ケイの読書日記

個人が書く書評

北村薫「鷺と雪」

2011-06-13 13:40:45 | Weblog
 第141回直木賞受賞作品。
 北村薫らしく、ミステリとは言えないほどの日常のちょっとした謎を解く、3つの中編集。
 ただ、いつもと変わっているのは時代背景と舞台設定。

 昭和11年に起こった2.26事件、その前夜、軍部が台頭してくる不穏な時代の東京。
 良家の令嬢・英子が、女性運転手のベッキーさん(本名は別宮)と一緒に謎を解決していく。

 時代が時代なだけに、いくら皇族・華族の方々が通う超お嬢様校でも、「軍事訓練」とか「鬼畜米英」とかやってるんだろうかと思っていたら、まるで違って本当に優雅。
 英語だけでなくフランス語もある。まだ戦争に突入してないからね。

 公爵様とか伯爵令嬢とか、肩書きだけみれば、フランス宮廷にいるみたい。
 主人公・英子の父は、皇族・華族ではないが、財閥系の商事会社の社長で、家に何人もの使用人がいて、その1人がベッキーさん。
 英子はベッキーさんの運転するフォードで毎朝学校に行く。
 日曜は兄に連れられ、銀座で買い物。
 夏休みは、家族揃って軽井沢。

 資源も何もない日本で、上がこんなに贅沢すれば、下の方の取り分が無くなり貧しくなる一方だと批判めいた気分にもなるが…これは小説。優美な時間を束の間だけでも楽しもう。
 しかし、最後は2.26事件で終わる。日本はこれから後戻りできない道を進んでいく。

 今後、英子や彼女の家族・友人・ベッキーさんがぶつかるだろう困難を想像すると、暗澹たる気分になるね。
コメント
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