ケイの読書日記

個人が書く書評

三津田信三 「遊女の如き怨むもの」

2015-12-07 11:01:44 | Weblog
 刀城言耶シリーズ第8弾。遊女ではありません。幽女です。念のため。

 戦前、戦中、戦後にわたる三軒の遊郭で起きた3人の花魁が絡む、不可解な連続身投げ事件。自殺なのか事故死なのか、それとも他殺なのか。
 第1章は花魁の日記、第2章は遊郭の女将の日記、第3章は遊郭内での怪異を記した作家の原稿、そして第4章に、名探偵・刀城言耶の解釈、という構成になっている。その解釈が…どうも、いただけない。いくら作為をほどこしても、人の目は誤魔化せない。特に同性の目は。

 一応、遊郭内で非業の死をとげた花魁が、その恨みのため成仏できず、遊郭内をさまよう…というミステリ仕立てになってはいるが、花魁の生態があまりにも過酷なので、幽女なんていうお化けなんかどうでもよくなってしまう。
 だいたい、ほとんどの遊女の死にざまは悲惨なものなんじゃないの?

 無事、年季が明けて(借金を返し終えて)故郷に帰れる人など、ほんの少数。ましてや、店のお客さんに身請けされて、お妾や奥様になった人などめったにいない。(皆無ではないが)

 特に、遊女が妊娠してしまうことは地獄腹といって忌み嫌われたが、仕事内容を考えれば当たり前のことで、堕胎するのに大変な思いをしたらしい。ほおずき(鬼灯火)ってこんな使われ方をしたんだ。恐ろしいね。
 もちろん、失敗して死ぬ遊女だってたくさんいた。彼女らは、生前、どんな売れっ子で店に利益をもたらしたとしても、死んだらロクにお弔いもしてもらえず、投げ込み寺に放り込まれた。
 自殺を図ったが死にきれず、身体が不自由になった遊女は、また別のもっと料金の安い客層が悪い、ひどい所に売られたらしい。


 そうそう、花魁というと、江戸・吉原の最高級の遊女の名称だが、だんだん時代が下って、しかも吉原じゃなく地方の遊郭になると、すべての遊女に花魁をいう名称を使ったらしい。名前だけでも華やかにしないと、やっていられない仕事なんだろう。

 戦中の従軍慰安婦も出てくる。従軍慰安婦に志願すると、借金がチャラになったらしい。でも、お金の事だけじゃなく遊女なりにお国のために役立とうとした人も、多かったんじゃないかなあ。

 ミステリとしてはイマイチだが、遊郭の簡単な風俗史として読めば、面白いと思う。

 
コメント
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