ケイの読書日記

個人が書く書評

リチャード・ハル「伯母殺人事件」

2008-06-22 15:04:41 | Weblog
 倒叙推理小説の古典的名作なので、前から読みたいと思っていた。

 犯人が伯母を殺そうとして計画するその覚え書きという形式をとっているので、犯人探しもトリックも何もないが、それはそれで面白い。

 1930年代の英国ウェールズ地方。そこの地主階級のドラ息子が、自分の後見人になっている伯母を殺害して、自由と財産を手に入れようとするが、ことごとく失敗する。

 このエドワード・パウエルという放蕩息子は、表面的には大人しいのだが、性格破綻者というか境界性人格障害というか…アガサ・クリスティの小説にも、こういったタイプの青年はよく出てくる。
 自分はとても優秀だと思い込んでいるので、まわりが皆バカにみえる。

 医者とか弁護士ならともかく、普通の会社勤めを下等な職業として見下し、では自分の言う上等な職業に就こうと努力することは 全く無い。
 地主階級なので食うに困る事は無い。ぶらぶらしているが自分の育ったこのウェールズ地方を、ことごとく馬鹿にして、ロンドンやパリで独立して暮らしたいと思ってはいるが、そこまでの金は無い。
 (だけど、このバカ息子も伯母さんもそれぞれ専用の車を所有しているんですよ。1930年代の半ばなのに)


 いったい毎日、何をして時間をつぶしているのだろう?クリスティの小説に出てくる放蕩息子は、それでも英国の田園風景を賛美することもあり、散歩に行く事を楽しんでいたが、このエドワードは歩くの大嫌い。ずっと室内でフランスから取り寄せた卑猥な小説を読んでいる。

 ああ、私も殺されかけた伯母さんに心情的に似てきたね。
コメント (2)
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