ケイの読書日記

個人が書く書評

エラリイ・クイン 越前敏弥訳 「九尾の猫」

2015-11-13 14:31:39 | Weblog
 日本では、九尾というと九尾の狐の妖怪のことだが、英語圏では、九尾の猫に何か意味でもあるんだろうか? 日本では、長生きしすぎた猫は、尻尾が二つに割れて、ふたまたという妖怪になるといいます。 

 この作品では、猫とは、姿なき殺人鬼の事。N.Y.の街の暗闇から現れ、被害者の首をシルクの紐で絞殺し、まったく痕跡を残さず立ち去る。
 九尾というのは、被害者の数。すごいね、9人だよ。野球チームができちゃうね。
 エラリィは、5人目が殺されたあと、やっと、事件解決の手伝いをしてほしいと、正式に依頼される。その後、4人も殺されるので「役立たず」と陰で罵られるが、本当に被害者には、みごとに共通する部分がないのだ。
 殺人鬼は、どのように被害者となるべき人間を選別するのか? まったくの行き当たりばったりの犯罪ではない。手際が良すぎる。何かあるはずだ。この9人の共通項が。
 
 まったくの偶然だが、その共通項らしき物が、発見される。
 そうか、そういう事だったのか。だから、被害者の年齢がだんだん若くなっていくんだ。だから、被害男性に既婚者はいるが、被害女性は独身ばかりなんだ。


 最後のドンデン返しは無駄だと思う。作者としては、読者サービスのつもりかもしれないが、もともと大した物証はない。何とでも言える。だから、スッキリ完結した方が、読後感が良いい。

 この作品は、間違いなく名作だと思う。犯人までに辿り着く推理部分だけでなく、当時の雰囲気も良く書けている。
 第二次世界大戦後のアメリカ、N.Y. たぶん1950年ごろだろう。ヨーロッパは没落し、アメリカが世界の富を独り占めしている。でも、国内では赤狩り旋風が吹き荒れ、黒人差別も激しい。だって、キング牧師の公民権運動のうんと前だものね。
 被害者の一人に、黒人女性が混じっている。下手な取り調べをして、暴動にならないよう、細心の注意を払っている。
 現代だったら問題になりそうな、クイン警視や、彼の部下の発言が少しあります。日本人観も、ちょっと出てくる。

 筆者って、日本人に対して、あまり悪意を持っていないんじゃないかな?なんといっても戦争が終わって5年。かつての敵国人を、もっとボロクゾに書いても良いだろうに。それとも訳者が少し柔らかい表現にしているんだろうか?
コメント
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