ケイの読書日記

個人が書く書評

武良布枝 「ゲゲゲの女房」

2015-12-22 16:49:24 | Weblog
 水木しげる、死んじゃったね。大往生だった。その影響でもないんだが、今更ながら、奥様が書いた、この本を読んでみる。

 NHK朝の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』は、毎回かかさず見ていて、そのイメージが強すぎたのかもしれない。
 昭和36年(1961)に結婚してから、週刊少年マガジンでブレイクするまでの数年間の貧乏暮らしが、あまりにもさらっと書いてあったので驚いた。ドラマでは、これでもかこれでもか、というくらい長く貧乏が続いて、いろんなエピソードが演じられていたのに。
 見ているこっちも、水木しげるが最終的には大成功を収めると知っていたから、ずっと見続けることができたが、あれが、本当に先の読めないリアルタイムの話だったら、気分が暗くなるので、見るのを止めていたかもしれない。

 貸本マンガの原稿を書き終え、体調の悪い水木のかわりに、女房が出版社に出向き、原稿を渡し稿料をもらおうとする。3万円の約束だが、社長は何やかやと言って1万5千円しか払おうとしない。
 出版社といっても、ボロボロの建物の1室にあり陰気で不衛生。すすめられたソファーは、壊れていてスプリングと綿が飛び出ている。まさに貧乏神の住処。そこで社長1人でやっている、名ばかりの会社。
 半額でOKという訳にはいかず、もっと払ってもらおうとするが、貧乏神の化身のような社長から鼻先であしらわれ…屈辱感でいっぱいの女房。そうだ、水木は、家族のため、こんな扱いにも耐え仕事をしてくれているんだ、と思わず涙ぐむ女房。

 それでも払ってくれるだけまだマシで、倒産してまったく稿料がもらえなかった事もあったそうだ。もう時代は貸本マンガなど全くの時代遅れ、大きな出版社が発行する週刊少年誌の時代になっていた。

 水木しげるは、マンガ週刊誌で生き残ることができ、後には大成した。
 水木の努力を知っている奥さんは「来るべき時が来た」と喜んでいらしたが、努力しても報われるとは限らないのが、世の中の常。ほとんどの貸本マンガ家は自然淘汰されたろうね。

 そういえば、『子連れ狼』の小島剛夕って貸本マンガ家出身だと聞いたことがある。絵柄がそんな感じ。だとすると、この人もキャリア長いなぁ。


 水木しげるは以前、雑誌の編集者に「奥さんは、どういう人ですか?」と尋ねられ、「『生まれてきたから生きている』というような人間です」と答えたそうです。なかなかの名台詞!禅の教えにも通じるものがあるみたい。
コメント
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