第1話と第2話は、前回のブログで紹介。あとの第3話~第8話を読む。第8話は、推理小説ではない。オカルト的ヨタ話。
探偵役のタラント氏は、並外れた知性と推理力を持ってはいるが、お金持ちの常識人なので、ホームズのようなエキセントリックな探偵を期待していると、肩透かしを食う。
ただ(第8話を除いて)すごく真面目に推理小説に取り組んでいるという印象を受ける。真面目過ぎてひねったところが無いのが、少し寂しい。
例えば、実際にあった有名なメアリ・セレスト号事件(無人の船が沖を漂っていて、船内は整っているし、料理も食べかけのまま。何が原因で乗組員や乗客がいないのか、彼らがどこに行ったのかサッパリ分からない、まるで集団神隠し)や、カリブ海の呪術ヴードゥ教など、怪奇幻想の趣味がふんだんに盛り込まれているのに、この人の小説は、まったく怖くない。さっぱりと明るい。
同じ題材で、ディクスン・カーが書いたら、夜一人でトイレに行けないようなミステリになるだろうに。
この作品集で特筆すべきなのは、やはり、タラントの執事兼助手・日本人スパイ・カトーだろう。
作者のキングという人は、少々、神秘主義的傾向のある人なのかな。極東の島国・日本に並々ならぬ興味と好奇心を持っていたのかもしれない。
第7話「三つ眼が通る」では、カトーが殺人容疑で捕まるが、タラントもその友人もその妻も「カトーがそんな事をするはずがない」と、カトーの無実を信じ、行動を起こすのだ。
1930年代のニューヨークで。ちょっと信じられないね。
何か悪い事件が起こったら「無表情でのっぺりした顔の日本人が、やったに決まっている」という暗黙の了解が、この時代のアメリカ人の間にあったと思うよ。
日系人が、強制収容所に連行されたのは、何年だったっけ?
でも、この時代でも、ドナルド・キーンのような人がいてくれたんだ。嬉しいです。