ケイの読書日記

個人が書く書評

香山リカ 「世の中の意見が〈私〉と違うとき読む本」

2016-12-04 15:04:47 | 香山リカ
 香山リカの新書はよく読んだが、失礼ながらいつもイマイチ。「そりゃそうだけど机上の空論だよね」「やっぱり大学の先生だから、現実が分からないんだ」「それが出来ればやっている。出来ないから困ってる」などなど、心の中で悪態をつきながら読むことが多かったが、この『世の中の意見が私と違うときに読む本』は、ためになったと思う。

 特に第3章「親から無償で愛されなかった人は被害者なのか」は、印象深い。
 世は毒親ブーム。「私の親はこんなヒドイ人だった」「子供の頃、テストの点が95点だと、どうして100点を取らないんだ!と怒った」「大人になった今でも、私を支配しようとする」といった不満をぶちまけるのが流行みたいになっている。
 もちろん「家族だから、分かり合えるはず」なんていうのは幻想にすぎない事はよく理解できるが、それでも「あなたが一応、後遺症が残るような大きなケガをしないで成人できたのは、その毒親がそれなりに配慮してたからじゃないの?」と説教してみたくなる。赤ちゃんをほったらかしにしたら、間違いなく死んでしまうから。

 2012年、大阪で下村早苗という人が、幼子2人を自宅マンションに置き去りにして、何日も遊びまわり、2人を餓死させた事件があった。早苗被告に面会に来た父親と母親は(早苗被告が小学生の時、離婚している)「何があっても私たちの子どもだから、決して見捨てないから」と涙ながらに早苗被告に伝えたそうだ。美しい話だ。
 でも、親でもある早苗被告は、我が子に何をしたの? 自分の親に「決して見捨てない」事を要求しながら、なぜ我が子を置き去りにして「見捨てた」のか。
 こんな事、後からいくら言っても、どうしようもないけど。


 自分もそうだから、よく分かるが、人間って本当に被害者になりたがる。被害者の椅子はとっても座り心地が良くて、一度座ったら離れたくない。永遠に被害者でいたい。
 でも…本当に被害者なの? 加害者の側面もあるんじゃないの? 不都合な真実を忘れるすべに、我々は長けているからね。

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