家訓は「遊」

幸せの瞬間を見逃さない今昔事件簿

ケヤキと電線

2019-03-13 17:14:21 | Weblog
「あれ。あそこ。電線引っかかってやせんか?」

上を見ながらやってきたY爺さんに

「あれね。電気屋さんに頼んであります」と答えたが聞いていない。

「ちょっと長いハシゴはないかな」と言うのでハシゴを持ってきてケヤキに掛けた。

ストストとハシゴを上って具合を見て降りてきた。

「ヒズルしくて(眩しくて)見えんな」と言った。

もう一度「電気屋さんに頼んでありますから大丈夫です」。

やはり聞いていない。

別の日に犬の散歩から帰っていくY爺さんを見かけた。

どうやらケヤキが気に掛かっているらしいことは見て取れた。

また別の日我が家の前にクレーン車が止まっていた。

だが我が家のケヤキを切りに来たわけではなかった。

Y爺さんが軽トラで現れた。

「クレーン車が居たけど切ってないなぁ」という。

そして「長いハシゴを持ってきてくれ」と言うや軽トラに戻って自分の高枝切りノコギリを持ってきた。

先日私の高枝切りノコギリを試してみたが重くて、とてもじゃないが木に登ってから枝を切ることはできない。

ところがY爺さんの高枝切りノコギリは長さは同じくらいなのに軽い。

ハシゴを登っていって私が下から高枝切りノコギリを渡すと小さな枝をコリコリと切り始めた。

だがノコギリの刃と枝との角度が悪くて、きちんと切り進めない。

今度は手で切ると言って腰にナタとノコギリを付けて登っていった。

ハシゴの最終まで登りきり次は枝に掴まりながら、さらに上に登る。

その際腐っている枝はキチンと切り落としていく。

足場を確保し手で抱える場所を確保しノコギリを引き始める。

切りくずがパラパラと落ちてくる、次の瞬間「バキン」と大きな音を立てて枝が落ちる。

次々と枝を落としていって最後に電線の引っかかっている枝を切り落とした。

4mのハシゴからさらに3mほど登っての作業であったが何の不安もなく作業していた。

この慎重さや切るときのサーカス的な姿勢など惚れ惚れするほどの安定的な行動である。

下で見ていて落ちてきた枝を処分したりハシゴの準備などをしていた私がドキドキヒヤヒヤしていたがY爺さんはスッキリした顔をして降りてきて笑った。