2時50分頃に、発電所を爆破したと発表しているが、直接的な証拠は示していない。

ダムの強度が損なわれた結果、決壊したとの指摘もある。米CNNは6日、衛星写真の比較に基づき、ドニプロ川をまたぐように並ぶ発電所やダム水門と陸地を結ぶ橋の一部が、今月1日から2日の間に消失していた可能性があると報じた。

一部の軍事専門家からは、露軍が1日に橋の一部を爆破したことが原因との分析が示されている。
露軍は昨年11月、ヘルソン州の州都ヘルソンを含むドニプロ川西岸地域から撤退した際に、橋の一部を爆破している。

こうした分析以外では、発電所を管理する露軍が意図的にダムの水量を増やした結果、貯水量がダムの許容範囲を超え、6日未明に決壊した説も浮上している。

米紙ニューヨーク・タイムズは5月中旬、ダム上流部の貯水池の水位が過去30年間で最も高くなり、洪水が発生する恐れがあると報じていた。米国メディアの科学記者らは6日、SNSで、貯水量の記録的な増加や、ダムの既存の損傷を根拠として、決壊はある程度の時間をかけて進んだとの見解を発表した。

一方、タス通信によると、露大統領報道官は6日、「ウクライナの破壊工作だ」と主張した。背景として、ロシアが一方的に併合した南部クリミアの水源にしているダム下流の運河を使用不能に追い込む狙いがあることなどを挙げた。

米NBCは6日、決壊の原因について、複数の米当局者の話として米情報機関が「ロシアが背後にいるとの見方に傾いている」と報じた。【6月7日 読売】
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ロシア、あるいはウクライナによる意図的な破壊、あるいは貯水量がダムの許容範囲を超えて決壊に至った・・・今の段階では何とも言い難い状況です。

ダム決壊がロシア・ウクライナどちらにどれだけのメリット・デメリットがあるかの議論もなされていますが、だからと言ってどちらの犯行とも決めかねます。

ロシア・ウクライナは当然のように相手の犯行と非難していますが、アメリカ・ホワイトハウスは6日、何が起きたのか現時点で決定的に言うことはできないとして、情報の精査を続ける考えを示しています。

【真相がわからないこの種の事件 「ノルドストリーム」爆破についても今になってウクライナ軍犯行の情報も】
この種の議論は慎重に行う必要があります。

昨年9月に起きたロシア産天然ガスを欧州に送る海底パイプライン「ノルドストリーム」の爆発について、当時はロシア側の犯行も強く疑われていましたが、欧米情報機関がウクライナ軍の爆破計画を3か月前には情報共有していたことが今になって報じられている・・・というように、水面下の真相は正直なところよくわからない面が多いからです。

****パイプライン爆破、3カ月前に察知か=ウクライナ軍が計画―米紙****
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は6日、ロシア産天然ガスを欧州に送る海底パイプライン「ノルドストリーム」で昨年9月に起きた爆発に関し、欧州の情報機関が事件の3カ月前にウクライナ軍による秘密攻撃計画を察知し、米中央情報局(CIA)と情報を共有していたと報じた。

同紙は、米空軍州兵(4月に逮捕・起訴)が通信アプリ「ディスコード」のグループ内で共有していた機密文書のコピーを入手。それによると、昨年6月にウクライナ特殊部隊のメンバー6人が潜水艇でバルト海に潜り、パイプラインを破壊する計画を立てていた。

ドイツ当局のこれまでの捜査によると、偽造パスポートを用いた6人が9月にヨットを借り、パイプラインを切断するために爆発物を仕掛けたとみられている。

パイプライン爆破を巡り、欧米メディアは「ロシア犯行説」などを伝えていたが、ロシア側は関与を否定している。ワシントン・ポスト紙の報道が事実であれば、欧米陣営は当初からウクライナ軍の工作を疑う根拠を持っていたことになる。【6月7日 時事】 
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“ウクライナ軍トップのザルジニー総司令官の下で計画は立案され、ゼレンスキー大統領は知らされていなかったということです。

パイプラインが実際に破壊されたのは去年9月ですが、計画と実際の状況には違いもあり、事前に情報が漏れたことで、ウクライナ軍が計画を見直した可能性があります。”【6月7日 テレ朝news】

ゼレンスキー大統領は自身及びウクライナの関与を否定しています。

****パイプライン爆破、関与を否定 ゼレンスキー氏****
天然ガスをロシアからドイツに輸送するパイプライン「ノルドストリーム」で昨年起きた爆発について、欧州の情報機関がウクライナ特殊部隊による爆破計画を事前に察知していたと報じられたのを受け、ウォロディミル・ゼレンスキー同国大統領は7日、そうした計画は関知していなかったと述べた。(中略)

ゼレンスキー氏は独紙ビルトのインタビューに通訳を介して応じ、大統領として命令権限があるが、「そうしたこと(命令)は一切していないし、絶対にしない」と語った。

さらに「わが国の軍も情報機関も実行していないと信じている」「われわれは100%、何も知らない」と訴えた。 【6月8日 AFP】
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まあ、この種の破壊工作は密かに行われますので、真相は部外者にはわかりません。
今回のダム決壊にしても、どちらに有利云々で軽々に判断すべきものではないでしょう。

再選を果たしたトルコ・エルドアン大統領がさっそく国際的な調査委員会を立ち上げることを提案していますが・・・・仮に調査委員会ができたとしても、あまり明確な結論は期待できません。

****トルコのエルドアン大統領 ウクライナ南部のダム破壊で国際調査委の創設提案****
トルコのエルドアン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、ダムの破壊を巡り、国際的な調査委員会を立ち上げることを提案しました。

タス通信などによりますと、トルコのエルドアン大統領は7日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、ウクライナ南部ヘルソン州にある水力発電所のダムの破壊を受けて、国連とロシア、ウクライナ、トルコが参加する国際的な調査委員会の立ち上げを提案したということです。

ゼレンスキー氏の対応についてはまだ明らかになっていません。(後略)【6月7日 テレ朝news】
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【甚大な被害 飲料水確保への影響も】
誰の犯行か? あるいは意図しない事故だったのか・・・そこらはわかりませんが、甚大な被害をもたらしているのは事実です。

****ウクライナのダム決壊、4.2万人に洪水被害リスク 国連「生計失う」*****
ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所に設置された巨大ダムの決壊について、同国の当局者らはドニエプル川沿いのロシアとウクライナの支配地域でおよそ4万2000人が洪水被害に遭う危険性があると予想した。国連の支援責任者は重大な影響が広範囲に及ぶと警告した。

ウクライナとロシアは互いにダム決壊の責任が相手側にあると非難。ウクライナはロシアが意図的に旧ソ連時代のダムを爆破するという戦争犯罪を犯したと批判し、ロシア側はウクライナがこのほど開始した反転攻勢のつまづきから注意をそらす狙いがあると主張した。

国連の人道支援責任者であるマーティン・グリフィス事務次長は安全保障理事会で、ウクライナ南部の何千人もの人々が住宅や食料、安全な水を失い、生計を立てられなくなるなどの重大な影響を受けると警告。「数日中にこの大惨事の重大さについて全容を知ることになるだろう」と述べた。

死者は報告されていないが、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は多くの死者が出た公算が大きいと指摘した。

ダムから60キロメートル下流のヘルソン市では6日に水位が3.5メートル上昇し、住民は膝まで水につかりながら避難を余儀なくされた。

冠水する危険性がある約80の集落には住民を避難させるためにバスや列車、民間車両が動員された。ロイターの記者は6日夜に市内の住宅地域の近くで、住民が避難しようとする中で砲撃の音が4回鳴り響くのを聞いた。

ドニエプル川沿いのロシア占領地域にある動物園は水没し、300匹の動物が全て死んだという。関係者がフェイスブックの公式アカウントに投稿した。

米国はダム決壊の責任の所在は明らかではないとしているが、ロバート・ウッド国連代理大使は、ウクライナが自国の領土と国民に対してこのようなことをするのは理にかなわないと指摘した。

ジュネーブ条約では、民間人に危険が及ぶためダムは紛争時の標的にしてはならないと定められている。

ウクライナのゼレンスキー大統領は定例のビデオ演説で、同国の検察当局が既にダム破壊の捜査に国際司法を関与させるよう国際刑事裁判所(ICC)の検察官に打診していると明らかにした。

一方、国際原子力機関(IAEA)はダムの貯水池から原子炉の冷却水を取水していたザポロジエ原子力発電所について、貯水池の上にある池から「数カ月」は冷却水を取水できるとの見通しを示した。【6月7日 ロイター】
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洪水による直接の被害もさることながら、飲料水への影響も懸念されます。

****ウクライナ南部のダム破壊、数十万人が飲料水入手困難に=大統領****
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、南部にあるカホフカダムの破壊により、数十万人が通常通りに飲料水を手に入れることができなくなったと述べた。

メッセージアプリ「テレグラム」に「ウクライナ最大の貯水池の一つが破壊されたのは絶対に意図的なものだ」と投稿し、ロシアを非難。一方、ロシア側は破壊の責任はウクライナにあるとしている。

ウクライナ当局によると、南部と南東部のドニプロペトロウシク、ザポロジエ、ミコライウ、ヘルソンの各州一部で水の供給に支障がでている。

クブラコフ副首相は「現在の最優先事項はロシアのテロ攻撃で影響を受けた地域に水を供給することだ」とツイートした。【3月7日 ロイター】
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結果として、ウクライナ側は反転攻勢だけでなく被害対策にも力点を置かざるをえず、その点では勢いをそがれる可能性もあります。

【クリミアは今後何年も水不足にあえぐことになるとの見方も】
一方、飲料水への影響で注目されるのは、プーチン大統領が誇る「成果」でもあるクリミアへの影響が甚大で、しかも数年の長期に及びそうだということ。

クリミアは、ウクライナ側としてはなんとか奪還する形で戦争を終えたいところですが、ロシア・プーチン大統領は、もしクリミアが危うくなればいよいよ核兵器の使用に手をかけるのでは・・・との不安も増す、そういう敏感な地域です。

****ダム決壊でクリミアが干上がる⁉️──悪魔のごとき「焦土作戦」****
<環境を汚染し、飲料水も農地も奪ったダム決壊をウクライナはダム破壊による「焦土作戦」と呼ぶ。それも「焼かれた」のは、昨日まで自国領だと言っていた土地だ>

ウクライナ政府はカホフカ・ダムの決壊で、南部の何万人もの住民が飲料水を利用できなくなると警告した。ウクライナ南部は今後何年も深刻な水不足に陥り、農業生産も大打撃を受けるとの懸念が広がっている。(中略)

米シンクタンク・ジェームズタウン財団のアナリスト、アラ・フルスカによると、カホフカ貯水池の水位は1時間に15センチのペースで低下し続けており、深刻な水不足が予想されるという。
「今後数日様子を見ないと水の動きは読めないが、非常に深刻な影響が出ることは間違いない」

ロシア軍は北クリミア運河の利用を断念
「ヘルソン州の南部とクリミア、特にクリミア半島北部では飲料水が入手できなくなる恐れがある」と、フルスカは述べている。

カホフカ貯水池はウクライナのドニプロペトロウシク州の都市クリビー・リフで使用される水の70%前後を供給しており、市当局は市民に飲料水を貯めておくよう呼びかけた。ミコライウ州とザポリッジャ州、さらに南の地域の水供給にも影響が及ぶ恐れがある。

フルスカによれば、クリミアに駐留するロシア軍も、カホフカ貯水池から取水した水をクリミア半島に供給している「北クリミア運河」がもはや頼りにならないことを認めたという。

2014年のロシアによるクリミア併合で、ウクライナはこの運河経由のクリミアへの給水を制限したが、ロシアは昨年2月のウクライナ侵攻後、カホフカ・ダム周辺地域を支配下に置き、運河を経由してクリミア半島に淡水が豊富に供給されるようにした。

しかし「カホフカ海」と呼ばれるほど広大な貯水池が決壊した今、「クリミアは今後何年も水不足にあえぐことになると、多くの専門家がみている」と、フルスカは言う。

ウクライナ環境連盟の代表で、環境問題でウクライナ政府の顧問を務めるテチャナ・ティモツコはウクライナの国営通信社ウクルインフォルムにダム決壊は「この地域全体の農業に甚大な打撃を及ぼすだろう」と語った。

「クリミア半島は今後10年か15年、ことによると永久に淡水を確保できなくなる恐れがある」と、ティモツは述べた。

浸水地域の水が引けば、被害状況が明らかになるだろうが、ダム破壊が環境に与える影響について、本誌がウクライナのアントン・ヘラシチェンコ内相顧問にコメントを求めると、自身のツイッターの7日付けの投稿を見てほしいと言われた。

ヘラシチェンコはこの投稿で「カホフカ水力発電所の破壊は環境に壊滅的な被害を与える」と警告し、後2〜4日でカホフカ貯水池の膨大な水は全て流出すると予測。一帯の国立公園や広大な土地の破壊など、環境に与える打撃を列挙している。

ヘラシチェンコはまた、ヘルソン州とミコライウ州の一部地域では何百種もの動植物が姿を消し、灌漑用水が使えなくなるためヘルソン州とザポリッジャ州のざっと150万ヘクタールの土地が穀物栽培など農業生産に利用できなくなると予測している。

ウクライナ内務省の顧問であるアントン・ゲラシュチェンコはツイートで、ドニプロ川から溢れた水は、有害物質やゴミを呑み込んで有毒かもしれないだけでなく、土壌から流出した地雷も紛れて近づくのは危険だと書いている。

ウクライナのセルギー・キスリツァ国連大使は、この「攻撃」は、退却する軍隊が敵に利用されそうなものはすべて焼き尽くしていく軍事戦略「焦土作戦」そのものだと言った。

この場合恐ろしいのは、クリミア北部も含め被害に遭った土地の大半が、ロシアが「自分のもの」だとして統治してきた土地だということだ。「大地を焼き尽くす代わりに水浸しにすることで、この土地はもはやロシアのものではないと認めたようなものだ」【6月8日 Newsweek】
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クリミアの飲料水が確保できなくなれば、この地域の統治もできなくなります。

上記記事はロシアの犯行を前提にしているようにも見えますが、逆に、ロシアが「自分のもの」とするクリミアに甚大な影響を与えるようなことをロシアが行うはずがないという主張も成り立ちます。

何べんも言うように、現段階ではダム決壊の理由はわかりません。おそらくしばらくは“わからない”状況が続くのではないでしょうか。被害状況の方は今後明らかになってくると思いますが。
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NATOの東京連絡事務所開設にマクロン仏大統領が反対

2023-06-07 22:45:55 | 欧州情勢

(英FTはフランスのマクロン大統領がNATOの東京事務所開設に反対したと伝えた(写真は5日)=ロイター【6月6日 日経】)

【アジア・中国への関与を強める方向の欧州】
北大西洋条約機構(NATO)が東京に連絡事務所を開設する方向で調整が進んでいるとの報道が。

****NATO、東京に連絡事務所設置で調整 連携体制の強化を図る****
冨田浩司駐米大使は9日、北大西洋条約機構(NATO)が東京に連絡事務所を開設する方向で調整していると明らかにした。ワシントンのナショナル・プレスクラブでの講演後、進行役の質問に答えた。日本も、現在は在ベルギー大使館が兼ねているNATO代表部を独立させる方針で、相互に連携体制の強化を図る。

冨田氏は、東京での事務所開設に関して「NATOとの連携強化の一環として協議している」と説明した。NATO側には、日本との協議を円滑に進めたり、アジアでの情報収集を強化したりする狙いがあるとみられる。

日本とNATOは、中国の軍事的な台頭を受けて、連携を強めている。岸田文雄首相は2022年6月に日本の首相として初めてNATO首脳会議に出席した。【5月10日 毎日】
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欧州としては“ウクライナ情勢においてロシアに対応しようとすると、中国も一緒に付いて来る”という世界情勢のなかで、アジア、特に中国への対応を考える必要が高まっているということでしょう。

安全保障面で中国を意識する日本としては、この地域への欧州の関与が強まることは「歓迎」でしょう。

中国としては、欧州の意向も考慮しないといけないということで「厄介」ということにも。

****NATO「東京連絡事務所」開設 中国の台湾統一への計算を複雑にさせる「意味」も****
学習院大学特別客員教授で元駐インドネシア大使の石井正文が5月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。開設される方向で動いているNATOの東京連絡事務所について解説した。

冨田駐米大使は5月9日、日本の東京に北大西洋条約機構(NATO)の連絡事務所を開設する方向で動いていると述べた。また、日経アジアも3日、NATOはアジア地域での連携を促進するため2024年中に東京に連絡事務所を開設すると報じている。

NATO東京連絡事務所 〜NATOと日米同盟が協力してアジア地域での紛争を防止するために抑止力を高めていく
(中略)
石井)報道もされていますが、この事務所は特にサイバーや偽情報、宇宙についてアジアの拠点として動く目的があります。それと同時に、NATOと日米同盟が協力し、この地域での紛争を防止するための抑止力を高めていく。それを具体化する動きも進める必要があると思います。その意味でも、このような事務所ができることは重要だと思います。

ウクライナ情勢によってロシアについた中国への問題意識が高まった
飯田)ヨーロッパの国々も含めて、東アジア・インド太平洋地域への関心が高まっているということですか?
石井)その通りです。ウクライナ紛争が起きた年の夏にNATO首脳会合が行われましたが、ロシア一色になると思ったら、NATO側は「中国が体制上の挑戦を突きつけている」と言及しました。インド太平洋とヨーロッパの状況は切り離せないということを、NATO側が明確に表明したのです。(中略)

背景としては、ウクライナ情勢においてロシアに対応しようとすると、中国も一緒に付いて来るということです。そういう意味で、逆に中国に対する問題意識が高まってしまったのだと思います。

アジアと連携していくNATO
石井)いまヨーロッパは、自由で開かれたインド太平洋のいろいろなコンセプトもたくさんつくっていますし、連携がますます強まっていると思います。

飯田)各国がインド太平洋戦略を出してきている。去年(2022年)のNATO首脳会議には、日本も含めてインド太平洋の国々がオブザーバーとして参加しました。

石井)日本、韓国、豪州、ニュージーランドです。今年もそうなると思いますが、そういう形でアジアと連携していくのだと思います。

ヨーロッパの国々と共同で軍事演習などを行えば、中国は「NATOも台湾有事に関与するのではないか」と考えざるを得ない 〜計算を難しくさせる
飯田)他方、フランスのマクロン大統領は先日の訪中後に、台湾情勢について、ヨーロッパは米中のどちらか一方に従属するべきではないというようなことをインタビューのなかで発言していました。そういう意識は未だに残っているのでしょうか?

石井)まったくないとは言えないでしょうね。距離的に遠いですし、普通に考えれば、彼らにとって最も大きな脅威はロシアですから。こちらは物理的に、危機に際してどれだけヨーロッパ諸国が協力してくれるのかどうか、期待値を調整する必要はあると思います。

ただ、平和なときに彼らがたまに来て、共同訓練などを行うと、中国にすれば「もしかすると場合によってはNATOも台湾有事に関与するのではないか」と思わざるを得なくなります。計算を複雑にするという意味でも、ヨーロッパの関与は非常に大きいと思います。

飯田)確約ということではなく、「どうなるかわからないぞ」とするのが大事ですか?
石井)そうです。計算を難しくするということがキーワードだと思います。そういう意味では、NATOとの関係は非常に重要です。

飯田)東京連絡事務所の報道が出た際、中国外務省が反応しているということは、本当に嫌がっているのですか?
石井)そうだと思います。去年もドイツやオランダが来て共同訓練を行いましたが、中国はそれがとても嫌なのです。我々からすれば、必ずしもドイツがいつも来るとは思わないのですが、中国からすればそれも可能性として考慮しなければならない……これはとても面倒なことだと思います。そういう意味でNATO・ヨーロッパの関与は重要です。

飯田)去年、バイエルンというドイツの船が来たり、その前はイギリスの空母が来ました。
石井)フランスは南太平洋にニューカレドニアなどの海外領土がありますし、イギリスも伝統的にアジアに近いですから、彼らは関与してくると思います。しかし、それ以上どこまで関与してもらえるかどうかは、NATO事務所などを通じて今後、具体化していくことになると思います。

アジアの国々とは「同志国」として実質的に協力することが大事
飯田)いろいろな関係を重ね合わせることが大事になりますか?
石井)そうです。よくアジアのスパゲティ・ボールと言われますが、それぞれ事情が違うので、さまざまなネットワークが広がっていますし、そうならざるを得ないのではないですかね。1つで「すべてNATO」というわけにはいかないと思います。アジアの事情はそれぞれ違いますから。

飯田)NATOのように集団的自衛権で守り合うため、スクラムを組むようなことは難しいですか?
石井)難しいです。個別の国の状況に配慮する必要があると思います。スパゲティ・ボールですから。

飯田)「同盟まではいかないけれど」というような、アンニュイな関係が必要なのですか?
石井)同志国はまさにそれがキーワードですね。同盟ではないのだけれど、同じ方向を向いていて、実質的に協力する。それが大事だと思います。【5月11日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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【中国刺激を懸念するマクロン仏大統領は反対】
この動きに「異論」を唱えているのが、上記記事で台湾情勢に関する発言が問題視されているフランス・マクロン大統領。 

マクロン大統領は訪中して習近平国家主席の歓待を受けた4月、欧州は台湾を巡る危機を加速させることに関心はなく、米中の双方から独立した戦略を追求すべきだとの、実質的に中国の行動を容認することにもなるような考えを示し注目を集めました。

台湾問題で「アメリカに追従してアメリカに合わせたり、中国の過剰反応に付き合ったりするのは最悪だ」と強調したとも。

その後の中国にすり寄っているなどとの批判にも、「(アメリカの)同盟国であることは下僕になることではない。(中略)自分たち自身で考える権利がないということにはならない」と語り、自らの発言の妥当性を主張しています。【4月13日 BBCより】

そのマクロン大統領は、NATOの連絡事務所を東京に開設することにも反対の意向を示しています。

****マクロン大統領、NATO東京事務所開設に反対…中国との関係悪化懸念か****
英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は5日、フランスのマクロン大統領が、北大西洋条約機構(NATO)の連絡事務所を東京に開設することに反対の意向を示したと報じた。

NATOは東京に拠点を設け、インド太平洋地域の安全保障協力を広げる狙いがあったが、マクロン氏は中国との関係悪化を懸念したとみられる。

実現すれば、アジア初となる連絡事務所の開設は、NATO首脳会議の全会一致の賛同が必要となる。仏政府が反対すれば、開設に向けた調整は難航必至だ。

同紙によると、マクロン氏は先週行われた会合で、「NATOの活動範囲を拡大すれば、我々は大きな誤りを犯すことになる」と発言した。協議に詳しい関係者によると「フランスはNATOと中国の緊張を高めることに消極的だ」という。

マクロン氏は4月に中国を訪問した際、台湾情勢に関して「米国に追随するのは最悪だ」などと語り、波紋を呼んだ経緯がある。【6月6日 読売】
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日本では、こうしたマクロン大統領の中国重視の言動への苛立ちの声も噴出しています。

****マクロン仏大統領のNATO東京事務所開設反対で、日米と欧州の間で分断が進む懸念も****
ジャーナリストの佐々木俊尚が6月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。フランスのマクロン大統領が反対しているNATO東京事務所の開設計画について解説した。

マクロン仏大統領がNATO東京事務所の開設に反対 〜開設には全会一致が必要
イギリスのフィナンシャル・タイムズは6月5日、フランスのマクロン大統領が北大西洋条約機構(NATO)の東京事務所を開設することに反対の意向を示したと報じた。NATOは東京に拠点を設け、インド太平洋地域の安全保障協力を広げる狙いがあったが、マクロン氏は中国との関係悪化を懸念したとみられる。

(中略)
佐々木)4月は中国へ行って習近平氏と会談し、台湾情勢に関して「ヨーロッパは米中に追随しない方がいい」というような発言をしました。西側諸国は「何を言っているのだ」とみんなイライラしていましたが、またかという感じです。

飯田)その間にG7広島サミットがありましたが。
佐々木)そのときは何も言わなかったくせに。
飯田)「言うのなら、そこで言え」と思いますよね。直前にNATOの事務総長などが「東京事務所をつくる」という話をしていました。

佐々木)ドイツやヨーロッパの西側諸国はこぞってウクライナ支援に賛同していて、台湾情勢に関しても、アメリカ・日本と同調して向き合っていこうという方向です。でもフランス人はへそ曲がりなので、「お前らは勝手にやれよ。俺は中国と仲よくするから」という感じですよね。

飯田)飛行機も売りましたし。
佐々木)気持ちはわからないでもないけれど、もう少しグローバルな国際情勢を考えて欲しいですね。

FOIPとNATOをつなげて世界的に広がる西側諸国の連帯するネットワークをつくる
佐々木)NATOと日本の関係に何の意味があるかと言うと、日本は第2次安倍政権のころから、「自由で開かれたインド太平洋」戦略をスタートさせた。日本から東南アジアを経てインドに至るまでの広いエリアを、1つの西側諸国のつながりとして捉えようという考え方を提案しています。
飯田)FOIPですね。

佐々木)そうは言っても、ロシアによるウクライナ侵攻が起き、インド太平洋だけでは西側の自由な国々を守れないので、日本はウクライナ問題に積極的にコミットしていくことになった。
飯田)日本も。

佐々木)一方では、ヨーロッパの国にも台湾情勢をきちんと見て欲しい。実際、イギリスはこちらに艦船を派遣しました。
飯田)空母打撃群を。

佐々木)ヨーロッパの北大西洋と、自由で開かれたインド太平洋を一列につなげて、世界的に広がる西側諸国の連帯するネットワークをつくろうというのが今回の狙いです。(後略)【6月7日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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【フランス外交の基本姿勢ではあるものの・・・】
上記記事での“へそまがり”云々はいささか感情的に過ぎます。
“欧州はどこかの国に従うのではなく、自分たちの意思決定に基づく外交を行う”というのはフランス外交の基本ですし、マクロン大統領の基本姿勢です。

ロシアや中国に対しても、間違っていることについては批判はするけど、いたずらに排除したり、追い詰めたりするのでなく対話で解決の糸口を見つけていくべきだという考えです。

ただ、現在のウクライナや台湾をめぐる国際情勢の中でのマクロン発言は、結果的にロシア・中国容認的な意味合いを帯てしまうところもあって、欧米諸国の協調で対応していこうとする流れに棹さすことにもなっています。

中国はNATOに対し「頭を冷静に保つべきだ」とクギを刺しています。

****中国、NATOに対し「頭を冷静に」 日本事務所計画で****
中国外務省の汪文斌(おうぶんひん)報道官は6日の記者会見で、フランスのマクロン大統領が北大西洋条約機構(NATO)が検討している日本連絡事務所の開設計画に反対していると報じられたことに関し、「アジアは北大西洋の地理の範疇(はんちゅう)になく、アジア版のNATOの創設も必要ない」と表明した。

汪氏は、NATOに対し「この問題において頭を冷静に保つべきだ」と発言。日本側に対しても「地域の安定と発展の利益に合致する正しい判断を行うべきだ」とクギを刺した。

中国は、米国が主導する対中包囲網が自国周辺で影響力を増すことを強く警戒している。汪氏は「大部分の地域国は、同地域で各種の軍事集団が寄せ集められることに反対している」と述べ、NATOに対する警戒姿勢をあらわにした。(後略)。【6月6日 産経】
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現実問題としては、マクロン大統領が翻意しない限り、話は先に進みません。
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ロシア  プーチン支配体制を揺るがす可能性があるものは・・・ロシアの軍閥割拠の現状

2023-06-06 23:36:31 | ロシア

(【2022年10月20日 NHK】)

【反体制派指導者ナワリヌイ氏の釈放を求める抗議行動 しかし、締め付けは強化される状況】
ウクライナの反転攻勢が始まっているのかどうか・・・各地で動きが報じられていますが、ウクライナ側・ロシア側の情報が錯綜し、情報合戦の様相も呈するなかで、実際のところはよくわかりません。

一方、「特別軍事作戦」を展開するロシア・プーチン体制の苦境・混乱などもよく報じられていますが、プーチン体制への批判・攻撃の主体としては三つほどあります。

ひとつは、拘束されているナワリヌイ氏などの国内の反プーチン勢力。

****ロシア20都市以上で100人超を拘束 ナワリヌイ氏の釈放求め****
ロシアの20以上の都市で4日、収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)の釈放を求める抗議の声が上がり、100人以上が拘束された。ロシアの人権団体「OVDインフォ」が発表した。最近のロシアでは抗議活動が厳しく取り締まられており、拘束者数は2022年秋以降で最多規模となった。

ナワリヌイ氏は横領罪などで懲役11年6月の実刑判決を受けて服役中。4日が誕生日だったことから、ロシア各地で同氏の収監に対する抗議活動が起きた。

OVDインフォによると、5日午前の時点で109人が拘束されたという。OVDインフォのウェブサイトには「ナワリヌイ氏に自由を」「政治犯の釈放を」などと書かれた紙を掲げた人の写真が掲載されている。

ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでは4月、カフェが爆発して著名な軍事ブロガーが死亡する事件が起きた。捜査当局はナワリヌイ氏が爆発に関与したとの報告書を発表。同氏が新たな罪状に問われ、刑期が大幅に延長されるとの観測も浮上している。4日の抗議活動では、このような動きに反対する声も上がったとみられる。

ロシア政府は22年3月、ウクライナで始めた「特別軍事作戦」に絡んで法律を改正。ロシア軍を中傷したり、虚偽情報を流したりしたとみなす言動を罰する規定も盛り込んだ。そのため現在のロシアでは、特別軍事作戦に抗議することが難しくなっている。

それでも4日の抗議活動の参加者には、特別軍事作戦への反対を表明した人もいたようだ。OVDインフォがサイトに上げた拘束者の写真の中には、英語で「ストップ」と書かれた紙を掲げる男性の姿も見られた。

OVDインフォによると、22年2月に特別軍事作戦が始まって以降、延べ1万9500人以上が拘束されてきた。同年9月には「部分的動員令」への抗議活動が相次ぎ、直後には千数百人以上が拘束された。4日の拘束者数はそれ以降で最も多い規模となった模様だ。【6月5日 毎日】
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刑法の改正により国家反逆罪の最高刑が終身刑(ロシアでは死刑はありません)になりました。これまでは禁錮12~20年と50万ルーブル(約80万円)以下の罰金だったことからすれば、相当に厳しくなっています。

国家反逆罪の裁判は非公開で、具体的な罪状や審理のやりとりも公表されていません。今後侵攻に反対する反政権派らへの弾圧が一段と厳しくなる恐れがあるなかでの、今回の抗議行動。

具体的な成果が見込めないだけに、行動を呼び掛ける側近は安全な国外にいることもあって、ナワリヌイ氏陣営内部からも「危険過ぎる」との批判もあるようです。

****ナワリヌイ氏釈放要求、45人拘束=侵攻下で異例デモ、「危険」と異論―ロシア****
(中略)デモを計画した側近らは既に国外脱出している。強制排除や拘束の対象となるのは一般国民だとして、ナワリヌイ氏陣営内部から異論も出た。

陣営の極東ハバロフスク支部の元トップは「(側近らが)国外にいながら国内のロシア人に参加を呼び掛けるのは、非倫理的であるだけでなく危険だ」と苦言を呈した。【6月4日 時事】 
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このような状況で、反政府勢力の活動が体制を揺るがすほどに拡散することは想像できません。

【パルチザン的な武装反政府組織の破壊活動・テロ 一定に混乱させる効果はあるものの、それ以上のものでもない】
プーチン体制への脅威として考えられる二つ目の主体は、ウクライナと連動していると思われる、ロシア人義勇兵の団体「自由ロシア軍」などのパルチザン的な武装反政府組織の存在。最近国境付近での破壊活動をおこなっているようにも報じられています。

****ロシア特殊作戦軍がベルゴロド州に派遣、パルチザン警戒 ウクライナ主張****
ウクライナの公的機関「国民レジスタンスセンター」は2日、ロシア特殊作戦軍の部隊がウクライナと国境を接するベルゴロド州に派遣されているとの見解を示した。「パルチザン」活動を警戒しての動きだという。

同センターは「パルチザン運動に対抗する必要性から、ロシア特殊作戦軍第322センター『セネシュ』の部隊がベルゴロド州に到着した」と述べた。

そのうえで「ロシアはパルチザンを恐れるあまり、この精鋭部隊の全活動を緊急停止させ、ベルゴロド州の国境地帯にある集落に配置した。部隊の任務はロシア国境地帯での破壊行為に対抗する活動を実施することにある」としている。

CNNはこの主張を独自に確認できていない。

ロシア国防省はこれに先立ち、ベルゴロド州の目標を攻撃する場面とされる映像を公開。ロシアの戦闘用航空機が「後退するウクライナの陣形や敵の予備部隊に9回の攻撃を加えた」と述べていた。

ベルゴロド州ではグラドコフ知事が2日、SNSテレグラムへの投稿で、砲撃により女性2人が死亡したと明らかにした。

グラドコフ氏はウクライナ軍が砲撃を実施したと非難している。ウクライナ側はこの主張についてコメントしていない。【6月3日 CNN】
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ウクライナ側の反転攻勢に連動して、ロシアの後方攪乱の役割があるのでしょう。

より直接的には、5月30日未明、8機の自爆ドローンがモスクワ南西部を攻撃、うち2機がモスクワ郊外ノボオガリョボの大統領公邸近くで撃墜された件について、反政府組織によるプーチン暗殺を狙ったものとの指摘もあります。

ロシア側の自作自演説を含めて真相ははっきりしませんが、反政府組織による攻撃であった可能性は大きいものの、実際に「暗殺」を意識したものとも思えません。そこまで簡単に「暗殺」できるような状況でも、それを可能にするほどの攻撃でもないでしょう。

ただ、プーチン体制、プーチン大統領自身に対する「攻撃できるぞ!」とアピールし、その権威を失墜させる効果は期待できるかも。

いずれにしても、こうしたパルチザン的な反政府組織の破壊活動・攻撃でロシアの軍事作戦、プーチン支配体制が混乱をきたすことがあっても、それ以上に大きく揺らぐこともないでしょう。

【ワグネル・プリゴジン氏やチェチェン共和国のカディロフ首長など“私兵”を擁する「軍閥」の動向】
プーチン体制にとっての脅威の三つ目は、権力内部の抗争。
その象徴ともなっているのが民間軍事会社ワグネル、その創設者のプリゴジン氏の言動です。

プリゴジン氏はこれまでも、びっくりするぐらいに激しい言葉を使ってショイグ国防相やロシア軍幹部を批判・・・というより罵倒してきましたが、ロシア正規軍によって爆弾を仕掛けられたも主張しています。

****ロシア軍、ワグネル部隊に対し爆弾仕掛ける=プリゴジン氏****
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は2日、ロシア軍がワグネル部隊に対し爆発物を仕掛けたと非難した。

プリゴジン氏はメッセージアプリ「テレグラム」に対し、同氏の隊員が、ロシア国防省当局者が後方地域に数百個の対戦車地雷を含む様々な爆発物を仕掛けた場所を数十カ所発見したと述べた。なぜ仕掛けたのかという質問に対し、職員は上官の命令だと答えたという。

プリゴジン氏によると、仕掛けられた場所は後方地域であるため、敵に向けた爆弾ではなかった。つまり、これらはワグネルの先頭部隊を迎え撃つためのものであったと考えられる。ただ、いずれも爆発せず、けが人も出なかったという。

その上でプリゴジン氏は「これは公開むち打ち刑のようなものだったと推測している」とした。【6月3日 ロイター】
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更には、ロシア軍により攻撃を受け、ロシア軍兵士を拘束したとも。

****ワグネル、ロシア兵を拘束 正規軍に砲撃受けたと主張****
ロシアの民間軍事会社ワグネルは4日、ウクライナの占領地でロシア正規軍に同社の部隊が攻撃を受けた後、正規兵1人を拘束したと明らかにした。

ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏はここ数か月、ウクライナ侵攻に伴う過剰な戦死については正規軍上層部に責任があると非難してきたが、正規兵の拘束を発表するのは初めて。

4日夜にプリゴジン氏が投稿した5月17日付のワグネルの「報告書」によると、ウクライナ東部の占領地で正規軍が「ワグネル部隊の後方の道路に地雷を敷設」した。ワグネルの戦闘員が地雷を除去していたところ、「ロシア国防省(正規軍)の拠点から砲撃された」という。

プリゴジン氏はその後、拘束した正規兵とされる男性を映した動画をテレグラムに投稿。鼻に打撲の痕が見える男性は画面外の人物から尋問を受け、ロシア軍第72旅団の中尉と名乗り、「ワグネルの車両を撃った」「個人的に気に入らないからだ」と話している。

男性の拘束期間や解放条件は明らかにされていない。 【6月6日 AFP】
********************

実際にワグネルとロシア正規軍の間でそのような具体的な衝突があるのかわかりません。また、ロシア軍・プーチン氏周辺は、いつまでこのようなプリゴジン氏の「勝手な言動」を放置するのか・・・という疑問も。
これが実力者プリゴジン氏でなければ、確実に国家反逆罪で終身刑でしょうし、その前に“消される”でしょう。

こうした権力内部の闘争がどこまでいくのか。

前出の反政府組織の活動が活発化しているベルゴロド州に関して、プリゴジン氏は「ワグネルが守る」とも発言していますが、ロシア軍内部にはワグネルがベルゴロド州から更にモスクワに軍を進めるのでは・・・という、「クーデター」に対する危機感もあるようです。

****プリゴジン氏「ワグネルがベルゴロド州守る」発言で波紋 ロシア軍関係者は警戒****
敵対勢力による攻撃が続くウクライナと国境を接するロシア西部ベルゴロド州を巡り、プリゴジン氏が「ワグネルが守る」と発言し波紋が広がっています。

民間軍事会社「ワグネル」を率いるプリゴジン氏は3日、SNSで「我々は招待も許可も待たずにベルゴロドに行き、ロシア国民を守るつもりだ」と述べました。

これに対してプリゴジン氏と対立関係にあるロシア軍の元大佐イーゴリ・ストレルコフ氏は5日、ワグネルがロシア軍の許可も得ずにベルゴルドに部隊を進めれば、さらに「ドローンから守るため」と称して、モスクワまでやってくる可能性があると警戒感をあらわにしました。

また、チェチェン共和国のカディロフ首長は4日、SNSにベルゴロド州の状況を懸念していると投稿し、「国民を守るために最高司令官のいかなる命令に対しても準備ができている」とプーチン大統領に訴えました。【6月5日 テレ朝news】
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軍事力を有するチェチェン共和国のカディロフ首長の動きも注目されるところです。
まるで、軍閥割拠するような状況にも。

今のところはワグネル・プリゴジン氏とチェチェン共和国のカディロフ首長は対抗関係にあるようで、そうした関係はクレムリンの意図したものとの指摘も。

****ロシア軍事機構に亀裂 軍閥リーダーの確執あらわ****
ワグネルとチェチェンの指導者が対立、クレムリンの策略との見方も

ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトからロシアの民間軍事会社ワグネルが撤退し始めたことで、同国の最も強力な軍閥リーダー2人の間で高まる確執が明るみに出た。予想されるウクライナの反攻作戦を前にしてウラジーミル・プーチン大統領の軍事機構に亀裂が生じていることが露呈した。

ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏とロシア南部チェチェン共和国の指導者ラムザン・カディロフ首長の対立は、ロシア政府にとって大きなトゲであるプリゴジン氏に初めて公の場で向けられた批判の一部を浮き彫りにした。

ワグネルの部隊はこの数カ月間でロシアのためにバフムトを徐々に占領し、プリゴジン氏の評判は高まったが、その間も同氏はロシア国防省が適切な弾薬を提供していないと非難し続けた。

今週に入ってワグネルはバフムトからの撤退を開始。カディロフ氏の軍隊と入れ替わる中で、プリゴジン氏はドネツク州全体をチェチェン軍が支配する能力にケチを付けた。ロシアは同州を「ドネツク人民共和国(DNR)」と呼び、自国の支配下にあるとして一体性を主張する。だが領土をまだ完全に掌握したわけではない。

「個々の町や村の解放について言えば、彼らにやり遂げる戦力はあると思う。だがDNRを全部解放できるほどの戦力ではない」。プリゴジンはテレグラム・チャンネルで流した声明の中でそう述べた。「彼らが占領するのは一定の地域だろう」

この発言に対し、カディロフ氏の忠実な支持者の間から非難が巻き起こった。例えば、長年協力関係にあるアダム・デリムハノフ氏だ。同氏は自分たちの能力に関する誤解を解くため、プリゴジン氏と直接会うことも辞さないとした。

「エフゲニー(・プリゴジン)よ、言うまでもなく、お前は分かっていないし、分かる必要もない」。デリムハノフ氏はテレグラムに投稿した動画でそう述べた。「いつでも連絡をよこせ。場所を指定しろ。直接会って何が分かっていないのか説明してやる」

カディロフ氏のもう1人の忠実な支持者であるマゴメド・ダウドフ氏は、プリゴジン氏はロシア国防省に不満をぶちまけ、住民のパニックを引き起こしていると批判した。

カディロフ氏の軍隊(正式には国家警備隊の一部だが、同氏が直接指揮する)が配備されることにより、プリゴジン氏は戦場でも、より広い意味ではロシア社会においても、立場が弱まる可能性がある。

ワグネルの部隊を交代させるのにカディロフ氏の戦力を用いるのは、2人の軍閥リーダーの対立をエスカレートさせるロシアの策略だとも考えられる。昨年ロシア正規軍が前線の強化に繰り返し失敗し、ウクライナ軍の大幅な前進を許した際には、2人が協調してロシア国防省を批判していた。

「クレムリン(ロシア政府)には次のような狙いもあるかもしれない。カディロフ氏とワグネルを率いる資本家エフゲニー・プリゴジン氏の関係にくさびを打ち、チェチェン軍に対するロシア連邦政府の権威を改めて強調することだ」。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は今週そう指摘した。

2007年にチェチェン指導者に就いたカディロフ氏は、プーチン氏からの支持に完全に依存している。今回明るみに出た確執は、プーチン氏の忠実な歩兵という自身の立場を取り戻すチャンスとなる。(中略)

ウクライナが南部と東部のロシア支配地域の奪還を目指す大規模な反攻作戦に出ると予想されるさなかに、今回の確執が浮上した。 カディロフ氏の軍隊が前線で活動するのはほぼ1年ぶりとなる。【6月2日 WSJ】
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上記記事でカディロフ氏に関し“プーチン氏の忠実な歩兵”という表現をしていますが、これは疑問。
確かにカディロフ氏はこれまで露骨なぐらいにプーチン氏を称賛していますが、それは一方でチェチェン内部は自分に任せろ、ロシア軍にも手出しはさせないという一種の「契約関係」を示すもので、カディロフ氏が内心プーチン氏をどのように思っているかは定かではないですし、ロシア軍とは明らかに一線を画しています。

仮に、現在ワグネル・プリゴジン氏とチェチェン共和国のカディロフ首長が対抗関係にあったとしても、「軍閥」の常として、いつでも状況は変わります。両者は反ロシア軍ということでは共通点があります。

両者が協調してモスクワに向かえば・・・・そこまで、プーチン支配体制及びアメリカに対抗する核戦力を有するロシア軍は空洞化しているのか・・・というのは、今のところは“想像上のドラマ”ですが、そんなドラマのようなことを想像したくもなるような軍閥割拠の現状でもあります。

ドラマついでに、もしそういったことが起きたときのことを考えると、ワグネル・プリゴジン氏にしてもチェチェン共和国のカディロフ首長にしても、プーチン大統領はロシア統治のための「神輿」として担ぎ続けるのでしょう。 排除するのは、あくまでも主戦強硬派と敵対するプーチン周辺の政治勢力やロシア軍幹部でしょう。

もちろん、プーチン大統領が同意すれば、あるいは、プーチン大統領に利用価値がある限り・・・という前提での話ですが。

そして主戦強硬派の両者とも、ウクライナに関しては“核兵器使用の自制”といったことにはあまり関心なさそう。ロシア勝利のためなら何でもあり・・・といった感じも。

話がどんどん“想像力豊か”なものになってきましたので、これくらいに。
一番目のナワリヌイ氏などの反政府勢力、二番目のパルチザン的な武装反政府組織よりは、三番目の軍閥の割拠・確執といったあたりが、プーチン支配体制にとっては一番の脅威となりうるものでしょう。
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韓国  引きこもりの若者に最大で毎月7万円弱を支給する引きこもり対策

2023-06-05 22:53:34 | 東アジア

(「若者は立ち直れる」と言われてきたが、その言説にも変化が(ソウル市内) KIM HONG-JIーREUTERS【6月2日 Newsweek】)

【引きこもり状態の若者 ソウルに13万人 全国に61万人】
日本でも「引きこもり」は大きな社会問題のひとつですが、事情は韓国でも同じのようです。

****ぼっち・社会的引きこもり状態の韓国青年、ソウルだけで13万人****
韓国19-39歳の青年調査、就職失敗などで一人っきりの生活選択

ソウルに住む満19-39歳の青年の4.5%に相当する約13万人が孤立(独りぼっち)・隠遁(いんとん、社会的引きこもり)状態と思われるとする調査結果が出た。

孤立・隠遁青年の55.6%はほとんど外出せず、主に家の中だけで生活していることが分かった。このうち、主に家の中だけで生活する期間が5年以上と長期化した青年の占める割合も28.5%に達した。

ソウル市は、昨年5月から12月にかけ、満19-39歳の青年が居住する5221世帯の青年6926人を対象にオンラインで実施した孤立・隠遁青年の実態調査結果を18日に発表した。地方自治体レベルで孤立・隠遁青年の実態調査を行ったのは今回が初めてだとソウル市は説明した。

調査の結果、ソウル市に居住する青年のうち孤立・隠遁青年の占める割合は4.5%だった。ソウル市は「これをソウル市の青年の全人口292万人に換算すると、約12万9000人が孤立・隠遁状態にあると推定される」とし「全国に拡大すれば、約61万人に上る」と明らかにした。

孤立・隠遁青年とは、「孤立青年」と「隠遁青年」を合わせた概念である。

ソウル市は、情緒的・物理的孤立状態が6カ月以上続いた場合を孤立青年と分類する。
情緒的孤立とは周囲に助言を求めたり頼んだりすることができる知人が全くいない状態をいい、物理的孤立とは家族や親戚以外の人との対面交流が年に1-2回以下の状態をいう。

隠遁青年は、外出がほとんどない生活が6カ月以上続き、最近1カ月以内に職業・求職活動を行わなかったケース、と規定した。ソウル市の関係者は「隠遁青年のほとんどが同時に孤立青年でもあり、この二つを分離せず、政策上共に支援していくことにした」と話した。【1月29日 朝鮮日報】
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【月額7万円弱を支給する.壮大な社会実験】
この状況に、韓国政府は対象者に月額7万円ほどを支給し、併せて就学支援やカウンセリング、職業訓練の拡大するという「異次元のひきこもり対策」を行うとか。

****月額7万円の「韓国版・引きこもり対策」...壮大な社会実験が始まる****
<支援金を配って社会復帰を促すアプローチは、孤立に苦しむ若者を救い、広がる閉塞感を打破できるのか>

青少年の引きこもり問題をめぐって、韓国で壮大な実験が始まろうとしている。孤独な若者に定期的に生活費を支給することで社会復帰を促そうというアプローチだ。

女性家族省は4月半ば、引きこもりの若者に最大で毎月65万ウォン(約6万9000万円)を支給する方針を発表した。職業訓練などのサポートも提供するという。

世界有数の経済大国となった韓国では、寿命が延び、生活水準も上昇している。
今回、引きこもりという少数派の弱者への支援を決めたのは、この社会問題が深刻化していること以上に、社会福祉制度の成熟を物語っていると専門家らは指摘する。

女性家族省は9~24歳を対象に、就学支援やカウンセリング、職業訓練の拡大も打ち出している。自傷行為をはじめ若者を取り巻く危険な状況は以前から指摘されてきたが、そうした懸念に引きこもり問題を結び付けた形だ。(中略)

「引きこもりの若者は、不規則な生活や栄養の偏りにより身体の成長が遅れやすい。また、社会的役割の喪失や適応の遅れなどの理由で、鬱病などの精神的困難に直面する可能性が高い」と、同省は指摘している。

韓国が直面する課題は引きこもりだけではない。2020年に5184万人でピークに達した人口は、22年には5163万人にまで減少。

22年の合計特殊出生率は0.78で、出生数は1970年の統計開始以降最も少ない24万9000人だった(国連は人口維持のためには出生率2.1が必要としている)。

尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は今年3月、出生率の低下は「重要な国家的課題」と語った。韓国は過去20年間、対策に巨額を投じてきたが、隣国の日本と同じくこの問題は根強く残っている。

コロナ禍で孤立が深刻化
一方、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は昨年、17.5%を記録。25年に20.6%、70年には46.4%に達すると予測される。15~64歳の生産年齢人口が減少するなか、社会保障の負担は膨らむ一方だ。

韓国政府によれば、引きこもりの若者は「一定期間以上、外部と切り離された狭い空間で生活している」。
彼らは学校でのいじめや学業のストレス、家庭内暴力、一般的なケアの不足などさまざまな要因によって「通常の生活を送ることが著しく困難」な状態にある。

ソウル市当局の1月の発表によれば、市内に住む19~39歳の4.5%に当たる12万9000人が、主に失業や社会的・心理的困難が原因で孤立した生活を送っている。
そのうち、引きこもりが5年以上続いている人が3分の1近く、10年以上引きこもっている人も11.5%いた。

同市が若者5513人を対象に行った調査では、半数以上が「引きこもりを解消したい」と答えており、同様の状況にある人は韓国全土で61万人に上ると推定される。

高齢者の社会的孤立については長年、研究がされてきたが、コロナ禍にステイホームや「社会的距離」が奨励された結果、孤立する人々は幅広い年代に拡大した。

韓国統計庁によれば、昨年に孤独を感じた人々は韓国全体の20%に上る。
「ここ30~40年の急速な産業化や家族の規模の変化、労働市場の見通しなども社会的孤立の理由かもしれない」と、米ブルッキングス研究所のシニアフェローで韓国部長を務めるアンドルー・ヨは指摘する。

「これまで政治家が働きかけをしてきたのは高齢者層だったが、総人口の上層部に人口が集中しているままでは経済政策が安定しない。現在の政府は、未来についてもっと考える必要があると理解している」と、ヨは言う。

「引きこもり」か「寝そべり」か
「韓国社会全体もそうだが、特に政府と保守政党が、若者にも支援が必要だと訴えていくことが一つの手だ。だが支援金は長期的な解決策にはならない。政府は若者を社会に取り込み、社会的にも気持ち的にも幸せに生きられる政策を整備すべきだ」

政策立案者たちは、統計上の数字をもっと掘り下げ、現状を見極めることが必要かもしれない。今の若者の状態は引きこもりなのか、それとも数年前から中国社会で広がる、無理に頑張らない生き方を指す「寝そべり主義」なのか。

今年3月、中国で16~24歳のうち無職者は20%近くに上り、同時期の韓国の若者の無職率7.2%を大きく上回った。
韓国の指導者たちは、社会の変革に伴う伝統的価値観の大きな変容、つまり集団主義よりも個人主義を、干渉より自由を選ぶ人がいる社会を受け入れる必要がある。

韓国政府の推定では21年には単身世帯の数が716万に上った。この数は全体の33.4%と、05年の20%より増加しており、50年には39.6%と40%近くになる見通しだ。米国勢調査局によれば昨年のアメリカにおける単身世帯は全体の29%だった。(中略)

非営利団体アジア・ソサエティー・コリアセンターのミシェル・シヒュン・ジューは、尹の路線は若者支援という公約を守り、大統領としての評価を高めることになるかもしれないと語る。

「韓国の若者には、未来を形作ることに参加できなかったために未来に悲観的になっている人もいる」と彼女は言う。

「一般社会も以前に比べて、これは誰かが介入すべき問題だと認識していると思う。昔だったら、『彼らは若い。彼らは立ち直れる』と言われていたところだが」

ジューは、一つの解決策として、政府と次世代が高校や大学で交わる機会を増やすことを挙げる。
「自分たちが孤独を感じていると気付いてすらいない状況だと、若い学生が声を上げることがとても難しい。たとえ彼らが統計上はそうカウントされていたとしても」【6月2日 Newsweek】
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「すべての国民に、政府が生活に足る一定額を無条件で支給する」というベーシックインカムのひとつの変形のようにも。

問題点もベーシックインカムの議論と同じで、労働意欲を阻害することにならないか、財源をどうするのか・・・というあたりでしょう。

いずれにしても、結果が注目される「壮大な社会実験」です。

【根底に格差・競争社会】
ただ、おそらく「引きこもり」の根源は韓国の格差社会・競争社会にあるようにも思えますので、そこが変わらないと・・・という感も。

前政権時代のかなり古い記事ですが、たまたま目についたので。事情は今も同じでしょう。

****なぜ韓国の若者は失業に苦しみ続けるのか****
自殺するために勉強したんじゃない――。2016年12月、韓国の首都ソウルで朴槿恵(パク・クネ)前政権を糾弾する反政府デモを取材したとき、ある若者が叫んだ言葉だ。

韓国の自殺率はOECD加盟国のなかで最も高いが、2011年以降は政府の対策などもあってか全体としては減少傾向にある。ただ20代は例外で、今年の自殺予防白書でも前年と比べて唯一減少しなかった世代と指摘されている。

彼らが自殺に追い込まれる背景の1つには、激しい入試競争を経て大学を卒業しても職にありつけず、将来への経済的不安があるためとされている。実際、韓国の20代の失業率は全体の10%近くもあり、全体の2.5倍以上という水準が長らく続いている。

なぜ韓国の若者は失業に苦しみ続けるのか。(中略)

公約として掲げられた数々の雇用対策は、文政権発足2年半を経て、どのような成果があったのか。韓国の雇用・労働問題に詳しい駿河台大学の朴昌明(パク・チャンミョン)教授に、本誌・前川祐補が聞いた。

* * *
――韓国の若者の失業率はかなり高い。
韓国統計庁によると、2018年の失業率は3.8%であるのに対し、青年失業率(15~29歳)は9.5%と顕著に高い。
定職を持たないフリーター、就職浪人、ニートなど実質的な失業者を含めて算出すると失業率はさらに高くなる。

「青年拡張失業率」、つまり広い意味での失業率を見ると、15~29歳はコンスタントに20%を超えており、これは深刻な数値と言わざるを得ない。若者の5人に1人が実質的な失業者ということになる。

――若者の失業率が高止まっている理由は?
本質的な原因は、経済あるいは労働市場が二極化していることだ。日本には中堅企業など知名度は低くても業績や雇用の安定度が高いケースも多い。一方、韓国ではそうした企業が限定的であり、中小企業の労働条件は厳しい。

そのため、公務員や大企業への就職は極めて競争が厳しいにもかかわらず、多くの学生がこうした職場を目指すことに固執しようとする。

韓国では学歴に加えて就職先が大きなステータスになることから、労働条件が劣悪で賃金も低く、離職率が高い中小企業への就職を敬遠しがちだ。

実際、韓国政府が公表している賃金格差の資料をみるとその差は歴然としている。大企業の正社員の賃金を100とした場合、中小企業の正規労働者の賃金はその約半分程度でしかない。これは大企業の非正規労働者の賃金よりも低い水準である。

こうなると、学生は就職浪人をしてでも大企業や公務員を目指そうとするし、親もそれを支援する。一方で、日本で言うところの3Kの職場は激しい人手不足が起きている。

韓国の大学も、就職率の高さが学生へのアピール材料になるため中小企業であっても学生を就職させたいと考えるが、現実との乖離がある。

韓国ではこうした雇用のミスマッチが根強く存在しているため、若者の就職状況はなかなか改善されない。【2019年10月7日 前川祐補氏 Newsweek】
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【中年の引きこもりの問題も】
これも日本でもそうであるように、「引きこもり」の問題は若者に限ったことではなく、中年層にも存在します。また、かつてのひこもり若者が次第に年齢を重ねて中年になるということも。

****韓国でも中年の引きこもりが問題に、日本のように犯罪につながるケースもー韓国メディア****
2023年2月6日、韓国・ヘラルド経済は「韓国には中年の引きこもりが約14万人いるとみられ、経済損失の推計は年間4兆ウォン(約4210億円)に上る」と報じた。

昨年の韓国・統計庁の資料によると、韓国人は27歳で初めて労働で得た所得が消費を上回り、43歳がピークとなる。記事は「43歳が最も所得の多い時期だという意味だが、短期間で職を転々としていたり、職に就いていない引きこもりにとっては別世界の話だ」と伝えている。

40~50代の引きこもりについて、記事は「青少年期に傷ついたり失敗したりしたことで挫折し再起できないまま引きこもり生活が長くなるケース」と「中年期に事業の失敗など危機を経験し引きこもりになるケース」に分けられるとしている。

後者は引きこもりの契機が経済的問題だとはっきりしているため相対的に克服が難しくないが、前者は社会生活そのものに不慣れな引きこもり中年が多く、困難を要するという。そうした「活動が難しい引きこもり中年」が増えれば、社会は動力を失っていくしかないとも指摘している。

ある支援団体によると、現在の韓国内の引きこもりは青年が約50万人、中年は約14万人と推定される。彼らの1人当たり国内総生産(GDP)は事実上ゼロで、暫定推計の損失だけで年間4兆ウォンに達するとしている。

いざ就職しようにも、履歴書の空白期間や精神科通院歴などが足かせとなるケースが多く、記事は「働きたくても容易に職に就けないことが問題」だと指摘している。

引きこもり期間が10年以上になるという47歳の男性は、大学院卒ながら一度もまともに就職したことがなく、空白期間や年齢などを理由に就職試験で落とされると話している。

その他、17歳から引きこもりで、就職しても精神科通院歴のために解雇され、病気で余命宣告を受けた母親と高齢の父親と同居し小遣いをもらって生活している男性の事例なども記事は紹介している。

また記事は、35年間自宅に引きこもっていた60代の息子が「アニメ視聴を邪魔されたことに腹を立て」両親を殺害し遺体を遺棄したという日本の事件について伝え、「日本では既に引きこもりが社会問題になっている」と指摘。こうした事件が韓国内で話題になることで、引きこもり中年に対する目が厳しくなるのではと懸念する専門家の声も紹介している。

韓国でも少ないとはいえ引きこもりによる犯罪の事例があるという。水原(スウォン)地裁は昨年、「両親のせいで眠れなかった」などの理由で5回にわたって両親を暴行した罪に問われた被告に懲役6月を言い渡したが、「引きこもりであり、正常な思考が困難だ」との理由で2年の執行猶予をつけた。

この記事に、韓国のネットユーザーからは
「せめてアルバイトでもしたほうがいい。そこからいつか道が開けてくるかもしれない」
「家にこもった状態でもお金を稼げるように社会や企業が考慮すれば在宅勤務が可能になる。お金さえ稼いでいれば、引きこもっていても自尊心が維持できて、いずれ社会復帰する可能性が高くなる」
「かわいそうだからと引きこもりを養うべきではない。心を鬼にして自立させないと」
「韓国では精神科カウンセリングが確立されているのに、『精神科に行った』と言うと頭がおかしい人間扱いされてしまう」
「20代までは社会活動に積極的に参加しても、大学を出て就職が決まらず、就職できても低賃金だったり事業に失敗したり経済的な苦労を経験すると、自然に人付き合いが減り、連絡も途絶えていくのが現実だ。できるだけ自宅にいてお金を使わずに生活するようになる。それを引きこもりとは言えない」
「引きこもりが生まれるのは就職が困難なせいだ。そして、それは年齢・性別差別が根底にある」
「みんな、元気出して頑張ろう…」など、さまざまなコメントが寄せられている。【2月8日 Record Korea】
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インド  雇用を十分に提供できない経済 失業問題は社会不安惹起も そこに宗教対立が加わると

2023-06-04 22:05:16 | 南アジア(インド)

(広島市で開かれたガンジー像の除幕式に出席したインドのモディ首相(中央左)と松井一実市長(同右)=20日【5月20日 共同】  モディ首相の本音は・・・)

【1人当たり国内総生産(GDP)でバングラデシュにも抜かれたインド経済の弱点】
インド経済のイメージとしては、中国を抜いて世界一となった人口を背景に、今後とも急拡大を続け、世界経済への影響力を増していく・・・といった前途洋々たるものが想起されます。

しかし、現状で見ると、インドの1人当たり国内総生産(GDP)は未だ十分とはいえない中国の6分の1に過ぎません。しかも、アジア最貧国とも言われていたバングラデシュにも抜かれたか。

インド経済の弱点は、十分な雇用機会を提供できない製造業の弱さにあるようです。

****人口世界一になるインドへの懸念…中国のように世界経済をけん引する存在にはなれない事情****
「中国プラスワン」もインドにとって追い風だが
世界一の人口大国となることが確実視されるインドへの期待が日増しに高まっている。
国際通貨基金(IMF)は5月2日に発表した見通しで「今年は中国とインドが世界の経済成長の約50%を担う」との分析を明らかにした。足元の状況は、ゼロ・コロナ解除後の中国経済の回復が芳しくないこととは対照的に、インド経済は好調さを維持している。(中略)

IMFはインド経済の今後5年間の成長率を6.0%と見込んでおり、2028年には日本を抜いて世界第3位の経済大国になると予測している。

グローバル企業の「中国プラスワン」戦略もインドにとって追い風だ。多くの国が中国一辺倒の投資に不安を感じる中、リスクの分散先にインドが選ばれるようになっている。中でも、米アップルの請負業者が高価格帯のiPhoneをインドで組み立てるための初期投資を行ったことは世界の注目を集めた。

人口が増加し続けるインドは、20年前の中国のように、世界経済を牽引する存在になっていくのだろうか。

インドは人口が世界最多になるだけでなく、現役世代の比率が高いことも特徴だ。現在、全人口の7割近くを占める生産年齢人口(15〜64歳)は2050年まで増加することが見込まれている。

だが、このことを強みにするためには、彼らに雇用の機会を提供することが絶対条件だ。スキルを十分に発揮できる雇用の場を提供できて初めて、現役世代の多さが成長の源泉となるからだ。

世界銀行によれば、2021年のインドの1人当たり国内総生産(GDP)は2257ドルで、中国の1万2556ドルの6分の1に過ぎない。

慢性的な雇用不足に苦しめられるインド
中国は膨大な人口を先進国の製造業の労働資源として提供することで「世界の工場」となり、大成功を収めてきた。だが、インドの製造業はお世辞にも競争力があるとは言えない。

世界銀行によれば、製造業がGDPに占める割合は中国が27%、ベトナムが25%であるのに対し、インドは14%に過ぎない。人口14億人のインドの輸出製品の金額も人口1億人のベトナムとほぼ変わらない。

気になるのは、2019年にインドの1人当たりのGDPが隣国バングラデシュに追い抜かれたことだ。IMFによれば、2028年にはバングラデシュは4164ドルとなり、3720ドルのインドは400ドルもの差を付けられることになる。

バングラデシュの成長は同国の縫製産業の躍進によるところが大きい。バングラデシュの縫製産業は過去20年の間に欧米のバイヤーが要求する厳しいコスト・品質・納期などに対応できる能力を身につけ、中国に次ぐ世界第2位の縫製品輸出国となった。バングラデシュでは多数の女性労働者が縫製産業に従事しており、その人的資本の水準はインドを上回るようになっている(4月18日付日本経済新聞)。

中国を始めアジアの国々は、労働集約型の製造業の製品輸出のおかげで多くの雇用を創出できたが、製造業に弱みを抱えるインドは慢性的な雇用不足に苦しめられている。

インドではここ10年、毎年700〜800万人の求職者が市場に参入してきたが、新規の雇用を満足につくることができなかった。このため、職にありつけない若者は農村にとどまるしかなく、インドでは全労働者の45%が農業分野に従事していることになっている。

求人数が求職数に比べて圧倒的に少ないことから、若者は日々を生き抜くための低賃金の仕事に従事せざるを得ず、インドの人的資本の活用状況は低調のまま、「宝の持ち腐れ」になっていると言っても過言ではない。

再び囁かれる「ヒンズー成長率」
インドは今後10年で雇用を2億人増やす必要があると言われており、そのためには輸出志向の労働集約型製造業の競争力強化が不可欠だ。

モディ政権も「GDPに占める製造業の比率を25%にまで引き上げる」との政策目標を掲げていることが、「言うは易し、行うは難し」だ。

インド政府は製造業の競争力強化に躍起になっているが、インフラ投資の強化や労働市場改革など取り組まなければならない課題は山積みだ。

残念ながら、識者の間でインド経済の今後を悲観視する声が強まっている。
その代表格は元インド準備銀行(中央銀行)総裁のラグラム・ラジャン氏だ。ラジャン氏は「高成長を見込める要因が見当たらず、インド経済は減速する」と手厳しい(4月19日付日本経済新聞)。1950年代から80年代にかけて、インドの経済成長は途上国の中で低かったため、「ヒンズー成長率」と揶揄されてきたが、この用語が再び囁かれるようになっている。

経済が失速すればインドの失業問題がさらに悪化するのは火を見るより明らかだ。
若年人口が社会の過半を占めるインドでは暴力事件が多発しており、過去には政権を揺るがす事態に発展したこともあった。若年人口の不満を抑えるためにはインド政府のさらなる取り組みが不可欠だが、見通しが明るいとは言えない状況にある。

グローバルサウスの代表として存在感を増しつつあるインドだが、世界を牽引する新たな盟主としての成長モデルを見いだせていないのが実情なのではないだろうか。【5月19日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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一見、中国とともに世界経済を牽引するかのようなイメージもあるインドですが、内情は相当に問題が大きいようです。

【失業問題が惹起する社会不安 不満がヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立に向かうと非常に危険】
雇用を十分に提供できないインド経済・・・失業問題は社会を揺るがす不安要素になりますが、「時限爆弾」との指摘も。

****インドの「経済の奇跡」の裏に隠された時限爆弾―中国メディア****
2023年5月29日、環球網は、奇跡とさえ呼ばれ始めたインド経済の成長の背景に「時限爆弾」が隠されているとする記事を掲載した。

記事は、新たな議会ビルの落成や7%に近い経済成長率、中国を抜いて人口世界一になるなど、インドに関する一連のポジティブな情報が世界の注目を集め、「経済の奇跡」という言葉さえもが国内で取り沙汰されていると紹介する一方で、米CNNがこのほど実施した現地の青年らへのインタビューにより、就職難など市民生活上の問題が引き続き大きく立ちはだかっていることが明らかになったと伝えた。

そして、28歳の清掃員の男性が「小さい頃から勉学で運命を変えられるという言葉を信じ、修士号まで取得したにもかかわらず、今の仕事は清掃員。こんなにいっぱい勉強したのに相応の職に就けないことに憤りを覚えている。これは政府の問題。人々のためにもっと多くの雇用を創出すべきだ」と語ったことを紹介した。【5月31日 レコードチャイナ】
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もとよりインド社会は多数派ヒンドゥー教徒と少数派イスラム教徒という根源的な不安要素を抱えており、失業若者らの不満がこうした対立に向けられる、あるいは扇動されることも想像されます。

しかも、これまで繰り返し指摘してきたようにモディ首相にはヒンドゥー至上主義的な傾向が強く存在し、インド社会・政治を危険な方向に誘導する懸念があります。

【イスラムに融和的でヒンドゥー至上主義者に暗殺されたガンジー 修正される歴史】
そうしたモディ首相のヒンドゥー至上主義の観点で興味深かったのは、G7広島サミットでの下記の話題。

****広島にガンジーの胸像=インド首相が除幕式****
広島市で20日、非暴力・不服従運動を主導したインド建国の父マハトマ・ガンジーの胸像の除幕式が行われた。胸像はインド政府が寄贈し、平和記念公園近くに設置。

先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の拡大会合出席のため広島入りしているモディ印首相も式典に参列した。【5月20日 時事】
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マハトマ・ガンジーはインド建国の父で、インドを代表する「偉人」ですから、その胸像の除幕式にインド首相が出席する・・・・しごく当然のようにも思えるでしょうが、ガンジーは最後までヒンドゥー教徒とイスラム教徒の共存を呼び掛け、そのイスラム教徒への融和的姿勢を嫌うヒンドゥー至上主義の男性に暗殺された事実があります。

そして、その暗殺者が属していた組織にはモディ首相も属していました。
つまり、モディ首相にとって、ガンジーは必ずしも「偉人」ではなく、実際、モディ政権下のインドにあってはガンジーの主張・功績、その暗殺の経緯を薄めていこうという「修正主義」的な流れがあります。

****ガンジー暗殺動機も削除、インド教科書改訂の波紋****
ディ政権、歴史の重要記述を消す

インド政府が配布する高校の教科書には長年、建国の父とされるマハトマ・ガンジーの暗殺者についての記述があった。ヒンズー教過激派系の新聞に勤務していた男で、自由のために非暴力で闘った偉大な精神的指導者であるガンジーを「イスラム教との融和提唱者」として敵視していた。

今年に入って入手可能となった第12学年向け歴史の教科書改定版では、こうした記述がない。暗殺者としてナトラム・ゴドセの名前には触れているが、人物像や暗殺の動機には言及していない。

さらには、ガンジーが75年前、独立後のインド国家の理想像として掲げていた宗教多元主義に対して異議を唱えていたヒンズー教強硬派に関する記述も、全面的に削除されている。

モディ政権は生徒が学ぶ自国の過去について相次ぎ変更を加えており、今回の教科書改訂もその一環だ。ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)は数十年にわたるヒンズー至上主義国家を目指す運動と関係しており、学校の教科書はバランスを欠いていてヒンズー教に対する偏見が含まれていると、かねて批判してきた。

党内では、インドの若者、特に国内多数派のヒンズー教徒が、自らの歴史や遺産に関して誇りを持てるような内容に乏しいとの批判が根強い。

BJPが抱える不満の根底にあるのは、イデオロギーに関する一段と包括的な議論だ。モディ氏の支持者は、1947年の独立後のインド国家を形成してきた左派寄りのリベラル勢力が西側の価値観を象徴し、インド最大の少数派イスラム教と歩調を合わせているとして批判している。支持者にとって、モディ氏の台頭はヒンズー教復活の象徴なのだ。

一方で、モディ氏やBJPに対しては、国家を分断するヒンズー教至上主義のイデオロギーを推進し、インドの世俗的な基盤を脅かすとの批判が出ている。

改訂前の教科書策定を指揮した学者クリシュナ・クマール氏は、今回の改訂は「教育とは開かれた心とリベラルな考えを促すべきという考えに背くものだ」と指摘する。その上で、改訂は「極めて乱雑な切断だ」と話す。

モディ氏の支持者は、改訂は遅すぎたくらいだと考えている。植民地化前のインドを巡る歴史教育は、領土に構築されたイスラム帝国を過度に強調しており、歴代のヒンズー王国をないがしろにしてきたと主張する。

例えば、16~17世紀にかけて繁栄し、タージマハルを建設するなど地域の建築や食文化、文学などに強い影響を残したムガル帝国が必要以上に重視されてきたという。

ヒンズー至上主義者の目には、ムガル帝国は寺院破壊や改宗、ヒンズー教独自の習慣にとっての服従の時代だと映る。

今回の改定で、第12学年の教科書からムガル帝国の宮廷に関する章が消える一方、農民の生活に関する章は残された。第7学年の教科書からは、アクバルからアウラングゼーブまでムガル帝国皇帝の戦場での勝利に関する2ページの表が削除された。13世紀のイスラム教徒によるインド北部制圧に関する章も消えている。

今回の改定に対しては、歴史家や学者250人以上が反対を唱える公開書簡に名を連ねた。

書簡では「今回の改定における選別的な削除は、分断をあおる政治の影響力を浮き彫りにしている」と指摘。インドの歴史はヒンズー教とイスラム教の時代で構成されると考えることはできないとして、「こうした分類は、歴史的に本来極めて多様な社会構造に対して無批判に押しつけられている」と反論した。

最も議論を呼んだ削除箇所はガンジーに関するもので、現地紙インディアン・エクスプレスが先に報じていた。改訂前の高校生向け政治の教科書では、「ヒンズー教とイスラム教の結束を強く求めていたガンジーに対して、ヒンズー教過激派が強い嫌悪を抱き、何度か暗殺を試みた」との記述があった。

またガンジーは「パキスタンがイスラム教の国家になったように、インドがヒンズー教の国家になってほしい」と願う人々から嫌われていたとも書かれていた。そのいずれの記述についても、今回の改定で消えている。

また改訂後の教科書では、ヒンズー至上主義団体「民族義勇団(RSS)」がガンジー暗殺後に一時、非合法化されたことも書かれていない。モディ氏はRSSの元メンバーで、同氏の首相就任以来、RSSの影響力は強まっている。【5月29日 WSJ】
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実際、デリー周辺の北インドを旅行すると、観光スポットとなっているのはムガール帝国などイスラム王朝によるものが多いことを痛感します。

デリー郊外に「勝利の塔」と呼ばれる72.5mのミナレットを有する「クトゥブ・ミナール」があります。
この塔及びモスクは、1200年頃にこの地にインド最初のイスラム王朝を開いたクトゥブッディーン・アイバクが、ヒンドゥー勢力に対する勝利を記念して建てたものです。

デリー観光の際に、ガイド氏と「次にどこに行こうか」という話になって、私が「クトゥブ・ミナール」を提案したところ、ヒンドゥー教徒でもあるガイド氏が乗り気にならず、代わりに近年建設された巨大なヒンドゥー寺院に連れていかれました。ガイド氏は「どうです。美しいでしょう!」といたくご満悦でした。

その日は、多くのイスラム王朝の遺跡を観光していたこともあって、イスラム王朝がヒンドゥー勢力に対する勝利を記念して建てた「勝利の塔」に、ヒンドゥー教徒でもあるガイド氏が面白くないものを感じたのだろう・・・と勝手に想像しています。

世界遺産の代表格「タージマハル」に対しても、ヒンドゥー重視の地方政府は冷淡であるとも報じられています。

広島のガンジー胸像はインド政府が寄贈したものとのことですから、モディ首相としてはガンジーの対外的な「利用価値」は認めているようです。ただ、内心はどうだったのだろうかと想像すると興味深いものがあります。

【役にたたないオス牛をめぐるインドの「本音と建前」】
政治的なものを離れた軽い話題としては、ヒンドゥーで神聖視される牛ですが、乳牛として利用価値があるメスはいいとして、オス牛はどうなるのか?という疑問が。

結論的には、ヒンドゥー教徒はあまり認めたがりませんが、と殺されて「肉」として海外へ輸出されるようです。

****「牛は神聖な動物」でも牛肉の輸出大国…インドで見た畜産の本音と建前 ミルクが搾れないオス牛はどこへ****
20日間かけて世界一の生乳生産量を誇るインドの牧場を巡った筆者。ふと「ミルクを搾れるメス牛はたくさんいるけれど、オス牛はどうなっているんだろう」と疑問がわきました。現地で酪農関係者に尋ねてみると、「牛は神聖な動物である」という宗教的な考え方と「オス牛をどう扱うか」という現実的な悩みを巡る、本音と建前が見え隠れしていました。(木村充慶)

牛肉を食べないインド 「オス牛は?」
インド国民の大半を占めるヒンドゥー教徒にとって牛は神聖な動物であるため、多くの人が牛肉を食べません。
その代わりに、牛を殺さなくても口にできるミルクや豆などから、生きる上で必要なタンパク源をとっています。

しかしインドは世界一の生乳生産量があります。牛は1億3,601万頭(2015年、農畜産業振興機構「インド酪農の概要と世界の牛乳乳製品需給に与える影響」)もいます。
農林水産相の「畜産統計」によると、日本は137万頭(2022年)なので、その約100倍です。(中略)

日本の場合は、オス牛が生まれると、多くが家畜の市場に出されます。育成する牧場で育てられ、ある程度大きくなったら食肉になります。

しかし多くのヒンドゥー教のインド人にとっては、お肉として食べることもできません。牛を肉にする「と殺(と畜)」を禁止している州もあります。一体どうなるのでしょうか。(中略)

ある関係者は、インドには非公式の「と畜場」があると教えてくれました。そこでは、多くは宗教的に問題ないイスラム教徒の人たちがと畜を担当していると言います。

しかし現地で酪農家に尋ねても、そもそも「と畜場」の存在を否定するので、その在りかは分かりませんでした。

本音と建前が交錯する牛の行方
(中略)危険性もあるといった背景から、なかなか公にできず、非公式の「と畜場」が存在しているのではないかと思います。

ヒンドゥー教徒にとっては神聖な牛を殺すことは許しがたいこと。しかし実態としては、育てるだけではコストのかかるオス牛や、役目を終えたメス牛を食肉にするのは仕方がない――。インドの「本音と建前」があるのだなと感じました。(後略)【6月3日 木村充慶氏 withnews】
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東アフリカ  過去40年で最長となる干ばつ 更に内戦による混乱も

2023-06-03 22:05:31 | 食糧・飢餓

(ソマリアの首都モガディシオ郊外で、栄養失調の子どもを抱く母親=2022年6月(AP=共同)【6月3日 共同】)

【世界気象機関(WMO) 「気候変動は2022年も世界中でその進行を続けている」】
気候変動に伴う地球規模の異常現象・危機については日々報じられているところですが、世界気象機関(WMO)は年次報告書『2022年 地球気候の現状に関するWMO報告書』で「気候変動は2022年も世界中でその進行を続けている」と報告しています。

****世界気象機関(WMO)年次報告書:気候変動は進行し続けている(2023年4月21日付 WMO プレスリリース・日本語訳)****
『2022年 地球気候の現状に関するWMO報告書(The WMO State of the Global Climate report 2022)』は、主要な気候指標である温室効果ガス、気温、海面上昇、海洋熱と海洋酸性化、海氷と氷河に焦点を当てています。また、気候変動と異常気象の影響についても強調しています。

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干ばつ、洪水、熱波が世界の大部分に影響を与え、損失額が増加している
過去8年間の世界の平均気温が最高を記録した
海面上昇と海洋熱が記録的な水準にあり、この傾向は今後何世紀も続くと予想される
南極の海氷域が史上最小にまで減少した
欧州では氷河の融解記録が更新された
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ジュネーブ、2023年4月21日(WMO) — 世界気象機関(WMO)の年次報告書によると、山頂から深海に至るまで、気候変動は2022年も世界中でその進行を続けました。

干ばつ、洪水、熱波があらゆる大陸のコミュニティーに影響を与え、何十億ドルもの損失をもたらしました。南極の海氷域が史上最少にまで減少し、欧州の氷河のいくつかは、文字通りグラフに収まりきらないほどの勢いで融解しました。

『2022年 地球気候の現状に関するWMO報告書』は、記録的水準にある温室効果ガスが、地上、海洋、大気中で引き起こしている地球規模の変化を明らかにしています。

2015年から2022年の世界の気温は、過去3年間のラニーニャ現象による冷却効果があったにもかかわらず、記録上最も温暖な8年間でした。2022年に再び過去最高水準に達した氷河の融解と海面上昇は、今後最大で数千年にわたって続くと考えられます。

「温室効果ガスの排出量が増加を続け、気候変動が続く中、世界中の人々が異常気象と気候現象の深刻な影響を受け続けています。例えば2022年の、東アフリカで続いた干ばつ、パキスタンでの記録的な豪雨、中国とヨーロッパにおける過去に例を見ない熱波によって数千万人が影響を受け、食料供給が不安定化し、集団移住が加速し、数十億ドルの損失と損害が発生しました」WMOのペッテリ・ターラス事務局長は、このように述べています。(中略)

報告書によると、有害な気候および気象関連事象が一年を通じて新たな強制移住をもたらし、年初時点ですでに移住生活を送っていた9,500万人のうち、その多くの人々の状況をさらに悪化させました。(後略)【5月24日 国際連合広報センター】
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【東アフリカ 過去40年で最長となる干ばつ 深刻な食料不安 ソマリアの危機的状況】
上記報告書は東アフリカに関しては以下のようにも。

****干ばつに襲われた東アフリカ****
雨季の降水量が5年連続で平年を下回りました。これは過去40年で最長となる期間です。2023年1月現在、干ばつその他のショックの影響によって東アフリカ全域で推定2,000万人以上が深刻な食料不安に直面しています。【同上】
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“過去40年で最長となる干ばつ”の一方で、極端な豪雨も。こうした極端な異常気象が“気候変動”の特徴でしょうか。

****豪雨で川が氾濫、20万人退避 ソマリア****
アフリカ東部ソマリアの中部で、豪雨に伴う河川の氾濫のため約20万人の住民が避難を余儀なくされた。当局者が13日、AFPに語った。

中部ヒラン州でシェベリ川の堤防が決壊。ベレドウェインでは、退避を余儀なくされ、荷物を頭に載せて冠水した道路をたどり避難場所を探す住民の姿が見られた。

同州のアリ・オスマン・フセイン社会問題担当副知事は、「約20万人が避難した」と説明。数字は暫定集計で、退避者の数はさらに増える可能性があるとしている。
ハッサン・イブラヒム・アブドゥル副知事によると、12日時点で洪水のため3人が死亡した。

ソマリアはこれまで記録的な干ばつに見舞われており、数百万人が飢饉(ききん)寸前の状態に置かれていた。また、政府は数十年にわたってイスラム過激派組織の武装闘争に手を焼くなど、さまざまな問題を抱えている。

ソマリアだけでなく、アフリカ東・中部では雨期に極端な天候に見舞われることが多い。ルワンダでは今月初め、大雨に伴う洪水や土砂災害で135人が死亡、コンゴ民主共和国でも土石流のため400人以上が犠牲になっている。【5月14日 AFP】
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ロンドン大衛生熱帯医学大学院やユニセフ(国連児童基金)などの共同研究チームの発表によれば、ソマリアでは干ばつによる死者が2022年だけで4万3千人に上るとの推計され、このうち半数が5歳に満たない子どもたちだとのことです。

ユニセフは、ソマリアなどアフリカ東部で5歳未満の子ども190万人超が食料不足に伴う重度の栄養失調で死亡する恐れがあると発表しています。

****190万人の子に命の危機 アフリカ干ばつで食料不足****
国連児童基金(ユニセフ)は3日までに、ソマリアなどアフリカ東部で約3年間にわたり干ばつが続き、5歳未満の子ども190万人超が食料不足に伴う重度の栄養失調で死亡する恐れがあると発表した。「前例がない規模の危機」が起きていると懸念を表明し、国際社会に早急な対応を求めた。

ソマリアに隣接するケニアとエチオピアでも干ばつの被害が広がった。牛やヤギなどの家畜も死に、多くの住民が避難生活を余儀なくされている。ユニセフによると、重度ではない症例も含め700万人以上の子どもが栄養失調に陥っている。

今年3月以降に降雨が確認されるようになり、干ばつ収束への期待が出てきた。だが、財産である家畜や耕作地を失った被災者が経済的に自立できるまでには年月がかかり、干ばつが終わったとしても手厚い復興支援が欠かせない。
アフリカ大陸では、気候変動の影響で異常気象が起きやすくなったとの見方がある。5月にはソマリアで豪雨による洪水が起き、新たに20万人以上が避難した。【6月3日 共同】
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ソマリアではイスラム過激派「シャバブ」のテロ活動などによって人道援助が妨げられており、飢餓・病気の被害を拡大しています。

そうした状況はスーダンでも同様です。

【スーダン 止まない戦闘 深刻化する飢餓の恐怖】
東アフリカのひとつスーダンでは、停戦が合意された。でも、戦闘は続いている“といった“よくわからない”状況が繰り返されています。

****スーダン首都で再び衝突、停戦協定違反で協議中断****
スーダン正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の衝突を巡り、米とサウジビアが仲介する停戦交渉が決裂したことを受け、首都ハルツームでは再び軍事衝突が起きている。

ハルツーム近郊の住民によると、正規軍は空爆を再開し大砲を使用するなどしているが、RSFが占拠した場所から退却する兆候は見られない。

米とサウジは1日、両国の仲介による停戦交渉が決裂したため、協議を中断。両者が協定に違反して軍事行動を行っているなどと非難した。

正規軍は2日、停戦協定の実施に向けた提案をしたにも関わらず米とサウジが交渉を中断したことに「驚いた」と述べた。また、協定違反を行ったのはRSF側だとした。RSFは軍を非難している。【6月3日 ロイター】
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戦闘状態はよくわかりませんが、定かなのはこの国が深刻な飢饉に見舞われているということ、そして内戦によって難民の発生、支援活動の停滞といった混乱を引き起こしていることです。

****「スーダン、内戦により1900万人が飢饉に追い込まれる」WFP局長の訴え****
「今後3~6カ月以内にスーダンで飢餓に直面した人々は1900万人に達する可能性があります」

内戦中のスーダンで援助活動を行っている国連世界食糧計画(WFP)のマイケル・ダンフォード東アフリカ地域局長は8日、中央日報との書面インタビューで、現地の雰囲気をこのように伝えてきた。

ダンフォード局長は「内戦によりスーダンから近隣諸国への難民流出がすでに始まっている」とし「これが進めば、スーダンの不安定な状況が『アフリカの角』の地域全般に拡散しかねない」と懸念を示した。

アフリカの角地域はアデン湾の南部にまたがる東アフリカ地域で、サイの角のように突出している地域を指す。エチオピア・ソマリア・ジブチなどが属している。

先月スーダンでは、政府軍側のアブデル・ファタハ・ブルハン将軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」のモハメド・ハムダン・ダガロ司令官の間で武力衝突が起き、血なまぐさい交戦が続いている。(中略)

内戦以降、外国人はもちろんスーダン人も「必死のエクソダス」に乗り出して難民が最大86万人発生するという悲観的見通しが出てきている(中略)

スーダン内の状況が統制不能状態に陥り、国連のような国際救援団体の活動はますます厳しくなっている。一線の救護団体職員たちは文字通りに命懸けで活動している。WFPも先月16日、スーダンの北ダルフール地域で救護活動中に職員3人が交戦に巻き込まれて命を落とした。WFPはこの事件で活動をしばらく中断したが、今月1日、WFPのシンディ・ヘンスリー・マケイン事務局長が救護を臨時に再開すると伝えた。(中略)

東アフリカは長い政治不安で慢性的な食糧危機を経験しているが、最近になって40年ぶりに最も乾燥した気候に直面し、食糧難が最悪に達しているという。

ダンフォード局長は「エチオピア、ケニア、ソマリアなどでは生計手段である家畜が干ばつや気象異変による洪水などで1300万頭が死亡し、最大8000万人が飢えに追い込まれている」と述べた。(後略)【5月9日 中央日報】
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【世界食料価格は2年ぶり低水準】
飢餓に苦しむ人々にとって数少ない朗報は、食料価格が落ち着いてきたことでしょうか。

****世界食料価格、5月は2年ぶり低水準=国連食糧機関****
国連食糧機関(FAO)が2日発表した5月の世界の食料価格指数は、植物油、穀物、乳製品の価格が急落し2年ぶりの低水準となった。砂糖と肉類の価格は上昇した。

5月の同指数は平均124.3と2021年4月以来の低水準で、ロシアのウクライナ侵攻開始後の2022年3月に記録した過去最高水準を22%下回っている。4月は127.7だった。

FAOは穀物需給に関する別の報告書で、今年の世界の穀物生産量を前年比1%増の28億1300万トンと予想した。トウモロコシの生産増加が主な要因としている。【6月2日 ロイター】
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国際支援も多少はやりやすくなったとも思えますが、そうした支援を妨げているのが、飢餓地域における内戦・治安の不安です。
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アルメニア  アゼルバイジャンとの紛争でロシアへの不信感 大幅譲歩案も 仲介に動くロシア・欧米

2023-06-02 22:13:06 | 欧州情勢

(【5月29日 テレ朝news】 5月25日 ロシア主導の「ユーラシア経済連合(EAEU)」首脳会議において、アルメニア首相に話をさえぎられ困惑の表情の議長・プーチン大統領)

【アルメニア 「ロシアは助けてくれない」】
ともに旧ソ連のアルメニアとアゼルバイジャンが係争地ナゴルノカラバフ地方をめぐって断続的に衝突を繰り返していることは周知のところですが、軍事的に劣勢にあって多くの支配地を失ったアルメニアとしては、アルメニアと同盟関係にありながら、アルメニアの支援要請に応えず、アゼルバイジャンの攻撃を止めようとしないロシアの対応に強い不満があります。

****アルメニア首相、ロシア主導軍事同盟を批判 防衛義務果たさず****
旧ソ連構成国アルメニアのニコル・パシニャン首相は(2022年11月)23日、対立しているアゼルバイジャンから侵略を受けた際に防衛義務を果たさなかったとして、ロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)を非難した。

アルメニア、アゼルバイジャン両国は今年9月、係争地ナゴルノカラバフをめぐって交戦。双方合わせて280人以上が死亡した。

この時、CSTO加盟国のアルメニアは、ロシアに軍事支援を要請。ロシアは集団安全保障条約に基づき、アルメニアが他国に侵攻された場合、同国を防衛する義務がある。

だが、アゼルバイジャンとも緊密な関係を保っているロシアはすぐには支援要請に応じず、CSTOは事務総長を紛争地域に派遣し、状況を分析する作業部会を設置する案を示すにとどめた。

パシニャン氏は首都エレバンで開催されたCSTO首脳会議で、「アルメニアがCSTOに加盟していながら、アゼルバイジャンの侵略を防げなかった事態に失望」したと主張。

「この事実は、アルメニア内外でCSTOのイメージを大きく損ねている」「アゼルバイジャンによるアルメニア侵略へのCSTOの対応について、わが国では意思決定に至っていない」と付け加えた。

会議にはロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領も出席した。【2022年11月24日 AFP】
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ロシアとしては、アゼルバイジャンを支援するトルコと事を構えたくないといったこともありますが、ウクライナで手一杯でとてもアルメニアまでは面倒見きれない・・・というのが本音でしょう。

****「そこまでは手が回らない」──旧ソ連の国々の紛争にはプーチンもお手上げ****
<ナゴルノカラバフ地方のラチン回廊で両国軍の兵士が発砲し、死者が出る事態に。ウクライナ戦争に総力を注ぎ込んでいる今、そこまで対応できないという見方が>

旧ソ連のアルメニアと隣国アゼルバイジャン間の係争地ナゴルノカラバフ地方のラチン回廊で4月11日、両国軍の兵士が発砲し、双方に7人の死者が出る事態となった。

今回の衝突は、2020年に起きた6週間のナゴルノカラバフ紛争の延長線上にある。この紛争はロシアの仲介で停戦に至ったが、火種が全て取り除かれたわけではない。

衝突に先立つ7日にはアルメニアのパシニャン首相がロシアのプーチン大統領と電話会談し、ナゴルノカラバフの状況について協議。

双方で停戦合意を履行することの重要性を確認し合ったとされるが、その直後にアルメニア側に通じる唯一の補給路であるラチン回廊で両軍が衝突した。

ロシアはこれまで、旧ソ連構成国であるアルメニアとアゼルバイジャンに影響力を及ぼそうとしてきたが、ウクライナ戦争に総力を注ぎ込んでいる今、この2カ国の紛争にまで手が回らないとの見方もある。
プーチンにとっては新たな頭痛の種かもしれない。【4月17日 Newsweek】
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アルメニア国内には、“頼りにならない”ロシアを見限って、欧米との関係を強化しようとの声も出ています。

****「ロシアは助けてくれない」 小国アルメニア、西側参加望む声も****
アルメニアの首都エレバンのオペラ座近くで、言語学者のアルトゥール・サルグシャンさんは、ロシアは頼りにできないパートナーであり、アルメニアは他の「同盟国」を探すべきだと語った。

サルグシャンさんは「アルメニアが集団安全保障条約機構を抜け、ロシアの影響下から離れる日を夢見ている」と話した。CSTOはロシアが主導し、旧ソ連諸国で構成される。

宿敵アゼルバイジャンと衝突した時も、「窮地に陥ったアルメニアを、ロシアとCSTOは助けてくれなかった」と、サルグシャンさんは強調した。

1991年のソ連崩壊以降、人口約300万人のアルメニアはロシアの軍事的、経済的支援に依存してきた。国内にはロシア軍の基地があり、ロシア語話者も多い。

しかし今日、多くのアルメニア人が、トルコの支援を受けるアゼルバイジャンからアルメニアを軍事的に守るという責任を縮小しているロシアを、許せないと語る。

昨年12月中旬、アルメニアと係争地ナゴルノカラバフをつなぐ唯一の道路をアゼルバイジャンが封鎖すると、ロシアへの不満はさらに高まった。そのロシアは現在、ウクライナとの戦争で身動きが取れなくなっている。

エレバン在住の英語教師アルピネ・マダリャンさんは「アルメニアは小国だ。本当に支援してくれそうな西側陣営に加わる必要がある」と話した。「CSTOを脱退すべきだ。彼らは助けてくれないし、味方でもない」

アルメニアは今年1月、国内で予定されていたCSTO合同軍事演習の実施を拒否した。ただ、これまでのところ脱退は否定している。行方は不透明で、CSTOを抜ける余裕はないとみる専門家も多い。

6週間で数千人の犠牲を出した2020年秋の衝突の際、トルコはアゼルバイジャンを外交的・軍事的に支援した。一方、ロシアは外交的な介入にとどまり、アルメニアは孤軍奮闘を余儀なくされた。

■「反ロシア感情」の高まる可能性も
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は停戦合意を仲介したが、アルメニアは、数十年にわたり実効支配してきたナゴルノカラバフの一部を失うことになった。ロシアは不安定な停戦を維持するため、平和維持部隊を派遣した。
この停戦合意は、アルメニアでは国辱と受け止められた。

政治アナリスト、ビゲン・ハコビャン氏は「アルメニアのロシアへの信頼度は歴史的な水準にまで低下している」と指摘した。「失望感は極めて強く、いずれ反ロシア感情が高まる要因になり得るほどだ」

別の専門家、ハコブ・バダリャン氏によると、アルメニアのエリート層の大多数は反ロシアだ。

■「実利的な判断」
アルメニア人住民が多数派を占めるナゴルノカラバフ地域では、ロシアの平和維持部隊について、アゼルバイジャンから自分たちを守ってくれる唯一の存在だとみられている。しかし、複雑な思いを抱く人も多い。

匿名を条件にAFPの取材に応じた56歳の男性は「ロシア平和維持部隊の存在は、アルメニア人を皆殺しにし、追放したいと思っているアゼルバイジャン人に対する抑止力となっている」と話した。

ただし、「一つの村と重要な軍事拠点が一晩のうちにアゼルバイジャン軍に制圧されたのを見て、われわれはロシアの誠実さに疑問を持ち始めた」と打ち明けた。

アルメニア・アゼルバイジャン両軍は今も頻繁に衝突している。今月11日には国境沿いで戦闘が起き、両軍合わせて7人の兵士が死亡した。

独立系ロシア人アナリスト、コンスタンチン・カラチェフ氏はAFPに対し、ロシアはアルメニアをめぐり、アゼルバイジャンを支援するトルコとの関係を損ないたくないと考えているとの見方を示した。

カラチェフ氏は「ロシアは実利的な判断からアルメニア側に付かなかった」「いずれにせよ、アルメニアには頼れる国がない」と語った。 【4月22日 AFP】AFPBB News
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【欧米も仲介に動く】
もっとも、仮にアルメニアと欧米の関係が強化されたとしても、欧米がアルメニアに軍を派遣してアゼルバイジャンと戦う・・・ということはないでしょう。

それはさておき、欧米も、目立った成果は出ていないながらも、アルメニア・アゼルバイジャンへの働きかけを行っています。自陣営に手繰り寄せようという思惑でしょう。

****アルメニアとアゼルバイジャン外相、紛争巡り米で会談****
ブリンケン米国務長官は1日、ともに旧ソ連の構成国だったアルメニア、アゼルバイジャンの紛争緩和に向けて両国外相と米首都ワシントンで会談した。

係争地となっているナゴルノカラバフとアルメニアを結ぶ唯一の陸路「ラチン回廊」の起点にアゼルバイジャンが道路検問所を設置したことで、両国関係が再び緊張している。(後略)【5月2日 ロイター】
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****アルメニアとアゼルバイジャン、(5月)14日に首脳会談 EU本部で****
アルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領が14日にブリュッセルで会談すると、欧州連合(EU)が8日明らかにした。係争地ナゴルノカラバフを巡り、持続可能な平和協定締結と不和解消を目指す。(後略)【5月9日 ロイター】
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【アルメニアのパシニャン首相 踏み込んだ譲歩案】
こうした状況で、アルメニアのパシニャン首相は現住しているアルメニア系住民の安全が確保されるのならば、アゼルバイジャンの主権を認める従来にない踏み込んだ譲歩案を明らかにしています。

*****アルメニア、係争地でアゼルバイジャンの主権容認へ 平和条約に意欲****
タス通信などによると、旧ソ連アルメニアのパシニャン首相は22日、係争地ナゴルノカラバフについて、現住しているアルメニア系住民の安全が確保されるのならば、敵対してきたアゼルバイジャンの主権を認める考えを表明した。アゼルバイジャンとの平和条約締結への意欲も示している。

パシニャン氏は25日、アゼルバイジャンのアリエフ大統領とモスクワで会談を予定しており、関連する問題を協議する。アルメニアとアゼルバイジャンは、6月1日にもモルドバの首都キシナウで話し合う予定。帰属問題を解決し、平和条約を結べば、地域の緊張緩和に寄与するのは確実だ。

アルメニアとアゼルバイジャンは、共にソ連の共和国だった時代からナゴルノカラバフの帰属を巡って衝突を繰り返してきた。近年はアゼルバイジャンが優位な状況を築いていることから、パシニャン氏は同地に住むアルメニア系住民の安全を第一にして、譲歩を検討している模様だ。

ソ連時代のナゴルノカラバフはアルメニア系住民が多数派を占めたが、アゼルバイジャン共和国の管轄下に置かれた。1980年代末期になると、同地のアルメニア系住民がアルメニア共和国への編入を要求。アルメニアとアゼルバイジャンの衝突に発展し、推定で1万8000人超の死者を出した末に、アルメニアがナゴルノカラバフで実効支配を確立した。

一方で2020年秋に再発した衝突では、アゼルバイジャンが有利に戦闘を進め、ナゴルノカラバフの一部地域の支配権を回復した。この時はロシアが仲介役となり、現地に平和維持部隊を派遣するなどして事態を収拾させた。

しかし、現在はウクライナで続ける「特別軍事作戦」に注力していることもあり、ナゴルノカラバフ紛争で重しの役割を担いにくくなっていた。【5月23日 毎日】
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アルメニアのパシニャン首相としてはロシアに期待できないので、西側の支持を得て、独自の「解決」を図ろうとする考えでしょうか。
あるいは、ロシアに対する「ロシアが本気で動かないなら、アルメニアはもはやロシアを見限る」という“アピール”でしょうか。
アルメニア国内で、このような「譲歩」が容認されるのでしょうか。

アルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領は5月25日、両国関係の正常化に向けてモスクワで協議し、1週間以内に副首相級会合を開くことで一致しています。

【プーチン大統領の話をさえぎるアルメニアのパシニャン首相 両国の副首相が2日にモスクワ、外相が12日にワシントンで会談 7月にはEU仲介の会談】
ロシアとしては、ロシア主導で関係正常化をまとめたい思いです。

****関係正常化へ副首相会合 アゼルバイジャンとアルメニア****
南カフカス地方の旧ソ連構成国、アルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領は25日、両国関係の正常化に向けてモスクワで協議し、1週間以内に副首相級会合を開くことで一致した。

両国は係争地「ナゴルノカラバフ自治州」の帰属を巡って30年間以上にわたり対立してきた。平和条約の締結に向けた動きが加速するかが今後の焦点となる。

協議はロシアのプーチン大統領が仲介し、協議にも同席した。南カフカス両国の関係正常化問題では、米国や欧州連合(EU)も仲介作業を進めてきた。

ロシアはこの問題で主導権を握り、「勢力圏」とみなす旧ソ連地域で欧米の影響力が強まるのを防ぎたい考えとみられる。

会合に先立つ22日、パシニャン氏は「アルメニア系住民の安全が保障されることを条件に、アルメニアはナゴルノカラバフ自治州がアゼルバイジャン領であることを認める」と表明。関係正常化に向け、条件付きながらも「譲歩」に応じる姿勢を示していた。

関係正常化に向けた焦点は、同自治州内のアルメニア側実効支配地域とアルメニア本国を結ぶ唯一の陸路「ラチン回廊」の封鎖問題だ。アルメニアは、アゼルバイジャンが2020年の停戦合意に反して回廊を封鎖し、物資輸送を妨害していると非難。アゼルバイジャンは封鎖を否定している。

プーチン氏は25日の協議で、回廊を巡る問題は「純粋に技術的なもので解決可能だ」と指摘。1週間以内にロシアを含む3カ国で副首相級会合を開くことを提案し、パシニャン、アリエフ両氏も同意した。

協議に先立って25日にモスクワで開かれた露主導の「ユーラシア経済連合(EAEU)」首脳会議の場でも、パシニャン、アリエフ両氏は関係正常化への意欲を表明した。

パシニャン氏が「譲歩」を示したのは、和平機運がアルメニア国民内に高まっていることなどが理由とされる。ただ、野党勢力は同氏の姿勢を「敗北主義」と批判。自治州内のアルメニア人系勢力も同氏に批判的で、関係正常化に向けた道筋は平坦(へいたん)ではない。(後略)【5月26日 産経】
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そのたロシア主導の「ユーラシア経済連合(EAEU)」首脳会議においては、アルメニアとアゼルバイジャンの両首脳が議長を務めるプーチン大統領の目の前で口論を繰り広げ、ロシア側の面目をつぶすような一幕もあったようです。

****プーチン大統領の面前で“口論” 旧ソ連首脳…話を遮ってまで批判した理由*****
(中略)
■プーチン大統領…両国に“自制”呼び掛け
プーチン大統領の目の前で論争が繰り広げられたのは25日、ロシアのモスクワで開かれた旧ソ連諸国の首脳が集まって行われた「ユーラシア経済同盟」首脳会議での出来事だった。

プーチン大統領:「『ユーラシア経済同盟』首脳会議の開催にあたり…」

アルメニア パシニャン首相:「お話し中、失礼します。一言言わせて下さい。ロシアの平和維持部隊が道路を管理すべきだが、アゼルバイジャン側が違反して封鎖しました」

アルメニアのパシニャン首相が、プーチン大統領の話をさえぎったのだ。(中略)

なぜ、パシニャン首相は、プーチン大統領の話をさえぎってまで、アゼルバイジャンの批判をしたのか?
旧ソ連の紛争に詳しい慶應義塾大学の廣瀬陽子教授は、「(中略)ロシアは解決に動かず仲介役を放棄していて、今回、プーチン大統領の話をさえぎるという形で抗議の姿勢を見せたのでは」と分析している。【5月29日 テレ朝news】
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アゼルバイジャンによる道路封鎖を非難するアルメニアのパシニャン首相に対し、アゼルバイジャン・アリエフ大統領は「いいがかり」だと反論。

困ったプーチン大統領は、“「ロシアも例の方面(ウクライナ)で紛争が起きています。我々全員が紛争の解決に利害関係を有しているに違いありません」  ロシアがウクライナに侵攻した件を持ち出して、両国に自制を呼び掛けた。”【同上】
両首脳はEU仲介で1日にモルドバで会談。上記「副首相会合」を含めた直近の情勢としては以下のように。

****ブリュッセルで7月再会談=アルメニア・アゼルバイジャン首脳****
係争地ナゴルノカラバフを巡って対立するアルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領が1日、モルドバで会談した。

仲介した欧州連合(EU)のミシェル大統領によると、双方は7月21日にブリュッセルで再び会談することで一致した。モルドバでの協議はミシェル氏と独仏首脳を加えた5者で行われ、各国の仲介努力が活発化している。
アルメニアのメディアが伝えたパシニャン氏の説明によると、両国の副首相が2日にモスクワ、外相が12日にワシントンで会談する。【6月2日 時事】 
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ロシアに加えて、アメリカ・EUの仲介も。ロシアとしては何とか自国主導でまとめたいところでしょう。
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インドと中国  陸の国境紛争でも、海上でも緊張状態続く 互いに記者追放

2023-06-01 22:45:02 | 国際情勢

(インドのシン国防相は27日、中国の李尚福国防相とニューデリーで会談し、両国関係の改善は国境係争問題で「平和と静寂」が戻るかが鍵を握ると指摘した。写真は会談の様子。ニューデリーで撮影。インド国防省提供【4月28日 ロイター】)

【20年の国境衝突以来初めての国防相会談 握手交わさず】
ともに今後の世界経済で中核的役割を果たすことが期待され、政治的にもその影響力が注目されるインドと中国が国境問題を抱えて衝突を繰り返していることは、これまでも何度も取り上げてきました。

両国国防相は4月27日、ニューデリーで会談し、対立が続く国境地帯の問題を巡り協議が行われました。緊張緩和を図ることが目的ですが、会談の冒頭両国国防相は握手を交わさず、会談でもインド側から厳しい指摘も飛び出すなど、溝の深さが改めて浮き彫りとなりました。

****中印国防相が会談、20年の国境衝突以来初めて 溝の深さ改めて****
国際会議に出席するためインドの首都ニューデリーを訪問している中国の李尚福国務委員兼国防相は27日、シン国防相と会談した。

中国国防相の訪印は、2020年6月にヒマラヤ山脈近くの国境係争地域で起きた両軍の衝突後、初めて。ただ、インドメディアによると、両氏は握手を交わさず、双方の溝の深さが改めて浮き彫りになった。

インド国防省によると、シン氏は「印中の関係発展は国境地帯の平和と安定が前提になっている」と指摘した。衝突では45年ぶりに死者が出ており、その後は緊張が少し和らいだものの、両軍は国境地帯での軍配備を続けている。4月上旬には中国が係争地の山などに自国の地名を命名し、インドが反発していた。シン氏はこうした情勢も念頭に「2国間関係の基盤を損なう」とくぎを刺した。

これに対し李氏は「中印は違いよりも共通の利益の方がはるかに多い」と強調。「双方は両国関係と相互の発展について、包括的、長期的、戦略的に捉えて、世界と地域の平和と安定に共同で貢献すべきだ」と呼びかけた。中国国防省が発表した。

中国側としては、米国主導の対中包囲網に対抗するため、国際社会で存在感を増すインドを自陣営に引き寄せたいとの思惑がある。ただし領土問題で譲歩するわけにはいかず、難しい対応を迫られている。李氏は「両軍の相互の信頼感を高められるよう共に努力することを望む」と述べた。

一方、28日には中露印などが参加する上海協力機構(SCO)国防相会合が実施された。シン氏は「我々は文化的、文明的なつながりを持っている。時代の変化とともに、つながりを強化するために努力していく」と訴えた。(後略)【4月28日 毎日】
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こうした中国を警戒視するインドを日米はQuad(クアッド)に取り込んで、中国包囲網を形成しようとしており、中国はこれを警戒してインドとの関係改善を模索している・・・という構図です。

【インドにとっての上海協力機構(SCO)】
そのインドはアメリカ主導のQuadに参加する一方で、中国・ロシアが主導する上海協力機構(SCO)にも参加しています。

インドにとってSCOは、やはりSCOに参加する宿敵パキスタンに対抗する場であり、関係を強める中国・パキスタン・アフガニスタンの動きについて情報を収集し、監視し、妨害する場でもあります。

****インドにとって上海協力機構が価値あるものである理由****
(中略)
パキスタン対策としての上海協力機構
インドにとって、上海協力機構は、安全保障面でとても役立つ潜在性がある。インドにとって安全保障面の課題は、中国とパキスタンに対応することだ。特にパキスタンは、イスラム過激派をインドに送り込んでくる。(中略)

2001年に創設された上海協力機構は、中国やロシア、中央アジア諸国によって構成されている。イスラム過激派の情報を共有するのに適しているのである。ただ、問題がある。パキスタンがそれに加盟する可能性があったことだ。
中国はパキスタンを長年支援してきた。そしてパキスタンが上海協力機構に入ることを模索した。(中略)

インドも上海協力機構に参加し、パキスタンの主張に反論しなければならない。だから、15年、インドとパキスタンは、両方が同時に、上海協力機構に加盟することになったのである。(中略)

懸念される中国―パキスタン―タリバン連携
ただ、中央アジアでは、インドにとって心配される動きが続いている。特に、今、心配されるのは、中国―パキスタン―タリバンが一帯一路構想を通じて協力する動きが出ていることだ。

中国は、パキスタンと協力して、タリバン政権下のアフガニスタンにおいて、一帯一路構想によるインフラ開発プロジェクトを進め、アフガニスタンの鉱物資源を獲得するとともに、貿易ルートの開発を進めるつもりである。そのため、中国がパキスタンと共にタリバンを擁護する姿勢が目立ってきている。(中略)

実はインドも、アフガニスタンから米軍が撤退し、タリバン政権が成立するまでは、インドと中央アジアをつなぐ貿易ルートの開発を計画していた。イランのチャーバハール港を建設し、インドからパキスタンを海路で迂回してイランに物資を運び、そこから陸路でアフガニスタンやトルクメニスタンに物資を運ぶ貿易ルートを開発していたのである。

そうすれば中央アジアを通る貿易ルートにインドは関与して経済的な利益を上げることができるし、イランー旧アフガニスタン政府と連携してパキスタンを包囲することもできる。そうすると、上海協力機構は、これらの国と交渉する上で有用だった。

しかし、それは、アフガニスタンにタリバン政権ができると、難しくなった。タリバン政権は、パキスタンと関係が深く、インドと戦ってきた政権だからだ。

インドとイランの関係も、インドが米国に接近するにつれてより複雑なものになり、うまくいっていない。だから、インドにとっては、このルート建設のために、上海協力機構の枠組みを使って交渉を進めることもなくなってきた。

このようにみてみると、インドにとって上海協力機構は、協力するだけでなく、中国―パキスタンの動きに関して情報を収集し、監視し、妨害する場でもある。だから価値があるのである。(後略)【5月16日 WEDGE】
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上海協力機構(SCO)首脳会議は、当初、議長国インドの首都ニューデリーで対面形式で開催される予定でしたが、オンライン形式に変更されました。

ウクライナからの子どもの拉致にかかわったとして国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているロシアのプーチン大統領が出席する場場合の扱いを考慮しての変更かと思いましたが、下記記事では“領土問題をめぐるパキスタンや中国との関係悪化が影響した可能性”が指摘されています。

なお、インドはICCには加盟していませんので、プーチン大統領は参加できなくもありませんが、国際社会の厳しい視線をモディ印政権がどう受け止めるか・・・という問題があります。

****上海協力機構の首脳会議、オンライン形式で 中パ領土問題影響か****
中国とロシアが主導する「上海協力機構(SCO)」の首脳会議について、議長国のインド政府は30日、7月4日にオンライン形式で開催すると発表した。

当初は首都ニューデリーで対面形式で開催する方向で調整していた。領土問題をめぐるパキスタンや中国との関係悪化が影響した可能性がある。(中略)

インド政府はオンライン形式にした理由を明らかにしていないが、インドメディアは「ここ数日の協議」で、急きょ決まったと報じている。

SCO首脳会議を巡っては、インドの伝統的な友好国であるロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻後初めて訪印する機会となることから注目を集めていた。SCO外相会合はインド南部ゴアで5月5日に対面形式で実施され、中国の秦剛国務委員兼外相とパキスタンのブット外相も出席していた。【5月31日 毎日】
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話が横道にそれますが、8月に南アフリカで開催される新興5カ国(BRICS)首脳会議(サミット)については、南アはICC加盟国であり、プーチン大統領への対応に苦慮しています。開催国をICC非加盟国の中国へ変更することも取り沙汰されています。 現実味がないと思われたICCのプーチン大統領への逮捕状ですが、それなりの影響があるようです。

【インド洋でも中印の対立が進行】
話を中印関係にもどすと、両国はかねてからの国境紛争だけでなく、最近は中国の海洋進出をめぐっても緊張が高まっています。

中国は近年、「真珠の首飾り」と呼ばれるインド洋での港湾拠点の確保に動き、インド包囲網を形成しつつあります。

インドの切り札は戦略拠点アンダマン・ニコバル諸島の軍事施設ですが、中国はこれに対抗する形で拠点建設を進めています。

****中国船「海上民兵」の洗礼を浴びたインド 印中軍事対立は日本にとって対岸の火事ではない****
FIPIC(インドと太平洋諸島フォーラム)の首脳会談が数年ぶりに開催された理由
(中略)モディ氏がオーストラリアを訪問した狙いは、台頭する中国への警戒感を背景に、安全保障と経済の両面で同国との連携を強化することだ。

モディ氏は5月22日、オーストラリア訪問に先立ち、パプアニューギニアで開催された「インドと太平洋諸島フォーラム(FIPIC)」の3回目の首脳会談にも出席した。

14の島嶼国との協力枠組みであるFIPICは、モディ氏が2014年11月、インド系の住民が約4割を占めるフィジーを訪問した際に設立されたものだが、2015年にインドで2回目の会合が開かれて以降、空白期間が続いていた。

インドが改めてFIPICに注目した理由として、太平洋での海洋進出を進める中国を念頭に、島嶼国への関与を強める狙いが指摘されている。(中略)

インド周囲で圧倒的な存在感を放つ中国海軍
5月19日から21日にかけて開かれたG7(主要国首脳会議)広島サミットでも話題の中心にいたモディ氏だが、悩みの種は中国との間で高まる軍事的な対立だ。

インド海軍はASEAN諸国とともに5月7日から2日間、海上演習を実施したが、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)で活動していた際に、海上民兵を乗せた中国船が急接近する事案が発生した(5月9日付ロイター)。

中国政府は海上民兵の存在を否定しているが、「漁船に乗った中国の退役軍人らが当局と連携しながら南シナ海で政治的な活動をしている」というのが一般的な見解だ。

台湾やフィリピン、ベトナムなどは既に海上民兵の脅威にさらされているが、インドも今回、その洗礼を浴びたのだ。

「アクト・イースト(東方重視)」政策を掲げ、太平洋への関与を強めるインドにも「中国の影」が見え隠れするようになったわけだが、最大の懸案は自国を取り囲むインド洋で中国海軍の存在感が圧倒的になっていることだ(5月17日付ニューズ・ウィーク)。

2009年以来、中国海軍がインド洋で活動している。そのきっかけは海賊対策だった。当時、インド洋北西部に位置するジブチやソマリアの沖合で身代金目的の海賊行為などが横行していたため、国際社会はその対策に乗り出した。この取り組みに参加した中国は2017年、海軍の補給支援を行う目的でジブチに人民解放軍初の海外基地を2017年に建設した。

中国はその後も基地の整備・拡大を続けたことから、ジブチでは現在、全長300メートルにわたる係留ドックが整備され、空母や潜水艦、揚陸艦などが入港可能になっている。

中国は近年、「真珠の首飾り」と呼ばれるインド洋での港湾拠点の確保に動き、インド包囲網を形成してきた。このため、米海軍や日本の海上自衛隊が目を光らせている西太平洋とは異なり、インド洋は中国海軍にとって安心して活動できる海域となっている。

中国の潜水艦や調査船の行動が、インド沿岸近くで日増しに活発になっていることから、「自国の安全保障が脅かされている」との危機感を募らせるインド政府は対抗措置を講じざるを得なくなっている。

インドと中国の対立が海でも発生すると日本にも影響
ミャンマー西部ラカイン州のシットウェーで5月9日、インド政府が支援する港湾が開港した。ラカイン州で拠点を整備している中国の動きを牽制する目的だが、中国はインドの対抗手段を無力化する企みを準備しているようだ。

最新の動きとして注目されているのは、中国がインド洋に浮かぶミャンマー領ココ諸島で監視基地の建設を進めていることだ(5月6日付日本経済新聞)。

インド軍関係者は「東部での軍事活動が中国側に筒抜けになる」と警戒しており、監視基地の建設によってインドがさらに劣勢に立たされる展開が懸念されている。

ココ島諸島はインドが複数の軍事施設を展開するアンダマン・ニコバル諸島のすぐ北に位置する。アンダマン・ニコバル諸島は、東アジアと中東、欧州を結ぶシーレーンのチョークポイント(戦略的に重要な海上水路)の1つであり、ここを押さえることはインドの対中国戦略にとって最重要課題となっている。

だが、中国がココ諸島に戦略的な足場を築けば、インドの戦略は大幅な見直しを余儀なくされる。インドと中国との間で軍拡がエスカレーションするような事態になれば、日本にとっても「生命線」といえるインド洋のシーレーンの安全確保が危うくなってしまう。

さらにインドと中国は、ヒマラヤ山中の未画定の国境を巡って長年対立している。(中略)

陸での軍事的対立は「対岸の火事」かもしれないが、その対立が海へと飛び火する可能性が排除できなくなっている。日本にとっても一大事になってしまうのではないだろうか。【5月30日 藤和彦氏 デイリー新潮)】
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【互いに記者追放する緊張状態】
上述のように、陸の国境問題でも、海の拠点確保でも、対立がある中印両国ですが、そうした対立を背景に両国関係は想像以上に緊張した状況にあるようです。

****中印が互いに記者追放、インド駐在の中国政府系記者はゼロに―独メディア****
2023年5月31日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、対立を深める中国とインドがそれぞれ記者を追放する動きをみせており、インドには中国政府系メディアの記者がいなくなったと報じた。

記事は米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが31日に情報筋の話として、インド政府が5月に新華社と中国中央テレビの記者各1人のビザ更新を認めず、2人がビザ期限切れによりすでに中国へ帰国したと報じたことを紹介。これにより少なくとも1980年代以降で初めて、インド国内に中国政府系メディアの記者が1人もいなくなったと伝えた。

また、中国に滞在するインドメディアの記者もほぼ「絶滅」状態にあり、4月にはインドの大手紙ザ・ヒンドゥーと国営テレビ局プラサール・バラティの記者計2人が中国への再入国を認められなかったと報じられたほか、ヒンドゥスタン・タイムズの記者も5月に記者証が無効になったと紹介している。

その上で、両国が互いの記者を排斥する背景として、両国関係が2020年6月の国境地域での軍事衝突発生以降緊張していること、米国を首班として中国の包囲、けん制を目指す日米豪印戦略対話(クアッド)に積極的に参加していること、インドがデータセキュリティーを理由にショート動画配信アプリのTikTokなど中国製モバイルアプリ数十件の使用を禁止していることなどを挙げた。

さらに、今年4月には中国が中印国境にあるアルナーチャル・プラデーシュ州(中国名は蔵南地区)にある山や川など11カ所の名称を変更したことに対し、インドが強い不満を示したことも紹介。先週には両国の係争地であるカシミール地方で開かれたG20観光ワーキンググループ会合を中国がボイコットする事態も発生したと伝えた。

記事は、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが今回の件について、両国関係を一層緊迫化させ、核を保有する隣国同士の交流が減り、先行きが見通せなくなる状態を招くと評したことを紹介している。【6月1日 レコードチャイナ】
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前出のように国防相会談やSCOでの接触など、“核を保有する隣国同士の交流が減り”というまでの状態でもありませんが、互いに相手を意識した緊張状態にあることは間違いありません。
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