ケイの読書日記

個人が書く書評

辻村深月 「ツナグ」 新潮文庫

2019-04-22 14:25:56 | 辻村深月
 一生に一度だけ、死者と再会させてくれるという「使者(ツナグ)」

 死んでしまった人、その人となんとか会って言葉を交わしたい人、それぞれの背景やトラウマや感情が、とても丁寧に書かれていて、さすが!辻村深月!とは思うが、死者と会うプロセスや小道具がちゃちというか…(失礼!!) こういう部分は、もっと曖昧にした方が良いような気がする。

 心に残った話は第1話「アイドルの心得」かな。突然死したアイドル水城サヲリ。元売れっ子キャバ嬢として芸能界デビュー。すぐ消えると思われたが、さばけた口調と派手な化粧や服装、強気な物言いでマルチタレントとして成功し、38歳になってもTVで見ない日はない。
 その彼女を、生きる支えとしていた平瀬愛美。仕事をきちんとこなす27歳の社会人だが、人づきあいが苦手で親しい友人が出来ない事を悩んでいる。
 その二人が偶然出会い、過呼吸で苦しんでいる愛美をサヲリと思われる女性が助ける。(後にサヲリは、それは私じゃないと言うが) それがキッカケとなって、愛美はサヲリの大ファンになる。

 この平瀬愛美が泣けるんだ。客観的に見れば不幸じゃない。父親は地元の国立大学の教授で、祖父の代からの学者の家系。母は専業主婦で、自分の家や家族をとても自慢に思っている人。兄は、成績優秀で容姿が良く、社交的な人。自分だけがパッとしない…と強く思い込んでいる。
 愛美は「おとなしい。落ち着いている」と言われるが、本当は周りが「楽しい事が何もなさそうに見える」と思われているだろうと感じている。被害妄想が強すぎるが、本人がそう感じているなら、どうしようもない。

 愛美は具合が悪い時も、会社を休めない。無理して必死に出社する。欠勤した自分の席をみて人がどう思うか、何を話すかを想像すると、無理しても会社に行った方が気が楽だ。その気持ちを理解できる人って、結構いるんじゃないかな? 私を含めて。

 愛美の同期入社で、柚木という女性がいる。明るく社交的で人に好かれる。入社した当初は、2人で昼にお弁当を食べたりしていたが、彼女は先輩や後輩、男子社員たちとあっという間に親しくなり、愛美と話すことはなくなった。
 自分の机のパソコンの前にお弁当を広げ、1人で食べている愛美の後ろを、ランチから帰ってきた柚木と女子社員たちがきゃあきゃあ芸能ネタで盛り上がっている。その嬌声が聞こえる。これはキツイね。こたえるよ。

 死にたいと思っている愛美に、サヲリは「来ちゃダメだって。こっちは暗いよ」と言う。水城サヲリは、たぶん飯島愛さんがモデルだと思う。私も飯島愛さん、好きだったなぁ。

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